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中朝山岳国境

〜シリーズ「中朝開戦」(13)〜

Originally written: March 06, 2008(mail版)■中朝山岳国境〜週刊アカシックレコード080306■
Second update: March 06, 2008(Web版)

■中朝山岳国境〜週刊アカシックレコード080306■
中朝国境の大半は山岳国境であり、平地の国境と違って簡単には守れない。「歴史上朝鮮民族は中国と戦って勝ったことがないから、彼らが中朝戦争を仕掛けることなどありえない」と説く者は、朝鮮半島北部の朝鮮民族と、南部の韓民族とを混同し、両者の地政学的な違いを見落としている。
■中朝山岳国境〜シリーズ「中朝開戦」(13)■

■中朝山岳国境〜シリーズ「中朝開戦」(13)■
【小誌2007年2月22日「北朝鮮の北〜シリーズ『中朝開戦』(1)」は → こちら
【小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」は → こちら
【小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」は → こちら
【小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」は → こちら
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」は → こちら
【小誌2007年5月21日「中国の『油断』〜シリーズ『中朝開戦』(6)」は → こちら
【小誌2007年6月7日「米民主党『慰安婦決議案』の謎〜安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」は → こちら
【小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【小誌2007年9月13日「安倍首相退陣前倒しの深層〜開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」は → こちら
【小誌2007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」は → こちら
【小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」は → こちら
【小誌2007年11月16日「先に『小連立』工作が失敗〜自民党と民主党の『大連立政権構想』急浮上のウラ」は → こちら
【小誌2007年12月21日「大賞受賞御礼〜メルマ!ガ オブ ザ イヤー 2007」は臨時増刊なのでWeb版はありませんが → こちら
【小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」は → こちら
【前回「チャイナフリー作戦〜シリーズ『中朝開戦』(12)」は → こちら

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ネットサーフィンをしていて気付いたのだが、「歴史上朝鮮民族は中国と戦って勝ったことがないから、つまり、なさけない、ひ弱な民族だから、北朝鮮から中国に向かって仕掛ける中朝戦争など起きるはずがない」という説がかなり広汎に信じられているようだ。

たしかに、隣接する内陸国家(中国)と半島国家(朝鮮)が戦えば、後者が決定的な兵器(核兵器)を持つか、海洋国家の支援を受けない限り、必ず負ける、というのは地政学上の「法則」だ(小誌2007年2月22日「北朝鮮の北〜シリーズ『中朝開戦』(1)」)。

が、世界史の年表や歴史地図で過去3000年の朝鮮半島の歴史を見ると、上記の「朝鮮民族ひ弱説」には微妙な間違いがあることがわかる。

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●朝鮮と韓国の違い●
拙著、SF『天使の軍隊』をお読みになった方は詳しくご存知と思うが、あの半島では、大昔から付け根の部分(北部)を「朝鮮」といい、先端の部分(南部)を「韓」といっていたのであって、三方を海に囲まれた正真正銘の半島国である南部の韓(国)と、それより海岸線が短く「中国から見ると半島国家、韓国から見ると内陸国家」の(北)朝鮮とでは、微妙に地政学的条件が違うのだ。

たしかに、朝鮮半島を支配した諸王朝(共和国)のうち、百済(くだら)、新羅(しらぎ)、高麗(こうらい)、李氏朝鮮、大韓帝国、大韓民国はいずれも中国に攻め込んだことなどない。が、これらはいずれも半島南部を含む領土を持っていた国家である。すなわち、半島南部の長い海岸線を守るために人的、物的資源を割かなければならない国家、あるいは、半島北部より温暖な気候で育った分だけひ弱な人口を内に抱えた国家である。

しかし、朝鮮半島(の一部)を領有したことのある国家は上記の諸王朝(共和国)だけではない。半島の付け根(北部)を領有し、かつ、先端(南部)を領有しなかった国家として、高句麗(こうくり)、渤海(ぼっかい)、朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)などがある。

このうち「渤海は渤海人の国であって朝鮮人の国ではない」という意見もあるだろうが、それは歴史学上、民族分類上の問題であって、地政学上の問題ではない。渤海国(7〜10世紀)の王が渤海人だろうが満州人だろうが、朝鮮半島の「付け根」の気候風土で育った者を兵力として国を守っていたのだから、それは地政学上は(韓ではなく)朝鮮なのだ。

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●どこまでが半島か●
そもそも、どこまでが半島(朝鮮)で、どこからが内陸(中国)なのか、という問題がある。
現在の中国と北朝鮮の国境は、その多くが鴨緑江(おうりょっこう)、豆満江(とまんこう)の川筋と重なるので、とりあえずこれを「鴨緑江・豆満江ライン」と呼ぶことにする。

川を国境線にすると明確で、便利なので、現在はこのラインに沿って国境ができているし、過去においても、李氏朝鮮時代の約500年間など、そういう時代は長かった。が、川ひとつ越えたからといって、急に気候、植生、地形などの条件(すなわち地政学的条件)が大きく変わるわけではないので、(韓族ではなく)朝鮮族は伝統的にこのラインをまたいで分布している。現在の中国領東北地方(旧満州)の、北朝鮮寄りの山岳地帯には延辺朝鮮族自治州(総人口約220万)があり、約80万人の朝鮮族が暮らしているが、中国領内の朝鮮族はそこだけに住んでいるわけではなく、旧満州南東部、つまり、かつて高句麗や渤海の領土だった地域に広汎に分布している。

朝鮮では古来より、豆満江以北の朝鮮人居住地を間島(カンド)と呼び、朝鮮領であると主張して来た。1904〜1905年の日露戦争後に日本が(1905年の第二次日韓協約によって)朝鮮を保護国としてその外交権を握ると、日本も朝鮮の主張を踏襲して間島の領有権を主張し、中国(清)との間に「領土問題」を生じた。

が、日本は中国(清)から満州の鉄道など他の権益で譲歩を得るため、間島問題で譲歩し、1909年、日清間島協約を結んで間島を中国領と認めた。その後、日本が、1910年の日韓併合を経て、1931年に満州事変を起こして満州全土を支配下に置き、傀儡(かいらい)国家の満州国を打ち立てると、鴨緑江・豆満江ラインの両側が同じ国家の支配下にはいったため、この領土問題は解決された。

1945年、日本が第二次大戦に敗れて満州、朝鮮半島への支配権を失うと、中国はかつての間島協約に基づいて鴨緑江・豆満江ラインを国境とし、その両側に新中国(中華人民共和国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が建国されてこんにちに至っている。当然のことながら、日本がラインの両側の支配をやめたあとは、以前の領土問題が復活しているはずだ。なぜなら、間島協約は日中間の条約であり、その締結交渉には朝鮮(韓)民族が参加していないからである。

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【間島協約に関する韓国政府の見解としては、2004年にパン・ギムン(潘基文)外交通商相(現国連事務総長)が韓国の国会で行った「法的に無効」という答弁がある(朝鮮日報日本語版2004年10月22日付「外交長官『間島協約は法理的に無効』」)。この種の韓国の主張は「悪辣な日本帝国主義が圧倒的な武力を背景に『善良で誇り高い韓国』を脅して強引に条約を締結させ属国化したのは『侵略行為』だから、その『属国時代』に結ばれた条約は無効」という論理構成であり、それは、幕末に「黒船」に脅されて結ばされた日米修好通商条約など欧米列強との不平等条約を、当時の国際法に従って「有効だった」と解釈し続けている日本人のリーガルマインド(規範意識)とはかなり違う。
日本人は「自分に都合の悪い(国際)法でも法は守るべき」と考えるが、韓国人は「自分に都合の悪い法は守らなくてよい」らしい。
他方、この問題に限っては日中の法解釈は一致していると見てよかろう。中華人民共和国は鴨緑江・豆満江ラインを中朝国境と決めているが、その根拠は間島協約以外に考えられず、間島協約を根拠にするなら、(日韓併合の)1905年の第二次日韓協約を有効と考えるほかないからだ。】

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要するに、この旧満州南東部の間島は、朝鮮人(朝鮮族)にとって慣れ親しんだ気候風土の「庭」であり、朝鮮人の兵士はこの地域に来ると、からだがよく動くのである(つまり、間島は、中国領である場合でも常に、朝鮮人にとっては「アウェイ」でなく「ホーム」なのだ)。

2008年現在の中国政府は、北朝鮮が中国に戦争を仕掛けて来ることを恐れているが、それは何も「上海や南京が北朝鮮に侵略される」と言って恐れているのではなく、間島の朝鮮族が、北朝鮮の朝鮮人と「合体」することを恐れているのだ。

賢明な読者の皆さんはもうおわかりだろう。高句麗と渤海は地政学上は「朝鮮王朝」であり、彼らは鴨緑江・豆満江ラインをまたいで、つまり現在中国領の旧満州の一部を侵略して国家を打ち建てていた、ということになるのだ。したがって「朝鮮民族が中国と戦って勝ったことがない」とは言えず、現在の北朝鮮軍にとって鴨緑江・豆満江ラインをまたいで侵攻することは、単に「自分の庭に帰るだけ」であり、朝飯前のことなのだ。

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●満州の法則●
現在の中国政府にとって、もっともイヤなことは、いったん満州を敵方に渡してしまうと、敵がそこを足がかりにしてあっというまに中国本土を席捲してしまう恐れがあることだ。

たとえば、13世紀のモンゴル帝国は、1234年に満州を領有する金を滅ぼしてその領土を奪ったのち、南下して大都(現北京)に元朝を打ち立て、1279年には南宋を滅ぼし中国本土をすべて支配下に置いた。また、16〜17世紀の女眞も、1583年に満州で挙兵し、1616年に満州を支配して清朝を打ち建てたのち、南下して明朝を滅ぼし、1624年に、やはり中国全土をその版図に収めた。そして、20世紀には、1931年の満州事変を契機に満州を手に入れた大日本帝国陸軍がそこから南下して、わずか6〜10年後に北京、南京、香港まで蹂躙している。

そこで、現在の中国、つまり中華人民共和国は、1949年の建国当初から「満州につながる朝鮮半島の付け根(北部)」を確保するために必死になる。
建国直後の1950年には、朝鮮戦争に介入し、北朝鮮軍を支援する形で、半島(北部)を敵(米国)に渡すことなく確保しようとした。が、隣国ソ連もよこはいりして北朝鮮を支援したため、中国は半島(北部)の排他的独占支配に失敗し、こんにちに至っている。

ソ連が崩壊する1991年までは、北朝鮮は「中ソ等距離外交」をやって中ソ両国から援助を引き出し、両国を互いに牽制させたため、北朝鮮は中立を守り、自国内に外国軍隊の駐留を許すことはなかった(し、その中立政策は2008年のいまも続いている)。

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【この意味で、北朝鮮は、在韓米軍に国防を依存する大韓民国や、日韓併合条約に調印した大韓帝国などよりはるかに独立心が旺盛であると言える。1904〜1910年の大韓帝国は日本の「圧倒的な武力」の脅しに屈して条約を結び、日本の属国になり植民地になったが、北朝鮮は中ソの圧倒的な武力を前にしてもそれに屈することはなく、どちらの属国にもなっていないのだから。】

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しかし、1991年にソ連が崩壊し、1994年の米朝交渉で北朝鮮が米国に「体制の保証」を求めたため、「北朝鮮が米国の勢力圏にはいる」あるいは「北朝鮮国内に米軍基地ができる」可能性が現実のものになって来た(小誌2006年10月16日「北朝鮮『偽装核実験』の深層〜最後は米朝同盟!?」)。

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【「米朝同盟」が絵空事でない証拠として、2006年、北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)朝鮮労働党総書記がブッシュ米大統領に「北朝鮮は韓国以上に親密な米国のパートナーになる」という書簡を送った事実がある(産経新聞2007年8月10日付朝刊1面「米の協調路線 背景に金総書記メッセージ『米のパートナーになる』」)。】

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すると、2002年、中国は高句麗を(朝鮮王朝ではなく)中国の地方政権と位置付けて中国史に編入するためのプロジェクト「東北工程」を開始し、2004年には中国外務省ホームページの韓国史の項から高句麗史を削除した(朝鮮日報日本語版2004年7月14日付「中国大使呼び『高句麗削除』抗議」)。

つまり、中国は、満州を侵略されたら「この世の終わりが来る」ということを歴史的経験で知っており、北朝鮮の「間島併合」を本気で恐れていて、そうなる前に、北朝鮮を間島とセットで自国領に編入してしまおうと考えているに違いないのだ。

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●無用の韓国●
その反面、中国は、朝鮮半島南部については、どうでもいいと思っているフシがある。
1592年、豊臣秀吉が朝鮮出兵(文禄の役)を始めた際、日本の遠征軍が漢城(ハンソン。現ソウル)を落としても、当時の中国(明)は何もしなかった。が、日本軍がそのまま北上して平壌(ピョンヤン)を落とすと、中国は目の色変えて軍事介入して来た。翌1593年、中国軍は日本軍を平壌から駆逐したものの、半島北部から撤退した日本軍は南下して漢城で中国軍を迎え撃って返り討ちにし、踏みとどまったため、戦線は膠着状態に陥った。

ところが中国は、半島南部を日本軍に占領されたままで(朝鮮民族の意向を無視して?)早々と日本との講和交渉にはいってしまった。最終的には日本軍は講和交渉決裂後、1597〜1598年の再戦(慶長の役)を経て、豊臣秀吉の死を契機に半島全体から撤退するが、それをもって「中国が朝鮮半島全体の確保に努力した」と解釈するのは単なる結果論にすぎない。1597年以前の講和交渉が、中国が半島南部をいったん「捨てた」ことを意味しているのは間違いない。

1950〜53年の朝鮮戦争の停戦交渉でも、中国は、半島南部に敵である在韓米軍が駐留し続けることを認めたし、1992年には、在韓米軍を抱えたままの韓国を国家として承認し、国交を結んでいる。

これは「中国の安全保障にとって、朝鮮半島北部の確保は不可欠だが、南部はどうでもいい」ことを意味している。

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【NHKの報道番組などでは「○○国は○○地域のかなめに位置する地政学上重要な国です」式の表現が、世界中ほとんどすべての国に対して奉られているが、そういう言葉の大半は単なる社交辞令である。
たとえば、東アフリカのかなめ(?)に位置するソマリアは1991年の内戦勃発以降、国連や米国が一時期軍事介入し、全土の統一を試みたが困難を極め、結局いずれも撤退し、2008年現在に至るまで無政府状態のまま放置されている(外務省Web 2007年11月「ソマリア」)。理由は、同国が地域の安全保障にとってほとんどなんの意味もない国だからである。
地球上には地政学上なんの価値もない国はたくさんあり、実は、いま韓国も急激にそういう国の仲間入りをしつつあるのだ(但し、まだ「経済上なんの価値もない国」にはなっていない)。】

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結局、中国と朝鮮半島の間の安全保障問題は、鴨緑江・豆満江の沿岸をだれが支配するのか、という問題に尽きる。川の沿岸地帯というのは地理的には、川そのもので左右に二分されるが、民族的には両岸に同じ朝鮮族が住んでいるため、中国も(北)朝鮮も、何百年も前から両岸をセットで手に入れようと狙っている。

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●山岳国境●
「そんなこと言ったって、現在の国境線は『鴨緑江・豆満江』(ライン)なんだから、中国はそこに大軍を張り付けておけば、守れるだろう」と思われるかもしれない。が、ことはそう単純ではない。なぜなら、国境線の大部分は山岳地帯を走っているからだ。

そもそも山岳地帯の国境(山岳国境)は、平地の国境とはまったく性質が異なる。
1989年までの「ベルリンの壁」のような平地の国境は、その境界線に沿って、それこそ壁や塀を建設し、その手前に大勢の警備兵を「人間の鎖」のように並べれば、あるいは、あわせて地雷や砲台も多数並べておけば、比較的容易に、国境の向こうからの侵入を防ぐ「国境封鎖」が可能だ。
が、険しい山地に設けられた山岳国境は、世界中どこでも流動的なものであり、たとえば、イラクのクルド人自治区とトルコの間の国境地帯でも「クルド労働者党(PKK)のゲリラは人跡未踏の地をひそかに通って、2つの国を自由に行き来する」(2007年10月31日にNHK-BS1が放送した、前日30日の露RTRニュース)。

前回、「2006年頃:中国が中朝国境の山岳地帯の警備兵力を大増強」と述べたが(『週刊文春』2006年11月9日号 p.p 40-41「開戦前夜 『中朝国境』もの凄い修羅場」)、その意味するところは、中国政府が国境の封鎖を試みた、ということであり、そのまた意味するところは、それ以前は山岳地帯の国境の、上流の、川幅の狭い河川は「気軽に歩いて渡れた」ということである。2005年に現地を取材した知人によると、川沿いに住む朝鮮人のなかには「毎日川を渡って通勤している者までいる」ありさまだそうだ。

その知人はまた「鴨緑江・豆満江上流の川幅の狭い河川の両岸に住む朝鮮人(朝鮮族)は、周囲に『中国系中国人』(漢族)の役人や軍人がまったくおらず、電気も学校もないため、中国語を話せず、自身を中国人とは思っていない」という事実も確認した。とすると、少なくとも2006年以前は、この山岳地帯を通れば、北朝鮮からの脱出はいつでも可能だったことになる。

したがって、2006年以前の「脱北者」を「北朝鮮の人権弾圧から命からがら逃げ出して来たかわいそうな亡命者」と考えるのは間違いである(「命からがら説」は、南北対立が厳しかった時代に、北朝鮮よりも韓国のほうが国家として優れていると宣伝するために韓国政府が作った神話であろう)。したがって、もちろん、「北朝鮮から国外脱出する者が多くなれば、かつての東ドイツがそうであったように、いずれ北朝鮮も体制崩壊の危機に直面する」という説も完全な間違いである。1989年以前の東ドイツと違って、2006年以前の北朝鮮では「国外に出たいやつのうち相当数はとっくに自由に出ている」からだ。

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【2008年現在の北朝鮮はけっして「崩壊寸前」などではなく、その支配体制はいくら経済制裁を仕掛けても倒れない。「脱北者」のなかには、ラインの手前、中国領内から「脱北」(脱中?)した朝鮮族、つまり、「韓国に行けば亡命者手当てがもらえて豊かに暮らせる」と聞いて出て来た「経済難民」もかなり含まれているはずなので、NGOなどが「脱北者の人権問題」をことさら重大視してその支援活動に汲々とするのは、かなり滑稽なことである。】
(^^;)

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韓国政府が「二度脱北した奇妙な脱北者」を合法的に国内に受け入れている事実が、中朝国境の往来がかなり「自由」であることを傍証してくれる(朝鮮日報日本語版2003年6月5日付「中国で失踪した脱北者夫婦が北朝鮮に」によると、1998年11月に脱北したと称するユ・テジュンは、2000年6月北朝鮮に帰国し、2002年11月に再脱北している)。また、豆満江を渡って北朝鮮と韓国の間を何度も「往来」した「脱北単身赴任者」についての報道もある(朝鮮日報日本語版2007年7月7日付「韓国と北朝鮮往来し『二重生活』していた30歳男性逮捕」)。

2006年以降、中国人民解放軍の兵士が鴨緑江・豆満江ラインの北西側に一列横隊に並んで前(南東側)を向くと、ラインの向こうに朝鮮人がいるのが見えるかもしれないが、実は、自分自身の背後(北西側)にも大勢の朝鮮人がいるのだ。当然、現在の北朝鮮政府は、中国領内の朝鮮族のなかに膨大な数の協力者を作り、工作員としての訓練も施しているから(『週刊文春』前掲記事)、結局、ラインを守る解放軍兵士は前からも後ろからも弾が飛んで来そうなところで警備をさせられることになる。

つまり、韓国軍兵士が平地を走る38度線を守るより、中国軍兵士が山岳地帯を走る国境を守るほうが、はるかに難しいのだ。それに、平地と違って山地の場合、どんなに大勢の兵士を動員して「人間の鎖」を作っても、鎖はどこか足場の悪いところで必ず切れる。だから、厳密に言うと完全な「封」はできないのだ。

これでも「北朝鮮から中国に戦争を仕掛けるはずはない」などと言えるだろうか。

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●いくさの勝敗●
もちろん、中朝戦争が始まれば北朝鮮全土は中国軍の反撃で破壊され、大勢の国民が死ぬ。
が、どうせ独裁国家北朝鮮の国民には人権などないし、北朝鮮の独裁者、金正日は自国民が何万人死んでも気にしないし、元々北朝鮮は極貧国で、破壊されて困るようなまともなインフラも工場もほとんどないので、戦争の1つや2つ、痛くもかゆくもない(重要な軍事施設や軍需工場はほとんど地下にある)。つまり、北朝鮮は「失うもの」が何もないので、いつでも気軽に戦争ができるのだ。

逆に、経済成長中の中国は、インフラにせよ工場にせよ失うものだらけなので、国土のごく一部が攻撃されただけで外資の国外流出が起き、国中が資本不足で大混乱に陥ってしまう。だから、中朝戦争は始まった瞬間に中国の負けなのだ(たとえ中国が北朝鮮を核攻撃しても、中国が負けるという厳然たる事実は動かない)。

戦争(いくさ)とはけっして「軍事力コンテスト」ではない(小誌2007年5月7日「兵は詭道なり〜戦争も選挙もだまし合い」)。
戦争(いくさ)では、「守るべきものを守れなかったほうが負け」なので、「守るべきもの」が少なければ少ないほど負けにくい、ということになる。つまり、現代の戦争では、豊かな国ほど負けやすく、貧しい国ほど負けにくく、そして、そもそも失うべき国土も国民も持たない非国家組織(たとえばテロ組織)は絶対に負けない(悪くても引き分け)、という「法則」が成り立つのだ。

2005年10月以降、中朝国境では、銃撃戦や中国人将校の誘拐事件など、臨戦体制というより「前哨戦」といったほうがよさそうな危険な状態が続いている(朝鮮日報日本語版2006年7月28日付「中国、北朝鮮との国境地帯に兵士2千人増員」、『週刊文春』2006年11月9日号 p.p 40-41「開戦前夜 『中朝国境』もの凄い修羅場」)。

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改革開放政策で豊かさを知った中国軍兵士は、軍服を着ないで越境して来る北朝鮮軍特殊部隊にあっさり敗れ、中国人将校やその家族の誘拐まで許す事件が頻発したため、2005年末、中国側(中朝国境を防衛する瀋陽軍区司令部)は、中朝国境から30km以内にある党や軍の幹部の保養施設や宿泊施設をすべて閉鎖する羽目に陥っている(『週刊文春』前掲記事)。これは「中国側が前哨戦に敗れて、国境から30km以内の領土をすでに放棄した」と解釈できる。

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したがって、(韓民族ではなく)朝鮮民族には、間違いなく中国を攻撃する意志と度胸がある。現状では、中朝戦争の開戦時期を決めるのは、中国側ではなく、北朝鮮側のはずだ。

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【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】

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【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

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【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】

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【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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