造反ホイホイ
〜シリーズ
「9.11総選挙」
(2)
■造反ホイホイ〜シリーズ「9.11総選挙」(2)■
民主党国会議員には、選挙区の都合で自民党を諦めて民主党を選んだ者が少なくない。05年9月の衆院選で民主党が政権を取れなかった場合に彼らが造反して自民党に寝返るのを防ぐため、小沢一郎・民主党副代表は新党を2つ作った。
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【前回「『刺客』に女優M?〜9.11総選挙」は → こちら】
05年8月8日の衆議院解散のあと、ある民主党幹部は「このチャンス(解散総選挙)を生かし、どういう形であれ政権交代を実現できなければ、民主党そのものが危機に直面する」と語った(産経新聞05年8月10日付朝刊1面「郵政解散空白を超えて(中)『流動的な政権枠組み』思惑交錯する自公民」)。
なぜ危機に直面するのかというと、民主党国会議員のなかには「民主党はすべり止め」(第一志望は自民党)という者がかなりいるからだ。
たとえば、自民党京都府連の公募で選ばれ、今回、05年9月11日の衆院選で京都6区の公認候補となった井沢京子は、同じ時期に民主党の鳥取1区の候補者公募にも応募していたことが確認されている(河北新報Web版5年08月19日「自民公募候補、民主にも 京都6区の井沢氏」)。
また、民主党が今回富山3区に擁立する向井英二は元自民党の県議会議員だ(共同通信Web版05年8月19日「『県民の選択肢広げたい』富山3区、向井氏出馬」)。
反対に、自民党が今回大阪2区の公認候補にした川条志嘉は、昨04年7月の参院選に和歌山選挙区から民主党公認で立候補して次点で落選した、元民主党和歌山県連副代表だ(大阪日日新聞Web版05年8月20日「大阪2区 保守分裂 『刺客』川条氏 自民擁立」)。
つまり、新人候補者にとって、自民党と民主党の間の垣根は無きに等しいのだ。
民主党の国政選挙における候補者公募制が、自民党から立候補したくても希望する選挙区の「空き」がない者たちの受け皿になって来た、という側面は否めない。たとえば、財務省を辞めて政治家をめざす若手官僚はここ数年は民主党から立候補することが多かったが、それは、自民党では、大勢の世襲議員が相当数の選挙区を占領してしまうため、なかなか新人の出る幕がなかったからだ(朝日新聞Web版05年08月14日「候補者争奪、ねらいは財務省 省庁とパイプ『即戦力』」)。
●民主党の大量造反●
民主党は、かつての日本社会党のような、自衛隊廃止を唱える「理想主義」政党ではない。また、05年の選挙戦で「たしかな野党が必要です」(つまり「万年野党が必要です」)などと訴え、ハナから政権獲得を諦めてしまった日本共産党のような「負け犬」政党でもない。民主党は政権を取る意欲があり、経済や国防のイデオロギーも自民党とあまり違わないのだから、元々政治・行政に関心(というより野心)があって官僚になった者にとっては、初めて選挙に出るときの所属政党は、自民党でも民主党でも、当選できればどっちでもいい、ということになる。
これは、司法試験をめざす高校生が大学受験のとき、いろんな大学の法学部を受けてみて、とりあえずうかったところに行く、というのと同じ発想だ。こういう法学部生にとっては、大学生活は通過点の1つにすぎず、ゴールはあくまで司法試験合格、そして裁判官や弁護士になることである。
それと同じように、「とりあえず民主党」で国会議員になった(元官僚の)候補者にとって「政党生活」は単なる通過点の1つにすぎない。ゴールはあくまで首相、大臣などとして自分の能力を発揮することなのだ。
彼らは、民主党が政権を取ってくれて、民主党員のまま大臣へのステップである政務官、副大臣や、与党の幹部になれるなら、当然そのまま民主党員でいる。が、もし民主党が今回05年9月の衆院選で敗北し、当面政権が取れないとすれば、どうだろう?
前回03年11月の衆院選で初当選した民主党議員の場合、今回の選挙までにすでに約2年間、野党議員として、大臣どころか政務官にすら、いつなれるかわからない「浪人生活」をしている。もし今回05年の衆院選で民主党政権ができないなら、次の衆院選はどんなに早くても約1年後だから、通算3年以上の浪人生活ということになる。
元高級官僚ならたいていの場合、大学受験も「二浪」以内、大学卒業も「二留」以内で通過しているはずだ。大学入試や国家公務員上級試験になかなかうからなくて3年続けて無駄にした、などという経験は、まずないはずだから、今回05年の衆院選後に、自民党が政権与党の座を維持した場合、その自民党からの入党の誘いを受ければ、断る理由はないだろう。もちろん、05年までにすでに何年も「浪人生活」を続けている当選3回以上の議員なら、なおさら「これ以上浪人したくない」という思いが強いだろう。
他方、自民党の側でも、たとえ衆議院で連立与党の公明党とあわせて公認候補で過半数を確保でき、政権を維持できても、参議院(05年8月8日の郵政民営化法案の採決)で多くの造反者を出し、重要法案を否決された以上、安定した参議院運営のために、民主党の参議院議員を何人か寝返らせて確実に院の過半数を制したいはずだ。
つまり、今回の衆院選後、自民党が勝っていれば、寝返りたい民主党の若手(中堅)議員と、寝返らせたい自民党執行部とで、みごとに思惑が一致してしまうので、衆参両院で民主党議員の大量造反が予想されるのである。
●止まり木●
とはいえ、いやしくも国会議員たる者、そう簡単に寝返るわけにもいかない。
05年9月12日の民主党の姿を想像してるみると、その時点では民主党の衆議院議員は全員、選挙戦でさんざん自民党批判をして有権者の票をもらって当選したばかりであるし、同じく参議院議員も全員、政府与党の最重要法案である郵政民営化法案に本会議で反対票を投じてから1か月前後しか経っていない。いくら浪人生活がイヤだからといって、いきなり正反対の主張を持つ党に移ることは論理的に難しい。
こういう場合は、半年から1年ぐらい「無所属」として過ごすのが常だ。たとえば、新進党や民主党で自民党を批判し続けた鳩山邦夫・元文相も、民主党から自民党に移るにあたっては、途中で(民主党執行部の要請で)99年の東京都知事選に出馬するために(無党派層の支持を得るために)無所属になったのをうまく利用して、翌00年に自民党に移籍し、自民党公認候補として衆議院議員に当選している。
まあ、「しばらく無所属の立場で見ているうちに、自民党が、私の理念と一致する、よい方向に変わって来たので…」とか「自民党にはいったほうが有権者の期待にも応えられると思い…」という言い訳が成立するためには、だいたい半年か1年はかかる、ということなのだ。
この「半年か1年」の冷却期間に小沢一郎が目を着けた。
かつて93年、非自民連立政権樹立の立役者だった小沢一郎・現民主党副代表は政界の「連立方程式」をよく知っている。
民主党の若手議員らが離党して無所属で過ごすその冷却期間中、彼らは政党の一員でないから当然、政党助成金は受け取れない。また、所属会派(党派)の議席数に応じて比例配分される国会での質問時間もほぼゼロになる。これは政治家としては相当に心細い。
もし冷却期間中の民主党離党者が羽を休めることのできる、自民党でも民主党でもない、止まり木のような政党があったら、彼らは政党助成金や質問時間ほしさに喜んで入党するはずだ。
そこで小沢は友人に頼んで、国民新党、新党日本という2つの「止まり木」を作ってもらった。
前者は、小沢の自民党員時代から小沢と親交が深く、小沢に新党結成をたきつけられて自民党を離党した綿貫民輔・元衆議院議長を党首とし、おもに農村部出身の自民党の郵政民営化法案造反議員を3名集め、さらに小沢の腹心、田村秀昭参議院議員を送り込む形で発足した。
また後者は、小沢を「もっとも尊敬する政治家」と仰ぐ、03年11月衆院選で民主党のマニフェスト(政権公約)作成にも参加した田中康夫長野県知事を党首とし、おもに自民党の都市部出身の造反議員を集めて発足した(朝日新聞Web版05年08月24日「〈追跡・政界流動〉小沢氏『表』に」)。
マスコミはこの2党を、小沢が民主党(と自民党造反派)の連立政権を作るために、造反議員を受け止めるために作った「外堀」と理解している。が、民主党が今回の衆院選で負けた場合に民主党から造反し、打ち上げ直後のスペースシャトルの、耐熱タイルのようにばらばらと、締まりなく剥がれ落ちる若手議員たちを、まっすぐ自民党に行かせないための「内堀」としての機能も、この2つの新党は持っているのだ。
05年9月の衆院選で民主党が過半数の議席を取れず、政権も取れなかったとき、もし「外堀」も「内堀」もなければ、選挙後、自民党執行部は半年か1年のうちに衆参両院で、自民党造反議員も民主党若手議員もごっそり奪い取り、自民党の永久与党体制を確立してしまうだろう。つまり、民主党は中小政党、万年野党に転落し、2大政党制は崩壊して、日本は半永久的に政権交代のできない国になってしまう可能性が高いのだ。
しかし「内堀」があれば、民主党の造反議員はそこで捕捉され、おそらく1年以上は自民党への入党をためらう。自民党造反議員も「外堀」があるなら、しばらくそこで羽を休めて「新党として自民党と連立政権を組むかどうか」様子を見ようという気になるだろう。
なぜなら、05年9月の衆院選で与党が勝利して、その後の特別国会で郵政民営化法案が可決されてしまうと、その後別の政治課題をめぐって、自民党が再び割れる事態が想定されるからだ。
憲法9条の改正案や靖国神社の位置付けをめぐっては、自民党、民主党それぞれの内部でもかなり大きな意見の相違があるので、両党とも割れて政界大再編になる可能性もある。そのとき確実に「勝ち組」にはいって与党の一員になるためには、造反議員たちは、形勢が定まらないうちに軽々しく、元の所属政党への復党や、元の党との(吸収)合併はしないほうがいい。だから「外堀新党」はしばらく生き続ける。
そして、タイミングを見計らって新党を民主党側に、連立政権を組むパートナーとして引き寄せることができれば、民主党は「政権交代」を実現でき、大政党として生き残ることができる。
8月23日、小沢はTVに生出演し「いずれ次の解散・総選挙が近いと思う。これは私にとっても最後の勝負だ。今回で政権を取れればいちばんよいが、次の解散を含めて全力を尽くしたい」と述べ(05年8月23日放送のTBS『イブニング5』、産経新聞05年8月24日付朝刊5面「政権交代に全力 小沢氏『次の解散 最後の勝負』」)、今回の05年衆院選に負けた場合を想定していると明言しているので、2つの新党は次の総選挙で政権を奪取するための伏線と見てよいだろう。
【岡田克也・民主党代表は解散後「民主党で単独過半数をめざす」「(2つの)新党は自民党B、自民党Cにすぎない(から連携しない)」「今回の衆院選で政権を取れなければ代表を辞める」と妙にいさぎよい決意を示している。が、それだと、たった1回の総選挙の結果で2大政党制が終わってしまう恐れがある。いやしくも野党第1党の党首たる者、そんな危険な賭けはすべきでない。「2大政党制を終わらせる権利」などだれにもないのだから、小沢の伏線を利用し、捲土重来を考えるべきだ。】
●勝っても参院の壁●
万が一民主党が05年9月の衆院選で単独過半数を取り政権を取ったとしても、参議院では81議席しかないので、過半数の121議席に遠くおよばないままだ。衆議院で過半数があれば、首班指名と予算案の成立には困らないが、予算関連法案などの重要法案が参議院で否決される恐れがあり、民主党政権はすぐに行き詰まるだろう。
その場合、たとえ公明党が自民党と別れて民主党と連立政権を組んだとしても、公明党の参議院での議席は24しかないので、これを足してもまだ参議院における(連立)与党の過半数割れは解消しない(さらに社民党の5名や無所属議員7名が全員、民主党政権に合流しても、まだ117議席にしかならず、過半数に達しない)。
となると、民主党は衆参両院で過半数を取るために、自民党造反派とも連立を組む必要に迫られる。
つまり、民主党は05年9月の衆院選で勝ったとしても、自民党造反議員を自分たちの側に引き込まない限り安定した政権運営はできないので、どちらにころんでも、造反議員を集める「止まり木」としての新党を用意しておく必要があるのだ。
●民・自大連立●
但し、たった1つだけ、止まり木も何も用意せずに民主党が安定した政権与党になる方法がある。それは、民主党と自民党の「大連立政権」の樹立だ。
これは、けっして絵空事ではない。なぜなら、自民党も民主党も、憲法改正を政治日程に載せているからだ。
現行憲法は制定後60年近く経ち、国防、環境、プライバシーなどの規定が不十分であることがはっきりして来ている。どこをどう変えるかはともかく、自民党と民主党とでは、憲法改正が必要なことでは意見が一致している。
現行憲法第96条第1項の規定により、憲法改正案が国会を通過して、最終手続きである国民投票に付される(国会から国民に発議される)ためには、衆参両院でそれぞれ総議員の2/3以上の賛成が要る。つまり、改正のためには、与党(自民党、公明党)と野党(民主党)がそれぞれ独自の改正案を持ち寄って「わが党の案が最高」と言って採決するだけではダメなのだ。与野党の案を付き合わせて一致点をみつけ、衆参両院それぞれで2/3以上の議員が賛成するような折衷案を作り、それを与野党議員の賛成で両院で可決して「発議」しなければならないのだ。
ここで重要なのは2/3という数値だ。自民党と公明党の議員数を足しても、たぶん衆参いずれの院でも2/3にはならない。民主党と公明党でもそうだ。ところが、自民党と民主党を足すと、公明党を足さなくても、たぶん両院でそれぞれ2/3を超えるのだ。
つまり、近い将来、自民党と民主党が憲法改正問題で緊密に協力し、それをきっかけに公明党をのけ者にして連立政権を組む、という可能性は十分にあるのだ。
公明党にとっては悪夢のようなシナリオだが、自民党は結党50周年にあたる05年11月には党独自の憲法改正案を、公明党の意向とは無関係にまとめる予定だし、自民党支持者の大半は元々公明党が嫌いなので、だれも「ない」とは言い切れまい。
【上記は筆者の純粋な「予測」であり、「期待」は一切含まれていない。】
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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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