〜シリーズ「06年W杯サッカー本大会開幕」(2)〜
小誌05年12月15日「FIFAが冷遇する国〜シリーズ『06年W杯サッカー本大会(抽選工作)』(3)」で述べたように、国際サッカー連盟(FIFA)は南アフリカで開かれる10年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会に向けて、経済力のないアフリカ大陸勢の出場枠を現在の5か国から減らして4〜4.5か国(開催国を入れて5〜5.5)とし、逆に、経済大国・日本を含むアジア大陸勢の出場枠は現在の4.5を維持するか、または5以上に増やしたいはずだ。そうしないと、日本(とFIFA副会長の母国、韓国)が毎回確実に出場することができず、W杯の収益に響くからだ(小数点以下の「0.5」は他大陸の上位国との「大陸間プレーオフ」に勝った場合に出場できる、という意味)。
現在の4.5という、アジアにとって恵まれた出場枠は、02年本大会で韓国がベスト4にはいり「アジアのレベルが上がった」ことを理由に決められたものだ。もしも06年本大会でアジア勢が1か国も決勝トーナメント(T)(ベスト16)に進めなければ、当然アジア枠は削減される。本大会出場国数が現在の32となった98年のアジア枠は「オセアニアとのプレーオフ付きで3.5」、02年のそれは「開催国(日韓)を入れて(事実上)4」という少なさだったことを考えると、06年本大会で決勝Tに進むアジア勢がいない場合、次回10年本大会のアジア枠は3.5に戻るはずだ。
【02年のアジア枠は形式上は「欧州15位とのプレーオフ付きで4.5」だったが、欧州勢の強さゆえに戦前からアジア側の敗退は確実視されており(読売新聞99年10月4日付朝刊21面「アジア枠増えず『4.5』」)、じっさいそうなった。】
そこで、アジアサッカー連盟(AFC)は、オセアニアサッカー連盟(OFC)のオーストラリア(豪州)をアジアに移すことで関係各国と合意し、さらにAFCとOFCで10年本大会の大陸(地区)予選を共同開催し、事実上「統合」する改革案を模索している(朝日新聞Web版05年7月8日「アジアサッカー連盟、オセアニアとW杯予選など統合検討」)。
豪州の抜けたOFCでは、加盟各国のFIFAランキングは、最高のニュージーランドでも118位(06年5月現在)にすぎず、結局、本大会出場が不可能な弱小国しか残らないため、この改革(統合)が完了すれば、アジア勢は06年本大会での成績にかかわらず、形式上オセアニアと合同で4(事実上アジア単独で4)の出場枠を確保することになる。
98年本大会ではアジア勢の勝利は、予選Lのイランの1勝だけで、それを理由に02年本大会のアジア枠は事実上「開催国を入れて4」に削減された。06年本大会では、小誌既報のとおり韓国の1勝が事前に確定しているうえ(小誌06年5月8日「韓国1勝、もう確定〜06年W杯サッカー壮行試合の謎」)、予選リーグ(L)F組には日本と豪州が「同居」しているので、6月12日の日豪戦ではどっちが勝っても「アジアの勝利」となり、韓国の1勝とあわせて最低2勝は確保されていることになる。この日韓豪の「2勝」がある限り、アジア(+オセアニア)の枠が4から減ることはない。
●アジア枠を守る者●
しかし4では足りない。豪州には韓国を上回る実力と選手層があるので、アジア枠が4しかないと、日本、イラン、サウジアラビア、韓国の従来のアジア4強に豪州をあわせた「5強」のうちどれか1国(たぶん韓国)が必ず本大会出場を逸することになる。
FIFAとしては日本(と韓国)の本大会連続出場を確実にするために、最低でも「豪州、オセアニアを入れて4.5」の枠がほしい。が、そのためには、06年の「アジア枠4,5」の根拠となった02年の韓国の「ベスト4」に匹敵する成績を、06年本大会出場のアジア勢(か豪州)のうち最低1か国が上げなければならない。では、その役割を担う国はどこか。
韓国ではない。前回述べたように06年本大会では韓国は、02年のような異例の「誤審」(小誌02年6月13日の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)に頼れないので「怪進撃」は不可能だ。予選Lの組分けが強豪メキシコ、ポルトガルと一緒のイラン(D組)、スペイン、ウクライナと一緒のサウジ(H組)も難しかろう。
残るはF組の日豪のみ。両国のうちどちらかが決勝T、ベスト8以上に進まないと、アジア枠は削減される。幸い、前回、前々回に述べたように、F組のブラジルは「悪意のない審判」のもとでは苦戦することが予想されるので、日豪には決勝T進出の可能性がおおいにある。では、どちらか。
●摘発の行方●
日本だ。理由は「セリエA疑惑」だ。
イタリアの1部リーグ、セリエAの名門ユベントス(ユーベ)を含む複数のクラブチーム関係者の八百長、賭博、ドーピングなどにより現在、大勢の本大会出場選手が疑惑追及の恐怖に怯えている。それを予選Lの組別、国別に列挙すると:
B組 スウェーデン 1名:
FWイブラヒモビッチ(ユーベ)捜
E組 イタリア 15名:
GKブッフォン(ユーベ)聴
DFカンナバロ(同)捜
FWデルピエロ(同)
DFネスタ(ACミラン)聴
FWイアクインタ(ウディネーゼ)報 ほか
E組 チェコ 3名:
MFネドベド(ユーベ) ほか
F組 豪州 1名:
GKカラッチ(ACミラン)捜
F組 クロアチア 2名:
DFシミッチ(ACミラン)
DFロベルト・コバッチ(ユーべ)
F組 ブラジル 6名:
MFエメルソン(ユーべ)
DFカフー(ACミラン)
MFカカ(同)
GKジダ(同) ほか
G組 フランス 3名:
FWトレゼゲ(ユーべ)
MFビエラ(同) ほか
H組 ウクライナ 1名:
FWシェフチェンコ(ACミラン)
【06年6月7日現在。( )内は所属クラブ(シェフチェンコは来季から英チェルシー)。聴は警察や検察から事情聴取のみを受けた選手、捜は家宅捜索まで受けた選手。報は不祥事の疑惑を報道されただけの選手。それ以外はいまのところ「疑惑のあるクラブに所属しているだけ」のおもな選手(『週刊ポスト』06年6月2日号 p.p 26-31 「W杯激震!『セリエA八百長事件』底なしの複合汚染」 スポーツ報知Web版06年05月20日「ユーベ本部とカンナバロの自宅捜索」)。】
「チームメイトが逮捕されるかも…」と疑心暗鬼に陥った代表チームは試合に集中できないから、強いはずがない。
06年W杯本大会は02年とは別の意味で異例の大会となる。司法当局は本大会開催中でも遠慮しないので(スポーツナビ06年6月3日「波に乗れないフランス代表のトレゼゲ」)、いつだれが事情聴取や家宅捜索をされるか、だれの疑惑が報道されるか、によって敗退するチームが決まるのだ。
もはやイタリアが優勝できないことは確実だ。ブラジルも難しかろう。
逆に、ドイツの優勝(か準優勝)と日本のベスト16はほぼ見えた(B組のスウェーデンが苦境に陥るので、同組のイングランドも有利になる)。日本が決勝Tに進んだ場合の最初の対戦相手になりうる、E組のイタリアやチェコも「時限爆弾」を抱えているので、検察やマスコミの「摘発」次第で、日本との対戦直前にこれらの強豪が「弱体化」する可能性があり、そうなれば日本はベスト8以上だ。
(^_^;)
尚、フランスのトレゼゲらに疑惑が飛び火した場合、同じG組の韓国の成績は、小誌既報の「1勝」(小誌前掲記事「韓国1勝、もう確定」)より若干上方修正されるべきだ。が、韓国政府はすでに予選L敗退を覚悟しているので(朝鮮日報日本語版06年5月10日「サッカーそのものを楽しもう!」)そう大きく変える必要はあるまい。
【本大会開幕直前、FIFAはパラグアイサッカー協会を予選L B組のチケットを不正転売した疑惑で調査中であることと、大会では主審に肘打ちのファウルをとくに厳しく判定させることを表明したので(産経新聞Web版06年6月6日「パラグアイ協会入場券転売か」)、イングランドの初戦(パラグアイ戦)勝利と、前回紹介した、肘打ち作戦の「前科」のある豪州の苦戦(萎縮)が濃厚になった。】
●黒幕●
ところで、06年5月に勃発したこの疑惑騒動に、日本人選手は1人も巻き込まれなかった。日本代表MF中田英寿は昨季(04-05年シーズン)まではセリエAフィオレンティーナでプレーしていたが、今季(05-06年)からは英ボルトンにレンタル移籍しており、お陰で「八百長のペナルティでチームがセリエBに降格したら、どこに移籍しようか…」などと悩む必要がない。同じく代表MF中村俊輔も昨季まではセリエAレッジーナにいたが、今季からはスコットランドのセルティックに移籍しており、さらに、セリエAメッシーナ在籍中の代表FW柳沢敦も、06年3月からは古巣のJリーグ鹿島アントラーズに移っていて「無事」だった(鹿島Web 06年2月22日「柳沢敦選手の期限付き移籍による復帰について」)。
疑惑騒動は、奇しくも日本人選手が全員セリエAを離れたあとに起きたのだ。これは単なる偶然か。
前回述べたように、ユーベのルチアーノ・モッジ前ゼネラルマネージャー(GM)はセリエAの複数のクラブに影響力を持ち、審判もマフィアも政治家も動かして、ユーベを中心とする少数の有力クラブが常に優位に立つ闇の支配体制「モッジ・システム」を確立していた。
「システム」にはACミランも取り込まれ、モッジと運命共同体を形成していたが、そのACミランで04年12月まで会長を務めていたのが、イタリア前首相、中道右派のシルビオ・ベルルスコーニだった(UEFA Web 04年12月28日「ミランのベルルスコーニ会長辞任」)。彼の会長職辞任後、ACミランは後任の会長を置かず、「院政」が敷かれていることを伺わせていた。
彼が首相である限り、警察検察はサッカー界に手を出せない。が、たまたま偶然06年4月のイタリア議会総選挙で彼が率いる中道右派連立与党が敗れ、翌5月に下野すると、中道左派連合のロマーノ・プローディを首相とする政権ができた。すると、新政権下の検察は情け容赦なくモッジ・システムにメスを入れた。
06年4月の選挙で中道右派が敗れることは事前に予測できないから、日本人3選手が疑惑騒動の前にセリエAから「脱出」できたのは単なる幸運……のはずがない。
中道右派与党はすでに05年の地方選挙で惨敗しており(外務省Web 06年3月「イタリア共和国」)、06年に上下両院の解散・総選挙に追い込まれることはその時点で予測できた。また、最新の統計学(データマイニング)を使えば、選挙の結果は、投票日の何か月も前から正確に予測できるので(小誌05年9月19日「データベース選挙〜シリーズ『9.11総選挙』(4)」)日本の大手広告代理店A社傘下のシンクタンクに天下っている元高級官僚にとっては、政権交代を読むなど朝飯前だ。
05年2月にはドイツでも審判の不正判定が発覚したが(『週刊ポスト』前掲記事)、W杯本大会がドイツで開催される今年、06年にはいってからは、イタリアとは対照的に、ドイツでは不正の摘発は1件もない。これも偶然のはずがない。
ドイツでは05年9月の連邦議会総選挙で革新与党の社民党(SPD)が敗れ、僅差で保守系のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が勝ったが、イタリアと違って保革大連立政権が成立し、事実上野党がいなくなったので、当面、政争目的で独サッカー界の不正が暴かれることはない(し、「左派同士」の関係から欧州議会でプローディと親しいSPDがドイツの政権与党に残った)。
FIFAの広告代理店(日本のA社)と、開催国ドイツ(のSPD)と、イタリア中道左派との「日独伊3国同盟」が、05年12月の、本大会の組分け抽選(の操作)(小誌05年12月11日「抽選方式の矛盾〜シリーズ『06年W杯サッカー本大会(抽選工作)』(2)」)の段階から成立していたと考えると(偶然に頼らずに)すべて説明できる。
「同盟」の利益は三者三様だ。
A社はモッジ・システムを解体してセリエAの総代理店になることを目指し、それを足がかりに欧州サッカー連盟(UEFA)やFIFAの「支配」を狙うだろう。たとえば、現在FIFAのマーケティング権を持つ会社FIFAマーケティングAGに向かって、その権利(を持っていた会社ISLの49%の株)をA社が持っていた時代(01年以前)からのFIFA公式スポンサー(富士フィルムなど)が、A社に頼まれて、「セリエA疑惑の対象選手がW杯に出るなら、スポンサーを降りる」と言えば、FIFAの財政基盤はガタガタになる(小誌05年5月30日「読売の抵抗〜シリーズ『2011年のTV』(2)」)。さすれば、広告ビジネスの素人にすぎないFIFA幹部はふるえ上ってA社にひれ伏し「スポンサー企業を引き止めてくれ」と頼むに相違ないから、FIFAは、こんどこそ(49%ではなく)100%、A社のものになる。
ドイツは90年に東ドイツを吸収合併して以来ずっと、ナショナルアイデンティティの確立に悩んで来た。06年W杯本大会は単なる国威発揚を超えた、精神的国家統一の好機であり、開催国として優勝することでそれを実現したい。そのためには、優勝争いのライバルとなるブラジルやイタリアは早めに、たとえば予選Lの段階で「公正な審判」(前回「怯える審判たち〜シリーズ『06年W杯サッカー開幕』(1)」)や「不正の摘発」によって敗退させておくのがよい。
イタリアのプローディ新政権のスポーツ文部科学大臣ジョバンナ・メランドリは、セリエA疑惑を受け「イタリアはW杯を辞退しろ」とまで述べているから(サンスポWeb版06年5月24日「『W杯辞退しろ!』伊スポーツ大臣衝撃発言」)、中道左派の現政権は(モッジやベルルスコーニの息のかかった選手が本大会で活躍してもうれしくないので)この際、伊サッカー界と政界の癒着を暴いて中道右派をたたき、次の総選挙で負ける可能性をなくす、という方針なのだろう。
●不正だけど公正●
筆者は、06年本大会のアジア枠が4.5に決まった4年前からずっと、06年本大会ではA社やFIFAはその「4.5」を維持するために何か仕掛けるだろうと思っていた。が、02年本大会での、「誤審」による強豪の敗退に乗じた韓国の「怪進撃」のような「不正」をまたやるわけにも行くまい、とも思っていた。
審判の不正を防止し、各国代表選手の不正を摘発することで強豪を敗退させる、とは実にうまい方法を考えたものだ。
「摘発」のタイミングは(SPDを通じて)プローディ政権に頼めば操作できるので、日独の成績は「摘発次第」だ。もちろん、日独の対戦相手が疑惑に動揺して実力を発揮できないのは、日独のせいではない。
02年の韓国は、ピッチ上での「正真正銘の不正」でベスト4になったが、06年の日独は、ピッチ外で「不正を摘発するタイミングのみを不正に操作」してもらうことで上位に進出するのだ。これなら、ピッチ上は常に「公正」なので、だれも日独の成績にケチをつけることはできまい。
たとえば、クロアチアが予選L初戦でブラジルに勝った直後にクロアチア代表選手の疑惑を欧州紙が大々的に報道すれば、チームは崩壊し、クロアチアは第2戦で日本に負ける。また、予選Lの第2戦までを「壮行試合の代わり」にして弱点の発見、修正を終えたブラジルが第3戦で日本とあたる直前に、ブラジル代表選手のセリエAでの不正が暴露されれば、ブラジルは再び弱くなり、日本に負ける。すでに日本の初戦の相手、豪州のGKカラッチの賭博疑惑はイタリアで大きく報道されているので(『週刊ポスト』前掲記事)、日本の「3連勝」もありうる。
【但し、準々決勝でゼップ・ブラッターFIFA会長の母国スイスとあたった場合は、日本の快進撃はそこで止まる。】
【次回以降も当分の間、06年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会の予測に専念する予定。】
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