本命ソフトバンク
〜シリーズ
「球界再編」
(4)
■本命ソフトバンク〜シリーズ「球界再編」(4)■
04年9月現在「いまから2年以内に、新しく、プロ野球球団のオーナーになる確率」がいちばん高い経営者は、ライブドアの堀江貴文社長よりもむしろ、ソフトバンクの孫正義社長だ。
■本命ソフトバンク〜シリーズ「球界再編」(4)■
【前回「2008 台湾独立容認〜シリーズ『アテネ五輪』(5)」は → こちら】
04年9月現在、既存球団の買収か新球団設立かはともかく「いまから2年以内に、新たにプロ野球界に参入して球団オーナーになる確率」がいちばん高い実業家は、ライブドアの堀江貴文社長よりもむしろ、ソフトバンクの孫正義社長だ、と筆者は考える。その理由は(2人が共謀しているかどうかはともかく)堀江の行動が、孫の球界参入を容易にする効果を持っているからだ。
●ヤフーBB球場●
ソフトバンク(グループ)は03年、関連企業(ヤフーなど)を使って、プロ野球パ・リーグのオリックス・ブルーウェーブ(BW)球団の本拠地球場、グリーンスタジアム神戸の命名権を2年間2億円で買い取り、同球場を「ヤフーBBスタジアム」と改名させた。同球場でのプロ野球の試合は年間約70試合あり、試合のたびにマスコミで「ヤフーBB球場のオリックス対西武戦は…」などと報じられる。この宣伝効果は絶大で、いまやパソコンを持たない、ヤフーやソフトバンクのサービスをまったく利用しない人でも「ヤフーBB」の名前は知っている。
ソフトバンクが自らの企業イメージ、ブランド力を高める手段としてプロ野球に関心を持っていることは間違いない(無名企業だったオリックスも、プロ野球の阪急ブレーブス(現BW)を買収したことで一気に知名度が上がり、宮内義彦オリックス本社会長兼球団オーナーは、行革推進本部(規制改革委)など政府の各種諮問機関の常連委員になったほどだ)。が、この命名権契約は05年3月31日で切れる。そのあとどうするのか?
いちばんいいのは、球場命名権ではなく、球団を買ってしまうことだ。オリックスは、大スターのイチローを擁し日本シリーズで優勝した96年ですら赤字であり、イチローが米大リーグ入りした01年以降、球団の成績と観客動員の不振は深刻だ。オリックスが近鉄と球団合併を進めているのも(04年8月27日合併契約締結)すでに球団経営に「疲れている」からで、潤沢な資金を持つソフトバンクがBWを買収してくれれば、複雑な手続きも要らないので「渡りに船」のはずだ。宮内と孫はかつて、あおぞら銀行(旧日債銀)を共同経営した仲でもあり、両者間の球団売却交渉は容易に思える。
が、そうできないのは、球団を売る側(オリックス)買う側(ソフトバンク)双方にとって、重大な障壁があるからだ。
●売る側のメンツ●
オリックスと同様、近鉄も、恒常的に赤字の球団経営に嫌気が差している。近鉄はオリックスと「合併」すると言いながら、合併後の球団での出資比率はわずか2割であり(神戸新聞Web版04年8月28日)事実上の「撤退」なのは間違いない。それなら、合併だの球界再編(1リーグ化)だのと生意気なことは言わず、球団を買いたい企業(ライブドア)にさっさと売って撤退すればよさそうなものだ。
が、そうしないのは、球団を「買った側」(ライブドア)に比べて「売った側」(近鉄)が、あまりにもみじめな状況に陥る、という恐怖心があるからだ。
かつて78年、福岡の平和台球場を本拠地とするクラウンライター・ライオンズが、西武グループに買収され、堤義明オーナーのもと西武ライオンズが誕生した。
ライオンズは、昔は西鉄ライオンズとして黄金時代を築いたこともあったが、その後身売りされ、岸信介元首相の秘書だった中村長芳が個人でオーナーを務め、球団名(命名権?)を他の企業に売って(貸して)経営資金を賄う異色の球団だった(このため73年「太平洋クラブ」78年「クラウンライター」と球団名が頻繁に変わった)。
中村は、堤に球団を売却した際、本拠地球場などの条件を一切付けなかった。そこで堤は79年から本拠地を、当時観客の少なかった平和台から、自分が建てた所沢の西武球場に移した。
そして、西武ライオンズの黄金時代が始まった。
豊富な資金力でスター選手を集め、82〜83年には広岡達朗監督を擁して日本シリーズで優勝し、全国の野球ファンの称賛を浴びた。
いや、その前からマスコミでは西武の黄金時代は始まっていた。
新球場、新ユニフォーム、新キャンプ地……どれも79年のペナントレース開幕前から話題だった。「クラウン時代は球団が貧しくて春季キャンプの食事は貧弱だったけど、西武が親会社になってからは、系列のプリンスホテルからコックが来て調理してくれるので、毎日御馳走」などということですら、毎晩スポーツニュースの話題となった。それはすなわち、新しい親会社とオーナーは一流だ、と日本中が認める、という抜群の宣伝効果をもたらした。
しかしそれは同時に、かつての親会社(クラウン)とオーナー(中村)を三流企業、無能者として日本中に印象付ける「マイナスの宣伝効果」を持っていた。毎晩TVで「西武球場が満員!」「西武の田淵がホームラン!!」「がんばれタブチくん!?」などとニュースが流れるたびに、クラウンや中村がみじめな思いをし「生き地獄」を味わったことは想像に難くない。
この種の屈辱の深刻さは、72年にフライヤーズ(現日本ハム・ファイターズ)を売却して球団経営から撤退した東映の例を見れば明らかだ。
東映は、球団を日本ハムに売った……わけではない。日本ハムのような有名企業に売って球団が再生されると、東映は日本ハムと比較され、日本中の野球ファンから無言の軽蔑を受けることになる。そこで、東映は日拓ホームという無名の企業に球団を売却した。この三流企業が73年、わずか1年保有しただけで球団を日本ハムに転売し、こんにちに至るのだが、間に日拓という奇妙な親会社をはさんでまで、東映は日本ハムと直接比較されることを嫌がったのだ。
88年、南海ホークスがダイエーに売却され、89年に本拠地が大阪球場から平和台(その後福岡ドーム)に移ったときは「関西新空港開港に伴う大阪の再開発で、大阪球場がなくなるから」という大義名分が語られたため、その後福岡でダイエー・ホークスが大成功したにもかかわらず、南海も「生き地獄」を免れた。
同じく88年、阪急がブレーブス(BW)をオリックスに売却したときは……おそらく(福岡から所沢に移転して大成功した西武ライオンズのようになってもらっては困る、という阪急側の希望で)本拠地を関西圏外に移さない、という密約があったのだろう……本拠地がほとんど変わらなかったため、オリックスも「阪神ファンばかり」という関西の土地柄に悩まされ、阪急同様の恒常的な赤字に苦しんだ。このため「阪急はオリックスよりアホや」という悪評が立つことは、こんにちまでなかった。
また、かつて大洋ホエールズを経営していた大洋漁業(現マルハ)は、球団名を「横浜大洋ホエールズ」「横浜ベイスターズ」と徐々に変え、出資比率も徐々に下げ、01年に球団の株式をTBSに売って「いつのまにか」撤退していたため、ファンの軽蔑を受けずに済んでいる。
このように、企業にとって球団は、買うより売るほうがはるかに難しいことは明らかだ。
たとえオリックスや近鉄が他の企業に球団を売る意思を持っていたとしても、「マイナスの宣伝効果」がこわくて「売りたくても売れない」という事情があると察せられる。
【買う側の「プラスの宣伝効果」がいかに巨大であるかは、ライブドアの堀江がまだ球団を買ってもいないうちから、「買いたい」と言っただけで、『朝まで生テレビ』から『アッコにおまかせ』に至るまで、あらゆるTV番組に露出するマスコミの寵児になったこと見れば、明らかだろう。したがってその反作用(マイナスの宣伝効果)も、同じぐらい巨大なのだ。】
オリックスや近鉄が、球団売却という単純な解決策をとらずに、合併だの再編だのと複雑な手続きをとろうとするのは、自分たちが新しい親会社と比較されてバカにされる事態を、何がなんでも回避したいから、にほかなるまい。
逆に言うと、合併後の新球団をオリックスがソフトバンクなどに売却する可能性はある、ということだ。マルハがTBSに球団を売ったときのように、少しずつ球団名や出資比率を変える方法などを使えば、オリックスも近鉄も新しい親会社と直接比較される事態は回避されるので、メンツの面から見て十分可能なはずだ。
【とくに、オリックスが合併後の新球団を短期間で手放すことを、いまから決めている疑いは濃厚だ。オリックスは、新人選手に法外な契約金を払う球界の悪弊にさからって、自身の少ない収入に見合うように選手の契約金も年俸も抑えて経営(支出)の健全化をめざしたが、「ドラフトの裏金」を潤沢に使う他球団に有望選手を根こそぎさらわれ、戦力が大幅に低下してBクラスの常連になった、という経緯がある(04年も9月1日現在最下位)。合併によってオリックスが近鉄を事実上吸収し、近鉄から中村紀洋などの年棒の高いスター選手を迎えると、たちまち人件費が高騰して財政が悪化するのは目に見えているので、2〜3年以内に「放り出す」可能性は高い。】
●買う側への障壁●
上記のように、既存球団の親会社の大半は、新しい親会社が参入して来て球団経営を成功させてもらっては困る、とホンネでは思っている。
既存球団の親会社は新聞、鉄道、食品など、今後飛躍的、世界的な発展をすることが望めない「横ばい」か「落ち目」の企業ばかりであり、彼らが最近急成長中のIT(情報技術)、消費者金融、パチンコなどの業界に嫉妬心を抱いていることは想像に難くない。もし、これらの新興企業が正面切って堂々と「プロ野球界に参入したい」と言ったら、どうなるか?……嫉妬深い既存球団側は、ありとあらゆる妨害工作をするだろう。
たとえば、まず既存球団側は野球協約を盾に「買い取る場合は30億円、新球団設立の場合は60億円の加盟料を払え」と迫るだろう。また、アコムやサミーなどの具体的な企業名が判明した時点で、既存球団は密室で談合し「サラ金やパチンコはガラが悪い」などの屁理屈をこねて「野球協約が定める、3/4以上の球団の賛成がなかった」として、新規参入を排除するだろう。あるいはまた「親会社は設立から25年以上経過していなければならない」などと特定の新興企業をねらい撃ちにしたルールを急遽野球協約に追加するかもしれない(ソフトバンクは04年現在、設立から23年、ライブドアは7年)。
いきなり手を挙げれば、必ずつぶされるのだ。
●露払い?●
ところが、球団を買いたい多くの企業にとっては好都合なことに、先にライブドアの堀江が手を挙げてくれた。
堀江は、合併によって事実上消滅する近鉄球団の再生や雇用不安に陥る選手たちの救済を大義名分として、近鉄に球団買い取りを申し出て、労働組合「プロ野球選手会」やファンの支持を得たが、近鉄には断られた。
その後04年8月19日、堀江は記者会見し、買い取りか新球団の設立によって日本プロ野球機構(NPB)に加盟したい、と表明した。世論の支持があるので、正式な加盟申請があれば、それに対して既存球団とNPB側は回答せざるをえない。
すると、(ソフトバンクでなく)ライブドアとNPBとの交渉過程で、たとえ既存球団側が新規参入を排除するにしても、買い取りや新規参入の条件が具体的に明らかになるはずだ。
「国会で独禁法違反の疑いが指摘されている加盟料をどうするのか」「ライブドアのような新興企業はダメなのか」「設立から何年経った企業ならいいのか」……タテマエ上、NPBは新規参入はぜんぶダメとは言えないので、ライブドアにはクリアできないことを見越して「設立から10年以上」などの条件を出すだろう。
そうなれば、それを見てソフトバンクなどの「本命企業」が手を挙げることができる。
曰く「その条件をわが社満たしています」「その条件で(あるいは、その条件を独禁法に合うように修正して)わが社に球団を買わせてほしい」「新球団を設立させてほしい」と。
こう言われれば、世論の手前、もうNPB側はそれを拒むことはできない。既存球団側は「ライブドアを露払いにして、うまくやったな」とほぞを噛むだろうが、あとの祭りだ。
この場合、ライブドアはただの「あて馬」になってしまうが、堀江は、孫の弟と東大の同窓であり、両者はかなり親密だという報道もあることから(『FLASH』04年7月27日号 p.12 「ライブドア堀江社長と孫正義兄弟 チョー親密な過去」)、元々堀江が孫の「別働隊」として動いていた可能性は否定できない。
●わざと貧乏くじ●
筆者が堀江を「別働隊」と疑う理由は、その損な新球団構想にある。
8月19日の会見で堀江は、わざわざ阪神ファンだらけで球団経営が難しいとわかり切っている大阪府(大阪ドーム)を本拠地にすると言い、また、合併後の球団が拾わなかった「プロテクト外」の選手(ほとんど二軍選手)を全員引き取る、と言っている(スポニチWeb版04年8月20日)。
これは、合併後の新球団をオリックスから買う新しい親会社(ソフトバンク)にとっては、誠に都合のいい構想だ。なぜなら、新しい親会社は自動的に大阪から押し出されて、合併後の球団(経営権は事実上オリックス単独)の同意さえあれば(オリックスの宮内は孫に同意するだろうから)、本拠地を神戸(ヤフーBB球場)や四国、仙台、新潟などから自由に選べるうえ、オリックス、近鉄両球団の一軍主力選手のみを保有し、二軍選手の面倒はほとんどみることなく、人件費を節約できるからだ。
堀江が上記のような「お人好し」の新球団構想を進めてくれるなら、合併後の新球団を買いたい企業はいくらでもある。その場合、買い手としてもっとも有利なのは、すでに球場命名権を買うという形で野球ビジネスで実績を作っているソフトバンクだ。
おそらく、ソフトバンクは球場命名権を買うと決めた時点で、将来の球団保有を視野に入れ、着々と布石を打って来たに相違ない。まもなく04〜06年頃それが実現する、ということを、宮内、堀江という、孫と親交のある2人の実業家の最近の動きは示しているのではなかろうか。
【ソフトバンクは04年12月から子会社の日本テレコムを使って、基本料金がNTTより安い固定電話サービス「おとくライン」を始める。11月までにソフトバンクの球界参入が決まれば、その後スポーツ紙は連日ソフトバンクの記事で埋め尽くされ巨大な宣伝効果が生じるので、通話料金でなく基本料金というNTTの「本丸」攻略は一気に進む。】
堀江は、記者会見でスーツやネクタイを着用せず、故意に非礼な「生意気な若造」の態度をとることで、既存球団経営陣の神経を逆撫でして来た。だから、堀江のあとから、孫のような年配の、大企業の経営者がちゃんとネクタイを締めて出て来れば、嫉妬深い、石頭の近鉄オーナーらも「堀江よりはマシだ」と、一定の好感を抱くことは間違いない。
つまり、頼まれてやっているかどうかは別にして、現在の堀江の行動はすべて、あとから球界参入を表明する「本命企業」に有利な環境を提供していることになるのだ。
但し、それは堀江が「露払い」だけで終わることを意味しない。彼が二軍選手ばかりの「貧乏くじ球団」で球界に参入する可能性は十分ある。
広岡や野村克也・元阪神監督のような球界OB重鎮は、既存球団の経営者たちが勝手に球界を再編することに怒り、選手の気持ちのわかる意欲的な経営者の新規参入を待望しているはずだ。だから、彼らは孫や堀江と相思相愛で助言し合えるはずだ(し、すでにそうしているかもしれない)。
●救世主●
パ・リーグでオリックス・近鉄に続くもう1組の合併が成立しない場合、巨人とパが望んでいた「10球団1リーグ制」(または、巨人がパに移った「5対5」の2リーグ制)への移行は不可能となり、来季05年、パは5球団で存続し、セパ2リーグ制は計11球団で維持される(オリックス・近鉄の合併も東京地裁の仮処分で遅れそうだが、その場合も近鉄が「廃業」すれば、パは合法的に5球団になる。小誌「●特別委員会」を参照)。
そうなるとパは球団数が奇数で、日程が変則になるので試合数が減り、5球団とも減収になり赤字が増す。
そこまで追い詰められた場合は、5球団のなかから「だれでもいいから新球団を作って『偶数』に戻してくれ」と悲鳴があがるだろうから、堀江も参入しやすくなる。
その5球団の場合(また、1組の合併も成立しない6球団の場合でも)リーグ再編による巨人戦のTV放送権料が得られず、各球団とも経営が苦しいままなので、(ダイエーと)なかなか合併できない「合併未遂」の球団(ロッテ)や、合併済みの新球団を、孫が買うのも容易になる。
3年後、NPBのなかに「ソフトバンク球団」がある、と筆者は予測する。球団総数や、1リーグ制か2リーグ制かは裁判次第だが、おそらく宮内はそれでもいいのだ。元祖「1リーグ派」の堤は、西武をロッテやダイエーや横浜と合併させてでも「リーグ再編で巨人戦」だろうが。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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