豪州は弱いし開催地は涼しいし
〜シリーズ「06年W杯サッカー本大会開幕」(5)〜
06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会一次リーグ(予選L)で、アジア大陸勢のうち日本、韓国、サウジアラビア、イランの4か国すべてが決勝トーナメント(T)に進めなかったため「次回10年本大会(南アフリカで開催)ではアジア勢の出場枠は現行の4.5か国から大幅に減る」とか「その減ったアジア枠に、次回からオーストラリア(豪州)が挑むので、日本は出場するのも難しい」という説が飛び交っている(小数点以下の0.5は、他大陸上位国との大陸間プレーオフに勝った場合に出場できるという意味。日刊スポーツWeb版06年6月16日「アジアのサッカーに未来はあるか」 『週刊新潮』06年6月29日号「次の『南アフリカ大会』は予選突破も『絶望的』」)。
が、これは誤解だ。
●最下位は北中米●
豪州はオセアニアサッカー連盟(OFC)からアジアサッカー連盟(AFC)に移ることがすでに決まっているので、06年本大会での豪州の勝利は当然アジアの成績に含まれる。
これを踏まえて06年本大会の決勝T進出16か国の内訳を見ると、欧州10、南米3、アフリカ1、アジア1、北中米カリブ海1であり、アジア勢がけっして他大陸に比べて著しく劣ってはいないことがわかる。しかも決勝Tに進んだアフリカのガーナ、北中米のメキシコは、豪州と同様に決勝T一回戦で負けているので、決勝Tの成績に関する限り、「下位3大陸」は対等ということになる。
では、予選Lの成績はどうか。
大陸ごとに予選Lの勝敗を合計してみる:
【06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会一次リーグ(予選リーグ)の、下位3大陸の成績】
組 | 国名 (略号) | 勝 | 敗 | 分 | 勝点 | 得 | 失 | 点差 |
C | コート ジ ボワール (CIV) | 1 | 2 | 0 | 3 | 5 | 6 | -1 |
D | アンゴラ (ANG) | 0 | 1 | 2 | 2 | 1 | 2 | -1 |
E | ガーナ (GAH) | 2 | 1 | 0 | 6 | 4 | 3 | +1 |
G | トーゴ (TOG) | 0 | 3 | 0 | 0 | 1 | 6 | -5 |
H | チュニジア (TUN) | 0 | 2 | 1 | 1 | 3 | 6 | -3 |
計 | アフリカ5か国 | 3 | 9 | 3 | 12 | 14 | 23 | -9 |
組 | 国名 (略号) | 勝 | 敗 | 分 | 勝点 | 得 | 失 | 点差 |
D | イラン (IRN) | 0 | 2 | 1 | 1 | 2 | 6 | -4 |
F | 日本 (JPN) | 0 | 2 | 1 | 1 | 2 | 7 | -5 |
G | 韓国 (KOR) | 1 | 1 | 1 | 4 | 3 | 4 | -1 |
H | サウジアラビア (KSA) | 0 | 2 | 1 | 1 | 2 | 7 | -5 |
F | オーストラリア (豪州) (AUS) |
1 | 1 | 1 | 4 | 5 | 5 | ±0 |
計 | アジア5か国 | 2 | 8 | 5 | 11 | 14 | 29 | -15 |
組 | 国名 (略号) | 勝 | 敗 | 分 | 勝点 | 得 | 失 | 点差 |
A | コスタリカ (CRC) | 0 | 3 | 0 | 0 | 3 | 9 | -6 |
B | トリニダードトバゴ (TRI) | 0 | 2 | 1 | 1 | 0 | 4 | -4 |
D | メキシコ (MEX) | 1 | 1 | 1 | 4 | 4 | 3 | +1 |
E | 米国 (USA) | 0 | 2 | 1 | 1 | 2 | 6 | -4 |
計 | 北中米5か国 | 1 | 8 | 3 | 6 | 9 | 22 | -13 |
アジアの成績はアフリカには劣るものの、北中米よりは上なのだ。
但しこれにはトリックがあって、アジアの「2勝」には、豪州が同じアジアの日本からあげた1勝が含まれている。「豪州が負ければ日本が勝つから、戦う前からアジアは1勝確保」という、他大陸から見てずるい組分けのお陰だが、国際サッカー連盟(FIFA)が「アジア枠を多めに確保することで経済大国・日本を本大会に出場しやすくする」というビジネス上当然の意図を持っているなら、こういうトリックを使うのもまた当然だ。
06年本大会のアフリカ枠は5、アジア枠は4.5、北中米枠は3.5だった。もし「アジア勢の成績不振」を理由に10年本大会のアジア枠を2.5〜3.5に減らすなら、同じ理由で北中米枠も1.5〜2.5に減らさなければならない。他方、両大陸より成績がいいアフリカの枠は若干増えて5.5(開催国を入れて6.5)になり、決勝Tに3か国も送り込んだ南米大陸勢の枠も現行の4.5から5.5に増やす……などということはない。
アフリカのような貧しい大陸の枠を増やしてもFIFAにメリットはないので、その枠は「開催国を入れて5.5」とするのが妥当だし、ぜんぶで10か国しかいない南米勢から5か国以上も出るのはどう見ても多すぎるので、これも4.5に据え置くだろう。
●オセアニアマジック●
OFC財政の大半を豪州が賄っていたであろうことを考えると、一部報道されているように、豪州が抜けたあとのOFCが地区(大陸)予選の単独開催を諦め「次回地区予選をAFCと合同開催」するのは自然の成り行きと思われる(朝日新聞Web版05年7月8日「アジアサッカー連盟、オセアニアとW杯予選など統合検討」)。
以上から判断すると、10年本大会の大陸別出場枠は(アフリカ枠に開催国を入れて)、
#1: 欧州13.5、南米4.5、アフリカ5.5、アジア-オセアニア合同枠5、北中米3.5
#2: 欧州14、南米4.5、アフリカ5.5、合同枠4.5、北中米3.5
#3: 欧州14、南米5、アフリカ5.5、合同枠4.5、北中米3
#4: 欧州14、南米4.5、アフリカ6、合同枠4.5、北中米3
などとなるだろう。
但し#3、#4では、アジア第5代表は南米かアフリカの強豪とのプレーオフに勝たないと本大会に出られないので(#2なら、北中米とのプレーオフが可能)、アジア枠は事実上「4」であり、FIFAとしては避けたいところだ。06年本大会地区予選の、オセアニアと南米のプレーオフでは、南米5位(ウルグアイ)に勝つために、豪州代表のフース・ヒディンク監督はDFに相手のエースを肘打ちさせて負傷させ、途中交代に追い込んで勝ったが(スポニチWeb版06年05月16日「侍・ポポビッチがヒディング(ク)の刺客となる」)、このあとFIFAは「肘打ちなどの危険なプレーの反則を厳しくとる」ように決めたので(産経サッカーWEB 06年3月6日「ひじ打ちはすべて退場 W杯から新規則 国際サッカー評議会」)、もうこんな卑怯な手は使えない。
●弱くなる豪州●
もし万一、大陸別出場枠が#3、#4になったら、アジア枠は実質「4」になるので、日韓豪、サウジ、イランの「5強」のうちどれか1国が本大会出場を逸する恐れがある。では、その貧乏くじを引くのはどこか?
前々々回、それはたぶん韓国だろうと述べた(小誌06年6月8日「●アジア枠を守る者」)。が、意外にも豪州がその「5番手」になる可能性が高いのだ。
と聞くと、たいていの人は驚くだろう。06年本大会で豪州は英プレミアリーグで活躍する長身選手を多数そろえ、予選Lで日本に勝ち、決勝T一回戦でもイタリアと接戦を演じたからだ。
が、この「強い豪州」を支えた主力選手の大半が実は30代であり、代表選手23人中10人が近い将来に国際試合からは引退する予定なのだ(スポニチWeb版06年7月3日「就任1年でヒディンク監督が残した物(2)」)。
豪州のプロサッカーリーグNSLは、同じ都市に複数のクラブチームが本拠地を置く、合計13チームの「非地域密着型」のため永年不人気で、近年経営破綻に陥った。が、04年に8都市に各々1チームが本拠地を置く「地域密着型」のAリーグに改編されてようやく人気が出始めた(スポーツナビ05年10月31日「カズが挑むAリーグとは」)。
つまり、「名将」ヒディンクは、国内リーグもろくに整備されていないサッカー後進国の代表チームの指揮を(オランダのクラブPSVアイントホーフェンの監督と掛け持ちで)たった1年ほど任されたため、「代表チームに『国内組』の若手を起用して将来のために経験を積ませる」などという長期計画はまったく持たずに、「海外組」のベテランをかき集め、ウルグアイのエースを肘打ちで葬ってW杯本大会出場を勝ち取っ(て、本大会の日本戦でも誤審で勝っ)たにすぎないのだ。
豪州サッカー協会が今後4年間に代表チームとAリーグに相当なテコ入れをしない限り、次回10年本大会に豪州が出場できなくても驚くにはあたらない。
●第2の日本●
このAリーグは、名前も「地域密着」の理念も日本のJリーグに通じるものがあるが、人脈面でも日本とのつながりが深い。
04年11月にAリーグと同時に発足したシドニーFCはAリーグ初代王者となったが、その監督はJリーグで選手経験のあるピエール・リトバルスキー元横浜FC監督だった。彼は、シドニーFCが、(従来の欧州と南米のクラブ王者のみが覇権を争う形から)6大陸王者対抗戦に改組された、05年の新トヨタカップ(トヨタ杯)への出場が決まると、日本から「カズ」ことFW三浦知良をトヨタ杯開催期間限定のレンタル移籍で横浜FCから獲得した(スポーツナビ05年12月「チーム紹介 シドニーFC」)。このため、05年12月に日本で開催されたトヨタ杯は、日本のクラブチームがアジア代表で出ていないにもかかわらず、カズ見たさに日本中のサッカーファンが注目するイベントとなり、興業面でもTV視聴率の面でも大成功を収めた。
実は、豪州はFIFA、Jリーグと関係の深い日本の大手広告代理店A社の縄張りだ。W杯サッカー本大会のTV放送権を握るのはインフロントスポーツアンドメディアAG、商標権を持つのはFIFAマーケティングAGだが、両社は02年本大会以降、全世界への放送権や商標権のうち、東アジア、東南アジア、オセアニア(06年からは南アジアも)という広汎な地域の権利をA社(とインフロント社の合弁子会社)に与えている(共同通信06年3月18日付「アジアの放送権取得 サッカーW杯2大会など」、同01年12月10日付「W杯だより」)。
A社は公共機関でも公益法人でもないので、各国で放送権などを売る際にべつに入札をする必要はない。まさにA社経営陣の一存で「本大会予選Lの日本代表の試合はNHKに2つ、テレビ朝日に1つ」といった具合に自由に配分できる。つまり、A社は本大会の放送権や商標権を武器に日韓中豪印を含む広汎な地域で影響力を行使できるのだ。
とくに豪州は、国内リーグの優勝チームに日本から自由に人材を送り込めるほど、A社の影響力の強いサッカー市場なので、もしここでW杯本大会を開催できるなら、A社にとっては好都合だ。
近年FIFAは「サッカー不毛の地」にサッカーを広げると称して、94年の米国、02年の日韓、10年の南アフリカと、敢えてサッカーの盛んな欧州と南米以外の大陸から開催国を選んでいる。豪州は人口2000万の国だが、経済的には先進国であり、GDPは南アフリカ(1873億米ドル)の3倍以上、6128億米ドルもある(GDPはいずれも米CIA 「World Factbook」の05年推計値。以下同)。00年シドニー五輪を開催した実績もあるので、大規模な国際スポーツ大会の運営能力は十分にある。筆者は豪州を14年または18年本大会開催国の有力候補と予測する。
●ロシアでW杯!?●
経済力と人口がそこそこあって、今後サッカーを普及させればFIFAが十分儲かりそうな「不毛の地」としては、ほかにロシア(GDPは7407億米ドル)があり、ロシアも豪州と並んで14〜18年本大会の開催国となる可能性がある。
筆者が「ロシア開催」が近いと思う理由は、ヒディンクだ。
ヒディンクは、フランスで開催された98年本大会でオランダをベスト4に導いたところまではたしかに名将だったが、その後は、02年本大会の韓国、06年本大会の豪州を率い、サッカー後進国の代表チームの成績を「誤審」や「肘打ち」で上げ底する「悪の仕事人」に成り下がった。
そのヒディンクが06年本大会出場を逃がしたロシアの代表監督を、06年本大会終了後に引き受けるのだから、次に「上げ底」されるのはロシアだろう(スポーツナビ06年4月11日「ヒディンク『W杯の後はロシアの監督をやる』)。
06年本大会の成績を拠り所に豪州が14年本大会を、10年本大会の成績を材料にロシアが18年本大会を招致すれば、W杯本大会は10年の南アフリカでの本大会から3大会続けて「涼しい大会」となる。南半球に位置する南アフリカと豪州は、本大会開催時期の6〜7月は冬であり、また、北半球ながら寒冷地に位置するロシアの夏は涼しいため、3国とも開催期間中の首都の最高気温は20℃前後かそれ以下である。
これは、たとえ現地時間の昼間に試合を組んでも、選手の体力の消耗が少ないことを意味する。
ドイツで開催された06年本大会では、日本の予選L第1戦の豪州戦と第2戦のクロアチア戦は、日本で十分に視聴率のとれる時間帯、遅くとも午後10時までに試合を開始したかった(とA社が希望した)ために(ロイター06年6月19日付「ジーコ監督、試合開始時刻に不満」)、真昼の炎天下(ドイツ現地時間午後3時開始)の試合となった。
たとえ出場国の本国の放送時間に配慮せずとも、日程の都合上いくつかの試合は必ず昼間の暑い時間帯に開催しなければならず、大勢の選手が体力を過剰に消耗し、その結果としてそのうち多くが負傷した。たとえばイングランド代表MFベッカムは、決勝T一回戦のエクアドル戦で脱水症状を起こし、続く準々決勝のポルトガル戦ではアキレス腱と膝の負傷で途中交代している(スポニチWeb版06年7月5日「肉体と精神をすり減らすW杯はいらない」)。
上記の「涼しい3か国」での開催は、選手の消耗と怪我を防ぐので、おそらく世界中の選手に歓迎されるだろう。
但し、「涼しい大会」は、欧米の強豪に力負けしそうな国、たとえば日本には不利になるかもしれない。暑さに弱い寒冷地クロアチアの選手たちは、06年本大会の日本戦では、日本選手以上に消耗し、シュート数で日本を上回ったのに、シュートミスでも日本を上回り、結局「0-0」の引き分けになった。もし、涼しい時間帯に戦っていれば、クロアチアと日本の実力差がもろに出て、日本が負けていたはずだ(双方が暑さで平等にバテると、技術的な実力差は消えるらしい)。
だから、日本代表が10年本大会やそれ以降の「涼しい大会」で勝つには、相当に技術力を向上させる必要がある。 が、それでも日本の選手層は韓国より何倍も厚く、日本の国内プロリーグの歴史は豪州より10年以上長いので、なんとかできるはずだ。
●事故で崩れたシナリオ●
ゼップ・ブラッターFIFA会長は「少なくとも(豪州以外の)アジア勢(4チーム)で1チームは16強入りすることができたはず」だが、4チームとも予選Lで敗退したのは「事故」だと述べた(日刊スポーツWeb版06年6月29日「アジア勢全滅は事故」)。やはり小誌既報のとおりFIFAのシナリオでは日本が決勝Tに進むことになっていたのであり、それを阻んだエジプト人主審の「日本対豪州」戦での2回の誤審が事故なのだ(小誌06年6月16日「FIFA、『誤審警報』を発令〜シリーズ『06年W杯サッカー本大会開幕』(3)」)。
まさに日豪戦は事故であり、06年本大会の試合では例外中の例外のようだ。なぜなら、これ以外の試合ではみな「明白な誤審は1試合1回以下」に制限されていたからだ。たとえば前回紹介した予選L G組の4つの誤審はみなそうだ(小誌前回記事「06年本大会予選L G組の『誤審』一覧」)。02年本大会では、開催国の韓国が「4強入り」のシナリオを強引に実現しようとして、韓国戦で1試合2回以上の誤審を3試合も続け、世界中の反発を買ったため(小誌02年6月13日の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)、06年本大会ではFIFAはこのような「回数制限」を設けたのだろう。
が、この「制限」のせいで「日本の決勝T進出」以外にもFIFAのシナリオは次々に狂った。
ブラッターの祖国スイスを上位進出させるシナリオは、予選Lの段階では、同じG組の韓国が弱いこともあって「1試合1回」でも実現できたが(小誌前回記事「G組の公式結果」)、決勝T一回戦のウクライナ戦で挫折した。
この試合では、ウクライナのFWシェフチェンコの「バーをたたくシュート」が惜しい攻撃として米CNNなどで報道されたが、実はこのときベニト・アルチュンディア主審(「フランス対韓国」戦でフランスの追加点を取り消してスイスを助けたメキシコ人。小誌前回記事「G組の『誤審』一覧」を参照)はファウルの笛を吹いており、シュートが決まっても取り消すつもりだったのだ。
そして、それっきり、彼はスイスに有利な誤審はしなかった。
それでも試合は延長を経て「0-0」になり、それに続くPK戦ではウクライナの1人目、FWシェフチェンコが(試合でシュートを決められなかった焦りから?)失敗したので、スイスが予選Lに続いてアルチュンディアの笛で勝ち進むのはほぼ確実だった。が、なんとそのあとスイスは3人続けてPKを失敗し、勝てるはずの試合を落としてしまう。
こうなると、もうだれも助けようがない。02年本大会の韓国ほどではないにせよ、日本に比べればはるかに至れり尽せりの「誤審サービス」を受けたスイスだったが、決勝T一回戦であえなく散った。
スイスが準決勝まで勝ち上がってわざとドイツに負ければドイツは決勝に進出できるはずだったが、スイスの敗退は「玉突き」でドイツのシナリオまで狂わせることになった。
●審判抜きの八百長●
小誌既報のとおり、FIFAは組み分け抽選を(操作なしで)普通に行うことはない。
02年本大会で開催国の韓国が中国の組分けを指定できたのだから(小誌05年12月11日「組分け抽選の『操作』を読む〜06年W杯サッカー本大会」)、06年本大会でも開催国ドイツは、スウェーデン(SWE)のはいる組を当然操作できるはずだ。SWEは第1シード(ポット)にはいるほどの力はないが、第1シード国のなかではなぜかイングランドと相性がいいので(夕刊フジWeb版06年6月21日「スウェーデン『38年間不敗』守った」)イングランドと同じ組にはいりたい。そこで、ドイツはSWEに「希望の組に入れてやるから、決勝Tで対戦したら負けてくれ」と持ちかけることができる。
06年6月24日の決勝T一回戦「ドイツ対SWE」戦(FIFA Web「GER 2-0 SWE」)を、97年11月1日の98年W杯アジア地区最終予選「韓国対日本」戦(産経新聞97年11月2日付朝刊21面「日本、韓国に勝利 難産の2勝目」)、02年6月29日のW杯本大会3位決定戦「韓国対トルコ」戦(スポーツナビ02年6月29日「3位決定戦」)と比べて見ると、明らかに共通点がある。3試合とも、当時FIFAランキングが低いほうの国(SWE、韓国、韓国)は試合開始から5分以内に相手に1点を献上し、さらに前半のうちに2点目も献上し、前半終了時に2点のリードを許し、そのまま負けている。そしていずれにもおいても敗者、つまり、当時すでに決勝T進出を決めていたSWE、98年本大会出場を決めていた韓国などには、とくに勝つ必要がなかった(02年本大会のトルコは、予選Lのブラジル戦で韓国人主審の大誤審で負けたので、3位決定戦では「勝たせろ」と言える立場にあった。産経サッカーWEB 02年6月7日「韓国人主審判定、南米で誤審論争」)。
こうして決勝T一回戦でのどから手が出るほどほしい先制点と追加点を、たった12分間でSWEからもらい、SWEのFWラーションにPKをはずしてもらい、さらに、ほとんどシュートの打てないSWEの怪我人FWイブラヒモビッチ(この試合のシュートは1本のみ)にSWEの攻撃の邪魔までしてもらったドイツは、楽勝して準々決勝に進んだが、そこでアルゼンチン(ARG)に先制された。
すると、それまで45分間以上(ドイツの主力選手にイエローカードを1枚持っている者が多いのに配慮して?)あまり笛を吹かなかったスロバキア人主審ルボス・ミッシェルは突然ARGに厳しくファウルの笛を吹き始め、ドイツの同点ゴールを実現する(結局PK戦でドイツの勝ち。FIFA Web「GER 1-1 ARG」)。
●検察 vs. イタリア●
こうして準々決勝までドイツは勝ち続けた。が、次の準決勝の相手は予定のスイスではなく、イタリアだった。
イタリア検察当局は当初、「セリエA八百長疑惑」に関係する選手は、たとえ本大会に出場していても本大会開催中に事情聴取や身柄拘束をする方針だったが(スポーツナビ06年6月3日「波に乗れないフランス代表のトレゼゲ」)、イタリアサッカー協会(FIGC)が自主的に「スポーツ裁判」を開始したため、こうした司法手続きを見送らざるをえなくなった。
この「裁判」は司法制度とは直接関係がなく、身柄拘束などの強制措置を伴わない「身内の委員会」にすぎない。が、先進国の司法制度では「十分に社会的制裁を受けた者」には、それを考慮して処分を軽くする慣例があるため、この「委員会」が身内の処分を決めるまで厳しい司法手続きは控えざるをえなくなり、結局、代表選手23人中13人がセリエAの「疑惑対象チーム」に在籍していたイタリア代表チームからは本大会期間中、1人の身柄拘束者も出なかった(毎日新聞Web版06年7月4日「セリエA不正疑惑事件 伊スポーツ裁判開かれる」)。
このずるい「裁判」により、本来早々に敗退するはずだったイタリア代表はなんと準決勝でドイツに勝ち、決勝まで進んでしまった。
●差別 vs. フランス●
かくして「06年本大会はドイツとスイスと日本のための大会」という小誌の予言(予測)ははずれた。02年本大会と違って誤審に「回数制限」がある場合は、主催当局のシナリオを読んだだけでは結果を完全に予測することはできない、ということがわかった次第だ。
(>_<;)
が、予測を狂わす要素はほかにもある。それは「屈辱感」などの心理的要因だ。06年ワールドベースボールクラシック(WBC)の日本代表は米国人審判の誤審に怒り(日刊スポーツWeb版06年3月14日「米も認めた誤審、消された1勝」)、04年アジアカップ(アジア杯)サッカーの日本代表も中国人観客の反日応援と審判の偏向判定に怒り、一致団結して神がかり的に優勝した(アジア杯の日本代表選手はピッチ上で、観客席の日本人サポーターが中国人の暴力を受けるのを目撃した。産経新聞04年7月26日付朝刊25面「サッカーアジア杯 日本協会、安全面など改善要求」)。
だから、「セリエA疑惑」の汚名返上に燃える06年W杯本大会のイタリア代表も「神がかり」が可能なのかもしれないが、もっと燃えているのがフランスだ。
フランスは本大会予選Lでは「誤審」の影響であまり好調には見えなかったが、決勝T一回戦のスペイン戦で一変する。「競技場にバスが着くと、猿の鳴き声でチームの黒人選手が罵られた」うえに、試合前の国歌演奏ではスペイン人の観衆が口笛とブーイングを浴びせたのだ(共同通信06年6月29日付「根深い人種差別 フランス選手に侮辱行為」)。
こうなるとアジア杯の日本と同じだ。
フランスは敵国スペインを「3-1」で圧倒したあと、準々決勝では優勝候補のブラジルを、準決勝ではポルトガルを下して決勝に進んだ。
だから「フランス対イタリア」の決勝戦の結果を予測するのは困難だ。
が、これだけは確実に言える、「もし、試合前か試合中にイタリア代表選手(全員白人)か(イタリア人でなくても)白人の観客が、フランス代表の黒人選手に人種差別的な言動をしたら、その瞬間に『模擬裁判』までやって検察当局から選手の身柄を守ったFIGCの努力はすべて水泡に帰する」。
04年アジア杯準々決勝のヨルダン戦では、日本は、主審にPK戦の途中でゴールマウスを日本に不利に替えられるという、前例のない不公正な扱いを受けたが、GK川口能活の超人的な好セーブの連続で逆転勝ちしし(スポーツナビ04年7月31日「日本 1-1 ヨルダン」)、準決勝のバーレーン戦でも後半ロスタイムに同点に追い付き、延長戦の末また逆転勝ちし(スポーツナビ04年7月31日「日本 4-3 バーレーン」)、結局優勝した。
「怒りに燃えた愛国心」はどんな逆境でも乗り越えてしまう。
だから、W杯本大会を中国で開催してくれれば、日本は優勝できるだろう。
(^^;)
【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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