「楽天ホークス」の検証

〜シリーズ「球界再編」(7)〜

Originally Written: Oct. 04, 2004(mail版)■楽天ホークス?〜週刊アカシックレコード041004■
Second Update: Oct. 04, 2004(Web版)

■「楽天ホークス」の検証〜シリーズ「球界再編」(7)■
日本プロ野球機構(NPB)の、新規参入球団の審査に楽天が「合格」する04年10月末には、ダイエー本社が潰れて球団(ホークス)の身売りが決まっている可能性が高い。その場合は、楽天に対して「ホークスを買収して助けてくれ」という声が福岡市民などから上がるだろう。
■「楽天ホークス」の検証〜シリーズ「球界再編」(7)■

■「楽天ホークス」の検証〜シリーズ「球界再編」(7)■
【前回「不買運動〜シリーズ『球界再編』(6)」は → こちら

前回、読売新聞の渡辺恒雄会長が主導する、プロ野球界縮小再編の陰謀を粉砕し、渡辺の陰謀と戦う労働組合「プロ野球選手会」を応援する目的で、小誌は読売新聞への抗議メールによる「不買運動」を呼びかけた。その結果、呼びかけを読んだ読者の人数、アクセス件数は04年9月20〜21日の2日間だけで

メルマガ: 17,962人
携 帯 版: 804人
Web 版: 7,360件
blog 版: 45,054件
----------------------
合  計 71,180

だった。小誌記事(や拙著)に関連するWebページへのアクセスやメール送信を促した場合のクリック率は、一般的なネット広告のクリック率(0.1%)よりはるかに高く、1〜5%あることが過去の経験でわかっている。したがって、史上初のプロ野球ストが実行された日(18〜19日)の翌日と翌々日に「不買運動」に参加した方々の人数は約2,000(700〜3,500)と推定される。

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●blogの威力●
小誌blog版は20日午後8時の時点で、melma!blogの「最近の24時間でアクセスが多かったランキング」では「約5,000件/24時間」で1位だった。blog名を『週刊アカシックレコード』から『週刊アカシックレコード(読売新聞"不買運動"で選手会を応援中)』に替えたら、ランキングを見た人が興味を抱いて大勢アクセスするのではないか、と気付いてスタッフに指示したのが午後9時半頃。以後約10時間、blog版だけで毎時3000件前後のアクセスが集まり、アクセスが困難になる(重くなる)ほどだった。したがって読売への抗議メールの大半はこの10時間に送信されたと推定される。

もちろん、抗議メールを直接、渡辺などの首脳陣が読むわけではない。メールの宛先はwebmasterだから、21日朝、出勤して来たWeb管理者の若い社員が、抗議メールの「洪水」を知った最初の社員だったはずだ。

Web管理者はすぐにそれを直属上司に報告したかもしれないが、渡辺や読売巨人軍首脳に届くのはまだ先だ。届く前に、18〜19日のストの結果を受けて、経営者側の球団社長、球団代表らが対策を協議する、日本プロ野球機構(NPB)実行委員会は始まってしまった。

だから、21日の実行委員会では、読売巨人軍と、その後ろ盾を得たオリックス球団が、球団数削減によるリーグ再編の陰謀をまだあきらめず、このためNPB経営者側は、25〜26日に予定されていたスト第2波を回避するための、選手会への譲歩案をまとめることができなかった(毎日新聞Web版04年9月21日「譲歩案まとまらず団交前に協議へ」)。

翌22日、経営者側と選手会の団交(協議交渉委員会)が始まった当初も、マスコミはまだ経営者側の譲歩を予想せず、スト第2波は不可避と見ていた(夕刊フジWeb版04年9月22日「焦点の新規参入時期 やっぱり06年!?」)。

が、22日の団交で、経営者側は前日と打って変わって突然譲歩の姿勢を示した。『週刊文春』04年9月27日号(p.33「唖然とするばかりの方向転換」)は、ストをやらせてみたが、ファンの選手会への支持が変わらなかったから方向転換した、と述べており、他のマスコミもほぼ同様だ。が、それなら、なぜスト直後の20〜21日には経営者側(とくに巨人)は強硬姿勢を変えず、22日になって急に変えたのか?……この答えはいかなる大手紙誌にも載っていない。

そもそも、ストをする選手会を圧倒的多数のファンが支持するであろう、ということは、実際にストに突入する前から各種世論調査で明らかだった。『週刊文春』(前掲記事)が言うように、14日に巨人の桃井恒和・球団社長が楽天の三木谷浩史社長に「(楽天のNPB参入による)『ライブドア潰し』を哀願した」のなら、なぜ22日まで巨人を盟主とするNPBの経営者側は柔軟姿勢を打ち出さなかったのか?

やはり、21日の夜に巨人の親会社・読売新聞の社内で何かあった、と見るべきではないか。
北朝鮮がいかに完璧な独裁国家でも、独裁者・金正日を憎むまともな国民が少なからずいるのと同様に、渡辺がいかに全能の独裁者でも、それに批判的な良識派の社員は、読売にも大勢いる。『週刊文春』(前掲記事)も「アイツ(渡辺)に会社が潰される」という危機感を持った良識派の存在を指摘している。

ただ、「(選手会に)譲歩しましょう」などと独裁者以外の者が下手に提言すると、北朝鮮でも読売でも即独裁者に「粛清」されてしまう。良識派は、渡辺に選手会への譲歩を促したいがその手段は20日までは一切なかった。渡辺はストへの世論の支持を屁とも思っておらず、だからこそ18日付の読売新聞社説はスト非難の論陣を張っていたのだ。

が、おそらく21日に、良識派社員たちは渡辺に譲歩を迫る手段を手に入れた……それが「メールの洪水」だ。
渡辺本人宛ての手紙なら、何千通届こうが、渡辺が秘書に「社員に見せるな」と言えば、闇から闇へ「もみ消し」て社内世論を表面上「渡辺支持」一色に保つことができる。が、メールの場合は、必ず複数の若い社員に読まれたあとに渡辺のもとに届く(報告される)ので「もみ消し」ができない。

実は渡辺は、ソフトバンクの孫正義社長のような創業社長ではなく、元々単なるサラリーマンにすぎないから、部下の社員の支持を意識的に取り付けていなければ、何もできないのだ。

こういう事態になると、良識派社員たちは何も「自分のクビをかけて」渡辺に抗議する必要はない。ただ「こんなメールが2000通来てました」「このメールにあるblogには、1日4万件のアクセスがあります」と報告すればいい。そうすれば渡辺は(何万件のアクセスが世論の何%につながるのか理解できないので)とにかく「たくさん来た!」と感じ、筆者の「ナベツネ懺悔」を、相当数の読売の社員が読んだ、と思い込むはずだ。

「ナベツネ懺悔」は球界再編や五輪野球に関する渡辺のウソを理路整然と暴いているので、これを放置すると、極端な話「明日から、秘書の女の子がまともにお茶を入れてくれないんじゃないか(唾入れるんじゃないか)」という疑心暗鬼に駆られるかもしれない。独裁者とはそういうものだ(このように元々小心だから、独裁国家には言論の自由がないのだ)。

渡辺は、まさか「ナベツネ懺悔、読んだ?」と秘書に聞くわけにも行かないので、自らその内容を否定し、自分の悪役イメージを払拭しなければならない。そこで渡辺は「メールの洪水」を知った21日の夜に急遽、選手会への譲歩を決め、29日には、国民的人気のある長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督の威を借りて、彼とのツーショット写真を東京ドームのオーロラビジョンと新聞各紙(翌30日の朝刊用)に配信して「善人ヅラ」をした……このように考える以外に、22日からの方向転換は説明できまい。

「メールの洪水」が不買運動として有効だったか否かは不明だ。が。読売の社内世論への影響力は確実にあった。04年9月25日放送の読売テレビ『ウェークアップ』で司会者が、「ナベツネ懺悔」のみが指摘する問題(大手紙誌が一切指摘しない、ダイエー球団を楽天が買収する可能性)に言及していたことを考えると、読売グループ関係者に「ナベツネ懺悔」を読んだ者がかなりいたことは間違いない。この「ネット市民運動」は成功したのだ。

ご協力有り難うございました。
m(_ _)m

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●また「パ5」?●
仙台に新球団を設立してNPBに加盟したいと申請した新規参入2社、ライブドアと楽天に対する、NPBの審査が04年9月30日に始まった。NPBの審査小委員会(巨人、横浜、西武、ロッテの4球団代表と、セ・リーグ会長で構成)は10月中に結論を出して実行委に報告し、11月2日のオーナー会議でどちらの加盟を認めるかを決める予定だ(04年9月30日のNHKニュース)。

一方、ダイエー球団(ホークス)の親会社・ダイエー本社の経営再建計画の輪郭が10月中に判明する。

1兆円もの債務で危機に瀕した本社の再建方法は2つあり、1つは国の機関、産業再生機構を活用する案だ。ダイエーグループの取引銀行のうち、三井住友、みずほ、UFJの主力3行は、自分たちの負担(債権放棄)を小さくするため、税制上の優遇装置や公的資金の出資を受けられる産業再生機構を活用したい。

が、再生機構を活用すると、間接的に税金を使うことになるので、ダイエーグループは厳格に査定されて、現経営陣は経営権をほとんど奪われ「税金で助けてもらう代わりに自由を棄てる」形になり、福岡ダイエーホークスなどの赤字子会社はすべて手放さなければならない。

当然、現経営陣はこれはイヤなので、民間企業の出資者を募り、その支援を受ける形での自主再建計画を練っている。税金を使わない方式なら、査定も再建計画も甘くなり、現経営陣の権力はかなり残るからだ。この自主再建計画に出資を希望する企業には米リップルウッド、米サーベラス、ドイツ証券など外資系投資会社が多い。

再生機構方式、自主再建方式のいずれの場合も、事前にダイエー本社の資産や収益力を査定する作業が必要だ。出資希望の外資各社は10月中に査定を終えて再建案をまとめるというが、税金を使う再生機構の査定は当然厳しく、公認会計士なども多数動員して徹底的に行うため、11月末か12月上旬までかかるはずだった。

が、9月28日、中川昭一・経済産業相が「(再生機構の)あと出しジャンケンはよくない」から10月前半にも再生機構方式の計画(の概略?)をまとめると宣言した(共同通信Web版04年9月28日)。

つまり、10月末までにはダイエー本社の運命がほぼ決まるのだ。再生機構方式の場合、本社は球団を手放すことになるが、実は、自主再建方式でも手放す可能性が高い。

理由は野球協約だ。NPBの協約28条は外国人の持株比率が49%を超える企業は球団を保有できないと定めているので、自主再建方式での外資系企業の出資比率によっては自動的にホークスは、ダイエー本社から分離(身売り)され、新しい親会社を探す必要が出て来る。

さて、この10月末には、ライブドアと楽天に対する審査小委員会の審査も終わる。
もし10月末にホークスの身売りが決まる一方、審査結果が「楽天合格、ライブドア不合格」と出ると、当然、NPBや福岡の野球ファンから「楽天は新球団を保有できるほど財務体質がいいと判定されたのだから、ぜひホークスを買収して経営してほしい」という声が上がるはずだ。

その「世論」に従うと、仙台新球団は頓挫し、パ・リーグはまた5球団に戻ってしまう。
これは、04年9月23日に選手会とNPB経営者側が結んだ労使間合意の、想定外の事態なので、合意に違反しない。

が、23日の合意は、NPBからファンへの公約でもあり、ファンが来季05年は「パ6」と信じているので、その気持ちは無視できない。「ライブドア不合格でパ5以下」となれば「(巨人と)楽天のライブドア潰し」(『週刊文春』前掲記事)に対するファンの反発が広がり、来季の観客動員は激減し、広汎な不買運動も起きるだろうし、選手会が来季開幕からストをする恐れもある。

だから来季「パ6」は確実だ。但し、それには、NPBは新しく球団を経営する会社を2社「合格」させなければならない。では、だれがホークスを買うのか?

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●転売の「常習犯」●
これについて、いまだに球界に隠然たる権力を持つ渡辺は、巨人オーナーだった03年、会社を転売して利ざやを稼ぐようなハゲタカファンド(外資?)がホークスを買うのは許さない、と述べている(サンスポWeb版03年9月11日「鷹の投機的転売阻止」)。

不思議なことに、楽天の三木谷も新球団設立を表明した04年9月16日の記者会見でほぼ同じことを述べている、

「これまでいろいろな企業を買収してきたが、1社も売却はしていない。短期的な…キャピタルゲイン(利ざや)を狙うことはありえない」(スポーツ報知Web版04年9月16日)。

奇妙な発言だ。記者たちは新球団の設立について聞いているのであって、既存球団の売買について聞いているのではない。にもかかわらず、三木谷は(渡辺に追随して?)「わが社は転売で利ざやを稼ぐような悪い会社ではない」と言いたくてウズウズしていたようだ。

では、その「悪い会社」とはどこだ?

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証券・金融業界や(文科系の)IT業界人の常識では、それはソフトバンク以外に考えられない。
ソフトバンクの孫は03年、金融庁から取得したあおぞら銀行(旧日債銀)の株をサーベラスに転売して500億円もの利ざやを稼ぎ、金融庁や邦銀から非難されたことがあるからだ(夕刊フジWeb版03年6月14日)。

【このときサーベラスはソフトバンクのお陰であおぞら銀行の筆頭株主になれた。したがって、もしダイエー本社の自主再建計画にサーベラスが参加するなら、ホークスはソフトバンクに売却される可能性が高い。またソフトバンクは、リップルウッドに転売してもらって日本テレコムを子会社にしているので、リップルウッドが自主再建計画に参加した場合も同様だろう。】

利ざやこそ取らないものの96年には、孫は豪メディア王のマードックと組んでテレビ朝日の株を買い、翌97年に転売したこともある。「外資と組んで転売」はソフトバンクの「お家芸」だ。

【ちなみに筆者は、ソフトバンクの社員だった96年、この「テレ朝株転売」を9か月も前に社内で同僚に予言して的中させたことをきっかけに小誌(Web版)を創刊した(「タイトルの由来」を参照)。】

韓国籍だった孫は起業家を志した当初(80年頃)帰化する前、旧興銀(日本興業銀行、現みずほ銀行)などの邦銀から「融資を受けたければ韓国名(孫)でなく日本名(安本)を名乗れ」と言われたため、銀行コンプレックスがある。だから社名にも「バンク」(銀行)を入れた。株式を店頭公開した94年以降は、取引銀行各行の自社への貢献度を(生意気にも?)「査定」し、「貢献不足の興銀は主力銀行からはずし、社債の発行にも関与させない」と報復したこともある。

その興銀で(94年頃)ソフトバンク担当だったのが三木谷だ(『PC WORLD』99年11月号)。ダイエー本社の主力3行のうち三井住友銀行とみずほ銀行は、楽天球団の「諮問委員会」に頭取を送り込んでいるから(サンスポWeb版04年9月25日)、いまホークスをめぐって「孫+外資」vs.「渡辺+邦銀+三木谷」の暗闘が展開されていると見てよい。

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●補欠合格●
ジャーナリストの吉見健明によると、渡辺には「広島カープをNTTに買収させる」という球界再編構想もあったというから(『フライデー』04年9月24日号 p.96)NTTやKDDIなどの電話会社がホークスを買っても不思議ではあるまい。04年12月にソフトバンク(の子会社の日本テレコム)が、05年2月にKDDIが、固定電話の基本料金がNTTより割安なサービスを始める。「本丸」の基本料金をめぐる死闘を展開するのだから、どの電話会社もプロ野球団のような強力な「宣伝媒体」が欲しいはずだ(楽天球団の諮問委員のうち、奥田碩トヨタ自動車会長と牛尾治朗ウシオ電機会長はともにKDDI取締役)。

となると、「パ6」は決まっているので、NTTやKDDIが渡辺の誘いに乗るか否かにより、福岡と仙台の球団の組み合わせは4通りある:

#1 福岡NTT(KDDI)ホークス 東北楽天
#2 福岡楽天ホークス 仙台ライブドア
#3 福岡ソフトバンクホークス 東北楽天
#4 福岡ソフトバンクホークス 仙台ライブドア

渡辺は「#1」を望んでいるが「#2」でも我慢できるはずだ(「#4」は拒否)。
楽天が(長野でなく)仙台を新球団の本拠地に選んだのは、NTTもKDDIも参入しない場合、「補欠」としてライブドアがいるので、途中で福岡に替えても仙台市民の恨みを買わずに済むからだ(もし「長野に新球団」とぶち上げたあと福岡に替えると、長野で楽天への不買運動が起きる)。

ライブドアは04年9月16日にNPBに加盟申請をした時点ですでに球団運営会社を設立し、その本店を近く仙台に移すことも表明していた。が、楽天は04年10月3日現在、まだ球団運営会社を設立していないので(日経新聞Web版04年9月24日)その本店を仙台に置くか福岡に置くかは不明だ。

現時点でソフトバンクもNTTもKDDIも球団買収に名乗りを上げていない。が、三木谷は9月24日、NPBへの加盟申請後の新球団設立記者会見でこうも言っている、

「会社を買収する場合でも(公然と)買いたいと言うバカはいない」(神戸新聞Web版04年9月25日)。

【関連記事「本命ソフトバンク」は → こちら

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