ウクライナと台湾

 

〜米国の勢力圏

(Dec. 12, 2004)

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■ウクライナと台湾〜米国の勢力圏■

「9.11」以降、米国は中露と表面上協調して来た。が、中露の縄張りである台湾とウクライナを「民主化」という口実で中露から切り離す戦略は進行中で、まず04年にロシアがウクライナを失う。次は08年、中国が台湾を失う番だ。

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■ウクライナと台湾〜米国の勢力圏■

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ロシアの隣国ウクライナで、腐敗した親露派独裁政権のクチマ現大統領の後継者ヤヌコビッチ現首相と、親欧米路線をとる野党のユシチェンコ元首相とが立候補して争っていた04年11月のウクライナ大統領選は、泥沼化した。

 

ウクライナは欧州連合(EU)とロシアの中間に位置し、だれが政権を取っても欧露双方と協調しなければならない。ところが、「大統領のポストを失うと腐敗(汚職や弾圧)を追及されてしまう」と恐れた与党のクチマとヤヌコビッチは、ロシアのプーチン大統領に泣き付き、ウクライナ大統領選での支援を要請した。

 

このため大統領選は接戦になった。一次投票で泡沫候補が落ちて、与党のヤヌコビッチと野党のユシチェンコが11月24日の決選投票に残ると、与党陣営は大規模な不正工作(同じ有権者が大挙してバスで移動しながら何度も投票する「回転木馬」や、票の不正集計)を行ってムリヤリ「当選」してしまった。

 

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これらの不正はEU諸国多数が加盟する全欧安保協力機構(OSCE)が派遣した国際監視団によって指摘されたが、ウクライナ中央選挙管理委員会はこれを無視してヤヌコビッチを当選とした。

 

すると、ウクライナ各地で反与党デモが起きた。何万人もの市民が首都キエフなどで政府機関の建物を取り巻いて何日間も封鎖し、全世界に与党の不正と、野党候補ユシチェンコの民主的正統性とを訴えた。

 

この事態に、ウクライナ最高会議(国会)や最高裁も野党支持にまわり、与党支持者が牛耳っていた中央選管も決定を覆して12月5日、決選投票を12月26日にやり直すことを決めた。野党支持のデモ参加者がみなオレンジ色のリボンを手にしていたため「オレンジ革命」と言われる。

 

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●米国暗躍●

しかし、何万人もの市民が政府機関を包囲し続けるには食費などのコストがかかる。昼間から仕事もせずに何日も野宿して包囲網を維持する間、労働者なら給料ははいらないはずで、貯金を取り崩すほかない。となると、そんな酔狂なことを(無報酬で)する市民が何万人もいるはずはない。

 

そう感じたのは筆者だけではない。

ヤストルジェムスキー露大統領補佐官は04年11月下旬、キエフにいる米国の国会議員や非政府市組織(NGO)や選挙コンサルタントが米国政府のスパイである可能性が高いと示唆した(産経新聞04年12月6日付朝刊4面「米暗躍?」)。

 

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11月24日の決選投票のあと、ユシチェンコが開票の不正集計を訴えた数時間後にはデモが始まり、数万人のデモ参加者にオレンジ色のリボンや食事が配給されている。これは単なる「手弁当の市民運動」では不可能だ。

 

英ガーディアン紙が指摘するように、00年の旧ユーゴ、01年のベラルーシ、03年のグルジア(と04年のウクライナ)ではいずれも、大統領選の不正投票を口実に親露派指導者が失脚し、米国の超党派勢力が親欧米派指導者を支援して政権を取らせるパターンが踏襲されている(86年のフィリピンでも、大統領選の不正開票を指摘されてマルコス大統領が失脚し、米軍と密接な関係を持つフィリピン軍幹部が支援する、アキノ新大統領が誕生している)。

 

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01年9月11日の米中枢同時テロ以降、ブッシュ米政権は、ロシアのプーチン政権(や中国の胡錦濤政権)と「テロとの戦い」で協調し、それを口実にロシア(中国)はチェチェン(新疆ウイグル自治区)など国内のイスラム勢力への弾圧を、やりたい放題やって来た。

 

中露は独仏とともに、03年のイラク戦争では米国に反対する姿勢を示したが、ブッシュ米政権(ライス大統領補佐官)は「ロシアは許す。ドイツは無視する。フランスは罰する」と言い(中国には言及なし)、ロシア(中国)に格段の配慮を見せ、一貫してロシア(中国)の現政権との良好な関係を誇示して来た(毎日新聞03年6月3日付大阪朝刊2面「露骨な親米諸国偏重」、中国新聞04年11月17日付朝刊「ライス氏 国務長官に」)。しかし、それは地政学上、相手の勢力圏を蚕食しない、という意味ではない。

 

ロシアは従来、旧ソ連時代の領土であるウクライナを自国の勢力圏とみなし、ウクライナに親欧米政権ができて、ウクライナがEUや北大西洋条約機構(NATO)に加盟することに反対して来た。本来なら、プーチン露政権との関係を重視するブッシュ米政権は「ロシアの縄張り(ウクライナ)には手を出さない」はずだ。

 

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たしかに表面上、米国政府がウクライナに対して「NATOにはいれ」と言ったことはない。しかし、米国は(タテマエ上)民主主義国家なので、世界のどの国でも民主化勢力(ユシチェンコ)が腐敗した独裁政権(ヤヌコビッチ)を倒すのは「歓迎」ということになる。

 

プーチンは米国のスパイ工作に内心忸怩たる思いを抱きながらも結局、「ロシアと密接な経済関係があるウクライナがEUに加盟するのは、ロシア経済にとってもよいこと」などと負け惜しみを言うほかなくなった(共同通信Web版04年12月11日)。おそらくそう遠くない将来「民主化したウクライナ」は、かつて旧ソ連独裁勢力(ロシア)に支配されて苦しんだバルト3国や東欧諸国と同様に、「旧ソ連(ロシア)の潜在的脅威(の復活)から身を守るため」NATOに加盟するはずだ。つまり、ユーラシア大陸の心臓部、ハートランド(カスピ海沿岸など、米英のような海洋国家の海軍が絶対に攻撃できない大陸国家の聖域)に米国の軍事同盟国ができるのだ。

 

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地政学者マッキンダーは「東欧を制する者はハートランドを制し、ハートランドを制する者は世界島(ユーラシアとアフリカをあわせた陸地)を制する」という理論を提唱した(じっさい、13世紀のモンゴルや19世紀の帝政ロシアがユーラシア大陸の半分以上を支配する大帝国に発展できたのも、中東で生まれたイスラム勢力がジハード、聖戦を展開してインドや東南アジアまで布教できたのも、いずれもハートランドを支配したあとだった)。

 

ソ連(ロシア)はこの理論を信じて東欧を侵略し、ハートランドを拠点に西欧や中東を含めた世界島の支配をめざした(倉前盛通『新・悪の論理・増補版』日本工業新聞社80年刊、p.18)。 が、いまやソ連に代わって米国が、ハートランドを拠点に中東を含めた世界島の支配者になる道が開かれた。すでに米国は「9.11」の反撃を契機にアフガニスタンとイラクに橋頭堡を築いたので、両国に近接するハートランド地帯はほぼ米国の掌中に落ちたと見てよい。

 

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地政学は、太古の昔からイデオロギーや民意とは無関係に一貫して大国の指導者によってひそかに信奉され、実践されて来た。そして、それは米国の対中国・台湾政策でも同様である。

 

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●08年に延期●

04年12月11日に投開票された台湾立法委員(国会議員)選挙は、台湾独立路線をとる陳水扁総統の与党が過半数を獲得できず、野党連合が過半数を超える114議席を得た(定数は225)。

 

投票日直前、陳水扁は、台湾(中華民国)政府の在外機関の名称や、「中華航空」「中国石油」など中国企業と紛らわしい台湾企業の名前を「2年以内に台湾らしく正す」と訴え、有権者の「台湾人意識」に訴える選挙戦術をとった。すると、米国務省(エレリー報道官ら)は「不快感」を示した(人民日報Web版04年12月8日、 産経新聞04年12月9日付朝刊7面)。

 

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「不快感」とは、ブッシュ米政権が「台湾が早期に中国からの独立を宣言する」(国名を中華民国から台湾共和国に変える)ことに反対であることを意味している。陳水扁は立法院(国会)で過半数を取ったら、06年に新憲法(台湾憲法)を制定して08年から施行し、名実ともに独立国になると示唆していたが、米国はいまはそれには反対なのだ。

 

これを見て「06年の新憲法制定に怒って中国が台湾に軍事力を行使しても、米国は台湾を本気では助けないかもしれない」と台湾有権者は心配したのだろう。投票率は前回01年の立法委員選挙より7ポイント減の59%に留まり、陳水扁の与党(民進党など)は得票率でも44%(国民党など与党は47%)しか取れなかった。

 

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この結果を見て「米国は台湾独立には反対」「北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議で助けてもらえる中国に、米国は遠慮している」と考える識者は少なくない。

 

しかし、立法委員選は07年12月にまたある。今度は定数が113に半減するので、投票率や与野党の得票率が同じなら単純計算で、与野党の議席差は現在の13から7に減ることになる。ということは、次回は無所属議員の抱き込みや与党議員へのスキャンダル追及(辞任要求)で7議席ほど入れ替えれば、与党は(比較的簡単に)過半数を取れることになる。

 

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米国には、台湾の「民主化」(を口実にした中国からの完全離脱。米国の勢力圏への編入)を支持する意志はある。それは、04年3月26日、ホワイトハウスが陳水扁の総統選再選に祝意を示す声明を出したことにはっきり表れている(産経新聞04年3月29日付朝刊3面。この3月26日には日本政府も、交流協会を通じて台湾政府に祝電を送っている)。

 

この3月20日の総統選では、陳水扁総統は、野党候補との得票差わずか29,518票(得票率差0.228%)で再選されたにすぎない。しかも無効票が前回00年総統選の約3倍の337,297票もあり、投票日前日の3月19日には、自作自演を(野党側から)疑われる奇怪な陳水扁暗殺未遂(銃撃)事件があり、急遽そのあとの緊急警備に狩り出された、何十万人もの非番の警察官たち(大半が野党支持)が投票できず、陳水扁に不当に有利な状況になっていた。3月26日の時点では陳水扁の当選公告はあったものの、野党側は敗北を認めず、陳水扁の再選無効を訴える訴訟を起こしていた(その後、敗訴)(小誌Web版04年3月29日「正確すぎる票読み」)。

 

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にもかかわらず、そのような段階でホワイトハウスが軽々しく祝意を表明して陳水扁総統の再選を「確定」してしまったということは、米国が陳水扁を米国の西太平洋における勢力圏確保の尖兵と認定したことを意味し、また野党候補(親中国派)に「落選を認めろ」と迫ったことになる。

 

では、なぜ04年12月の立法委員選の直前には米国政府(国務省)は、陳水扁の与党を不利にする「不快感」の表明などをしたのか。やはり米国は台湾の独立に反対なのか?

 

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そうではない。単なる時期の問題だ。

今回、陳水扁は立法委員選に勝ちたい一心で「06年新憲法制定」(事実上の独立宣言)を公約に掲げた。が、その06年の時点ではまだ、08年の北京五輪まで2年もあるので、中国は比較的容易に台湾に対して海上封鎖などの軍事的威嚇措置を取れるし、そうなれば中国は台湾住民を殺傷せずとも、株価や為替の暴落などで台湾経済に打撃を与え、「独立撤回」を迫ることができる。

 

ところが、もし陳水扁が「独立」を07年12月の立法委員選挙(新しい委員の任期は08年2月から)以後まで遅らせれば、08年8月の北京五輪は目の前だ。しかも、イラク情勢はもう落ち付いているはずなので、米国には東アジアの問題に注力する余裕が生まれているだろう。だから、米国は(06年でなく)08年に台湾が「独立」してくれたほうが有り難い。08年3月には台湾総統選があり、陳水扁の与党(民進党など独立派)はそのときまた勝てる保証がないから、今回焦って「06年独立」を掲げて選挙を戦ったのだ。

 

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が、心配することはない。

07年になれば、米国は、04年のウクライナでやったのと同じような方法で台湾の「民主化」を大規模に支援し、民進党が立法委員選と総統選で連勝できるように画策するはずだ。

 

そのとき、民進党は堂々と「即時独立」を掲げて選挙戦を戦ってよい。なぜなら、07年夏にはすでに北京五輪の「プレ五輪」があって、中国は全世界から五輪開催国としての責任を問われる状況になっているからだ。

 

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民進党が07〜08年の選挙で連勝した場合、その選挙結果を認めたくないと言って中国が「軍事介入」を示唆すれば、北京五輪は即時中止となる。それは事実上、全世界が中国に経済制裁を課したのと同じ効果を持ち、中国から外国の投資が逃げ、株式市場で暴落が起きる。

 

そうなれば、もちろん台湾経済も大混乱に陥るが、台湾は被害者なので世界の同情や援助を期待できるのに対し、加害者である中国にはそれは望めない。

 

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そうなると、改革開放経済で繁栄している広東省や上海など、都市部・沿海部の富裕層は疑問を抱くだろう、「なぜ、われわれの豊かな生活を犠牲にしてまで、台湾の独立を阻止する必要があるのか」と。

 

「独立阻止」といっても、台湾は戦後50年間、事実上独立しているのであり、いまさら「独立宣言」をされても中国は実質的には何も失わない。ただ、メンツと、将来(台湾を海空軍基地にして)大海軍国家になる可能性とを失うだけだが、そんなものは広東や上海の実業家には関係ない。

 

そもそも大海軍国家になること自体、無理である。かつて日本を占領統治した米軍(GHQ)のマッカーサー司令官が「台湾を海空軍基地に使えば、ウラジオストックからシンガポールまで、西太平洋のすべての港を支配できる」と言って重視した台湾を、また、米台国交断絶後も米議会が台湾関係法を制定して事実上の同盟関係を維持した台湾を、米国が中国に渡すことなど地政学上ありえない。

 

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中国4000年の歴史を見れば明らかなように、中国は極めて統一性の薄い国で(外国が意地悪をしなくても)平均すると何十年かに1回必ず(自分で勝手に)分裂する。現在、中国国内の農村部・内陸部と都市部・沿岸部の貧富の差は開く一方で、分裂の可能性は高まっており、中国政府がそれを回避して国内を団結させる目的で外に敵を求め、無謀な「台湾攻撃」に打って出る危険性も、台湾が名実ともに独立国家にならない限り、なくならない。

 

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それは困る。それは世界の不安定要因だ。

日本の親中国派の「識者」たちはよく「現状を維持すればいい」と言うが、それは「何十年かに1回必ず分裂する」という中国の歴史を無視した無責任な言いぐさだ。「現状」は永遠には続かないのだ。諸外国はもちろん、中国自身にとってもなんの利益にもならない「台湾攻撃」の芽を永遠に摘み取るために、台湾を完全に独立させて(中華民国の国名を捨てさせて)国連に加盟させる…………そういう工作を米国がやらない(やってはいけない)理由は何もない。

 

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米国政府が表面上04年のウクライナ大統領選に関与していないように、07〜08年の台湾の立法委員選と総統選でも、米国政府は表立っては何もしないだろう。だから、米露関係と同様に、米中関係も表面上08年までも、それ以後も、ずっと「良好」のはずだ。

 

そして、04年のロシアが自分の縄張り(ウクライナ)をあきらめたように、08年の中国も「中国と密接な経済関係がある台湾が国連など国際社会(国際機関)にはいるのは、中国経済にとってもよいこと」などと負け惜しみを言うほかなくなるだろう。

 

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