怯える審判たち
〜シリーズ
「06年W杯サッカー
本大会開幕」
(1)
■怯える審判たち〜シリーズ「06年W杯サッカー本大会開幕」(1)■
06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会の審判たちは、開幕直前に発覚した伊サッカー界の審判不正疑惑が我が身に飛び火して刑事責任を問われるのがこわいので、02年本大会で韓国戦の担当主審がしたような、悪意(?)による「誤審」をすることはできない。
■怯える審判たち〜シリーズ「06年W杯サッカー本大会開幕」(1)■
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【前回「実は弱いブラジル〜Wシリーズ『06年W杯サッカー壮行試合の謎』(2)」は → こちら】
02年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会では、6月14〜22日の韓国の「不正な」3連勝に代表されるような、誤審が相次いだので(前日、06年6月13日配信の小誌の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)、国際サッカー連盟(FIFA)は、原因を審判の技量の不足ととらえ、06年本大会の審判の人選にあたっては、体力テストなどの厳しい試験を課すことにした(06年1月9日放送のNHK『あすを読む〜サッカー界の世界戦略』)。
また、主審と副審の意思疎通も重視することにした。主審のミスを、同じ言語を話す副審が的確に諌めることができれば、誤審が防げると思ったのだろう。主審と副審をあわせて3人(以上)で1組のセットとし、主審が試験にうかっても同じ言語の副審が2人以上合格しなければ主審の合格を取り消す、という厳しいルールを事前に発表していた(前掲『あすを読む』)。だから、06年3月の主審の試験で日本人の上川徹の合格が決まっても、マスコミは「日本人の副審候補の合否次第では、上川の合格は取り消される」と報じていた(共同通信06年3月31日付「上川氏が2大会連続の選出 サッカーW杯担当主審」)。
ところが、いつのまにか「厳しいルール」は廃棄されていた。日本人の副審は1人しか合格しなかったにもかかわらず、上川の合格は有効とされ、上川は日本人副審のほか、なんと、言語の異なる韓国人副審と3人1組になって本大会の審判をすることになったのだ(スポーツ朝鮮日本語版06年5月10日「キム・デヨン氏、日本人審判と共にホイッスル」)。
理由は不明だ。が、「韓国への配慮」が考えられる。
韓国は鄭夢準(チョン・モンジュン)FIFA副会長の母国だが、前回述べたように、02年本大会では韓国人主審(金永珠)が大誤審をしてブラジルを勝たせるなど韓国人審判の国際的な評判は非常に悪いので(産経サッカーWEB 02年6月7日「韓国人主審判定、南米で誤審論争」)、韓国人の主審が1人も合格しなかったのは当然だ。
しかし、そのまま放置していては韓国のメンツが立たない。そこで、強引に日本人の副審を1人不合格にして、代わりに韓国人の副審を押し込んだ可能性が考えられるのだ。
いずれにせよ、06年本大会からは韓国人の主審が消えた。また、日本の初戦の相手、オーストラリア(豪州)の代表監督フース・ヒディンクの母国オランダの主審もいないし、もちろん前回本大会で韓国に「不正な3連勝」をもたらした(賄賂に弱い?)貧しい発展途上国の主審たちも3人ともいない(FIFA Web「Referees」)。
これらの点だけ見ても、06年本大会が02年の前回より、審判に関してクリーンな大会になることは間違いない。
●セリエA八百長疑惑●
06年5月、イタリアのプロサッカー1部リーグ「セリエA」の名門クラブチーム、ユベントス(ユーべ)のルチアーノ・モッジ前ゼネラルマネージャー(GM)が、ユーべを勝たせるために、自分の息のかかった審判にユーベ戦を担当させるように工作した疑惑が浮上した。
イタリア司法当局が捜査に乗り出すと、不祥事は芋蔓式に次々に発覚した。
この「審判操作」のほか、不正経理、移籍工作、ドーピングのもみ消し、選手のスポーツ賭博、W杯イタリア代表選手選考の情実人事、さらにセリエAの他チーム、ACミラン、フィオレンティーナ、インテル、ラツィオの不正まで露見して、イタリアサッカー協会会長の辞任やイタリア代表選手への家宅捜索にまで発展した(『週刊ポスト』06年6月2日号 p.p 26-31 「W杯激震!『セリエA八百長事件』底なしの複合汚染」 スポーツナビ06年05月17日「イタリアサッカー界震撼の大スキャンダル」 MSNスポーツ「W杯どころじゃない…ユーヴェの不正疑惑に揺れるイタリア」 サンスポWeb版06年5月22日「ユーべに続きインテルにも不正疑惑浮上」)。
「八百長疑惑の煽りで、腕のいいイタリア人審判が06年本大会から排除されたので、審判団の総体的な技量の低下が心配」という意見もあるが(『週刊ポスト』前掲記事)、的外れだ。
FIFAは02年本大会で続出した誤審の原因を「審判の技量の不足」と言い張っているが、6月14〜22日の韓国の「怪進撃」をTVの生中継で目撃した、韓国を除く全世界のサッカーファンは、02年の重大な誤審の大半は、技量の不足によるミスではなく、悪意による「犯罪」だと思っている。特定チーム(韓国)のみに有利なミスが3試合連続で出ることなど、確率的にありえないからだ。ベトナム代表監督のブラジル人、エドソン・タバレスが「(韓国の02年の好成績は)審判のお陰」と韓国で発言したことは、世界の常識を端的に表している(スポーツ朝鮮日本語版04年6月8日付「ベトナム代表監督『韓国のW杯4強は審判のおかげ』」)。
審判が特定チームを勝たせる目的で「誤審」をすると刑事事件になる……02年本大会のときは夢想だにしなかったこの現実が、06年現在FIFA審判団をふるえ上がらせているであろうことは、想像に難くない。
セリエA疑惑発覚後の06年5月17日に行われた欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝「スペイン・バルセロナ対英アーセナル」戦で開始早々に、アーセナルのGKレーマンにレッドカードを出したことについて、ノルウェー人のテリエ・ハウゲ主審は翌18日「早計だった。イエローカードでよかった」と自らミスを認めている(WORLD SOCCER GRAPHIC 06年5月19日「CL主審『レッドカードは早計だった』」)。
02年W杯本大会では、FIFA審判委員長が「審判の大きなミスが1つか2つあった」と誤審を認める異例の公式発言をしたが、具体的にどの試合かは言わなかったし、「容疑者」の問題審判たちも(少なくとも主審は)だれもミスを認めなかった。また、05年にFIFA世界最優秀審判に選ばれたドイツ人のマルクス・メルクは「17年間のキャリアの中でたくさんのミスを犯してきたが、それを他人に言うことはない」と具体的事例への言及を避けている。
以上で明らかなように、国際サッカー界では審判がミスを告白することなどまずありえないのに、上記のハウゲは試合直後に具体的に告白している。理由はもちろん、悪意による「犯罪」と疑われて捜査対象にされるのを避けるために相違ない。
02〜06年W杯本大会の審判問題の本質は「技量」にはない。問題の本質は「悪意」の有無にあるのだ。そして、02年W杯本大会から05年コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)まで、多くの審判が悪意によってブラジルなどのサッカー大国(とFIFA副会長の母国、韓国)を勝たせて来た。05年コンフェデ杯予選リーグ(L)第3戦「日本対ブラジル」戦で、日本のDF加地亮の先制ゴールが「誤審」で取り消されて「2-2」の引き分けに終わり、ブラジルが「不正に」決勝トーナメント(T)に進んだのはその典型だ(スポーツナビ05年6月23日「日本 2-2 ブラジル」)。
「コンフェデの再現は許さない」。
そう思った、06年W杯本大会の日本代表監督ジーコは、06年4月26日、イタリアのガゼッタ・デル・スポルト紙を含む海外メディアの前で「ブラジルなどの強豪国は(審判の)助けなしには(決勝Tに)勝ち上がれない」と述べ、06年本大会予選Lの「日本対ブラジル」戦でまたブラジルびいきの「誤審」が出たら許さない、と「先制攻撃」に出た(デイリースポーツWeb版06年4月27日「ジーコがFIFA批判『強豪国有利』」)。
前回述べたように、ブラジル代表は伝統的に本番前の壮行試合(強化試合)をおろそかにし、代表選手同士の連携を十分に実戦テストしないうちに本番に臨み、本大会予選Lを「壮行試合の代わり」にするので、予選Lの段階では「優勝候補」の名に値するほど強くない。したがって「審判が悪意なく普通に判定すれば、クロアチア(と日本)がブラジルに勝って予選L F組2位以内になって決勝Tに進出し、ブラジルは決勝Tに進めない」と考えるのは、けっして日本人のための「希望的観測」ではなく、十分に「科学的な予測」だ。
逆に、審判に「悪意」がない場合、いちばん困るのは韓国だ。
韓国は日本よりサッカー競技人口がはるかに少ない「サッカー小国」であるうえ、日本のJリーグ発足よりも10年早く、83年に早々とプロサッカーリーグ(Kリーグ)を発足させていたため、21世紀にはいって、もはやこれ以上競技レベルが向上する要因が何もない。韓国はトーゴ、フランス、スイスとともに予選L G組に属しているが、「誤審」がなければ、韓国はフランス、スイスに連敗する可能性が高い。だから、韓国は「せめて1勝だけでも」という思いで、初戦の相手、アフリカ勢のトーゴにだけは確実に勝ちたいので、前回述べたように「アフリカ対策」に神経質になっているのだ(小誌06年6月1日「●韓国の不安」)。
●試合番号の謎●
ところで、W杯本大会の試合には試合番号が付いている。予選L各組の初戦に関しては、A組の開催国ドイツの初戦から順に若い番号が割り振られ、番号が若い試合から先に行われる(FIFA Web「Match Schedule」)。
ところが、1か所だけ例外がある。F組の試合番号11番「ブラジル対クロアチア」は、12番「豪州対日本」より1日遅く、6月13日に開催されるのだ。
「また日本を負けさせるためのFIFA副会長の陰謀か」と筆者は一時疑ったが、どうやら違うようだ。
もし11番を順当に6月12日に行うと、その日のほかの試合は9番「イタリア対ガーナ」10番「米国対チェコ」なので、3試合とも「欧州勢対非欧州勢」になる。その場合、主審は「中立の大陸」から出すのが原則なので、技術に優れ、かつ(生活水準が高いから)賄賂の誘惑にも強い西欧人の主審が1人も使えず、結局、強豪のブラジル、イタリア、チェコの試合を公正に裁くために、非欧州人の数少ない優秀な主審をその日に使いはたす恐れがある。他方、その場合には、翌13日の試合は、「非欧州勢同士」の12番「豪州対日本」14番「韓国対トーゴ」と、「欧州勢同士」の13番「フランス対スイス」となって3試合とも欧州人の主審が投入できるので、審判のローテーションが偏る恐れがある。
結果的に12番の主審はエジプト人になった(FIFA Web 06年6月3日「Referees assignments for matches 1-16」)。彼はアテネ五輪本大会予選L「パラグアイ対日本」戦で両軍にほぼ平等にファウルとイエローカードを与えている(FIFA Web「ABD EL FATAH Essam」 スポーツナビ「アテネ五輪サッカー(パラグアイ 4:3 日本)」)。
他方、11番の主審はメキシコ人になったが、彼の担当したアテネ五輪本大会予選L「アルゼンチン(ARG)対セルビアモンテネグロ(SCG)」戦では、SCGはARGの2倍のファウルと3倍のイエローを与えられて「0-6」で惨敗している(FIFA Web「ARCHUNDIA Benito」 スポーツナビ「アテネ五輪サッカー (ARG 6:0 SCG)」)。
なんとなく、11番と12番の入れ替えは日本のためではなく「ブラジルのため」のようなのだが、「ブラジルを負けさせるため」の可能性もないわけではない。11番の主審はアテネ五輪準決勝でもARGをイタリアに「3-0」で勝たせているが、メキシコとARGはともにスペイン語圏で、ポルトガル語圏のブラジルの国連安保理常任理事国入りには反対だからだ。
【06年W杯本大会の主審は25か国から26人に召集されたが、なぜかメキシコだけが2人。】
●卑怯な作戦は不可能●
ジャーナリストの阿部竜也は、豪州代表(オセアニア)が本大会出場を決めた大陸間プレーオフで、卑怯な「肘打ち作戦」でウルグアイ代表(南米)のエースを負傷退場させながら(レッドカードではなく)イエローで済んだ例を挙げ、日本の司令塔、MF中村俊輔が同じ目に遭う恐れを指摘しているが(スポニチWeb版06年05月16日「侍・ポポビッチがヒディング(ク)の刺客となる」)、杞憂だ。
もちろん主審がミスをして豪州代表の「乱暴者」を利することはありうる。が、悪意によってレッドをイエローに替えたりすれば、「審判操作疑惑」の昨今、主審は刑事罰を受ける恐れがあるので、とてもそんなことはできまい。
だから、日本が豪州戦で「肘打ち」や「誤審」によって敗れる可能性は低い。
●己を知らざれば…●
セリエA疑惑の進展により、06年W杯本大会の日本代表の対戦相手のなかから「疑惑選手」が出て、出場を辞退した場合、日本代表は相手の戦力分析を変える必要があるので不利になる場合もある、とジャーナリストの平野史(ちかし)は述べているが(『週刊ポスト』前掲記事)、これは間違いだ。
たとえば、疑惑対象チーム在籍中のMFカカ(ACミラン所属)など、ブラジル代表の中心選手が出場を辞退した場合、たしかに日本はブラジルがどういう攻めをするのかわからなくなるが、それ以前に当のブラジル代表チーム自身が自分たちがどういう長所欠点を持っているのかわからなくなるので、ブラジルが不利になるに決まっているではないか。もし本大会予選Lの日本戦の直前にカカが出場辞退に追い込まれれば(ブラジルは「カカ抜きの壮行試合」をやってチームの弱点を発見し修正する必要があるが、もちろんそんな暇はないので)「新生ブラジル代表」は自分たちの弱点に気付かないまま、ぶっつけ本番で日本戦に臨むことになる。日本が不利になる可能性は一切ない。
たぶん平野は(選手の経験はあっても)監督の経験はないのだろう。
小誌は06年「4月1日特集号」(後編)の「韓国の追放を要求〜シリーズ『WBCドーピング問題』(2)」で、架空インタビュー番組の形を借りて、日本のスポーツマスコミには(韓国のそれと違って)学生時代に選手として野球やサッカーを経験した者が多く、そのためスポーツ報道が専門的で分析が優れている、と指摘した(じっさい、韓国の野球報道は、韓国出身の巨人の李承ヨプ一塁手の打力診断を、日本の野球解説の引用に頼っている。韓国のスポーツ記者にわかるのは打率などの数字だけなのだ。スポーツ朝鮮日本語版06年4月28日「弱点バレた? イ・スンヨプ絶不調」)。
このように日本のスポーツ報道は水準が高いので、筆者も「元選手」の方々の分析にはいつもお世話になっている。が、なまじアマチュアで選手経験があるジャーナリストは、個々の選手の技量にばかり目が行き、「監督の視点」あるいは「チーム作り」という発想で競技の予測を行うことが難しい(だから「惰性」でブラジルを優勝候補に挙げるのだ)。たとえば、多くのマスコミが壮行試合の意義をほとんど理解できないのは、「元選手」の記者がアマチュア時代に「ポジション争いの場」あるいは「勝って勢いを付けるための試合」としてしか壮行試合(他校との練習試合)を経験しておらず、なかなかその固定観念から抜け切れないためであろう。
【「疑惑選手」については次回に特集する予定。】
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