ナベツネ懺悔

 

〜全文〜

(Sept. 19, 2004)

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■ナベツネ懺悔■

読売新聞への抗議行動や不買運動により渡辺恒雄・前巨人オーナー(現読売新聞社会長)を記者会見などの公的な場に引きずり出し、以下のようなメッセージを出させれば、04年9月19日現在球界が直面している未曾有の危機は解決される:

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■ナベツネ懺悔(全文)■

謹啓 野球ファンの皆様

昨今のプロ野球界の混乱の責任はすべて私にあります。

私が、堤義明・西武球団オーナーや、宮内義彦オリックス球団オーナーらとはかって球団数を削減してリーグ再編をめざしたのは、球界の発展を願ってのことではありません。昨今の巨人戦の視聴率低下に表れているように、私どもの経営無策によって野球人気が低下し市場が小さくなった、という失態を糊塗するため、縮小しつつあるパイ(市場)をより少ない球団で山分けして利益を維持しようとしたことが原因です。

 

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巨人の親会社の読売新聞社としては、巨人が、中日ファンばかりで読売新聞の販売促進事業が思うようにできない名古屋で中日と試合をするより、北海道や九州に大勢のファンを持つ日本ハムやダイエーと試合をしてくれたほうが、広大な北海道、九州地域で販促ができるメリットがあります。だから、私には、「1リーグ制への移行」や「巨人のパ・リーグ移籍」などの、球団数の削減を伴う大幅なリーグ再編によって、巨人が日本ハムやダイエーと試合ができるようにしたい、という思惑もありました。

 

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が、9月17日の、ストライキ突入決定後の関係者の記者会見を見て目が醒めました。経営陣の代表たちは……いま現在の私もそうですが……原稿を読みながら下を向いて会見しているのに、古田敦也選手会長はなんの原稿も持たず、前を向いてファンに語りかけているではありませんか。経営陣は平素野球のこと、ファンのことを考えていないので原稿を見ないと意見が言えないのです。ところが、古田選手はいつも野球のこと、ファンのことを考えているので、原稿を見なくても、自分が考えていることをそのまま話すだけで、ファンに訴えかけ、ファンの心を動かすことができるのです。

 

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私は敗北を悟りました。

それまで私は、選手会をストライキに追い込めば、ファンの非難が選手会に集まると考えていました。選手会を「違法スト」の常習犯だった、かつての国鉄の労働組合のような悪者に仕立て上げることによって、私ども経営陣の練り上げた、球界改革(球団数削減によるリーグ再編)がスムーズにできる、と私は考えていました。

しかし、ファンに向けて語る言葉一つ持たない経営陣にファンの支持が集まるはずはありません。だれが考えても、ファンは、古田選手を初めとする選手会の側を支持するはずです。

 

これでは、とても勝負になりません。私は、私が各球団経営陣とともに考えて来た球界改革案を、あきらめることとしました。

 

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元々私はけっして、ライブドアなどの新興ベンチャー企業に、球団を経営する能力がない、とは思っていませんでした。私が彼らの球界参入に反対していたのは、彼らが失敗しそうだから、ではなく、成功しそうだから、だったのです。彼らが新しい経営手法を持ち込んで成功してしまうと、私のような古い世代の野球経営者の無能ぶりが明らかになるので、それがこわかったから、私は反対していたのです。

 

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サッカーのJリーグを見れば、スポーツビジネスを成功させる方法は明らかですが、私はその方法は選択できませんでした。

Jリーグには、巨人のような「盟主」とも言うべき超人気チームはありません。「盟主」の人気に依存してそのチームとの対戦カードで利益を得ようとして他チームがすり寄って来る「一極集中構造」もありません。

 

にもかかわらず、Jリーグ各クラブが共存共栄し、チーム数も観客動員も増えているのは、「日本代表」という超人気チームに全チームが依存しているからにほかなりません。

 

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シドニー五輪の野球で、プロ選手の参加が解禁されたと聞いたとき、正直な話、私は震え上がりました。もしプロ野球の一流選手を集めた「日本代表」が五輪で金メダルを取ったら、巨人に取って代わってその日本代表が球界随一の人気チームになってしまうからです。

 

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そうなれば、4年に一回「最強の日本代表」を編成するために、読売新聞が実質的に主導するプロ野球界と、朝日新聞と毎日新聞が支配する高校野球などのアマチュア球界とを統合する「日本野球協会」を初めて創設する必要も出て来ますので、読売新聞の野球界への影響力は半減します。また、巨人ファンも巨人の選手ばかりでなく、日本代表に選ばれる各チームの選手を日常的に応援するようになり、各球団の平等な共存共栄が実現し、巨人中心の「一極集中」構造も終わるでしょう。もちろん「盟主」としての巨人の人気を利用した読売新聞の販促事業も難しくなります。

 

つまり、私が読売新聞社入社以来営々と築き上げて来た「大読売」と「盟主巨人軍」の栄光の歴史が終わってしまうのです。

 

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そんなことは、私には耐えられませんでした。私の人生をすべて否定することだからです。

だから私は、シドニー五輪でもアテネ五輪でも、五輪期間中にペナントレースを中断することに反対しました。中断しなければ、日本代表監督は12球団から自由に選手を選ぶことができず、理想的なチーム編成ができないからです。

 

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私は、最強の日本代表チームが編成されることを、あらゆる手段を用いて妨害し、代表チームが金メダルを取れないよう、愛国心をかなぐり捨てて祈りました。五輪期間中も「バカな巨人ファンはいつまでも巨人だけを応援していればいいのだ」と念じ続けました。お陰で、私のたくらみは成功し、日本はシドニーでもアテネでも五輪野球の金メダルを逃がし、代表チームの選手が幅広い国民の尊敬を受けることはありませんでした。

 

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しかし、結果的にこれは失敗でした。日本プロ野球(NPB)が国際スポーツ界のトップリーグであることを示す機会を逃がしたため、NPBから米大リーグ(MLB)へのスター選手の流出が今後いっそう進む反面、海外からの優秀な選手の獲得は難しくなり、日米間の「野球格差」が開くと懸念されるからです。

 

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欧州サッカー界では、最強のリーグはスペインのリーガ・エスパニョーラですが、イタリアのセリエAもまた、もう1つのトップリーグです。前者のクラブから後者のクラブに移籍した選手をだれも「落ち目」とは言いません。これは、五輪やワールドカップ(W杯)などの「国対国」の試合で、イタリア代表がしばしばスペイン代表を上回る成績をあげて来たからです。だから、セリエAには、日本の中田英寿選手はじめ世界各国の一流選手が集まります。イタリアからスペインへの、一方的なスター選手の流出など、心配する必要はないのです。

 

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もし日本が五輪野球で続けて金メダルを取っていれば、NPBも世界の球界から「もう1つのトップリーグ」と認定され、豪州や中南米の野球選手の憧れの的となり、それらの地域から一流選手を獲得するのが容易になったはずです。そうすれば、松井秀喜選手のようなスターがNPBからMLBに流出しても、NPBの魅力が失せる心配はなくなります。

 

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現在、世界の球界では「国対国」の戦いとしてW杯の開催を模索しています。が、これには、五輪の厳しいドーピング検査を嫌うMLB選手会が共同主催者として名乗りを上げていますので、大甘な薬物検査基準のもと、米国代表やドミニカ代表として、筋肉増強剤や痩せ薬を常用したMLBの選手が大挙出場することになるでしょう。彼らに勝つためには、結局日本代表もドーピングをせざるをえなくなり、日本の選手もいずれみんな「薬漬け」になります。

 

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「薬抜き」なら、日本の野球のレベルはけっして米国に劣らないのかもしれません。が、それを確かめる機会は、野球のW杯開催と同時になくなります。もしかすると、アテネ五輪終了と同時に永遠に失われたのかもしれません。

 

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これから私は読売巨人軍の親会社の会長として、滝鼻卓雄・現巨人オーナーと会談し、これ以上球団削減につながる動きを一切せず、むしろ球団を増やす努力を最大限するように提言します。

 

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すでに巨人以外のセ・リーグ5球団と日本ハム球団は、削減に反対する選手会の主張に理解を示していますので、滝鼻が「最強硬派」の宮内オーナー(朝日新聞Web版04年9月18日「経営者側も意見割れる」)を説得しさえすれば、12球団の大半が選手会の主張に歩み寄ることとなり、9月25日以降のストライキは回避できるでしょう。

 

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ライブドアが仙台に設立する新球団を04年中にすみやかにパ・リーグに加盟させて、05年からセパ両リーグ6球団ずつで交流戦を実施すれば、パ各球団の収支はかなり改善されるでしょう。また、もしダイエー本社の経営再建計画の進展によって、ダイエー本社がホークス球団を保有できなくなった場合は、楽天などの優良企業に球団を買い取ってもらえば、さらなる球団削減は防げます(いわゆる「ハゲタカファンド」と付き合いが深く、キャピタルゲインほしさに過去に何度も企業の転売をしたことのあるソフトバンクより、一度も企業の転売をしたことのない楽天のほうが、あるいは、NTT中国などの社会人球団をすでに保有しているNTT西日本のほうが、ホークスの親会社としてふさわしい、と私は個人的には思っています。元々楽天は、心無い外国資本が直接間接にホークス球団の経営に関与することを防ぐための「盾」として、私が球界参入を依頼した企業ですので、とくに強くおすすめします)。

 

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私は読売新聞社の経営から退くことは当面考えておりません。が、巨人軍の経営にかかわることはもうございません。ですから、私の野球経営に関する言動に不快の念を抱かれたプロ野球ファンの皆様も、もう読売新聞への不買運動などはなさらずに、読売新聞、読売巨人軍、そして日本プロ野球界全体への御支持、御声援を賜りますようお願い申し上げます。

 

敬具

 

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2004年9月24日

 

読売新聞社会長

渡辺 恒雄

 

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 (一部敬称略)

 

 

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