毒餃子事件の犯人
〜シリーズ「中朝開戦」(12)〜
一般の学者やジャーナリストと違って、永田町・霞が関の中枢を担うインサイダーは、2006年以降の中朝国境がどのような状態であるかを知っている。だから最近、筆者は、そういう人物と会うときは、ほとんど挨拶代わりに「まだですか」「そろそろ始まっておかしくないですよね」と聞く。もちろん、これらの挨拶はすべて「いったい中朝戦争はいつ始まるんでしょう」という意味である(小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」、『週刊文春』2006年11月9日号 p.p 40-41「開戦前夜 『中朝国境』もの凄い修羅場」、小誌2006年10月16日「北朝鮮『偽装核実験』の深層〜最後は米朝同盟!?」)。
前回登場したインサイダーの1人(Dとする)と最近話せたので、この「挨拶」をしたのだが、彼によると中朝戦争は「やろうと思えばいつでもやれる状態だが、日米両国政府がなかなか(北朝鮮政府に対して)GOサインを出さない」状態だそうだ。
なんとなれば、「米国(日本)で政権や政党が、ある勢力(おもに大企業、官僚機構)の圧力を受けて、ある政策をとろうとすると、それによって不利益を受ける勢力(こちらもおもに大企業、官僚機構)がブレーキをかけて妨害するため、『たして2で割ったような政策(または情勢)』がだらだらと維持されることが多いから」という。
たとえば、中国がこのまま経済成長を続けて国力(とくに軍事力、軍事技術)を強大化させ、石油をはじめ世界中の資源への支配権を強めることは、米国の安全保障と航空宇宙産業、エネルギー産業の既得権益を脅かす恐れがあるので、そういう業界の勢力や米国防総省は「このへんで中国の成長を止めよう」と考え、米議会上下両院で多数を占める米民主党に圧力をかけて、そのためのシナリオを実現しようと動いている。 そのシナリオとは「北朝鮮が中国と交戦して中国から外資を追い出し、戦争によって荒廃した北朝鮮の国土は、米国(日本)の経済援助で復興する」というものだが、その実現のため、彼らはブッシュ米共和党政権を(議会の持つ立法権を最大限駆使して)「操り人形」にして対北朝鮮宥和外交(米朝接近)を演出し、さらに、それに反対する日本の安倍晋三政権を葬って「中朝戦争賛成派」の福田康夫政権に差し替えた(小誌2007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」)。
【もちろんこれは「中朝戦争」のシナリオであって「米中戦争」でも「日中戦争」でもないので、日米両国民の血は一滴も流れない(小誌2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」 < > )。というか、そういう「無駄な血」を流さないために、日米が北朝鮮に頼むという筋書きだ。筆者は、中朝戦争が起きれば北朝鮮が勝つと予測するが、その根拠は次回以降の記事で整理してお伝えする予定。】
【日本では一般に「米国の大統領の権力は日本の首相のそれよりも強い」と思われているが、法学上、政治学上、くろうとの目で見ると逆になる。米国の大統領は、日本の首相と違って、議会への予算案や法案の提出権がなく、また、自由に閣僚を任免することもできない(閣僚の任命には議会上院の同意が要る)(合衆国憲法第2条第2節第2項)。議会の解散権を持たない点で著しく日本の首相に劣る米国大統領の権限のうち、憲法上明示されているのは、軍の統帥権(同第2条第2節第1項)と、議会への勧告権(教書の提出権)(同第3節)と、議会を通過した法案や決議案に対する拒否権(但し議会側、上下両院が2/3以上の多数で再可決すると無効)(同第1条第7節第2〜3項)の、たった3つだけである。
なぜかというと、「国民の代表」である議会によって指名(事前に信任)されている日本の首相と違って、自身が議会の信任を得ていない米国の大統領は「箸の上げ下ろしまで」(?)いちいち議会に承認してもらう必要があるからだ。したがって、米国の議会は当然、大統領の外交政策をコントロールできる(合衆国憲法第1条第8節は、宣戦布告、軍規の制定から通商、郵便、著作権保護、科学振興まで「議会の権限」としているので「箸の上げ下ろし…」はあながち誇張とは言えない)。
日本のマスコミによくある「ブッシュ大統領は減税を含む景気刺激策を決定しました」式の「大統領万能主義」に基づく報道は、法学上は完全な間違いである。正しくは「ブッシュ大統領は減税を含む景気刺激策の立法化を議会(野党民主党が多数)に要請することを決定した」。】
ところが、中国の低賃金労働力を使って生産した製品を大量に輸入するなどして莫大な利益を上げている日米の企業は、そんなシナリオには到底賛成できない。たった1社で米国の対中輸入総額の1割以上を占めるとも言われるウォルマートストアチェーンや、中国工場で生産した格安パソコンを売るデルコンピュータ、米中国交成立前から中国に進出しているコカコーラなど(企業の規模としては航空宇宙産業やエネルギー産業には遠くおよばないものの)枚挙にいとまがないほど無数にある(リテールWeb 2007年5月29日「ウォルマートがくしゃみをすると…」)。こういう企業がこぞって、米民主党に対して「中国の経済成長を止めるな」というロビー活動をすると、米民主党としても今年2008年は大統領選と上下両院選を控えているだけに簡単には無視できない(しかし、世界のどこの歴史を見ても「永遠に続く経済成長はない」のもまた確かである)。
【中国から米国に亡命した経済学者の何清漣(He Qinglian)米プリンストン大客員研究員は、中国随一の名門大学、清華大学の経済分野のアドバイザーを務める米財界人は「中国はかわいいパンダのように世界に脅威を与えない存在」と言い募る「パンダ派エコノミスト」(中国の手先)と断定している。そのアドバイザーを送り出している米国の企業は、ゴールドマンサックス(GS)、ボーイング、コカコーラ、デルなどで、とくにGS出身のヘンリー・ポールソン現米財務長官はその代表的存在だと非難する(『SAPIO』2007年6月13日号 p.p 18-19 「今ごろ『中国経済は持続不可能』と言い出した『パンダ派』エコノミストの手のひら返し」)。
但し、筆者はボーイングを「パンダ派」に分類することには疑問を感じる。たしかにボーイングは経済成長著しい中国の航空需要の伸びに対応して旅客機を大量に売れば儲かるが、売ったあとの中国に経済成長をしてもらう必要はなく、まとまった旅客機の代金さえ受け取ってしまえば、あとは中国が戦禍に巻き込まれて経済成長を止めようが崩壊しようが関係ないはずだからだ。
むしろボーイングにとって問題なのは、2003年に有人宇宙飛行まで実現した中国の航空宇宙技術がこれ以上発達して、衛星打ち上げビジネスなどで米国の権益を脅かすことや、米国の軍事的安全保障に脅威を与えることのほうが問題なのではないか。筆者は、ボーイングはいずれ、他の航空宇宙産業の企業ととともに、中朝戦争賛成派にまわる可能性が高いと考える。】
この結果、日米ともに「いつでも北朝鮮の中国侵攻にGOサインを出せる態勢にはあるものの、なかなかGOサインを出さない状態」が当面続くらしいのだ。
●日米への「催促」●
しかし、そんなにじらされたら、北朝鮮はたまらないし、中国の成長を止めたい勢力(中朝鮮戦争賛成派)も困る。
そこで彼らは「いかに中国製品が安くても、米国(日本)の消費者がそれを買わなければ、敵(中朝戦争反対派)は中国での事業をやめるだろう」と考えたようで、2007年になると、まず米国のマスコミに働きかけて、「中国製品の安全性」の問題を針小棒大に報道させ、消費者の不安を煽った。
たとえば、中国で製造された工業製品に欠格がみつかって事故や販売業者による自主回収の事態に至ったとしても、その責任が中国企業にあるとは限らないのに、つまり、たとえば、中国企業にOEM(相手先ブランド)生産を依頼した米国企業の指示や設計に問題があったかもしれないのに、2007年以降、米国マスコミの非難は異様なほど中国に集中した(CRI Web日本語版2007年9月23日「英国メディア、米国玩具企業が中国にお詫びしたことに注目」、同9月10日「玩具回収の責任は完全に中国にあるわけではない」)。現に中国産ペットフードを食べた犬や猫が死亡した事件では、米検察当局(ミズーリ州カンザスシティ連邦大陪審)は中国の製造・輸出業者だけでなく、米国の輸入販売業者をも起訴している(CNN Web日本語版2008年2月7日「ペットフード汚染問題、中国2社と米1社を起訴」)。
こうした「偏向報道」の結果、米国では、中国産の原材料や部品を一切使わないことを意味する「チャイナ・フリー」と表示された商品が出現する事態になり、消費者の中国離れが始まった(産経新聞Web版2007年10月1日「食品、玩具…米で広がる『チャイナ・フリー』」)。
ところが、「low price everyday」(毎日安売り)を掲げるウォルマートのような安売り企業は、中国以外の未知の商品輸入先を開拓するより、このまま中国を安価な商品の供給地として使い続けたほうがラクなので、また、ほかの輸入先を開拓するのは膨大なコストがかかるので、そう簡単には中国を諦めない。これは、デルや、その他の日米の中国製品販売業者や、それらに融資している金融機関にしても同様である。彼ら「中朝戦争反対派」のなかには、中朝戦争でどっちが勝つかには関係なく、とにかく戦争で中国の経済活動が停滞すると、たちまち経営が傾いてしまうような「自転車操業」状態の企業も少なくないので、彼らはそう簡単には譲れない。
とくに日本には(潜在的な)「反対派」が多いはずだ。なぜなら、輸出入総額で見ると、2004年には日米貿易よりも日中貿易(香港を含む)のほうが金額が大きくなっており、「中国のお陰でようやく不況を脱してひといきついた」と思っている日本企業が少なくないからだ(外務省Web 2005年「参考1. 2004年の日中貿易総額」によると、対香港を含む日中貿易総額は22兆2500億円、日米貿易総額は20兆4813億円、香港を含めない日中貿易総額は18兆1933億円)。
ユニクロ、味の素、すかいらーく、マルハ、生協、日本ハムといった企業の経営者たちはおそらく「無邪気な親中国派」(パンダ派)であって、中朝国境の現実を知らないだけでなく、(経営学とは別の)経済学のイロハも知らないので、中国の経済成長が止まって(1998年のインドネシアのように)独裁国家特有の体制危機が起きた場合のことなど考えてもいないだろうから、はなはだ始末が悪い。
そこで、「中朝戦争賛成派」は、そういう「反対派」の経営者を説得(脅迫)して、力ずくで中国に依存しないビジネスモデルを構築させなければならない。それにはもちろん、米国で成功したように、「中国産品は危険だ」と思わせるのが最善だ。
●食品テロ●
2008年1月30日、中国河北省石家荘市にある「河北省食品輸出入天洋食品工場」(天洋食品)で2007年に製造され、同年中に日本たばこ産業(JT)の子会社ジェイティーフーズ(JTF)によって日本に輸入されて販売された冷凍食品の餃子を食べた日本国内の消費者が吐き気や下痢などの症状を訴えていた事件が報道された(2007年12月に発生していたこの「食中毒事件」で、いちばん症状が重かったのは、千葉県市川市在住の5歳の女児で、彼女は意識不明の重態に陥っていたが、その後症状は改善した。読売新聞Web版2008年1月30日「中国製冷凍ギョーザで食中毒、千葉と兵庫で3家族10人」、同2月7日「被害に遭った女児に笑顔戻る…ギョーザ事件から1週間」)。いずれも原因は餃子(のパッケージの内側または餃子本体)に混入されていたメタミドホスという有機リン系殺虫剤(農薬)で、そのパッケージの製造年月日は2007年10月20日だった(同じ殺虫剤は同年10月1日製造のものでもみつかっている。読売新聞Web版2008年2月9日「『中国で混入』の見方固まる、6月・10月同一犯説も」)。
その後、2月5日、別の有機リン系殺虫剤ジクロルボスがパッケージの外側や内側に混入された天洋食品製造の冷凍餃子が福島県などでみつかった(徳島県内でみつかった微量のジクロルボスが外袋に付着した餃子は、その後事件と無関係と判明した)。日生協が福島県喜多方市のコープあいづプラザ店に納入したあとクレーム製品として保管していた「CO・OP手作り餃子」を独自に検査した結果、日本の残留農薬基準を大幅に上回る110ppmものジクロルボスが検出された。その製造年月日は2007年6月3日だった(読売新聞Web版2008年2月6日「今度は殺虫剤『ジクロルボス』、日生連のギョーザから検出」、同2008年2月9日「『中国で混入』の見方固まる、6月・10月同一犯説も」)。
事実関係を発生順に整理してみる:
2006年頃: 中国が中朝国境の山岳地帯の警備兵力を大増強
2006年秋: 中朝国境地帯の長白山(白頭山)の山麓の中国側に、軍民兼用空港(長白山空港)の建設開始
2006年11月: 米中間選挙で「中朝戦争賛成派」の米民主党が、議会上下両院で過半数獲得
2007年1月: 米中間選挙で当選した新議員の任期開始
2007年3月: 北米で中国産ペットフード汚染事件
2007年4月頃: 米国で中国産品批判報道「炎上」
2007年6月: 天洋食品が未開封のパッケージの内側(餃子本体)にジクロルボスの混入された冷凍餃子を製造
2007年6〜9月: ジクロルボス入り餃子についての報道、輸出先の日本で一切なし
2007年10月: 天洋食品が未開封のパッケージの内側(餃子本体)にメタミドホスの混入された冷凍餃子を製造
2007年11月: 未完成の長白山空港で、中国軍が電子偵察機の試験飛行開始
2007年12月: 中朝国境の河川(鴨緑江、豆満江)が凍結し、北朝鮮陸軍の越境が容易に
2007年12月: 千葉県などで3家族10人がメタミドホス入り餃子を食べて負傷
2008年1月: 上記3家族10人の負傷事件発覚
2008年2月: 日本各地でジクロルボス、メタミドホス入りの天洋食品製餃子発見
2008年7月: 長白山空港開港(予定)
2008年8月: 北京五輪開幕(予定)
2008年11月: 米大統領選、上下両院選(予定)
2009年1月: 次期米大統領、上下両院議員の新任期開始(予定)
米国で中国産品の危険性を訴える報道が急増したのが2007年3月以降、天洋食品の工場でジクロルボスを含む日本向け冷凍餃子が製造されたのが同年6月、同工場でメタミドホスを含む日本向けの冷凍餃子が製造されたのが10月なので、辻褄は合う。
まったく開封されていない、2007年10月製造出荷の冷凍餃子の、パッケージの内側から毒物が検出されたため、日本の捜査当局は故意犯、つまり何者かによる「傷害」または「殺人未遂」の可能性が高いと判断している(読売新聞Web版2008年2月5日「『中国で混入が自然』 警察当局、見方強める」、同2月9日「『中国で混入』の見方固まる、6月・10月同一犯説も」、『読売ウィークリー』2008年2月24日号 p.p 21-23 「“殺人”餃子ワイド 本誌がつかんだ!これが『毒』犯人像」)。
【「(日本人の)犯人が、JTFの親会社JTの株価操作の目的でJTFの商品に毒を混ぜた」という説は、そういう記事を書いた記者が、書いた先から(元専売公社であるJTの株は、東京地検特捜部に狙われやすいので仕手筋は手を出しにくいという説を紹介して)否定しているので論外だ(2種類の殺虫剤の事件が同一犯の場合、2007年6月に殺虫剤混入工作をやってから4か月経ってもなんの騒ぎにもなっていないのに、その4か月後のにまた同じ目的で同じ工作をするだろうか。いつ日本で販売され、いつ犠牲者が出るかわからないような方法では、いつ株価が動くかわからないわけで、株価操作の手法としては効率が悪すぎて使えない。JT、日清食品などの冷凍食品事業の統合を妨害する手段としても同様である(『読売ウィークリー』前掲記事、読売新聞Web版2008年2月6日「JT・日清食品・加ト吉、冷凍事業統合を白紙撤回」)。】
もちろん、中国の公安当局は、筆者がわかるぐらいのことは当然わかっており、だからこそ「日中関係の発展を望まない一部分子が極端な手段を取った可能性を排除できない」などと「日中以外の第三国人の犯行」を示唆したようなことを言うのだ(毎日新聞Web版2008年2月7日「中国製ギョーザ:不満分子の可能性も…中国が『故意』示唆」)。
中国当局が当初、毒は「中国で混入された可能性が低い」などと居直っていたのは、苦し紛れのウソだ。なぜなら、「中国で混入された」と認めることは、「中国の『食の安全』管理に問題がある」と認めることであり、それは「日本版チャイナフリー」の登場につながり、日本の食品企業の多くが中国との取り引きを一斉に減らす(打ち切る)ことになるからだ。中国にとって中朝戦争を防ぐほとんど唯一の手段が「日米の多くの企業が中国に依存しているという現状」なのだから、日本企業の「集団撤退」につながるような発表を中国政府自らがするわけにはいかない。
とはいえ、日本の警察の捜査で未開封のパッケージの内側から殺虫剤が検出された事実がある以上、中国側とていつまでもごまかすわけにはいくまい。おそらく今後ありうる展開は、
#1:中国国籍の真犯人(実行犯)が逮捕され、背後関係について完全黙秘
#2:無実の中国人を中国捜査当局が犯人に仕立て上げ、「個人的な恨みでやった」という虚偽の供述をリーク
#3:(徹底捜査をしても北朝鮮工作員が尻尾を出すとは思えないので)日中合同捜査チーム(または、日中間の食品安全問題の協議機関)を作って、真相が解明できないことの責任を半分日本側に負わせ、「原因不明」「単なる不幸な事故かもしれない」と日本側に言わせて幕引き
などだろう。
「#2」「#3」の場合、中国政府は「これは例外的な事件であり、ほかの食品工場では起きない(から日本企業は安心して中国に投資し続けてほしい)」とアピールし、中国政府首脳は「これで中朝戦争の抑止力が維持された」と思うだろう。が、北朝鮮側はそれでは困るので、2008年3月に予定されている胡錦涛国家主席の訪日前にも、(再度)同種の、中国産品の安全性を疑わせるテロを、諜報機関を使って引き起こすかもしれない。そうなれば、中国政府のメンツは丸つぶれになり、多くの日本企業が真剣に中国撤退を考えるはずだ。
日米の中国進出企業の多くがじっさいに撤退しなくても、撤退計画、つまり中国抜きのビジネスモデルの構築を始めれば、中朝戦争開戦への敷居は一気に低くなる。だから、中国は、なんとしても、1社でも多くの日米の企業を中国とのビジネスに引き留めておきたいのだ。
●開戦時期●
しかし、実は、企業が撤退しなくても敷居の低くなる時機が、やがて到来する。
日米どちらかの政府が、中国に依存する企業からの圧力を気にすることなく、北朝鮮に「GOサイン」を出してただちに中朝戦争が始まるのなら、真の問題は「撤退」の決断ではなく「圧力」の有無だからだ。
2008年11月4日には、米大統領選と上下両院選があるが、ウォルマートもデルもコカコーラも、共和党、民主党双方の有力な大統領候補や大物議員に、ほぼムラなく献金して「選挙に勝ちたかったら、中朝戦争を起こすな」と要求しているはずだ。
【政治学者のジェラルド・カーティスは「米国は建前として企業の政治献金を禁止しているが、経済界はあの手この手を使って、ばく大な献金をしているのが現実だ」と述べている(東京新聞2003年8月3日付「政治献金再考」)。企業から政党への献金は、米国ではソフトマネー(連邦選挙運動法の抜け穴を利用して政党に提供される、融通無碍な献金)と呼ばれる(しんぶん赤旗Web版2003年10月24日「アメリカの実態は財界後ろ盾の二大政党制 企業献金は2党に均等に イラク開戦 共和党が実行、民主党が支持」)。】
新大統領の任期が始まる2009年1月20日以降に中朝戦争という「不測の事態」が起きると、新大統領と議会民主党はマスコミから「中国における米国の権益は守れるのか」とか「情報機関は事前にきちんと情報収集をしていたのか」などと厳しく追及される。もちろんGSやデルの「親中派」(パンダ派)の献金者たちからも「選挙のとき応援してやったのに、忘れたのか」と責められる。
ところが、2008年11月の上下両院選の結果がどうであろうと、新議会開会の前日、2009年1月5日までは上下両院とも民主党が多数派なので、彼らは大統領に圧力をかけられる。だから、新大統領の就任前に、議会民主党がブッシュ現共和党政権に圧力をかけて北朝鮮に「GOサイン」を出させれば、新大統領も民主党も、上記のように責めれられる心配はない。
12月〜3月には中朝国境の鴨緑江も豆満江も凍結するので、北朝鮮陸軍は徒歩だけでなく車両でも容易に国境を越えることができる。したがって、2008年3月までに開戦しなければ、次のXデーは2008年12月(〜2009年1月19日)まで来ないと見るべきではないか。
【何清漣は2007年にデル、コカコーラ、GSなどの「パンダ派」に対して「今ごろ『中国経済は持続不可能』と言い出した」のは遅すぎると責めている。が、彼らのそういう発言は、「パンダ派」の主要企業が「もう中国ではさんざん儲けたから、中国バブルがはじける前に撤退します」(中朝戦争賛成派の皆さん、あとは、中国を煮て食うなり焼いて食うなり、好きにして下さい)というメッセージを発した、ということではないだろうか(『SAPIO』前掲記事)。だとすると、中朝戦争は、それこそ明日起きても不思議ではないことになる。】
●五輪前、五輪後●
純粋に軍事技術的に考えれば、北朝鮮にとっては、北京五輪前に開戦したほうがいいに決まっている。五輪前は、五輪の成功を願う中国が北朝鮮に対して「予防的先制攻撃」をかける可能性がまったくなく、少なくとも開戦直後に限れば、北朝鮮側の「やりたい放題」だからだ。
しかし、外交的には、五輪前開戦は北朝鮮に不利だ。
日中戦争がそうであったように、地上軍同士で戦争が始まると、どっちが先に手を出したかは第三者にわかりにくいので、当事国はそれぞれ自国の立場を有利にするために「相手が先に手を出した」(攻撃されたので応戦しただけだ)と主張するものだが、北京五輪前に限っては、(たとえ中国が本気で北朝鮮に侵攻したい場合でも)「先に中国が手を出した」という主張が国際社会で信じられることはありえないので、北朝鮮は「侵略者」として、国際社会の一方的な非難を受ける可能が高い。
この意味でも、北朝鮮は開戦時期を2008年12月以降まで遅らせたほうがいいのではないか。
そして、開戦時期が北京五輪後になる場合は、五輪の成功によって中国の威信が(1936年のベルリン五輪成功後に侵略戦争を開始したナチス・ドイツのように)高まりすぎるのを防ぐため、米朝いずれかの諜報機関が、五輪開催中に中国の恥になるような事態を引き起こすのではないか。たとえば、北京市の開発で住居や仕事を奪われた下層階級の北京市民をそそのかして暴動を起こさせたり、競技場で中国人の観衆を興奮させて(反日ブーイングの吹き荒れた2004年アジア杯サッカーの際のように)「マナーの悪い」観戦態度を引き出したり、選手村の飲料水や食事に毒物を混ぜたりする工作が考えられる(これは米朝あるいは台湾の選手団や記者団のなかに工作員を紛れ込ませることで、比較的容易に実現できる。但し、日本と中国との対戦で実現するのは容易ではない)。
元々小誌の予測では開戦は「2010〜2012年」だったわけで(小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」)、筆者としてはべつに「焦って」はいないのだが、中国政府が長白山空港の開港を前倒しし、さらに未完成の同空港を使ってあわてて電子偵察機のテスト飛行をするなど「焦りまくって」いるので(小誌2007年9月13日「開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」)、開戦時期の予測を日々微調整している次第である。
●犯人の国籍●
が、たとえ、実行犯が日本国籍だったとしても、日本政府は中国政府に謝罪してはならないし、中国国籍だったとしても、日本政府は中国政府に謝罪を要求してはならない。これは、2008年2月にソウルにある韓国の国宝、南大門が全焼した放火事件の犯人が万一日本人だった場合でも同様で、日本政府は相手国政府に絶対に謝罪してはならない(「する必要がない」のではなく「してはいけない」のだ)。
理由は、小誌既報のとおり「ならず者雇い合戦」になる恐れがあるからである(小誌2007年5月1日「非国家犯罪と謝罪〜シリーズ『米バージニア工科大銃乱射事件』(2)」)。
実行犯の国籍などどうでもいい。中国政府がなすべきは、現行の食品安全管理制度の、ある程度の改善と、現行制度下で被害者を出してしまったことについての「遺憾の意」の表明だけだ。
が、中国政府首脳は「日中関係の発展を望まない一部分子云々」の発言で明らかなように、北朝鮮政府のテロであることはとうに確信しているので、できれば遺憾の意など表明したくない心境だろう。
それに、相手は、かつてソウル五輪開幕前に韓国への「いやがらせ」として、工作員のキム・ヒョンヒ(金賢姫)を使って大韓航空機爆破テロ事件を起こした「テロ支援国家」である。少々安全対策を強化したぐらいでは問題の解決にならないこともわかっているだろう。この点で、筆者は中国政府に同情する。
一方、北朝鮮政府は、もし今回の食品テロで背後関係がバレれば、2007年以来の米朝関係改善が帳消しになり、米国務省のテロ支援国家の指定が解除されるどころか、あらためて「再指定」されかねない。そうなれば、国際金融機関からの融資は引き続き受けられず、米朝、日朝の国交樹立も、日米からの経済援助も遠のく。
だから北朝鮮の諜報機関は、絶対に真相が解明されないように、万全の隠蔽工作をしているはずだ。
【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】
【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】
【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】
【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
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