〜北朝鮮版「桶狭間の奇襲戦」〜
映画『亡国のイージス』(いきなり音の出る公式サイト、音の出ない紹介サイト)は日本映画界としては初めて軍隊(自衛隊)の全面協力を得て、ほんもののイージス艦、潜水艦や戦闘機を登場させた画期的な軍事アクション大作映画であるから、当然、記録的な大ヒット…………と思いきや、そうでもなさそうである。
少なくとも、イージス艦も戦闘機も登場しない、つまり超アクション大作でない『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(以下『踊る2』)ほどの超特大ヒットでないことだけは確かである。
これは困ったことだ。すくなくとも筆者のように、「ほんもの」を必要とする危機管理系の小説を書く作家にとっては、そういう小説を原作とするスケールの大きな映画がヒットせず、ほどほどの規模の映画がヒットする、ということになると、今後出版社から「あまりスケールの大きな作品は書かないように」と言われかねない(というか、そういう注文はすでに来つつある)。
そこで、この目で確かめようと思い、上映館を探すため05年8月、Yahooの映画コーナーの『亡国のイージス』の情報を見た。すると、「ユーザーの採点」があまりに低いので驚いた:
「映画をなめているのか…」(2点)
「原作読んでないとわからないのでは」(1点)
「某国のイージス?」(1点)
など酷評が多く、カスタマーレビューの平均点も5点満点で3.2点だった。『踊る2』のときはほとんど5点満点ばかりで「絶賛の嵐」だったから、一瞬、いったいこの差はなんなんだ、と思ってしまった。
なかには、映画のプログラムに単なるおまけで脚本が付いていることを取り上げて「パンフレット(プログラムのこと)を作った人はこの映画の台本の出来の悪さに気がついている(から脚本を掲載した)」だの「解説が必要な映画は欠陥映画」だのと、意味不明なへりくつをこねまわして、挙げ句の果てに「この映画を作った人は素人ですか?」と毒づいているレビュー(1点)もあり、開いた口がふさがらない。
べつにこの映画を理解するのに解説は要らないし、事前に原作を読んでいる必要もない(筆者は読まずに見た)。
それに、脚本の出来が悪いと思う人が、その出来の悪い脚本をわざわざプログラムに載せるはずはない。むしろ、これはセリフに出て来る軍事用語、たとえば「そうかん」や「せんむちょう」の意味(操艦、船務長)を知りたい人へのサービス、と見るべきだ。
もちろん、そんな専門用語の意味(漢字)がわからなくても、映画の理解にはなんの支障もない。セリフに専門用語が出て来るのは、リアリティ(迫力)を出すためであって、べつに観客はその用語の意味をすべて理解する必要はない。この「常識」は、映画『E.T.』の、ETとエリオット少年が並んでベッドに寝た状態で医療スタッフの治療を受ける場面で、医師役の俳優たちが正確な医学用語を矢継ぎ早にしゃべっている(が、観客はほとんどその意味を理解できない)場面を想起すれば、だれでも容易に理解できるであろう。
上記の酷評のなかには、映画そのものを見なくても書ける「とにかくつまらない」式の「悪口のために悪口」も多々ある。世の中には、なんの文才もないくせに投稿で揚げ足取りをすることだけには異様に長けた「投稿オタク」(投稿依存症?)がいることはよく知られているが、それにしてもこの映画のレビューには酷評が多すぎる。
なかには、映画公開の3か月以上も前から、まだ映画が完成してもいない段階で、もちろん映画自体もまったく見ずに「5点満点で2点」と採点するなど、平均点を引き下げるための「妨害」としか言いようのない投稿まである(「映画化ってなぁ…」)。
いったい、なぜだろうか。
●投稿ジャック●
そこで、ふと思い出されるのが、05年4月頃に愛知県在住の小誌読者の方から頂いた投書である。それによれば、愛知県下で人気のラジオ番組、CBC『つボイノリオの聞けば聞くほど』(毎週月〜金曜日9:00〜9:32AM放送)では、中国国内で反日暴動がピークを迎えていた4月頃、日中関係、日韓関係についての意見を視聴者(でなくて聴取者)から募集したところ、「日中、日韓関係の悪化はすべて日本側が悪い」「尖閣諸島も竹島もさっさと外国に譲ってしまえ」式の、およそ日本人が書いたとは思えないような、反日的な投書(メールまたはFAX)が多すぎる、ということであった(筆者は05年6月に愛知県に旅行したが、残念ながら、この番組を聴くことはできなかった)。
思い当たることがある。筆者が小誌上(02年1月17日「狂言通報者に背後関係?」)で、北朝鮮を批判し、参考資料として在日関係機関のWebを引用してリンクを張ったところ、即座にリンク先のWebページ(http://www.korea-np.co.jp/)の中の「各地の朝鮮学校、制服を変更/生徒の安全を最優先」の記事)が削除されたことがあったのだ。
別の小誌記事(02年1月31日「『同じ日本人として恥ずかしい』は考えもの」)でも指摘したとおり、北朝鮮の在日情報機関関係者は小誌を愛読しているようなので(ご購読有り難うございます。(^^;) )、彼らは当然、小誌が拙著新刊発売の際に行う 「桶狭間の奇襲戦」 キャンペーンを知っている。
とすると、上記の「反日日本人?」による人気番組への投書殺到も『亡国のイージス』への多数の酷評投稿も、北朝鮮の在日機関関係者が人気のあるラジオ番組やWebサイトをねらい撃ちにした、北朝鮮版「桶狭間の奇襲戦」ではないか、と思えて来るのだ。
とくに上記の「某国のイージス?」(1点)という投稿は、映画に登場する「某国」(北朝鮮)という言葉にこだわって(映画会社でなく海上自衛隊が映画を製作したと思い込んで!?)一種の憎しみを表明しており、北朝鮮国籍を持つ者かそのシンパ(手先)によって書かれた疑いが濃厚だ(「政府(自衛隊)が映画の中のセリフ(敵も味方も生きろ!)をいちいち検閲し許可した」と考えるのは独裁国家の国民)。
●反北朝鮮映画●
上記の投稿を見るまでもなく、北朝鮮という国を批判的に描く映画や小説では、北朝鮮の国名をどう表現するか、という問題が常にある。在日機関関係者に攻撃されると困るので、北朝鮮を描きつつも描いていないフリをしないと、まずいだろう。
だから、麻生幾原作の映画『宣戦布告』では「北東共和国」といい、上記の『亡国のイージス』では「某国」といっていたのだ。しかし、その「北東共和国」も「某国」も、東アジアに位置していて日本海に面しており、棲んでいるにんげんの顔は日本人によく似た東アジア系で、しかも公用語がハングルの独裁国家、と来れば、両作品とも北朝鮮を描いていることは明らかだ。在日情報機関関係者が「北朝鮮の国名が出ないから見逃してあげよう」などと思うはずがない。
たとえば、いまや「北朝鮮の手先」(?)が政権を握り言論統制を狙う韓国では(産経新聞05年6月1日付朝刊1面「韓国大統領『新聞権力は規制必要』 世界新聞協会会長が真っ向対立」中央日報Web版05年4月29日「『韓国の言論の自由は54.6点』 新聞法など影響」)、『007ダイ・アナザー・デイ』のような「反北朝鮮的な」映画は不買運動を引き起こしかねず、米国映画『ステルス』)では北朝鮮のシーンがカットされるなど修正措置が必要とされ、当然『亡国のイージス』も公開できないのだから(産経新聞05年8月13日付朝刊7面「緯度経度 ソウル・黒田勝弘 平壌に限りなく接近!?」)。
【北朝鮮政府機関(朝鮮中央TV)は(金正日総書記の意向で?)上記の『007』を非難したことがあるので(02年12月21日放送のNTV『ウェークアップ』)、当然『亡国のイージス』を「攻撃」する可能性もある。】
そういうこともあるだろうと思って、筆者は小説ではそもそも北朝鮮を描かない主義をとっている。『宣戦布告』では原作者自身が「北東共和国とは北朝鮮のこと」と週刊誌などではっきり述べているが、筆者は『ラスコーリニコフの日』や『中途採用捜査官 SAT、警視庁に突入せよ!』(以下『中途2』)に出て来るテロ国家「K国」のことを北朝鮮と言ったことは一度もない。
じじつ、北朝鮮ではない。『ラス…』でも『中途2』でも、K国を「かつて旧ソ連の勢力圏だった、ユーラシア大陸に位置する独裁国家」としているが、旧ソ連圏でイニシャルがKで始まる国は北朝鮮(Korea)のほかに、キルギス(Kyrgyz)もカザフスタン(Kazakhstan)もある。『ラス…』では、K国の上流階級はみなロシア語を話すことになっており、国内でハングル(朝鮮語)が使われているという記述は一切ないし、『中途2』では、K国の空港の位置は「ユーラシア大陸の内陸」になっている。
筆者は、小説の中で北朝鮮批判をする意志は一切ない。理由は、小説で批判したぐらいであの国が変わるとは思えないからだ。
そんな「無駄な抵抗」をするぐらいなら、在日朝鮮人や、日本語に堪能な北朝鮮工作員を含む大勢の方々に、エンターテイメントとして拙著をお楽しみ頂いたほうがよいと考えているので、拙著には北朝鮮と思われる国は原則的に登場しないのである。
【但し、小誌ではしばしば北朝鮮を(批判的に)取り上げる。小誌読者には永田町・マスコミ関係者が多く、そういう方々のニーズがあるからだ。】
【ちなみに、今月(05年10月)文庫化されたばかりの『龍の仮面(ペルソナ)』には、中国は登場するが、北朝鮮はほとんど登場しない。この作品は中国を描くことが目的であり、北朝鮮は筆者(この場合は著者)の眼中にはなく、べつに批判の対象にもなっていない。】
もちろん、雑誌や新聞などで筆者(著者)が「K国は北朝鮮のこと」などと麻生式に発言することもない。
どうか、国籍や思想信条にかかわらず、日本語の読める方々はみな、拙著を娯楽作品としてお楽しみ頂きたい。
●元祖・桶狭間の奇襲戦●
というわけで、ただいま小誌Webサイトで拙著『龍の仮面(ペルソナ)文庫版』(上)(下)の発売に合わせて、元祖「桶狭間の奇襲戦」キャンペーンを実施中でござる。
何卒、紀伊國屋書店新宿本店(Tel: 03-3354-0131)へのご注文を宜しくお願い申し上げまする(詳細はこちら)。
m(_ _)m
●大画面向き●
尚、念のために申し上げるが、映画『亡国のイージス』は傑作である。
ぜひ(ビデオ、DVDでなく)映画館の大画面でご堪能頂きたい。それだけの迫力のある作品だ。
どうあがいても対日イメージのよくならない某独裁国家の「手先ども」の言い分など、鵜呑みにしてはいけない(イメージをよくしたければ、さっさと「日本人拉致事件」の被害者を全員返せばよいのだ。くだらん小細工はするな、手先ども!)。
【上記は筆者の純粋な「予測」(推測)であり、「期待」は一切含まれていない。】
【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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