津波と日米中
〜アジアの盟主を
決めるスマトラ沖地震
■津波と日米中〜アジアの盟主を決めるスマトラ沖地震■
スマトラ沖地震によるインド洋大津波の被災各国への支援でいちばん力を発揮しそうなのは、日米、とくに両国の海軍力と経済力だ。が、中国はなんの役にも立たず、「アジアの盟主」たりえないことを示すだろう。
■津波と日米中〜アジアの盟主を決めるスマトラ沖地震■
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【前回「北朝鮮体制変革の損得〜シリーズ『日本人拉致事件』(5)」は → こちら】
04年12月26日、インドネシアのスマトラ島沖の海底でマグニチュード9.0の巨大地震が起き、それによって大津波が発生し、インド、インドネシア、タイ、スリランカ、マレーシア、モルディブなどのインド洋沿岸諸国で合計10万以上の死者を出す大惨事となった。
生き残った者も負傷者が多く、水道や港湾などのインフラが破壊されたため、食糧や清潔な水、医薬品の不足が深刻になった。
12月27日朝、中国CCTV(国営放送。政府の宣伝機関)のトップニュースは当然、この大惨事だった。
ニュースキャスターはまず、胡錦涛国家主席が被災各国の国家元首に見舞いのメッセージを送ったことを延々と述べた。が、そのあと中国政府の対応策のニュースには行かず、こんどは温家宝首相が被災各国の首相に同様にメッセージを送ったことを、わざわざあらためて付け加えた。放送が始まって3分近くもだらだらと、被災者、被災国にとってなんの価値もない、中国政府の自己満足にしかならない、くだらないニュースが続いたのである。
そして、その「宣伝」が終わって、ようやく対応策のニュースになったが、中国政府自体からの、被災国への援助の発表はなく、わずかに中国赤十字社からの援助が発表されただけだった。
さすがにこれではみっともないと思ったのだろう。その後、温家宝首相と商務部は、中国政府からの援助として、食糧、テント、毛布などの物資と現金あわせて2163万人民元相当の援助をインド、インドネシア、タイ、スリランカ、モルディブの5か国に送ると発表した(人民日報日本語版04年12月28日)。
しかし、2163万人民元を日本円に換算すると約2億8000万円にしかならない。5か国で分けると、1国あたりたった5000万円前後だ。これでは、中国はアジアの盟主とは言えない。
●海上自衛隊参上●
この間、12月27日、日本政府は、もっとも被害の大きかったスリランカに緊急援助隊医療チームを派遣する(読売新聞Web版04年12月27日)。そしてこれは、先進各国の援助チームのなかで一番乗りだった。ほかにも欧州連合(EU)、スイス、ロシアがちいはやく援助チームの派遣を表明したが、中国政府の人的援助表明は12月29日までなかった。
12月28日、日本政府は、被災各国への緊急無償資金援助を決定。その額は31億円(読売新聞Web版04年12月28日)で、中国政府の、実に10倍以上である。
そしてこの援助合戦に、海上自衛隊も「参戦」する。
米国がアフガンで展開している反テロ戦争の支援のため、海上自衛隊(護衛艦隊)は、テロ特措法に基づいてパキスタン沖のアラビア海で、米艦への給油などの支援活動にあたっていた。たまたまちょうど任務を終えて交代して戻る海自護衛艦隊がインド洋上を航行中だったため、日本政府はタイ政府の要求を受け、国際緊急援助隊派遣法に基づいて、護衛艦など3隻をタイ南部プーケット島沖での、被災者の捜索活動にあたらせることとした(読売新聞Web版04年12月28日)。
だれも、日本の決定に異を唱えることはできなかった。世界中のいかなる国も、日本の「軍事力」が東南アジア海域で展開されることに反対しなかった。
01年にテロ特措法が制定されて以来、自民党橋本派(親中国派)の野中広務元幹事長は、台湾海峡有事の際に自衛隊が活躍することを恐れる中国政府の意向を受けて、自衛隊、とくに護衛艦(のなかでも性能の高いイージス艦)の海外派遣に反対し続けた(神戸新聞Web版02年12月5日)。中国政府(外務省の孫玉璽副報道局長)もかなり露骨にいやそうな顔をし、
「(中国などアジア諸国を侵略した)歴史的な理由から、日本は(反テロ戦争での)軍事的役割について慎重に対応するよう希望する」
「日本は、軍事面では過去の歴史と(第二次世界大戦時の)アジアの、被害国の人々の感情などを考慮し(平和憲法を遵守し、専守防衛に徹し)なければならない」
と釘を刺した(共同通信Web版01年10月30日)。
海上自衛隊がタイで活動することは、どう見ても「専守防衛」ではない。捜索だろうが救難だろうが、れっきとした駆逐艦(護衛艦。英語ではdestroyer)が出動しているのだから「他国の領海内での軍事行動」にほかならない。
しかし、だれも反対しない。理由は簡単だ。日本には東南アジアで新たな領土を獲得しようなどという野心がないからである。戦後の日本はいまの国土面積で世界第2の経済大国になったのだ。新たな領土などほしがるわけがない。
ところが、中国は違う。中国はインド、ロシアのほか、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど東南アジア諸国とも領土問題を抱えている。中国は、石油や天然ガスなどの海底資源ほしさに日本の排他的経済水域や南シナ海の南沙諸島や西沙諸島の周辺で「盗掘」目的の違法な海洋調査や領土・領海侵犯を繰り返し、一部の島は実際に侵略し自国の領土にした。これは全世界周知の事実だ。
たしかに中国は近年(日本にさきがけて)東南アジア諸国連合(ASEAN)と、自由貿易協定(FTA)締結をめざして交渉を開始するなど、日本を押しのけて「アジアの盟主」のように振る舞うことが多くなった(『世界週報』03年7月8日号掲載の津上俊哉・経済産業研究所上席研究員の論文「東アジアのFTAに後れを取るな 日本再生に必要な3つの条件」)。
が、中国が「盟主ヅラ」をするのは、FTAなど自分の利益になるときだけだ。
「身銭を切って困っている人を助ける」ほどの力は、中国にはない。また、たとえ中国海軍にタイまで被災者の捜索や救難に出向く能力があったとしても、おそらく東南アジア諸国は警戒し、あるいは断るだろう。それが、中国の、ほんとうの対外イメージなのだ(米国防総省の報告書『アジア2025』は、中国海軍にいったん東南アジアでの救難活動を許すと、いずれ、中国政府が雇った「海賊」を東南アジア海域で暴れさせてから、それを制圧するという形で同海域を支配するだろう、と指摘している)。
●米空母参上●
米国時間04年12月28日、米海軍当局者は、スマトラ沖地震の、被災地域での救援活動のため、米太平洋艦隊所属の空母エイブラハム・リンカーンを被災地域に派遣したことを明らかにした。米軍が災害地域に空母を派遣するのは異例のことだ。
これはおそらく、この地政学上重要な地域(海域)での、米軍のプレゼンスの誇示(米軍にはこの海域で活動する能力と意志がある、と示すこと)と、イスラム諸国に対する米軍のイメージアップのためであろう(結果的には、海上自衛隊もこれと同じプレゼンスとイメージアップを得たことになる)。
【米軍が、イスラム教徒の多いインドネシアやマレーシアで人道支援に努めているとき、アルカイダなどのイスラム原理主義過激派は、どのツラさげて「反米テロ」をやるのだろう? すくなくとも、ウサマ・ビンラディンは、次に声明を出すとき、この津波と米軍の救援活動を無視できず、かなり困ったことになるだろう。ビンラディンやアルカイダは、毎月数千万米ドルもの「軍資金」を浪費しながらイラクで反米テロをやる暇があったら、インドネシアのイスラム同胞救援のために寄付すべきなのは明らかだ。今回の大津波は、ビンラディンやアルカイダにとって、あまり好ましい事態ではあるまい。】
また、同じ28日、米国務省のエアリー副報道官は被災各国への援助を2000万米ドル増額して、合計3500万米ドル(約36億円)にすることを発表した(共同通信Web版04年12月29日)。こちらも中国の10倍以上だが、米国政府は今後も状況を精査しながら、迅速に追加支援を行う予定だというから、中国の援助など、もう意味がない。
中国は恥さらしなはした金など出すのはやめて、もうこの問題からは手を引いたほうがよかろう。被災各国に対する支援活動の主役は日米であって、中国ではないのだ。
【「津波」(tsunami)がそのまま英語になっていることで明らかなように、日本は津波研究の先進国だ。今回の津波で国全体が「冠水」してしまった、海抜1メートル程度の島ばかりの国モルディブでの死者数が69人(日本時間04年12月31日午前0時30分現在。産経新聞集計)と、海抜のはるかに高い島国スリランカの死者数24,743人(同)より圧倒的に少なかったのは、モルディブ諸島の沿岸に日本の援助で無数の波消しブロックが設置されていたからである(毎日新聞Web版04年12月28日)。日本は(中国と違って)海軍力と経済力だけでなく、防災面の技術力でも被災各国支援の主役となる可能性が高いのだ。】
12月29日、町村信孝外相は、パウエル米国務長官と電話で協議した。日米両外相は、被災地支援のため国際協力態勢構築の必要性と、そのために日米が緊密に協力すべきことを確認した(時事通信Web版04年12月29日)。だれが主役か、もう当事者にはわかっているのだ。
その後、ブッシュ米大統領は、日米とインド、オーストラリアの4か国が中心になって国際協力体制を構築し、この津波の被災支援にあたると発表した(米国時間04年12月29日、日本時間30日放送の米CNNニュース)。この「中心4か国」はいずれも中国の軍事力増強を強く警戒している国ばかりである。米国が、中国とほぼ同等の経済力しかない、自身も被災国であるインドを「中心4か国」に加え、中国を加えなかったのは、ミサイル防衛システム(MD)の共同配備などを軸に「中国包囲網」を形成しようとする米軍の青写真と一致する(詳しくは米国防総省の基本報告書『アジア2025』を参照)。すくなくともインドは「南アジアの盟主」としてのメンツを米国に立ててもらった形になっているので、悪い気はしない(これでMD構築における米印協力も一気に進むだろう)。
【肝心なときに役に立たない者は、盟主でも親分でも兄貴分でもない。胡錦涛とビンラディンには、日米の軍事活動を批判する資格はない。】
中国よ、アジアの盟主になりたいのなら、日米に負けない規模の支援をやってみせろ。それができないのなら、生意気に「盟主ヅラ」はするな! この身のほど知らずめ。
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