「刺客」に女優

 

〜9.11総選挙

 

(Aug. 12, 2005)

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■「刺客」に女優M〜9.11総選挙■

05年9月11日の衆議院総選挙で、小泉首相は、国会で郵政民営化法案に反対票を投じた自民党「造反」議員全員に党公認を与えず、代わりに女優などの有名人を、造反派への対抗馬(刺客)として立候補させる。その名前は?

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■「刺客」に女優M〜9.11総選挙■

 

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【前回「テロとの戦いは幻想」という幻想〜英BBC検証番組が現実のテロに敗北」は → こちら

 

【臨時増刊「8月14日に再々放送〜話題の番組『テロとの戦い≠フ真相』」は → こちら

 

05年通常国会に小泉内閣が提出した郵政民営化関連6法案は、身内の与党自民党議員51名の「造反」に遭い、衆議院では僅差で可決されたものの、参議院では、衆議院の「造反議員」と連動した計30名の参議院議員の反対や棄権・欠席を受けて否決された。

これに怒った小泉首相は05年8月8日、衆議院を解散し、総選挙で国民に「郵政民営化に賛成か反対か聞いてみる」(解散直後の本人の記者会見)ことにした。

 

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となると、造反した議員の選挙区には、郵政民営化に賛成の候補者を擁立し、有権者に「賛成か反対か、どちらか(の候補者)を選べ」と迫る必要がある。

 

かくして小泉は、造反議員を党公認候補とせず、彼らの立候補が予想される全選挙区に急遽、造反議員の対抗馬を擁立する必要に迫られた(読売新聞Web版05年8月11日「自民、造反組全員に対抗馬擁立へ」)。

 

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●25人●

ただ「全選挙区に」といっても、べつに51人もの対抗馬が必要なわけではない。

 

衆議院で郵政民営化法案に「造反」した議員のうち反対票を投じたのは37人で、残り14人は棄権・欠席したにすぎない。小泉も自民党執行部も、51人全員を非公認にすると、党公認候補が少なくなりすぎ、選挙後、連立与党の公明党の議員とあわせても衆議院の過半数241人に届かない恐れがある。そこで、棄権・欠席の14人には「郵政民営化賛成」の念書を提出すれば公認する、という懐柔策をとることにした。これで必要な対抗馬の数は37人にまで減りそうだ。

 

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反対票を投じた「真正造反議員」37人のうち、12人は前回の衆議院選挙では比例代表で当選している。現在の公職選挙法では、比例代表で立候補できるのは政党の公認候補だけで、無所属では立候補できない。そのうえ、無所属候補はポスターも貼れず、政見放送もできないことになっている。

 

造反議員たちは全国各ブロックの比例代表に候補を立てたければ、新党を結成するしかないが、この動きは遅々として進まない。理由は「小泉が退陣したあと自民党に戻りたいので、そのとき(新党の党員になっていると戻りにくいが)無所属のままでいれば戻りやすいから」というムシのいい考えだ(産経新聞05年8月10日付朝刊1面「本格新党を断念」)。

 

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となると、造反議員のうち比例代表の12人を落とすのは簡単だ。党公認をはずせば彼らは比例代表に立候補できないし、元々前回比例代表で立ったのは「選挙地盤が弱いから」にほかならないのだから、放置しておけば、ほぼ全員落選するはずだ。造反議員のうち、選挙地盤の強い、平沼赳夫元経済産業相などの有力議員を除く議員が、比例代表で立つために小規模な「ブロック新党」を作る動きはあるが(産経前掲記事)、そんな「選挙互助会」のような弱小政党に集票力があるはずもなく、惨敗は必至だ。

 

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たとえば、反対票を投じた亀井久興元国土庁長官は以前は、島根3区選出だったが、「1票の格差是正」で島根県への議席配分が減り、区割りが変更されて島根3区(旧「石見国」地域)が廃止されたため、前回03年の衆議院総選挙では比例代表中国ブロックにまわって当選していた。

 

現在の島根県には小選挙区は2つしかなく、1区(出雲市などを除く旧「出雲国」東部)には細田博之官房長官、2区(出雲市など「出雲国」西部と「石見国」全域)には、故竹下登元首相の弟の竹下亘、という2人の現職議員がいる。2人とも郵政民営化法案に賛成しているので、小泉自民党はこの2人を選挙区で公認候補にするほかない。

 

追い詰められた亀井久興は島根2区から無所属で立候補することに決めたが、ここには民主党が、島根県内の単一労働組合としては最大規模の島根県職員労組を支持基盤とする小室寿明・島根県議会議員を擁立する(山陰中央新報Web版05年8月11日「島根2区に民主・小室氏、無所属・亀井氏」)。となると、(「賛成派」の竹下が当選するかどうかはともかく)保守票を竹下と分け合う亀井久興が落選することはほぼ間違いない。

 

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これで、小泉自民党にとって必要な対抗馬の数は25人に減った。

 

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●ものは言いよう●

『週刊文春』は05年7月28日発売の号で、早くも「9.11衆院選」の当落予想を掲載した。

 

それによると、小池百合子・環境相は地元の兵庫6区では「当落線上」にあったようだ(『週刊文春』05年8月4日号「9.11衆院選『全選挙区』完全予測」)。

 

彼女は元々ニュースキャスター出身で全国的知名度は高いものの、これまでに日本新党、新進党、自由党、保守党、自民党と渡り歩いており、地元(兵庫6区)では必ずしも自民党兵庫県連の絶大な支持を得ていたというわけではない。彼女は選挙地盤が重なる他の自民党候補と、交互に小選挙区での立候補を相手に譲って比例代表(近畿ブロック)にまわる「コスタリカ方式」の適用を受けており、前回(03年衆院選)は比例代表だったが、今回は小選挙区から立たなければならないことになっていた。

 

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これは彼女にとっては苦しい。キャスター、環境相として培った全国的知名度も、小選挙区で数万の票を取れば当選できる(民主党の)対立候補の前では(たとえ対立候補の知名度が低くても)意味をなさない(民主党候補は、民主党支持の労働組合から獲得する数千〜数万の組織票に、無党派層の民主党支持票を上乗せするだけでいい)。

 

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そこへ「郵政解散」である。小泉は、造反議員を落選させるための対抗馬が必要になった。

 

対抗馬の条件は、地元小選挙区で(強固な)地盤を持つ造反議員に勝てるだけの、高い知名度を持つ、見栄えのいい人物だ(05年8月11日放送のフジテレビ『とくダネ!』における和田圭フジテレビ解説委員のコメント、同日放送のNTV『情報ツウ』における福岡政行・立命館大客員教授のコメント)。

 

そこで05年8月9日、小泉は(自民党東京都連に相談せずに、やや拙速に)小池を、東京10区に党公認候補として擁立することに決めた。ここは、造反派の急先鋒、小林興起・前衆議院議員の選挙区である。

 

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これは、小泉自民党にとっては、他の選挙区でピンチに陥った候補を、造反議員つぶしの当て馬に活用する「リサイクル」にすぎなかった。が、発表のタイミングが衆議院解散の翌日で、あまりに電撃的で、しかもその当て馬が、大臣で美人で知名度抜群だったため、マスコミは衝撃を受けた。そして、だれから言い出すともなく、小池は、小泉が造反議員を討つために放った「刺客」と呼ばれるようになった。

 

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小泉が東京都連にも諮らずに拙速に「小池擁立」を発表したのは、「電撃的発表」を演出することで「リサイクル」の真相を隠蔽するためだったが、マスコミはまんまとこれに引っかかり、小池に「刺客」の称号を奉ってしまった。

 

かくして、小池の全国的知名度は東京(10区)で息を吹き返し、彼女は一気に「有力候補」に昇格した。

 

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●だれでも刺客?●

こうなると、ほかの選挙区でうまく行かなくなった候補者が(「都落ち」して?)造反議員のいる選挙区に移って来て戦うと、みんな「刺客」になってしまう。少なくともワイドショーやスポーツ新聞はみなそのように表現するはずだ。

 

まことに、小泉という男は、世論操作や「マスコミ使い」のうまい、政局・選挙の天才と言えるかもしれない。

 

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【しかし一方で筆者は、なんとなく「小泉の背後には(大手)広告代理店関係者のブレーンが付いているのではないか」と最近疑うようになった。これは、一政治家のあたまで考え付くような策略ではない。】

 

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とはいえ、「刺客」は急遽立候補を要請されて、造反議員のいる選挙区に割り振られるのだから、小池のように全国的知名度のある「有名人」でないと困る。たとえば、静岡7区選出の城内実・前衆議院議員の場合、郵政民営化法案への賛否を最後の最後まで迷い、結局05年7月5日の衆議院本会議採決で反対票を投じたのだから、小泉も自民党執行部も、その前の段階から静岡7区にゆかりのある候補者(対抗馬)を探すことなどできるわけがない。

 

対抗馬(刺客)探しが本格化したのは、衆議院本会議採決の結果造反者の顔ぶれが判明し、彼らが立つ「造反選挙区」が確定したあとだから、どんなに早くても採決のあと、7月6日以降だろう。その時点で地元にゆかりのある官僚や代議士秘書などから国政に出たい者を探し出すことができたとしても、そういう候補者の顔と名前を、元々9月上旬と予想されていた投票日までの短い期間に、当該小選挙区全体に浸透させるのは容易でない。

 

となると、刺客の資格は「以前よくテレビに出たことがあり、全国どこから立候補しても知名度で勝負できる人」となる。すでに、元TVキャスターの高市早苗・元衆議院議員(元経済産業副大臣だが落選中)を地盤の奈良県から引き剥がして、全国のどこかの「造反選挙区」に擁立する、という予測が出ている(日刊スポーツWeb版05年8月11日「刺客候補に猪瀬氏、橋本聖子参院議員浮上」)。

 

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このほかに郵政民営化担当相の竹中平蔵参議院議員、作家の猪瀬直樹・道路公団民営化推進委員、橋本聖子参議院議員なども「刺客候補」として有力視されている(日刊スポーツ前掲記事)。竹中と橋本は比例代表選出の自民党参議院議員なので、衆議院に鞍替えするために参議院議員を辞めても、前回(04年)参院選における自民党の比例代表候補名簿の名簿順位の次点候補が繰り上がって当選するだけで、参議院における自民党の議席数が減らない、というメリットがある(同様の理由で、舛添要一、荻原健児らの有名な比例代表参議院議員にも「刺客の資格」が十分にある)。

 

これらの「刺客候補」は政治家以外の本業(評論家、作家、スポーツ関係など)で十分に活躍しているため、造反議員と選挙区で保守票を奪い合って「相打ち」になって落選しても、生活に困らない(から、党執行部としても立候補を頼みやすい)という利点もある。

 

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●女優も擁立●

福岡政行・立命館大教授によると、小泉自民党執行部は「有名人からの売り込みが殺到して、候補者調整に苦労しているほどで、全(造反)選挙区への擁立は可能」と自信満々で、女優や芸能・スポーツ関係の「見栄えのいい」有名人も「刺客」として擁立することを検討中、という(前掲『情報ツウ』)。

 

小泉は解散直後の記者会見で「連立与党の自民党と公明党(の公認候補)で(衆議院の)過半数を取れなかったら退陣する」と言っているので、「刺客」は公明党公認候補でもかまわないはずだ。現に東京12区では、同区を地盤とする造反議員の八代英太の対抗馬に、公明党公認候補の太田昭宏を擁立して自民党が推薦し、自民党自体の公認候補は出さない構えだ(八代は、前回03年衆院選では「コスタリカ方式」で、公明党の太田に選挙区を譲って比例代表にまわっていた)。

 

そうなると、公明党の支持母体である創価学会の会員の、有名な芸能人や(元)スポーツ選手はだれでも刺客になりうる。たとえば、元ヤクルト選手で野球解説者の栗山英樹は(国立大学出身で、スポーツを学問的に研究したこともあり、知的なイメージがあるので)小泉執行部としても十分検討に値しよう。

 

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しかし、福岡の言う「女優」候補の最有力は、創価学会に属するお笑い系のH、元歌手のA、アイドル系のIなどではない。おそらく永田町・マスコミ関係者はみな、だれのことかはわかっているのだが、本人や党執行部が何も言わないうちに、現時点で政治家でない「私人」の立候補情報を流して迷惑をかけるといけないので、黙っているのだ。

そこで、大手マスコミに代わって、筆者がその女優の名前をこっそり

(^^;) お教えしよう。

 

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ズバリ、水野真紀だ。

 

彼女の夫は自民党衆議院議員の後藤田正純で、夫は郵政民営化には賛成だから、自民党執行部としても頼みやすい。水野は女優として超有名なので、全国どこからでも立候補できる。万一落選しても職業的には女優に戻ればいいだけだから、たとえば造反派の旗頭、綿貫民輔元衆議院議長や野呂田芳成元防衛庁長官、亀井静香元自民党政調会長、平沼赳夫などの超大物にぶつけて落選しても、まったく傷付かない(「保守票奪い合い」の共倒れで、造反派の大物が国会から消えてくれれば、あとの国会運営が容易なので、小泉にとってはそれだけで十分だ)。

 

もちろん妊娠中なら立候補は難しいが、さきごろ無事に出産も終えたことだし、もはやいつでも立候補可能だ。

 

小泉は、後藤田・水野の結婚式の祝辞で「(夫の)選挙区では、本人よりも奥さんを呼んでくれ、という声が(有権者から)かかるんじゃないか」と冗談を言っていたが、もはや冗談ではなくなった。夫より妻のほうが、造反派つぶしにははるかに有効なのだから。

 

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●靖国より郵政●

尚、後藤田は、首相の靖国神社参拝に関して「慎重であるべき」と述べている(05年8月3日放送のテレビ朝日『スーパーJチャンネル』)。彼のように、小泉の郵政民営化には賛成だが、同じ小泉の靖国参拝には反対(慎重)という議員は自民党内に少なくない(逆に、平沼は小泉の靖国神社参拝には賛成だが、郵政民営化には反対だ)。

 

9月11日の選挙は郵政民営化の是非を問う選挙だ、と小泉自身が解散直後の記者会見で述べているのだから、「余計な争点」を持ち込まないため、小泉は選挙が終わるまで、あるいは選挙後に郵政民営化法案を国会に出し直してそれが再び採決されるまで、靖国神社には参拝しないはずだ。

 

【上記は筆者の純粋な「予測」であり、「期待」は一切含まれていない。】

 

次回は05年8月13〜16日の「melmaの夏休み」(メンテナンスによるメルマガ配信サービス停止期間)が終わったあと、衆議院総選挙の政局について分析する予定。】

 

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