2008台湾独立容認
@北京五輪
〜シリーズ
「アテネ五輪」
(5)
■2008 台湾独立容認〜 シリーズ「アテネ五輪」(5)■
08年の北京五輪開催直前に台湾が中国からの独立を宣言しても、開催国中国は台湾五輪選手団の入国を拒否できず、いやでも歓迎しなければならい。それは五輪のTV中継を見る全世界の人々の目には「独立容認」と映る。
■2008 台湾独立容認〜シリーズ「アテネ五輪」(5)■
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04年8月3日、アジア杯サッカー準決勝「日本対バーレーン」戦が、中国の済南で開催された。
済南市民は凄まじい反日ブーイングで日本選手を迎え、試合前の国家「君が代」の演奏もブーイングで妨害した。
中国(中華人民共和国)は建国後、建国の父・毛沢東と、彼が率いる中国共産党の指導のもと、「大躍進」と言われる経済政策の失敗で数千万の国民を餓死させ、また「文化大革命」と呼ばれる全国的集団リンチで1000万の国民を虐殺した。が、中国共産党は、国民に対してなんの謝罪も反省もせず、本来ならとっくに解散しているべき世界一残虐な政党なのに、事実上の一党独裁体制を敷き毛沢東の死後もそのまま政権を握り続けている。
中国共産党は自身の支配を正統化するために「悪役」が必要なので、第二次大戦中の日本の中国に対する軍事行動を針小棒大に取り上げて国民を教育し、日本への敵意によって共産党への国民の反発をかわす政策を、近年(とくに89年の天安門事件以降)はずっととっている。
中国はアジア杯開催国として、中国代表チームを優勝させ国威を発揚しようとはかったが、日本サッカーの実力はアジア最強である。そこで、日本が中国と決勝戦などで対戦する前に、日本を敗退させようとして、審判に日本不利の偏向判定をさせたり、上記の反日教育の「下地」を利用した反日ブーイングで日本代表チームにプレッシャーをかけようとしたりした。
が、そこはサッカー後進国・中国の悲しさである。アジア杯に参加した日本代表(A代表)には、98年や02年のW杯本大会や(中村俊輔のように)伊サッカーリーグ・セリエAなどでの、国際経験の豊富な選手が非常に多く、審判の「誤審」や観客のブーイングぐらいではビクともしないのだが、そうとは知らない、サッカーに無知な中国政府や共産党は、なんの役にも立たない反日ブーイングを煽り続けた。
が、ものには限度がある。
中国は80年代以降の「改革開放政策」によって、都市部、沿岸部を豊かにすることには成功したが、農村部、内陸部は貧しいまま放置され、両者の貧富の差は開く一方で、後者の不満は爆発寸前になっている。
共産党は残虐な一党独裁党であるため、国民は弾圧を恐れて共産党批判はしない。が、日本批判は、共産党によって奨励されているため、共産党政府に不満を抱く国民は自分たちの現状への不満を表す手段としてしばしば代わりにこれを用いる。このためアジア杯でも、この、絶対に弾圧される心配のない示威行動、すなわち「反日行動」は次第にエスカレートし、それはアジア杯の開催された重慶、済南、北京など各地に広がっていった。
やがて中国政府と共産党が、もはや自ら制御できないほどの、全国的な反日行動の盛り上がりに恐怖を感じたであろうことは想像に難くない。日本が予選L(リーグ)3試合と決勝T(トーナメント)の初戦(準々決勝)を重慶で戦っている間は、「重慶は、第二次大戦で日本の空爆を受けたので反日感情が強い」などという、50年以上前の、サッカーと無関係な史実をほじくり出して、自らを慰め、内外にもそう説明していた。
が、準決勝の開催された済南でも激しい反日行動が見られるにおよんで、ついに中国政府は反日行動を抑制する必要に迫られた。
準決勝の会場に、中国政府は大勢の警官を送り込み、取り締まりを強化した。
観客席には「釣魚島(日中が領有権を争っている尖閣諸島)は中国のもの」「日本製品を買うな」などの反日スローガンを書いた垂れ幕やTシャツを掲げた観客も現われ(産経新聞04年8月04日付朝刊3面「アジア杯サッカーブーイング問題 五輪控え中国政府も懸念」)、それらを中国の官憲が没収したり、そういう観客を退席させたりする光景が、アジア中にTVで生中継されるに至った。
この光景をTVで見ていて、筆者はふと思い付いた、
「もし、北京五輪開催前に、台湾が中国からの独立を宣言し、北京五輪の会場に台湾の独立を非難する垂れ幕を掲げた観客が現われたら、中国政府はどうするのか」と。
●台湾独立の好機●
台湾は、日本の植民地支配が終わった第二次大戦後、中国大陸で共産党との内戦に敗れた中国国民党の敗残兵によって占領され、勝手に(台湾共和国でなく)中華民国の国名を押し付けられた国だ。
中国共産党の軍隊・人民解放軍(現在の中国軍)は一度も台湾に上陸したことはないので、その意味で台湾は戦後半世紀一貫して中国本土から独立していたのは間違いない。
が、たまたま国民党が「中華民国」などと実態に反する、中国と紛らわしい国名を名乗ったために、大陸の中国政府は「あれは中国の一部」と言わざるをえなかった、というだけのことだ。
だから、べつに台湾が独立宣言をしたところで、実質的に中国が失うものは何もない。
とはいえ、国内が多言語に別れていて、なんら統一性のない中国では、いままで政府や共産党が「中国の一部」と主張して来た地域を「きょうから独立国」と認めることには、恐怖がつきまとう。政府としては、同じような独立宣言(とまでは行かないにしても、「反中央」の傾向)が中国の他の地域に飛び火して、統制が取れなくなることが怖い。中国4000年の歴史は分裂と再統一のくり返しであり、通算すると分裂している期間のほうが長いので、中国政府は常に国家分裂の恐怖におびえている(だから、中華民国という言葉を使っただけで罰せられる「国家分裂罪」という罪が中国刑法には存在する)。
中国政府は「反日」とともに、「愛国」(反分裂)も奨励し、尖閣諸島や台湾は中国の領土だ、と国民を教育をし指導している。
上記の「釣魚島は中国のもの」という垂れ幕もそうした政府(共産党)の方針を反映したものだ。
では、08年の北京五輪直前に台湾が独立を宣言したら、どうなるだろう?
04年の台湾総統選では、(国民党ではなく)台湾独立派政党・民進党の、陳水扁総統が再選された。彼の任期は08年5月まであるから、理論上はこの間はいつでも台湾の独立宣言はありうる。
そして、この独立宣言は、日本など諸外国の支持を受ける可能性が十分にある。なぜなら、承認しても、中国への主権の侵害(決定的な侮辱)にはならないからだ。
チベットのように(ムリヤリ侵略されて中国に併合された歴史はあるにせよ、とにかく)現在中国の支配下にある地域が分離独立するのを外国が承認する、というのは中国にとって屈辱であり、国際法上も主権侵害を主張できる。だから、中国と国交を結んでいる諸国には、中国に配慮して(チベットなどの)中国の一部が独立することは承認しないようにする「義理」が、いちおうある。
が、台湾は一度も中国の一部にはなっておらず、とっくに独立しているので、すでに独立しているものを独立している、と認めるだけなら、中国との外交関係にはなんら影響がないはずだ。
【日中平和友好条約には、「1つの中国」の原則が明記され、日本は中華民国(台湾)を国家とは認めず、中華人民共和国だけが「中国唯一の合法的政府」と認める、と書いてある。が、「台湾共和国を認めない」とはどこにも書いてない(中国は、台湾が中華民国の国名を捨てる可能性をうっかり想定せずに、日中条約を結ぶミスを犯した)ので、日本が独立宣言後の台湾共和国を承認しても、日中条約には違反しない。】
したがって、08年5月頃かそれ以前に、台湾が独立を宣言し、それを日本やフランスが承認するか、または承認に前向きな発言を各国政府高官がした、という状況で、中国が08年の北京五輪開催を迎える、という事態は十分現実にありそうなことだ。
もしそうなると、台湾や日本が出場する種目の会場には、「愛国的な」中国人観客が「台湾は中国のもの」「台湾独立反対」などと書いた垂れ幕を持ち込むことが十分に考えられる。
そうなれば、会場が混乱する恐れもあるし、タテマエ上政治と関係ない、平和と友好の祭典であるはずの五輪の雰囲気にも水を差す。だから、中国政府としては警察力を動員し、そのような垂れ幕を持った観客が入場しないよう、入り口で観客全員に手荷物検査を実施し、みつけ次第没収するだろう。
が、素人の一般客ではなく、台湾や米国の諜報機関の工作員、つまり玄人がそういう垂れ幕を持ち込んだら、どうなるだろう。北京の紫禁城などで手荷物検査を経験したことのある人ならおわかりだろうが、元々中国の官憲のそうした能力には限界があるので、玄人が本気で持ち込もうとすれば間違いなく持ち込めるはずだ。
そして持ち込んだら、その工作員は愛国的中国人の振りをして、観客席でその垂れ幕を広げるだろう。
そうなると、当然、アジア杯の経験から見ても、中国の官憲はその垂れ幕を没収せざるをえない。
そしてその没収の光景は、五輪を中継するTVカメラによって、世界中に生中継されるのだ。すると、それを見た全世界の人々はその瞬間に「あ、中国政府当局は台湾の独立を容認したんだ」と理解するだろう。
五輪なので、世界中が見ているので、ごまかしはきかない。垂れ幕を没収した瞬間に「独立容認」になってしまう……つまり中国政府は、北京五輪前に台湾に独立宣言をされると、非常に苦しい立場に追い込まれるのだ。
やはり、台湾にとっては、08年の北京五輪は、自身の中国からの独立を中国に承認させる千載一遇の好機なのだ。
それなら、中国は08年北京五輪に台湾を参加させないようにしてはどうか?
台湾が参加しなければ、警備員が垂れ幕の没収で神経をすり減らす懸念も半減するので、中国政府・警備当局にとっては望ましいことだ。
が、五輪の性質上、それはできない。
たしかに過去の五輪では、特定の参加国が、開催国に向かって「行かない」とボイコットした例はある。典型的なのは、ソ連のアフガン侵攻に抗議して、日米中などがソ連で開催された80年のモスクワ五輪をボイコットしたことだ。
しかし、開催国には自ら他国をボイコット(不参加)をさせる権利はない。
台湾が「行きたい」と言ったら、それに対して「来るな」という権利は、中国にはない。
開催国には、世界中のスポーツ選手とお客様をお迎えし、五輪でよい思い出を作って頂けるように歓迎しおもてなしする義務があるのだ。五輪とは本来そういうものであって、べつに開催国の利益のために開催するというタテマエはないので、いかなる開催国も特定の選手団に向かって「来るな」という権利はない。
しかも、台湾の参加資格と、台湾が独立国であるかどうかという議論とはまったく関係がない。
五輪では、国家ではなく、地域のNOC(国内五輪委員会)に選手団を編成し派遣する権利が与えられているので、国家ではない米国自治領プエルトリコや、中国領香港も、それぞれ米国や中国から独立した選手団を編成して参加することができる。選手団の旗は、国家でないプエルトリコの場合は当然国旗ではない。IOC(国際五輪委員会)が認定したNOC旗である(もちろん、米国選手団の旗は米国国旗という名のNOC旗である)。
現在、台湾選手団の名称は、中国に遠慮して「中国台北」、そのNOC旗は「五輪旗」となっているが、台湾側がこれをIOCとの協議なしに勝手に「台湾」「台湾国旗」に変更するなどのルール違反をしない限り、台湾が北京五輪から追放されるべき理由はない。
おそらく台湾は、独立宣言後も、名称や旗を変えないだろう。そうすることで、中国側に台湾追放の口実を与えず、とにかく独立宣言後の北京五輪に堂々と選手団を派遣し、その選手団を「五輪開催国の義務」を利用して中国当局に護衛させ、ムリヤリ「熱烈歓迎」させることで、「独立が中国に容認された」という姿を演出し、既成事実化しようとするだろう。
●軍事攻撃も不可能●
そこで、中国政府は最近しきりに、北京五輪前に台湾が独立宣言したら、五輪を放棄して軍事攻撃すると内外に警告している。03年11月、中国共産党は「台湾が独立を宣言した場合は直ちに開戦し、北京五輪放棄を含め国際的孤立もいとわない」と決定した(産経新聞04年2月15日付朝刊5面「緯度経度」)。
「いとわない」のは中国の勝手だが、実はこの決定は「ただの強がり」であって、意味がない。各国の軍関係者ならみな知っていることだが、財政的に中国より豊かで、高価な近代兵器を多数保有する台湾のほうが、中国より軍事的には強いからだ。
もちろん、中国は(命中率は低いにせよ)弾道ミサイルと核兵器を保有しているので、独立宣言した台湾を攻撃して制裁することはできる。が、それはただの「大虐殺」であって、占領ではない。「台湾は中国の一部だ」と中国が言い張るなら、上陸用舟艇や海兵隊、空挺部隊を総動員してでも占領する必要があるが、そんなぜいたくな軍備は中国にはない(中国に可能な軍事行動は、せいぜい海上封鎖のみ)。
中国が「大虐殺」をすれば、04年現在米国がイラク占領統治のもたつきで受けている国際的非難をはるかに上回る非難を全世界から浴び、中国には台湾を支配する正統性がないことが国際的に確認され、かえって台湾の独立を確定させることになろう。
結局、中国が悪いのだ。中国が、台湾独立問題が未解決のまま北京五輪を招致する、というミスを犯した時点で、北京五輪を利用して台湾が独立宣言をするのは、不可避の運命となっていたのだ(この問題の精密な政治・軍事シミュレレーションは拙著『龍の仮面(ペルソナ)』を参照)。
●ボクの女に手を出すな●
中国は一度も支配したことのない台湾を自国の領土と言い張り、「台湾(独立問題)への外国の干渉を許さない」と諸外国をにらみつけて来た。これは、もてない男が第三者の前で、一度も結婚も同棲も交際もしたことのない女性を指差して「ボクの女に手を出すな」と言っているようなもので、まるでストーカーの論理だ。
こんな、くだらない中国の見栄に付き合う義務は、世界中のいかなる国にもない。
一刻も早くばかげたストーカー行為に気付いて横恋慕をあきらめたほうが、中国自身のためにもなるので、世界各国は北京五輪を機に、台湾を独立国と認めることが中国にとってなんの損にもならないことを力ずくで中国政府に納得させてしまったほうがよい。
この件に関して、各国政府は、中国政府と協議したり、中国政府を説得したりする必要は一切ない。ただ、強引に押し切ればいいのである。なぜなら元々独立してるものをただ「独立してる」と認めるだけで、中国には「見栄」以外に失うものが何もないからである。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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