バントは侮辱?

 

〜シリーズ

「アテネ五輪」

(4b)

(Aug. 22, 2004)

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■バントは侮辱?〜シリーズ「アテネ五輪」(4b)■
アテネ五輪野球・日本代表の中畑清監督代行はプロ野球での監督経験がないので、その采配は多くのマスコミから疑問を呈され、あるいは批判されている。が、マスコミ関係者が疑問を抱く原因は、実は、中畑の采配そのものではなく、マスコミ関係者の、五輪のルールに対する無知にある。

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■バントは侮辱?〜シリーズ「アテネ五輪」(4b)■

【臨時増刊「豪州戦は捨てゲーム〜シリーズ『アテネ五輪(3e)』」は → こちら

【前回「長嶋JAPANと山本JAPAN〜シリーズ『アテネ五輪(4)』」は → こちら

 

04年8月18日のアテネ五輪野球・本番予選L(リーグ)「日本対豪州」戦のTV中継で解説していた星野仙一・前阪神監督は、日本が大量点をリードされた終盤「まだ五輪で一度も投げていない小林雅英(ロッテ)を(敗戦処理で)登板させるべき」と主張した。五輪独特の雰囲気に慣らしておいたほうが、1点差などの厳しい局面でいきなりクローザー(抑えのエース)として登板するより、いいだろう、というのである。

 

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が、中畑清・五輪代表監督代行(ヘッド兼打撃コーチ)はそうはせず、小林の五輪本番での初登板は、20日のカナダ戦の九回まで持ち越しとなった(が、この初登板で「五輪本番に不慣れな」小林は、いきなり打ち込まれ1点失った)。

 

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実はこのカナダ戦、日本打線と先発投手・和田毅(ダイエー)の活躍で、七回を終わって「8-0」の大差が付いていた。五輪のルールでは、七回以降10点差以上ならコールドゲームとなり、その時点で試合は終わってしまう。しかも、八回に日本は1点取ってなお二死三塁の好機を迎えたので、そこで1本ヒットが出れば、コールドゲームとなり、九回に予定されていた小林の登板は先送りされたかもしれなかった。

 

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結局、八回の日本の攻撃はたまたま1点に終わり、点差は9点に収まったので、コールドゲームにはならず、小林は九回に登板の機会を得た…………と、中畑監督代行は、幸運に助けられただけで、その采配には疑問が残る、と当時星野は思ったようだ。

 

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中畑はプロ野球での監督経験がないので、今回が事実上、監督として初めての采配である。そのうえ、「明るい」キャラクターがわざわいして「何も考えていない」ように見えるらしく、その采配は、上記の星野に限らず多くのマスコミから疑問を呈され、あるいは批判されている(たとえば、夕刊フジWeb版04年8月20日「日本代表監督、城島?」)。

 

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が、マスコミ関係者が疑問を抱く原因は、実は、中畑の采配そのものではなく、マスコミ関係者の、五輪のルールに対する無知にある。

 

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●失点率の戦い●

五輪野球では、8チーム総当たりの予選Lを(引き分けなし、延長無制限で)行い、その勝敗で順位を決めて上位4チームが決勝T(トーナメント)に進み、「1位対4位」「2位対3位」の準決勝を経て、それに勝ち残ったチーム同士の決勝戦で勝ったチームが優勝する。

 

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ここで重要なのは、予選Lの順位の決め方だ。それは、

 

#1:勝敗で2チーム以上が並んだ場合は、直接対決で勝ったほうを上

#2:直接対決でも(3チームが互いに1勝1敗の三つどもえで)並んだ場合は、失点率の低いほうを上

 

とする、という、およそプロ野球のペナントレースや日本シリーズとは根本的に異なる、五輪独特のものだ(「失点率」とは、総失点を実際に守備を行った回数で割った値)。

 

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18日の豪州戦の時点で、日本には「最悪の事態」として、おもに2つのケースが想定された。1つは、

 

(1)カナダ、キューバ、日本がともに6勝1敗(直接対決は1勝1敗の「三つどもえ」)で並ぶが、失点率で「カナダ1位、キューバ2位、日本3位」となる場合、

 

であり、もう1つは、

 

(2)キューバが6勝1敗(か5勝2敗)で首位になり、カナダ、豪州、日本がともに5勝2敗(か4勝3敗)(直接対決は1勝1敗の「三つどもえ」)で並ぶが、失点率で「カナダ2位、豪州3位、日本4位」となる場合、

 

である。

 

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いずれの場合も、日本は決勝Tの初戦、準決勝でキューバと対戦することになる。

準決勝で強豪キューバと対戦すると、日本はそこで投手力を消耗することが懸念され、たとえ勝っても、決勝戦で不利になる恐れがある。そうなると、優勝できないかもしれない。

 

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したがって日本が、確実に優勝(金メダル)をねらうためには、常に「失点率」を意識して戦う必要があった。具体的には、予選Lの勝敗で並ぶ可能性のある、キューバ、カナダ(および、可能性はやや低いが、豪州)との直接対決では、日本は1点でも多く相手に失点させ(つまり、1点でも多く日本が得点し)、かつ、日本自身はなるべく失点しないように、投手を中心とする守りを固めなければならなかったのだ。

 

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となると当然、キューバ、カナダ(および豪州)との直接対決では、投手の「敗戦処理」登板などありえない。プロ野球のペナントレースや日本シリーズなら、1点差で負けようと10点差で負けようと変わりがないから、「『敗戦処理』で不慣れな投手を投げさせてさらに失点しても(どうせ負け試合なので)かまわない」という考えが成り立つが、五輪ではそうは行かない。

 

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●バントは侮辱?●

北米のプロ野球、大リーグの世界では「大差が付いた時点でのバントや盗塁は、相手を侮辱する(セコい)作戦」とみなされ、しばしば乱闘などの原因にもなるが、これは五輪にはあてはまらない。20日のカナダ戦で、中畑は8点差以上開いた終盤、自軍に送りバントを命じたが、当然、カナダ側はこれを侮辱とは考えず、乱闘にもならなかった。

 

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カナダ五輪代表には大リーグ経験者もいるが、彼らとて五輪代表のユニフォームを着た時点で五輪のルールを聞かされているので、「五輪では、8点差で負けるのと10点差で負けるのとは違う」と自覚しているはずだ。五輪には、ほかに「七回以降10点差以上ならコールドゲーム(となり、投手陣を休ませることができる)」というルールもあるので、「バントは侮辱」などという考えがはいり込む余地はない。

 

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●マスコミの無知●

中畑を含む各国チームの監督、選手はみな、上記のような五輪独特のルールを熟知したうえで戦っている。が、マスコミ関係者はそうではないので、ついついペナントレースの「常識」を勝手に五輪にあてはめて、「中畑の采配は非常識」などと軽々しく判断してしまうようだ(自分の不勉強を棚にあげて、ケシカラン)。

 

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このままでは、日本が優勝しても、(豪州戦を大胆にも「捨てゲーム」にするなど果敢な采配を見せた)最大の功労者である中畑の功績が、正当に評価されない恐れがある(燕雀いずくんぞ興国の志を知らんや)。

 

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気の毒に。

(>_<;)

 

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 (敬称略)

 

 

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