そこで、本誌は日本でいちばん早い、石原内閣の組閣名簿の予測に挑戦したいと存じます。具体的には、この内閣が実現するための政治プロセスと、その影響で決まる閣僚および「石原与党」の執行部幹部の顔ぶれの予測を適宜、順次試みて参ります。 宜しくご期待下さいませ。m(_ _)m
-- 佐々木 敏
まもなく8月5日に「住基ネット」(住民基本台帳ネットワーク)が始動する。これは、住民基本台帳に記載されている全国民に11桁の番号を割り当てて管理するコンピュータネットワークである。毎日新聞 など大手マスコミの説明は、ITと行政・政局の両方に通じた記者がいないせいか、欠陥だらけで問題の本質がほとんど見えないが、整理するとこうなる:
推進派は、政府(小泉内閣)と連立与党の大半で、彼らは、このネットについて
#1a 行政事務の効率化や(住民票が居住地以外でも取得できるなどの)サービスの向上につながる
#2a 住民票取得に必要な基本的な「4情報」(住所、氏名、生年月日、性別)しか載せない
#3a インターネットとは異なり、閉じた(クローズド)システムなので外部からの不正侵入の危険はない
#4a 内部の不正(公務員や管理請負業者の情報漏洩)は住民基本台帳法改正による厳罰(2年以下の懲役か100万円以下の罰金)で防げる
と主張する。
反対派は、すべての野党と、自民党の一部、それらを支持する文化人らで、彼らは
#1b 当面、住民票取得以外のメリットはなく、費用対効果の面で問題
#2b いずれ行政効率化のため「11桁の背番号」に納税・犯罪歴など他の情報も載せ、プライバシー侵害につながるのは必至
#3b クローズドでもファイアウォールの設定ミスなどで不正侵入は起きるし、各地方自治体のセキュリティ担当の人材確保もまだ不十分
#4b 官民いずれかの悪意で「#2b」の個人情報が漏洩しても、それを防ぐはずの個人情報保護法がいまだに成立していないなど、法整備が不十分
などと危険性を主張する。
●数年後には定着する「運命」●
結論を先に言うと「数年後には確実に住基ネットは稼動し、定着しているだろうし、大した問題も起きていないだろうが、但し、今後1〜2年間は大混乱が起きる」と筆者は予測する。これは、大手新聞の政治部長やパソコン誌の編集長など「片方の分野の素人」の意見とは違って、政局とITの両方に強い、数少ないプロの言論人の1人の意見なので、こころしてお聞き頂きたい。
●反対派の不純な「呉越同舟」●
反対派の主力はいわゆる「国家権力」のやることになんでも反対する左翼勢力、共産党、社民党、民主党左派とそれらを支持する労働組合(とくに自治労と、それから分かれた自治労連)、小泉内閣の足を掬いたい民主党右派と自由党、それになぜか「自民党の一部とそれを支持する保守系文化人」(これがカギ)が加わっている。
このうち左翼の反対はくだらないもので、ほんとんど無視していい。彼らは住基ネットどころか、地方のIT革命、地方の行財政改革自体に反対なのだ。
●地方財政の大赤字●
現在(2002年度末推計)国の財政赤字(約528兆円)についてはマスコミでよく取り上げられるのでだれでも知っているだろうが、地方自治体の財政赤字(約195兆円)については、報道が少ないので国民の危機感も薄い(国と地方の単純合計には、重複があるので、それを除くと両者の合計は約693兆円で、日本のGDPの139.6%もある。民間の「リアルタイム財政赤字カウンター」 や財務省の「国及び地方の長期債務残高」 を参照)。
この深刻な地方財政赤字の元凶は、地方自治体が3,229(市区町村)もあって、相対的に少ない人口に対して過剰な事務職員が行政サービスを提供する中小自治体が並存していることにある。これらの自治体は、人口が少ないから税収も少なく、国からの補助金(地方交付税交付金等)に依存してしばしば無責任な公共事業を行うが、それでいて人口数千人の村でも(人口100万人の都市と平等に)清掃局長や「住民票発行事務の責任者」は最低1人はいるので、甚だ事務効率が悪い。
そこで、とくに過疎地で市町村を合併させて、相対的に人口の大きな自治体を作ってその財政基盤と組織力を強化し、そこに中央官庁から行政権限を委譲して地方自治体に「自己責任」で地方政治を任せ「無責任な補助金行政」をやめさせようというのが、財界人らの提言で始まり現在総務省が推進している「市町村合併」である。
もちろん、これには合併によって余った公務員を退職させることで人件費を削減する「行政リストラ」の意図が含まれていることは言うまでもない。
●ブロードバンド時代の巨大市場●
そして、こうしたリストラは、コンピュータネットワークを駆使した行政、いわゆる「電子政府」「電子自治体」の実現でいっそう加速される。その実現への大きな一歩が住基ネットなのだ。
財界が想定する、地方自治体への大規模なネットワーク導入の行き着く先は、単なる「各自治体」での行政事務の効率化ではない。行政事務の外注(アウトソーシング)化と、それを請け負うネットビジネス市場の創設だ。
数年前の持ち株会社制度の法改正により、ソフトバンクグループは徹底した分社化を行い、1999年4月からソフトバンク本体は役員を除くと正社員が数名しかいない純粋な持ち株会社になった。つまり、ソフトバンク株式会社には総務部、人事部、経理部などの業務部門がなくなり、これらの部門は子会社として独立し「独立採算制」に移行したのだ。
経理部が「独立採算制」と言ってもピンと来ないだろうが、これは分社化した経理部(ソフトバンクアカウンティング)がソフトバンクグループ各社はもちろん、他社の経理業務をも外注で請け負う、という意味である。
ソフトバンクは新興企業の株式公開のための証券市場「ナスダックジャパン」を創設したが、そこで誕生したばかりのベンチャー企業は社員数が少なく財政基盤も弱く、大企業と平等に経理部(経理部長は会社の大小にかかわらず1名ずつ)を持つのは難しい。そこで、このようなベンチャー企業は経理部(長)を社内に置かず、伝票処理などの業務をソフトバンクアカウンティングのような専業企業に外注したほうが得になる。
もちろん、業態の違う多数の企業の多数の伝票を一手に処理するのは、扱う情報量が膨大で大仕事だ。が、それらの伝票がすべて電子化されていて、ブロードバンドを通って超高速で(ソフトバンクアカウンティングの)経理の「プロ」の手元に届くとすればどうだろう。中小企業の経理の素人の手元で紙の伝票が処理を待っていて、しばしば忘れられて支払いが滞るといった事態が起きるより、はるかに低コストで高効率の事務処理が実現することは間違いない。
そして財界は、このような高速ネット外注サービスの顧客として、中小企業だけではなく、地方自治体を想定しているのだ。たとえばセコムなどのネット運用に強い民間企業が、人件費の安い沖縄県で「運転免許証書き替え専門のオペレーター」を大量に育てて外注センターを作り、そこにブロードバンドネットを通じて北海道の過疎地の自治体から免許書き替え申請書類を電子化して送れば、過疎地の自治体の書き替え担当者はほとんど要らなくなる。地方公務員の人員削減どころか、部門によっては「人員ゼロ」も可能なのだ。
新聞が外務省など中央官庁の不正を暴くことにばかり熱心なので、大多数の国民はまだ気付いていないが、実は、地方公務員には相当に有害無益な「無駄飯食らい」が少なくなく、かつ一般的に(労働組合が強いので)国家公務員より給与が高く、そのうえ過疎地の自治体では採用試験が国家公務員試験ほど難しくないので平均値で見ると中央の官僚より専門知識で劣り、政策立案能力も乏しい。もしも行財政改革が国民的合意なら、この連中を真っ先にクビにしなければならないはずだ。
●ブロードバンド時代自体に反対する勢力●
となると、地方公務員の労働組合、自治労や自治労連は当然、ブロードバンド時代の波が自分たちの職場におよぶのを防ぐため、その一里塚である住基ネットの導入には反対するはずだ。もちろん、その理由は「国民のプライバシーを守る」などという高尚なものではなく、自分たちの(無意味な)仕事の温存でしかない。
事実彼らのホームページでは「(地方)自治体の市場化(外注化)、自治体リストラ(余剰人員の削減)、地方交付税削減」に反対だ、と税金の無駄遣いを奨励する見解を述べている(「自治労連第23回定期大会」三宅一光・副中央執行委員長の総括答弁 大要 )。
●原発反対ヒステリーに似た人災強調の「針小棒大」●
もちろん、住基ネット自体の危険はある。ネオテニー社長の伊藤譲一は、住基ネットをインターネットなど他の「侵入されやすいネットから」クローズドに(閉鎖)するファイアウォール(「防火壁」のようなソフトウェア)にも設定ミスが起きうることや、住基ネットから取られた個人情報が廃棄されたパソコンの中に残存していて、数年後に廃棄物置き場からパソコンごと拾われて悪用される可能性(IT業界の「スパイ合戦」では現実にある)を指摘している(フジテレビ『報道2001』2002年7月21日放送分、朝日新聞社『AERA』2002年7月15日号)。
が、「なんの意味もない伝票処理をさも意味ありげに時間をかけて行う」だけの無能な地方公務員に原始的な紙の書類決済をさせて税金を浪費し、日本の財政・経済を破綻させることの危険だって、それ以上にある。伊藤とともにテレビ(前掲『報道2001』)に出演した保守系ジャーナリストの櫻井よしこは、住基ネット導入に反対する理由として「地方自治体では個人情報管理のセキュリティ対策要員の確保がまだ十分でないから反対だ」と言うが、伊藤や櫻井のような「人災」ばかり強調する論理で行くと、効率的な「ネット社会」や「電子政府」は永遠に実現しないことになる。
なぜなら、自治労や自治労連はそもそもネット化、電子化自体に反対なので、彼らは職場である各地の自治体で、情報セキュリティの管理能力を身につけることを故意にサボったり、妨害したりすると考えられるからだ。
つまり、いまセキュリティ対策が不十分だから、と住基ネットの稼働を凍結してしまうと「凍結ができたのなら、次は廃止だ」と、彼らはますますセキュリティ対策をさぼるようになるので、結局「行政のネット化」は半永久的に実現できず、地方財政は際限なく悪化し続けることになる。
一部の財界人(セコムの飯田亮・現取締役最高顧問ら)は1990年代初頭から、行政のネット化による外注サービスを巨大市場と位置付け、民間参入を検討していた。が、90年代半ばまでは、自治労を有力支持基盤とする社民党(旧社会党)が与党であったため、ネット化は遅々として進まず、その間日本経済は、新たな成長市場を見出せないまま、不動産バブルの崩壊に端を発する大不況に苦しむこととなった。
98年6月1日社民党が橋本内閣への閣外協力を解消するまで( < http://www5.sdp.or.jp/central/activity/toutaikai980824.html > )社民党は政府・与党に影響力を保持し続けた。その後、社民党の影響をまったく受けない小渕内閣のもとで「やっと」1999年に住民基本台帳法が改正されて住基ネット導入の準備が始まり、2000年に次の森内閣のもとで「IT基本法」が制定され、それに基づいてブロードバンド通信回線が大規模に普及し、こんにちに至ったのである。
IT社会の到来による日本経済の回復を阻んできた最大の抵抗勢力は、実は社民党(と自治労などの地方公務員労組)であり、やつらに好き放題やらせていたら、この先日本がどこまで衰退するかと想像すると、ぞっとするほどだ。社民党が与党であった間、政府は景気回復の手段を事実上、大して役にも立たない旧来型の「土建」公共事業に限定され、IT産業の奨励は禁止されていた。自社連立政権とは実は、自民党の建設族議員と地方公務員労組を基盤とする社民党政治家の「談合政権」だったのだ。
櫻井や伊藤の言う住基ネットの「人災」の危険は、実は石油会社の手先が市民運動を装って石油の値段を吊り上げるために原発の危険性を言い立てる「原発反対ヒステリー」(環境運動でなく利権運動)の論理と変わらない(櫻井はいつから「原発反対屋」になったのだ?)。「100%安全なシステムはない」「悪意などによる重大な人災の可能性は否定できない」などと言い出したら、住基ネットどころか原発も飛行機も、タクシーも利用できないではないか。
あらゆるシステムは常にトラブルを起こす危険を抱えているのだから、慎重に運用しながらトラブルが大惨事に至らない方策を絶えず考え続ける以外に道はなく、「100%安全になるまで導入しない」のなら、われわれが現在享受している技術文明はすべて否定されねばならない。
野党やマスコミの大反対の末に紆余曲折を経て導入され、結局定着したものに大型間接税(中曽根内閣の売上税が挫折し、竹下内閣の消費税で定着)があるが、現在これに疑念や危険を感じている国民がほとんどいないことを思えば、住基ネットが今後どのような道を辿るかは容易に想像が付く。
幕末、薩摩や長州などの西南雄藩は、幕府(大老・井伊直弼)が勅許を得ずに開国したことを「国是(鎖国)に違反した」と責め、倒幕の口実にした。が、幕府を倒して成立した彼らの新政府は、べつに国是の回復はせず、幕府が「勝手に」始めた開国政策をそのまま継承した。
このように「反対のための反対」「政局のための反対」は歴史上よく用いられるものだ。
●「政治的原因」で大混乱●
住基ネットの、来たる2002年8月5日の稼働には、反対派が言うほどの制度上、技術上の問題はないだろうし、推進している政府・与党の側にも(いささか能天気な面はあるが)それほどの悪意はないだろう。
が、実は「政治上」の欠陥がある。
小泉内閣を潰したいと思っている、さる「大きな勢力」にとって、この住基ネットの稼働は、左翼を「砕氷船」として利用して政局を転換できる格好のチャンスだ(自治労や自治労連の幹部はあとで「使い捨て」にされるとも知らずに、小泉内閣打倒に奮闘している哀れな存在である)。
小泉内閣がこの「大きな勢力」の望む重要な政策をほとんど実現していない以上、しかもその「大きな勢力」が自らほとんど手を汚さずに内閣の交替を実現できる機会がある以上、住基ネットが「政治的に」利用されるのは避けがたい。
住基ネットの最大の欠陥は、政府がそれに気付かずに実施を決めてしまったことだ。つまり、8月5日以降、住基ネットが引き起こす技術上のトラブル自体は問題ではないが、それを針小棒大に報じるマスコミと、それを国会で取り上げる政治家、とくに(野党ではなく)自民党の国会議員22名の「反対派」が問題なのだ。
おそらくこの「22名」、亀井静香、中川昭一、塩崎恭久らは(7月19日には、このうち小林興起らが中心になって住基ネットの凍結を求める法案提出をめざす「住基ネットを考える議員連盟」を結成したが)住基ネットが本質的には安全なことは知っている。彼らが反対するのは、これを「政局」にしたほうが彼らにとってトクだからであって、べつに自治労に同情しているからではない。
たとえば、もし国会開会中に住基ネットに起因する小さなトラブルが起き、それをマスコミが大きく報道すれば、野党は間違いなくそれを理由に衆議院に内閣不信任案を出す。さすれば、上記の22名の自民党議員(のうちの衆議院議員)はこれに賛成するだけでなく、さらに他の与党議員に賛同を呼びかけることもできる(筆者は、保守党の小池百合子は彼らに合流すると予測する)。
通常、与党議員が野党の出した不信任案に同調することは政党政治の原則からいって、よほどの事情がない限りありえない。が、22名もの与党議員があらかじめ懸念を表明していた混乱が予測(予定?)どおりに起きたとなると、それは「よほどの事態」なので、堂々と政党政治の原則を無視できる。
ちなみにここ10年でそういう事態が起きたのは2回、2000年のいわゆる「加藤政局」と、1993年の宮沢内閣不信任案の可決である。とくに93年のときは、小沢一郎をはじめ自民党の大物代議士数十名が不信任案に賛成し、彼らはそのまま脱党して新生党を結党して直後の衆議院選挙で躍進して自民党を追い詰め、ついに非自民連立政権を作るところまで行ったのである。
【では、その「大きな勢力」とは何なのか、どんな「手口」で大混乱を起こすのか、については次回以降で。】
■共謀しない黒幕・ネット編〜住基ネットで政局が動く(2)■
【前回の「8月5日から罠が始動」から続く。】
筆者は本誌Web版で、2001年3月17日、小泉純一郎(現首相)が自民党総裁選に出馬する前に「1年以内に小泉内閣ができる」と予言(でなくて科学的に予測)して、的中させた(「米国ご指名、小泉首相」を参照)。理由は、米国の政権が民主党(原発派、親中国派、日本軽視派)から共和党(石油派、親台湾派、日本重視派)に交替したからだ。
90年代、クリントン米民主党政権は、アジアを蔑視して米投機筋によるアジア通貨危機を引き起こし、「中国バブル」に目を奪われ、目先の中国利権の追求にうつつをぬかし、日本を軽視し、自由主義国家・台湾への武器供与を渋り、共産独裁国家・中国の軍拡を容認し、中国の台湾侵略を防ぐ盾となるMD(ミサイル防衛)の実戦配備を(それが技術的に不可能なものと見せかけるために開発実証実験の回数を減らすなどの姑息な手段で)故意に遅らせようとするなど、東アジアの民主主義と市場経済に有害な(ある種人種差別的な)政策をとっていた。
こうしたクリントンの反アジア、反日政策の一翼を日本国内で担っていたのが、日本国内最大の親中国派勢力である自民党の橋本派、なかんずくその実力者である野中広務元幹事長と、彼に代表される道路族、郵政族などの「族議員」だった。
彼らは日本が、安定した市場経済大国として、またアメリカの同盟国として、中国の侵略主義に対抗するのを「阻止」するため、意識的に日本の国力を落とす政策を推進した。そのために彼らは日本経済の回復につながる行財政構造改革や金融機関の不良債権処理を故意に遅らせて、ゼネコンを儲けさせるだけの無駄な公共事業に税金を浪費し、連立内閣のパートナーである社民党(の有力支持基盤である自治労)に配慮して(98年に自民党と社民党の連立が解消されるまで)IT産業基盤の整備や地方行政のネット化による地方公務員の人員削減も妨害した。また、日米同盟の強化やそのためのまともな有事法制の整備、MDの推進もサボり、台湾を外交的に冷遇し、中国が台湾海峡に配備するミサイルを増強しているのを知りながら、それを財政的に側面から支援する円借款などのODA(政府開発援助)を中国に供与し続けた。
橋本派(の野中)は橋本派の小渕恵三首相が2000年に急死したあとも、後継首相の森喜朗の最大支持基盤として、首相を遠隔操作したため、森自身は橋本派でないのに「橋本派支配」は続いていたし、また、クリントン米民主党政権は「日米貿易摩擦の解消のためにも内需の拡大を」と日本に外圧をかける形で、橋本派と族議員の主導する「無駄な公共事業」を奨励した。
●首相の首をすげ替える「大きな勢力」●
が、2001年1月に米国の政権が共和党のブッシュ政権に替わると、日本に無駄な公共事業を求める外圧は止まり、逆に構造改革・不良債権処理による日本経済の本格回復と日米同盟強化を求め始め、「なぜか突然」森は退陣に追い込まれ、橋本派の支援を受けない小泉純一郎が政権を握った(この間、米共和党は、諜報機関などを使って日本の世論を操作し、「小泉待望論」を多数意見とするために日本のマスコミを巧みに誘導したと推測される)。
2001年4月、小泉は米共和党の期待どおり首相になった。が、その後、小泉は期待を裏切った。
彼は首相就任当初「自民党をぶっこわす覚悟で(構造改革を)やる」と言ったが、党をぶっこわさず、大人しく自民党の総裁であり続けた。彼は、彼の改革に反対する橋本派や族議員などの「抵抗勢力」の抵抗に遭うと、政治家として当然のことをしなかった。
「当然のこと」とは、自民党総裁としての権力(次期国政選挙における公認権)やスキャンダル暴露などの脅しを使って政敵を恫喝し、圧倒し、それができなければその政治生命を奪って路頭に迷わせることだ。
維新の英雄・大久保利通は明治初頭の大改革で、近代的国民軍創設と財政再建のため武士階級を消滅させ、失業した武士すなわち「不平士族」(抵抗勢力)の不満を買って暗殺されたし、自民党を離党して非自民連立内閣を作った小沢一郎は「小選挙区制による政策本位の政権交代のできる体制」をめざしたばかりに旧来の万年与党型「族議員政治」を懐かしむ政治家(同志)に次々に離反され、小政党の党首に転落した。つまり、「痛みを伴う大改革」は敵を作らなければできないのだ。
が、小泉は抵抗勢力を「説得」して「味方」にすることにのみエネルギーを使い「敵を切り捨てる」覚悟はなかった。そのうち、改革のための説得が本末転倒し、味方を確保するためだけの「説得のための説得」に変質し、財政構造改革も不良債権処理もさして進まなくても、政権運営に必要な「味方」をつなぎ止めるための「実を捨てて名を取る」法案を通すことで満足するようになった(つまり「改革のための政権」でなく「政権のための政権」になった)。
また、小泉は日米同盟の強化でも失敗した。
中国の台湾侵略を防ぐ(技術的に、ではなく)「政治的に」有効な最大の盾はMDで、MDの最大の構成要素として予定されているのは、極東では海上自衛隊の保有する高性能駆逐艦「イージス艦」なので、MDの極東における円滑な運用のためには、日本がイージス艦を最大限活用することが不可欠だ。そこで、米共和党は2001年9月以降の「反テロ戦争」に日本が参加する際、海自のイージス艦を索敵・情報収集の後方支援分野で実戦投入し経験を積ませることを強く希望した。小泉もこれに同意し、いったんはイージス艦のインド洋派遣を決めた。
が、(台湾を侵略したい中国の意を受けた?)野中と、野中に説得された山崎拓・自民党幹事長の反対に遭うと、小泉はあっさり派遣を断念した。その後も反テロ戦争は続いているので、米側はイージス艦の派遣を求め続けているが、小泉は野中らの言いなりになって派遣できずにいる(これはけっして「日本が主体的に判断して平和のためにイージス艦を出さない」のではなく「米国の要請どおり反テロ戦に参戦する振りをしながら、中国の侵略主義者を恐れて対米協力を中途半端にした」という情けない事態なのだ)。
【MDと台湾(と北京五輪)の関係については拙著『龍の仮面(ペルソナ)』をお読み下さい。原則的に本件の質問メールはお受け致しかねます。】
2002年5月に訪米した自民党の山崎幹事長(任命したのは小泉自民党総裁)に、米政府高官がイージス艦派遣を「再度」打診したが実現せず、また6月のカナナスキスG8サミットで小泉首相は不良債権処理や行財政改革の具体策・具体的日程を示せず、その後の国会でもなんの意味もない形だけの郵政民営化法案(信書便法案)を成立させたほかは、具体的な改革の成果は何一つ示せなかった。
おそらく5〜6月に米共和党政権と諜報機関(CIA?)の対日工作責任者は、小泉を退陣させ、不良債権処理とMD推進のできる保守派政治家「たち」の政権にすげ替えることを検討したはずだ。そうでなければ、なんのために森内閣を「潰した」のかわからない。
【共和党は、日本が不良債権を抱えたまま経済力を落とすことを米国の国益とは考えない。中国は見かけは大きいが政治的に不安定で国家分裂の危険を抱えているうえ、地続きの未確定の国境線が多いため戦争の危険も絶えず、地政学上脆弱で「安全保障のコストが高く」とても米国の同盟国にはなれないのに対して、日本は分裂の危険がなく国境線もすべて海で安定しており、未来永劫、米国の市場、投資先、同盟国として確実に機能しうるからだ。
日本を軽視し、中国を重視しようとする米民主党の一部勢力は、米政財界で主流派になれなかった連中の「負け惜しみ連合」であり、彼らの親中国路線は、一時的な利益を求めた場当たり的なもの、地政学の王道を無視したいびつなもので、米主流派の国家戦略にも米国の国益にも、長期的には合致しない。】
小泉の失敗から得られた教訓は、首相個人に改革の意欲があっても、その政治基盤(与党)にそれがなければどうしようもない、ということだ。だから、米共和党は、首相個人のキャラクターに依存せず、構造改革や日米同盟強化に賛成の、あまり族議員的でない、浮動票の得られる知名度を持った都市型政治家を幅広く結集して、そういう政治勢力(○○新党)全体を、小泉政権と入れ替える、と考えているのではあるまいか。
そう思って、住基ネット反対を表明している国会議員や文化人の顔ぶれ(国民共通番号制に反対する会 の賛同者一覧)を見ると、興味深い。
自己保身のために住基ネット反対を唱える地方公務員労組とそれに支持された左翼勢力、左翼文化人を除くと、国会議員では自民党の22名、すなわち亀井静香(元警察官僚)、中川昭一、小林興起、塩崎恭久らが目立つし、民間人では佐々淳行(元内閣安全保障室長、警察官僚)、櫻井よしこら保守系文化人の大物が多い。彼らは総じて(ハト派=親中国派ではなく)伝統的な保守派で、親台湾派、危機管理重視派(有事法制にも日米同盟強化にも賛成)で、この30年間の日本政府の対中国(対北朝鮮)弱腰外交に批判的なのだ。
このうえ、亀井と佐々は石原慎太郎・東京都知事の永年の盟友であり、小林は自民党内の親台湾派議員連盟の中心メンバーで、言うまでもなく石原は台湾の陳水扁総統の就任式に出席するほどの親台湾派で反共主義者だ。そして、塩崎は参議院議員の舛添要一らとともに小泉内閣の経済政策に否定的で、インフレ目標設定などの抜本的な対策を打てと主張している……これはいったい何を意味するか?
●「凍結法案」の攻防●
野党が現在開会中の通常国会に「住基ネット凍結法案」を出す可能性はあるが、上記の亀井ら、自民党内の反対派国会議員が政府・与党に造反して野党に同調しても、過半数に達しないので、否決されてしまう。凍結法案が衆議院を通るには造反議員は(衆議院だけで)50名必要で、自民党の「住基ネットを考える議員連盟」(小林興起会長)のメンバーは50名は集められると豪語している(産経新聞2002年7月24日付朝刊5面)が、それが実現しても国会の日程から見て、参議院で審議し可決できるほど国会会期は残っていないから、結局「凍結法」は成立しない。
この「衆院だけ通過」の場合は、小泉内閣(の住基ネット政策)が衆議院で「不信任」されたのに、法律上は「凍結」されていないので8月5日には予定通り稼働する、という、小泉内閣をゆさぶりたい犯罪的ハッカー(クラッカー)にとっては誠に興味深い(サイバー攻撃の大義名分が得られる)事態になる。クラッカーの悪意で8月5日以降に混乱が起きれば、マスコミや野党が「民意と国会(衆議院)を無視して住基ネットを強行した内閣の責任」を追求するのは必至だ。
●「住基ネット政局」への道●
8月5日以降、稼働中の住基ネットが大混乱を起こせば(あるいは、小さな混乱を「大混乱だ」とマスコミが報道すれば)野党と上記の自民党議員22名は一斉に小泉内閣を非難する。幸か不幸か8月5日は通常国会閉会(7月31日)後なので、たとえ稼働初日に混乱が起きてもただちに内閣不信任案の提出、可決という事態にはならない。
が、上記の22名は(親台湾派の同志を募りつつ)小泉内閣を批判し自民党を離党する大義名分を手に入れたことになるから、小泉は「秋に臨時国会を開けば即不信任」という事態にもなりうる。
かつて93年には小選挙区制導入を核とする小沢一郎(当時自民党)らの政治改革路線が自民党執行部に否定された際、小沢ら数十名の自民党(竹下派、現橋本派)代議士が自民党を離党して新生党を結成し、直後の衆議院総選挙で躍進して、共産党を除く全野党と連立して非自民連立政権を作り、首相には無党派層の支持の強かった細川護熙元熊本県知事を据えた。
よく、石原慎太郎が総理になれるかどうかを論ずる際に「他人の面倒見が悪く永田町で人望のない石原が『石原新党』を作れるのか」という議論があるが、無意味なことだ。93年の細川(当時は日本新党という小党の党首)を思い出せば、べつに「知事出身の無党派候補」は、自身で国会議員を何百人も抱える大政党など作らなくてもよいことは明らかだ。つまり、小沢一郎(や亀井静香)のような国会対策に長けた「寝業師」に頼んで非自民勢力を結集する「連立方程式」を解いてもらって枠組みを作り、その上に「象徴的に」乗っかればいいだけだ(石原新党など自力で作らずとも、小沢一郎の自由党に「間借り」してもいい)。
93年の細川と小沢の関係は2002年の石原と亀井の関係にかなり似ている。93年に小沢らが自民党を割って政局を大転換したように、2002年に亀井が自民党を割って出れば、戦後日本史上かなり大きな変化が起きると予測できる。
【明らかに「建設族議員」である亀井が「自民党の族議員政治に引導を渡す」とすると、妙な感じだが、93年に小沢とともに自民党に叛旗を翻した連中のなかにも族議員はかなりいたのだから、さほど驚くには値しない。
族議員は万年与党(自民党)にいれば無駄な公共事業の元凶だが、党を替われば「自動的に」ライバル政党に勝つための「より効率的な公共事業の提唱者」になる。これは、ペルソナの問題であって、政治家個人の資質や人柄とは関係ない。詳しくは上記の『週刊東洋経済』の拙稿か、拙著『龍の仮面(ペルソナ)』を参照。
亀井は最近はなぜか唐突に「死刑廃止を推進する議員連盟」の会長になり、社民党の保坂展人のような左翼政治家や人権派弁護士との接触に熱心だし、小沢の自由党も地方選挙では社民党、共産党との選挙協力を進めているから、2人は「非自民連立石原内閣」の実現のために国会議員の数が足りなくなったら、93年のときのように左翼勢力に頼るつもりなのだろう。単なる「数合わせ」や「理念なき野合」になる恐れは大いにあるが。
まあ、住基ネットを数年凍結してくれれば「石原でも亀井でも喜んで支持する」(靖国神社参拝問題なんかどうでもいい)という自治労組合員は少なくないだろうから、案外「誘惑」は左翼側から来るかのではないか。】
■こいずみホイホイ〜小泉訪朝で日朝とも「政権交代」?■
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■石原訪米の謎〜「ポスト小泉」への面接試験か■
【今回は「小泉訪朝は米国の罠か」の関連記事です。】
前回の記事で、小泉首相が「海自イージス艦のインド洋派遣見送り」と「柳沢金融担当相による不良債権処理の遅延」で、ブッシュ米大統領の期待を裏切ってきたので、首相は大統領の「報復」で罠にはめられて、実現するはずのない日朝国交交渉に追い込まれ、政権を失うかもしれない、と述べたところ(まさか首相が小誌を読んだわけではあるまいが)その後、2002年9月30日の内閣改造で柳沢を更迭し、防衛庁長官にはイージス艦派遣に前向きな石破茂・自民党衆議院議員(02年9月27日放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』で本人が発言)を抜擢して「対米配慮」を見せた。
が、石破の入閣には別の意味がありそうだ。
●「新拉致議連」分断工作?●
10月1日、9月の日朝首脳会談を受けて訪朝した、政府(外務省)の「拉致調査団」が帰国した。その調査結果は10月2日昼過ぎに安倍晋三・内閣官房副長官の記者会見で明かされた。が、それに先立つ午前11時51分からの、首相官邸大会議室前での報道各社とのインタビューで、小泉は「(1日に帰国した調査団の)第一陣の調査に対しては(北朝鮮側は)誠意を持って対応したようだ」と述べた(産経新聞02年10月3日付朝刊5面「小泉日誌」)。もちろん、この時点で小泉は調査団の報告を詳細に知っている。
ところが、その直後に明かされた調査団の報告内容は「亡くなった方のお墓はほとんどすべて洪水で流されて遺骨は紛失」「有本恵子さんら一家3人は石炭ストーブのガス中毒で死んだ」「田口八重子さんと松木薫さんは田舎で交通事故死」といった、まったくばかげたものだった(重村智計・元毎日新聞ソウル特派員によれば、拉致された日本人の暮らす「招待所」の暖房はほとんど電気で、北朝鮮の田舎には事故が起こるほど車は走っておらず、幹線道路でも「30分に1台」)。
にもかかわらず、政府(小泉内閣)は、10月中に国交正常化交渉にはいるという。つまり、小泉は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」の公約を反故にし(焦って?)売国的な対北朝鮮外交に乗り出す疑いが濃厚になった。
となると、「北朝鮮側は誠意を持って対応していない」と思っている、少なからぬ日本国民、とくに拉致被害者の家族と、彼らを支える「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」(新拉致議連)は、小泉の最大の敵となりうる。
9月17日の日朝首脳会談を契機に、それまで報道各社の世論調査で50%台だった小泉内閣の支持率は20%前後上がり、軒並み70〜80%台になった。これをもって、小泉訪朝は国民に支持された、と解釈する意見が少なくない。が、実はこれは小泉の政権基盤の安定にはつながらない。
思い出してほしい。02年1月に田中真紀子外相を更迭するまで、小泉内閣の支持率は7割前後あった。が、更迭により、支持率は20%前後下がった。つまり、今回の支持率の「再上昇分」は、田中更迭の「損失補填」なのだ。
周知のごとく、田中は対北朝鮮・対中国弱腰派だ。2001年春に金正日総書記の息子の金正男が成田空港税関で偽造旅券で摘発された際、田中は外務省の親中国・北朝鮮派(チャイナスクール)に同調し、金正男をVIP扱いで中国に逃がした。金正男の身柄を警察で押さえて「拉致被害者と交換する」という絶好の交渉の手段を捨てるのに一役買ったわけだ。
田中は、米国の推進するミサイル防衛(MD)構想に反対し、中国の「御用聞き」をして首相の靖国神社参拝にも反対し、日本国内の「左翼」を喜ばすことばかりしてきた。一方、小泉は田中更迭後、02年4月の靖国神社への参拝、有事立法の法案提出、8月の住基ネットの稼働など左翼の嫌うことを繰り返し、この間内閣支持率は50%前後で推移した。
ところが、小泉訪朝が実現すると、それは自民党(外交部会の多数派)、自由党、民主党右派、石原慎太郎都知事、産経新聞など主として「保守良識派」(タカ派、親台湾派=米共和党に近い)によって酷評され、反面、社民党、共産党、民主党左派(横路孝弘・元北海道知事)など主として「(元)左翼」や「平和主義者」(ハト派、親中国派)によって称賛された。
つまり、今回の小泉の支持率再上昇は、たんに02年1〜8月に失われていた「左」の支持が戻ったにすぎない。この「左」の勢力は、選挙ではおもに左翼(親中国・北朝鮮)的な政治家に投票し、小泉の本来の勢力基盤(自民党森派など)に投票することはまずない。ただ、世論調査のアンケートで、小泉内閣(の北朝鮮外交のみ)を「支持する」と言っただけで、べつに「投票する」とは言っていない。
さらに、今後、日朝交渉の過程で、北朝鮮側の「拉致」についての残虐な真相(または真相解明をはばむ不誠実な態度)が明らかになれば、新拉致議連を中心に小泉非難の声が高まり、「右」(保守良識派)の支持率は下がるはずだ。とすれば、小泉内閣の支持率は、実質的には50%以下と見てよい。
【しかも、「拉致」を北朝鮮の犯罪として十数年前から一貫して報道してきたのは新聞では産経だけで、「左」の人々は産経を極右紙と思い込んで無視または軽蔑してきたので、北朝鮮の下劣な正体をあまり知らず(なかには「拉致報道」は産経の捏造と思い込んでいた人もいたほどで)北朝鮮のことを「(日本側が過去の侵略について謝罪と反省をして)国交正常化交渉を続けていけば『正常な国』になる」と誤解している恐れがある
北朝鮮はここ数年、英国やイタリアなど西側のまともな国と国交を正常化しているが、正常できるのは国交だけで、北朝鮮という国自体は依然として金正日によって「異常化」された、下劣な独裁国家のままだ。
「日本が国交正常化交渉を行うことが、北朝鮮をまともな国際社会の一員にする、つまり国自体を正常化することにつながる」
と信じている方々には、ぜひその根拠をお教え頂きたい。これまで、日本がコメ支援をし、韓国が太陽政策でさまざまな経済援助を与えても、結局この2002年に、日本には人をばかにしたような拉致事件の「真相」をよこし、韓国にはW杯サッカー開催の真っ最中に黄海上での銃撃(韓国海軍兵士の虐殺)で応えたではないか。あの国は金正日政権が倒れるまで、絶対に「正常化」などしないのだ。
この厳然たる事実はいずれ「拉致事件」への対応をめぐって、万人の前に明らかになるだろう。そのとき、「左」の浮動票はたちまち小泉から離れ「小泉訪朝を評価する」という世論も急減するはずだ。】
今後、小泉内閣が米国の要請に応じて(応じなければ潰される恐れがあるので)イージス艦派遣を決めたり、米国の対イラク攻撃を支持したりすれば「左」の支持はすぐ離れるし、不良債権処理が進めば(必要悪ではあるが)経営の苦しい企業の倒産が相次ぐから族議員や小泉構造改革の「抵抗勢力」は反発する(反対に、不良債権処理が進まなければ、保守良識派や財界、市場、米国の支持も離れる)ので、結局小泉内閣は遠からず、左右両方の非難を浴びて瓦解すると考えられる。
10月に召集される臨時国会は12月に閉幕するが、例によって会期末には野党は衆議院本会議に内閣不信任案を出すはずだ。与党3党は衆議院で過半数の議席を有しており、また政党政治の原則からいって与党所属議員はよほどのことがない限り野党提出の内閣不信任案には賛成しないので、それが可決されて小泉が衆議院の解散・総選挙に追い込まれることはなさそうに見える(2000年の「加藤政局」の森内閣不信任決議では、当時の加藤派から入閣していた衆議院議員、宮沢喜一蔵相と森田一運輸相は2人とも造反しなかった)。
が、いまや「拉致問題」は国民の最大関心事にして明解な「争点」であり、国家主権と人道、人権にかかわる大問題だ。この件で、小泉の弱腰を批判して不信任案に賛成したり与党を離党したりする政治家は、良識ある大多数の国民の支持を受けることは間違いない。
新拉致議連は超党派の組織で、その設立呼びかけ人の1人、西村眞悟・衆議院議員(自由党)は石原都知事の盟友だ。新拉致議連と石原が手を組めば、政界大再編につながりうる。小泉は、9月の自民党の役員人事で幹事長には盟友の山崎拓を留任させ、「選挙を仕切る総務局長は(小泉と)同じ森派の町村信孝を幹事長代理から横滑り」させ「資金を扱う経理局長は山崎派の亀井義之」を留任させて「役員の要は抑えたから」小泉内閣は当面安泰だという見方がある(日経新聞02年10月3日付朝刊2面「首相、3選に布石」)。が、それは今後も国会議員のなかに「ポスト小泉」の首相候補になりうる大物がいないことを前提にした(小泉にとっての)楽観論にすぎまい。
いまや日本で最大の発言力を持つのは拉致被害者家族で、彼らを支えているのは新拉致議連であり、その会長が石破だった。小泉は内閣改造にあたって新拉致議連から会長の石破のほか、副会長の米田健三・自民党衆議院議員も内閣府副大臣という形で閣内に取り込んだ(02年10月2日放送のNTV『ザ・ワイド』で、舛添要一・参議院議員)。これで、会期末に出される内閣不信任案への賛成票は(自分の属する内閣を自分で不信任するわけにはいかないので)2票減った計算になる。石破の入閣は、イージス艦派遣という面もあるが、むしろ「加藤政局」の経験を踏まえた小泉の、新拉致議連への造反予防策ではないか。
が、93年には野党提出の宮沢内閣不信任案に、当時経企庁、科技庁長官として閣内にあった与党自民党の船田元、中島衛が離党して賛成し、不信任案は可決されて、衆議院の解散・総選挙になった。離党した2人は小沢一郎らと新生党を結党し、総選挙後、非自民連立の細川内閣の成立に貢献している。小泉はこういう造反がありうることを経験的に知っているので今頃「93年の宮沢内閣の二の舞」に怯えているかもしれない。
●石原訪米の謎●
そんな中、唐突に石原の訪米が決まった。10月6日から7日間、石原はワシントンを訪れ、アーミテージ国務副長官、コンドリーザ(コンディ)・ライス米大統領補佐官(安全保障担当)らと横田基地返還問題を協議するという(産経新聞02年9月26日付朝刊2面)。東京都西部にある広大な米軍横田基地を日本に返還させて首都圏第3空港として利用すれば、首都圏発着の航空便は大幅に増便でき(日米航空摩擦も解消され)日本経済の発展に寄与する、というのは石原の永年の持論で、石原は01年9月にこの問題を米政府当局者と協議するために訪米したが、米中枢同時テロが起きて米国側が多忙になり、中止された。
その後、アフガンでの反テロ戦争が続く間、米国側が多忙だったことは間違いない。が、02年1月に東京でアフガン復興支援会議が開かれたあとは、テロに起因する多忙は一段落したはずだから、02年前半にはアーミテージらには石原との01年の約束をはたす機会はいくらでもあっただろう。02年後半は、米国のイラク攻撃への動きが本格化したからアーミテージらは別の意味で忙しくなったはずで、なぜ彼らが02年夏まで石原と会わずに、忙しい秋になって急に会う気になったのか、不思議だ。
さらに不思議なのは、米側の面会者である。米軍基地が議題なのに、なぜか所管官庁である国防総省の高官(アーミテージと同格のウルフォウィッツ国防副長官)とは面会せず、代わりに?ブッシュ米大統領の側近中の側近、ライス補佐官に会うという。
●東ドイツを消した女●
ライスは、父ブッシュの代から米共和党に仕える黒人の政治学者で専門はロシア(ソ連)史。保守派のシンクタンク、スタンフォード大学の教授に25歳で就任した天才だ。父ブッシュの大統領時代には、その対ソ連外交、東西ドイツの統一(東ドイツの消滅)を指南し、米ソ首脳会談の席で父ブッシュは、当時のゴルバチョフソ連大統領に「私の貴国についての知識はすべてこの先生に教わりました」と紹介した。「先生」とは老練な(男の)政治学者だろうと予想していたゴルバチョフは、あまりに若い(30代の)丈の短いスカ−トをはいた女性が出てきたので仰天したという。
親譲りの外交音痴?である息子も彼女に頼りきっており、現大統領は外交で難しい問題が起きると口癖のように「コンディを呼べ」と言う。
そのコンディが、対イラク攻撃が近づき忙しいこの時期に、日本政府の一員でなく、地方自治体の長にすぎない石原に会うという。議題が(米国にとって重要でない)横田基地問題だけであるはずはない。
仮に、会談後、石原の持論に沿って横田基地返還の方向性が米側から示されるにしろ、それは、日本に首都圏第3空港を造らせる(米国航空便の日本乗り入れを増やして日米航空摩擦を解消する)などという「額面どおり」のものではあるまい。もしライスらがそういう方向の発言をすれば(その意図がなかったとしても)日本国民に対して「石原は対米交渉能力のある、実行力のある政治家」(小泉は口先だけでなかなか改革のできない、実行力のない政治家)と印象付けることになる。
横田基地には在日米軍司令部があり、それを厚木かどこかに移すプランでもできていない限り、米側もさすがに軽々しくは「返還」とは言わないだろう。が、逆に、石原と会談する暇ができた02年1月以降、米国政府がこんにちまでそれを延ばしたのは「返還」の青写真を描くのに9か月かかったから、とも取れる。
反米的な著書『NOと言える日本』がベストセラーになっているので、石原は「反米右翼」と見られている。が、北朝鮮(や中国)という(米国よりはるかに)邪悪な敵を前にしては、彼が最近口にしているように「米国の力をうまく利用して敵に対抗する」のが得策だから、米国の支持を受けて日本の首相になることは、現在の政治状況では石原の持論とさほど矛盾しない。
また、石原とて、政界入りして数十年、都知事、大臣まで勤め、外交にも経済にも一家言持ち、国民的に人気もある政治家ならば、そして(民主党が党首選後のゴタゴタで分裂しかねず)政界が大変動しそうな雲行きであれば、たとえ一時「反米」を棚上げしてでも、首相の座に座りたいと思うのは自然なことだ。また、そうでなくては、日米安保の存続を願う国民と国会の多数派に支持されない(から、首相になれない)。
●だれがコーディネーター?●
筆者が、02年4月30日配信の小誌記事で近い将来の「石原内閣誕生」を予言(予測)したのは、その直前に、主要な月刊誌、週刊誌、民放TVキー局が一斉に石原を登場させ、その政策を語らせたからだ。93年の細川内閣誕生直前の「非自民」勢力へのマスコミの「応援」のように「何か大きな力が組織的に動いて、石原人気が高まるように画策している」と予感したからだ。
その後、石原の小説『太陽の季節』が人気アイドル俳優の主演でTBSの「東芝日曜劇場」でドラマ化され、スポーツ誌『ナンバー/Number556』で石原が川淵三郎・Jリーグチェアマンと対談してサッカーファンにアピールし、さらにジャズ誌『スイングジャーナル』(02年8月号)にまで登場するにおよんで、筆者の予感は「確信」に変わった。ワイドショーへの登場や、知事としての「表稼業」でのメディアへの露出も合わせれば、いまや石原は「露出度No.1のタレント候補」なのだ。
【知人のミュージシャンの記事を読むために『スイング…』誌を開いて、いきなり石原の顔に出くわしたとき、筆者は開いた口がふさがらなかった……彼は元々作家なので文芸誌に出るのは当然としても、音楽ファンにまで浸透をはかるとは、いくらなんでも選挙の事前運動のやりすぎ、というより、もはや選挙後の内閣支持率を上げるための運動ではないか……石原は「どこでもドア」を持っているのか、と思ったほどだ。(^_^;) 】
とくに東芝日曜劇場、つまりTBSの日曜夜の、単独スポンサーのドラマ枠の最後の作品(この枠は02年10月から東芝以外の複数のスポンサーに変更)が『太陽の季節』だったことは象徴的だ。この枠の放送内容の決定は、02年9月放送分までは単独スポンサー(東芝)の意向が大きく働くが、それ以降はそうした決定が難しくなることがはっきしりており、「石原の人気を左右を超えて草の根に拡大するために」日米の保守勢力が東芝に頼んで「最後の単独提供ドラマ枠にねじ込んだ」可能性を否定できない。
【2000年まで米民主党政権(親中国派)は中国重視政策をとり、日本の経済・財政を悪化させるために「景気対策」を求める外圧をかけ、自民党の橋本派(親中国派)と族議員はそれに便乗して無駄な公共事業を乱発した。01年に米国の政権が共和党に替わったとき、筆者はそれを理由に「橋本派の支持を受けない」小泉が首相になる、と小誌Web版で01年3月17日、小泉が自民党総裁選への出馬を表明する前に予言(予測)し、それは翌4月に的中した(「米国ご指名、小泉首相」を参照)。したがって「米共和党が○○を首相にしたいと思えば、そうなる」と今回も予測(予言)できる。】
●人柄でなくペルソナが重要●
こう言っては本人に失礼だが、筆者は石原の人柄には、なんの期待もしていない。
筆者が彼に期待するのは、自民党に属していない、というそのペルソナ(社会的立場)だけだ。
「人」は社会的な役割、立場(ペルソナ)を得て初めて「人間」となる。人はペルソナなしには生きていけない。
筆者が『週刊東洋経済』(02年8月10-17日号 p.p 61-64)の「変革者の光と影・大久保利通」で述べたように、明治政府の権力者、大久保利通は「個人的心情」としては生涯、維新の大功労者にして同郷人の西郷隆盛を盟友と思っていた。が、1877年に西郷が叛乱軍の首魁にまつりあげられて西南戦争が始まると、大久保は、とても盟友に対するのとは思えないほどの苛烈さで叛乱軍を弾圧し、西郷も死に追い込んだ。が、それは「ペルソナ上」そうせざるをえなかったから、しただけだ。
ペルソナは、個人の心情や信念を飛び越えて、個人の社会的行動を規定する。 たとえば永年族議員政治をやってきた「自民党」の総裁である小泉は(個人的心情とは無関係に)ペルソナ上、族議員(小泉構造改革の抵抗勢力)をも代表した形になっているので、彼らの「説得とお願い」に無駄な時間とエネルギーを費やさざるをえない。が、自民党員でない石原には、ペルソナ上そんな義務はないので、自分と政策や利害を同じくする者だけを集めて行動すればいい。
そして石原は、いったん首相になったあとは、日頃の過激な反米主張は引っ込め、彼の最大の支持母体である「都市型・無党派層」に配慮した経済政策を「ペルソナ上」中心に据えざるをえない。
ある意味では(自民党・族議員のしがらみがなければ)だれが首相になってもやるべきことは同じなので、その意味では「だれでもいい」のだが、どうせやるなら、国民的人気があり、かつ「自民党員のペルソナ」を持たない者(小泉のような防衛・外交音痴でなく、イージス艦の軍事的意味ぐらいすぐにわかる者)がやったほうが、万事円滑に進むはずだ。
石原の過去の失言(?)を取り上げてその「人柄」を問題視し、首相にふさわしくないとする左翼の批判は、政治(というより世の中)の現実を知らない、子供じみた意見だ。
【ペルソナについては拙著『龍の仮面』を参照。】
【北朝鮮問題については、次回以降随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムのみで)取り上げます。
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