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軽蔑しても同盟

〜シリーズ「中朝開戦」(11)〜

Originally written: Oct. 22, 2007(mail版)■軽蔑しても同盟〜週刊アカシックレコード071022■
Second update: Oct. 22, 2007(Web版)

■軽蔑しても同盟〜週刊アカシックレコード071022■
同盟とは尊敬すべき一流国と結ぶもの、と日本人は思っているが、米国は軽蔑すべき民主主義勢力とでも必要とあらば同盟を結んで来た。同盟は恋愛や友情とは異なり、単なる「業務提携」なので、北朝鮮が相手でも可能である。
■軽蔑しても同盟〜シリーズ「中朝開戦」(11)■

■軽蔑しても同盟〜シリーズ「中朝開戦」(11)■
【小誌2007年2月22日「北朝鮮の北〜シリーズ『中朝開戦』(1)」は → こちら
【小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」は → こちら
【小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」は → こちら
【小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」は → こちら
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」は → こちら
【小誌2007年5月21日「中国の『油断』〜シリーズ『中朝開戦』(6)」は → こちら
【小誌2007年6月7日「米民主党『慰安婦決議案』の謎〜安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」は → こちら
【小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【前々々回「安倍首相退陣前倒しの深層〜開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」は → こちら
【前回「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」は → こちら

日本は江戸時代の鎖国を解いて近代国家体制に移行したあと、1902年にまず英国と同盟を結び、その後1921年にこの日英同盟を破棄し、1936年にはドイツと日独防共協定を、1937年にはイタリアを加えて日独伊防共協定を結んで第二次大戦を戦って敗れたが、戦後は独伊に代わって1951年に米国と日米安全保障条約を結び、こんにちに至っている。つまり、日本が20年以上の長きにわたって同盟を結んだ相手は、英国と米国しかないのだ。

英国は戦前の、そして米国は戦後の、世界ナンバーワンの超大国で民主主義国家だったため、日本国民はこれら同盟国の政治体制、経済力、科学技術や文化を心底尊敬し、憧れ、手本とした。とくに日英同盟成立の際は、日本中で「ついに一等国の仲間入りができた」という喜びの声が上がった。

このため日本国民は、同盟とは尊敬すべきりっぱな国と結ぶものだ、と思い込んでいる。

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●相思相愛の場合●
日本人の常識では「同盟」と「尊敬」は密接不可分なものだから、日本人が今後新たな同盟国を探すなら、それは、尊敬すべき文化や社会体制を持ったりっぱな国でなければならない、ということになる。

たとえばフランスはどうだろう。
日本人は明治時代以降、ほぼ一貫してフランスの文化を尊敬している。フランスの文学、映画、料理やシャンソン、フランス革命以来の人権と民主主義の歴史を尊敬している日本国民は大勢いる。日本側のフランスへの「尊敬度」は申し分ない。

他方、フランス側も日本を十分に尊敬している。
たとえば、フランスで売られている絵本の2冊のうち1冊は日本のマンガである(中央日報日本語版2007年2月26日付「日本の『漫画』にすっかりはまったフランス」)。フランス人は日本のマンガやアニメを高く評価しており、また、1998年に映画監督の黒澤明が亡くなった際には、ジャック・シラク仏大統領(当時)がじきじきに「世界の映画史に重要な節目を刻んだ」と黒澤を称賛する談話を発表して弔意を表したほどで(京都新聞Web版1998年9月8日付社説「多彩で肥よくな黒澤ワールド」)、黒澤の映画や、柔道、歌舞伎、相撲、茶道など日本文化のファンは非常に多い。
つまり、日仏両国は相思相愛の関係に十分になれそうな間柄だ。

それなら同盟を結べるかというと…………答えは「ノン」だ。
理由は、両国には軍事的、地政学的な利害の一致点がないからである。

フランスはミラージュ戦闘機やエグゾゼミサイルを生産して来た武器輸出大国であり、常に輸出先を探している。改革開放政策をとって以来経済成長を続け、軍事予算を膨張させている中国は格好の輸出先であったが、1989年の天安門事件を西側諸国がこぞって人権弾圧と非難した際には、フランスもその非難の列に加わり、それを理由に中国への武器輸出禁止を申し合わせた。

このためその後、中国の主要な武器の調達先はロシアとなり、フランスの軍需産業は巨大な市場を失った。そこで、フランスは、EU諸国の軍需産業の総意を代表する形で2004年、天安門事件以来続いている対中武器禁輸措置を解除すべきだと日米に提案したが、日米の反対で押し留められた(東京新聞2004年11月29日付朝刊25面「EU 人権改善は“棚上げ” なぜ対中武器解禁へ(下)」、朝日新聞Web版2005年6月18日「EU、対中武器禁輸解除を先送り 首脳会議」)。

実は、フランスは、欧州の主要国のなかでほとんど唯一北朝鮮と国交を持っていない。 北朝鮮は2000年、先進7カ国(G7)のなかで初めてイタリアと国交を結んだのを皮切りに、オーストラリア(豪州)、フィリピン、英国とも国交を樹立し、2001年にはオランダ、ベルギー、カナダ、スペイン、ドイツ、ブラジル、クウェート、トルコなど13カ国および欧州連合(EU)と、2004年にはアイルランドとそれぞれ国交を結んでいる(聯合ニュース日本語版2007年9月28日付「北朝鮮が外交活動活性化、核問題の進展受け」)。そして国際法上、相手国と国交を結ぶことと相手国を国家として承認することとは同義であるので、2007年現在、EU加盟国のうち北朝鮮を国家として承認していないのはフランスだけということになる。

べつにフランスは北朝鮮政府の自国民への人権弾圧を非難して国交を結ばないのではない。現に、天安門事件で自国民を弾圧した中国とは国交を維持するのみならず、武器輸出の再開までしようとしたのだから。

フランスが北朝鮮と国交を結ばない理由として考えられることはほとんど1つしかない。それは、中国が北朝鮮を武力併合して地上から抹殺した際、世界で最初にその併合を承認する国になることによって中国政府に恩を売り、それによって以後、優先的に中国にフランス製の武器を輸出する特権を得たい、ということだろう。

小誌既報のとおり、2002年、中国は、かつて朝鮮半島北部に存在した古代王朝、高句麗を中国東北地方の歴史に組み込む国史の見直し作業「東北工程」を公表しており(小誌2007年2月22日「●敵に渡すな」、朝鮮日報日本語版2004年7月14日付「中国大使呼び『高句麗削除』抗議」)、このことは当然フランス政府も知っている。東北工程は「北朝鮮は中国固有の領土である(から、そこに中国軍が侵攻しても侵略ではない)」ということを示すための「口実作り」と考えられるが、フランスは西側主要諸国のなかで唯一、朝鮮戦争の問題や拉致問題もないのに、北朝鮮を国家として承認せず、中国が北朝鮮を侵攻しても政府として公式に非難する資格を持たないように、自らの外交上の手足を縛っているのである。おそらくそれは、「未来の得意先」である中国への「営業」を容易にするための宣伝であろう。

もちろん、前回述べたように、中国が北朝鮮を武力併合すれば、中国は中華人民共和国建国以来初めて日本海沿岸に領土を手に入れ、元山(ウォンサン)、清津(チョンジン)の港を自由に使えるようになる。それらの港に中国軍が核弾頭付きの潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した潜水艦を配備すれば、日米は重大な脅威に直面する。だから、2007年10月現在、日米は北朝鮮との国交樹立に向けて動いているのだ。

中国が北朝鮮侵攻を考え始めたのはおそらく、ソ連の崩壊によって極東における中ソ朝3か国国境地帯の軍事バランスが崩れた1991年以降であり、東北工程が本格化したのは2002年だが、米国がフランスと現在の同盟関係を結んだのは、おもにソ連の脅威に対抗するために結成された軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)が発足した1949年だった。が、その後、1966年、フランスは「米国が自国の安全を犠牲にしてまでソ連の欧州への核攻撃に核で報復するとは思えない」(故シャルル・ドゴール元大統領)と考えて、独自の核武装に踏み切り、NATOの軍事機構から離脱した(が、政治機構には残留)。

このように、第二次大戦後のフランスの仮想敵国は一貫してソ連(ロシア)であり、米仏の同盟関係(NATO)はそれに備えるためのものであり、中国の核ミサイルはその射程距離から計算すれば明らかにフランスに届くにもかかわらず、フランスはそれを問題にしたことが一度もないので、フランスにとって「中国の脅威」は脅威でなく、この点でフランスは日米とは大きく異なる。米国本土は中国から数千km離れているからまだましだが、日本はそれこそ「中国の核の傘」にはいりそうなほど中国の近くにあるから、日本にとって中国は間違いなく脅威である。したがって、日仏は安全保障上の根本的な利害が一致せず、将来どんなに、両国民間の友好親善関係が発展しても同盟は結び難いという結論にならざるをえない。

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【フランスが対中武器輸出解禁を強く主張した2004年当時は、フランス大統領はジャック・シラクだった。が、2007年5月の仏大統領選で当選したニコラ・サルコジ現大統領は親米路線をとり、対中武器禁輸を継続し(外務省Web 2007年6月7日「日仏首脳会談の概要」)、2007年9月、フランスはNATOの軍事機構に復帰する方針を内定した(日経新聞Web版2007年9月20日「仏、NATO完全復帰へ・軍事面、独自路線42年ぶり転換」)。】

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●軽蔑すべき同盟者●
他方、米国は、日仏のような民主的な国家とはかけ離れた野蛮な国家体制の国とも同盟している。
たとえば、サウジアラビアは、選挙で選ばれた国会がなく、女性の権利は著しく制限されており、サウジの女性は、外出中は目を除いてベールで顔を完全に隠すことが義務付けられているだけでなく、自動車を運転すると宗教警察に逮捕される。

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【預言者ムハンマドが生存していた時代(西暦7世紀)、イスラム教徒の女性はラクダや馬を駆ってアラビア半島の大地を走りまわっていた。また、その時代には当然自動車はなかったので、女性の自動車運転を禁ずる教えは、コーランにも、ハーディス(ムハンマドの言行録)にもない。したがって厳密には、サウジ宗教警察の女性の自動車運転に対する対応は、イスラム法に違反していることになる。】

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上記のようなサウジ社会の現状を知れば、米国民はだれでも、その民主的、女性差別的なありようを批判し、あるいは軽蔑する。ところが、米国はサウジと同盟を結んでおり、米軍はサウジに基地を置いてサウジを守っている。理由はもちろん、両国間の利害の一致だ。

サウジは聖地メッカを守護するイスラムの盟主だが、世界最大の石油埋蔵量を持つ大産油国で、西側先進諸国との協調関係を重視している。サウジ政府は、西側への石油輸出で得た莫大な富を福祉・文教予算や(面倒な仕事のほとんどない)公務員の給与という形で国民に対して広汎にばらまき(面倒な仕事はほとんどすべて外国人労働者に任せ)国民がほとんど働かずに生活できるような、極端に世俗化した社会体制をとっている。このため、イスラム原理主義を規範とし、西側世界に敵対的なイラン・イスラム共和国とは一線を画している。

現在のイラン政府は、石油輸出で得た外貨を湯水のように私生活に浪費する、かつてイランのパーレビ王朝や現在のサウジ王室を初めとするペルシャ湾岸産油国の世襲君主たちを「イスラムの教えに反する堕落した特権階級」とみなして非難し、そのうちパーレビを「イスラム原理主義革命」によって1979年に打倒して誕生した「革命政権」であり、近隣諸国にイスラム革命を「輸出」する危険性がある。そういう脅威から国を守るうえでも、サウジは西側との友好関係を必要としているのだ。

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【イスラム原理主義とは、単に「イスラムの戒律に厳しい」だけの思想ではなく、イスラムの教えに基づいて社会を構築し、その教えをよく知る者(イスラム法学者や原理主義組織の指導者)が社会を指導することを目指すものである。たとえば、イスラム教では「金持ちは貧しい者に施すべき」であり「人は神の前に平等」なので、サウジのように世襲君主がオイルマネーで贅沢三昧の暮らしをする体制はイスラムの教えに反している、とイランのイスラム原理主義者は考えている。サウジは「酒を飲んだら鞭打ちの刑」「窃盗犯は手首の切断」など、厳しい戒律を実践しているが、世襲君主制をとっている点では「世俗化」していることになる。】

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他方、米国も、世界最大の確認埋蔵量を持つ大産油国がイスラム革命政権など反米的な勢力の支配下にはいるのは、西側自由世界全体の経済にとって危険とみなしており、それを防ぐためには米軍を駐留させてでも防衛すべきだと考えている。

つまり「敵の敵は味方」なのだ。
米国は1980年代には、あのイスラム原理主義過激派勢力のタリバンでさえ、アフガニスタンに侵攻したソ連という「共通の敵」に対抗するために「自由の戦士」と褒め称えて事実上の同盟関係を結び、軍事援助を与え、兵士の訓練施設まで建ててやったことがある(1988年の米国映画『ランボー3/怒りのアフガン』のエンディングでは、「アフガニスタンで戦う自由の戦士たちにこの作品を捧げる」というテロップが流れるが、この「自由の戦士」とは、当時のロナルド・レーガン米大統領が用いた言葉そのままであり、もちろんタリバンのことを指している)。

のちに、アフガンのタリバンは、オサマ・ビンラディンを初めとするアフガン国外の過激派、すなわち、西側では「アルカイダ」と呼ばれているテロリストたちを受け入れ、そのアルカイダが明確な米国の敵となって1998年、ケニア、タンザニア両国の米国大使館で同時爆破テロを起こしたので、米国(クリントン米民主党政権)は、米国の予算でアフガン国内に建設した訓練施設を自ら空爆して「テロリストの訓練キャンプを破壊した」という声明を発表する羽目に陥った。

そして、言うまでもなく、その後、2001年9月11日には、ハイジャックされた民間機がニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)に突っ込む自爆テロが起き、米国(ブッシュ米共和党政権)がそれをアルカイダの犯行とみなしたことから、アルカイダをかくまっていたタリバンは完全に米国の敵となり、2001年10〜11月のアフガンにおける「反テロ戦争」で米軍によって掃討された(が、その後復活し、いまだにアフガンで米軍を初めとする多国籍軍と戦っている)。

つまり、「きのうの友はきょうの敵」になることもあるわけで、同盟とはしょせんその程度のものなのだ。

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●業務提携●
タリバンと同盟できるなら、北朝鮮と同盟することだって可能だ。
2007年現在、米国は北朝鮮と外交関係を樹立すべく急接近しつつある。産経新聞のスクープによると、北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)総書記は2006年10月の「偽装核実験」のあと「朝米関係を正常化し韓国以上に親密な米国のパートナーになる」というメッセージをブッシュ米大統領に送ったというから(同紙2007年8月10日付朝刊1面「米の協調路線 背景に金総書記メッセージ『米のパートナーになる』」、小誌2006年10月16日「北朝鮮『偽装核実験』の深層〜最後は米朝同盟!?」、2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」)、今後、米国が北朝鮮と……北朝鮮の独裁体制を軽蔑したまま……中国という共通の敵に対抗するために(事実上の)同盟関係を結ぶ可能性は極めて高いと言わざるをえない。

これは、個人と個人の関係で言えば「好きでもない相手とデートする」ようなものなので、「ありえない」と思い込む方も少なくあるまい。が、主婦や学生などと違って、会社勤めをし、会社を代表して他社と契約を結んだ経験のあるサラリーマンにとっては、べつに意外なことではない。

人柄のよい社員の大勢そろった、どんなに尊敬すべきりっぱな会社が相手でも、それが自分の会社となんの利害の一致点もない会社なら、サラリーマンはそういう相手とは業務提携は結べない。逆に、受付嬢からして愛想の悪い、無礼で未熟な新興企業でも、自分の会社に多大な利益をもたらしてくれる可能性があれば、そういう相手とは取り引きや業務提携をしたほうがトクなので、ホンネは隠して営業用の愛想笑いを浮かべるのがサラリーマンの本能というものである(筆者も昔はそうだった)。

2007年現在、米国を代表して米朝交渉を担当しているクリストファー・ヒル国務次官補は、北朝鮮の金正日の言い分を米国に伝えるのに熱心なことから「キム・ジョンヒル」と呼ばれているが(2007年8月27日放送のテレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』「政権混乱している場合じゃない!日本外交最大の危機!?」)、べつに彼は北朝鮮に行ってデートの相手を探しているのではなく、自分の職場(米国)を代表して「営業」をしているにすぎない。

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【マスコミにはよく、国と国との関係を人と人との関係に置き換え「仲良くするほうがお互いの利益になるに決まっている」式のコメントをのたまう「識者」が登場するが、そういう人はたぶんサラリーマンの経験がないのだろう。国という組織同士の関係は個人同士の関係とは根本的に異なり、明らかに企業同士の関係に似ている。優秀な営業マンは絶対に利害の一致しない企業とは仲良くしないのだから。】

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したがって「北朝鮮建国の父」である故キム・イルソン(金日成)首相(金正日の父)が、1950〜1953年の朝鮮戦争の最中に、北朝鮮を援助する中国人民解放軍の司令官から平手打ちを受けた、などというエピソードは、興味深い話ではあるが、たとえ事実であったとしても、地政学上はなんの意味もない(文藝春秋『本の話』2007年9月号「来るべき北朝鮮との戦争に備えよ〜自著を語る 富坂聰編『対北朝鮮・中国機密ファイル』」)。国家というものは、個人と違って、どんなに嫌いな相手とでも、地政学上の利害の一致点があれば「友好」関係を持つ。現に北朝鮮はそのあと1961年に中国と中朝友好協力相互援助条約を(1960年にはソ連とソ朝友好協力相互援助条約を)結んでいる。これは、当時まだ北朝鮮に侵攻する可能性のあった在韓国連軍(主体は在韓米軍)の脅威に備え、かつ、中ソ両共産主義大国の支援を等しく受けることで中ソいずれからも自立していたい、という当時の北朝鮮の国益に沿った条約だったのだ。

それが地政学というものだ。
地政学とは「一国のとるべき外交政策は、その国の置かれた地理的条件に基づいて自動的に決まるはず」という発想に基づく経験則の集積であり、数百年、数千年にわたって世界中の軍人や政治指導者が愛用して来た安全保障政策の鉄則である。たとえ上記のような「建国の父」に対する無礼があったとしても、北朝鮮がそのあと上記の中朝条約を締結している以上、「平手打ち」以来北朝鮮支配層が中国を憎んでいるとか、2006年10月の「核実験」についての北朝鮮から中国への事前通告が同盟国とは思えないほど遅く、中国がメンツを潰されたなどという話は(『本の話』前掲記事)、「営業に行った先の受付嬢の愛想が悪かった」というサラリーマンの愚痴とあまり変わらない。

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【筆者は富坂前掲書は読んでいないが、北朝鮮が「中国離れ」をした理由は「平手打ち」ではなく、1991年のソ連崩壊によって、極東における中ソ朝の軍事バランスが崩れ、中国がソ連に遠慮することなく、単独で北朝鮮を支配することが可能になり、中国が北朝鮮を武力併合する可能性が高まったから、と考えたほうが自然であろう。】

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日本国民の大半は北朝鮮の独裁体制を軽蔑し、同胞を拉致した北朝鮮政府の罪を憎んでいるが、そのことは、日本が北朝鮮と外交関係や同盟関係を結ばないことの理由にはならない。2007年現在、日朝がともに中国の軍事的膨張に脅威を感じていて、その点で利害が一致するなら、日本は北朝鮮を軽蔑し憎悪したまま同盟を結べばいい。

もちろん、同盟といっても、日米安全保障条約のような国際法上の確固たる同盟である必要はない。国際法上の同盟を結ぶと、中朝戦争が起きた際、最悪の場合、日本は「戦争当事国」になってしまって、「日本人の血を一滴も流さずに中国の脅威を解決する」という現在の日本外交の至上命題にかえって反する結果になるからだ。近い将来、2012年以前に日朝間(および米朝間)で現実に結ばれるのは、拙著、SF『天使の軍隊』)の中でソン・ウォンホがチェ・ヨンテに語っているようなタイプの特異な「同盟」であろう。

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『天使の軍隊』発売以降の小誌の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

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●実は弱い悪役●
そうは言っても「北朝鮮は日本にとって脅威ではないか」と思い込んでいる方は、いくら国際法上の同盟でないとはいえ、上記の「同盟」には反対だろう。が、そういう方は前回の記事をお読み頂きたい(小誌前回記事「●もういい加減にしろ」)。

北朝鮮には日本を核ミサイルで攻撃する能力もなければ動機もない(今後、日本を相手にテロや拉致を行ってもなんのトクにもならないので、そういうことも当然しない)。2007年現在、北朝鮮の核開発問題をめぐる6か国協議では、北朝鮮の3つの核施設を無能力化すること(と引き換えに米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除すること)で合意したが(2007年10月4日放送のTBSニュース「6か国協議の合意文書発表、中身は」)、敢えて施設を無能力化しなくても、北朝鮮の核技術者は元々無能力なので、最初から核の脅威など存在しない。
(^^;)
日本国民の大半が北朝鮮を脅威と誤解して来たのは、「国交のある中国のみを日本に対するおもな軍事的脅威として防衛予算を組むことで日中間に外交上の摩擦が生じるのを、日本政府が避けたかった」という事情もあるが、日本のマスコミが「邪悪さ」と「強さ」を混同して報道して来たことも一因である。

元々両者は混同されやすい。
ハリウッド映画や日本の時代劇では、悪役が強ければ強いほど、それが主役によって倒されたときの爽快感が大きいので、「お客様により深く感動して頂くために」悪役の強さを強調する演出をする。

では、どうすれば悪役は強く見えるのか、というと、実は、その悪役の人柄の悪さ、つまり邪悪さを描くのが早道なのだ。本来、悪役の強さ、つまりその「脅威」の大きさは、悪役の持つ部下や武器の質と量、つまり「軍事力」によって決まるはずだ。が、そのような技術的な問題をいくら説明しても、映画ファンやTV視聴者はなかなか実感がわかないので、監督は悪役の邪悪さを表現することに頼りがちだ。

たとえば映画『007』シリーズの『ゴールドフィンガー』では、ゴールドフィンガー(ゲルト・フレーペ)が美女を全裸にしてその皮膚すべてに金粉を塗って殺害したとわかる場面がある。また、同シリーズの『美しき獲物たち』では、マックス・ゾリン(クリストファー・ウォーケン)は、自分の計画のために土木工事に従事してくれた労働者たちに向かって面白半分に銃を乱射して大量殺戮をする。このような残虐なシーンは悪役の邪悪さを示すものではあるが、強さを示すものではない。いくら邪悪なにんげんでも、その支配下の軍事力が小さければ「強い」とは言えず、007ジェームズ・ボンドにとって「脅威」ではない。

が、悪役の邪悪さを見せ付けられた観客は「こんな悪いやつは早く倒されるべきだ」という思いを抱き、その思いが実現されるクライマックスが訪れるまで、欲求不満が募ることになる。その欲求不満が大きければ大きいほど、悪役が倒されるラストシーンを迎えたときの観客の満足度は高まるので、監督は故意に欲求不満の高まる演出をする。その結果、観客は「本来倒されるべき者がなかなか倒されない」という思いから「なかなか倒されないのは、この悪役が強いからだ」と錯覚してしまう。

北朝鮮国内の人権弾圧や、北朝鮮政府による日本人拉致問題の罪深さをTVのニュースで何度も見せられて、日本人視聴者は金正日体制が「なかなか倒されない」ことに苛立ち「金正日は強い」と錯覚している。しかし、どんなに金正日や北朝鮮政府が邪悪でも、北朝鮮が日本を攻撃するのに十分な海空軍力や実用可能な核弾頭や核ミサイルを保有していない事実には変わりがない。したがって、北朝鮮は日本にとっては脅威ではない。

北朝鮮の軍事的な強みは、地続きの隣国を攻撃する場合の陸軍力と北京や瀋陽に届くミサイル、それに中朝国境地帯の中国側に約190万人居住する朝鮮族の存在だけである。とくに国境に近い一部の村落では、朝鮮族は中国政府によって極端に貧しい生活を強いられているので、中国に対する愛国心がほとんどなく、一朝有事の際にはいとも簡単に北朝鮮の手先になるはずである。だからこそ2006年、中国政府(瀋陽軍区司令部)は、中朝国境の防衛を担当する前線部隊から朝鮮族出身者を1人残らず追放し、漢族(中国系中国人)や満州族の兵士と置き換えたのだ(『週刊文春』2006年11月9日号 p.p 40-41 「開戦前夜『中朝国境』もの凄い修羅場」)。

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●地政学上の愛国心●
北朝鮮は民主主義のかけらもない独裁国家であり、北朝鮮政府は自国民の生命や人権をほとんどかえりみないので、戦争で自国民が何百万人死んでも、どんなに国土が破壊されても、あとで日本や米国から十分な復興援助がもらえるなら、それでかまわないと思っている(むしろ、電気もろくに使えない老朽化した工場や発送電設備が戦争で破壊されたあと、外国の援助で最新設備に生まれ変わるなら、かえってそのほうがトクだろう)。このため同国は「カネさえ出せば、中国本土を直接攻撃してくれる」世界で唯一の国だ。したがって、「北朝鮮と(日米は)同盟するな」というのは、まさに中国の手先の言いぐさである。

地政学上の国益を追求する真の愛国者とは、ホンネの憎しみをむき出しにする「子供」ではなく、軽蔑すべき相手にも営業笑いを浮かべてみせるヒル国務次官補のような「大人」であるはずだ。

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【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

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【今後15年間の国際情勢については、2007年4月発売の拙著、SF『天使の軍隊』)をご覧頂きたい(『天使…』は小説であって、基本的に小誌とは関係ないが、この問題は小説でもお読み頂ける)。】

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【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】

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【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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