Originally Written: May 9, 1999
Last Update: May 17, 1999(中東への飛び火。読者の方のご指摘による誤植の訂正)
が、彼に限らず米国出身の選手にはよくあることだが、ときどきグランドで暴力事件を起こすのが、たまにキズだった。たとえば投手にインコースを攻められ、投球がからだにあたりそうになったり、実際にあたったりすると、思わずカッとなって、マウンドの投手に向かって駆け出し、ぶんなぐってしまったうことがあった。野球の硬式ボールは凶器だ。時速140キロ以上の高速で頭部や背骨にあたれば、最悪死亡する場合すらある。だから、思わず 逆上するのもわからないではないが……。
と思っていたら、あるとき野球通で知られる作家の安部譲治が興味深い分析をテレビで語った。曰く、
「あれはカッとなってやってるんじゃない。計算ずくだ。だって、日本のピッチャーはあれ以来、ブーマーのインコースを攻めなくなったじゃないか」
言われてみれば、たしかにそうだ。日本で長くプレーしている外国出身の強打者には、一、二度グランドで暴行事件を起こしている者が多い。もちろん、暴行事件を起こせば処分され、数日間出場停止のペネルティーを受ける。主力打者が試合に出られないのだから、チームにとって大損害だ。ご本人も神妙な顔をして、
「ファンやチームメイトに申し訳ない」
と謝罪と反省を表明し、また罰金を支払わなければならない。しかし、インコースが打てなくて長打力がないと判断されれば、日本では外国人選手(野手)の場合は(日本人にない長打力を期待されているので)すぐに解雇されてしまう。クビ、つまり億単位の年棒の喪失に比べれば、謝罪も反省も罰金も数試合の出場停止も、安いものだ。
ブーマーの場合には、証拠がある。彼は阪急がオリックスと改名したあともまだそのまましばらく在籍していたが、ある年オリックスと同じパ・リーグの福岡ダイエー・ホークスの投手コーチに権藤博(現横浜ベイスターズ監督)が就任した。彼は投手に「インコース攻め」を強く指導することで知られている。
たちまち、ブーマーはダイエー戦で打てなくなった。ダイエーの投手は容赦なくブーマーのインコースを攻める。ときどき、投球がからだにあたりそうになる。すると、カッとなって冷静さを失い、マウンドの投手に襲いかかる……かと思うとさにあらず。なんと、ダイエーのベンチに向かって突進し、権藤コーチに向かって吠えたのである。
これが、はたして「冷静でない」人の行動だろうか ? その年のシーズンが終わるとブーマーはオリックスを退団し、なんとダイエーに移籍した(^^;)。筆者は、このブーマーという選手は、非常にあたまのいい人だと思う。心から敬意を表したい。
m(_ _)m
●中国大使館「誤爆」事件
さて、日本時間1999年5月8日、ユーゴスラビアを空爆中のNATO軍機(米軍機)が、誤ってユーゴの首都ベオグラードの中国大使館を攻撃してしまった、という報道が世界を駆けめぐった。
米国の主導する西側の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構。加盟国は米、カナダの北米 2か国と、英、独、伊、西、蘭、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマーク、ギリシャ、トルコ、ハンガリー、チェコ、ポーランドなどの欧州諸国。EU諸国の大半はNATO加盟国であるが、フランスはNATOの政治組織のみに加盟し、軍事機構には参加していない。しかし、今回の空爆は支持し、実質的に参加している)は、ユーゴの独裁者ミロシェビッチ大統領が、ユーゴ国内のコソボ自治州に住む多数派のアルバニア人イスラム教徒を追い出し、「民族浄化」(エスニック・クレンジング)を行っていると非難しており、「残虐な民族浄化をやめさせるため」と称して、1999年の3月下旬から1日も休まず50日近くも(5月9日現在で49日連続。ちなみに湾岸戦争の際の米国主導の多国籍軍のイラク攻撃は45日で終わったが、新ユーゴの領土の面積は、イラクよりはるかに小さい)。
●コソボ紛争の背景〜ユーゴ「民族浄化」の歴史
コソボは、セルビア民族発祥の地、民族の「聖地」である。が、数百年前にイスラム教徒のオスマン・トルコ帝国が、ユーゴを含むバルカン半島・東地中海の広範な地域を支配していた時代、ここにはイスラム教徒のアルバニア人が移り住み、多数派となった。20世紀にはいってトルコ帝国が衰退すると、この地域ではイスラム教徒のアルバニア人、ムスリム人(旧ユーゴ国内の、主としてトルコ系イスラム教徒の呼称)や、キリスト(カソリック)教徒のクロアチア人、スロベニア人、正教会キリスト教徒のセルビア人、ギリシャ人らが次々に民族の独立を主張し覇を競ったため「バルカンの火薬庫」と言われるほど紛争が多発した。その紛争の一つから第一次大戦が勃発した。
第二次大戦時にはここにナチス・ドイツが侵攻し、クロアチアと組んで多民族を圧迫したが、セルビア人共産ゲリラのチトーがセルビア人の軍隊を率いてバルカン半島を統一し、多民族混住の理想的な社会主義国家、旧ユーゴスラビア連邦を作った(というのは真っ赤なウソで、チトーの個人独裁による、人権抑圧国家、セルビア優越主義国家だった。が、チトーは「ナチス」を倒した実績で一定のカリスマ性を獲得しており、また国内にソ連軍基地を置かせず「非同盟諸国」のリーダーとして振る舞ってアメリカなど西側諸国の機嫌を取ったので、日本など西側諸国の左翼文化人はつい最近まで、チトーのけがらわしさを見抜けずにいた)。他方、アルバニアでも王制が倒れて社会主義政権ができたが、アルバニア人は、このアルバニア共和国以外の、旧ユーゴ領土内のコソボ自治州やマケドニア共和国(独立国でなく、高度の自治権を持つ連邦構成共和国。クロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアなども同様)にも多数住んでいた。
チトーが死に、さらに89年の「ベルリンの壁の崩壊」に象徴される東欧諸国の民主化で社会主義(共産主義)の下劣さが世界中に知れわたると、ユーゴの共産主義者たちは(本来は、下劣な共産主義で国民に不自由と貧困をもたらしたことを(戦前の日本帝国主義を批判する日本の左翼・平和運動の倫理基準で言えば)「謝罪と反省」をすべきなのだが、それはせず)居直って権力の座に居座り続けるため、突然民族主義を主張しはじめた。
まず、クロアチア、スロベニアが(総人口に占める多数民族の比率が高く、「混住」の度合いが低い、比較的「純粋な」国だったので)独立した。しかし、これはユーゴ政府(という名のセルビア政府)にとってはユーゴ共産帝国の領土(植民地)の喪失にほかならなかったから、民族主義的な紛争はかえって加熱し、ムスリム、セルビア、クロアチアの各民族がほぼ等しい比率で住むボスニア・ヘルツェゴビナでは激戦となった。
新ユーゴ(クロアチアなどに脱退されたあとのユーゴのこと)の政府は、特定の領土から他民族を追い出してセルビア人のみを移住させる政策「民族浄化」を開始した。「追い出し」の手段は、他民族の非武装の一般住民を虐殺したり、女性を強制収容所に連行してレイプして無理矢理セルビア人の子供を産ませようとしたり、発砲して追い立てたりといった凄まじいものだった(このボスニアの民族浄化は広く報道され、多様な国際機関によって検証されているので、筆者もいちおう事実とみなす)。
ボスニアは、国連の軍事力を使った調停を経てようやく独立したが、これはセルビアにとってはさらなる領土の喪失であった。相前後してマケドニアも独立したため、新ユーゴのセルビア人政府の威信はおおいに失墜した。他方、周辺諸国では、クロアチアらの独立に刺激されて(あるいは、某大国のスパイ機関の世論工作でだまされて?)民族主義が台頭したため、ユーゴ国内コソボ自治州に住む多数派のアルバニア人の民族意識が高揚し、少数派のセルビア人が危機を感じようだ。一部のアルバニア人(そのもっとも過激な勢力はコソボ解放軍、KLAと名乗るゲリラ組織)は独立を主張したが、国連と、欧州連合(EU)、米国などの西側諸国はユーゴ国内での「高度な自治権」を認めるべきと主張し、コソボのアルバニア人勢力とユーゴ政府との調停をはかった。
なぜ、西側は、クロアチアなどの場合には独立を認めたのに、コソボではそうしないのか……理由は、コソボがアルバニア人の国として独立すると、隣のアルバニア共和国と合併するか、または国連などでの代表権をめぐって争うかするだろうし、他方、ギリシャやマケドニアの国内に少数民族として住むアルバニア人の民族意識に火を付け、ドミノ倒しのように独立紛争が広がることも懸念されるからである。
●国際法上の「主権」概念の変更
この結果、米国など西側諸国は、国際法上の「国家主権」概念の変更を、新ユーゴ政府に対して迫ることとなった。
たとえば、新ユーゴ政府が米国政府に「コソボは新ユーゴの領土(国家主権のおよぶ地域)か? 」と聞けば、米国政府は間違いなく「はい」と答える。そこで、新ユーゴ政府が重ねて「それなら、煮て食おうと焼いて食おうと勝手だな」と言うと、米国政府は「ダメだ」と答えるのである。「勝手」にできないということは、従来の国際法では「主権がない」のと同じであるが、米国はこの地域での紛争を終わらせるには、国境線(国家主権の境界線)を形式上維持したまま、その内側で諸民族の自治を認めて実質的に独立させる、という方法がよい、と主張している(らしい)のである(「らしい」というのは、欧州などで「土着型」の民族紛争が激化すればするほど、アメリカは中立な調停者として国際政治上有利な立場に立てるからである。アメリカは方言がないことで明らかなように、人口の99%以上が移民であり、土着民はごく少数の先住民族のみである。人種対立はそれなりにあるものの、どの地域、州でも人種はごちゃまぜに住んでいて、アメリカ英語を話すキリスト教徒が圧倒的多数派である。州民たる資格要件は、法律上はもちろん慣習上、心理上も「自由と平等のアメリカンドリーム主義を信じること」だけである。セルビアやドイツや日本のように多数派の土着民、つまりセルビア人やドイツ人や日本人であることなどはまったく問題にならず、特定の地域の分離独立運動など起きるはずもない。他方欧州では、イギリスではスコットランド、イタリアでは北部地域などと先進国でも「土着民」の民族性のゆえに分離独立の動きがあり、政府高官はうかつな言動ができない、といった事情がある。したがって、EUが通貨統合を含めていくら統合を進めて、欧州から警察官ないし紛争調停者の米国を追い出すことはできず、NATOは維持されるであろう。むしろEUの統合が進めば進むほど、英、伊、西などでは一部の地域が「EU内での独立」を主張しやすくなる、といった傾向すらうかがえる)。
もちろん、こんな中途半端な主張がそう簡単に通るはずはなく、99年3月ついに交渉は決裂。米国を盟主とするNATOは「新ユーゴのミロシェビッチ大統領が、民族浄化策によってコソボからアルバニア人を追い出すのをやめさせるため」として、空爆という名の武力制裁に乗り出した。
空爆が始まると同時に、西側のメディアは、コソボで家を破壊されて追い出された(という西側記者のリポートの付いた)アルバニア系難民の映像を世界中に流しはじめたため、世界、とくに西側の世論はミロシェビッチを非難し、NATOの軍事介入を支持した(新ユーゴ国民はみな、新ユーゴのマスメディアの「アルバニア系住民が難民になったのは空爆を避けるため」という報道を聞いているので、そう思っているようである)。
西側の政府の主張と民間の報道はおおむね以上のようなもので、若干補足して要約すると、以下のようになる。
1.コソボは主権国家新ユーゴの一部であり、少なくとも当面は独立国とすべきでない。
2.だが、新ユーゴのセルビア人は、「民族の聖地」であるコソボを奪回するため、「あとから来た」アルバニア系住民を民族浄化策によって追い立てている。
3.アルバニア系住民は、アルバニア共和国やマケドニアに逃れているが、追い立てる際にセルビア兵は、住民(難民)に「おまえらアルバニア人には、ほかにアルバニア共和国などの国があるじゃないか。そっちで多数派民族として暮らせばいいだろ」と言っている。
このうち、「3.」の報道は、実は、ほかの、ある地域の安全保障を考えるうえでかなり重要である(この件は、次回以降に)。
●鵜呑みにできない西側報道
実は西側のメディアでは、空爆前には、流浪する難民の映像は、ほとんど流されていない。筆者は国際政治のニュースを見るのは「三度のメシより好き」なのでNHKの衛星放送(BS)などで海外のテレビニュースはかなり見ているが、少なくとも筆者の記憶では、NHKの衛星放送に登場する欧米のメディアが「流浪する難民」を映しだしたという記憶はない。いずれ、もっと精密な検証を行ってみようと思うが、活字メディアでも、空爆前、つまり「コソボ自治交渉」の最中のコソボ発のニュースで、「民族浄化」や「難民」などの言葉を使った報道はあまり行っていない。映像報道においても活字報道においても、これらの言葉がはっきり増えるのは、空爆開始後である。
この点、「民族浄化を防ぐために空爆した」という主張には疑問が残る。じっさい、空爆を何十日も続けても、難民は減らず、日増しに増えていった。これは西側では「ミロシェビッチが強情で、自国民がいくら爆撃されてもコソボ奪回のためにアルバニア系住民の追い出しをやめないから」と理解されている。
が、今回の民族浄化は、前回の、ボスニアでのそれとはかなり違う。前回は虐殺とレイプが中心だったが、今回は少なくとも婦女子や老人は殺さず(彼らの夫や父親や息子で兵士として働けそうなのは引き離してどこかに隔離しているようだが)ひたすら、コソボの外(新ユーゴ領土の外の、アルバニアやマケドニアの国内)に追い出しているだけである。「民族浄化」は、90年以降セルビア人が民族意識を高める課程で、自身で作り出した言葉なので、今回のコソボの問題を語るときにも口にした可能性が高い。しかし、前回の「浄化」は、ムスリム人の女性に無理矢理セルビア人の子供を産ませようとするものだった(つまり、セルビア人の数的優位をめざすものだった)のに、今回はまったく違う(あくまで仮説だが、「セルビア人の子供を産ませる」ほうはセルビア兵にしかできないが、「追い出し」はどこの国のスパイ工作員でも可能である、ということに、筆者は注目している)。
しかも、前回の「民族浄化」以来、国連は新ユーゴに経済制裁を加え、貿易制限などを行っていたので、新ユーゴの経済は苦しく、このためミロシェビッチのユーゴ国民(セルビア人)からの支持率は50% を大きく割り込んで政権は崩壊寸前だったのに、空爆が始まると新ユーゴ国民は(自分たちのあたまの上から爆弾が降ってくるのだから当然だが)反米、反NATOの感情を募らせ、(湾岸戦争や第二次大戦のときの米国のように)「大統領のもとに団結する」意識が芽生え、ミロシェビッチの支持率が急上昇するという事態になった(おそらく、空爆さえなければ、あと数か月でミロシェビッチ政権は崩壊していただろう。これはイアクにも言えることだが、サダム・フセインなどの反米独裁政権……とアメリカが呼んでいるいる政権は、一般的にはアメリカとの対立を利用して愛国心を高揚させ、国民や軍人や官僚を団結させて権力を維持しようとする傾向がある)。これで、当分、ミロシェビッチ体制は「安泰」であろう(NATOのお陰だ)。
上記の湾岸戦争とユーゴ空爆との比較は、フジテレビの番組『ニュース・ジャパン』で木村太郎キャスターが(5月7日の放送で)述べたものだ。イラクより狭い地域をイラクより長く攻撃し続けることの意味については、疑問を唱える向きが多い。
だいたい、あんな狭い国にそんなにたくさん攻撃すべきものがあるのか、という指摘は少なくない。4月以降、NATO軍機(実質的にはほとんどすべて米軍機)は、新ユーゴの軍事施設や軍用車両と見誤って、コソボ難民の行列や、セルビアの病院、市場などを「誤爆」するようになった。これについて、『ニュース・ジャパン』では、軍事評論家・岡部いさくの分析を紹介していた。曰く
「もはや爆撃しやすい、民間施設と離れた純粋の軍事目標をほとんど爆撃してしまったため、空爆続行の命令が出ている以上は、誤って民間施設を撃つ恐れのある、撃ちにくいところの目標でも撃たざるをえない」
のだそうだ。
●放送局への空爆
しかし、病院、市場の誤爆(5月7日)に先立って、NATOは放送施設への空爆を行っている。 4月半ば、NATOは新ユーゴ政府に対して「1日6時間以上、ノーカット無編集で西側の放送局のニュースを流せ。さもなくば放送施設を空爆する」という、前代未聞の要求を突き付けた。NATOによれば、
「新ユーゴの放送局は独裁政府のプロパガンダの道具であって報道機関とはいえず、難民の悲惨さやそれに対する自国政府の責任について正確に報道せず、国民を「民族浄化」の方向に煽っている(から爆撃してもよい)」
というのである。これは、戦争に関する国際法がまったく容認していない、非軍事目標への攻撃であり、見方によっては、ジャーナリズムへの挑戦であり、上記の木村キャスターの言葉を借りれば「空襲警報や災害情報の国民への伝達、すなわち生命の安全にかかわる問題」である。当然のことながら、新ユーゴはこの要求を拒否したため、 4月下旬にNATOは放送局と電波の中継施設などを空爆。新ユーゴのジャーナリストに死傷者が出た。世界のジャーナリスト団体の一部には、NATOへの抗議行動を起こすところも現われたが、NATO、とくにアメリカは、国務・国防省の高官をPBS 公共放送などのテレビに出演させ、「プロパガンダの道具、すなわち戦争のための世論操作の手段をつぶしただけ」と反論した。これには、テレビキャスター側から
1.プロパガンダと報道の区別はだれがするのか
2.反米テロ国家が西側の報道機関へのテロを行うことを正当化する恐れはないか
といった懸念が示された(PBSに出演した米政府高官は明白には言わなかったが、筆者は、この懸念に対する米国防省や保守本流グループの答えはすでに決まっていると思える。「1.」に対しては「国連安保理事会において拒否権を持つ常任理事国のなかから、反米的で、言論の自由のない国を追い出したあと」の、国連安全保障理事会で気めればよい。、「2.」に対しては、「中東問題でイスラエルびいきの報道ばかりする『ユダヤ系のメディア』をイスラム過激派が攻撃したくなるのは理解できる」すなわち「ユダヤ団体は米国の親アラブの中東和平政策を邪魔するな」といったところであろう。とくに「2.」は共和党などの米保守本流が、自身の手をまったく汚さずにアメリカのユダヤ団体やその影響の強い民主党の、中東問題への世論を変えさせることができる点で、すぐれている)。
●2000年問題対策としての空爆
また、今回のユーゴ空爆が、湾岸戦争後のイラク空爆より大規模な背景として、コンピュータ2000年問題(Y2K)をあげる軍事専門家もいる。アメリカが80年代に新調した巡行ミサイルは、実はその軌道、爆破制御用の内蔵コンピュータソフトウェアの日付機能の死暦表示が「下二桁型」、つまり2000年になると「00」になって「1900年」に戻ってしまって機能しなくなる恐れがあることから、これを空爆によって「処分」している可能性がある、という説である。しかも、これを述べているのが、日本の防衛専門家、自衛隊幹部(OB)なのだ(『週刊新潮』1999年4月日号)。
筆者は98年 9月から本誌のY2Kコーナーで、米国人のマイケル・ハイアット(『世紀末の時限爆弾』文藝春秋社、1998年刊)や草野達雄(『2000年クラッシュ』日本実業出版社、1998年刊)らが声高に言い立てる「米国防省すら対策が間に合わないほど、Y2K は深刻」という説を誤りと断言してきた。筆者の主張は、99年1月に米国防副長官が「間に合う」と発表したことで証明された(朝日新聞1999年1月18日付朝刊)。
しかし「間に合う」理由として、国防省があげているのは、予想外にプログラム修正・確認作業がうまくいった」としているのに対し、筆者が本誌で主張し続けてきたのは「間に合いそうもないシステムは使わなければいい」というものだった(たとえば、米軍の保有する核弾頭は何万発もあってすべて修正するのは大変だが、冷戦時代のソ連ほど、いまのロシアの核戦力は強くないので、絶対に必要な最小限の弾頭だけ優先的にチェック、修正して、他は使わなければいい、ということ)。
が、上記の『週刊新潮』の指摘は、筆者の説にかなり近い。まだ使っていないピカピカの巡行ミサイルを Y2Kを理由に大量廃棄した場合、歴代の国防長官や軍需産業は「税金の無駄遣い」を理由に議会や世論から厳しく追求され、将来の国防予算獲得や国防受注のゆくえにも重大な影響が出る恐れがある(現在のクリントン政権は民主党政権であるが、国防長官のコーエンだけは共和党員であり、そして80年代に巡行ミサイルを大量に導入したのはレーガン、ブッシュ両共和党政権の、正真正銘の共和党員の国防長官たちである)。非常識に多数の攻撃目標を設定して、Y2K に対応していない疑いのある巡行ミサイルを撃ちまくれば、Y2K 対策にかかる膨大な費用が節約できるだけでなく、責任追求の恐れもなくなるので、すべて一気に「解決」できる、というわけである。
●ナゾの新兵器「炭素繊維チャフ弾」
しかし、すべての戦争がそうであるように、このユーゴ空爆も2000年問題以外の多数の目的を持つ「多目的戦争」であるはずである。1990-91 年の湾岸危機・湾岸戦争は、
1.大産油国イラクを封じ込めることによる石油価格の維持または上昇(ロックフェラー系国際石油資本やアラブ産油国の利益)
2.クウェートのイギリス利権の奪取(米保守本流財界の利益)
3.米・サウジ関係の強化とイスラエル切り捨て政策(米保守本流政界の利益)
4.前年の89年にサウジに完成したばかりのキングカリド軍事都市(設計施工を米陸軍工兵隊が行った、巨大な軍事基地。徳間書店刊の拙著『西暦2000年・神が人類をリセットする日』のp.313の地図を参照されたい)の実践テスト(産軍複合体の利益)
5.ピンポイント爆撃のできる誘導装置など新兵器のテスト(産軍複合体の利益)
6.ハイテク新兵器の誇示による、中国への威嚇(米国外交全体の利益)
といった多数の、目的を持っていた(1999年 4月に都知事になった作家で元運輸大臣の石原慎太郎が、都知事になる前の数年間、安保見直し、横田基地返還の持論とともに繰り返しテレビで述べていたことは、湾岸戦争はアメリカが引き起こした、ということであった。彼によると、CIA は80年代から南米に秘密の軍需工場を作り、そこで作った兵器を違法にイラクに売って戦争をけしかけ、湾岸戦争に持ち込んだ、という。イラクは、この米国製の旧式の武器と、対米関係があやしくなってからあわてて仕入れた中国製の「非」ハイテク兵器で湾岸戦争を戦わされ、惨敗した)。
石油危機を引き起こしたとされる1973年の第四次中東戦争も、イスラエル・パレスチナ問題とは無関係に、米国軍需産業の利益と、サウジなど産油国財政再建(当時ドルが、1971年の「ニクソンショック」の金=ドル兌換停止以来のインフレで値下がりしつつあったため、この減価するドルで石油代金を受け取る産油国の財政は次第に圧迫されつつあった。この石油危機の原因を「財政」とする考え方は、実は日本中のエコノミストのほぼ一致した見方である。拙著『西暦2000年…』のp.295の表を参照)。
したがって、今回の空爆も、新兵器技術のテストを含む、広範な目的を持つと見るべきである。さしあたり、新兵器、炭素繊維チャフ弾のテストないしデモンストレーションが重要な目的の1つであったことは、ほぼ間違いあるまい。
たしか4月末頃だったと思うが、日本のテレビなどの報道によると、米軍は(詳細は軍事機密だから言えないとしつつも)「炭素繊維の細かいかけらのようなものを、ユーゴ上空で大量に散布して、ユーゴの発電・送電施設の回線をショートさせ、数時間ながら国土の大半におよぶ大規模な停電を引き起こした」と発表した。発電所や返電所を爆撃すると、数日ないし数週間にもおよぶ大規模な停電となり、市民生活に影響が大きいが、チャフ弾の攻撃なら数時間で送電は復旧されるから、軍事攻撃に使える、というのが米国防省スポークスマンの公式発表である。なお「チャフ弾」はまったくの偽装で、別の方法で停電を起こした可能性もある。なぜなら米軍は伝統的に停電や電波障害を起こさせる兵器の研究を続けているからである。詳しくは本誌のY2Kコーナーか、拙著『西暦2000年…』の第二章「神の軍隊」のp.76を参照されたい。
そして、5月8日の中国大使館の「誤爆」の際にも、実はチャフ弾が撒かれ、大規模な停電が起きていたのだ。これが「ブーマーの計算」でなくて、なんだというのだ。
●中国こそ標的
5月9日現在、チャフ弾の使用による「停電」は 2回だけである。筆者は最初のが単なるテストで、2回目が「本番」と考える。つまり、ベオグラード(や北京)のような都会を突然大停電で暗黒にし、混乱させたうえで、重要な建物をピンポイントで空爆し破壊することができることを、中国政府に見せ付けることが、目的だった、という解釈である。この筆者の解釈を裏付けるように、1999年5月9日付の『人民日報』は「中国大使館を攻撃した弾頭は3発で、しかも3方向からあたっており、意図的な攻撃であることは明白」という趣旨の記事を載せている(NHK-BS1の1999年5月9日のニュースほか)。
もちろん、NATO諸国は不幸なミスだとして(ブーマーと同じように)中国に「謝罪と反省」を述べた。死傷した犠牲者とその遺族に賠償する、とまで言った。しかし、日中復交の際に、中国の毛沢東が日本の田中角栄首相に「侵略」への明確な謝罪を求めなかったように、国家観の「謝罪と反省」ぐらいくだらないものはない。そんなことを表明してもらっても、中国政府はうれしくもなんともない。国家は個人とは違う。国家の謝罪など愚民政策もいいところだ。中国の関心はそんなところにはない。
5月8日付朝日新聞夕刊の2面に、国連安保理で常任理事国の中国が「誤爆」後に、米国主導のコソボ問題の解決に反対を表明したことを指し、
「NATOは自らにとって最悪の標的を爆撃してしまった」
つまり、「アメリカはいちばん怒らせてはいけない国を怒らせ」「コソボ問題がNATOの意に反して長引くぞ」という趣旨の記事を載せていた。これを読んだとき、筆者は思わず大声で笑ってしまった。直前にユーゴ国内の病院や市場を「誤爆」して米軍には派手な誤爆があるぞあるぞと思わせておいてから、中国大使館を「誤爆」したのだから、「見え見え」ではないか。
中国政府高官や北京大学の大学生は、13億人のなかからほんのひとつまみ選びだされたエリートなので、おそらく朝日新聞の記者より知的水準が高いのであろう。米国政府の謝罪や朝日新聞を含む西側メディアの「誤爆」報道など、まったく信じていない。北京の米大使館には、大学生らのデモ隊が押し掛け、石を投げ付けるなどしてアメリカとNATOの「侵略行為」に抗議したほか、中国政府も繰り返し「国際法に違反する野蛮な行為」と非難した。尚、中国の「国際法違反」の主張は3月のユーゴ空爆開始当初にも行われた……。
そうなのだ。実は、今回のユーゴ空爆の開始以来の米中の最大の対立点は、国際法の解釈なのだ。
もし、中国政府が、米国政府に「台湾は中国の領土(国家主権のおよぶ地域)か?」と聞けば、米国政府は間違いなく「はい」と答える(1980年の米中復交のときそう決めたのだから当然である)。そこで、中国政府が重ねて「それなら、煮て食おうと焼いて食おうと勝手だな」と言うと、米国政府は「ダメだ」と答えるのである。上記のコソボに関する米国の主張の中の「コソボ」を「台湾」に置き換えただけである(これは、実は筆者が朝日新聞の解説記事から学んだことである)。
従来、台湾に武力を使わないことを望む米国の主張には、国際法上の裏付けはなく、単なる「お願い」にすぎなかった。しかし、類似のケースである今回のコソボ問題では、米国の主張は「お願い」ではなく、論拠のある要求として「既成事実」になりつつある。たしかに、セルビアと正教会キリスト教徒の国であるロシアやギリシャは必ずしもNATOの方針に全面的にに賛成してはいない。しかし、 5月にはいって、G8(米加英仏独伊日露)の外相会議でほぼ米国の主張に沿ったコソボ問題の解決をめざす方針が確認されたことにより、G8に入れてもらえない、民主的な直接選挙も、報道機関による政府批判の自由もない(と西側に思われている)中国の孤立感は相当なものであろう。NATO全加盟国と日露が程度の差こそあれ、米国の主張を支持しているとなれば、中国以外のほとんどの大国が賛同したことになる。しかもイスラム教徒のアルバニア人が「被害者」なので、ユーゴ問題では伝統的にイスラム諸国はアメリカと同様に「反セルビア」(反・新ユーゴ)の立場に立つことが多い。もし、中東から東南アジアに至るイスラム諸国とNATO、日露の立場が一致すれば、世界の世論の趨勢は決定的である。
いま一度、米政府高官のユーゴの放送局空爆後の見解を想起されたい。日本では衛星放送などを通じて、中国を含む外国報道機関のニュースをそのまま見ることができる。ロシアでも西側の映画やニュースは視聴可能だ。だから、日本もロシアも「放送局空爆」の標的にはなりえない。
しかし、中国のテレビ放送は、日本で平日深夜のNHK-BS1 の海外ニュースの中国からのものを見ればわかるとおり、単なる政府の広報であって、政府批判は皆無である。米国語で言うところの「プロパガンダ」に該当しよう。
台湾は事実上の独立国であり、そこでは複数政党制度による政権交替可能な直接選挙があり、メディアにはいちおう政府批判の自由がある。西側の基準でいうりっぱな民主主義国家である。とくに台湾の野党の支持者は「独立宣言」すべきとの主張を持つ者が少なくない。
しかし、いままで北京の中国政府が領土の一部と公言してきた台湾が正式に「独立」し、それを北京が容認すると、「それならオレたちも台湾みたいに独立したい」と北京や中国本土と民族や言語の異なるチベット自治区、新強ウイグル自治区、内モンゴル自治区、さらには本土の広東省ですら独立運動を起こす恐れがある(広東地方は北京と言語が違ううえ、香港を抱えていて北京より経済的に豊かなので、独立したほうがトクと思っている住民が少なくない)。中国としては、台湾の独立を認めることは中国大分裂の「内戦」を覚悟する必要のある「命懸け」の問題である(中国自体が民主化するという選択肢はない。中国が政党結社の自由を認めて政権交替可能な民主政治に踏みだすと、「チベット独立党」や「広東省自由党」ができて、結局内戦とほぼ同じことになる)。
●米軍の「中国弱体化作戦」開始か
では、いったいアメリカは中国をどうしたいのか?…………相当に弱体化させたうえで、しか し、内戦を起こさないほどの強さは残して、いわば現在のイラクのように「生殺し」にして「世界の孤児」にするのではないか、と筆者は思う。
「内戦」はまずい。下手をすれば、モンゴルやロシア領のシベリア(モンゴル人が多数住んでる)にまで飛び火し、ユーラシア大陸全体の国境線が次々に(旧ユーゴのように)変更され、第三次大戦になってしまう。中国の分解は、世界経済にマイナスで(中国が核保有国であることを考えると)米国の安全保障にとっても好ましくない。
第二次大戦と朝鮮戦争の英雄だった米国のマッカーサー元帥は「台湾を空軍基地に使えばウラジオストックからシンガポールまで西太平洋のすべての港を支配できる」と述べたことがあるが、台湾を中国に与えると、中国が南シナ海の制海権、制空権を握り、軍事大国としてアメリカやその同盟国の日本を脅かす恐れが強い。弱い中国も困るが、強すぎる中国も困る。
アメリカは台湾を完全に独立させるハラだ。中国は、もし台湾が独立宣言をしたら、その日のうちに中国は武力進攻すると称している。台湾はハイテク国家で経済力も豊かなので、最新鋭の空軍機を保有してる。このため人口2000万ながら、13億の中国を向こうにまわして台湾海峡の制海権、制空権を握っている。その証拠に海峡の大陸寄りの小島(金門島や馬祖島)は残らず台湾領である。が、中国は小島だけなら占領できるし、もちろん台湾全体を核兵器で威嚇することもできる。従来の国際法では、日米が中国の台湾侵攻を妨害するのは「主権の侵害」「中国への侵略」であるが、コソボ問題以来、国際法は変わりつつあり、中国が台湾領を侵した場合「中国こそ侵略者」と主張することは国際世論上は可能になりつつある。
おそらくいま現在、中国の人民解放軍の高官は、以下のように、米軍の「台湾独立作戦」をシミュレーションしているだろう(米軍としては、シミュレーションで「観念」してくれる可能性を計算していよう)。
まず、台湾政界に工作して独立宣言をさせる。相前後して、中国の台湾侵攻の拠点となりそうな港湾や軍事基地、さらに北京や上海とその周辺に炭素繊維チャフ弾を撒き、大停電を起こさせる。時機としては、2000年問題の危険日や太陽表面からの電磁放射の強まる「ソーラーマキシマム」が起きるとき(である、と米国防省やNASAが地上での電波の混乱や停電の懸念を表明している日時の前後)がよい。今回の「誤爆」と同様に、米軍は「シラを切る」ことができるからだ(実際にソーラーマキシマムが起きているかどうかは問題ではない。西側のマスメディアがそのように報じればそれでよい。中国の放送局が違う見方のニュースを流したら、今回のユーゴの場合と同様に爆破すればよいだけだ)。そのうえで巡行ミサイルで、台湾侵攻の拠点となる基地や北京の重要な政府庁舎を正確に誤爆する。「一部のミサイルの2000年対策が間に合っていなかった」とか「ソーラーマキシマムで米軍の偵察衛星の情報が狂った結果の不幸な事故」といった言い訳が可能である(今回の大使館誤爆では、攻撃目標の位置を示すデータを間違えた、と5月9日、米国のコーエン国防長官とテネットCIA長官が記者会見で述べた、とNHKが報じた)。
(なお、2000年問題の危険日とソーラーマキシマムは、本誌のY2Kコーナーにもあるが、補足修正を加えた、拙著『西暦2000年…』のp.p 201-206を参照されることをおすすめする)
●中国を「追い出す」か?
いずれ、アメリカは中国からチベットも切り離すのではあるまいか。チベットは中国とインドの中間にあることから、ここを中立化して米国主導の国連軍や多国籍軍を展開できれば、中国とインドの紛争を制御でき、98年のインド、パキスタンの核実験以来の「核拡散」にも一定の影響力を持つことがでできる。
おそらく、そう遠くない将来に、中国は日露を含む国際世論(西側のメディア)から新ユーゴと同じ非民主的な独裁国家つまり「悪玉」と認定され、非難されるであろう。他方は、台湾は民主主義国家と認定され、凶獣中国に犯されそうな哀れな被害者、つまり「善玉」とされるであろう。場合によっては「米軍の台湾駐留」もありうるだろう(そうなれば沖縄の米軍基地問題は、あっさり解決される)。
さて、以上まとめると、今回の米国による新ユーゴ空爆の目的は:
1.ユーゴ周辺の不安定化を口実にした、NATOを使った米軍に欧州における軍事覇権の維持
2.ステルス戦闘機などの最新兵器の実践テスト(しかし、これは撃墜され、みごとに失敗)
3.「停電兵器」(炭素繊維チャフ弾)の実践テストと、中国への威嚇
4.中国の孤立化(長期的には中国から国連安保理常任理事国の座を奪い、日本と交替させる)
5.中国への台湾政策の変更の強要
6.巡行ミサイルの2000年問題対策(廃棄処分)
7.(今週は時間がないので、これは次回以降にまわします。m(_ _)m)
アメリカは、現在国連組織改革の最大の課題とされる国連安保理常任理事国の拡大問題では、日独を拒否権付きの常任理事国にしたい意向とずっと言われてきた。日独が戦後経済大国となり、かつ民主国家となったから相応の発言力と責任を持つべきだという主張である。
しかし、それでは常任が 7か国となって数が多くなりすぎ、まとまる話もまとまらなくなる恐れある、というのが筆者の見方だ。アメリカとほとんど政治体制や価値観でほとんど一致しない中国を追い出し、一致点の多い日本と交替させるのがいい、と思うのはだれでも考えそうなことだ。そのためには、中国には、相当な「悪玉」になってもらう必要がある。
筆者は台湾の民主主義と豊かな経済力には十分に敬意を持っているが、中国(および新ユーゴ)の現状には同情する。いくら独裁国家だからといって、西側の世論から「集団レイプ」される理由はない。
思い起せば半世紀前、日本は、今回の中国と同様に、アメリカに「はめられて」悪玉に仕立てられたのだ。今回の中国ともども、アメリカに「やられる」側に非がなかった、とは言えない。運命と言えば運命だし、「身から出た錆」である面も否定できない。
しかし、これは「中国浄化」だ。
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