逆ネズミ講
シリーズ
「究極の解決策」
(5)
■逆ネズミ講〜シリーズ「究極の解決策」(5)■
「資本主義は約70年で破綻する『ネズミ講』である」という説が正しい場合、約70年経っても戦争などでリセットしなければ、ネズミ講は逆回転し、次第に参加者を減らしながら最後まで残る者だけが儲かる「逆ネズミ講」になる。
■逆ネズミ講〜シリーズ「究極の解決策」(5)■
【お知らせ:佐々木敏の小説『中途採用捜査官』が2008年11月7日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、週間ベストセラー(文庫本)の総合20位前後になりしました。】
【前回「70年周期説〜シリーズ『究極の解決策』(4)」は → こちら】
前回「資本主義は元々60〜70年で破綻する『ネズミ講』であり、60〜70年毎に革命か戦争でリセットする必要がある」という説を信じている者が、日米の政財官界の有力者のなかにかなりいるという事実を指摘し、米国政府が2008年9月以降の金融危機による大不況を克服するため、戦争という手段を使う可能性が高いことを述べた(が、米国自身が戦争をするとは言わなかった)。
ならば、もしこのまま世界中で平和が続き、米国の景気回復につながるような大規模な戦争が起きなかったら、どうなるのか。
●逆回転●
これについて、前回紹介した永田町・霞が関のインサイダー「D」に先日(2009年1月上旬)聞いたところ、「従来型の参加者数を増やすネズミ講が破綻したら、こんどは逆に参加者数を減らすネズミ講に移るんだろうな」という答えが返って来た。
この「参加者数を減らすネズミ講」(以下、「逆ネズミ講」)とはなんだろう。
【Dに限らず永田町、霞が関の権力者は忙しいし、いつも高度な専門知識を持つ者とばかり話しているので、具体例などを挙げて丁寧に説明してくれないことが多い。このときもそうだった。だから、ここから先は筆者独自の解釈である。】
1840〜1842年のアヘン戦争でリセットされて始まった「資本主義2.0」が、1914年からの第一次大戦、1917年のロシア革命を経て第二次大戦によってリセットされ「資本主義3.0」になったと前回述べたが、この「3.0」は現代人にとってもっとも身近で理解しやすい。そこで、今回はまず、おもにこの「3.0」の期間中を例にとって「正ネズミ講」としての資本主義を概観してみたい。
●正ネズミ講●
そもそもネズミ講というものは、相対的に早く参加した者は儲かるが、遅く参加した者はあまり儲からない(遅く参加すればするほど利益が少ないか、または、損失が大きくなる)というシステムである。
18世紀後半に英国で始まった産業革命によって資本主義は本格的に始まった。約70年後の1840年、英国はアヘン戦争を起こし中国を徹底的に破壊することでこの「資本主義1.0」をリセットし、次の「2.0」の70年間においても「早い者勝ち」の優位を保った。
そのまた約70年後、英国は自国を戦場としない第一次大戦を契機に「2.0」をリセットしようとしたが、それでは、あとから資本主義に参加した米国が英国に勝てない。
そこで、米国は陰謀をめぐらした…………かどうかはわからないが、第一次大戦のあとも、1917年のロシア革命、1929年の米国発の世界大恐慌、さらに1939年、ドイツのポーランド侵攻に始まる第二次大戦、といささか過剰とも思えるリセットにつながる大イベントが相次ぎ、英国、ドイツ、日本など、米国のライバルとなりうる工業国の工業生産力が破壊され、かつ、ロシアの生産力と市場がロシア革命によって社会主義化されて資本主義世界から切り離され、米国の農産物や工業製品はロシアからの輸出品と競争する必要がなくなった。
このため、第二次大戦後、1945年に始まる「資本主義3.0」の世界では、その生産力を戦災によって破壊されなかった唯一の先進国である米国が、「一番手」として資本主義に参加し、「早い者勝ち」の恩恵を十分に享受した。したがって当然、1945年から2008年までの63年間、米国の国内総生産(GDP)は常に、あとから資本主義化した他の諸国より大きかった。
この「早い者勝ち」の法則はかなり広汎に妥当する。「3.0」の63年間に限って、国全体あるいは国民1人当たりのGDPで見る限り、米国は常に、1950年の朝鮮戦争特需を契機に資本主義に再参加した日本より豊かであり、日本は常に、1980年代の改革開放政策によって資本主義的市場経済を導入した中国より豊かであり、中国は総じて、1991年のソ連崩壊後まで経済に市場原理を導入しなかったモンゴルより豊かである。
国家が資本主義に参加するには、そのための法律や司法機関、教育制度などの社会システムが整っている必要があるが、英国、ドイツなどの西欧諸国や日本は第二次大戦で一時的に生産力を破壊されたとはいっても、法律や教育制度まで破壊されたわけではないので、戦後すぐに、米国に次ぐ「二番手」として資本主義に参加することができた。
このため、リセット前、「資本主義2.0」の段階で「先進国」だった米国や西欧諸国や日本は「3.0」の時代になってもそのまま先進国であり続けた。その後、「後発」の韓国、中国、インド、ブラジルなどの新興国が、先進国のまねをして、法律や教育制度を整備して資本主義に参加し、製造業を発達させて経済の高度成長を実現したため、先進諸国は相対的に国際社会における発言力を低下させはしたが、依然として新興諸国は先進諸国に追い付き追い越すことができない(あと20年も経てば追い付く可能性がないとは言えないが、どうせその前に60〜70年周期の「リセット」が来るので、結局間に合わない)。
これは資本主義市場における個人の投資についても同様である。
たとえば、ライブドアのような新興企業が株式を発行して投資を募る場合を考えてみる。市場にいる投資家は、新興企業の発足当初は、それが将来安定した企業、「優良銘柄」に成長するかどうかわからないので、たとえ新興企業の株式が公開されてもそう簡単にはそれを買おうとはしない。
しかし、その新興企業が成長して行くと、早い段階から運良くその株式を入手していた者は、株式から得る配当だけでなく、株式自体の値上がりによって大きな利益を得る。いちばん大きな利益を得るのは、その新興企業の株主の「一番手」である創業者や、創業当時の出資者、創業当時のからの古参経営陣であり、次に大きな利益を得るのは、その新興企業が十分に成長する前に株式を買った「二番手」グループであり、これにはしばしばその企業の社員が含まれる。
そして、その新興企業が十分に有名になったあと、「遅れを取るまい」としてその新興企業の株式を買った連中、いちばん遅い株主がいちばん利益が少ないか、または損をする。それは、ライブドアの株式でいちばん儲けたのが(同社の前身のオン・ザ・エッヂの)創業者の堀江貴文元社長(ホリエモン)であり、いちばん損したのが、堀江が2004年に頻繁にTV出演するようになって有名人になったあとに同社の株を買っ(て、2006年に堀江が粉飾決算容疑で逮捕されるまでその株を持ってい)た個人投資家であることを見れば、明らかだ(小誌2006年1月23日「堀江貴文の祖国〜ライブドアの犯罪」)。
ライブドアの株を遅く買った個人投資家と同じ失敗を、新興諸国もしたのである。
第二次大戦後、世界には資本主義と社会主義という2つの「銘柄」が存在したが、どっちが優良銘柄になるかについて、人類全体の統一見解は存在しなかった。が、米国、日本、英国、西ドイツなどの指導層は資本主義を「成長株」と判断していちはやくそれに飛び付いた。
第二次大戦の終結直前、1945年8月6日、日本政府は、原爆を落とされても降伏しなかったくせに、8月8日に社会主義国家ソ連が対日参戦(満州への侵攻)を宣言すると態度を変え、結局、ソ連が日本本土に侵攻する前の8月15日にポツダム宣言を受諾して、事実上米国のみに降伏してその占領下にはいっている。この史実から見て、当時の日本の指導層が資本主義こそ成長株と判断し、社会主義国の占領下にはいることを避けたのは間違いあるまい。
韓国も第二次大戦後すぐにこの成長株を買いたかったが、手元(法律や教育制度や資金)が不用意だったので、韓国が資本主義という銘柄に本格的に投資するのは、日本よりだいぶ遅くなり、1970年代になった。このときの遅れは取り返しの付かないものであり、それがもたらした日韓の経済格差はいまだに縮まっていない。
中国(中華人民共和国)、インド、モンゴルなどの指導層は、第二次大戦が終結した時点では、社会主義のほうが優良銘柄だろうと判断してしまったため、韓国より遅く1980年代、1990年代になってから、ようやく資本主義(あるいは資本主義的市場原理を導入した社会主義経済)というネズミ講に本格的に参入した。しかし、この頃はもう次のリセットまで長くて20年前後という、切羽詰った時期であり、そんな遅い段階で会員になったところで、ホリエモンの逮捕直前にライブドア株を買った個人投資家と同じような運命が待っているだけだ。
一般に、ネズミ講では、確実に大儲けできるのは常に一番手と二番手だけであり、彼らが損するときはいちばん遅く入会した会員はもっと損をする。この構図は資本主義(市場原理)というネズミ講においても変わらない。
ライブドア株の「一番手」「二番手」の株主たちは、(愚かな?)個人投資家が同社株の「遅い買い手」となって、株価を吊り上げてくれたことで大きな利益を得た。
「資本主義3.0」の一番手、二番手である日米や西欧の先進諸国は、韓国や中国、インドなどの新興諸国がこのネズミ講の「遅い会員」になってくれたことに乗じて、新興諸国を投資先、貿易相手として利用することで、多大な利益を得た。が、新興諸国自身は相対的に先進諸国より少ない利益しか得られず、概してその生活水準が先進諸国を追い越すことはない。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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