田口八重子さん
を奪回する方法
〜シリーズ
「日本人拉致事件」
(4)
■田口さん奪回〜シリーズ「日本人拉致事件」(4)■
北朝鮮は、米国の「テロ支援国家」の指定を解除してもらいたいので、自ら拉致した田口八重子さんらを日本に返せない。返せば、金賢姫の大韓航空機爆破事件が北朝鮮の仕業だと認めることになるからだ。しかし解決策はある。
■田口八重子さんを奪回する方法〜シリーズ「日本人拉致事件」(4)■
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04年11月の日朝実務者協議で、北朝鮮側が日本側に渡した、拉致被害者・横田めぐみさんの遺骨と称するものが別人のものであったことが、04年12月8日、新潟県警が帝京大学法医学教室に依頼していたDNA鑑定の結果、判明した。これで、北朝鮮の言う「横田めぐみさん(ら8人の拉致被害者)は死亡」という主張の根拠は一気に薄れ、生存している可能性が高くなった。
また12月10日には、帰国した拉致被害者・地村富貴恵さんの証言により、めぐみさんは、スクヒという女性に日本語を教えていたこともわかった。富貴恵さんはまた、拉致被害者の田口八重子さんについても「オッカと呼ばれる女性に日本語を教えていた」と警察関係者などに証言していた(産経新聞04年12月11日付朝刊1面「めぐみさん 工作員?に日本語指導」)。
オッカ(玉花)は87年の、北朝鮮による大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元工作員の偽名「金玉花」(キム・オッカ)に一致する。韓国の公安当局の調べにより、金賢姫は工作員養成機関、金星政治軍事大学(現・金日成政治軍事大学)で金淑姫(キム・スクヒ)という女性工作員と一緒に訓練を受けていたことがわかっているので、めぐみさんも田口さんと同様に、女性工作員の日本語教育係だったと考えられる(産経前掲記事)。
これで、北朝鮮がめぐみさん、田口さんら8人の拉致被害者のことを「死亡した」と言い張り、日本に返したがらない理由がほぼ明らかになった。
●大韓航空機爆破事件●
87年の大韓航空機爆破事件では、実行犯の金賢姫が韓国当局に逮捕され、裁判で死刑判決を受け、いまは恩赦で自由の身となり、結婚・出産もして韓国で生活している(スポニチWeb版01年1月27日)。しかし、北朝鮮当局は「韓国の言う金賢姫はニセモノ」と言い張り、金賢姫が自分の日本語教育係として証言した「李恩恵」(リ・ウネ)と呼ばれる日本人女性についても「田口八重子さんではない」と言い続けている。
もし北朝鮮が、大韓航空機爆破事件の実行犯の教育係だった田口さんや、実行犯の同僚の教育係だっためぐみさんを日本に返すと、事件が北朝鮮の犯行であったことが明らかになってしまうからだ。
軍事ジャーナリストの恵谷治は「田口八重子さんだけは、北朝鮮は絶対に日本に返さない。返せば、北朝鮮は米国政府の『テロ支援国家』の指定を解除してもらえなくなるからだ」と断言する(04年12月12日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』)。
北朝鮮がニセの遺骨を渡してまで、日本に「めぐみさんら8人は死亡」と主張するのは、大韓航空機爆破事件についてシラを切り通して、米国にテロ支援国家の指定をはずしてほしいからだ。テロ支援国家のリストにはいっていると、世界銀行やその他の国際金融機関による融資が受けられないなど、さまざまな経済的不利益を受ける(在日米国大使館Web「テロ支援国家概観」)。
北朝鮮にも、米朝2国間協議か、それとも日韓中露も参加する6か国協議か、いずれかの交渉を通じて譲歩して、違法な核兵器開発を中止する代わりに米国や国際社会から援助を得て、破綻状態の自国経済を再生したい、という気持ちはそれなりにある。
が、めぐみさんや田口さんを日本に返してしまうと、たとえ核問題が米国などとの間で解決しても、別件の大韓航空機爆破事件を理由に米国から「テロ支援国家」の指定を継続され、経済制裁を受けることになる。それでは、核問題で米国に譲歩する意味がなくなってしまう。
「だから、返さない」と恵谷は言うのだ。
それなら、日本が「ニセの遺骨」に怒って対北朝鮮経済制裁を発動しても、めぐみさん、田口さんら8人は帰って来ないのか?…………そんなことはない。
●北朝鮮人権法●
米国は、北朝鮮との関係を規定する法的枠組みとしては「テロ支援国家指定」のほかに、「北朝鮮人権法」(Yahoo新語探検「北朝鮮人権法」、四国新聞Web版04年10月5日)も持っている。
この法律は、米国が北朝鮮に対して「基本的人権の尊重と保護」を求めるため、北朝鮮と人権問題を協議する特使を大統領が任命することを定め、特使には毎年、議会に北朝鮮の人権状況を報告する義務を負わせている。そして「日本人や韓国人の拉致問題の解決など北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止する」ことなども定めている。つまり、北朝鮮は、日本人拉致などの人権蹂躙をやめなければ(拉致問題解決に「実質的な進展」がなければ)米国から経済援助がもらえないのだ。
が、これは、ウラを返せば、人権蹂躙をやめれば経済援助がもらえる、ということでもある。めぐみさんや田口さんを返せば(ほかにも、北朝鮮に拉致された可能性のある日本人が大勢いるとはいえ)、拉致問題解決の「実質的な進展」がある程度あったことにはなるのだから、北朝鮮は米国から一定の経済援助をもらう「資格」を得ることになる。
つまり北朝鮮は、めぐみさんや田口さんを日本に返すと(大韓航空機爆破事件を北朝鮮の国家犯罪として認めざるをえず、米国からテロ支援国家として「再指定」されるので、世銀などの国際金融機関からの支援は得られないものの)米国から北朝鮮に直接与えられる「2国間援助」なら得られる可能性があるのだ。
じっさい、「拉致被害者を家族のもとに返して罪を認めよう」という神妙な態度をとっている者に、次々に「別件」を持ち出して制裁を課し続けるというのも「犯罪者の更正」という観点から見て、望ましくない。だから、日本が米国に頼んで「北朝鮮は米国からの2国間援助がほしければ、拉致被害者を返せ」と言ってもらえば、状況はだいぶ改善する。
もちろんその場合は、「当事者」である日本政府自らが、「経済制裁も辞さず」という姿勢で北朝鮮に対して「拉致被害者を返せ」という強いメッセージを出していなければならない。そうでないと、米国から見て
「日本は、貿易の利益を失いたくないために自らは経済制裁をしないくせに、米国には北朝鮮を恫喝しろと求めるのか」
となってしまう。米国は、北朝鮮が日本の制裁を口実に6か国協議に出て来なくなることを心配しているので(アーミテージ米国務副長官は「制裁慎重論」。共同通信Web版04年12月14日)、日本の態度が曖昧なら、協力などできまい。
いわゆる「識者」のなかには、「日本単独で経済制裁をやっても(中韓がその分北朝鮮を助けるので)効果がない」という意見もある。
が、北朝鮮にとって、日米との関係改善後に得られる米国からの援助(後述の発電所建設)、日本からの援助(円借款などによる建設投資)や、世銀、アジア開銀など国際機関からの融資は莫大なもので、とても中韓が補えるようなものではない。
たとえば中国の場合、北朝鮮が中国に期待する大規模投資や先進技術導入などは今後も見込めず、これまで開かれた北朝鮮政府主催の中国企業を対象とした投資相談会で北朝鮮投資に名乗りを上げたのは「中国でのビジネスチャンスに乗り遅れた町工場や小売り店舗の経営者が大半」で「中朝経済協力による北朝鮮経済の抜本的改善は困難」と日本の公安当局は分析している。
公安当局がまとめた政府内部文書によると、中国側が北朝鮮のことを「外交的に孤立し、核開発問題など不安定要因も大きく、投資リスクが高い」と判断する一方、北朝鮮側も中国を含む外国企業に経営権を渡さず、中国側が希望する中国企業の単独経営を法律上認めない、といった「根強い相互不信」が存在することが背景にある、という(産経新聞04年11月28日付朝刊3面「対北朝鮮 経済制裁 単独でも効果」)。
同文書によると、「投資相談会」で中国企業が表明した対北朝鮮投資プロジェクトは、最大でも、せいぜい5800万人民元(約7億5000万円)のタイヤ生産事業ぐらいしかなく、とても日本からの数十億円、数百億円単位の、円借款(や世銀、アジア開銀からの融資)の代わりにはなりえない(産経前掲記事)。
となると、日米が結束して厳しい対北朝鮮経済制裁などを行えば、経済が破綻状態にある北朝鮮には、以下を除くと選択肢がほとんどないことになる。それは
「日本人拉致被害者を全員日本に返して、大韓航空機爆破事件を自らの仕業と認め、いったんテロ支援国家として『再指定』してもらったうえで、過去のテロへの謝罪と反省を表明し、国際機関による厳重な査察のもとで核兵器(およびミサイル)開発・配備計画の完全な放棄を行うこと」
である。
●金正日に「恩赦」●
上記の「結束」には韓国も巻き込む必要がある。北朝鮮が大韓航空機爆破事件を自らの犯罪と認めると、韓国内で事件の犠牲者の遺族や野党ハンナラ党など保守派から、賠償や制裁を求める声が上がると予想され、北朝鮮がそれを恐れて結局、田口さんらを返せなくなる可能性があるからだ。それを防ぐために、韓国政府には「実行犯の金賢姫と同様に、北朝鮮政府(金正日総書記)自身も罪を認めて謝罪すれば、赦免される」と表明してもらいたい。元々韓国の国民はみな「北がやった」と知ったうえで、対北朝鮮宥和路線を掲げる盧武鉉(ノ・ムヒョン)を選挙で大統領に選んだのだから、可能だろう。もちろん韓国政府には「日本の経済制裁による北朝鮮の損失分を補う『代替経済援助』はしない」と表明してもらう必要もある。
●取り残されろ!●
04年12月8日にめぐみさんの遺骨がニセモノと判明したあとも、小泉首相はまだ、対北朝鮮経済制裁に慎重な姿勢を崩さなかった。その背景には、近年欧州諸国が次々に北朝鮮と国交を結んでいることがある(04年12月8日放送のフジテレビ『ニュースJAPAN!』)。
おまけに、いまだに北朝鮮と国交のない米国でさえ、北朝鮮に国交樹立を打診していたことが最近明らかになった。これは朝日新聞の報道によるもので、(核兵器開発放棄のみを交換条件に)国交樹立、火力発電所の建設、経済制裁の解除、アジア開発銀行への加盟支援など、国家建設から国際社会への復帰まで、米国が北朝鮮を「包括的に支援」することを、02年10月、米国が北朝鮮に提案しており、04年現在も「提案はなお生きている」ことが再確認された(朝日新聞04年11月26日付朝刊1面「米、北朝鮮に包括支援提案」)。
このため、「日本が下手に経済制裁に乗り出すと、日本だけが対北朝鮮外交で取り残される」という心配が、小泉や政府にはあるようだ(前掲『ニュースJAPAN!』)。
しかし、何も心配する必要はない。
上記の「包括支援提案」をブッシュ米政権が北朝鮮に行っ(て拒否され)たのは、02年10月の米朝高官協議のときだ。その2年後の、04年11月20日には米国議会で北朝鮮人権法が成立している。このため、米国では、たとえ政府が(核放棄を理由に)北朝鮮を「包括的に支援」したいと思っても、特使から北朝鮮の人権状況の報告を受ける議会が「拉致問題などの人権蹂躙が改善された」と認定しない限り、02年10月に提案した援助(火力発電所建設やアジア開銀への加盟支援)はできないのだ。だから、日本は「米国が先に北朝鮮と関係改善して、日本だけが取り残される」などと心配する必要はない。
それに、たとえ、日本より先に米国が北朝鮮と関係改善したからといって、なんだというのだ?
どこの国でも、自国民の人権を組織的に侵害する外国とは、国交を結ばないか、または国交を断絶する。米国は、79年に発生した在イラン米大使館人質事件の際には、自国の大使館員が(過激派学生に)不当に拘束され(それをイラン・イスラム革命政府が事後承認す)ると、即座にイラン・イスラム革命政府と国交を断絶した。当時もいまも、イランは大産油国で、日本や欧州の有力国と国交を持っているが、米国は「対イラン外交で米国が取り残された」などとは考えなかった。
まして北朝鮮には、イランと違って、石油も大きな国内市場もビジネスチャンスもない。そんな、なんの価値もない貧乏国と急いで国交を結ぶ必要は、日本にはない(たとえ小泉が拉致問題をごまかして日朝国交樹立を成し遂げたとしても「宰相として歴史に名が残る」ことはなく、むしろ「汚名が残る」だけだ)。
【国交樹立後の円借款でいちばん潤うのは日本のゼネコンだが、小泉は建設族ではないので、さほどゼネコンから陳情を受けているとは思えない。やはり彼が日朝国交樹立にこだわる理由は、歴史上の「名声」しかあるまい。どうやら首相は「とにかく国交を結びさえすれば名声が得られる」と誤解しているようなので、首相官邸への直接メールkanteihp-info@cas.go.jp で教えて差し上げるべきだ。】
田原総一朗キャスターはよく「北朝鮮が独裁国家だからといって国交樹立に反対するのは間違いだ。日本は72年には、文化大革命で1000万人も自国民を殺した独裁者・毛沢東の中国と国交を結んだではないか」と言うが(04年11月26日深夜、27日未明放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』ほか)、これは事実認識としておかしい。現在の日本で世論調査をすると「北朝鮮とは(まだ)国交を結ばなくてよい」という意見が大半を占めるが、その理由は、北朝鮮が独裁国家だからではなく、日本国民を拉致していて返さないからだ。
中国は日本人を組織的に拉致したこともないし、日本政府にニセの遺骨を渡したこともない。文化大革命時代の中国は、のちに中国自身が認めるほど野蛮な国だったが、現在の北朝鮮はそれよりさらにひどい、度を超して下劣な国なのだ。
北朝鮮を中国と比較するのは、中国に対して失礼だ。
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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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