福田康夫首相退陣の謎
〜福田首相退陣は政界大再編の前兆?〜
東京地検特捜部は2008年中にも、新銀行東京の不正融資に関与した容疑で公明党関係者多数を逮捕する可能性がある。公明党はその前に衆議院の解散・総選挙をやらせるために、給油法案に反対して福田康夫首相を退陣に追い込んだが、いま(2008年9月)から1年後の与党は「自公」ではあるまい。
小誌は安倍晋三政権発足前の2006年9月の時点で「次に福田康夫を首班とする2年限定の『暫定』政権ができる」と予言(でなくて科学的に予測)していたので(小誌2006年9月18日「ポスト安倍〜10か月後に『2年限定政権』へ」)、福田政権が短命でもさほど驚かないが、それでも1年で終わるとは思っていなかったので、2008年9月1日の福田首相の辞任表明は、エイプリルフールが9月1日に移ったかと思うほど驚いた。
●公明党の「給油法案」妨害●
なぜこんなことになったのかと考えてみると、その直前に、福田首相(自民党総裁)に対して、自民党と連立政権を組む与党、公明党が、少数政党のくせに急にかなり「生意気」になっていたことに思い当たる。
安倍は2007年9月の日米首脳会談でジョージ・W・ブッシュ現米大統領から「拉致問題で協力してほしかったら、テロ特措法に基づくインド洋上での米軍などの艦船への海上自衛隊の給油活動を、切れ目なく継続してくれ」と要求され、民主党が同法案の延長に反対する中、安倍自身が無責任に臨時国会の召集時期を9月にまで遅らせ、同法案が期限切れになる11月までに延長法案が成立するように国会会期を設定できなかったことが原因で退陣した(小誌3007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」)。
当時もいまも、連立与党は2007年夏の参議院通常選挙に惨敗した結果として参議院では過半数を持たないものの、衆議院では2/3以上の多数を持っているので、憲法59条の規定により、衆議院で延長法案を可決して参議院に送ってしまえば、それが参議院で否決された場合はもちろん(憲法59条第2項)、その後60日間参議院で採決されなくても、衆議院で再可決して成立させることができる(59条第4項の「60日規定」)。
つまり、安倍が2007年8月上旬に早々と臨時国会を開いてさっさと延長法案を衆議院で可決しておけば、11月の期限切れまでに同法案を成立させて、切れ目なく給油活動をすることは簡単にできたのに、無能で無責任な安倍はそうはしなかったのだ。
その安倍が、その無責任さを米国に突かれて退陣したあとに出て来たのが福田政権なのだから、福田にとって、テロ特措法の延長が失敗したあと、給油活動を再開させるために作った法案「給油法案」は何よりだいじなはずだ。安倍と違って日米同盟を重視する福田は、テロ特措法と同じ趣旨で1年ごとの時限立法になっている給油法案を2009年1月の期限切れ前に、衆議院で連立与党が持つ2/3以上の議席を使って延長すべく、臨時国会を8月中に召集して会期を90日とし、開会から30日以内に給油法案を衆議院で可決して、「60日規定」を使って(2/3の再可決で)成立させようと考えた。
ところが、公明党は、給油法案の延長継続に反対し、衆議院で公明党が賛成しなければ2/3に達しないことを背景に、臨時国会の召集を9月12日に遅らせ、会期を70日に短縮するように自民党に求め、むりやり呑ませてしまった(共同通信2008年7月23日「対テロ法案先送り検討を 公明幹部、来年通常国会へ」)。
臨時国会の開会冒頭には、首相の施政方針演説や各党幹部の代表質問が行われることになっており、9月下旬には日本の首相は国連総会で演説する予定もあるので、たとえ9月12日に召集しても、給油法案の延長法案の審議入りは、会期が20日近く経過したあとの10月上旬になると予想された。つまり、70日の会期では憲法59条(の「60日規定」)を使った延長法案成立のメドは立たないのだ。
公明党が(2008年1月の給油法案には賛成したくせに)2008年7月になって急に反対し始めたのはなぜか。
これには諸説あって、「公明党は元々、宗教法人の創価学会を支持基盤とする『平和の党』であって、軍事活動の法案に賛成したくないから」などという偽善的なタテマエ論から、「長く国会を開いていると、創価学会の腐敗を告発する矢野絢也(じゅんや)元公明党書記長を民主党が国会に参考人招致して『宗教の政治介入』を追及される恐れがあるから」というホンネに近いと思われる説までが語られている(産経新聞Web版2008年8月19日「元公明党委員長・矢野問題 『徹底追及』を指示、民主・小沢代表」)。
●新銀行東京スキャンダル●
しかし、公明党にはもっと特異な事情があったように思われる。
2008年3月、石原慎太郎東京都知事の発案で2005年に設立された「新銀行東京」が、巨額の赤字を抱えて破綻寸前であることが判明し、その原因として東京都議会議員たちの紹介による(地元選挙区の中小零細企業への)融資、いわゆる「口利き融資」が取り沙汰された。そこで、読売新聞が都議全員に「口利き」をしたかどうかアンケート調査をしたところ、自民党6人、民主党2人のあわせて8人の都議が口利きを認める回答をしたが、公明党都議は22人全員がアンケートへの回答を一切拒否した(読売新聞2008年3月21日付朝刊39面「新銀行東京の都議アンケート 再建計画、自民も懐疑的 『十分可能』2人だけ」)。
新銀行東京は慎太郎の発案で生まれたが、べつに「トップダウン」で決まったのではない。都民の税金を原資に「都営銀行」を設立するには、そのための予算案が都議会が可決されなければならないからだ。そして、2005年の設立前の都議会で、設立を認める予算案、条例案に都議会の自民党、公明党、民主党が賛成している。
その後、民主党は慎太郎(息子2人は自民党国会議員だが、本人は無所属)と距離を置き、2007年の都知事選では、慎太郎を支持せず対立候補を立てた。が、少なからぬ民主党都議会議員はかつては自民党、公明党の都議とともに「石原与党」であり、新銀行東京の設立(2005年4月)に賛成したことを自らの手柄として、設立3か月後(2005年7月)の都議会議員選挙で有権者に訴えていた。
その際、自公民3党の少なからぬ都議、および衆参両院議員が自らの支援者に「新銀行を紹介できる」と請け合い、実際に融資を斡旋(あっせん)した、という自民党衆議院議員の暴露証言がある(『サンデー毎日』2008年3月30日号 p.p 26-28 「都議選向け『デタラメ口利き融資』が浮上 『ゴーマン石原銀行』は即刻退場せよ!」)。
【このほかに、慎太郎知事(無所属)周辺の秘書ら側近や、知事の息子の宏高衆議院議員(自民党)による口利きも少なくない、という週刊誌報道もあった(『週刊朝日』2008年7月17日号 p.p 17-22 「内部記録は語る『石原都知事ファミリー』 『口利き案件』 追及、新銀行東京」)。】
筆者は、2008年3月当時、これらの報道を見て思った、
「もし東京地検特捜部がこの口利き融資に違法性を見出して本気で摘発すれば、自公民3党の都議、国会議員が多数逮捕されて3党とも国民の支持を失うから、口利きに関与した議院が大量に離党するか、口利きに関与しなかった『潔白な』議員たちが離党して新党を作るしかなく、結果的に『政界再編』が実現するだろう」と。
2007年秋頃、筆者が福田政権の実現に尽力した永田町関係者Zに会った際、Zは、2007年夏以来の、衆参両院で国会の多数派が異なり、法案が容易に通らない「ねじれ国会」の現状について、「答えははっきりしてるんだ。もう政界再編するしかないだろう」と言っていた。
Zは検察にもパイプのある人物である。2008年にはいって、上記の新聞や週刊誌の報道を読んだ筆者は「それなら、検察に頼んで、新銀行東京の口利き融資を摘発してもらえばいいいではないか」と思った。が、同時に、それは無理だろうとも思った。
慎太郎が2007年の都知事選立候補に際して「2016年夏季五輪の東京招致」を公約に掲げて(連続3期目の)当選をはたしているからだ。彼は2007年以降、公約どおり、五輪招致活動を活発化させ、2008年6月、東京都は国際オリンピック委員会(IOC)から、施設面などで最高の評価を得て正式に候補都市に選ばれた(JOC Web 2008年6月4日「2016年オリンピック招致活動の紹介」)。
五輪招致の中心人物が都知事であることはだれの目にも明らかなので、検察(政治家の汚職をおもに担当する東京地検特捜部)が、慎太郎を逮捕すれば、それは全世界のスポーツ関係者に衝撃的なニュースとして流れ、その瞬間に東京五輪実現の可能性はなくなる。
五輪には国威発揚から経済振興までさまざまな「国益」がつきまとうので、検察は自らの一存でその可能性を断つことを躊躇するのではないか…………というか、慎太郎は検察が国益を考えて逮捕を逡巡することを期待して、いわば「五輪招致を人質にとる」ことで、自らの逮捕を免れようとしているのではないか。
2016年夏季五輪の開催地は2009年10月、コペンハーゲンで開かれるIOC総会の投票で決まる(JOC Web 前掲記事)。したがって、東京地検特捜部が慎太郎や自公民3党の議員を逮捕するのは2009年10月以降だろう、と筆者は思っていた。
●検察リーク●
ところが、地検は、東京五輪招致の可否が決まる前に、新銀行東京スキャンダルの摘発に乗り出す意志を固めたらしい。
2008年9月になって、同スキャンダルについて「検察リーク情報」としか思えない記事が、大手マスコミに相次いで登場したからだ。
1つは、読売新聞の記事。
公明党の現職都議と元都議が、2005〜2006年に、それぞれ破綻寸前の中小企業を新銀行東京に紹介して、その見返りに政治資金などの報酬を受け取って融資を実現させたが、2つの企業は融資を受けたあと事実上破綻してしまった、という(読売新聞Web版2008年9月4日「公明都議、献金後融資口利き…元都議は相談役報酬100万円」)。
もう1つは、『週刊朝日』の記事。
公明党の都議、元都議、国会議員らあわせて35人の200件以上におよぶ口利き融資の実態を、一部(約70件)の具体例を挙げながら告発している(『週刊朝日』2008年9月12日増大号 p.p 150-155 「公明党の『口利き案件』」)。
読売新聞と『週刊朝日』の上記記事の担当記者には失礼だが、筆者は、上記の2つの記事は元々記者が自力で「発見」したニュースではなく、同じ情報源、すなわち地検特捜部からリークされた情報に基づく記事であろうと推定する。
理由は、2つの記事が極めて不自然に、公明党の「邪悪さ」のみを強調しているからだ。
口利き融資の斡旋は、中小企業を支持基盤とする政治家ならだれでもやることで、そういう政治家は、自民党にも公明党にも、数は少ないが民主党にもいる。それなのに、上記の記事は2つとも、自民党や民主党の政治家についてはひとこともふれていない。
とくに怪しいの『週刊朝日』だ。
「(新銀行東京の)内部データによれば、600件超ある“口利き”案件のうち、公明党関係者による件数は200件を超えている。実に3件に1件の割合なのだ」(『週刊朝日』前掲記事 p.150 )などと、いかにも公明党が諸悪の根源のように書いているが、単純な引き算でわかるとおり、公明党以外の政治家が斡旋した口利き融資案件は約400件もあるのだ。もしそのうち300件が自民党関係者によるものなら、最大の悪党は自民党ということになるではないか。
ところが、どういうわけか、両記事ともに自民党政治家の「口利き」の違法性や摘発の可能性には一切ふれていない。
両記事の担当記者が自分の足で歩きまわって新銀行東京の問題を調べた結果、たまたま偶然、公明党関係者に限っては、具体的に贈収賄や政治資金規正法違反で摘発されそうな案件ばかりがみつかり、自民党関係者の摘発されそうな案件は1つもみつからなかった、ということか…………そんな偶然があるわけはない。上記の2つの記事は、それぞれの担当記者の取材の成果ではなく、単に東京地検特捜部の「捜査の方針」を告げているだけではないのか。
【検察が、東京五輪招致の中心人物である慎太郎の逮捕につながりかねない新銀行東京のスキャンダル摘発を、2016年夏季五輪開催地を決めるIOC総会の前にもやろうと決めた理由は、2008年夏の東京の気象が影響しているかもしれない。
東京五輪開催が決まった場合は、日本は開催国特権で野球とソフトボールを正式協議に戻すだろうし、その場合は東京ドームや西武ドームを使って野球を開催するだろうが、他の屋外競技はどうするのだろう。ソフトボールは雨が降れば中止だし、陸上競技とサッカーは雨が降ってもやることになってはいるものの、2008年夏に東京に限らず日本中で猛威を振るった、落雷を伴う「ゲリラ豪雨」に襲われた場合は、おそらくまともに競技を実施することはできまい。現に、2008年7月29日に東京で行われた北京五輪サッカー日本代表の壮行試合(対アルゼンチン五輪代表戦)は、後半39分、雷雨のため中止されている(スポーツナビ2008年7月29日「試合速報/詳細 U-23日本 対 U-23アルゼンチン - キリンチャレンジカップ2008」)。
つまり、現在の気象条件では、東京で夏季五輪を開催しても日程の維持が困難で、開催自体が極めて難しいと推測されるのだ。
検察当局はこのことに気付いたので、五輪招致を無視してスキャンダルの摘発に動いたのかもしれない。
が、すぐに慎太郎が逮捕されるかどうかまでは、現状では判断できない。】
●大連立騒動の背景●
2007年12月、「ねじれ国会」で法案が通らない膠着状態を打開するため、福田康夫首相は民主党の小沢一郎代表と会談し、衆議院の与党第一党の自民党と、同じく衆議院の野党第一党の民主党が連立政権を組む「大連立構想」で合意した。が、小沢が合意内容を民主党に持ち帰ったところ、民主党内部の反発を買い、結局この構想は挫折した。
当時から、この「大連立劇」をプロデュースし、福田と小沢の党首会談を実現させた黒幕として名前が挙がっていたのが、ご本人がTVなどで告白したこともあって、渡邉(渡辺)恒雄・読売新聞グループ本社会長、前回も小誌に登場したご存知「ナベツネ」だった(産経新聞Web版2007年12月22日「読売・渡辺恒雄氏『大連立の動き出てくる』」)。
「大連立」というのは、自民党が公明党を棄てて民主党との連立に乗り換えるという意味である。
そして、新銀行東京のスキャンダルが初めてマスコミに登場したのが2006年末なので、おそらくそれ以前に東京地検特捜部は、新銀行東京スキャンダルが立件可能であることも、立件した場合政界への影響が甚大であることもわかっていたはずである。
2006年末に発売された『週刊現代』の記事は、上記の読売新聞や『週刊朝日』の記事と違って、はっきり検察情報と断ったうえで、「新銀行東京スキャンダルは、横領や背任などの罪状が適用し難い事案なので、前例のない法解釈を行ったうえで『前例のない態勢』を敷いて臨むことになる」という趣旨の予測を述べているからだ(『週刊現代』2007年1月6-13日合併号 p.37 「石原慎太郎“都政私物化”に新疑惑」、小誌2007年2月1日「石原慎太郎不出馬?〜逮捕を恐れて07年都知事選を辞退か」)。
おそらく、読売グループは、ナベツネが大連立工作の仲介に乗り出した2007年12月の時点で、検察が新銀行東京スキャンダルの捜査方針を「公明党関係者を中心に立件する」と決めたことを知ったのではあるまいか。そう知っていたからこそ、ナベツネは、大連立という名の「公明党はずし」による政界大再編を画策したのではあるまいか。
【つまり、大連立の真の黒幕は検察であって、ナベツネは単なる「パシリ」なのではあるまいか。】
検察当局、とくにその政治家逮捕の「実行部隊」である東京地検特捜部は、極めて恣意的に権力を行使することで知られている。1970年代には、米ロックフェラー系の国際石油資本を怒らせる形で、産油国から日本への石油直接輸入や、石油に代わる代替エネルギーとしての原子力開発や、オーストラリア(豪州)でのウラン開発を推進した田中角栄元首相を、「米国議会に間違って配達されたロッキード社の内部資料」をきっかけに米国で惹起された航空機輸入スキャンダル、「ロッキード事件」で強引に立件し、角栄を日米関係維持のための「人身御供」に差し出したことがある。
【航空機輸入問題で、角栄を有罪にするには、輸入問題への角栄の関与を証言した米国人の嘱託尋問調書(日本の法廷にいる角栄被告の弁護人が反対尋問することが許されない状態で行われた、日本司法当局の嘱託による米国法廷での尋問の調書)の証拠能力、民間航空会社の輸入機種選定に関与できる首相の職務権限、その代価としての賄賂の現金授受、の3つがすべて法的に確認されなければならない。が、日本のどの法律家の目で見ても嘱託尋問調書には証拠能力はなく、首相が民間企業にいちいち「これを輸入しなさい」と支持する権限があるはずもなく、これを有罪にするには、検察官の恣意的告訴と、(米国諜報機関による)裁判官への脅迫が必要だ(一審の東京地裁で審理中、裁判長が心臓発作で死亡している)。】
上記の如く、日本の検察当局は単なる司法機関ではなく、日本の外交や安全保障などの国益を、よく言えば熱心に、悪く言えば勝手に考えて、捜査や起訴に手心を加えるという、特異な性質を持っている。その特質が端的に現れたのが、2007年6月に暴露された、緒方重威(しげたけ)元公安調査庁長官(元検察官)による朝鮮総連本部不動産購入に対する検察捜査だ。
日本の政官界には、北朝鮮の中国に対する攻撃を実現させることによって、日本の末永い安全保障を確保しようという「中朝戦争賛成派」がおり、緒方はその1人と考えられるが、日朝復交後(というか、日朝同盟成立後)の北朝鮮大使館に転用する予定になっている朝鮮総連本部の土地建物の所有権を保全するために、いわゆる「朝銀不正融資問題」で総連本部の土地建物が競売にかからないように自分で買い取っていたのだ(小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」、同10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」)。
永田町・霞が関関係者に聞いてみると、実はこの事件には、緒方以外に黒幕がいるのだが、検察はその人物に対してまったく捜査も逮捕も起訴もする気がない。検察は、将来日朝同盟を結ぶ際に役に立つ、北朝鮮とのパイプを持った人物を社会的に抹殺する気はないのである(ちなみに、検察当局は、「北朝鮮による日本人拉致問題」は現在および将来の日本の国家全体の安全保障に関係ないので、ほとんど無視している。小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」、同7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」)。
●公明党憎し●
それにしても、検察はなぜ、公明党だけを狙い撃ちにするような、不公平な捜査方針を立てたのだろう。
もしかすると、自公民3党のすべてから大量の逮捕者を出すと、日米同盟や自衛隊や治安機関をきちんと運営できるまともな政党がなくなってしまうと危惧したからかもしれないし、あるいは、新銀行東京スキャンダルの余波によって、「中朝戦争賛成派」の、地政学のわかる(自民党か民主党の)まともな政治家が巻き添えで失脚すると困ると思って、かばうことにしたのかもしれない。
しかし、公明党が目の仇にされた最大の理由は公明党の党組織のあり方にあるのかもしれない。 自民党や民主党保守派の政治家が行う「口利き」はあくまで個人の問題だ。保守政治家とはそういうもので、自民党員だろうが無所属だろうが、地元選挙区の有権者から、銀行融資に限らずさまざまな問題で陳情を受けると「票を得るためにはなんとかしてやらなければならない」と思うものなのだ。これは、党組織の指示など関係なく、政治家や政治家の秘書の個人的判断で行われる。
ところが、創価学会というただ1つの支持団体によって動かされる公明党の場合は、やや事情が異なる。たしかに、政治家個人が地元選挙区の有権者の陳情を受けて「口利き」をする場合も多いのだが、このほかに、公明党本部が行う「党組織ぐるみの口利き」もあるのだ。
『週刊朝日』(にリークされた検察情報?)によると、公明党の都議や国会議員でなく、公明党本部の機関、政調会が仲介した「口利き融資」案件が「5件以上10件未満」確認されている(『週刊朝日』前掲記事 p.152, p.155)。
これは公明党だけ「トカゲの尻尾切り」ができないことを意味している。
自民党や民主党は、たとえ何人都議や国会議員が逮捕されても「政治家個人の問題」としてその政治家を除名すれば党組織を守ることができる。が、公明党の場合、公明党政調会の斡旋した案件が司法当局から不正融資とされた場合は、即党全体の問題になり、太田昭弘代表ら党幹部の責任問題になる。
したがって、その場合は、いくら公明党(の支持母体の創価学会)が、全国に800万とも言われる組織票を持っていようと、当分の間、公明党は自民党、民主党のいずれとも連立政権を組むことができない。
●逮捕Xデー●
おそらく公明党は、東京地検特捜部が公明党関係者への強制捜査、逮捕に踏み切る時期を、2009年10月のIOC総会後ではなく、2009年7月の都議選前と読んだのであろう。
そもそもこのスキャンダルの摘発は、都議会に巣食うけしからん政治家を断罪するために行うのだから、彼らが2009年7月の都議選で再選されたあとに逮捕してもあまり意味がない。逮捕するなら当然その前だ。
公明党は2008年7月頃にすでに、次期衆議院総選挙の時期を、2009年7月の都議選からなるべく離してほしいと自民党側に強く申し入れていた。理由は「(創価学会が)本拠地・東京を『本陣』と位置づけており、都議選の必勝は『最重要課題』」であり、「(都議選には)半年前から本格準備にかかるため、衆院選が重なれば手が回らなくなってしまうからだ」と報道されているが、この説は信じ難い(産経新聞Web版2008年7月24日「公明党の狙いは年内解散? 強まる臨時国会先送り論」)。
なんで離す必要があるのだ。たとえば、都議選と衆議院総選挙が同時になれば、公明党の都議選候補者と衆院選候補者が、国政で連立政権を組んでいる自民党の有名国会議員の応援を得ながら同時に選挙運動をすることができ、公明党にとっては「集客効率」はかえっていいはずではないか。
検察(および警察)は、選挙運動期間中(選挙の公示後、投票日まで)にたとえ当該選挙の候補者でなくとも、特定の政党政治家を逮捕すると、選挙に影響が出るので、それは避けるという不文律がある。万一、逮捕した政治家が選挙運動期間終了後の裁判で無罪になった場合、「検察(警察)は、選挙結果に影響を与える目的、無実の政治家を不当に逮捕した」という、民主主義の根幹にかかわる非難を免れないからだ。
とすると、公明党都議らの大量逮捕を2009年6〜7月の都議選公示直前に行うのは不可能だ。逮捕する気なら検察は、遅くとも2009年5月頃までに逮捕しなければならない。
そこで、たとえば、2009年5月に公明党都議の逮捕が行われると仮定しよう。もし自民党(福田首相)が現在の衆議院議員の任期満了間際、2009年8月頃に衆議院の解散・総選挙を行うとすると、その頃には当然「口利き不正融資をしたあくどい公明党関係者」の顔や名前が連日TV画面や新聞紙面を埋め尽くしているはずだから、自民党は公明党との連立政権も選挙協力も解消しているはずだ。
そうなった場合、自民党は民主党と組んで大連立政権を作れば与党の座に踏みとどまることができるが、公明党は大幅に議席を減らして権力の座からすべり落ち、あとは徹底的に検察の餌食にされ、場合によっては解党の危機に瀕するだろう。
そこで、公明党としては何がなんでも、検察が公明党関係者の逮捕に踏み切る前に、なるべく早く衆議院の解散総選挙をやってもらって、自民党の選挙協力を得て1人でも多くの公明党衆議院議員を当選させておきたいはずだ。
おそらく公明党は、8月下旬の読売新聞の報道を見て(読売新聞Web版2008年8月30日「新銀行東京、融資にブローカー暗躍…都議に口利き依頼も」)、2009年どころか、2008年秋にも公明党関係者への逮捕がありうると思ったのだろう。そして、それなら「その前に解散総選挙をやらせてしまえば、検察は不文律に縛られて公明党関係者を逮捕できない」と読んだのだろう。だから、公明党は自民党(福田首相)を「さっさと解散しないと、臨時国会にも次の総選挙にも協力しないぞ」と脅迫したのだろう。
●天罰覿面(てきめん)●
事態は公明党の思惑通りに進んでいるように見える。
2008年9月1日に福田が辞意を表明して、自民党総裁選が始まり、新総裁選出後、彼(または彼女)を次期首相に選ぶための臨時国会の冒頭、10月上旬に衆議院が解散されれ、11月に衆議院総選挙の投票という日程になれば、おそらく11月下旬まで公明党からは逮捕者は出ない。
すでに自民党総裁選には、麻生太郎幹事長、与謝野馨・経済財政担当相、小池百合子元防衛相、石破茂元防衛相らが出馬を表明していて、百花繚乱のにぎやかな選挙になり、連日マスコミで大きく報道されて民主党の存在感がかすんでしまうことが予想されるため、次期総選挙は、自公連立与党が(2005年の前回総選挙に比べて議席は減らすものの)衆議院の過半数を確保し、政権を維持してしまって「何も変わらない」可能性もある。
しかし、それで終わりではない。
なぜなら、その場合でも11月下旬以降は、検察は自由に公明党関係者を逮捕できるので、そうなった時点で、自民党の内部に「公明党との連立を解消する」「民主党との大連立に乗り換える」あるいは「自民党を離党して新党を作り、政界再編に打って出る」などと主張する勢力が現れると予想されるからだ。
もちろん、そうなったら公明党は終わりなので、公明党は、次期首相の連立内閣では、法務大臣のポストを要求し、法務大臣の検察当局への「指揮権発動」をちらつかせて公明党関係者の逮捕を妨害しようとするだろう。が、そんなことを自民党が、世論が許すだろうか。
すでに自民党内には、森喜朗元首相のように臨時国会冒頭の解散に反対し、補正予算や来年度予算案が通ったあと、つまり2009年4月以降に解散すべきだという意見がある(2008年9月8日放送のJNNニュースバード)、森の支援を得て麻生内閣ができた場合、検察は少なくとも新内閣発足後の数か月を自由に使って、公明党関係者を逮捕することができるかもしれない。
また、検察が、現在読売新聞と『週刊朝日』に限っている情報のリーク先を拡大し、NHKやテレビ朝日(『報道ステーション』)にまで検察捜査情報を流して報道させた場合、世論は「公明党批判」一色に染まる可能性がある。
検察にとっていちばんいいのは、「ポスト福田内閣」の発足前、公明党が次期政権でどのポストを占めるかが決まる前に、公明党関係者の逮捕を始めることだ。そうしてしまえば、さすがに新内閣は(「スキャンダル隠し」と言われたくないので)法務大臣のポストを公明党に与えようなどとは考えもしないだろう。
しかし、解散前に公明党関係者を逮捕してしまうと、自公連立政権は、世論の批判がこわくて解散ができない、という別の問題もある。その場合、公明党(創価学会)はもう自民党の「集票マシーン」として機能しないから、自民党は連立の相手を公明党から民主党に組み替えるかもしれない(この「大連立」が成功すれば、解散は当分なくなるが、うまく行かない場合は、何がなんだか、さっぱりわからなくなる。たぶん、ぐちゃぐちゃになる)。
(>_<;)
今後の政局の焦点は、必ずしも、総裁選でだれが勝つか、総選挙でどの党が勝つか、ということではない。
総選挙の前かあとに行われる検察捜査のほうが、はるかに大きな意味がある。
結局のところ、20008年9月現在、日本政界で進行しているのは、政権交代ではなく、政界再編なのだ。
(水面下の)検察捜査の進展によっては、自民党総裁選直後にも、政界再編の動き、たとえば、公明党の支持がなくても当選できる自民党衆議院議員と、そうでない自民党衆議院議員との間に亀裂が生じて、解散前に自民党が分裂するなどの事態が起きる可能性もあるわけで、たとえそうなったとしても筆者はもう驚かない。
【尚、2008年9月8日現在、自民党総裁選に名乗りを上げている候補者のうち、棚橋泰文元IT担当相、山本一太外務副大臣(参議院議員)、石原伸晃・前自民党政調会長(慎太郎の長男)らの、よく言えば若手候補、悪く言えば「泡沫候補」とその推薦人は、次期衆院選で落選しないために総裁選を口実にTVに映るために動いてると考えると、その行動がよく理解できる。
とくに伸晃の場合は、万一司直の捜査が父親の周辺におよんだ場合、それが自身の人気の急落に直結するのを防ぐため、「改革派政治家」として自らを国民に印象付けておく切実な必要があるのであろう。
慎太郎の三男の宏高の場合は、自身が口利きをしていること、元々銀行マンであり、その知識をもとに新銀行設立について父親に助言したこととをあわせて考えると、父親が逮捕された場合は、即議員辞職に追い込まれる可能性が高い。】
●給油法案の行方●
ところで、福田は、元々日米同盟を重視しテロ特措法(に代わる給油法案)を守るために首相になった。その彼が、同法案の延長案の成立のメドも立たないまま退陣するのは無責任に見える。
が、彼が検察情報を十分に得ていて、年内に政界再編があると判断したとすれば(もちろん「政権を放り出した」という外聞の悪さは隠しようもないが)話は少し違って来る。
検察の公明党への捜査をきっかけに、年内に政界再編または連立の組み替えが起き、給油法案に賛成する勢力が衆議院に2/3以上結集するか、または、衆参両院で過半数ずつ結集すれば、海上自衛隊のインド洋での給油活動は維持されるからだ。
●民主党批判の筋違い●
最後に、民主党の小沢一郎代表が、給油法案に反対していることを批判する産経新聞など保守派
にひとこと。
たしかに、日米同盟を重視する立場からすると、米国政府が高く評価する給油活動を打ち切ろうとする民主党(小沢)の態度はけしからんと思えるだろう。
が、民主党(小沢)をそういう立場に追い込んだのは、自民党ではないか。
自民党は、1993〜1994年に小沢が中心になって発足させた細川護煕(もりひろ)連立内閣、羽田孜(はた・つとむ)連立内閣の時代に野党に転落したことの辛さが骨身に染みて、その後小沢が発足させた新進党が、公明党(創価学会)の支持を得て巨大な集票力を示したことに恐れをなし、「宗教の政治介入」を批判した。
この罠に新進党がまんまとひっかかって解党すると、自民党は公明党(創価学会)勢力を小沢の手から奪い取って自らの支持基盤としたため、以後、小沢は反自民勢力を結集して選挙に勝つ都合上、社民党や左翼系労組、民主党内の旧社会党系左派などの手を借りるしかなくなくった。
小沢が、一見左翼的、反米的な政策を掲げるのは、そうやって左翼勢力の支持を得なければ選挙に勝てず、政権も取れないから、仕方がないことなのだ。
批判されるべきはむしろ自民党のほうだ。
とっくに政権担当能力も使命感もほとんど失った「官僚依存党」のくせに、公明党を生命維持装置に使って政権与党の座にしがみ付いているからだ。自民党が自らの「賞味期限切れ」を素直に認めて公明党との連立などをせずに下野して、ごく普通に「選挙による政権交代」で民主党政権ができるなら、民主党は左翼票ほしさに反米的な政策を掲げる必要はなくなるはずだ。小沢民主党の「左傾化」の原因は元々、自民党の政権に対する「いじましさ」にある。
保守良識派を自認する者は、小沢の反米政策を批判する前にまず、自民党がこんにちまで、公明党と連立政権を組んで来たこと自体を、批判すべきだ。
政権奪取後、あるいは政界大再編後の小沢はおそらく、給油法案には必ずしも反対するとは限らないだろう。なぜなら、政権を取ってしまえば、とくに、自民党の一部と連立する形で政権を取ってしまえば、もう左翼の支持など要らないからだ。
1990年に、イラクのサダム・フセイン政権がクウェートを侵略した際、小沢は与党・自民党の幹事長として、現行憲法の制約の中で、米国を中心とする多国籍軍の秩序回復活動(翌1991年の湾岸戦争)に自衛隊を派遣できないかと四苦八苦したことがある。その「派遣」は結局実現しなかったが、小沢が元々対米軍事協力に積極的な「同盟重視」の親米派であることは明らかだ。
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