宗教票=人種票

 

〜シリーズ

「米大統領選」

(2)

(Nov. 15, 2004)

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■宗教票=人種票〜シリーズ「米大統領選」(2)■

米国内におけるイスラム系移民や非白人人口の増加を恐れる米白人保守層は「宗教」を隠れ蓑にして01年のブッシュ現米政権誕生以降、巧妙に狡猾に選挙と福祉政策における非白人排斥運動を成功させ、その結果04年米大統領選でもブッシュが(不正に?)再選された。

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■宗教票=人種票〜シリーズ「米大統領選」(2)■

【前回「11月の奇襲〜2004米大統領選の『落選保険』」は → こちら

 

前回述べたとおり、米民主党は伝統的に安全保障政策がいい加減で、極端に非常識な政策をとる恐れもある。冷戦時代のように、「ソ連の脅威」という明白な敵があって、だれが大統領になっても安全保障政策の選択の余地がほとんどない時代ならともかく、冷戦後の、敵がテロ集団やテロ国家などに多様化、不安定化している21世紀においては当然、米保守本流(米共和党、産軍複合体、国際石油資本、ロックフェラー家などの主流派)は「北朝鮮や中国の軍拡に寛大な非主流派(米民主党のケリー上院議員)が大統領でもいい」などと甘いことを考えるはずはない。

 

そこで、04年米大統領選直前に何か陰謀をめぐらせて、確実に主流派の候補、米共和党のブッシュ現大統領が勝つように(10月の奇襲、オクトーバー・サプライズを)画策するか、あるいは、たとえブッシュが負けても自分たちの路線が維持できるように安全保障政策の前倒し・既成事実化(11月の奇襲)をするか、どちらかだろうと筆者には思われた。

 

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が、「10月の奇襲」はなかった(10月29日にオサマ・ビンラディンの声明ビデオが公開されたが、それがブッシュに有利になる保証はなかった)。このため、大統領選は接戦になった。

 

接戦になると、各地で行われている(と疑われている)選挙不正、つまり電子投票機の不具合や、暫定投票にかかわるトラブルをめぐる訴訟が頻発して、00年の大統領選と同様に、当選者が投開票日の何週間もあとに裁判所で決まる、という「みっともない事態」も予想された。そうなると、だれが当選しても権威のない大統領になってしまう。

 

前回00年に(共和党系判事のお陰で)かろうじて当選したブッシュは、01年に「9.11」米中枢同時テロが起きたことで国民が大統領のもとに結束して支持が強まり、政局の主導権を確立した。

が、主導権ほしさに、もう1回あんなテロをやらせるわけにはいかない。

 

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【「9.11は、米共和党がアフガンやイラクに侵攻する口実作りのためにアルカイダにやらせた」という「自作自演説」をとる方々のなかには「ブッシュは国民の支持を得るために(大統領選に勝つために)また本土でテロをやらせる」と考えた方が少なくなかったが、それは元々ありえない。1回目は「いきなりやられたから仕方がない」という言い訳が通用するが、2回目は「ブッシュの安全保障政策の失敗」(1回目の反省不足)になり、逆に国民の支持を失うからだ。大統領選前にチェイニー副大統領がしきりに「ケリーが勝ったら、また米本土でテロが起きる」と訴えていたことを考えると、たとえ米共和党がアルカイダとのパイプを持っていたとしても、9.11以降は逆に、そのパイプを使って「共和党が政権を取っている間は、米本土ではやらないでくれ」(民主党が勝ったらやってくれ)と頼むはずだ。】

 

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04年米大統領選では、ブッシュは単に再選されるだけではダメだった。テロや戦争によらず、選挙自体で完勝して大統領としての「権威」を確立しないと、当選しても二期目に指導力を十分に発揮できない恐れがあった。

 

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04年11月2日に投開票された今回の大統領選では、結果的にブッシュの獲得した大統領選挙人(各州にほぼ人口に比例して割り当てられ、候補者が「勝者総取り」方式で州ごとに奪い合う、計538人)は286人、ケリーは252人だった。

 

が、オハイオ州(選挙人20人)では開票日当日の集計では、ブッシュはケリーにわずか13万6000票しか勝っておらず、その時点ではまだ開票されていない「暫定票」が17万票(一説には25万票)もあると言われていた。

 

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暫定票とは、投票日に投票所に行った有権者が(なんらかの手違いで)有権者名簿に登録されていないことが判明した際、とりあえずその場で投票してもらうが、その票は正規の投票とは別に集め、僅差の場合などに後日(オハイオ州の場合は11日後)投票資格の有無を確認してから開票する票のことだ。

 

米国の選挙制度では、有権者は事前に自身の居住する自治体(郡、市)の投票所で有権者名簿に登録しておかないと、選挙権を行使できないので、英語の不得手な移民や教育のない低所得層は登録手続きを怠ったり、間違った投票所で登録してしまったりして、投票できないことがある。が、投票の際に身分証を示して、後日同一郡(市)内で登録済みであると判明すればその票は有効になる。

 

但しオハイオ州ではこの登録ルールが異様に厳しく、同一郡(市)内であっても、違う投票所で登録されていた場合は投票資格がなくなる。

 

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オハイオ州政界は米共和党の州知事らが牛耳っており、米民主党支持者の多い黒人や新参移民の投票を妨害する目的で、このようなルールが制定されたのではないか、という批判が民主党側から上がっており、民主党側が「異様に厳しいルールは憲法違反」という訴訟を起こす可能性も取り沙汰されていた。

 

大統領選の投開票に関しては事前に、タッチスクリーン式の電子投票機の不具合や、共和党が牛耳る自治体での黒人らへの投票妨害などが全米各地で報道されており、現に投開票後、オハイオ州を含む各地の投票所でブッシュへの投票が異常に多く算出される例が出ている(毎日新聞Web版04年11月7日「電子投票の激戦州で異様なブッシュ票」、米 wired.com 04年11月5日)。

 

したがってオハイオ州の暫定票の大半がケリー票である可能性は、統計学的には低いが、政治的には高い。そして、オハイオをケリーが制してその選挙人がすべてケリー側にまわると、266対272でケリーの勝ちとなる。

 

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ところが米東部時間04年11月3日午前5時、ブッシュ陣営は「われわれはオハイオでも勝ったし、一般投票(全有権者の票の合計)でも350万票勝った。ケリー候補に判断の時間を与える」と事実上の勝利宣言をし、ケリーに負けを認めろ、と迫った。

 

すると、その数時間後、ケリーはあっさり負けを認めてしまった。ケリーは裁判に持ち込めば勝てる可能性があったのに、あるいは再選したブッシュ大統領の権威を裁判でおとしめて、保守的な(反民主党的な)政策の遂行を困難にすることもできたのにわざとそうしなかったのだ。

 

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●やっぱり八百長●

どうやら「11月の奇襲」はケリーの「不戦敗」だったようだ。

前回述べたように、ケリーはブッシュの、エール大学の秘密クラブ「骸骨と骨」(Skull and Bones)における2年先輩だ(04年5月4日放送のフジテレビ『ニュースJAPAN』)。このクラブの活動実態は不明(実態を明かさないのが掟)だが、ブッシュ父子を含めて3人の米大統領をはじめ政財界の要人を多数輩出しており、2人が在籍していた頃は会員は白人男性に限られていた(最近は女性や黒人にも開放)。

 

2人は、実はきわめて人種的な「差別クラブ」の人脈でつながっていたのだ。

そのうえ、ケリーの妻の前夫は、飛行機事故で死んだ、米共和党の故ハインツ元上院議員(ケチャップで有名な富豪のハインツ一族)だったから、2人は二重の意味で、地下水脈でつながった「仲間」とも言える。

 

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今回、米民主党は(前回述べたように過去の法案採決と現在の政見との矛盾を突かれやすく)大統領選に勝ちにくい上院議員(ケリー)をわざと候補者に立てたうえ、黒人や貧困層への有権者登録運動でも、民主党員を使わず「バイト」に外注した(共和党は、百数十万の党員を動員しておもに白人に有権者登録を促し、その多くが「熱意に打たれて」共和党に投票したため「投票率が高ければ民主党有利」の常識が崩れた)。

 

上院議員であるケリーは、米民主党の大統領候補に選ばれた時点で「ジョン・F・ケネディ以来40年以上、大統領になった上院議員はいない」という現実を認識し、ほぼ勝てないと覚悟したはずだ。

 

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あきれたことに、ケリー落選直後から米民主党内では、次の08年大統領選の有力候補として、今回副大統領候補を務めたエドワーズ上院議員や、前大統領夫人のヒラリー・クリントン上院議員を推す声が上がっているという…………こんな「八百長候補」ばかりでは、米民主党は当分政権を取れないだろう。

 

やはり04年大統領選で保守本流(米共和党)は確実に勝つために工作をしていたし、今後も当分するつもりらしい。

 

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●宗教右翼の正体●

04年のブッシュ再選を支えたのは、全米で3000万人いると言われるキリスト教右派(福音主義者、キリスト教原理主義者)の、白人アングロサクソン系プロテスタント教徒(WASP)の組織票だ。

 

彼らの基本的な政治目標は今回、

 

#1: 低福祉低負担の「小さな政府」

#2: 人工妊娠中絶禁止

#3: 同性愛の罪悪視・同性婚禁止

#4: イスラム過激派への断固たる対策(ブッシュのアフガン・イラク戦争支持)

 

などであった。

 

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「なんだ、単なるタカ派か」などと思ってはいけない。これらは、実はすべて人口問題と結び付いているからだ。

小誌Web版03年3月27日「在米イスラム人口の急増〜イラク戦争の深層」で述べたように、欧米諸国はみな、非白人(移民)人口の急増に悩まされ、白人は次第に少数派に転落しつつある。米保守派の論客パット・ブキャナンは著書『病むアメリカ、滅びゆく西洋』(成甲書房02年刊)で「21世紀中に、イスラム勢力により欧州が、ヒスパニックにより米国が乗っ取られる」と警鐘を鳴らすが、在米イスラム教徒の増加も深刻で、91年の湾岸戦争後、米国内のイスラム人口は急増し、いまや信者数でユダヤ教を抜き、キリスト教に次ぐ第2の宗教勢力になっている(99年12月5日放送のNHKスペシャル『イスラム潮流3』)。

 

「#4」の背景に、イスラム人口の流入をコントロールしたい、という米保守本流WASPの思惑があるのは間違いない。では、ほかの3つはどうか?

 

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●布教=白人囲い込み●

米国中西部、南部の共和党の「地盤」に多く住む、WASPのキリスト教原理主義者は、その教えを教会で広める。しかし、その教会は、日本人が想像するようなものではない。

 

教会といいながら、その大半には、外部から見てそれとわかる看板や装飾は一切ない(04年10月31日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』)。教会内部は富裕な信者の寄付により、説教を衛星中継できる放送設備や大集会所や託児所など、充実した施設に満ちているものの、あらかじめその存在を教えられていない者には、そこに教会があることはわからない(親に連れられて子供のときから通っている者にはわかる)。

 

教会内の託児所では信者の子供に「聖書教育」を行い、ダーウィンの進化論や中絶は「問答無用の悪」と教え込むから、成人するまでそういう教育を受けなかった者とは、価値観のうえで大きな落差が生じる。

 

その結果、教会に集う信者は必然的に、親や親戚に導かれたWASPばかりになる。黒人はまずいない(前掲『サンデープロジェクト』)。

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彼らは「小さな政府」を志向し、米民主党が唱える医療の「国民皆保険」など、福祉のための増税や負担増には反対する。自分の稼ぎが多く政府に吸い上げられると、黒人や移民など非白人少数民族の福祉や公立学校教育に遣われてしまうからだ。

 

ブッシュ政権は一期目に「金持ち減税」を実施したが、そのお陰でWASP原理主義者の富裕層は、教会に多額の寄付ができるようになった。教会は学校、病院、託児所などの福祉事業を営み、貧しい失業者には職業相談に乗ったり、教会の働き口を世話したりすることもある。

 

が、教会は政府と違って、税金で運営されているわけではないので、全国民を(宗派を問わず)平等に扱う義務はない。当然、信者(ほとんど白人)は優遇してよい。

 

「#1」の「小さな政府」とは国民の自立自助や経済的自由主義ではなく、実は社会福祉政策上の人種主義にほかならないのだ。

 

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【「#2」の中絶禁止には、「閉鎖的価値観で白人を囲い込む」ことのほかに白人人口を増やす、という意図もある。筆者はさる高名な医師から「日本の出生率を上げて少子化を解決するのは簡単だ。中絶を禁止し、中絶されそうになった子供は福祉施設で引き取って育てればいい」という明解な処方箋を聞いたことがある。WASP原理主義者の教会は、白人富裕層の寄付で、白人の赤ん坊や失業者の面倒をみることで、黒人、ヒスパニックやイスラム移民の「人口圧力」に対抗しようとしているのだ。原理主義者の中絶反対は宗教ヒステリーではなく、綿密に計算された白人人口至上主義と見るべきだ。】

 

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非白人の人口増加や台頭、非WASPの新参移民の流入は、かなり以前から、保守本流、あるいは米国白人全体のあいだで意識されていた。そもそも「有権者登録」という制度自体が、非白人や新参移民から可能な限り選挙権を奪う目的で用意された、意地悪な制度なのだから(04年10月22日放送のNHK-BS1『きょうの世界:検証・米選挙システム』での吉野孝・早大教授の発言)。

 

WASP原理主義者は04年大統領選前、白人同士誘い合って有権者登録を促し、白人の保守票(人種票)を徹底的に掘り起こした。さらに、全米11の「接戦州」で、大統領選と同時に「同性婚禁止」を求める州民投票を実施させ、ブッシュには選挙戦で「同性婚反対」を言わせ、教会では聖職者に「同性愛は罪」と言わせることで、ブッシュ票を増やした(小誌Web版03年12月2日「マイケル・ジャクソン vs. 米共和党〜04年米大統領選の争点はイラクでなく『反同性愛』」も参照されたい。但し、こちらは民主党系判事の裁量で、裁判が大統領選に影響しないように強引に?延期されてしまった)。

 

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WASP原理主義者が、有権者登録制度と教会の教育・福祉・コミュニティ機能とをフル稼働させて白人の「数的優位」の確保をめざし、たとえそれが果たせず白人が人口統計上少数派に転落した場合でも、米国を支配し続ける態勢を確立すること…………これが、04年大統領選における保守本流の戦略であり目標だった(04年11月6日放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』で森本敏・拓大教授も04年大統領選への「人種」の影響を指摘)。

 

そして、それは完璧なまでに成功した。

国内人口の1割前後にも達するイスラム教徒を抱え込んでしまったフランス、ロシアはこれには完全に失敗し、両国政府は平和主義の理念とは無関係に「イスラム票」ほしさに選挙目当てでイラク戦争に反対せざるをえなかった。しかし、米国は「絶対に仏露の轍は踏まない」と、03年のイラク戦争と04年の大統領選を通じて全世界に宣言したのである。

 

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●結局、白人至上主義●

ケリーは選挙戦では貧困層(おもに非白人少数民族)への手厚い医療・福祉政策を説いていた。

が、彼自身も、彼の妻も、妻の前夫も親戚も、ともに戦う副大統領候補(エドワーズ)も白人だった。

黒人を国務長官(パウエル)や大統領補佐官(ライス)に抜擢し、実弟(フロリダ州知事)の妻がヒスパニック系であるブッシュに比べて、少数民族へのアプローチにおいて明らかに劣っていた。

 

そのケリーの説く少数民族政策が、どれほど黒人やヒスパニックの心をつかめるかは、おのずと知れていた。

 

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ケリーは学生時代、白人男性しか入会できない秘密クラブで、ブッシュの2年先輩だった…………いまにして思えば、この事実は過小評価すべきでなかったのだ。

 

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【尚、米マスコミでこの4年間、カソリック神父による信者(少年)への性的虐待スキャンダルが頻繁に暴露されたことも、WASP(プロテスタント)の布教活動を利した、と理解すべきである。】

 

 (敬称略)

 

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