「2名枠」の悲劇

・二岡と井端

 

〜シリーズ

「アテネ五輪」

(4d)

(Aug. 25, 2004)

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■2名枠の悲劇〜シリーズ「アテネ五輪」(4d)■

アテネ五輪本番の野球日本代表は「12球団各2名」の制約のもとに選ばれたため、長嶋茂雄監督が高く買っていた二岡智宏(巨人)と井端弘和(中日)という2人の「万能内野手」が不在。彼らがいればセフティバントや走塁で(準決勝で対戦した豪州の)好投手を攻略でき、延長戦にも対応できたのに(五輪にはホームランバッターは無用)。

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■2名枠の悲劇〜シリーズ「アテネ五輪」(4d)■

【臨時増刊「日中 vs. 韓国〜シリーズ『アテネ五輪(4c)』」は → こちら

【前回「長嶋JAPANと山本JAPAN〜シリーズ『アテネ五輪(4)』」は → こちら

 

04年8月24日、アテネ五輪野球の準決勝で、日本は豪州に「1-0」で惜敗し、金メダルが取れないことが決まった。 試合終了の前、七回あたりから、日本打線が何度も好機をつぶしてなかなか得点できないことに業を煮やした筆者は「これだけ苦戦するということは、勝ち負けにかかわらず、長嶋JAPAN・日本代表選手24名の人選に誤りがあったのではないか」と考え始めた。

そこで、すでに小誌(04年8月5日「最強と一流の違い」)で「選ぶべきでない」と結論付けた、古田敦也捕手(ヤクルト)や松中信彦一塁手(ダイエー)がこの豪州戦のベンチにいたらどうだろう、とあらためて考えてみた。

 

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●やはり古田は無用●

が、もう一度(こんどは実戦に即して)考えてみても、やはりこの2人は要らない、という結論になった。

理由は、彼らのような1つの守備位置しか守れない選手は、代打に出せないからだ。

 

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たとえば、この豪州戦の八回裏二死一、三塁の好機に、日本は先発メンバー(スタメン)の左打者、藤本敦士二塁手(阪神)をそのまま打席に送り、豪州の抑えの左腕投手J・ウィリアムス(阪神)に「左対左」の不利を突かれて討ち取られたが、もしこのケースで古田のような右の強打者がベンチにいれば、もちろん代打に出せる。

 

が、たとえ代打古田にヒットが出て同点になっても、古田は捕手しかできないので、古田に代わってだれか内野手を守備につかせる(あるいは、古田を捕手にして、スタメン捕手を内野手と交代させる)必要が出て来る。つまり一度に2人も控え選手を使ってしまうことになるのだ。

 

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五輪では1チームをたった24選手で構成しなければならない。日本代表チームの場合、24名のうち11名を投手にしたので、野手は13名のみとなった。その13名のうち9名がスタメンで出ると、控えはたったの4人になる。もしその4人うちの2人を一度に使ったあと、九回を終わって同点で、延長にはいった場合(延長は回数無制限なので)そのあと延々と、控えの野手が2人しかいない状態で戦うことになるかもしれない(もし、39歳の古田が捕手であれば、40℃近い高温のグランドで延々とデーゲームの延長戦を戦った場合、途中でバテるのは目に見えている)。

 

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【捕手2名のうち1名を古田にした場合、もし五輪開幕前に若いほうの捕手が大きな怪我をすると、予選L(リーグ)7試合のうち5試合がデーゲームという過酷な日程を、39歳の捕手1人で乗り切らなければならない。これでは、古田が五輪の途中でつぶれるのは確実で、この意味でも古田をメンバーにするという危険な選択肢は、日本代表には元々ありえない。】

 

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そうなると、後攻の日本に「一打サヨナラ」の好機が来ても、うっかり代走も出せない。

下手に代走や代打を出してサヨナラ勝ちできなかった場合に、そのあとの守備で、「内野手が足りなくて、代わりに投手が内野を守って、セフティバントされてエラー」などということになったら目もあてられない。

 

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●万能内野手●

となると、五輪で、勝負どころで代打に出せる選手の条件が絞られて来る。

それは、内野手として二塁、三塁、遊撃などの難しい守備位置を複数守る能力があり、かつ代走が必要ないほど足が速い選手……いわば「万能内野手」ということになる。

 

03年11月に行われた、アジア野球選手権(兼アテネ五輪アジア地区予選)では、日本五輪代表の長嶋茂雄監督は、この「万能内野手」として、二岡智宏遊撃手(巨人)と井端弘和遊撃手(中日)を選び、二岡はスタメンの三塁手で、井端は代打で起用した。この2人がいれば、五輪本番準決勝の豪州戦は、かなり違った展開になっただろう。

 

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●日本専用投手●

アテネ五輪本番予選Lの台湾戦、準決勝の豪州戦で、いずれも日本は苦戦し、なかなか得点できなかった。

理由は、両チームとも、米大リーグ傘下のマイナーリーグ(2A、3A)で活躍する伸び盛りの投手を温存しておいて、日本戦(だけ)に照準を合わせて調整して先発させたことにある。

 

いくら伸び盛りといっても、しょせんマイナーリーグレベルなので、福留孝介(中日)、城島健児(ダイエー)、中村紀洋(近鉄)のような日本の強打者なら、2〜3試合、8〜9打席も対戦すれば球筋を覚え、打ち崩すことができる。

 

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が、五輪ではほとんど1試合、3〜4打席しか対戦しない。そうなると、2Aクラスのちょっといい投手なら、日本の強打者を1試合に限って抑えることは十分可能だ。そして、その程度の投手は、台湾、豪州は言うにおよばずオランダにもギリシャにも1か国につき1人ぐらいはいるので、「格下」の野球後進国が相手でも、日本が簡単に勝てるとは限らない、ということになる(現にギリシャ戦の序盤は苦戦し、五回までは「1-0」で、日本は1点しかリードできなかった)。

 

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●二岡と井端●

こういう「1試合だけの好投手」にあたったら、日本の打者はどうすればいいのか……豪州との準決勝で、福留や城島がセフティバントを試みたことで明らかなように、足が速くて小細工のできる打者を中心に攻めるべきなのだ。

 

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準決勝の豪州戦に、もし二岡がいれば、(足が遅くてセフティバントができず、本塁打が打てるといってもいつそれが出るかわからない、中村に代わって)三塁手としてスタメンで出て、何度もセフティバントを試みて、豪州の先発投手オクスプリングをゆさぶり、投球のリズムを狂わせようとしていただろう。また、もし井端がいれば、八回二死一、三塁の場面で藤本に代わって代打で出て来て、セフティバントを決めて同点にしたかもしれないし、何より、そのあとそのまま二塁の守備位置に付いて、無難にこなしただろう(から、同点で延長になっても守備の心配はせずに済んだはずだ)。

 

準決勝の豪州戦は、長嶋が二岡と井端を高く買っていた理由を、あらためて端的に示した。

 

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03年の五輪アジア地区予選では、長嶋は12球団の全選手のなかから自由に代表選手を選べたので、二岡と井端をメンバーに入れた。が、04年のアテネ五輪本番では、「プロ野球のペナントレース中に行われるから、12球団で公平を期するため」という理由で「12球団2名ずつ」の枠が設定されてしまった。このため、上原浩治(巨人)、高橋由伸(巨人)、岩瀬仁紀(中日)、福留孝介(中日)といった他の主力選手を選ぶ都合上、二岡、井端は「枠」からはみ出し、代わりの内野手として、中村、金子誠(日本ハム)、藤本らが選ばれた。

 

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中村や金子の守備力、打力、走力は総合的に見れば、そして「2名枠」という制約の中で考えれば、それなりに価値のある戦力と言えるだろう。

が、日本のプロ野球界が長嶋JAPANに対して「何がなんでも金メダルを取って来い」と(口にこそ出さないまでも、暗に)要求するのであれば……結果はやってみなければわからないが……やはり「2名枠」などは撤廃して、長嶋(や中畑清・監督代行)に、二岡や井端を自由に選ばせてやるべきだったのではないか。

 

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【04年7月に東京ドームで行われたキューバ五輪代表との壮行試合で、中畑は、本来遊撃手の金子を三塁手に起用し、「二岡の再来」を期待した。03年の五輪アジア地区予選で、長嶋が本来遊撃手の二岡を三塁手に起用して「超攻撃的」に変貌させ、攻守ともに大活躍させたからだ……が、壮行試合の「金子三塁手」は攻守ともに精彩を欠き、結局、中畑は五輪本番での金子のスタメン起用を断念せざるをえなくなり、二岡の抜けた穴は埋まらなかった。】

 

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●北京五輪への教訓●

五輪では、どこの国も金メダルをねらって国を挙げて挑んで来る。ライバル国は、一生に一回しか日本の打者に投げないような、「日本キラー」の秘密兵器を用意して来る。そういう相手には「全員中村」の強力打線を用意して臨んでも勝てないのであり、必要なのは「全員二岡」の機動力野球なのだ。そうなると二岡タイプの選手は1人でも多く代表メンバーに入れる必要があり、代表監督には、なんの制約もなく自由に選手を選ばせなければならない。「ペナントレース中だから1球団2名ずつ」などと、金メダルと無関係な都合を押し付けられて勝てるほど、五輪は甘くない。

 

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長嶋は悪くない。中畑も悪くない。

もし中畑が03年アジア地区予選のメンバーを(米大リーグ・ニューヨーク・メッツに入団して出場不可能になった松井稼頭央を除いて)そのままアテネに連れて行ったなら、金メダルを取れた可能性ははるかに高かったはずだ。

日本プロ野球界が五輪を軽視して「2名枠」を設定したこと、または、ペナントレースを五輪期間中に中断しなかったことが悪いのだ。

 

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【マスコミは長嶋JAPANを「ドリームチーム」と囃し立てた。が、「2名枠」のもとで選ばれたチームはどう考えても真のドリームチーム(ベストメンバー)ではない。】

 

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もちろん「2名枠」をはずしたからといって、また二岡と井端を選んだからといって、金メダルが取れる保証はない。が、「2名枠」があると、かなりいい選手をそろえても金メダルは取りにくい、ということが今回証明されたのだ。これは議論の余地のない事実だ。

 

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【もし今回、たまたま幸運にも日本が金メダルを取っていたら、「2名枠があっても勝てたから」という理由で、プロ野球界の愚かな経営者たちはまた、08年北京五輪本番中でもペナントレースを中断せず、性懲りもなく「2名枠」を設定するだろう。そうなると、北京では金メダルどころか銅メダルも取れない屈辱を味わうかもしれない。だから、今回「幸運」がなかったことは、長い目で見れば、幸いかもしれない。】

 

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もし日本球界の首脳たちが、アテネ五輪で金メダルを取れなかったことの責任を中畑1人に押し付け、自ら真の反省をしないなら、日本代表は08年北京五輪でも金メダルを取れない、と筆者はいまから断言しておく。

 

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 (敬称略)

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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