Originally written: Sept 13, 2001(mail版)(いちばん得をしたのはだれだ〜テロで加速する米軍改革(1))
Second update: Sept 14, 2001
Third update: Sept 17, 2001(mail版))(海軍長官室に着弾〜米中枢同時テロで加速する米軍改革(2))
Fourth update: Sept 18, 2001
Fifth update: Sept 20, 2001(mail版)(自作自演か予想外か〜米中枢同時テロで加速する米軍改革(3))
Sixth update: Sept 25, 2001
Seventh update: Sept 27, 2001(mail版)(戦争と経済〜米中枢同時テロで加速する米軍改革(4))
Eighth update: Oct 1, 2001
●「赤の広場」不時着事件という「先例」●
1985年にゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任し、ペレストロイカ(改革)、グラスノスチ(言論の自由化)と東西冷戦の終結(東欧からのソ連軍の撤退)を政策目標として掲げたとき、軍部・保守派は激しく抵抗した。が、その後、西ドイツから「平和を訴えるために」グライダーで1人の青年がモスクワの「赤の広場」に飛来し、不時着する事件が起きた。
ゴルバチョフは激怒した、「もしルスト君(操縦者)が爆弾を持っていたら、ソ連の中枢が破壊されていたぞ!」。防空態勢の重大欠格が露呈したとされ、軍の長老幹部(保守派)は軒並み引責辞任に追い込まれた。こうして「幸いにも」最大の「抵抗勢力」が消えてくれたので、以後ゴルバチョフは改革を加速し、80年代末までにソ連軍の東欧撤退と、ソ連と東欧の軍事同盟、ワルシャワ条約機構の解消を決定する。
つまり「結果的に」ルスト君は、ペレストロイカを推進したことになる。
●「ニュー米軍」構想●
1999年7月、米国防総省(大統領は民主党のクリントンだったが、国防長官は共和党のコーエン)は『Asia 2025』なる内部報告書をまとめた(この報告書が定義する「アジア」は「北極海からインド洋まで、かつアラビア海からオホーツク海またはインドネシアまでの地域、海域」で、中東を含まない)。同報告書はまず今後25年間の国際情勢の認識として、以下のような点を指摘している:
・もう欧州で大きな戦争はない
・アジアでは米国の国益にかかわる戦争、紛争がありうる
・欧米の中東原油への依存度が低下
・逆に、中東原油の最大の得意先はアジアになり「中東はアジアを向く」
・ロシアが人口減少で衰退(中国がシベリアに「浸透」)
・中国が(1人っ子政策の副作用で)高齢化に突入し、いったん国力が肥大化したあと、ほどなく衰退
・インドは高齢化せず、成長を持続し、地域大国として台頭
さらに、軍事情勢認識の要点としては
・非正規軍(テロ、ゲリラ)との戦いが増加
・弾道ミサイルの拡散(弱小国や、北朝鮮のような「無法国家」へのミサイルの普及)
・弾道ミサイルの格好の標的である空母、戦車など旧来型兵器(や在外米軍基地)の使用不能
・「アメリカの若者の血を流すこと」への米国内世論の抵抗
などをあげ、結論として
・二正面作戦(朝鮮半島または台湾海峡と中東で同時に正規戦を戦う能力)の放棄
・旧来型兵器(空母、戦車、戦闘機)の大幅な「軍縮」
・精密誘導ミサイルなどの「無人兵器」重視
(したがって、当然MD、ミサイル防衛重視)
・欧州駐留米軍の削減
・将校へのアジア言語(ウイグル、チベット、ヒンズー語等)の教育重視
などを提言している。また、明言していないが、
・アメリカの中東からの撤退(イスラエル切り捨て)
・サウジ駐留米軍基地のアジア諸国(たとえばインド)への移管
・日米印による対中国包囲網の検討
も示唆されている。この結果、未来の米軍は、
#1 在外米軍基地に多くの兵員や空母のような大型の武器をあまり置かず
#2 米本土に緊急展開部隊を用意し
#3 米本土と同盟国を弾道ミサイルの脅威から守るMD網を構築して、核保有国(中国)の暴走や分裂に備え
#4 弾道ミサイル発射やテロ攻撃の探知のために衛星査察、リモートセンシング技術、米英など5か国が運営する盗聴網「エシュロン」による情報収集活動を強化し
#5 米本土から遠隔操作で巡航ミサイルや無人戦闘機を飛ばし、あるいは緊急展開部隊を投入して反撃する
といったものになろう。
筆者は一部の国際政治・軍事専門家と同様、この報告書を、アメリカの外交、国防政策と米軍の未来(「ニュー米軍」)の方向を示唆したものとして重視している。なぜなら、この報告書の提言や示唆の少なからぬ部分が、その後の米政府高官(共和党)の発言や実際の政策に反映されているからである(産経新聞2001年3月1-3日付朝刊「新次元防衛戦略」)。
たとえば、米系国際石油資本はこの数十年間、ベネズエラ、メキシコなど中南米諸国(とアフリカのナイジェリア)での石油開発を重視してきたため、アメリカの中東原油への依存度は『Asia 2025』の指摘するとおり徐々に下がっており、今後20年以内に中東原油の最大の消費者の座をアジア(日本、中国、インドなど)に譲り渡すことは確実である。
2001年に登場したブッシュ政権(共和党、石油派)は、この流れを加速させる、エネルギー政策の転換を行った。それは、
・原発建設の再開
・アラスカなど国内の新規油田の開発
であった。ブッシュ政権が中東和平に熱心でなく、イスラエルとパレスチナの対立激化に関して仲裁しない態度を取っているのは、アラブの庶民からは「イスラエルびいき」に見えるだえるだろうが、それは正確ではない。これは「イスラエルほったらかし」政策であり、イスラエルがまわりのアラブ諸国から怨まれて滅びようがどうしようがかまわない、という意志の表われにほかなるまい(逆に、民主党、原子力派のクリントン前大統領が推進した中東和平合意とは、パレスチナの主権と独立を認めつつも、とにかくアラブ側に「イスラエルの生存権」を保証させようという策で、これこそ真のイスラエルびいきだ)。
上記の「原発建設の再開」は、一見すると共和党が原発派に宗旨替えしたかに見えて紛らわしい(「原発派vs.石油派」については
http://www.akashic-record.com/usout.html#table
の一覧表を参照)。
が、戦時のための軍の地下備蓄(石油が輸入できない場合に備え、軍が油田を保有し「掘らせない」安全保障上の制度。実際には石油の生産制限であり、世界の石油相場の下支えに役立った)や自然保護を理由に開発していなかったアラスカ油田に手を着けようとしていることと併せて考えれば、共和党はべつに石油派から原子力派に鞍替えしたのではなく、「中東」から、国内を含む「中東以外」にエネルギー供給源を急いで変えたいのだとわかるはずである。
その理由はもちろん「中東を含む」2か所以上の大規模地域紛争に介入する戦略を放棄して、空母など、たった一発の弾道ミサイルで数百人の死者を出しかねない旧来型兵器への無駄な予算を削減し、MDをはじめとする「ニュー米軍」構想実現のための、軍事革命(軍の構造改革)に注力したいからである。
●軍需産業が平和主義者?●
MDには莫大な開発コストがかかることから「軍需産業の金儲け」にすぎない、という批判が世界各国にあるが、実はMD構想推進の最大の「抵抗勢力」は、旧来型兵器を駆使して勲章をもらってきた米軍幹部と、彼らに旧来型兵器を供給して儲けてきた正真正銘の軍需産業、すなわち、伝統的な「軍産複合体」である。なぜなら、国防総省の中枢や共和党幹部(ブッシュ政権)は、MDや精密誘導兵器、無人戦闘機などの「使える兵器」の開発予算を捻出するためもあって、旧来型の「米兵に血を流させる」「使えない」兵器の削減(軍縮)を主張しているからである。
となると、人命尊重や平和主義や軍縮の観点に立てば、MD反対派と賛成派のどちらに理があるかは自明であろう。日本にもアメリカにも中国にも、MDに反対することこそ平和主義だと誤解している人が多いようだが、そろそろ自分たちが旧来型の軍産複合体の代弁者になってしまっている事実には気づいたほうがよいのではないか。
●精密誘導兵器の台頭●
アフガニスタンの中南部を実効支配するイスラム原理主義過激派タリバンの「首都」カブールで、現地時間9月12日未明、爆発があり、イスラエル政府はこれをアメリカの巡航ミサイルの攻撃と発表したが、アメリカ政府はこれを否定し、アフガニスタンの北部を支配する反タリバン勢力「北部同盟」のヘリコプターからのミサイル攻撃などと述べた。
が、これはウソだ。朝日新聞記者の田岡俊次は12日早朝にテレビ朝日の番組に出演して、その瞬間のビデオ映像を見ながら指摘している。爆発(攻撃)は夜間に行われたのだから、ミサイル攻撃をするには暗視装置や赤外線誘導装置(付きのミサイル)が必要だが、そんなハイテク兵器は北部同盟にはない。したがって、このカブール攻撃はペルシャ湾やその近海で「反米テロ」に備えて警戒にあたっていたアメリカ海軍艦船からの「報復攻撃」に相違あるまい。
これは、「敵」(今回のハイジャック機テロの犯人)が犯行声明も出さず黙っている以上、こちらも「報復声明」は出さず、再報復を招かないようにしたい、という米軍側の「ポーズ」なのだろう。
それはともかく、米中枢同時テロの発生から24時間以内に、米軍側がとりえた有効な軍事行動はこれだけだった。
●空母「役立たず」の証明●
他方、空母の投入はみじめなものだった。国防総省とWTCが攻撃されたあと、ブッシュ大統領はワシントンとニューヨークの沖合いに1つずつ空母戦闘群を配備した。が、いずれこの配備は「空母黄金時代の終焉」を告げるものとして、世界の軍事史に記録されよう。
空母やその艦載機にいったい何ができるというのだ。空母は米国やその同盟国の領土、領海、領空を、その外側の敵から守るため、その外側に向かって攻撃するためのものだ。が、今回の敵は終始一貫して「内側」にいたのだ。内側で、空港の警備態勢をかいくぐり、飛行機をハイジャックしてビルを攻撃する「ミサイル」とし、直前までまともな飛行をさせたうえで、突如コースを変えてから数分間でWTCや国防総省に突っ込ませ、米空軍の防空体制を完全にかわしてカミカゼ特攻を完遂してしまった。
仮に空母戦闘群が事件発生前に配備されていたとしても、迎撃のしようがなかったのではないか(もし、空母から迎撃できるなら、陸上の空軍基地から迎撃できるだろう)。空母や戦闘機などの旧来型兵器はどのみち無力だったのだ……と米国民は「思い込まされている」はずだ。
おそらく、今回出動した2空母戦闘群はともに、その辺の海域で、ただ「しばらくぶらぶらして帰る」ということになろう。これには米国民の怒りが殺到する可能性が高い。
もともと近年の弾道ミサイルの拡散(無法国家への普及)によって使いにくくなりつつあった空母が、今回の事件で、役立たずであることが決定的に明らかになった。
「何兆ドルも使って7つも8つも空母戦闘群を維持しても、国民の生命は守れない」
「空母は税金の無駄遣いだ」
とマスコミや共和党のMD推進派に言われたら、旧来型の軍産複合体はもう反論できまい。
■海軍長官室が吹き飛んだ〜米中枢同時テロで加速する米軍改革(2)■
●改革に追い風●
2001年1月、ブッシュが大統領に就任すると、そのもとでラムズフェルド新国防長官は「ニュー米軍」構想を盛り込んだ軍改革プランの作成に取りかかり、当初は5月に発表する予定だった。が、平和主義者(の顔をした軍需産業のまわし者)や現役軍人や米民主党国会議員らの激しい抵抗に遭い、改革プランの作成は遅れに遅れ、2001年9月現在、10月まで発表されない見通しになっていた。
しかも、その内容たるや「抵抗勢力」の激しい反発のゆえに、減らす空母戦闘群は1つのみ、といったおざなりな内容になるだろうと、アメリカのマスメディアには予測されていた。これでは、まるで小泉内閣の「特殊法人の廃止、民営化方針」に各省庁の役人が事実上の「ゼロ回答」で抵抗している姿と同じで、米軍の大改革など到底できそうにない。
そこへ、この「追い風」である。改革に抵抗してきた「旧来型」の高級将校、つまり「抵抗勢力」は発言力を失い、空母などの「無駄な兵器」の削減は一気に進むだろう。
●敗北なくして改革なし●
1980年代、日本で国鉄の分割民営化や赤字国債の削減などの行財政改革が課題となりはじめていたとき、高坂正尭・京大教授(故人)はその難しさを以下のように説明した。
「戦争に負けたときは、国民に『この国のシステムが敗因だった』と言えるので、それを改革するのは簡単だ。が、戦争に勝ったシステムを改革するのは容易でない。日本は戦後世界の経済戦争に勝ち、高度成長を達成したのだから、高度成長をもたらした行財政システムを変えるのは……戦争に負けない限り……非常に難しい。かといって、また戦争するわけにもいかないし(^^;)」
ソ連軍はロシア革命以来、多大の犠牲を払いながらも(アフガニスタンへの軍事介入を除く)すべての戦争に勝ってきた。だから、ゴルバチョフが東欧からの撤退などという大改革を打ち出したとき、歴戦の名将たちが「なんで成功したシステムを変えるのか」「だれのお陰で国が守れたと思ってるんだ」と反発したのは当然だった。
が、ルスト君の領空侵犯事件は、この将軍たちの明らかな「敗北」だった。だから、彼らはもはや「偉そうなこと」は言えなくなり、改革に抵抗できなくなった。たしかに「負けたシステム」を改革するのは簡単だ。
他方、アメリカ軍も、1941年の真珠湾攻撃以降この60年間、ベトナム戦争を除くすべての戦争で旧来型の「重厚長大」兵器を駆使し、大勢の米兵の血を流しながらも勝ってきた。その間常に空母は花形であり、かつては第3世界の某国でソ連のスパイ機関に支援された反政府ゲリラが親米政権を脅かしたら、その国の沖合いに空母を派遣し、軍事演習をさせるだけでも十分な威嚇効果があった。それをいまさら「空母は弾道ミサイルに弱い」だの「世論が米兵の犠牲に厳しくなった」だのと言われても、歴戦の名将たちは納得しない。
が、米東部標準時2001年9月11日朝、ついに彼らも負けた。もう「ニュー米軍」の登場を阻む抵抗勢力はいなくなるであろう。
●世界一厳重に守られているもの●
1963年、アメリカ大統領ジョン・F・ケネディ(JFK)が暗殺された。犯人については「オズワルドの単独犯行説」からキューバなど外部の暗殺集団まで、さまざまな説がある。が、合衆国大統領は核ボタンの管理者であり、アメリカどころか全世界の運命を握っている。世界一厳重な警備態勢で守られているはずである。オズワルドなどという頭のおかしな青年がライフル一挺撃ったぐらいで殺せるはずがない。また、キューバごとき部外者の攻撃で暗殺が成功するぐらいなら、核兵器で威嚇しあう米ソの冷戦が戦後50年の長きにわたって続いたはずがない(ソ連はアメリカの正副大統領ほか数人の代替指揮権者を一斉に暗殺してから核ミサイルを米本土に撃ちこめば「圧勝」できたはずである)。
常識的に見て「内部から手引き」しない限り、世界一厳重に守られているものは攻撃できないはずだ。だから『JFK』という映画が作られ、ヒットしたのだ。少なくとも、ほとんどのアメリカ人はJFKの暗殺はCIAの仕業と信じている。
世界一厳重に守られているもの……それはJFKのみならず、赤の広場、米国防総省についても同じはずだ。
韓国の大統領府「青瓦台」の上空では、いかなる飛行物体が侵入してきても、理由の如何を問わず警告なしに即座に地対空ミサイルや戦闘機で撃ち落とすことになっている。国家安全保障とは元来そういうものだ。今回3番目の「ミサイル」とされたハイジャック機は、なぜ国防総省の上空で「旋回」できたのか。ペンタゴン・シティー備え付けの地対空ミサイルはなぜ発射されなかったのか。こうした技術的な疑問を解くことはきわめて重要で、マスメディアは技術的知識のかけらもない詩人や評論家の感傷的なコメントを無駄に流す暇があったら、軍事専門家の発言機会を(普段から)もっと増やしてほしい。
●視覚効果と世論操作●
事件発生から数日間、国防総省の死者数(の予測)がなかなか公表されないことや「そもそもの原因」に疑問や関心が集まらなかった最大の理由は、1発目と2発目がWTC(世界貿易センター)ビルにあたり、WTCがテレビのニュース画面を一人占めしてしまったからだ。犯人グループは1発目をあてて中継用のテレビカメラを集めておいて、そのうえで2発目もあてたため、全世界は89年の天安門虐殺以来の「虐殺の生中継」を目撃することになった。
それだけで、もう十分に衝撃的で、テロリストへの憎しみは最高度にかき立てられる。マスコミの関心も、警察も消防もそこに殺到する。そのあとで、3発目が国防総省にあたったという「概念」がニュースとして流れるが「実況中継」でないので映像のインパクトは弱い。だから、そこで何人死んだかに人々の関心は集まらず、「国防総省まで撃たれたのか」(ペンタゴンは被害者だ)という観念が植え付けられる。
米ソ冷戦期の1983年9月1日、アメリカの国会議員を含む数百名の乗客を乗せた大韓航空機がコースをはずれ、ソ連領空を侵犯し(#1)撃墜され(#2)墜落する(#3)という事件が起きた。米コロラド州にある北米防空司令部(NORAD)は世界中の飛行物体を探知できるので、アメリカはこの件のすべてを事件発生当初、つまりKAL007便(数字に注目)が通常のコースをはずれ始めた時点から知っていた。もちろんソ連も防空レーダーで捕らえて知っていたが、情報公開制度のない国なので公表はしない。世界のマスコミの頼りはアメリカ政府だ。ところが、そのアメリカ政府はマスコミに情報をリークするとき、意図的に
#3 民間機が墜落した
#2 ソ連に撃墜された
#1 実は民間機はソ連領空を侵犯していた
と、順序を変えて流したのである。まず#3で世界の関心を集め、次に#2で「丸腰の民間機を撃った」ことを強調して世界の世論の怒りをソ連に向けさせ、世界が興奮して冷静に判断できなくなってから「十分間合いを取って」#1を流した。が、#1の頃にはもう、領空侵犯などなんのニュースバリューも持たない話題に成り下がっていた。
さすがはCIAだ。ここまでやれれば、なんでもできる。軍改革の「抵抗勢力」だって、ねじ伏せることは可能だろう(大韓航空機KAL007便撃墜事件についてのソ連側からの「異説」は
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPKR/19830909.D1J.html
を参照。ソ連はKAL007便をソ連極東の防空能力を探知するためのスパイ機とみなしている。尚、当時一部のフランスのメディアには、この件について「米国陰謀説」が流れた。が、今回の件では、フランスメディアは全面的に米国支持だ。言論の自由に則って陰謀を追求することと、自由主義の価値観を共有する国同士が連帯することとは互いに矛盾しない)。
●空飛ぶ海軍長官●
筆者は、98年末に取材で国防総省ビル(ペンタゴン・シティー)を訪問した際、1階の海軍長官室の前を通った。今回3発目が「着弾」したのはまさにその付近だから(産経新聞2001年9月13日付朝刊3面)海軍長官室は完全に破壊されているはずだ。
が、なぜか、この付近は「たまたま」改装工事中でオフィスとしては使われていなかったという。このため「奇跡的に」ゴードン・R・イングランド海軍長官は無事だった(彼に限らず、3軍の長官と統合参謀本部議長が全員無事で、12日にブッシュ大統領との会合に出ていることは、国防総省ホームページ
http://www.defenselink.mil/photos/Sep2001/010912-D-2987S-124.html
で判明)。
米海軍のホームページ
http://www.chinfo.navy.mil/navpalib/people/secnav/england-bio.html
によると、彼はブッシュ現大統領の指名で、ジェネラル・ダイナミックス(GD)社から転職してきた文官で、元々は航空工学とハイテクセンサーが専門の技術者であり、かつては、ジェミニ宇宙計画に携わったこともあり、かの有名な電子偵察機E-2Cホークアイの開発プロジェクトではリットン・インダストリー社にいてプログラムマネージャーを勤めたという。船乗りや造船プロジェクトの経験はほとんどない。
この、一見すると「空軍長官」かと見まがうような経歴の人物が海軍長官になったのだから、彼がMD推進派(空母軽視派)なのは間違いない。数週間後、彼はきっと、歴戦の名将(提督)たちの前でこう言うだろう、
「あなたがたが誇る空母戦闘群は、私の執務室すら守れませんでした」
「空母は攻撃兵器であって防衛兵器ではないのです、テロに対しては」
「『攻撃が最大の防御』なのは、かつてのソ連や大日本帝国の巨大な正規軍と向き合って『そっちが撃つなら撃ち返すぞ』と言えた、敵味方の戦力が(左右)対称的な戦争における『恐怖の均衡』が機能する場合のみです」
「こんにちわれわれは非対称の戦争に直面しているのです。われわれには豊かさや人権など失うものが多々ありますが、アフガンにいる貧しい連中には失うものは何もありません。高価な武器もありません。もちろん反撃は必要ですでが、たとえ国土を壊滅させても、彼らはまたどこかに穴倉を掘って、すぐに昨日と同じ生活を始められます。何も変わらない」
「でも、ウォール街のビジネスマンはこうはいかない。彼らはWTCが破壊される前と同じ生活をいますることはできないのです。われわれはこのような弱い市民を守らなければならないのです。そのためには、わが軍の組織構造を抜本的に変える必要がありま0す」
■自作自演か予想外か〜米中枢同時テロで加速する米軍改革(3)■
●だれが「黒幕」を育てたのか●
映画『ランボー3』を見るとわかるが、アフガニスタンのイスラム原理主義過激派を育てたのはアメリカ、もっとはっきり言えばCIAである。
1973年にアラブ産油国と米系国際石油資本は結託し、71年の金・ドル兌換停止、いわゆる「ニクソン・ショック」等によるドルインフレで目減りしつつあった石油収入を補填するため、第4次中東戦争を口実に石油危機を起こし、原油価格を一気に4倍に引き上げた(この戦争にはイスラエル・パレスチナ問題はまったく関係ない)。こうして目減り分の補填を上回る天文学的数字の富を得た当時世界第3位の産油国、サウジアラビア王国(1位はソ連、2位は米国)はそれを国内の公共事業に注ぎ込み、それでもっとも利益をあげた建設会社社長の息子が、大富豪ウサマ・ビンラーディンなのである。彼は80年代にアフガニスタンに義勇兵として参戦し、CIAからもらったスティンガーミサイルでソ連と戦った。
つまり、この「黒幕」は、べつにCIAに「たすきがけ買収」(この言葉をご存知でない方は
http://www.akashic-record.com/tasuki.html
を参照)されたわけではなくて、元々CIAの「仲間」だったのだ(イラクのサダム・フセインも80年代のイラン・イラク戦争のときにはイラン革命を警戒する米国から武器援助を受けていたが90年代には見捨てられ、米国の敵として湾岸戦争でたたかれた)。
ちなみに、ルスト君事件を口実に軍長老のクビを切ったゴルバチョフはKGBの出身で、現在の米大統領ブッシュの父親も元CIA長官で、ウサマがCIAから武器をもらっていたときは副大統領だった。
念のために申し上げるが、筆者はソ連がスパイ機と呼ぶKAL機が「007便」だったことも、3発目の着弾時に海軍長官室が無人だったことも、地対空ミサイルが撃たれなかったことも単なる偶然……だったと思っている(相手がCIAでもウサマでも、証拠もないのに人を疑うのはやめましょう
(^^;))。
●冬季五輪は開催できる●
日本時間9月11日夜、事件の第一報を聞いたとき、現場近くに家族が住んでいるので、筆者は非常に緊張した。また、今後は飛行機に乗ることは世界中で際限なく危険になっていき、2002年の米ソルトレークシティでの冬季五輪も中止ではないかと心配した。が、やがて家族が無事とわかり、さらに米軍の軍事革命について思い出すに連れて、冷静になり、現在米軍……というより米国が抱える問題の全体像が見えてきた。
(因果関係はさておき)おそらく上院国防委員会で民主党が軍事革命を妨害せず、議会が大統領や国防長官にMD開発の予算と権限を十分に与えさえすれば、もうこんなテロは起きないはずだ。
逆に「平和主義者」が軍事革命を妨害するなら、遺憾ながらCIAはもう一度……いや、創設以来初めて(^_^;)たすきがけ買収……じゃなくて、途中で裏切って使い捨てにしたり、共謀せずに罠にはめて利用したりする「砕氷船」(この言葉は http://www.akashic-record.com/saihyo.html を参照)や、FBIの得意な、犯罪をやってもらってから捕まえる「おとり捜査」というのもあるが……いずれにせよ「初めて」そういう高度なオペレーションを考えないとは言えない。
●自作自演?●
それにしても天下の産経新聞の「産経抄」が今回のテロを「真珠湾奇襲と同様?米国の自作自演」とほのめかしたのには驚いた(2001年9月18日)。筆者より勇気がある。
そこで筆者も敢えて邪推してみる。今回のテロの真相は、CIAやFBIが過激派の中に工作員「アンダーカバー」を潜入させ、テロ計画を途中までやらせて(見守って)捕まえるはずが、工作員の死亡等でコントロールを失った、ということではないか。「どうせアンダーカバーの筋書き通りに飛行機をビルにあてても、主翼(燃料タンク)の片方がビルを水平にかすったぐらいじゃ、ビルには大した被害はないさ」(ある程度被害が出れば、CIAの予算と権限が増えるし「ニュー米軍」の軍事革命にもはずみがつくから、ボスも喜ぶ)とCIAらは思っていたのではないか。
ところが(真珠湾と同様に)予想外に被害が大きかったのは、犯人グループに優秀な建築技師とパイロットがいたからだろう。WTC(世界貿易センター)ビルの2棟に別々にあたった乗っ取り機2機はいずれもビル中層に(水平でなく)約45度の角度で両翼をぶつけたため一度に10以上のフロアに一斉に燃料が流れ出して大火災にになり、瞬時にビル中層の鉄骨を熱で弱らせた(夕刊フジ2001年9月18日付)。
もし最上階にあたれば、その下の階はすべて無事だ。下層にあたれば(ビル上部の重さを支えるため)太い鉄骨が使われているので、飛行機はあたってもはじかれる。中層が火災で弱り、上層の重みに耐えられずに潰れ、上層がそこに落下し、その勢いで下層が砕かれたので2棟とも倒壊し「米国の自作自演」とは思えないほどの大惨事になった……仮にこれが正しいとしても(正しいとは思わないが)殺人犯はあくまで「実行犯」のみであり、CIAらには過失責任しか問えまい。世界の世論がテロを非難し米国を支持するのは「外交上」なんら間違いではない。
●MD反対論者の正体●
テロはもちろん悲劇だが、これを機に米議会内に無意味なMD反対論を見直す機運が生まれた、という報道もある。
クリントン民主党政権はMD開発実験の日程を故意に遅らせ、技術試験レベルを下げ、MDが実現不可能な技術であると見せかけることに腐心した。また、国防総省の報告書にはない、NMD(米本土ミサイル防衛。アメリカは本土だけは特別安全な技術で守り、同盟国にはあまり安全でない技術を提供するという、失礼な意味になる)などという概念をでっちあげ、意図的に欧州同盟国の反発を引き出した。
1990年代前半、このクリントン政権が初めて旧ユーゴ内戦に遭遇した際、パウエル統合参謀本部議長(共和党員。現国務長官。MD推進派)は、米兵の多大な犠牲が出ることを理由に、地上軍の投入に反対した。ところが、女性のオルブライト国務長官(民主党員。MD反対派)は「何十兆円も税金を使って使えない軍隊を養っているのか(米兵が死んでもいいからさっさと地上戦をやれ)」と恫喝した。彼女の発言は、MD反対者たちがいかに品性下劣であるかをよく表している。命よりカネが大事だというのだから。彼女は任期終了間際の2000年、テロ国家北朝鮮を訪問し「無法国家」への融和策を打ち出した。
こんな者に国政を任せたら、米中枢同時テロの何百倍もの人命が米国やその同盟国で失われかねない。パウエルと違って、オルブライトは人の命なんてなんとも思っていない。より多くの人命のためにやむをえず慎重に軍事力を投入するという発想はなく、旧来型兵器で戦って大勢の犠牲が出てもいいと思っているからこそ、MDに反対なのだ(ちなみにクリントン政権では、大統領、安全保障担当大統領補佐官、国務長官、国防長官がそろって軍歴がないという、たぐいまれな「しろうと政権」だったので、彼らは「軍人の命を虫けら並みに扱う」傾向が強かったと察せられる)。
(実はMDは単なる兵器ではなく、文明のあり方を変えるもので、この奥の深さについては別の機会に論じる予定である。が、『ゲノムの方舟』には、筆者の議論の「前提」となる、21世紀の地球環境・生態系・経済問題への独特の「中長期」の認識は十分に述べてあるので、ぜひご高覧賜りたい)
●日本が「敗北」する必要性●
ところで、日本では構造改革(特殊法人の廃止や、銀行の不良債権処理)も日米同盟強化(有事立法、集団自衛権のための憲法9条[の解釈])の見直し)も遅々として進まない。前者は、アメリカが中国に対抗するうえでのパートナーである日本の国力の維持に不可欠で、2001年3月には軍出身のパウエル米国務長官が「日本の不良債権問題は放置すれば、同盟の根幹を揺るがす」と指摘したのに、その後半年間ほとんど具体策は打たれず、後者も、防衛に無知な田中真紀子が外相なので、小泉政権発足以来まったく手着かずである。
これは、日本全体がこの半世紀「安保ただ乗りで高度成長」を実現してしまったために「成功したシステム」を変えるのを旧ソ連軍の保守派のように嫌がっているからに相違ない。ペレストロイカ反対の将軍たちと同様で、日本人も「情勢が変わった」「古いやり方ではやっていけない」と言われても、日本を世界第二の経済大国に押し上げたシステムへの愛着は「10年の不況」や「失業率5%」「地下鉄サリン事件」「阪神大震災」ぐらいの「ささいなこと」ではなくならない。
それなら北朝鮮に頼んで、2002年の日韓W杯サッカーの開催前に、会場の1つ宮城スタジアムにテポドンミサイルを撃ち込んでもらうなんてのはどうだろう? この会場はバブル経済崩壊「後」の1997年に着工され、宮城県の財政事情を無視して250億円もかけて建てられたうえ、W杯後の利用計画が皆無で取り壊し必至なので、壊す手間が省ける分だけ県にとってはかえっていいのではないか。攻撃のタイミングは人がいない日を選べばいいし、元々開催会場は日本だけでも10か所もあって過剰なので、これがなくても困らない。破壊されれば年間3億5000万円の維持費は節約できる(このスタジアム建設の「禁治産者」的なひどさについては
http://www.mainichi.co.jp/entertainments/sports/worldcup/worldcup/venue/0004/29-01.html
を参照。この建設計画の責任者は、民間企業なら背任罪に問われるのではないか。これは犯罪だ。本来なら「首謀者」は投獄され、家族は路頭に迷うはずだ。それができないから、いつまで経っても構造改革は進まないのだ)。
北朝鮮がだめなら、イスラム過激派でもいい。テポドンがだめなら、旅客機でも爆弾テロでもいい。中国は新疆ウイグル自治区のウイグル人イスラム教徒を弾圧しており、その中国を、日本は平和国家のごとくたてまつって多額の軍事援助(軍民共用空港の建設費など)を与えているのだから、日本がイスラム過激派の標的になる理由は、すでにあるのだ。
そうなれば、もう道路公団などの特殊法人が、田舎で無駄な公共事業をやって遊んでいる暇はなくなる。各地の交通インフラは有事に際して自衛隊や米軍の輸送や移動に使えるか、という観点ですべて再点検され、以後、道路や港湾の建設予算の付け方もまったく変わる。政府予算案の作成だって前例にとらわれず、危機管理関連分野に重点配分され、北陸、東北新幹線などの整備新幹線の建設はたぶん中止だ(そんなものより、新たな軍民共用空港を地方に造ったほうが国防上も経済政策上もはるかに有益だ)。「不要不急のこと」しかやらない特殊法人の「大量粛正」も一夜にしてできる。
外務省内の親北朝鮮派(イコール対中国弱腰派、軍事的消極派、ハト派)は公職を追放され、野中弘務は政治生命を絶たれる。
「近隣アジア諸国」の日本観も変わる。もはやセピア色の静止画でしか見られない日本軍国主義の脅威(単なる思い出)などどうでもよくなり、カラー動画で目撃した「いまそこにある危機」に関心が集中する。日本と(中国を除く)周辺諸国との関係は劇的に改善され、日韓同盟、日台同盟、台湾核武装すら議論されるようになるだろうし、もちろんこれらの国ではMD反対論は雲散霧消するだろう。
ミサイル1発でこれだけ改革できるなら、ちょっと頼んでみようかな、とCIA長官が考えても、べつに不思議ではあるまい。
●クリントン政権下の「失われた8年」●
ああ、92年の米大統領選挙が山だった!
あそこでクリントンが勝たなければ、ずっと「ブッシュ」共和党政権が続いていたはずで、MD開発が妨害されて誤解されることもなく、クリントンの外圧に便乗した野中自民党がばらまき公共事業を続けて不良債権処理を先送りすることもなく、中国が劇的な軍拡を達成し台湾海峡に弾道ミサイルを多数配備することもなく、つまり米民主党の日本弱体化・中国優遇策が奏効することもなく、もしかすると今回のテロもなかったのではないか、と思われ、筆者は悔しくして仕方がない。
父ブッシュは性急にイスラエル切捨てを進めてユダヤ票を敵にし、92年に大統領再選をはたせなかった。だから息子は現在、イスラエルにはおべっかを使っているが、基本路線はほとんど変えていない。
(以下次回)
●先進国経済の常識「戦争特需は過去のもの」●
同時テロの翌日、2001年9月12日付の米ワシントンポスト紙は(国家対非国家の非対称戦という意味で)"War"と見出しを掲げ、それを見た日本のビジネスマンのなかには戦時(戦災復興)特需で景気がよくならないか、と考えた人が少なくないようである。筆者はこのテロの1か月前には「第二次朝鮮戦争が起きれば、50年前の朝鮮戦争特需の再現になり(日本の)景気対策になるのではないか」という質問もある人から受けた。
答えはNOだ。
第二次大戦や1950年の(第一次)朝鮮戦争は工業化社会の「対称戦」だった。日・米・西欧主要国はともに工業国であり、この頃は産業別就労人口構成比では、第二次産業(鉱工業、建設業)がいちばん多かったから、戦争で武器、弾薬、兵糧、石油が浪費され、建物や家電製品、備品や工場の生産設備、道路、空港が破壊されれば、それを補い再建するための巨大な「総需要」が発生し、国民の大多数を占める第二次産業就労者とその家庭が潤った。だから戦争は景気対策になりえた。
が、それから約四半世紀で、世界経済の富の大半を生産する日米欧の先進諸国は、そろって脱工業化社会に突入する。鉱工業や建設業の就労者は減り、どこの国でも第三次産業(情報、金融、サービス産業)就労者が全体の3分の2以上に増えた。インテルや富士通のような一見第二次産業に見える企業ですら、ソフトウェア設計や遺伝子情報解析サービス請負のような「サービス産業的な」部門で働く者のほうが、生産ラインなど典型的な第二次産業部門で働く「工員さん」より高い給料を取る時代になり、「工員さん」の仕事は日本より人件費の安い、アジア諸国に移転されていった(80年代以降の自民党政権の最大の失敗は、この産業別就労人口比の変化に気付かず、もはや「少数派」に転落した第二次産業の中の建設業を異様に重視して、そこに公共投資を集中させたことにある。国民の多数派(第三次産業就労者)を無視した景気対策など、元々成功する道理がないのだ)。
第三次産業就労者は、建物や工場、交通インフラが無事な社会で、それらを使って、株取引やビジネスコンサルティング、カルチャーセンターの講義、美容形成手術、ソフトウェアのマーケティングなどを行って所得を得る。こういう働き手のいる世帯が全世帯の3分の2にもなる先進国では、建物や機械の破壊にしかつながらない戦争は、明らかに景気のマイナス要因になる。戦争でインフラが壊されると、第三次産業は仕事ができないからだ(現に、9月11日以降、ウォール街の第三次産業労働者は仕事ができず、アメリカどころか全世界の先進諸国が金融サービスの停滞で困り、日米欧とも株価はテロ前に比べて下がっている)。
現在この種のインフラ破壊で直接的に得をする国があるとすれば、それは先進国ではなく新興工業国、安い人件費で低レベルな工業製品(繊維、セメント、鉄鋼)を量産できる国である。だから、第二次朝鮮戦争が起きた場合、いちばん儲かりそうな国は、中国である(この意味で、現代世界でいちばん好戦的な国は中国なのだ。日本にはもはや戦争を望む理由はない。いまの日本の産業構造こそが「日本軍国主義復活」への最大の抑止力であり、日本の憲法9条はすでに「歯止め」の役割を終えたと言える)。
現代世界の富、カネの流れの大半は、もちろん脱工業化した先進諸国が握っている。だから、90年代の湾岸戦争でも今回のテロでも、株は「売り」だった。
●軍事「開発」景気はありうる●
が、戦争そのものではなく、戦争に備え(あるいはそれを防ぐ)ための軍事技術開発は、経済にはプラスになる。日米はMD投資で「副産物」のハイテク通信技術を手に入れて儲ければいい。
とくに世界屈指の通信、センサー系技術を持つ(シリコンバレーならぬ)京阪バレー企業、たとえば島津製作所は参加したほうがいい(筆者に言われずとも、この辺の企業は外国人株主比率が異様に高いので、たぶん参加するだろうが)。
軍の予算は一律に無駄ではない。
もちろん兵士の人件費、食費、基地の光熱費、燃料、弾薬などの消耗品への支出は消費的経費であり、福祉予算同様に、エンドユーザーの手元で消えてしまい、景気刺激効果は一過性だ(よく左翼が口にする「軍備を削って福祉にまわせ」というのは実は「消費を削って消費にまわせ」と言っているのと同じで、経済学的にはマンガである)。だから、9月13日(日本時間14日)にブッシュ大統領の提案を受けて議会が可決した、テロ対策、軍事制裁と戦災復興のための緊急予算案の400億ドル(日本円換算で「5兆円の公共事業」に相当)の景気浮揚効果は、そのほとんどが消費的経費に消えるので、長続きはなしない。
たとえば、すでに開発された技術で既存の戦闘機や空母のコピーを軍が量産するのは(産業用ロボットなどの生産設備への投資と違って、まったく新たな富を生まない「消費財」への支出なので)既存の軍需工場の生産ラインが忙しくなり、工員が多めにボーナスをもらって、地元で多めに消費するぐらいしかない(したがって軍需工場のない地域にはメリットがない)。
軍による空母の建造は(個人が乗用車を買うのと同様)純粋な消費であり、経済の循環サイクルにはまったく寄与しない(だから、MD推進をうたった国防総省の内部報告『Asia 2025』がまとめられた99年以降、米軍は新規の空母や戦車を発注していない)。
ところが、MD開発は(個人タクシー業者が「生産財」つまり営業用の車を買うのと同様の)投資であり、めぐりめぐって必ず新たな富、雇用を生み出す。ITバブルがはじけたあと、それに代わって世界先進諸国の経済を牽引する機関車役を「MD特需」が果たす可能性は高い。
ベトナム戦争の頃、アメリカはまだ工業化社会の末期にあり、軍需産業は兵器弾薬の「消費」を促すために戦争を必要とした。いわゆる軍需産業、軍産複合体の「死の商人」イメージはここで確立された。が、いまや彼ら自身が消費より投資のほうが儲かることに気づき、性格を変えつつある。MDは通常兵器、核兵器への消費的支出を減らす「軍縮」とのバーター取引で提案されているので、ベトナム戦争当時の「軍拡」とはまったく違う。
MDの「前任者」のIT革命も元をたどれば、米軍が核戦争時の通信用に開発した技術を起源とする。そこからインターネットが生まれ、それらをうまく活かした企業、たとえばインテルやマイクロソフトが世界的超一流企業に成長し、シリコンバレーの新興企業も繁栄を謳歌した。結局、ITと呼ばれる「軍事技術」開発投資の景気刺激効果は全米どころか全世界を10年も潤したではないか。
今度は、MDや「無人兵器技術」の開発投資で精密誘導、リモートセンシング技術が発達し、島津製作所やキーエンスが超一流企業になり、京阪バレーが栄える番だ。
ああ、これでやっと不況の出口が見えた想いだ。
2001年6月28日、ラムズフェルド米国防長官は、2001会計年度(01年10月-02年9月)の国防予算案修正案を発表した。その額は(テロ事件後の緊急「補正」予算を除いて)約3300億ドル(40兆円)で、その大半はもちろん「まだ」消費的経費だが、MD開発への投資は前年比6割増の83億ドル(1兆円)である。もし、今後空母や戦車の軍縮が進み、それに伴って人件費も削減できれば、この開発投資は2倍、3倍と増やしていける。これは、西側先進ハイテク諸国全体に対する究極の景気浮揚策であって、日本のゼネコン向けの公共事業よりはるかに有益だ。
もちろん、筆者がMDに賛成な理由は「景気対策」などという一時的なものではない。筆者はMDを拙著『ゲノムの方舟』で取り上げたような、文明のあり方、地球環境生態系問題とかかわった奥の深いものととらえている。MDの(技術的)実現性について「証明」するのもさして難しくない。これらはいずれ別の機会に述べる。
●軍事技術に「罪」はあるか●
ところで、日本が「軍事技術」であるMDの開発に参加することに道義的な抵抗を覚える人々(またしても「抵抗勢力」)は、少なくあるまい。が、仏教の世界の話にこんなのがあるそうだ。
僧侶「あなたは殺生(生き物を殺すこと)をしていますか」
庶民「いいえ、してません」
僧侶「ウソです。他人に生き物を殺させて、それを食べているのだから、殺生しているのと同じことです」
日本には「軍事技術と民生技術は違う」とか「軍事技術に頼るのは悪いことだ」などと言う人が少なくないようだ。が、それは、間接的に軍事技術の恩恵を受けながら、その「罪」だけは直接手を下す人(軍人、軍需産業)になすりつけて、自分だけ「いい子になる」という、ただの自己満足ではないのか。
第一、二次大戦では戦闘用のパラシュートからナイロンが生まれ、兵糧から冷凍食品が生まれた。かつては自衛隊のFSX(次期支援戦闘機)開発計画からも「軽くて丈夫な」機体材料アルミサッシが誕生したのだから、トステムの雨戸や「イナバの物置」も軍事技術である。プレステ2の部品だって軍事転用は可能だ……軍事に使えない民生「専用」技術があるとすれば、それは信頼性の低い三流技術だろう。
いま「インターネットで」この記事を読んでいるあなたも軍事技術を利用している。軍事技術が悪ならもちろんあなたも罪人で、筆者は「大罪人」だ。
(^^;)
さあ、日本国民よ、これから徹底的に軍事技術を極め、共産党から公明党まで、みんなにべとべとに手を汚させてやろうではないか。そうすれば、この道義的問題はすぐに「解決」する。
いや、もう解決しているのに、往生際の悪い人が「未解決だ」と言い張っているだけかもしれない。
拙著『ゲノムの方舟』(徳間書店)の内容や購入方法については
http://www.akashic-record.com/genome/cntnt.html#toyokeizai
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