偽札と覚醒剤

〜北朝鮮の「公共事業」〜

Originally Written: Jan. 21, 2005(mail版)■偽札と覚醒剤〜週刊アカシックレコード050121■
Second Update: Jan. 21, 2005(Web版)

■偽札と覚醒剤〜週刊アカシックレコード050121■
偽札造りと覚醒剤密輸は北朝鮮の2大公共事業だ。北朝鮮がスマトラ沖地震・津波の被災国に15万米ドルの援助を送るには、2つのうちどちらかを財源に、臨時の出費を工面するほかない。
■偽札と覚醒剤〜北朝鮮の「公共事業」■

■偽札と覚醒剤〜北朝鮮の「公共事業」■
【前回「援助オリンピック〜シリーズ『スマトラ沖地震』(2)」は → こちら

前回、北朝鮮が、スマトラ沖地震・津波の被災国への援助として、15万米ドル(1575万円)というはした金を出すと表明したことを取り上げた。これは、韓国の俳優ペ・ヨンジュン(ヨン様)一個人の、同じ趣旨の寄付金額の半分という少額で、しかもヨン様などの有名人の寄付金額が報道されたあとに北朝鮮国営通信が報じたため、かえって北朝鮮の「金欠症」が際立つ形となった(各国・有名人の援助・寄付金額 順位表は → こちら)。

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おそらく北朝鮮としては、これが精一杯の額なのだろう。北朝鮮は経済が破綻状態にあり、ミサイル、ミサイル関連技術(部品)、海産物(ズワイガニ、アサリ)、衣類(紳士用スーツ)を除くとまともな輸出品はほとんどないし、観光産業も貧弱であるため、円やドルなど世界で通用する外貨をあまり獲得できない。そして、被災国への援助は「対外経済援助」であるため、「外貨」で提供しなければならない(北朝鮮国内の通貨を輪転機で刷ってインドネシアやタイに渡しても、もらったほうは、そんな「紙切れ」では必要な物資は買えないので、意味がない)。これは北朝鮮にとっては相当に苦しい。

北朝鮮の外貨準備高は不明である。が、韓国の外貨準備高1503億米ドル(03年11月末)、日本の6735億米ドル(03年12月末)よりはるかに少ないのは間違いない(環日本海経済研究所ERINAのWeb)。

02年の北朝鮮の総貿易額(輸出と輸入の合計)は22.6億米ドルで、これは韓国の3146億米ドルの1/140、日本の6759億米ドルの1/300だ(『週刊ダイヤモンド』04年9月4日号「特集・金正日の経済」p.33。韓国統一省、日本の総務省のデータから)。

03年には北朝鮮の総貿易額は25.4億米ドルで、7.2億米ドルの貿易黒字があった(『週刊ダイヤモンド』前掲記事p.40。大韓貿易投資振興公社KORTA、韓国統一省のデータから)。

その貴重な貿易黒字は、北朝鮮が自給できない石油や食糧、工業製品の輸入に使われる。しかし91年に年間189万トンあった石油の輸入が、03年には67万トンと、1/3に減っている(『週刊ダイヤモンド』前掲記事p.38。韓国銀行のデータから)。第二次大戦では、日本が米国に「対日石油禁輸」で追い詰められて対米開戦に踏み切ったことで明らかなように、石油は国家の生命線だ。その石油の輸入がここまで減ったことを見れば、北朝鮮はもう手持ちの外貨にはほとんど余裕がなく、被災国に援助するドルがあったら、それで石油を買いたいというのがホンネだろう。

つまり、北朝鮮が手持ちの外貨(預金)を取り崩して被災国に援助することは、どうもなさそうなのだ。とすると、北朝鮮には新たな外貨収入源を開拓する必要が生じる。

が、スマトラ沖地震・津波は突発事故である。事前に予測できないから、たとえば1年前から海産物や紳士服の増産計画を立てて(海外市場でマーケティングして?)対応する、というわけにも行かない。04年12月26日の地震・津波の発生から1〜2週間以内に、他国の援助表明に出遅れないように援助金額を表明しなければならなかったのだから、北朝鮮としては、手っ取り早く外貨を稼ぐ方策をとる必要に迫られていた。

もちろん、北朝鮮製のミサイルや関連技術の輸出など、国家間の大型商談がまとまれば楽勝だ。が、これには相手国の都合というものがある。北朝鮮製兵器(技術)の最大の輸入国であるパキスタンにしろイランにしろ、北朝鮮よりははるかにまともな国家統治機構があり、国家の財政支出は予算で管理されている。北朝鮮から突然「ミサイル10基買ってくれ」と言われて、すぐに買う、というわけにもいかない。

したがって、今回のような「突発事故」にかかわる臨時支出は、兵器輸出では賄えないのだ。

日本の人口が急に増えない限り、海産物や紳士服の対日輸出額を急増させるのも難しいし、在日朝鮮人のパチンコ屋や焼肉屋などを北朝鮮政府の手先(暴力団)が脅して所得を搾り取って本国に送金させるのも、すでにさんざんやっているはずなので、急に、わずか数日間で送金額を15万米ドルも増やすのは不可能だ。

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【それに、こうした日本からの送金は、日本が拉致問題解決のために対北朝鮮経済制裁を実施すれば、はいって来なくなるか、または大幅に減る。日本の国会では04年に、対北朝鮮制裁を可能にする法案が成立しており、その意味で、北朝鮮は04年中から、対日貿易や在日朝鮮人の送金以外の財源開拓を迫られていたはずだ。】

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●覚醒剤●
元手もろくにない貧乏人が、手っ取り早く15万米ドル(1500万円以上)もの大金を稼ぐ方法となれば、まず考えられるのは覚醒剤や麻薬の密売だ。

91年のソ連の崩壊で社会主義共同体(社会主義諸国の経済協力機構コメコン)という後ろ盾を失って困窮した北朝鮮は、90年代から国家ぐるみで覚醒剤などの製造と密輸に励んで来た。

とくに重要な輸出先は、北朝鮮工作員にとって土地カンがあって潜入しやすく、西側自由世界で通用する外貨の稼げる日韓両国だった。

が、日韓公安当局が取り締まりを強化する一方、中国の都市部・沿岸部が改革開放経済の進展で外貨を稼ぐようになると、北朝鮮は、日韓よりはるかに治安の悪い(したがって取り締まりの甘い)中国へと輸出先をシフトさせた(産経新聞05年1月11日1面「覚醒剤密輸 中国シフト」)。

05年1月現在、中朝国境地帯では、北朝鮮側の国境警備と住民の監視統制を担当するはずの国家安全保衛部と朝鮮人民軍保衛司令部が、行商人らを使って覚醒剤を中国側に持ち込ませ、毎月数百万米ドルもの外貨を稼いでいる(産経前掲記事)。

それなら、津波被災国への15万米ドルぐらい、すぐにひねり出せる…………と思うのはまだ早い。

パキスタンへのミサイル輸出なら、北朝鮮政府は売り上げ額を正確に把握できるから、その利益のほぼ全額が北朝鮮の国庫にはいる。が、覚醒剤密売の場合、その売り上げ額を捕捉するのは容易ではない。

覚醒剤密売は中国でも非合法だから、もし北朝鮮政府当局者の関与が露見すれば、国家間の外交問題になってしまう。それを防ぐため、覚醒剤密売の「監督官庁」である北朝鮮の国家安全保衛部などの当局者は、密売行商人が北朝鮮当局から「許認可」を得たという証拠は一切残せない。もちろん領収書や契約書など、売り上げを正確に示す書類が満足にそろうこともない。

この「公共事業」の受注業者(行商人)は、入札や随意契約によって決まるわけではないし、その売り上げや所得を北朝鮮政府が正確に捕捉して「課税」することもできない(日本の税務署でさえ、サラリーマンの給与所得は9〜10割捕捉できるが、農業や自営業の所得は3〜6割しか捕捉できないのだ)。

つまり「毎月数百万米ドル」というのは、中国側の輸入業者が北朝鮮側の密売行商人に支払う金額のことであって、北朝鮮の国庫にはいる金額はそれよりはるかに少ないのだ。

1万ドル売り上げた行商人が北朝鮮当局者に「売り上げ1000ドル」と申告しても、証拠書類はないので、とがめられる心配はない。当局者はその半分を取っても500ドルにしかならない。

しかも、その500ドルとて、まるまる国庫にはいることはない。当局者も、同じように証拠がないのをいいことに、国庫にはいるまでに、下級官吏から上級幹部に至るまで何段階にもわたってネコババするはずだ。そうなると、売り上げのうち国庫にはいるのは1%、あるいはそれ以下かもしれない。

もうとっくにネコババは行商人や当局者の「定収」になっていることだろう。となると、スマトラ沖地震が起きたからといってこの「1%(以下)」を急に「2%」「3%」に引き上げることはできないし、また引き上げても意味はない。当局者が「税率」を上げれば、行商人は売り上げをより過少に申告して「納税額」をさらに少なくしようとするからだ。

たとえこのような「増税」が断行される場合でも、それは行商人の勤労意欲を奪って売り上げを落とすか、当局者の「中間搾取率」を上げるだけで、べつに国庫収入の増額にはつながるまい。

それなら中国市場での「マーケティング」を強化して売り上げを増やす、というテもないではない。しかし、それは数年前からすでに行われていることであり、当局者がスマトラ沖地震の直後に行商人に向かって「急遽大金が必要になったから、北京か上海に行って稼いで来い」というわけにもいかない。そんな目立つ動きをすれば、中国の公安当局にたちまちみつかって取り締まられてしまうはずだ。

覚醒剤密売、とくに中国での密売は、中長期的に見れば、北朝鮮政府の有力な財源であることは間違いない。しかし、今回のような突発事故に伴う臨時の出費を賄う資金源としては、結局使えないのだ。

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●偽札●
北朝鮮には、覚醒剤や麻薬の密輸のほかに、偽(ニセ)札造りという財源もある(05年1月15日放送のフジテレビ『ワッツ!?ニッポン』での、辺真一・コリアレポート編集長の発言)。90年代に世界に出回った偽米ドル札「スーパーK」などの、精巧な偽札造りの伝統もある。

しかし、覚醒剤密売と同じで、末端の通貨偽造・偽造通貨行使の実行部隊が「売り上げ」を過少申告すれば同じではないか…………と思ってはいけない。文字通り「おカネをつくる」この公共事業では、政府は当局者(実行部隊の監督官庁)に向かって「偽札造りによって目標額(15万米ドル=約1500万円)の日本円を稼いで来い」と言いさえすればいいのだ。

目標額が決まっているので、「1500万円分偽造しようとしましたが、1/10しかできませんでした」という過少申告は不可能だ。何がなんでも1500枚以上の偽1万円札を造らなければならない。

そして、もし政府が当局者に、さらに以下のように言えば、当局者や実行部隊の勤労意欲は倍増するはずだ、

「1500枚以上なら何枚造ろうとかまわん。とにかく1500万円政府にはいりさえすれば、あとは、おまえら(監督官庁や実行部隊)がいくらネコババしようとかまわない」。

こういう指示を出すほうが、覚醒剤密売の「売り上げ税」を増税するよりはるかに容易に、確実に北朝鮮政府は目標額に近い臨時収入を得られるだろう。監督官庁や実行部隊が私利私欲のために、意欲的に取り組むからだ。

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【日本の公共事業はしばしば赤字だが、こちらはほぼ確実に黒字である。】

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●使うはプロ●
04年12月31日から05年正月三が日にかけて、初詣の人出で混雑する日本各地の寺社で、旧札の偽1万円札が合計数百枚みつかった(産経新聞05年1月5日付朝刊31面「初詣で偽1万円札事件 12都府県で234枚 同一グループの犯行?」)。偽造通貨対策研究所の遠藤智彦所長は一連の偽札事件を「造るはアマチュア、使うはプロ」と評した(05年1月9日放送のTBS『サンデーモーニング』)。発見された偽札は、パソコンとカラープリンターで造れる簡単なもので、透かしもなく、銀行のATMはだませない低レベルのものだが、全国各地で一斉に(バレる前に使い切るつもりで組織的に?)大量に使われたからである(朝日新聞Web版05年1月6日「偽旧1万円札、さらに各地で 鹿児島と東京、同じ番号も」)。

以下は筆者の仮説である。

日本には北朝鮮政府(諜報機関)に直結する在日朝鮮人団体があり、その息のかかった暴力団が多々あり、(しばしば日本人になりすました)北朝鮮工作員や、シンパの日本人も大勢いる。だから、北朝鮮による日本人拉致問題の未解決に怒った日本が対北朝鮮経済制裁に踏み切った場合などに備え、中長期的な財源確保の一案として、日本円の偽札で外貨を稼ぐ方法は常に検討されていたはずだ。

そこへ04年12月26日、スマトラ沖地震が起き、当日に援助を表明した中国をはじめ各国政府が次々に被災国への援助を発表した。世界中から「独裁国家」「悪の枢軸」と罵られている北朝鮮も、なんとかして援助国の仲間入りをし「善人ヅラ」をしたい。

「幸いにもうすぐ05年の元旦だ。日本人は元旦の未明になると初詣で全国の寺社に出かける。未明の寺社の境内は、大勢の人出でごった返すうえ、暗いから、境内の露店で偽札を使っても(たとえその偽札が低レベルの粗悪品でも)そう簡単には見破られまい」

こう気付いた北朝鮮政府は当局者に緊急指令を出し、それを受けて当局者とその配下の実行部隊(在日工作員)は大あわてで数千枚の偽1万円札を「粗製濫造」した。

長期的な財源確保という目的なら、長く日本国民の目を欺くために、多様な原版から精巧な偽札を造ったかもしれない。が、とにかくスマトラ沖地震からあまり日を置かずに1500万円以上稼ぐメドをつけなければならず、しかも、もっとも稼ぎやすい初詣というタイミングは目の前だ。

だから北朝鮮工作員はあわてた。原版もごく限られた枚数しか造れなかった。

このため、偽札には透かしがなく、明るいところで見ればすぐに偽物とわかる粗悪品となり、その記番号もVJ838046Mなどほんの数種類となった(偽1万円札の記番号は十数種類あるが、広域に大量に出回っているのは4種類。朝日新聞Web版05年1月7日「出回っているニセ札は十数種類 警察庁が全国まとめ」)。

しかし、いったん造ってしまえば、それを全国の寺社で使うのは簡単だ。北朝鮮工作員やその影響下の暴力団員は日本中にいるからだ。

だからこそ、同じ記番号の偽札が、多数の都道府県でほぼ同時にみつかる、という摩訶不思議な現象が起きたのだ。

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【偽造通貨行使で逮捕された容疑者のなかには、富山県警に逮捕された女をはじめ偽札の入手先などを黙秘する者が少なくないが(毎日新聞Web版05年1月13日)、諜報機関などと無関係な素人が偽造したのなら、簡単に自白するだろう。もちろん、北朝鮮は捜査を撹乱する目的で、04年12月26日以降、自分たちの偽札造りの手口をインターネットなどを通じて再流行させ「連鎖的に」(朝日新聞前掲記事)模倣犯を増やそうとしただろうから(警察庁や産経新聞はすっかり翻弄され、わずか1日で同一グループ説から複数グループ説に変わった。産経新聞05年1月6日付朝刊28面「偽1万円札 複数グループ関与か 使用地域で異なる記番号」)、そのうち黙秘しない容疑者も出て来るかもしれない。しかし「黙秘」は、警察対応のための高度な訓練を受けた者が行うことであり、黙秘する容疑者は素人の模倣犯ではない、と見て間違いあるまい。】

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今回の偽札事件の犯人としては、ZY853618Tの偽札の原版を持つ奈良県在住の栗原一導容疑者が、なぜか他の記番号の偽札を使用した容疑で逮捕されたが(産経新聞Web版05年1月8日「偽1万円札『百数十枚使用』と供述 奈良の男、偽造も認める 」)、彼が戸籍どおりの日本人「栗原一導」であるとは限らない(「なりすまし」については拙著『ラスコ-リニコフの日』を参照)。

逮捕された「栗原」は04年夏から「ZY853618T」を1人で偽造して使用していたと供述している。が、04年夏の偽造はすでに北朝鮮に帰国した別人「先代栗原」の、中長期計画に基づくテスト製造かもしれないし、「先代」は年末年始に大量に偽札を使ってすぐ帰国したかもしれない。供述自体が背後関係の隠蔽をねらったウソという可能性もある。

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スマトラ沖地震がなければ、全国同時多発型の偽札大騒動は起きなかっただろう。

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 (敬称略)

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