11月の奇襲

〜2004米大統領選の「落選保険」〜

Originally Written: Oct. 29, 2004(mail版)■11月の奇襲〜週刊アカシックレコード041029■
Second Update: Oct. 29, 2004(Web版)

■11月の奇襲〜2004米大統領選の「落選保険」■
●ブッシュ当確説●
●53日間のナゾ● ●逮捕か停電か●
●実は八百長?●

■11月の奇襲〜2004米大統領選の「落選保険」■

■11月の奇襲〜2004米大統領選の「落選保険」■
【前回「孫 vs. 三木谷〜シリーズ『球界再編』(8)」は → こちら

米国には建国以来の保守本流(おもに米共和党、産軍複合体、国際石油資本、米ロックフェラー家)と、非主流リベラル派(おもに米民主党、ユダヤ組織、原子力産業、英ロスチャイルド家のシンパ)との伝統的な対立がある。

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前者は海洋国家・米国が自前の海軍(空母)を使って低コストで防衛できる地域、すなわち日本、台湾、フィリピンなどの島国や、西欧、東南アジア、サウジアラビアなどの沿岸国を「いいとこ取り」して勢力圏(市場、同盟国)として確保し、投資し、利益を得て来た。

他方、非主流派はしょせん「負け犬・負け惜しみ連合」にすぎず、保守本流が重視しないカントリーリスクの大きい不安定な国、つまり米海軍を差し向けても容易には防衛できない、中国、北朝鮮、中央アジアなどの内陸国や、イスラエルのような戦略的価値の低い非産油国を勢力圏とした。

たとえば94年、原子力産業のあと押しを受けたクリントン米民主党政権が破綻国家・北朝鮮の利権をねらって、米朝2国間の直接交渉により「米朝合意」を結んだのは、非主流派のなりふりかまわぬ「利権漁り」の典型だ。これは表面上、北朝鮮が核兵器開発を断念する代わりに、米国などが核兵器開発に転用しにくい軽水炉原発(と重油)を与える、という形になっていた。が、核兵器断念の検証方法がいい加減だったため、北朝鮮がその後もラクラクと違法な核兵器開発を続けていたことが02年に判明した。2国間交渉は失敗だったのだ。

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保守本流は伝統的に「親アラブ・親産油国」だが、88年の米大統領選では現職の父ブッシュ大統領はこの傾向が強すぎてユダヤ系有権者に嫌われ、その影響力の強いリベラル系マスコミを敵にまわして落選した。息子のブッシュ(現大統領)も00年の大統領選ではユダヤ票をあまり取れなかったが、その後親イスラエル路線に切り替え、04年の大統領選にはユダヤ票を固めて臨んでいる。また、99〜04年に東欧諸国10か国が北大西洋条約機構(NATO)に加盟したり、01年の反テロ戦争で米軍がアフガンに進駐したりしたため、伝統的に米軍にはアクセス不可能と見られていた東欧や中央アジアの内陸国への進出が可能になり、保守本流の勢力圏はさらに広がった。

90年代以降の、これらの大きな変化で、非主流派は著しく劣勢になった。
追い詰められた非主流派(米民主党)は、利権のためには手段を選ばぬ「仁義なき戦い」に打って出た。90年代、米民主党のクリントン政権はアジア諸国に対して以下のような策をとったのである。

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まず、97年には投機筋を使ってアジア通貨危機を起こして東南アジア諸国を苦しめ、米金融界に刹那的な利益をもたらした。

また、国情が不安定で国家分裂の危険もある中国を、なぜか「戦略的パートナー」と呼んでアジア外交の基軸に据えて中国の軍拡を容認し、逆に永年の同盟国・日本を軽視し、日米同盟の強化、とくに中国の不安定化に日米が共同対処するうえで重要なミサイル防衛構想(MD)を妨害しようとした。

【米民主党が「平和主義的信念」に基づいてMDに反対するのなら、理解できる。ところが、クリントンはMD開発実験の日程を遅らせたり、その技術試験のレベルを下げたりして、故意に「MDは技術的に不可能」という誤解を広めた。また、米国防総省の基本報告書『アジア2025』などにはひとことも書かれていない、NMD(本土ミサイル防衛)TMD(戦域ミサイル防衛)などという、MDの区別をでっちあげ「米国は自国はNMDで完璧に守り、同盟国はTMDでほどほどに守る」などと吹聴して、意図的に欧州同盟国の反発を引き出した……米民主党はハト派ではなく、単に安全保障政策に「だらしない」だけだ。04年米大統領選に米民主党から立候補しているケリー上院議員も「MDの早期配備に反対」などと中途半端な意見を表明し(産経新聞04年8月10日付朝刊5面)米民主党の「だらしない伝統」を継承している。おそらくMD開発利権から締め出された非主流派の軍需企業から「MD計画の仕切り直しで、われわれにも参入の機会を」と頼まれているに違いない。】

とくにひどかったのは日本経済の弱体化策だ。日米間には巨額の貿易不均衡(日本の対米貿易黒字)があるので、米民主党は「それを是正するには、日本企業の力が(対米)輸出よりも国内投資に向かう必要がある」という口実で、日本に内需拡大を求める外圧をかけ続けた。

それを受けて日本では、道路族、郵政族などの族議員を多数抱える自民党橋本派(野中広務元幹事長)を中心とする勢力が、内需拡大を名目にした「無駄な公共事業」を増やし、故意に日本の財政赤字を悪化させ、金融機関の抱える不良債権の処理(経済構造改革)も遅らせた。

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00年の米大統領選で保守本流(米共和党、石油派)のブッシュ現大統領が当選したため、筆者は、米民主党を後ろ盾にした橋本派の影響力の強い政権(森喜朗内閣)はまもなく終わり、橋本派の影響の薄い政権ができると予測し、それに該当する政治家で首相になりうるのはだれか、と検討してみた。

そして01年3月17日、小泉純一郎が自民党総裁選に立候補を表明するに「いまから1年以内に小泉内閣ができる」と予言(でなくて科学的に予測)した(小誌Web版01年3月17日「●米国ご指名『小泉首相』」)。

この予言は約5週間後に的中し、小泉内閣が誕生した。
この内閣誕生の前、01年3月、パウエル米国務長官などブッシュ政権高官は「もう日本に内需拡大を求める外圧はかけない」「日本が(不良債権を処理して根本的に)経済力を回復してくれないと、日米同盟の根幹にかかわる」などと発言していた(産経新聞01年3月16日付夕刊2面)。

その後、小泉は、橋本派に押し返されて「ダッチロール状態」になり、たとえば道路族を倒すために始めた道路公団改革では、橋本派などの族議員の逆襲を受けて「何をやっているのかわらかない」竜頭蛇尾の、見せかけだけの民営化改革に陥ってしまった。

が、03年の衆院選と04年の参院選を経て、橋本派の力は大きく後退した。それを見て小泉は、いよいよ族議員を潤すだけの「無駄な公共事業」の原資になっている、郵便貯金と簡易保険の改革、「郵政民営化」に乗り出し、そのために04年9月「郵政民営化反対論者」を排除した内閣を発足させた。

01年3月のパウエル発言以来の課題であった不良債権問題の象徴、ダイエーの不良債権処理も、04年10月、小泉内閣(竹中平蔵前金融担当相の意を受けた伊藤達也現金融担当相)の主導により急転直下でダイエーの産業再生機構入りが決まったことで、メドが付いた。

他方、04年の米大統領選の情勢は混沌としており、「内需拡大を求める外圧」という、橋本派の梯子をはずして小泉内閣を誕生させる原動力となった、米共和党のブッシュ現大統領が再選できるかどうか、五分五分の情勢になっている。

もしブッシュが落選しケリーが当選したら、また橋本派の族議員らが息を吹き返して「日本弱体化」を意図した経済政策が始まるのではないか、と筆者は04年9月頃は少し心配していた。

が、たとえケリーが当選しても、もう米民主党と橋本派が結託した「日本弱体化政策」はできないのではないか。
ダイエーに代表されるバブル期の不良債権処理はヤマを越した。また、族議員の「息の根を止める」郵政民営化政策に、04年9月、小泉はいちおう踏み出した。
米保守本流は、たとえブッシュが落選しても、米民主党の「日本弱体化政策」が復活しないように、この9〜10月に小泉内閣に「健全な外圧」をかけて大あわてで、郵政民営化と、ダイエーの不良債権処理の道筋を付けた……筆者にはそう見えるのだ。

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●ブッシュ当確説●
米保守本流に太いパイプを持つジャーナリストの日高義樹は、04年9月「ブッシュの再選は固い」と予測した(04年10月17日放送のテレビ東京『日高義樹ワシントンリポート』)。米大統領選は、国民の直接選挙ではなく、州ごとにほぼ人口に比例して割り振られた大統領選挙人(最多のカリフォルニア州は55人、最少のワイオミング州は3人)を、各州ごとに州民の票を1票でも多く獲得した候補者がすべて得る「勝者総取り」方式で奪い合う(メーン州とネブラスカ州だけは例外)。

大統領選挙人は、首都ワシントン特別区の3人を含めて合計538人。過半数の270人を取れば、投票総数の過半数を取れない候補者でも当選する(極端な話、人口の多い20州で51%ずつ票を取れば、他の30州での得票がゼロでも勝てる)。

日高は「ブッシュはすでに300人以上の選挙人を確保した」と言う。
が、その300人にはフロリダ州の27人とオハイオ州の20人がはいっており、その後この2州でケリーの支持率が急上昇してブッシュと互角と報道されているので、日高の予測の信憑性は低下した。

じっさい、ブッシュ陣営は「引き分け」を想定し始めたようだ。
両候補とも選挙人を269人ずつしか取れず、同数で並んだ場合は、憲法の規定により、大統領は下院が、副大統領は上院が選ぶことになる。

その上下両院議員選挙は大統領選と同時に行われる。下院はたぶん米共和党の多数支配が続くだろうが、現在米共和党が過半数ギリギリの51議席しか持っていない上院(定数100)では、上院選の結果次第で米民主党が多数派に変わる可能性があり、その場合は米民主党のエドワーズ副大統領候補が副大統領になって、正副大統領の政党が異なる「ねじれ現象」が起きてしまう。

両陣営とも「ねじれ」も敗北もイヤなので、惜敗した州の選挙結果を「不正」を理由に裁判に持ち込んで覆すため、不正を告発する1万人規模の大弁護団を待機させているという(産経新聞04年10月23日付朝刊6面)。訴訟は、全米各地の「接戦州」で頻発すると考えられ、その場合、次期大統領は04年11月2日の投開票日には決まらず、決定までは00年のように延々と、1か月以上もかかることになろう。

しかし、よく考えてみると、不正の有無にかかわらず、大統領が交代するのは04年11月2日ではなく、05年1月20日の就任式だ。つまり、選挙結果にかかわらず05年1月19日までは、ブッシュはずっと大統領なのだ。

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●53日間のナゾ● そういう観点で見たとき注目すべきは、日本の秋の臨時国会が53日間もの長期間開かれることだ。
10月12日から12月3日まで、郵政民営化などの具体的な法案が出ているわけでも(もちろん10月23日の新潟中越地震の発生を事前に予知したわけでも)ないのに、53日もの会期は異例だ。

04年8〜9月にかけて、日本歯科医師連盟(日歯連)から橋本派への違法献金疑惑(米保守本流が東京地検特捜部を使って残した置き土産?)があったので、野党が「政治とカネの問題の徹底審議を」と長期の会期を要求するのは当然だ。が、審議すべき法案もないのに53日も臨時国会を開いた例は過去にない。なぜ与党がこんな長い会期を呑んだのか、は政治記者のあいだでは大きな謎だ(04年10月17日放送のTBS『サンデーモーニング』での、岸井成格・毎日新聞記者の発言)。

日本の臨時国会が終わる12月3日は、00年の先例から見て……ブッシュが最終的に落選する場合でも、訴訟連発でギリギリねばって次期大統領のフリをし続けられる「締め切り」……つまり04年大統領選の当落にかかわらず、ブッシュが実質的に大統領であり続けることが保証されている期限にほぼ重なっている。

11月2日にブッシュ陣営が敗れ、訴訟をしても勝ち目がないと悟った時点で、同陣営(現政権)は(それでも訴訟を連発しながら)この12月上旬までの1か月間をフルに使って、保守本流がブッシュ政権時代に始めた重要政策を、ケリーが大統領に就任しても後戻りできないように確定しようとするだろう。具体的に以下のような策が考えられる:

#1 橋本派やそのシンパの有力政治家(某ファンメールは野中広務・元衆議院議員を予想するが、筆者は古賀誠など連立与党の現職族議員か北朝鮮シンパを予想)の、さらなるスキャンダル(コクド関連?)を暴き、日本の「族議員政治」の、息の根を止める

#2 北朝鮮の金正日政権のさらなる危険性・残虐性を暴露し、ケリーが、選挙中に公約した「米朝2国間協議」で北朝鮮に妥協にして利益を与えるのを不可能にする

#3 MDの実戦配備を推進し、既成事実化する

#4 台湾の独立派与党・民進党が04年12月11日の立法院(議会)選挙に勝てるように画策し、台湾が近い将来名実ともに中国から独立することを確定する(または、台湾へのMD配備や、台湾の世界保健機関(WHO)加盟、台湾軍のイラク派兵を進める)

#5 日本など主要同盟国にイラクから撤兵しないと明言させ、ケリーの唱える米軍撤兵論を難しくする

これらの「奇襲」を行ううえで重要なのが、最大の同盟国・日本の支持だ。小泉内閣と自民党執行部が臨時国会で橋本派らを追い詰め、(かつて失敗した米朝2国間協議でなく)6か国協議による北朝鮮の核問題の解決を支持し、MDにおける日米協力を固める……このような援護射撃をしてもらわないと、この「ブッシュの最後の1か月」は意味がない。だから、米保守本流は小泉に「12月上旬までの臨時国会を」と頼んだ……そうとでも考えないと、この異例に長い会期は説明が付かない。

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●逮捕か停電か●
尚、上記#1〜#5のほかに「禁じ手」として、投票日かその前日に「オサマ・ビンラディン逮捕(を発表)」か「米民主党の州知事がいる主要州(ペンシルベニア、イリノイ、ミシガン)で大停電」が考えられる。これが実現すれば、日高が言うように300人以上の選挙人を獲得してブッシュが楽勝する(その場合は、上記各項も04年中にあわてて実行する必要はなく、二期目の4年間の任期中にゆっくりやればよい)。

伝統的に米大統領選挙前の10月には、現政権やその敵対勢力(今回は北朝鮮、アルカイダ、リベラル系マスコミ)が選挙結果を自分たちに有利にするため「オクトーバー・サプライズ」(10月の奇襲)を試みるものだ。が、今回はブッシュ現政権が「ノベンバー・サプライズ」をする可能性のほうが高そうだ。

【現政権が故意にテロを米本土に招き入れると、ブッシュは責任を問われ、落選する。が、(テロでなく)事故で局地的な停電が起きた場合は州知事の責任になることは01年1月のカリフォルニア大停電で実証済みだし、ペンシルベニア州を含む米北東部の発送電インフラが脆弱なことも03年8月の大停電でわかっている。とくに海に近いペンシルベニア州では、カナダ海軍が西暦2000年問題の停電対策として検討した、原子力空母の原子炉で家庭用電力を供給する策が有効だ。ブッシュ陣営の工作員が同州で停電を起こした場合、州知事は不測の事態にうろたえて醜態をさらすかもしれないが、ブッシュにとっては不測の事態ではないので台本どおり軍を動員して冷静に対処し「危機に強い大統領」を全米にアピールできる。】

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●実は八百長?●
米民主党のような本質的に「だらしない政党」が、労働組合や少数民族に偏った支持基盤のお陰で常に国民の50%前後の支持を得ていることは、米国政治の悲劇だ。「ケリーが当選したら米国でテロが起きる」というチェイニー米副大統領の暴論も、あながち的外れとは言えない。米民主党の安全保障政策は伝統的に、北朝鮮などのテロ国家やテロ集団にあなどられる要素を必ず持っているからだ。

米民主党が安全保障政策で「だらしなくない」ことを見せたいなら、党の大統領候補を選ぶ予備選で、ユダヤ系の家系に生まれたカソリックの軍人、元NATO欧州連合軍最高司令官のクラーク候補を勝たせればよかったのだ。が、予備選を制したのは上院議員のケリーだった。これは最悪の選択だ。

上院議員は過去の法案への投票記録がすべて残っているため、大統領候補として現在の考えを何か表明するたびに対立候補から「その発言は×年前の投票(公的な政治的意志表示)と矛盾している」と指摘される宿命にある。このため、60年に(大規模な選挙不正で)当選したジョン・F・ケネディ以降、96年のドール元共和党上院院内総務を含め大統領に当選した(元)上院議員はいない。現に04年、ケリーはブッシュから「発言の矛盾」を何度も指摘され、有権者の安全保障問題での支持を失っている(産経新聞04年10月26日付朝刊7面)。ケリーは19年も上院議員を務めているため「矛盾」のタネには事欠かないのだ。

米民主党が本気で04年大統領選に勝とうとしているのかは疑わしい(ちなみに、ブッシュもケリーもエール大学の同じ秘密クラブの同窓だ。04年5月4日放送のフジテレビ『ニュースJAPAN』)。

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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