日韓野球格差

〜半永久的に変わらぬ構図〜

Originally written: Nov. 28, 2005(mail版)■日韓野球格差〜週刊アカシックレコード051128■
Second update: Nov. 28, 2005(Web版)

■日韓野球格差〜週刊アカシックレコード051128■
選手層の薄さと経済力の乏しさゆえに、韓国の野球が日本の野球に追い付くことはありえない。
■日韓野球格差〜半永久的に変わらぬ構図■

■日韓野球格差〜半永久的に変わらぬ構図■
【前々々々々々々々回「核先制使用宣言〜『龍の仮面・文庫版』05年10月発売」は臨時増刊なのでWeb版はありません。】
【前々々々々々々回「解散前の選挙戦〜シリーズ『9.11総選挙』(5)」は → こちら
【前々々々々回「亡国のイージス〜北朝鮮版『桶狭間の奇襲戦』?」は → こちら
【前々々々々回「阪神 vs. 村上広告代理店〜村上ファンドの阪神株買い占めで『プロ野球のJリーグ化』?」は → こちら
【前々々回「広島こそ上場〜シリーズ『村上ファンドの阪神株』(2)」は → こちら
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【前回「プロ野球の球団を増やす方法〜シリーズ『村上ファンドの阪神株』(3)」は → こちら

04年の日本プロ野球界再編騒動の際、野球解説者の張本勲は「(TVでなく)球場で試合を見たことのない者は、球界の運営について発言する資格はない」と述べた(04年放送のTBS『サンデーモーニング』)。

筆者はしばしば野球ビジネスについて書いているので、いつかは球場で試合を見るべきと思い、過日久方ぶりにナマでプロ野球「公式戦」を観戦した。それは、アジアシリーズ2005決勝「千葉ロッテマリーンズ vs. 韓国サムスンライオンズ」である。

アジアシリーズは国際親善試合ではなく、日本プロ野球組織(日本野球機構NPB)が、韓国野球委員会(KBO)、中国棒球協会(CBA),台湾の中華職業棒球連盟(CPBL)の協力を得て主催する公式戦なので、スコアはすべて「公式記録」として残る(NPB公式Web)。

ちなみに、この試合の始球式は張本が務めた。

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●不公平●
試合が始まってすぐ気が付いたのは、韓国側の外国人選手が質・量ともに劣ることだ。

NPBは野茂英雄(近鉄バファローズ→ロサンゼルスドジャース)らの大物選手が多数米大リーグ(MLB)入りするようになった90年代以降、彼らが抜けた分の戦力を補うため、それまで1球団2名だった外国人選手(同時出場)枠を3名に拡大した(01年以降、出場選手登録は4名まで。4名の枠を超える、支配下登録だけの外国人選手数は無制限。日本プロフェッショナル野球協約2005 第82条、第82条の2)。

一方、KBOでは外国人選手枠は2名で、しかもサムスンライオンズは「打線がいい」という理由でその枠をすべて投手の補強に使っている(05年11月20日再放送のスカイパーフェクTV JSPORTS 3『KONAMI CUPアジアシリーズ2005』におけるジャーナリスト木村公一の発言)。が、サムスンライオンズの外国人選手は、02〜04年中日ドラゴンズに在籍してあまり活躍できなかったマルティン・バルガス(通算4勝9敗、防御4.26。スポーツ朝鮮04年12月20日「中日・バルガスのサムスン入団が内定」)などエース級ではないので、結局決勝には出て来なかった。

つまり、決勝に関する限り、韓国側の外国人選手は0名、日本側(マリーンズ)の外国人選手はイ・スンヨプ、ベニー・アグバヤニ、マット・フランコの3名だったのだ。

これは日韓両国の経済力の差を露骨に表している。
日本の人口は韓国の約2.5倍あり、国内総生産(GDP)も約4倍で(米CIA Web)、物価水準も桁違いだ。当然プロ野球ファンの数も、ファンが球場に落とす金額もまったく違うから、日本球界の選手の年俸は韓国球界の選手の年俸より圧倒的に高い。日本一高給取りのプロ野球選手の年俸と、韓国一のそれとを比較すると、常に10〜15倍もの差がある(朝鮮日報日本語版01年12月25日「年俸で見た韓・日のプロ野球」)。韓国の一流選手の年俸は日本円に換算するとせいぜい数千万円であり、日本では準レギュラーか代打要員の金額だ。

マリーンズのイ・スンヨプがサムスンライオンズOBであることで明らかなように、日本側は韓国球界の一流選手を、韓国球界が絶対に支払えないような高額年俸で、いとも簡単に引き抜くことができる。が、逆はない。

また、日本の球団は、MLBで主力選手として通用しないまでも日本では十分活躍できそうな「準大リーグ級」の選手を北中南米などから獲得できるが、彼らの年俸の相場は資金力のある日本の球団が、自身の懐具合に合わせて(高く)決めてしまう。このため、サムスンライオンズがベニー、フランコと同等の実力のある外国人選手を獲得することは(彼らにふさわしい年俸が払えないので)不可能だ。

もちろん、まだ実績はないが将来性がある、という北中南米などの有望な外国人選手を韓国球界が(日本を出し抜いて、日本の基準から見ればかなり)安い年俸で獲得することはある。しかし、KBOで本塁打王になったタイロン・ウッズが03年に横浜ベイスターズに移籍(05年から中日ドラゴンズに移籍)したように、そういう選手も最後にはより高い年俸を求めて日本にやって来る(NPB公式Web)。

結局、韓国側が獲得できる外国人選手は上記のバルガスのような「日本であまり活躍しなかった(しそうにない)選手」ばかりになってしまう。

つまり、たとえKBOが外国人選手枠を3名、4名に拡大しても、韓国球界の外国人選手の実力が、日本側の外国人選手の実力を超えることはありえないので、韓国(に限らずアジアシリーズに参加する各国リーグの代表チーム)は元々、国内の野球の実力以外の点で、不利な立場に置かれていることになるのだ。

これは、国内に厚い選手層を持つ南米サッカー界でさえ、経済力のある欧州のクラブチームに高額年俸で一流選手を引き抜かれた結果、近年、欧州と南米のクラブチーム対抗戦「トヨタカップ」でほとんど勝てなくなったことを想起させる(95年以降、南米勢の2勝8敗で、南米側の勝者はアルゼンチンのボカ・ジュニアーズのみ。FIFA公式Web)。

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●4000対50●
しかも日韓間では選手層の厚さが決定的に違う。
欧州と南米の、国内出身サッカー選手の層の差はあまりないが、日韓の野球のそれは桁違いだ。

アジアの野球に詳しいジャーナリストの木村公一によると、韓国では草野球やリトルリーグで野球を楽しむ子供の姿を見かけることはありえず、硬式野球部を持つ高校は韓国全体で約50校、大学は約20校しかない、という(前掲JS3『KONAMI CUPアジアシリーズ2005』)。82年、韓国プロ野球の発足時、KBOコミッショナー補佐役に就任した張本は「韓国には高校野球をやってる学校は50しかない」と言っていたから、結局23年経ってもほとんど変わっていない、ということだ。

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【依然として韓国では、スポーツは「恵まれた環境にある一部のエリートのみが行う特殊なもの」であり、一般庶民が気軽に体験できるものではない。その意味で韓国は先進国ではない。】

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05年現在、日本には硬式野球部を持つ高校は4137校(朝日新聞Web版05年8月15日「夏の風物詩 - 全国高等学校野球選手権大会」)、大学は368校(全日本大学野球連盟Web)ある。日韓の選手層は高校の段階で約80倍、大学の段階でも約20倍違うのだ(韓国で高校野球の全国大会で優勝するより、日本で夏の全国高校野球選手権大会の地方予選、たとえば東東京大会で出場百数十校のなかで勝ち抜いて甲子園の本大会出場を勝ち取るほうが、はるかに難しい)。

外国人選手を除く国内の選手層がこれだけ違えば、韓国の野球のレベルが日本に追い付くことなど半永久的にないと見てよい。だから、アジアシリーズ決勝のスコアが「5-3」だからといって、また9回表のサムスンライオンズの攻撃が最後、2死一、二塁、フルカウント(一打同点)まで行ったからといって「惜しかった」などと韓国側は考えてはいけない。

この最終回のピンチは、マリーンズの抑えのエース小林雅英が「勝ってあたりまえ」と言われることのプレッシャーにより若干投球を乱した結果、つまり単なるアクシデントにすぎないのだ(前掲JS3『KONAMI CUPアジアシリーズ2005』における野球解説者、大塚光二の発言)。

たとえサムスンライオンズの最後の打者キム・デイクが三振せず、外野手の間を抜く打球を打ったとしても、9回表のマリーンズの外野陣は「守備がため」により全員俊足強肩の選手がそろっていたから、同点にするのは容易ではなかった。

万一同点、逆転となったところで、9回裏のマリーンズの攻撃は、その日本塁打を放っている二番打者の渡辺正人からという好打順だったから、サムスンライオンズの抑えの切り札オ・スンファンが少しでもプレッシャーを感じれば、たちまち打ち崩され、サヨナラゲームになっていたはずだ(もう1人の抑え投手クォン・オジュンはすでに8回裏に降板していたので、もはやまともなリリーフ投手は残っていなかった)。

この2点差は、実は相当に大きな差なのだ。

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●アジアの盟主●
アジアシリーズは国際大会なので、スコアボードの選手名はすべて英語だ(マリーンズの「サブロー」は「Ohmura, S.」)。しかし、閉会式で優勝チームが表彰される際の電光掲示では、優勝賞金5000万円の表示単位はドルではなく円であり、今後も数年間は、十分な収益が見込める日本の球場のみで開催されることが決まっている(産経新聞05年11月14日付朝刊14面「国際化へ大きな一歩」)。これはすなわち、アジア球界全体が日本の「支配下」にあることを意味している。

つまり、アジア球界における韓国は、北米球界におけるカナダか、それ以下の存在感しかないのだ。野球で、米国とカナダを同列に論じる米国人がほとんどいないのだから、日本人も日本と韓国を対等に比較する必要はない。

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【閉会式でマリーンズを表彰するプレゼンターの1人として、アジアシリーズ後援企業、読売新聞社の滝鼻卓雄・東京本社社長(巨人軍オーナー)の名前がアナウンスされたとき、スタンドを埋めた3万数千の観衆から怒涛のブーイングが起きたのは、笑えた。
(^o^)/~ 閉会式を最後まで見ていた人はトクをした。】

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●石の上にも…●
そうは言っても、アジアシリーズでベンチ入りする選手は各チームともたった28名である。
アジアシリーズに出場するのは、日韓台中の国内チャンピオンの「単独チーム」だ(例外的に、極端に選手層の薄い中国CBAのみは当分の間、国内全球団から主力選手を集めた「A代表」の参加が認められている。NPB公式Web)。

単独チームは、アテネ五輪野球(のアジア地区予選)に出場した日本代表チーム(長嶋JAPAN)のように、選りすぐりの一流選手の集まりではない。いかに日本球界全体の選手層が厚くても、(都市対抗野球のように)他チームから選手を借りて「補強」することもできない。

となると、国内でペナントレースや日本シリーズの真剣勝負を戦う中で故障者が出ると、当然その日本チャンピオンの戦力は低下し、かつ補強されないままアジアシリーズに出場することになる。じっさい、05年のマリーンズの主砲、福浦和也一塁手は故障によりアジアシリーズ出場登録をはずれたし、日本シリーズ最優秀選手(MVP)の今江敏晃三塁手もアジアシリーズ決勝の途中で負傷退場した。

幸いに、05年のマリーンズの場合は、レギュラー選手と控え選手の間にあまり差がなかった。たとえば捕手は、里崎智也と橋本将の2人がレギュラーであり、指名打者の枠も使いながら、2人で1つのポジションを交代で守っていた。また内野手(二三遊)や外野手(と一塁手)も、4人で3つ、5人で4つのポジションを交代で守る(イ・スンヨプとフランコは一塁と外野を守る)ので、「レギュラー選手」を全員数えると10人を軽く超えてしまう状態だった。だから、レギュラーが1人や2人怪我で欠けても、大勢に影響はなかった。

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【今江の交代要員で出た、控え内野手の渡辺正人が、サムスンライオンズのエース(先発投手)ペ・ヨンスからいきなり本塁打を打ったのには驚かされた。「選手層の差」を如実に示した一打だった。】

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が、05年の福岡ソフトバンクホークスのように、レギュラーと控えの間に大きな実力差があるチームが日本チャンピオンになった場合は要注意だ(たとえば先発メンバーから城島健司捕手や松中信彦一塁手が欠けると、かなり戦力が落ちる)。

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【06年からMLBシアトルマリナーズに移籍する城島が抜けるとはいえ、ホークスはまだ相当に強い。05年現在のサムスンライオンズがある程度余裕を持って戦える日本の球団は、おそらく楽天イーグルスだけだろう。】
(>_<;)

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但し、たとえば、韓国側が2年連続アジアシリーズ出場の(場慣れした)サムスンライオンズで、日本側が初出場のホークス(しかも城島、松中抜き)というような場合もありうる。そのような、韓国側にとって望みうる限りもっとも望ましい条件がそろった場合、まあ、7回に1回ぐらい、韓国チームがアジアシリーズを制することもないとは言えない。

でも、そういうときに限って、台湾チャンピオンが妙に強かったりして。
(^_^;)

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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