〜2008年米大統領選〜
2005年11月頃、筆者は永田町・霞が関の中枢を担うインサイダー(Dとする)と話す機会を得た。
この人物、Dは、この時点ですでに、来たるべき2008年11月の米大統領選は民主党のヒラリー・クリントン・ニューヨーク州選出上院議員(ビル・クリントン前大統領夫人)が勝つと予測していた。
その理由は、2000年の米大統領選にあるという。
●8年前の「借り」●
米大統領選の本選は4で割り切れる年の11月に、州ごとにほぼ人口に比例するように配分された大統領選挙人を、共和党、民主党それぞれの党全国大会で選出された候補者(各党1人ずつ)が奪い合う形で行われる。本選では州ごとに一般有権者の投票を数え、ほとんどの州では「1人でも多くの有権者の票を得た候補者」がその州に割り当てられた大統領選挙人を全員獲得する「勝者総取り」方式を実施している。
このため理論上は、全米50州のうち、人口の多い25州で51%ずつの票を得てそれらの州の選挙人を「総取り」すれば、残りの25州での得票がすべてゼロでも当選できることになる。つまり、米大統領選は単純に米国民の民意を問う選挙ではなく、「民意を州単位で集計する選挙」なのだ。
2000年の米大統領選では、共和党はジョージ・W・ブッシュ元テキサス州知事(現大統領)を、民主党はアル・ゴア前副大統領を、それぞれ候補者に選び、両候補は各州で互角の戦いを演じたが、大票田のフロリダ州ではとくに接戦になり、他の49州(と首都ワシントンのあるコロンビア特別区)のすべての開票がかなり進んで大勢が判明した、米東部時間2000年11月7日の投開票日当日の深夜12時(翌日午前0時)を過ぎても、まだ勝敗の行方が見えなかった。
49州(とコロンビア特別区)の大勢が決した時点でブッシュの獲得した選挙人は246人、ゴアの獲得した選挙人は267人と見られ、フロリダ州の選挙人は当時は25人だったので、「フロリダを取ったほうが勝ち」という状況だった。
【最終的にゴア側の大統領選挙人の1人が有権者の意志に反して白票を投じたため、ゴアの獲得選挙人は公式には266人と記録されている。】
Dによれば「ほんとうはゴアが(フロリダで勝ち、その結果として本選全体で)勝っていた」のだそうだ。
ゴアは自身の勝利を信じて、フロリダの票の手集計による数え直しを求める訴訟まで起こし、それが連邦最高裁の判決で退けられてもなお、多くの民主党指導者がゴアの勝利を主張していた(人権活動家の牧師ジェシー・ジャクソンは、裁判所に手集計が認められなくても情報公開法を利用して独自に集計をし「大統領就任式の(2001年)1月20日以前にゴア氏が(フロリダ)州内で最も得票したことを突き止める」とまで言っていた。読売新聞2000年12月14日付朝刊6面「米大統領選 ゴア氏、決断の一夜 苦渋の再集計要求断念 敗北宣言へ」)。
が、なぜかゴア本人が最高裁判決のあとあっさりブッシュに勝ちを譲り、その彼の譲歩に全米のマスコミや有力者の大半が同調して、2008年現在まで続くご存知ブッシュ共和党政権が誕生した(駐日米国大使館Web 2004年「米国の選挙手続き」)。
「あれだけ発達したマスコミがあり、教育水準の高い国民がいて、(政治に関心のある)金持ちが大勢いるのに、あんなウソがまかり通って、本来大統領になれないはずのやつが大統領になってしまうのは、ウラに何か(取り引きが)あったと思わざるをえない。そして、何かあったのなら、民主党側は今後(2006年11月の中間選挙か2008年1月の大統領選挙で)、『借りを返せ』と要求するはずだ」とDは言い、2008年の米大統領選を占うのに必要なインサイダー情報の収集にはいった。
Dは「2008年の大統領選では米民主党が勝って米国の外交方針が大きく『内向き』に転換する」と予測し、その大統領選の共和、民主両党の候補者がだれになるかを知りたがった。この時点で、Dは「共和党からは(黒人女性の)コンドリーザ・ライス(米国務長官)、民主党からは(前大統領夫人の)ヒラリー・クリントンが、それぞれ立候補する可能性が高いと見ていた。
数週間後、2005年12月、筆者がふたたびDに会うと、Dは「インサイダー情報なんて(日本の政策立案には必要不可欠なものだけど)、つかんでしまえば簡単なもんだな」と言い、「ヒラリーが大統領選に立候補するなら、ライスは出ないんだってさ。だから、2008年の勝者はヒラリーだ」と自身でつかんだ情報に基づいてあっさり断言した。
これはもはやDの「予測」ではない。共和、民主両党を仲介できる立場にある米政界有力者たちの「予定」である。つまり、永田町・霞が関の中枢にあって日本の国益を守るために具体的な政策立案をしなければならない立場の者たちは、当たるか当たらないかわからないマスコミや政治学者の予測に頼って政策を準備することはできない、ということだ。Dとその「同僚」たちは、2000年の米大統領選の結果から、米政界では2大政党の間に「談合」があるのではないかと疑い、インサイダー情報を収集してそれを確かめ、それに基づいて「2008年の米大統領選の勝者は民主党員のヒラリーだから、それを前提に対米政策を準備すべし」という結論を得たのである。
●メイフラワーファミリー●
そんなバカな! そんなのは単なる「陰謀論」だ!……と政治学者や評論家は言うだろう。しかし、Dは「現実の政治・行政に責任を持つわれわれは、机上の空論を言っても商売が成り立つ評論家(や政治学者)とは立場が違う」と言い切る。じっさい、官僚や与党の政治家は自分たちしか知り得ない重要情報をしばしば表に出さないため、彼らのうち、公式発表情報をもとに意見を組み立てる学者や評論家に本気で忠告を求めるのは、せいぜい入省年次や当選回数の浅い「下っ端」だけだ。
たとえば、トップクラスの外務官僚は、対北朝鮮外交に関して学者や評論家の意見を参考にする気はまったくない。 なぜなら、北朝鮮当局が「すでに死亡した」と発表した日本人拉致被害者のほんとうの生死を、外務官僚のトップは正確に知っているが、学者や評論家は知らないので、学者や評論家の多くは「全員生きているという前提で外交交渉をすべきだ」などと、とんちんかんな「忠告」をするからだ(小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」、同7月3日「ニセ遺骨鑑定はニセ〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』」)。
【もちろん彼らは(学者と違って)2006年秋以降の中朝国境がどうなっているかも知っており(小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」、『週刊文春』2006年11月9日号 p.p 40-41「開戦前夜 『中朝国境』もの凄い修羅場」 )、したがって当然、北朝鮮が開発しているとされる核兵器(?)やミサイルが日本にとってなんの脅威でもないことも知っている(小誌2006年10月16日「北朝鮮『偽装核実験』の深層〜最後は米朝同盟!?」)。】
ところで、ブッシュとゴア、ライスとヒラリー、つまり共和党と民主党を仲介した米政界の有力者とは何者だろうか。Dによると、それは「米国のロイヤルファミリー」だそうだ。Dはそれを、欧州から最初の移民船「メイフラワー号」に乗って(独立前の)米国に移住したとされる白人プロテスタント移民の子孫という意味で「メイフラワーファミリー」と呼ぶ。
【1620年にメイフラワー号に乗って英国から米国に移民した者たちは米国内では「ピルグリム・ファーザーズ」と呼ばれ、その子孫や親戚の総数はいまや全米で1000万人に増えているとも言われるが、もちろんその全員が「ロイヤルファミリー」としての権威や権力を保持しているわけではない。】
●メガチューズデー●
2008年1月の時点で米民主党の大統領候補はヒラリーか、黒人男性のバラク(バラック)・オバマ・イリノイ州選出上院議員かの2人に絞られており、民主党の候補に選ばれた者は、本選では共和党候補と事実上の「一騎打ち」をするのだから、ほとんど何も考えないしろうとブロガー(ブログの執筆者)が現時点で「2008年米大統領選の勝者はヒラリー」という予測をブログ(blog)に書いても、確率1/4以上で当たることになる(したがって、そんなことを予測しても意味はない)。
しかし、ヒラリーが当選するかどうかではなく、「ヒラリーが当選する場合に予備選や本選でどんなことが起きるか」を予測して当てることができれば、それはまぐれ当たりとは言えないので、その予測方法は今後国際政治を分析するうえで重要なツールとなるだろう。
さて、そのような意味のある予測をするには、まず、米大統領選の、とくに予備選(党員集会)から全国大会に至る党ごとの、候補者選びの過程がどのようなものであったか(どのような不正工作が可能か)を正確に確認しておく必要がある。
2008年米大統領選は、同年1月3日のアイオワ州での党員集会と、その直後、1月8日のニューハンプシャー州予備選を皮切りに、全米各州で順次、共和、民主両党がそれぞれ別々に予備選または党員集会を行って、党内の候補者を絞り込むところから始まる。この党内の予備選(党員集会)も各州ごとに、州の共和党支部、民主党支部からそれぞれ、大統領候補を決める共和党全国大会(9月)、民主党全国大会(8月)に州を代表して派遣される代議員を選ぶ戦いである。
各州ごとの代議員数は州ごとの人口にほぼ比例しており、党ごとに州内で最高得票を得た候補者が州の代議員を全員獲得する「勝者総取り」方式を採っている州支部が多いので、これは「本選」とかなりよく似たしくみの選挙である。但し、本選が全米50州で一斉に投票するのに対し、予備選(党員集会)は、州によって投票日がばらばらである点が異なる。
州によって投票日がばらばらであるため、大統領選の年の1月、2月など早い段階で予備選(党員集会)を行う州の動向は全米の注目を集めるが、すでに大勢の代議員の投票先が決まって大勢が決したあとの3月下旬以降の予備選(党員集会)は注目されず、あまり意味がない、ということになる。
1861〜1865年の南北戦争の敗者である、旧南部連合政府加盟の南部諸州は、一度米国から出て行った経験があるという意味で「非主流派意識」を共有しており、現在の米政財界を牛耳る東部、北部の有力者(エスタブリッシュメント)層に対して、結束して対抗したいという意識が強いため、ロナルド・レーガン共和党政権が2期8年にわたって国防予算を膨張させ、米軍基地や軍需産業のある州の経済を他の州に比べて不均等に潤したあと、1988年の大統領選で、おもに南部民主党指導層が「南部諸州の予備選(党員集会)の日程を同じ日に集中させることによって、南部の発言力を高めよう」と考えた。その結果これ以降毎年、3月上旬の火曜日に、多数の南部の州が一斉に予備選(党員集会)を行うようになり、これはスーパーチューズデーと呼ばれ、予備選の最大の山場となっていた。
ところが、なぜか今年2008年は、南部諸州をはじめさらに多くの州の共和、民主両党の予備選(党員集会)がさらに前倒しされ、北部のニューヨーク州、イリノイ州、西部のカリフォルニア州など人口(代議員)の多い「大票田」もその動きに加わって、2月5日(火曜日)に早々と山場(というより事実上の最終決戦)を迎えることになった。この日は「スーパー」の上を行くという意味で「メガチューズデー」と呼ばれる。
まず、この「メガチュ−ズデー」ができたことが、「メイフラワーファミリーの陰謀」である疑いが濃厚だ。なぜなら、あまりにも多くの州で同時に予備選(党員集会)が行われると、多数の州でCM料金などの選挙費用を同時に支出しなければならないので、その時点で資金力が十分にある候補が有利に、そうでない候補が不利になるからだ(おそらくこの日までに、民主党大統領候補の「三番手」であるジョン・エドワーズ上院議員は振るい落とされるだろうと思っていたら、案の定「撤退宣言」をした。2008年1月30日放送のフジテレビ『ニュースJAPAN』)。
全米各地でさみだれ式にぽつりぽつりと予備選が行われれば、たった1つの州で勝つことで全米の注目を集めて草の根の支持者から献金を集めるという方法が使えるが、メガチュ−ズデーのある今年2008年には、そのようなシンデレラストーリーが成立する機会は例年より大幅に少なくなる。
そして、民主党の候補者のなかでもっとも資金力の豊富な候補者が(2007年7月以降は)ヒラリーなのだ。
【また、ジュリアーニの娘が「父親を裏切って」オバマの応援をする、という「家族ぐるみの八百長」を疑わせるような動きもあった(共同通信2007年8月7日付「父親に造反、オバマ氏支持 米共和党有力候補の娘」)。
もしかすると「ジュリアーニ一家」はブルームバーグの共和党離党を聞いた瞬間にメイフラワーファミリーの力を感じてやる気をなくし、撤退のタイミングをはかり始めたのではあるまいか。ジュリアーニが党内屈指の選挙資金を持ちながら、序盤戦のアイオワ州、ニューハンプシャー州にあまり資金を投入せず、故意に「桶狭間」を避けて「忘れられた候補者」に転落したのは、いかにも不自然である(朝日新聞Web版2008年1月26日「ジュリアーニ氏、苦境に 米大統領選 フロリダ集中裏目」、産経新聞Web版2008年1月29日「共和党・ジュリアーニ氏が選挙戦撤退も フロリダ州予備選」)。】
【『天使の軍隊』など拙著の多くは、小誌読者の皆さんに、発売直後に紀伊國屋書店新宿本店のみでの購入をお願いする「桶狭間の奇襲戦」)キャンペーンによって紀伊國屋本店の「週間ベストセラー」のランキング入りを狙い、大勢の皆様のご協力を得て奏効して来た(その節は有り難うございました)。
これをお願いする理由は、本店のランキングが全国の支店および紀伊國屋以外の中小書店に対して影響力があるため、本店でランク入りすれば、全国で注目を集めることができるからだ。
1984年の米大統領選の予備選では、民主党のゲーリー・ハート上院議員が、乏しい選挙資金を最初に候補者選びの行われるアイオワ州とニューハンプシャー州に集中してその2州での得票を劇的に増やし、それによって全米の注目を浴びて個人献金を集め、一時的ながら有力候補に浮上し、「ハート旋風」を巻き起こしたことがある。
つまり、米大統領選におけるアイオワとニューハンプシャーは、紀伊國屋書店チェーンにおける新宿本店なのだ。】
メイフラワーファミリーの1人1人が「草の根市民」のフリをして、あるいは親戚や知人を動員して、ヒラリー候補相手に「個人」としてあらかじめ多額の献金をしておき、それと平行して各州の政党支部に働きかけて、いつもより多めに予備選(党員集会)を前倒しさせれば、ヒラリーが民主党候補に指名される確率を高めることは、現実的に可能だ。したがって、2008年におけるメガチューズデーの出現は単なる偶然とは言い切れない。
南部諸州は黒人人口が多いので、従来どおりの南部中心の「スーパーチューデー」なら、黒人のオバマが有利に決まっている。ところが今年2008年、これに北部のニュージャージー州や、ヒラリーが(オバマに対しては)勝つことが確実な彼女の地元、ニューヨーク州の民主党予備選が加わったことで、「オバマ、スーパー(メガ)チューズデーを制す」の見出しが新聞に載る確率は一気に低下した。
また、TVの全米3大ネットワークの本社がいずれもニューヨークにあるため、この日ヒラリーが南部でいくら負けても、ニューヨーク州で勝ちさえすれば、それは3大ネットにとって大ニュースであるため、TV報道の見出しが「ヒラリー、南部を落とす」になる確率も低くなる。
したがって、メガチューズデーの出現は、ヒラリーを利することはあっても、オバマを利することはありえず、だれかが仕組んだものだとすれば、それは間違いなく「ヒラリーのため」なのだ。
●対オバマ敗北保険●
しかし、米国民は映画『ロッキー』のようなシンデレラストーリーを「(真の)アメリカンドリーム」と呼んでこよなく愛し、「努力する者はだれでも公平に勝つチャンスが与えられるべきだ」と信じている。各州の政党支部が全米で一斉に予備選(党員集会)をしないのは、資金力のある候補者だけが有利な制度を嫌い、大統領もシンデレラストーリーで選ばれるべきだと思っているから、にほかなるまい。
だからもちろん、ヒラリーのライバルであるオバマが、「黒人初の合衆国大統領誕生」というシンデレラストーリーの実現を期待する多くの国民、党員の支持を得て、ヒラリーより多くの代議員を獲得することは十分にありうる(というか、現実に、黒人人口の少ないアイオワの党員集会でオバマが勝った直後は、全米で彼が「奇跡」を起こすことへの期待が沸騰していた。産経新聞Web版2008年1月10日「人間味演出した涙 クリントン大逆転の背景」)。
が、そうなった場合でもなおヒラリーが勝つような伏線が、すでに張られている。 実は、全米50州のうち2州の民主党支部が、民主党全国委員会の許可を得ずに勝手に予備選を前倒ししたため、党全国大会に代議員を送る権利を失ったのではないかと見られており、オバマもその考えをとっているが、ヒラリーはそれに同調していない。
その2州とは、ミシガン州とフロリダ州だ(またしてもフロリダ!?)。1月15日と29日に前倒しされたミシガン、フロリダ両州の予備選については、オバマもヒラリーもはまったく選挙運動をせずにパスしたが、両州ともにヒラリーが圧勝し、州選出代議員を獲得した……と両州内ではみなされている(産経新聞Web版2008年1月13日「米大統領選 焦点のメガ・チューズデー 選挙制度の違いが影響も」、同1月30日「ヒラリー氏、代議員“不在”のフロリダで勝利宣言」)。
【フロリダ州の民主党支部とヒラリーは、フロリダ州予備選の投票総数がそれまでの最高記録(1988年の127万票)を大幅に上回る史上空前の172万に達したという「民意」を背景に、党全国委員会が無効にした代議員資格の復活を要求する模様だ(毎日新聞Web版2008年1月30日「米大統領選:投票者数過去最高 候補者不在のフロリダで」)。筆者は、このフロリダ(ミシガン)の要求は通ると考える。理由は、党全国委員会がフロリダ州支部の要求を無視すると、フロリダ州の民主党支持者は11月の大統領選の本選で棄権するか、共和党支持にまわって「造反」する恐れがあるからだ。フロリダの本選における大統領選挙人は27人(ミシガンは17人)と多く、これを失えば、民主党は本選で勝つのが難しくなるので、党全国委員会はそれを考慮せざるをえまい。】
となると、たとえこの2州を除く他の48州でオバマの獲得代議員数がヒラリーのそれを上回った場合でも、この2州の代議員の(党全国大会における)投票権を党全国委員会で再吟味して有効とすることでヒラリーに逆転勝ちをさせることができる、ということになる。
【州選出代議員の票(1人1票)で大差がつかなかった場合は、予備選結果に拘束されない特別代議員(スーパー代議員)の投票(こちらも1人1票)を加算して雌雄を決することになる。この特別代議員は上下両院議員や党幹部なので、彼らの票の獲得競争になると、夫が元大統領で党中央やワシントン政界に強い人脈を持つヒラリーが断然有利になる(これを日本語では「永田町の論理」という)。
(>_<;) 】
ヒラリーが劣勢の場合、全米に何千万人もいる民主党員や民主党の支持者を動かして「負けるはずのヒラリー」を勝たせるのは容易ではない(そんな推理は取るに足らない陰謀論だ)。しかし、メガチューズデーへの予備選の集中や、ミシガン、フロリダ両州の不当な予備選前倒し、および両州の前倒しの「再有効化」は、民主党の各州支部や全国委員会の、少数の幹部に働きかけるだけで比較的容易に実現できる。
したがって「米民主党では、一部の、少数の幹部が予備選(党員集会)の日程を操作することによって、オバマでなくヒラリーが勝つように工作した」と推測することは、けっして「荒唐無稽な陰謀論」ではない。
●対共和党敗北保険●
ところがヒラリーには、党全国大会でオバマに勝って民主党大統領候補に選ばれても、そのあと11月の本選で共和党の候補に勝てる保証はない。というか、ジンクスで言えば負ける可能性が高い。
ヒラリーは(オバマも)上院議員だが、上院議員(経験者)は1960年のジョン・F・ケネディ以来、大統領選に勝ったことがない。理由は上院での議員としての投票記録だ。
下院議員は国民の代表として各州の人口に比例して定数配分がされているので大勢いるが、上院議員は州の代表として州の人口に関係なく各州2人ずつ選出されるので人数が少なく、その法案や決議案への賛否は「州の意志」として記録され、公表される。このため上院議員は、人工妊娠中絶や銃規制、同性婚など、米国民の意見が大きく割れている問題でどちらに与したかが一目瞭然であり、(それらの問題への賛否を明確に表明せずに済ますことのできる知事や市長と異なり)それぞれの賛否をこころよく思わない側の多くの国民の反感を買う恐れがある。だからこそこの47年間、大統領選を制した上院議員はいないのだ。
となると、ヒラリーが共和党候補に勝つには、また何か仕掛けが要ることになる。
共和党の有力候補のうち、ジョン・マケインはアリゾナ州選出上院議員だが、「9.11」米中枢同時テロの際の危機管理が評価されて国民的人気のあるジュリアーニは前ニューヨーク市長だ。ヒラリーの「地元」は上院議員としての選挙区であるニューヨーク州だが、地元で負けた候補が大統領になった例はないので、ヒラリーにとって、もっとも戦いたくない相手は上院議員でないジュリアーニだっただろう。
ところが、ここにも「保険」がかかっていた。
なんと現ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが共和、民主両党と無関係に無所属候補として大統領選の本選にいきなり出馬するという動きがあるのだ(すでに2007年6月、ブルームバーグは共和党を離党している(時事通信2007年12月31日付「ブルームバーグNY市長、大統領選出馬模索か 米紙報道」)。彼が出馬すれば、ジュリアーニから共和党支持者の票を奪うので、間違いなくヒラリーが有利になる(はずだった)(この場合、ヒラリーはニューヨークでの一般投票の得票率が50%未満でもニューヨーク州の大統領選挙人全員を獲得できる)。
【また、ジュリアーニの娘が「父親を裏切って」オバマの応援をする、という「家族ぐるみの八百長」を疑わせるような動きもあった(共同通信2007年8月7日付「父親に造反、オバマ氏支持 米共和党有力候補の娘」)。もしかすると「ジュリアーニ一家」は、ブルームバーグの共和党離党を聞いた瞬間にメイフラワーファミリーの力を感じてやる気をなくし、撤退のタイミングをはかり始めたのではあるまいか。ジュリアーニが党内屈指の選挙資金を持ちながら、序盤戦のアイオワ州、ニューハンプシャー州にあまり資金を投入せず、故意に「桶狭間」を避けて「忘れられた候補者」に転落したのは、いかにも不自然である(産経新聞Web版2008年1月29日「共和党・ジュリアーニ氏が選挙戦撤退も フロリダ州予備選」)。】
マケイン、ジュリアーニ以外の共和党の有力候補としては、2007年11月下旬に突如浮上したマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事がいる。彼は2007年10月までは完全な泡沫候補だったが、同年11月のアイオワ州における世論調査でなぜか(「桶狭間」をやったから?)支持率が急上昇して共和党候補のなかで1位になり、一躍有力候補の仲間入りをはたした(産経新聞Web版2007年12月1日「ハッカビー株急伸 牧師、中絶反対、ロックバンド…」)。
しかし、彼の地元は、いまだに米国民のあいだに根強い人気のあるヒラリーの夫、ビル・クリントン前大統領が州知事をしていたアーカンソー州なので、ハッカビーは、たとえ共和党候補に選ばれたとしても、地元で前大統領の人気に押されて手痛い敗北を喫するに違いない。
【そもそも共和党が、勝てそうもない選挙区で州知事をしていた人物を、にわかに「シンデレラボーイ」として浮上させたこと自体「八百長」の疑いが濃厚だ。また、ジュリアーニは1月30日にマケインへの支持を表明して結局撤退したが、それでもなおブルームバーグが無所属で大統領選に立候補するなら、それも(マケインから保守票を奪って)本選でヒラリーを利する効果を持つので、やはり八百長と考えられる。
このような「八百長候補」の例としては、2000年の大統領選に無所属で立候補して、リベラル派のゴアの票を奪って、保守派のブッシュを有利にした環境保護派の有名弁護士、ラルフ・ネーダーがいる。彼は、同じく環境保護を掲げるゴアの支持者から「環境汚染派」のブッシュを利することになるので出馬しないでくれと反対されたにもかかわらず、平然と無視した。】
以上から判断すると、2008年11月(4日)の米大統領選では、2005年12月にDが得たインサイダー情報のとおり、ヒラリーが勝つだろう、という結論にならざるをえない。
もっとも、この場合のヒラリーの勝利は、2002年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会「韓国対ポルトガル戦」における韓国の勝利のようなもの、つまり「当局の予定に現実を合わせるための不正工作」であって(小誌2002年6月13日の試合前日の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)、とても自慢できるものではないのだが。
(>_<;)
【もっとも、オバマらの有力候補が、ヒラリーに「保険」がかかっていることを悟って、早々と敗北宣言をした場合は、見かけ上トリックは「発動」されずに「民主的に」勝者が決まることになる。】
上記の「韓国対ポルトガル」戦の前日に「韓国が勝つ」と予言(期待)した者は(おもに韓国国内に)何千万人もいただろうが、それは予言的中でもなんでもない。重要なのは、筆者のように「審判がヘンな判定をして韓国が勝つ」と事前にトリックを見破って予測することなのだ(小誌前掲記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」)。
小誌が2006年9月の安倍晋三内閣発足前後、あるいはそれ以前の段階で「近々福田康夫内閣が誕生する」という予測(でなくて、Dなど一部の人々の「予定」)を紹介した時点でそれを信じる人はほとんどいなかったが(小誌2006年9月18日「ポスト安倍〜10か月後に『2年限定政権』へ」、同4月24日「『福田総裁』当確〜小沢民主党の政局化学反応」、2005年2月10日「●ポスト小泉」)、周知の如く、2007年9月、現実に「予定どおり」の福田内閣が発足している。
米国でも日本でも、民主主義などというものは、しょせんその程度のものなのだ。
【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】
【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】
【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】
【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
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