実は弱いブラジル

 

〜シリーズ

「06年W杯サッカー

壮行試合の謎」

(2)

 

(June 01, 2006)

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■実は弱いブラジル〜シリーズ「06年W杯サッカー壮行試合の謎」(2)■

 

06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会の優勝候補ブラジルも(06年ワールドベースボールクラシックの優勝候補、米国と同様に)事前の壮行試合など、チーム作りをおろそかにしているので、審判に助けてもらえない場合は、決勝トーナメント進出は難しい。

 

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■実は弱いブラジル〜シリーズ「06年W杯サッカー壮行試合の謎」(2)■

 

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前々回、小誌06年5月8日「韓国1勝、もう確定〜06年W杯サッカー壮行試合の謎」で、06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会予選リーグ(L)初戦における韓国A代表の初戦の相手トーゴA代表は、ほとんど壮行試合(強化試合)をせずに本番に臨むので、韓国の1勝は確実だと述べた。

 

壮行(強化)試合とは、代表チームの主力選手全員が参加して各国A代表などの強い相手と戦うことにより、ふだん別々のクラブチームに所属している選手同士の連携プレーを実戦テストし、自分たちの弱点を発見し修正するために行うものだ。このため、トーゴは06年6月2日にリヒテンシュタイン(LIE)A代表との試合(国際Aマッチ)を組んだ。

 

が、前々回述べたとおり、こういう試合では、相手が弱いと自らの弱点が露呈しないので意味がない。そして、LIEはW杯本大会に出場しない、国際サッカー連盟(FIFA)国別ランキング123位(06年5月現在。以下同)のサッカー小国であり、弱すぎる。だからトーゴは、その前後にW杯本大会出場国のコスタリカ、サウジアラビアとAマッチをしたかった(FIFA Web 06年4月18日「Togo confirm five friendly dates」)。

 

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●サウジの意地悪●

が、06年5月27日にドイツで開催する方向で交渉していたコスタリカA代表との試合は実現せず、結局、地元プロチームのリザーブ(補欠)チームとの試合に替わってしまった(FIFA Web前掲記事ほか)。

 

他方、サウジとの試合は、サウジ側の「強行日程」のせいで5月14日に前倒しされた。

 

前々回述べたように、FIFAは選手の休養のため、5月15〜22日はA代表の試合を禁止している。サウジA代表は禁止期間明けに

 

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5月26日 チェコ

5月31日 トルコ

6月4日 アルゼンチン

6月7日 ボスニアヘルツェゴビナ(BIH)

 

と、平均「中3日」の間隔で4試合ものAマッチを組んでいた。W杯本大会の開幕は6月9日なので、サウジがトーゴと戦えるのは事実上5月23日しかないことになる。

 

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ところが、サウジは、ドイツのブレーメンで5月20日にメキシコとAマッチを行う、とも発表していた(International Friendlies 06年3月15日「Saudi Arabia Face Iraq Today In First Of Eight World Cup Warm-Up Matches - 'Al Sugour' Also Face Uruguay, Mexico, Poland & Egypt」)。

 

これは、上記の「禁止期間」中なのでもちろんルール違反だが、なぜか4月まではFIFA公式WebのサウジのAマッチ日程欄(FIFA Web「KSA」)にも載っていた(が、その後削除した)。

 

5月20〜26日にサウジがメキシコ、トーゴ、チェコと「中2日、中2日」で3試合を戦うのは試合間隔が短すぎ、選手の疲労が懸念される。おそらくそれを理由にしたのであろう。サウジはトーゴとの試合を5月23日ではなく、禁止期間にしたいと主張し、結局それは5月14日にオランダで行われた。

 

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が、その日はまだ欧州のクラブにとっては欧州チャンピオンズリーグ(CL)の開催中、つまりシーズン中であり、各クラブには所属選手を拘束する権利がある。そして、トーゴ代表の主力選手はほとんど全員欧州のクラブに所属している。

 

案の定、大勢のトーゴ代表選手が欠場した(FIFA Web 06年5月14日「KSA 1:0 TOG」)。翌15日に発表されたトーゴ代表メンバーのうちGKアガサ、DFアバロ、DFアセモアサ、MFアジアウォヌ、FWアデバヨルの5人が14日のサウジ戦に出ていない(FIFA Web 06年5月15日「Pfister names Togo squad」)。

 

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理由は不明だが、トーゴは、上記の5人を自由に招集できる06年3月1日の国際マッチデー(小誌前掲記事)に試合をしなかったので、今年06年、W杯本大会前に行うAマッチは、LIE戦のほかにはこのサウジ戦しかない。が、この試合には、英アーセナルの一員として欧州CL決勝(06年5月17日開催)に出場したアデバヨルは当然出ていない。したがって、トーゴ代表の中盤の選手たち(MF)がアデバヨルへのパスを実戦テストする機会は、LIE戦しかない。

 

が、上記のようにLIEは弱いので、トーゴ代表選手の連携に弱点があってもLIE戦では露呈しないから、トーゴはそれを本番前に修正できない。もちろん、LIE戦で「初対面」となるトーゴ守備陣(DF)の連携にも同じ問題がある。かくしてトーゴは深刻な弱点を抱えたまま、6月13日に本大会初戦の韓国戦に臨むことになる。

 

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【この5月14日の試合のあと、なぜかサウジは6月4日のアルゼンチン戦、7日のBIH戦を中止した。が、代わりにトーゴがサウジと試合をすることは、もはや不可能だ。】

 

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●サウジの事情●

韓国は、02年W杯サッカー本大会の6月14〜22日の「不正な」勝利で明らかなように、真の実力はかなり低い(前日、06年6月13日配信の小誌の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)。

 

が、もっと大胆な不正を働いている「常習犯」がいる。それはサウジだ。

韓国の「不正」は代表チーム結成後の「試合結果」に限られるが、サウジの場合は、チーム作りの段階からすでに「工作」がある。

 

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サウジは本来アラブ人の国だが、豊かな石油収入を財源とする「高福祉負担」の恩恵を受けて、アラブ系の全国民が(ろくに働きもせずに)中流以上の生活を満喫しているハングリー精神の乏しい国だ(竹下節子『不思議の国サウジアラビア』文春新書01年刊)。そういうアラブ人を集めて代表チームを作っても、とてもW杯本大会には出られない。

 

そこで、サハラ砂漠以南のブラックアフリカ諸国から来た黒人の移民労働者やその子孫のなかから運動神経のいい少年を帰化させてサウジ国内(か中東近隣のイスラム国家)のプロサッカーリーグのチームに入団させ、そのなかから代表チームの大半の選手を選抜している。

 

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もちろん、国内(近隣)だけでプレーしていては、国際レベルの選手は育たない。日本代表MF中田英寿(英ボルトン所属)らの「海外組」がしているように、欧州の一流クラブに「武者修行」に出て国際経験を積んで、その貴重な経験をW杯本大会開催年に本国に持ち帰る、ということでないと、なかなか代表チームのレベルは上がらない。

 

だから当然、サウジ代表の主力選手も欧州のクラブに武者修行に出る……かというと、そうではない。

 

サウジは世界一戒律の厳しいイスラム国家だ。国内では、酒を飲んだら鞭打ちの刑に処せられるし、女性は家の外で顔や肌を見せることは一切禁止されている。つまり、酒は飲めないし美人も拝めないのだ。

 

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そういう国の、親や本人がサウジ国外で生まれた(元々愛国心の薄い)選手を、たとえばフランスのクラブに移籍させたらどうなるか。フランスはサウジと違って「酒はうまいし、ねえちゃんはきれい」な、天国のような国なので、そこで才能を評価された黒人選手はいとも簡単にサウジ国籍を捨て、フランスに帰化してしまうだろう。

(^_^;)

つまり、サウジ代表選手の場合、欧州で武者修行をすると、みんな「脱走」してしまうので、代表チームに「海外組」はありえない。06年5月15日に発表されたサウジ代表チームのメンバーも全員、国内(か近隣)のクラブに所属する「国内組」(正確には「中東組」)だ(FIFA Web 06年5月15日「Paqueta reveals pick for Germany」)。

 

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国際経験のほとんどない選手だけで代表チームを組んで決勝トーナメント(T)に進出できるほど、W杯本大会は甘くない(サウジは98〜02年の本大会では予選Lで敗退)。だから、サウジは韓国とともに本来は決勝Tに進めないはずのサッカー後進国なのだ。

 

サウジ、韓国はともにサッカーの競技人口がきわめて少ないにもかかわらず、国威発揚の手段としてムリヤリ国際大会で実績をあげたい、という点で利害が一致している(日本やイランのように競技人口の多い国は、国内にプロリーグを起こし、ユースチームを整備して底辺を拡大し、一流選手を欧州に武者修行に出せば、必ず代表チームのレベルが向上するが、サウジや韓国の場合は、そのような「正攻法」では永遠にレベルは上がらない)。

 

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06年、サウジは、韓国の「宿命のライバル」である日本とのAマッチの日程を勝手に変更して(小誌前掲記事「韓国1勝、もう確定」)日本がマッチデーにフルメンバーで壮行試合を行うのを妨害しようとし(日本は2月28日にBIH戦を代替開催)、さらに、韓国の初戦の相手トーゴからはフルメンバーのAマッチの機会を奪った。

 

サウジはマッチメイクのルールを二度も破ったのだからFIFAから処分を受けるべきだし、「共犯」のメキシコも同様だ。が、韓国人の鄭夢準(チョン・モンジュン)がFIFA副会長を務めている現状では、それは望めない。

 

今後、この3か国が「同盟」を結んでさらなる「不正」を働かないよう監視する必要がある。

 

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●韓国の不安●

サウジの協力(?)によりトーゴの弱体化が成功したので、韓国は安心している……かというと、そうではない。実は、韓国には一抹の不安がある。それは、韓国の、06年のAマッチの日程に表われている(FIFA Web「KOR」):

 

3月1日 アンゴラ

5月23日 セネガル

5月26日 BIH

6月1日 ノルウェー

6月4日 ガーナ

 

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と戦う5試合のうち、なんと3試合がブラックアフリカ諸国との対戦である。しかも最後もそうである。

 

通常、本番直前の最後のAマッチは、オーストラリア(豪州)が6月7日にLIEと、日本が6月4日にFIFAランク125位のマルタと戦うことで明らかなように、それまでの試合と違ってわざと弱い相手を選び、「楽勝して自信を付けてから」本番に臨むためにするものだ。が、韓国の場合は、最後の試合も本大会出場国ガーナ(ランク48位)とのAマッチだ。

 

これはアフリカ勢を恐れている証拠だ。

たしかにトーゴはチーム作りが不十分な状態で韓国との初戦に臨む。が、アフリカの黒人選手のなかには、驚異的な身体能力を持つ者がいる。そういう選手は、チーム内の選手間の連携も組織的な守備もおかまいないしに、超人的な個人技で局面を打開してしまうことがある。過去のW杯本大会でも、ブラックアフリカの守備的な選手が守備の連携を無視して攻め上がり、1人で勝手にゴールを決めた例がある。これをやられると、欧州の強豪国でもお手上げだ。

 

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もちろん、そんな乱暴な方法で取れる点はせいぜい1点だ。

 

とはいえ、元々競技人口の少ない「サッカー小国」である韓国は自分に自信がない。もしトーゴに上記のような「常識はずれ」の点を奪われ「0-1」か「1-1」でトーゴに勝てないとなると、予選Lのあとの2試合で勝てないことがほぼ確実なだけに(小誌前掲記事)、韓国は06年本大会は勝ち星なしに終わってしまう(もし、日本が1勝でもすれば、韓国は国を挙げて屈辱を味わうし、何より、韓国自身の成績が「0勝」なら、前回02年W杯本大会での「ベスト4」という成績がまぐれか「不正」であったことが全世界に明らかになってしまう)。

 

だから、韓国は「万が一を考えて」「トーゴにだけは確実に勝ちたいので」アフリカ対策を重視しているのだろう。

 

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【但しこれは杞憂だ。韓国がここまで「アフリカ対策」に神経質になるのは、前回02年本大会のときと違って審判が「誤審」で韓国を助けてくれる可能性が低い、と事前にわかっているからではないか。次回以降あらためて述べるが、今回の審判は前回の審判に比べて、かなり誤審(不正)が少なくなりそうなのだ。】

 

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●ブラジルの宿命●

ところで、06年W杯本大会優勝候補のブラジルが本番前に行うAマッチもトーゴ並みに少なく、3月1日のロシア戦と6月4日のニュージーランド(NZL)戦しかない(FIFA Web「BRA」)。

 

しかも、ロシア戦にはMFロナウジーニョ(スペインのバルセロナ所属)が召集されておらず、FWロビーニョ(同レアルマドリード所属)も召集されたのに試合に出なかったし、FWロナウド(同)、DFロベルト・カルロス(同)、MFカカ(伊ACミラン所属)も後半の20分前後はプレーしていないので、壮行(強化)試合としてはほとんど意味がない(FIFA Web 06年3月1日「RUS 0:1 BRA」、同5月15日「Parreira's squad offers no surprises」)。つまり、「魔法のカルテット」と呼ばれるブラジル攻撃陣は、今年06年はまだ一度も実戦テストをしていないのだ。もちろん本番直前のNZL戦には上記の主力選手は全員出るだろうが、これは相手が弱すぎる(ランク118位)。

 

となると、「カルテット」は本大会予選L(F組)初戦のクロアチア戦を「壮行試合の代わり」にすることになるので、少なくとも前半の45分間はまともに機能しないだろう。実はブラジルは、02年W杯本大会初戦のトルコ戦で苦戦し、韓国人主審の大誤審に助けられて辛勝した、という「実績」がある(あまりにひどい誤審だったのでトルコ国内では「反韓感情が高まる」とさえ言われた。共同通信02年6月14日付「韓国人主審判定、南米で誤審論争」)。また、96年のアトランタ五輪本大会初戦でも、ロベルト・カルロスらを中心とするブラジル五輪代表は「DFとGKが味方同士で激突し転倒して失点」するなど大混乱に陥り、「0-1」で日本に敗れている。

 

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なぜブラジルは初戦に弱いのか……それは、主力選手のスーパースターたちが本番前の壮行(強化)試合を嫌がるからだ。彼らは祖国ブラジルよりはるかに豊かな欧州の一流クラブで天文学的な数字の報酬(1試合あたり数千万円)をもらってプレーしている。他方、祖国のサッカー協会が彼らに支払う壮行試合の報酬はそんなに高くない。

 

「安い報酬で強い相手と壮行試合をやって怪我でもしたら大損するから、出たくない」という彼らを招集するのは至難の業で、ロビーニョのように、ロシア戦での召集に応じながら試合に出ない、という「横着者」まで出る始末だ。これでは、06年ワールドベースボールクラシック(WBC)で、優勝候補と目されながら二次リーグで敗退した米国代表と同じで、いくらスーパースターを集めても、代表チームとしての組織作りが不十分で、チーム力は弱い。

 

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しかも今年06年、本大会には韓国人の主審はいない(FIFA Web「Referees」)。したがって(サウジ人、メキシコ人などの「クセのある主審」が出ない限り)クロアチアはブラジルから2点以上取れるはずだ(クロアチアは5月23日〜6月7日に強豪スペインなどとの4試合のAマッチで準備万端。FIFA Web「CRO」)。

 

ブラジルは一度負ければ精神的にパニックになり、06年WBCの米国がそうであったように、チームは崩壊するから、その後は相手がどこでも(豪州でも日本でも)苦戦するはずだ(だからこそ02年本大会初戦では韓国人の主審にすがったのだ)。現状では、ブラジルは予選L F組で最終的に「Bクラス」(3位以下)となって決勝Tに進めない、と予測せざるをえない。

 

これはべつに驚くようなことではない。05年コンフェデレーションズカップでブラジルは優勝しているが、その予選Lの日本戦で、日本のDF加地亮の先制ゴールが「誤審」で取り消されて「2-2」の引き分けに終わったから決勝Tに進めたのであって、ほんとうは日本に負けて1勝2敗で「予選L敗退」だったはずだ(スポーツナビ05年6月23日「日本 2-2 ブラジル」)。

 

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