〜2007年夏参院選の与党〜
前回、「中朝戦争反対派」である安倍晋三首相を倒して政権を奪おうとする「中朝戦争賛成派」すなわち「福田康夫元官房長官支持派」の力が2007年1月までは相当に強かったことを証明した。
では、いま(2007年6月)はどうなのか。
●極秘の世論調査●
そのことを判断するうえで重要な資料を、筆者は今年2007年のゴールデンウィーク中、都内某所で見る機会を得た。
それは、自民党が党費10億円をかけて行った独自の世論調査結果のコピーで、本来、自民党幹事長の許可がなければ党本部の幹事長室の外へは持ち出せない(というか、本来、幹事長以外は見ることのできない)「極秘資料」だが、自民党内の事情に詳しい「Z」という人物の許可を得て(メモも撮影も再コピーもできなかったが)それをざっと見ることができた。
コピーは2種類あって、1つは、2007年夏の参議院通常選挙に向けて、自民党が2007年4月頃に独自に行った候補者ごと、選挙区ごとの当落予測と、比例代表の獲得議席予測の世論調査結果であり、もう1つは、2005年衆議院総選挙の投票日前に、自民党が独自に行った候補者ごと、選挙区(比例ブロック)ごとの当落予測の世論調査結果を、のちに5大全国紙が総選挙投票日直前に行った未公開世論調査結果と比較したものだった。
【Zは2005年8月頃、衆議院総選挙の前、選挙用の自民党独自の世論調査結果を武部勤幹事長(当時)に見せてほしいと頼んだが「金庫にはいっているから(総理総裁以外は)だれにも見せられない」と断られている。ことほどさように門外不出のはずの選挙用調査資料が今回外部に持ち出されたのは、うがった見方をすれば「国民新党に見せるため」と考えられる。
2007年夏の参院選では、元自民党の「郵政造反組」が結成した国民新党は一部の選挙区で民主党と共闘しているが、中川秀直・現自民党幹事長は独自の世論調査結果を国民新党幹部に見せて「どうせ与党が過半数を取るので、国民新党がいくら民主党を応援しても政局のキャスティングボードは握れない(から民主党の応援などせず、自民党に復党せよ)」と説得するために、極秘資料を外に持ち出したのではあるまいか(詳論後出)。】
●驚異の予測精度●
まず、「2005年衆議院総選挙」用の調査結果について述べたい。
コピーの冒頭には「総括」が書かれており、そのあと300小選挙区の、候補者別得票率予測値の一覧表が延々と続く。たとえば、こんな感じである:
東京1区 | 自民 | 産経 | 読売 | 毎日 | 日経 | 朝日 | |
○川 珠代 | 自 | 15.0 | 15.1 | 15.1 | 15.1 | 14.9 | 14.8 |
△本 モナ | 民 | 11.8 | 11.8 | 11.9 | 12.1 | 12.2 | 12.2 |
▽田 大作 | 公 | 10.0 | 10.1 | 10.1 | 10.0 | 10.0 | 10.0 |
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このうち「自民」は自民党が雇った世論調査会社の調査結果を意味し、他は新聞各社の(未公開の)世論調査結果で、「産経」と「読売」の位置は違ったかもしれないが、「朝日」がいちばん右で、その左隣が「日経」だったのは間違いない。つまり、比較的自民党に好意的な読者が多いと思われるメディアを左から順に並べ、最右翼にもっとも左翼的な(?)メディアを置いているのだ。
NHK、時事通信、共同通信や民放TV局単独の調査結果はなかった(が、民放各局は資本提携している新聞社、たとえばTBSテレビ系列のJNNの場合は毎日新聞と共同で選挙用の世論調査を行うことが少なくない)。
また、こういう調査の数値は選挙区内の全有権者数を分母とする「絶対得票率」である。投票総数を分母とする相対得票率を予測しても、全体の投票率や有権者人口の増減に影響されるため、以前の選挙との比較ができず、不便だからである。
さて、このコピーの紙束の冒頭の「総括」は6社の世論調査結果全体の精度を比較して論評したもので、それによると、小選挙区の300人の当選者のうち、事前に6社のうち1社も当選を予測できなかったのは、福井1区の稲田朋美候補(自民党公認)だけだった。
ほかに、複数社が当選を予測できなかった候補者は6社あわせて10人前後だったが、1社ごとに見ると「はずれた」のはそれぞれ数人ずつにとどまった。
●ウソも方便●
余談ながら、このコピーは政治とマスメディアとの関係について別の問題も提供してくれた。
なぜなら、5大全国紙は、2005年衆議院総選挙について「自民党が(小選挙区と比例代表とをあわせて)290議席以上取って圧勝する」と事前に知っていながら、自民党の獲得議席を「234〜276議席」(朝日新聞Web版2005年9月4日「自民優勢、過半数の勢い 与党安定多数も 本社情勢調査」)などとして、ウソの予測を記事として紙面に掲載していたことがわかったからだ。
これは、読者が「どうせ自民党の圧勝だ」と思って投票に行かなくなると、浮動票を得やすい自民党と民主党の候補者の得票が減り(何があっても必ず投票に行く支持者の多い「組織政党」である公明党と共産党の候補者の相対得票率が上昇して)選挙結果に影響を与えてしまうため、それに配慮した結果だ。つまり、「ウソも方便」である。
この場合の朝日新聞はじめマスコミ各社の決断は正しい。筆者は全面的に賛同する。
ただ、選挙後とはいえ、読者には知らせなかった世論調査結果の正確な数値を、自民党にはこっそり教えているわけで、その点は「読者への背信行為」と言えなくもない。自民党は調査1回あたり10億円払って雇っている世論調査会社の能力を検証するのに、こういう事後的な比較検証が必要だったのだろうが、いったいいつからこんな秘密裏の情報提供が慣例化したのだろうか。まさか、新聞社側が新聞購読料の「特殊指定」を維持してもらう見返りに自前の世論調査データを「献上」したのではないだろうが。
【特殊指定とは、(著作物の)小売価格を生産者が指定する再販売価格維持制度(再販制度)の延長線上で、長期購読割引などの多様な価格設定を行わせない規制のこと。「受信料のお支払いは口座振替がおトクです」というNHKではあたりまえの口座振替割引も、新聞にはない(公正取引委員会Web 2007年4月2日「特殊指定見直しに関するQ&A」、毎日新聞2006年3月2日朝刊「『特殊指定』新聞の定価を維持 公平な情報伝達のため、再販制度を補完」)。
公正取引委員会が特殊指定廃止をめざしたのに対し、新聞各社は連立与党に陳情し、それを受けて連立与党が特殊指定維持を正当化する独占禁止法改正案をちらつかせて公取委を威嚇し、特殊指定廃止を先送りさせている(藤原治『ネット時代 10年後、新聞とテレビはこうなる』朝日新聞社2007年刊、産経新聞2006年6月1日付朝刊2面「新聞特殊指定は継続 公取委 自公、改正案見送りへ」)。】
●与党楽勝!?●
さて、いよいよ「2007年参議院通常選挙」用の調査結果だが、こちらはもちろん現時点では、新聞各社の世論調査結果との照合は行われていない。
が、結論は明解で、それは「自民党の楽勝」すなわち「非改選議席を含めて連立与党が過半数を容易に確保」だ。
与党自民党の中川秀直幹事長も2007年5月14日、夏の参院選の改選議席のうち「29の1人区で最低20勝、18の複数区で選挙区ごとに1議席以上、全国比例で18議席」で「最低56議席」という目標を発表したが(産経新聞2007年5月15日付朝刊5面「◆自民、議席獲得目標を設定」)、これは、この時点で中川が「自民党の獲得議席は56を軽く超える」と予測していた、という意味に受け取って間違いない。
したがって筆者も5月1日〜25日頃までは「参院選を通じて安倍首相率いる連立与党は国民から『信任』されてしまうので、参院選後の安倍退陣も福田康夫元官房長官の政権奪取もない」と判断していた。理由は以下の4つである:
#1:自民党が利用している世論調査会社の調査の精度が、「2005年衆議院総選挙」用の調査結果を見てもわかるとおり、極めて高いから(10億円かければ、98%以上の選挙区の候補者の当落が事前に確実にわかる)
#2:参院選は衆院選と違って「首相選択選挙」ではないため、今後安倍首相や政権のスキャンダルや不手際が露呈して内閣支持率が下がっても、自民党の参院選候補者の当落には影響がないから
#3:選挙直前になっても、無党派層などの「まだ投票先を決めていない有権者」1人1人の投票行動は本人が決めるまでわからないが、各選挙区の「まだ投票先を決めていない層」全体の投票行動は、統計学(データマイニング)の手法を使えば投票日のはるか以前に予測可能だから(「投票日のはるか以前にすでに投票先を決めた人の自民党への投票率」と「投票日直前になってもまだ投票先を決めていない人の最終的な自民党への投票率」の間には統計学的な相関関係があり、その関係を示す関数はデータベースソフトウェアとデータマイニングツールによって求められる。小誌2005年9月19日「データベース選挙〜シリーズ『9.11総選挙』(4)」 )
#4:「首相選択選挙」である衆院選ですら、有権者の投票傾向は……たとえば、衆議院解散の3か月前の、2005年5月(か6月)に自民党が独自に行った世論調査で判明した「小泉純一郎首相率いる自民党の圧勝」(当時の岡田克也民主党代表の首相候補としての不人気)というトレンドは、「郵政造反組」が出現して保守分裂選挙になったにもかかわらず……調査の4か月後の投票日まで変わらなかったから(小誌2005年9月8日「計画的解散〜シリーズ『9.11総選挙』(3)」)
2004年夏の参議院通常選挙の前の5月22日、国民は自民党の国会議員や閣僚たちの国民年金保険料の「未納」に怒り、その追及をごまかそうとする小泉純一郎首相(当時)の「人生いろいろ」発言にも怒って「年金不振」に陥っていたため、小泉首相は再訪朝して、北朝鮮による日本人拉致事件の被害者、蓮池・地村夫妻の子供5人を取り返して来た。これによって、小泉人気(内閣支持率)は回復したが(毎日新聞2004年5月24日付朝刊2面「日朝首脳会談:小泉首相・再訪朝 与党、評価多数に安ど - 毎日新聞世論調査」によれば、小泉内閣への支持率は5月17日付同紙の前回調査より11ポイント増の58%)、その直後(7月11日)の参院選では、自民党は49議席しか獲得できず、民主党(50議席)に負けている。つまり、首相の人気・不人気(支持率)は、参院選の選挙結果には直結しないのだ。
したがって、たとえ安倍政権が拉致問題について国民に重大なウソをついていることが今後暴露されたとしても(小誌前掲記事「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」)、参院選への影響はないだろう、と「Z」は断定していた。
その「断定」は理解できる。なぜなら参議院の選挙区割りは人口に比例していないからだ。最高裁判所の判例によれば、衆議院では、人口の少ない選挙区(地方・農村部)と人口の多い選挙区(都市部)の1票の価値の格差は「3:1」までしか許容されないが、参議院の場合はなぜか「5:1」まで許されることになっており、現行の議員定数配分もそうなっている(小誌2004年7月8日「当選者73人が失職か〜参院選・定数違憲訴訟」)。
参議院通常選挙の1回の改選議席121は、選挙区の73と比例代表の48とに分かれるが、小泉首相の「人生いろいろ」発言で「年金不信」が高まっていた2004年夏の参院選でさえ、自民党は比例代表で15議席を得ているので(日経新聞Web版2004年7月「参議院選挙特集」)、2007年夏の参院選でも(安倍内閣の支持率がよほど低下しない限り)最低15は取ると考えられる。
また、残りの73議席は47都道府県ごとの選挙区で選出されるが、47のうち18の選挙区は定数2名以上の複数区であり、そこでは自民党が2議席以上取るのが困難な反面、野党候補が頑張って自民党を0議席にするのも難しい。結局、中川の言うとおり自民党は18の複数区で各1議席ずつ、小計18議席(前後)を獲得するだろう。
つまり、自民党はどんなに悪くても比例代表と複数区でほぼ33議席(以上)を確保することがすでに決まっているのだ。
連立与党の公明党が2007年夏の参院選で改選議席の13を維持すると仮定すると、(自民党の推薦で当選した無所属の島尻安伊子議員を含む)与党系勢力が、非改選議席とあわせて、参議院の過半数(122議席)を獲得するには、自民党は51議席以上必要なので(参議院Web 2007年6月2日「会派別所属議員数」)、残る29の選挙区、すなわち定数1名の1人区で18議席取ればよい、ということになる(公明党が2004年参院選のときと同じ11議席しか取れなければ、自民党はあと2議席多く獲得し、改選議席全体で53議席取ることが必要となる)。
【新党日本の荒井広幸参議院議員は、2006年9月の参議院の首班指名選挙では安倍に投票しており、自民党に近いと見られているので、彼を与党系議員として数えると、自民党が2007年夏の参院選で獲得すべき議席は1議席減る。】
29の1人区のなかには、世論の変動と無関係に常に自民党候補が勝つ、鹿児島、石川、和歌山のような「保守王国」が3つ以上あるうえ、ライバルの民主党は支持者が都市部に偏っていて、1人区に多い農山村や過疎地ではあまり強くないので、自民党が1人区で18議席取るのは難しくない。したがって、18をかなり下回る数(たとえば15)の1人区における、それぞれほんの数万人(数十万人)ずつの投票行動によっては、国民全体の安倍内閣に対する支持率(人気・不人気)とは無関係に、参院選を終えた安倍内閣は形式上、国民から「信任」されたことになるのだ。
(>_<;)
●「自殺」と「年金」●
で、いまはどうなのか。
さすがに筆者も2007年6月時点での自民党独自の世論調査結果までは見ていない。しかし、米中央情報局(CIA)や米民主党などは、おそらく独自の調査で、2007年夏の参院選の当選者名を、それこそ98%以上の精度で予測しているはずだ。
松岡利勝農林水産大臣の自殺と、社会保険庁のミスによる国民年金加入記録の紛失が5000万件(以上)にものぼるという「消えた年金」問題の急浮上によって、国民全体の安倍内閣への支持率が急落していることは、マスコミの世論調査で判明している(日テレNEWS24 2007年6月4日「安倍内閣支持率急落 不支持が支持を上回る」、産経新聞Web版2007年6月6日「不明年金新たに1430万件」)。それらによると(松岡の自殺の前は国民のフトコロに直結しないためあまり関心を持たれなかった)「政治とカネ」の問題が、自殺によって国民の最大関心事に浮上し、安倍内閣と自民党の支持率急落の一因になったことがわかる。
しかし、問題は「国民全体の」ではなく、「29の1人区の」有権者の与党への支持率なのだ。 たとえ与党の獲得議席予測があまり変わっていないとしても、「中朝戦争反対派」の安倍を首相の座から引きずり下ろしたいと思っている、米民主党や日本の内閣情報調査室(内調)、検察庁などの「賛成派」はけっして、それで諦めて何もせずに「安倍続投」を受け入れることはなく、小説『天使の軍隊』で言及されているように巧妙に中朝戦争を遂行するために、必ず何か(奇想天外な?)手を打つはずだ(とZは断言した。小誌2007年6月14日「安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」)。
【中朝戦争の詳細については拙著、SF『天使の軍隊』をお読み頂きたい(ちなみにZは『天使』を読んでいる)。『天使』発売以降の小誌の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】
たとえば、与党の衆議院議員数十名近くを動かして国会で(野党提出の)内閣不信任案を可決させるとか、あるいは、検察庁が新たなスキャンダルを摘発しようとしたり、米民主党が例の「慰安婦決議案」を可決しようとしたりして、安倍を脅迫して退陣させるか中朝戦争賛成派に転向させる(安倍はそのままで「反対派」の中川幹事長のみ更迭する)、といったことが考えられる(産経新聞2007年6月19日付朝刊7面「慰安婦決議案 26日に採決 米下院外交委」、毎日新聞Web版2007年6月19日「従軍慰安婦問題:26日に対日謝罪要求決議案の最終審議」、小誌2007年6月7日「安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」)。
言い換えれば、安倍内閣が総辞職せず、これ以上新たに深刻な問題を抱え込むことなく夏の参院選に突入するなら、米民主党らが(独自の世論調査結果から)「どうせ安倍は参院選で負けて退陣」とみなしている可能性が高く、逆に、これ以上深刻な問題が起きて参院選前後の安倍退陣が取り沙汰されるなら、「与党が参院選で勝ちそうなので、米民主党らの中朝戦争賛成派が手を打った」可能性が高い。
というか、すでにそういう工作は(日本国内で)始まっている可能性がある。次回以降、それを検証してみたい。
m(_ _)m
【今後15年間の国際情勢については、2007年4月発売の拙著、SF『天使の軍隊』)をご覧頂きたい(『天使…』は小説であって、基本的に小誌とは関係ないが、この問題は小説でもお読み頂ける)。】
【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】
【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】
【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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