組分け抽選の
操作を読む
〜06年
W杯サッカー
本大会
■組分け抽選の「操作」を読む〜06年W杯サッカー本大会■
05年12月9日に行われる06年W杯サッカー本大会の組分け抽選では、日韓は南米やアフリカの準強豪と同じ組になりそうなので、決勝Tに進出するには抽選結果を「操作」する必要がある。
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【前回「日韓野球格差〜半永久的に変わらぬ構図」は → こちら】
国際サッカー連盟(FIFA)の06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会予選リーグ(L)の組分け抽選が、05年12月9日に開催国ドイツで行われる(出場32か国一覧は06年W杯FIFA公式サイトを参照)。
●組分け抽選の不正●
筆者は前世紀からこの抽選には何か「操作」が施されているのではないかと疑って来た(小誌97年12月14日「『ドーハのひいき』はまだ続く」)。
なぜなら、W杯の地区予選でも本大会予選Lでも、日本代表が常に「比較的弱い相手ばかりの組」にはいり、有利に扱われているように思われたからだ。
サッカーは全世界で愛好されているスポーツなので、スポーツビジネスとしては世界最大だ。が、世界の国内総生産(GDP)の1位、2位を占める2大経済大国、米国と日本では伝統的にサッカーよりも野球など他のスポーツのほうが人気がある。もしFIFA幹部がもっとサッカーを発展させ利益を拡大したいと思うなら、日米2大経済大国でサッカーを盛んにすべきだ。
だから、FIFAは米国では女子サッカーの普及に努め、日本には、国際大会で日本代表の成績が上がって国民的関心が高まるように、有利な組分けを与える……それがFIFAの最重要戦略なのではないか、そのために、組分け抽選結果を「操作」するぐらい、FIFAはやるのではないか、と筆者はずっと疑って来た。
そして、その疑いは、02年にはっきりした。
日韓共催となった02W杯サッカー本大会の組分け抽選の前、サッカーファンが少なく(また、国民が外国の一流選手になんの敬意も持たない国柄のため)入場券の売り上げ不振に悩む韓国側主催当局KOWOCは、韓国の隣国で観光客の大量動員が見込める中国を予選Lの(日本ラウンドではなく)韓国ラウンドの組(A〜D組)に入れたいと主張したのだ(小誌02年5月28日「●韓国の露骨な『くじ引き干渉』〜2002年W杯サッカーのディープスロート」)。
当時、産経新聞は抽選前日の01年11月30日付の社説(主張)で、中国がA〜D組にはいることを「予言」し、翌12月1日、それは「的中」した(小誌前掲記事)。つまり、組分け抽選結果は「操作」できるのだ。
02年までの歴史から推測すると、06年本大会予選Lの組分け抽選では、開催国ドイツ、ジョセフ・ブラッターFIFA会長の母国スイス、鄭夢準(チョン・モンジュン)FIFA副会長の母国・韓国、そして国際スポーツビジネスに大きな影響力を持つ(「公式スポンサー」制度を発明した)某大手広告代理店A社の本社がある日本、の計4か国が中心となって「操作」をすると疑われる。
もちろん「日米の2大経済大国でサッカーを盛んにしたい」というFIFAの基本戦略はいまも生きているだろうから、米国への配慮もされるだろう。が、今回はスイスが出場している点が重要だ。
スイスは国が小さすぎて、W杯本大会の開催はほぼ不可能だ。06年のW杯本大会はスイスの隣国ドイツで開催され、スイスにはドイツ語を話す国民が大勢いる。つまり、06年本大会は事実上、スイスにとっては、望みうる限りもっとも望ましい形での「地元開催」なのであって、ブラッターはスイス代表が決勝トーナメント(T)に進出できるよう、最大限の努力をするはずだ。
●「死のグループ」は不要?●
尚、06年大会の重要な点の1つに、アフリカ勢のナイジェリアが出場していない点が挙げられる。ナイジェリアはブラックアフリカ最大の人口と石油生産量を誇る大国で、アフリカの盟主を自認し、しばしば近隣諸国に軍事介入している(外務省Web 04年7月「最近のナイジェリア情勢と日・ナイジェリア関係」)。
が、石油利権をめぐる汚職や内戦、野党政治家への弾圧などの人権問題により、欧米から非難されることが多い。たとえば、英国を盟主とする英連邦は、90年代、当時のアバチャ軍事独裁政権による人権弾圧を理由にナイジェリアに制裁を加えている(外務省Web 97年「ナイジェリア 基礎データ」)。
99年、軍事独裁政権は終わったものの、逆にタガがはずれて少数民族の内戦が激化し始めた。それにもかかわらず、依然として「アフリカの盟主」意識だけは健在で、国際イベントの招致に熱心なので、欧米から見ると「生意気」に見える。
ナイジェリアは、人口の多さと黒人特有の身体能力の高さを活かして、W杯や五輪のサッカーでは好成績を挙げるのが常だが(96年アトランタ五輪本大会では優勝)、このままナイジェリアが勝ち続けると、「黒人代表」として世界サッカー界で大きな発言力を持ち、欧米白人のFIFA幹部に対して「FIFA会長選に立候補したい」などと言い出す懸念がある。
現にナイジェリアは、99年の世界ユース(U-20)サッカー選手権大会では開催権を要求し、実現しているし(フィリップ・トルシエ監督が小野伸二ら当時20歳以下の日本代表を率いて準優勝した、あの大会)、02年にはなんと五輪本大会招致を検討したことすらある(英BBC Web 02年8月20日「Nigeria plans 2012 Olympic bid」)。
【ナイジェリアは、国連安全保障理事会の常任理事国が拡大される場合は、「子分」にしている近隣諸国の支持を得て、自身がその1国になるつもりでいた。日本はこうしたアフリカ世論に配慮して、国連安保理改革を提唱し、事実上「新たな常任理事国は日本、ドイツ、インド、ブラジルとアフリカの2か国」とする趣旨の改革案(G4案)を05年の国連総会に提出しようとしたが、米国などの反対で挫折した。理由はいろいろあるが、ナイジェリアの発言力増大を米国が嫌ったことも一因だろう。
欧米白人がいちばん好きなブラックアフリカの国は、黒人政党と白人政党が連立政権を組んでいる(経済を白人が支配している)南アフリカ共和国であり、だからこそ10年W杯本大会は南アフリカで開催されるのだ。
ほかに、A代表に白人のゴールキーパーを擁する、「白黒共生」型の産油国アンゴラも、欧米白人に好かれそうな国である。】
上記の中国の組分けと違って「操作された」という報道はないが、(結果的に)FIFAは02年W杯サッカー本大会予選Lではナイジェリアをイングランド、アルゼンチンなどの強豪と同じ「死のグループ」(F組)に入れて「制裁」し、その決勝T進出を妨害している(産経新聞Web版01年12月2日「死のグループ F組」)。
ほかに、フランスで開催された98年本大会でも、ナイジェリアはスペイン、パラグアイなど強豪ひしめくD組に入れられている(このときは決勝Tに進み、初戦でデンマークに大敗。大会公式Webを参照)。
ナイジェリアの政治が石油利権をめぐって腐敗しているのは、実は欧米石油資本のせいなのだが(05年7月23日放送のNHKスペシャル『アフリカ ゼロ年』)、そんなことは棚に上げて、FIFAの白人幹部たちはナイジェリアを嫌っている(少なくともひいきしたことがないのは間違いない)。
そのナイジェリアが出ないのだから、06年本大会では意識的に「死のグループ」を設ける必要はないはずだ。
●ポット制●
とはいえ、本大会の組分け抽選には伝統的なルールがあり、いくら開催国でも、そう簡単に自分の組に弱い相手ばかり集めるわけには行かない。
そのルールとは「ポット制」だ。出場32か国はまず4ポット(4シード)各8か国ずつに分けられる。
第1ポットは、過去の本大会の実績やFIFAの国別ランキングを考慮して選ばれる「優勝候補」と開催国で、具体的には欧州のドイツ、フランス、イタリア、スペインなどの6強と南米のブラジル、アルゼンチンの2強になると予想される。
抽選は、まずA〜Hの各組にこの「8強」を割り振ったあと、その相手となる各組残り3か国を、なるべく同じ大陸の国同士が重ならないように配慮しながら行う。
このため、第2ポットは第1ポットの6強を除く欧州勢8か国になる。06年本大会に出場する欧州勢は合計14か国なので、第2ポットの組分け抽選が終わった時点で欧州勢の割り振りはすべて終わり、どの組にも欧州勢が3か国以上はいらないことが保証される。
問題はこのあとだ。
以下、日韓のはいるポットを第4ポットと仮定して議論する(第3ポットでも第4ポットでも、第1、第2ポットの強国2か国とあたる確率には変わりがないからだ)。
今回、南米勢は2強を除いて2、アジア勢は4、北中米(カリブ海)勢も4、アフリカ勢は5、オセアニア勢は1(オーストラリア、豪州)である。
つまり残り16か国を2つのポットに分ける必要があるのだが、日韓にとっては不幸なことに、アジア勢と北中米勢を足すと8になって、それで1つのポットが埋まってしまうのだ。
もし、アジア対北中米のプレーオフでバーレーンがトリニダードトバゴ(TRI)に勝っていてくれれば、アジア勢は5か国になるので、1つのポットを埋めるために、アジア勢と南米の残り2か国と豪州とを組み合わせることが可能だった。さすれば、日韓は南米の準強豪、パラグアイとエクアドルと同じ組にはいらないことが保証されたはずだ。
しかし、バーレーンは敗退し、アジア勢は4、北中米勢も4となった。この結果この2大陸の代表だけで第4ポットが埋まってしまうので、第3ポットには南米勢2、アフリカ勢5と豪州がはいることになる。
すなわち、日韓はそれぞれ確率7/8で、南米勢またはアフリカ勢と対戦することになるのだ。
例によってアフリカ勢は身体能力が高いから、日韓には難しい相手だし(05年6月12日放送のテレビ朝日『Get Sports〜祝 W杯出場決定!! しかし本大会で惨敗?』でのサッカー解説者・中西哲生の発言)、サッカーの盛んな南米でしばしばブラジルを苦しめるパラグアイとエクアドルも相当に手強い。
つまり、最悪の場合、たとえば、
「アルゼンチン、スウェーデン、ガーナ、日本」
「スペイン、スウェーデン、パラグアイ、韓国」
などという組み合わせがありうるのだ。
これは辛い。どっちも3連敗しそうだ。
日韓としてはなんとしてでも、第3ポット最弱の豪州と同じ組になりたいところだ。
が、豪州との対戦は当然ドイツ、スイスもねらっているはずだ。韓国は前回02年本大会では、実力とは無関係に、怪しげな「誤審」の連続で決勝Tに進出し(不正に)ベスト4になったので(小誌02年6月13日「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)、今回開催国を相手に横車を押すのは難しかろう。02年に「誤審」の犠牲になったのは、ポルトガル、イタリア、スペインといった欧州勢ばかりだったのだから、今回欧州諸国は韓国に「借りを返せ」と言える立場にある。
だから、よほど悪辣な裏取引(審判への組織的買収)がない限り、06年本大会では韓国の決勝T進出は、まずないだろう。
●弱国争奪戦●
ただ、日韓にとって幸いなのは、ドイツとスイスが北中米の弱国コスタリカ、TRIと同じ組にはいれることだ。この2か国と同じ組になれるなら、ドイツもスイスも「何がなんでも豪州をよこせ」とは言うまい。
それに、アフリカ勢のなかでもサハラ砂漠以北の(黒人でなく)アラブ人の国は、あまり強くない。出場5か国のうちチュニジアがそれに該当し、この国は02年本大会予選Lでは日本に完敗している。
日本にとって望ましいのは、同じ組の第3ポットにチュニジアか豪州が来てくれることだ。
あるいは、いっそのこと、開催国ドイツと同じ組になるという手もある。
ドイツは第3ポットには必ず弱国を選ぶはすだし、可能なら第2ポットにも欧州最弱の国(02年本大会で「誤審」なしで韓国に敗れたポーランドなど)を持って来るだろうから、日本にとっては、なんとか勝てそうな相手が2つ来ることになる。
ドイツにとっても、ドイツから見れば十分に弱国である日本が第4ポットで来てくれることは(メキシコや米国と同じ組になるより)明らかに望ましい。
この取り引きは成立する可能性がある。
成立すれば、たとえば、
「ドイツ、ポーランド、日本、豪州またはチュニジア」
となり、これが日独の理想だ。但しドイツ(とスイス)は
「ドイツ、ポーランドまたはスイス、コスタリカまたはTRI、豪州またはチュニジア」
でもいい。
一方、韓国にとって望ましいのは、02年本大会のときの「借り」のある欧州勢となるべく対戦しないことで、たとえば
「ブラジルまたはアルゼンチン、ポーランド、韓国、豪州またはチュニジア」
である。しかし、これは日独の理想とバッティングするので、調整が必要だ。
【第2ポットの抽選で「操作」が可能なら、ポーランドは奪い合いになるが、スイスは自身が第2ポットでありポーランドと同じ組なので、この争奪戦には加わらない。したがって、韓国がポーランドを取る可能性は少ないながら、ある。】
●操作の手口●
ところで、具体的に抽選結果の「操作」はどのように行うのだろう。
カギは、第3ポットでのパラグアイ、エクアドルの扱いだ。この2か国を含む第3ポット8か国の抽選は単純ではない。普通に抽選すれば、両国はそれぞれ確率2/8で同じ南米勢のブラジル、アルゼンチンと同じ組になってしまうからだ。
が、過去の例から判断すると、予測できる。
今回の第3ポットの抽選では、南米勢が同じ組に2か国はいることを避けるために、抽選の途中でくじのはいった箱の中身を入れ替えるはずだ。
これこそまさに「不正の温床」だ。入れ替える際には、あらゆる操作が可能ではないか。
高校野球の組み合わせ抽選会でもそうだが「同じ地域同士が(初戦で)対戦しないように」という、一見もっともらしい大義名分が、実はいちばん怪しいのだ。
98年、02年の本大会の抽選では、大陸別出場国数が偶数でないところが多く、「端数」がたくさん出たので、箱の中身の入れ替えは何度も行われ、不正操作はまさに「やりたい放題」だった。
まさか今回「メキシコを第1ポットに入れて欧州勢の1か国を第3ポットに…」「アジア・アフリカ勢9か国を第3ポットに入れて、余った1か国を…」などとムリヤリ端数を作るような露骨な操作はしないと思うのだが……。
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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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