近鉄、オリックス両球団の合併問題で揺れる日本のプロ野球界が、来季05年から1リーグ制を実現するには以下のような7つの難題がある、と産経新聞(04年06月15日付朝刊「来季、暫定2リーグ制か」)は言う:
#1 偶数球団への削減
#2 球団分布の地域バランス
#3 ファン、自治体の反発
#4 巨人戦をめぐる既得権益
#5 選手の大量解雇問題
#6 日本シリーズの消滅
#7 間に合わぬ日程編成
●もう日程編成済み●
しかし上記は、合併劇が「宮内仕掛人」(オリックス球団の宮内義彦オーナー。産経新聞04年6月17日付朝刊3面)の唐突な「単独犯」と見た場合にのみ「これから7つも解決するのは大変だ」となるのであって、はるか以前から近鉄経営陣らを「追い詰める」目的で周到に広汎な陰謀が準備されていた、となると話は別だ。
たとえば「#7」については(10球団1リーグになった場合の日程編成試案は、現時点で宮内や巨人の渡辺恒雄オーナーの側近が用意していると考えられるから)各球団の本拠地球場の営業担当者が、05年4〜10月の「プロ野球の試合がないと思われる日」の球場を他のイベント(学生野球、アメフト、展示会、コンサート)に貸し出す営業活動の開始を少し遅らせれば、なんとかなる。
【セ・リーグでは04年7月11日に、6球団の営業担当が来季05年の日程編成に向けた最初の予備会議を開く(産経新聞04年6月22日付朝刊3面)。オリックスから近鉄への球団合併の申し入れはこの2か月前の5月にあり、しかも「11月中に日程編成を終えれば来季に間に合う」(セ・リーグ関係者)ので(産経新聞04年6月15日付朝刊3面)「#7」は心配無用(来季1リーグの日程編成が間に合うように、宮内は5月から動いた)と見てよい。】
●ロッテを粛清●
「#1」は、千葉ロッテ・マリーンズが消滅すれば解決する。
同球団は、野球ファンの大半が巨人ファンである関東地区でいちばん遅く、5番目に現在の本拠地を確定した球団で、関東5球団のなかでもっとも人気がない。札幌、名古屋、広島、福岡で地元のファンをつかんでいる北海道日本ハム・ファイターズ、中日ドラゴンズ、広島東洋カープ、福岡ダイエー・ホークスとは本質的に性格の違う「構造赤字球団」なので、球団数を偶数に減らす場合、いちばん削減の対象になりやすい。
それでも、「東京病患者」のロッテ経営陣は自らの球団を東京近郊に維持したい、という見栄を張って、近鉄とオリックスの合併交渉発覚後も、当初は1リーグ制(8〜10球団への削減)に反対していた。
が、パ・リーグが5球団でリーグ戦を戦った場合のシミュレーションを行ったロッテ経営陣は、入場料のほか、球場の看板の広告料なども減るため、収入は30〜40%も急減し「経営的には壊滅的な影響が出る」(ロッテ・重光昭夫オーナー代行)と知って愕然となり、一気に「1リーグ制容認」に動き始めた(スポニチWeb版04年6月23日)。
そうなれば、元々関東の野球ファンがだれも望まないのに、重光一族の見栄だけのために東京近郊に本拠地を置いていた不人気球団が「粛清」の対象になるのは自明の理だ。このロッテと、人気球団だが親会社の苦境で経営の苦しいダイエーとは元々、04年7月から営業面で業務提携することが決まっており、両球団の合併は時間の問題だ(時事通信Web版04年6月18日「ダイエー、来季採算性の検討にも着手」)。
【その場合、合併後の新球団の(主たる)本拠地が、大勢のファンのいる福岡であることは間違いない。前回述べたように千葉に本拠地を置くべき合理的な理由は何もないから、ロッテ球団は事実上の消滅となる。】
これでやっと、東北の野球ファンを軽蔑して仙台の本拠地を捨て「球界東京一極集中」の元凶となった「疫病神」も生意気な口がきけなくなるわけで、プロ野球が全国各地に本拠地を「再配置」して発展する条件が整う。
これで「#1」は解決する。
●近鉄ファンは無視●
上記のように2組も合併が起きると、大阪や千葉の、旧球団のファンがかわいそう、という意見が必ず出る。
が、南海ホークスがダイエーに身売りされて福岡に移転したあと、大阪の(南海)ファンはそんなに不幸になっただろうか? 東京・大阪近郊には過剰に球団が集まっているのだから、1つや2つ球団が減ったからといって、プロ野球を地元で見る機会を完全に失うわけではない(大阪のファンは、野球を見たければ甲子園に行けばいい)。
他方、東北、北陸、四国の野球ファンは、地元に東北高、星陵高、池田高、松山商など高校野球の名門を抱え、東京・大阪近郊の球団に多数の人材を「輸出」して貢献しているにもかかわらず、自分たちの球団を持つことができない。「ファンがかわいそう」という言葉はむしろ、これらの地域の野球ファンにこそあてはまるのであり、大阪近鉄や千葉ロッテの「地元ファン」など、どうせ大した人数もいないのだから、ほおっておけばよい。
近鉄・オリックス合併後の新球団が、本拠地を近鉄の本拠地・大阪ドーム、オリックスの本拠地ヤフーBB球場(神戸)のいずれに置こうが、阪神タイガースより観客が少ないことは間違いない。合併後の1年間(05年)は「大阪、神戸の野球ファンがいかに近鉄、オリックスを愛していなかったか」を証明する1年になるはずだ。
これで「#3」が解決する。
●四国か新潟●
そうなれば合併後の新球団は、06年から堂々と好きな地域に本拠地を移せる。もはや地元自治体(大阪、神戸)にも反対する資格はない。
四国の松山と九州の宮崎には、すでにナイター設備付きの収容人員3万人以上の球場があり、新潟でも3万人クラスの新球場建設が決まっていて、このうち宮崎で06年、新潟で08年にオールスター戦(球宴)を開催することになっている(産経新聞Web版04年04月17日)。
もちろん新潟県は球宴のためだけに球場を造るのではない。Jリーグのアルビレックス新潟で大成功したノウハウを活かしてプロ野球チームも誘致し、地域(経済)の活性化につなげたいからだ。
同じようなプロ野球誘致熱は松山にもあり、四国に1球団もない現状を考えれば実現性は高い。筆者は、近鉄・オリックスの新球団は、同じ西日本の四国に移ると予想する。理由は、四国東部の住民は大阪のTV地上波放送を見ることができ、元々在阪球団になじみがあるからだ。
【四国に移った新球団は、たとえば松山で40試合、四国各地で25試合、大阪ドームで阪神戦を数試合主催すればよい。この場合大阪で阪神の選手はビジターのユニフォームを着るが、阪神ファンは集まる。これには、広島が岐阜長良川球場でときどき中日戦を主催して中日ファンを呼び込んでいる、という先例もある。松山や広島は人口が少ないので、大阪や名古屋の近郊で年に数試合「バイト」をする必要があるのだ。】
●玉突きで横浜とヤクルトも●
かくして大阪近鉄と千葉ロッテが消滅し、1リーグ10球団となれば、旧パ・リーグの各球団は対巨人の主催試合を年に7〜8試合獲得し、TV放送権料や入場料などで年間10〜20億円の増収となる。逆に、旧セ・リーグの巨人以外の5球団は、対巨人の主催試合が5〜7試合減って10〜20億円の減収になる。
つまり「#4」の問題があるのだが、これは5球団を「分断」すれば解決する。
セ5球団のうち、地元のファンをつかんでいる中日、阪神、広島は、1リーグ制移行で受ける影響が比較的小さい。決定的な影響を受けるのは、東京(近郊)に本拠地を置く、ロッテと同様「東京病患者」のヤクルト・スワローズと横浜ベイスターズだ。
両球団は、親会社のなかに在京TV局がいるから、という野球ファンの気持ちと無関係の理由で関東に本拠地を置いているにすぎない。巨人戦の「おこぼれ収入」が減れば、たちまち「経営無策」が露呈し大幅赤字に転落するのは間違いないから、「合併して新潟にでも移るか」となるのは必定。
【両球団は、現在年間13〜14試合ある本拠地での対巨人戦の収入に依存しているため、その減少につながる動きについては、1リーグ制への移行だけでなく、2リーグ制のままセ・リーグの球団数が増える場合でも、常に反対する立場にある。労働組合「プロ野球選手会」の古田敦也会長(ヤクルト)は「球団数は減らすより増やすことが、球界全体の発展につながる」(04年6月21日放送のテレビ朝日『報道ステーション』)と言うが、それにはまずヤクルト球団の経営者を球界から追放する必要があるのだ。】
これに加えて、元々、日本ハムより先に(副)本拠地の札幌移転を検討していた西武ライオンズが、日本ハムと札幌で合流すれば、08年頃までには「8球団1リーグ制」が完成する。本拠地は札幌、新潟、東京、名古屋、大阪、広島、松山、福岡の大都市(近郊)に分散配置されることになり、これで「#2」も解決だ。
●ポスト渡辺時代●
もちろんファンの底辺と競技人口を増やし球界を発展させるには、球団数は、近年のJリーグや米大リーグのように増やしたほうがいい。
が、近鉄やロッテの無能な球団経営者や「東京病患者」(巨人戦依存症患者)をそのままにして球団数を増やすのは、かえって危険である。現在すでにそうだが、将来も「プロ野球は儲からなくて当然」というモラルハザード(一種の背任罪)を引き起こしかねない。
ここはまず、合併劇や1リーグ化を利用して、無能な経営者を「オフサイドトラップ」にかけたほうがよい。
上記8都市の8球団が(巨人戦のお陰でなく)地元のファンのお陰で採算が取れるようになれば、新球団を創って参入したいという企業も出てくるはずだ。
その場合は、野球協約を改正し、「新球団の本拠地は、既存球団の本拠地から??km以上離れていなければならない」と決めれば……決めなくても、新球団のオーナーが重光一族ほど愚かでなければ……当然、新球団は東北などに本拠地を置くことになるから、球界の底辺はいっそう拡大する。そうやって各地で球団が儲かると証明されれば、一時期のJリーグや米大リーグのように「毎年球団が増える」黄金時代も夢ではない。
【そうなれば、米大リーグのように東地区、西地区を設けて(10球団に増えたら5球団ずつに分けて)「同一地区内の球団と多く(たとえば18試合)異なる地区の球団と少なく(12試合)」戦うことで、シーズン終了後「地区首位」同士のプレーオフが可能になり、これが現在の日本シリーズ(#6)の代わりとなる。】
もちろん、巨人戦の利益をエサに他球団を脅して「なんでも巨人中心」にしたがる「独裁者」渡辺恒雄は、そんなに球団が増えて自分の球界への発言力が低下する事態は望まないだろうから、横車を押して邪魔するだろう。
が、彼は04年現在78歳なので、さすがに数年後には高齢を理由にオーナーを引退するはずだ。あと数年我慢すれば「巨人中心」の時代は終わるのだ。
だから、いまはむしろ渡辺のワンマンな力をうまく利用して、近鉄やロッテの経営陣を球界から追放しておいたほうがよい。数年経ったら新体制のもと、いったん減った球団数はまた増加に転じるはずだ。
●選手が球団買収●
しかし「雇用不安」(#5)に直面するプロ野球選手会は、数年待てないだろう。
そこで、実現しそうな選択肢を提示したい。それは(筆者が言わなくても、いずれ選手が気付くだろうが)選手会が球団を買収することだ。
但し、買収するのは日本のプロ野球の1軍や2軍ではなく、米国の球団である。
先例がある。
02年3月、ロサンゼルス・ドジャースの野茂英雄ら日本人大リーガー3人は共同出資して、ニューヨーク(NY)州エルマイラに本拠地を置く米独立リーグの球団、エルマイラ・パイオニアーズを買収した(02年3月20日放送のTBSニュース)。目的は、昨今の不況による社会人野球チームの廃部で「野球をする機会が減ってしまった日本人」に機会を提供することだ。野茂は大阪府堺市に「NOMOベースボールクラブ」という社会人野球チームも設立しており(スポニチWeb版03年3月7日)、これを選手会がまねればいいのだ。
米独立リーグは米大リーグの傘下にはないが、そこでプレーするにはそれなりに厳しい入団テストがあり、そこで実績を示した選手が大リーグ入りした例は少なくない。野茂は、堺のクラブの選手がパイオニアーズを経て大リーグに行くことを夢見ている。
野茂は現役大リーガーなので、大リーグ傘下のマイナーリーグ球団(3A、2A、1A、ルーキーリーグなど)を買収することは大リーグ協約上許されない。
が、日本の選手会とその加盟選手は、大リーガーではないから、大リーグ傘下のマイナー球団を買収してもよいはずだ。
米マイナー球団は、日本の2軍よりはるかに独立性の強い「興行」を重視した経営をしており、上にある大リーグ球団とは別の出資者が経営に参加することも可能だ。マイナー球団は大都市ではなく「田舎町」に本拠を置くから、日本の球界関係者が出資して日本のスターが大勢プレーするようになると聞けば、田舎町の住民はどこも大歓迎だ(97年に伊良部秀輝投手が米大リーグのNYヤンキースでデビューする直前、マイナー球団の公式戦で調整登板を行ったが、その試合が行われた小さな町の球場は「日本のスターが投げる」というので、観客がふだんの何倍にも増えた)。
選手会が2Aか1Aの球団を1つ買ったら、そこに日本から常時10人ぐらいの選手を送り込むとよい。実力のある者はすぐ3Aや大リーグに昇格して「空席」ができるから、そこにまた日本から選手を連れて来て埋める、と繰り返せば、1球団持っただけでもかなりの数の「失業者」を救済できる。
実は、これはかつて西武がとっていた手法だ。
球団経営が好調だった頃、西武は登録選手枠を数人上回る選手を常時保有し、枠からはみ出した若手選手は日本で「任意引退」の手続きをとったうえで、提携関係にあったサンフランシスコ・ジャイアンツ傘下のマイナー球団(1Aサンノゼ)に野球留学させていた(ある選手が「留学」から帰国すると、任意引退を解除して選手登録し、代わりにほかの選手を任意引退扱いにして留学させた)。かつて西武の主砲だった秋山幸二も、野球解説者のデーブ大久保も「米国留学組」だ。
日本の「枠」にとらわれなければ、選手を救済する方法は常にある。
●ライブドア vs. 西武●
04年6月30日、ITベンチャー企業ライブドアの堀江貴文社長は都内で記者会見し、「12球団による2リーグ制を維持するため」近鉄本社に球団の買収を申し入れていると表明した。が、近鉄関係者は「すでに断った」とし、既定路線どおり合併を進める、と反発した。
会見で堀江は「買収しても本拠地は大阪」と述べたが(スポーツナビ04年6月30日)会見を報道するライブドア自身のWebでは、なぜか本拠地の話題は削除されていた(ldNニュース04年6月30日)。堀江が、球団を「独立採算制」にするため、阪神ファンばかりで儲からない大阪圏からよそへ移したいのは、明らかだ。
堀江が、商業道徳を破って異例の「暴露会見」に踏み切ったのは「ぐずぐずしていると、儲かりそうな新本拠地球場を西武など既存球団に取られる」と焦ったからだろう。すでに西武は2軍の独立性を高めて地方に移す計画を検討しており(日刊スポーツWeb版04年6月25日)、これはそのまま1軍の移転に発展する可能性がある。
新潟の新球場は08年春完成だから、収容人員と周辺の人口密度を考えれば、当面儲かりそうな球場は松山ぐらいしかない。そこを「早い者勝ち」で西武などに取られてしまうと、ライブドアが1軍を保有して健全経営をする機会は、いかに能力と資金があっても、当分めぐって来ない。
近鉄関係者の一部に、「合併しても赤字」という試算をもとに、「球団はまるごと他社に売却したほうがいい」という意見があったことも(日刊スポーツWeb版04年6月29日)、堀江を勇気付けたのだろう。
が、「12球団2リーグ制の維持」が、ロッテのような不健全球団を「むりやり存続させる」ことを意味し、結果的に野球ファン全体への裏切りになると気付いていないのは、問題だ(今後ソフトバンク、サミーなどIT、パチンコ系企業が球団買収に名乗りをあげるだろうが、この点を軽視すればみな失敗する)。
堀江には、2軍への出資から始めて捲土重来を期すか、または野茂の堺のクラブを支援して「日本版独立リーグ」設立に尽力してほしい。
渡辺中心の「8球団1リーグ」に堀江中心の「独立リーグ」が挑む「2リーグ制」、というのも(ベンチャー起業家らしくて)いいではないか。
【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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