ギリシャ戦●なら?

 

〜シリーズ

「アテネ五輪」

(4e)

(Aug. 26-30, 2004)

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■ギリシャ戦●なら?〜シリーズ「アテネ五輪」(4e)■
04年アテネ五輪野球・本番の準決勝で、日本は豪州に完封負けし、金メダルが取れないことが決まった。この結果を受けて、「日本は予選L(リーグ)最終戦のギリシャ戦にわざと負けておけば(準決勝で豪州にあたらなかったので)よかったのではないか」という声が一部のマスコミから上がっている。が、それは「失点率」など五輪独特のルールを知らないことによる誤解だ。

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■ギリシャ戦に負けておけば?〜シリーズ「アテネ五輪」(4e)■

【臨時増刊「日中 vs. 韓国〜シリーズ『アテネ五輪(4d)』」は → こちら

【前回「長嶋JAPANと山本JAPAN〜シリーズ『アテネ五輪(4)』」は → こちら

 

04年8月24日、アテネ五輪野球・本番の決勝T(トーナメント)初戦の準決勝で、日本は豪州に「1-0」で完封負けし、金メダルが取れないことが決まった。

この結果を受けて、「日本は予選L(リーグ)最終戦のギリシャ戦を捨てゲームにして、わざと負けておけば(準決勝で豪州にあたらなかったので)よかったのではないか(決勝戦に進んで最低でも銀メダルが取れたのではないか)」という声が一部のマスコミから上がっている(04年8月26日放送のフジテレビ『とくダネ!』)。

 

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「生半可な野球通やスポーツ記者よりはるかに野球をよく知っている」(小誌04年8月5日「最強と一流の違い」)と自負する筆者として、いちおう検討しておきたい。

 

もし上記の説が正しければ、野球日本代表の中畑清監督代行の重大な采配ミスということになる。

 

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予選Lの第6戦が終わった04年8月21日(現地時間)の時点で、決勝Tに進める上位4か国(4強)の勝敗は以下のようになっていた:

 

日 本 5勝1敗

キューバ 5勝1敗

カナダ 4勝2敗

豪 州 4勝2敗

 

22日は各国とも予選Lの最終戦(第7戦)が予定されており、4強の試合としては、まずデーゲームで「日本対ギリシャ」、そのあとのナイターでは2か所同時に「キューバ対イタリア」「カナダ対豪州」のカードが組まれていた。

 

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日本は22日のデーゲームでギリシャに勝って6勝1敗となり、予選L 1位通過を決めた(ナイターでキューバがイタリアに勝つと、日本とキューバは勝敗で並ぶが、その場合は直対決でキューバに勝っている日本が上になるので、日本が首位)。決勝Tは「1位対4位」「2位対3位」の組み合わせで準決勝を行うため、キューバよりも、予選Lで勝っている日本のほうがくみしやすいと判断した豪州は、22日のナイターのカナダ戦を捨てゲームにし、わざと負けて4勝3敗の4位になり、準決勝の相手に日本を選んだ

 

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そして、豪州は決勝T初戦用(あるいは日本用)に温存していたエース、オクスプリングと、抑えの左腕投手J・ウィリアムス(阪神)を投入して日本に勝ち、日本の決勝戦進出をはばんだのである。

 

「ギリシャ戦に負けておけばよかった」という議論が出て来るのは、日本は予選Lで豪州に負け、抑えのウィリアムスもほとんど打てなかったので、その時点で豪州を苦手と位置付け、あるいは、事前の情報収集によってオクスプリングがかなりの好投手であることをつかんでおいて、決勝Tにおける豪州との対戦を回避すべきではなかったか、という発想によるものだ。

 

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中畑以下、日本代表チームには、事前に4強の戦力を偵察し情報収集する義務があるので、上記のような判断をせよ、と中畑に要求するのは、あながち結果論とは言えない。

 

では、もし日本がデーゲームでわざとギリシャに負けていたら、どうなったか?…………ナイターで、4強の他の3チームの監督が相当に采配で悩んだだろう、ということは間違いないが、日本が有利になったという保証はまったくない。

 

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●4強、大混乱●

22日、日本がギリシャに負け(て5勝2敗になった)たあと、ナイターでキューバがイタリアに勝つという保証はない。 イタリアは最後の試合なので、有終の美を飾るために必死で来る可能性があり、逆にすでに決勝Tに進めることが決まっているキューバは捨てゲームにする可能性もあり、そうなるとキューバはイタリアに負けて、日本と並んで5勝2敗になる。

 

しかし、勝敗が等しいときは、直接対決で勝っているほうを上にする、というルールがあるので「日本1位、キューバ2位」である。

 

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このとき、同時にナイターを戦っている豪州は、非常に難しい判断を迫られる。

豪州は、日本と決勝T初戦で対戦して勝って「悪くても銀メダル」を確保したいので、日本が1位なら、それと対戦するためにカナダにはわざと負けて、4勝3敗で4位になったほうがいい。

 

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が、カナダと戦っている最中には、「キューバ対イタリア」の結果はわからないから、日本が1位になるかどうかもわからない。試合の途中経過で「キューバが主力選手を休ませている」「イタリアがリードしている」という情報があれば、豪州の監督は、カナダにはわざと負ける作戦に出るだろう。

 

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もし「キューバが勝ちそうだ」という情報がはいると、豪州は「2位の日本」と準決勝であたるために、カナダ戦に勝ちに行くだろう。

 

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キューバがイタリアに勝って1位になりそうな場合、豪州はカナダに勝ちさえすればいいのか、というと、ことはそう単純ではない。

 

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●三つ巴●

豪州はカナダに勝つと5勝2敗で日本と並ぶ。このとき、もしキューバが終盤イタリアに逆転されて負けると、キューバも5勝2敗になる。そうすると、勝敗では順位が決まらないので、直接対決で勝ったほうが上……というわけにもいかない。

 

予選Lでは、日本はキューバに勝ち、キューバは豪州に勝ち、豪州は日本に勝ち「三つ巴」の状態になっているので、直接対決の勝敗でも順位は決まらない。

 

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その場合は、五輪のルールにより「失点率」の少ないほうが上、ということになる。失点率は、総失点をじっさいに守備を行った回数で割った値だが、この計算は簡単ではない。豪州がカナダに何点失点して勝つのか、キューバがイタリアに何点失点して負けるのか、によって、日本、キューバ、豪州の順位は変わる(が、この間、日本はすでにデーゲームで予選Lの全試合を終えているので、打つ手がない)。

 

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この場合には、予選Lの順位はまったく、日本の預かり知らないところで決まる。

「キューバ1位、日本2位、豪州3位」となって、日本は準決勝で豪州のオクスプリングと対戦し、結局「完封負け」するかもしれない。あるいは「豪州1位、日本2位、キューバ3位」となって、日本は準決勝でキューバと対戦して負けたかもしれない(し、最悪のケースでは3位決定戦で豪州と対戦し、結局銅メダルも取れなかったかもしれない)。

 

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日本が決勝T初戦でキューバとも豪州ともあたりたくない、と願うことはすなわち、カナダと対戦したい、ということだ。が、そう都合よくえり好みできるわけではない。

 

日本がギリシャに負けてしまうと、ありとあらゆる複雑な選択肢が浮上し、4強の監督の頭は大混乱になる。日本が金メダルをねらう実力のないチームであれば、「混乱に乗じて番狂わせで上位進出をねらう」という策は理にかなっているが、予選Lでキューバやカナダに完勝している日本に、それはあてはまらない。

 

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それなら、ギリシャ戦に勝つことによって予選L首位を確保し、それによって決勝T初戦で苦手2チームのうち1つ、キューバとは絶対に対戦しないで済む状態を確保する、という作戦を選択したほうが、決勝戦で左腕投手に弱いキューバとあたることを想定して日本の左腕のエース・和田毅(ダイエー)を温存して来た、という投手ローテーションを考えても、戦いやすい…………このように判断した結果、中畑はギリシャ戦で勝ちに行ったのではあるまいか。

 

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●中畑采配への偏見●

「ギリシャ戦に負けておけば」などという批判が出て来るのは、中畑がプロ野球で監督経験がないため、スポーツ紙の記者などから指揮官として信頼されていない(軽蔑されている)ことに原因があるのではないか。おそらく、多くのマスコミ関係者が「中畑でなく長嶋茂雄監督が現地で指揮をとっていたら」と思ったことだろう。

 

が、スポーツ紙の記者たちは、日本のプロ野球のことはよく知っているものの、五輪独特のルール、とくに「失点率」のことはほとんど知らないのだ。だから「ギリシャ戦を捨てゲームにすれば、豪州の好投手と対戦せずに済んだ」などという判断が出て来るのだ。

 

【台湾は21日の日本戦で、延長一〇回裏「3-3」の同点で一死二、三塁という日本の攻撃に対して「次の打者(谷佳知)を敬遠して満塁にして守りやすく(併殺をとりやすく)する」という常識的な選択をすぐにはしなかった。これには、NHK-BS1のTV中継で解説をしていた星野仙一・前阪神監督が「こんな野球は知らない」と呆れた。が、台湾は予選Lの順位を1つでも上げようとして「失点率」を考慮し、サヨナラ満塁本塁打で4失点するのを恐れ「本塁打でも3点」を選ぼうとしたのかもしれない(結局、谷は四球で満塁になり、その後、小笠原道大のサヨナラ犠飛で「4-3」で日本が勝利)。もちろん、失点を減らす以前に勝ったほうがよいので、敬遠が正解だ。が、台湾の選手たちが試合前に監督から「失点率を考えろ」と言われていたとすれば、敬遠の前に迷ったのもうなずけることだ。】

 

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24日の準決勝で日本の谷佳知外野手(オリックス)が怪我をしたので、25日の3位決定戦には代わりに左の強打者である村松有人外野手(オリックス)が出て来るのではないか、と筆者は予想していた。

 

が、じっさいには、広島の「控え選手」である木村拓也が先発メンバーで出て来たので、筆者は一瞬「中畑は銅メダルを捨てて温情采配をしたのか」と疑った。木村は打力は弱いが、内外野すべての守備位置をこなせる「補欠要員」として五輪代表に選ばれ、準決勝まで8試合にほとんど出番がなく、一度も打席に立っていなかった。

 

6人兄弟の末っ子で、周囲の人が「みんないっしょに幸せにならないと自分も幸せでない」という感覚が強く(小誌「内野手出身の監督」)、無名選手の人権を守るために労働組合「プロ野球選手会」を創設して初代会長になった中畑は、スター選手でない木村に気配りし、まるで高校野球の監督が「最後に甲子園の打席を経験させてあげよう」と補欠選手を温情で起用するような感覚で、五輪最後の試合に(銅メダルを捨てて)木村に出番を作ってあげたのだ…………と思ったら、大間違いだった。

 

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なんと、木村はカナダ投手陣を打ち込み、4打数2安打2打点の大活躍で、日本の銅メダル獲得に堂々と貢献したのだ。 ということは、中畑は打撃コーチ(兼ヘッドコーチ)でもあるので、中畑が木村の打力とカナダの投手陣の相性を検討して起用した「名采配」ということになる。

 

恐れ入りました。

m(_ _)m

 

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中畑は駒沢大学4年だった75年の秋に、巨人にドラフトで指名されたあとの入団交渉の席で、巨人の交渉担当者から「何か(契約金の金額などの)条件はないか」と聞かれ、実に変わった答えをしたという:

 

「大学の同級生で、平田(薫)、二宮(至)っていう野手がいるが、この2人はアマチュア球界でイマイチ実績がないので、プロ野球に行けそうもない。だから、巨人でこの2人をとってくれ。そうしたら、オレも巨人にはいってやる。2人といっしょじゃなきゃ、はいらない」(野村克也・元阪神監督の週刊誌記事による)。

 

この、いかにも「末っ子らしい」前代未聞の条件を巨人は呑み、3人は巨人に入団した。主力選手に成長したのは中畑だけだったが、平田は右の代打の切り札として成長し、81年の日本シリーズでは、対戦相手の日本ハムの先発投手のうち3人が左腕投手だったため「左投手キラー」として大活躍し、巨人の優勝に貢献した(二宮も巨人の外野の守備要員として一軍に定着した)。

 

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中畑の「気配り」はただの温情ではなく、野球人としての「判断」なのだ。

 

 (敬称略)

 

 

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