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イラク戦争は成功

〜シリーズ「究極の解決策」(3)〜

Originally written: Dec. 04, 2008(mail版)■イラク戦争は成功〜週刊アカシックレコード081204■
Second update: Dec. 04, 2008(Web版)

■イラク戦争は成功〜週刊アカシックレコード081204■
ジョージ・W・ブッシュ現米大統領は、基軸通貨としての米ドルの価値を守り抜いた大統領として、遠い将来、米国民から高く評価される可能性がある。
■イラク戦争は成功〜シリーズ「究極の解決策」(3)■

■イラク戦争は成功〜シリーズ「究極の解決策」(3)■
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」は → こちら
【小誌2008年3月6日「中朝山岳国境〜シリーズ『中朝開戦』(13)」は → こちら
【小誌2008年9月8日「福田退陣の謎〜東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆」は → こちら
【小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権の組み替え?〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」は → こちら
【小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」は → こちら
【前回「人権帝国主義〜シリーズ『究極の解決策』(2)」は → こちら

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ジョージ・W・ブッシュ現米大統領は、基軸通貨としての米ドルの価値を守り抜いた大統領として、遠い将来、米国民から高く評価される可能性がある。

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前々回、小誌は、2008年の米大統領選で、共和党は八百長をやってわざと負けたと指摘した(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。

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●米共和党の不可解●
ところで、共和党は……たとえ民主党に政権を取らせて「人権帝国主義」をやってもらうという意図があったにせよ……なんで敗北を甘受したのだろう。筆者なら、悔しくてとても我慢できない。

「2000年の大統領選ではフロリダ州の開票が大接戦になり、大混乱になって、ほんとうは負けたはずの共和党のジョージ・W・ブッシュ現大統領が、民主党のアル・ゴア前副大統領に勝たせてもらったから、そのときの借りを返すため」と、筆者の知人の永田町・霞が関関係者は言っている(小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」)。
たしかに、ブッシュは2000年にはフロリダの疑問票で、2004年にはオハイオの疑問票で「当選させてもらった」、つまり「民主党に勝ちを譲ってもらった」のだ(小誌2004年11月15日「宗教票=人種票〜シリーズ『米大統領選』(2)」)。

それなら、そもそも、なんで、2000年と2004年、民主党は共和党に二度も勝ちを譲ったのだろう。そして、勝ちを譲ってもらった共和党は、せっかくオバマ以外の民主党議員に賛成してもらってイラク戦争までさせてもらったのに、なんで戦後処理を誤ってイラクの治安を悪化させたのだろう。世界中の報道では「ドナルド・ラムズフェルド国防長官が制服組の助言を退けて、大規模な治安維持部隊を派兵しなかったから」つまり「ブッシュやラムズフェルドがバカだったから」失敗したとなっている(田中宇の国際ニュース解説2003年8月6日「イラク駐留米軍の泥沼」)。
彼らはほんとうにバカなのだろうか。

たしかに、開戦の理由になった、イラクが核兵器などの大量破壊兵器(WMD)を開発または保有しているという「証拠」の取り扱いはおかしかった。ブッシュ政権下で米中央情報局(CIA)などの諜報機関は、イラクにWMDがあることをうかがわせるあやふやな情報を挙げて、開戦の口実作りに(不本意ながら、だったかもしれないが)協力したくせに、なぜか戦後は証拠の捏造には協力しなかった。

証拠を作るなど、簡単なことではないか。秋葉原から核兵器や化学兵器の製造に役立ちそうな電子機器を買って来て、捏造したアラビア語の設計図や指示書と一緒にバグダッドの大統領宮殿地下に隠し、それを米国政府のWMD兵器専門家に「発見」させれば済むことだ。もしイラクの旧政権幹部が真相を暴露しそうになったら、殺せばいい。現に2006年12月、米占領軍の影響下にあった「特別法廷」はサダム・フセイン元イラク大統領を、多くを語らせないうちに死刑にしているのだから、必要に応じて口封じはいつでもできただろう。

ところが、ブッシュ政権では、だれもこの「必要な措置」を採らなかった。お陰で、2004年10月、米国政府が派遣した調査団が「イラクにはWMDはなかった」という最終報告書を発表し、ブッシュもそれを認める羽目に陥った(読売新聞Web版2004年10月7日「イラク大量破壊兵器、開発計画なし…米最終報告」)。

そのうえブッシュ政権は、終戦直後のイラクに大量の兵員を投入して治安維持をすべきだったのに、それを怠り、戦後のイラクを武装勢力の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する新たな「戦場」にしてしまった。これでは、米国民がブッシュ政権に怒るのは当然だし、2008年大統領選において、開戦前にイラク戦争に反対したバラク・オバマ候補(次期大統領)を支持するのも、イラクからの撤兵を主張するヒラリー・クリントン候補(とオバマ)を支持するのも当然ではないか。

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いったい、なぜ、なんのためにブッシュはイラク戦争をしたのか。いったい、なぜ、なんのためにブッシュはイラク戦争をしたのか。
開戦前「ブッシュはイラクの石油(利権)のために戦争をする気だ」などと批判していた反米的、左翼的な日本のジャーナリストの多くは、戦後のイラクの治安が悪化したのを見て、「だから、この戦争はやっちゃいけないって言ったじゃないか」と得意げに言うようになった。
が、これは、算数の問題で「式は間違っていたのに、たまたま答えの数字が合っていた」にすぎない生徒が「正解だ」と言い張っているのと同じだ。現に、終戦後5年経っても、イラクの油田開発はあまり行われておらず、「米国企業がイラクの石油を売って大儲けする」などという事態は起きていない。「反米派」の戦前の予測の大半は、ほんとうははずれたのだ。

これは、星野仙一・北京五輪野球日本代表監督への批判と同じだ。日本の多くのマスコミは五輪本大会前、「星野は上原浩治(読売巨人軍)のような2008年のプロ野球シーズン前半戦で不調な選手を多数代表チーム(星野JAPAN)に入れたので、予選(五輪本大会一次リーグ)突破もあぶない」などと批判していた(『サンデー毎日』2008年6月22日号 p.131 「『シーズン0勝』上原頼みで予選落ちもある『星野ジャパン』」)。
じっさいに、星野JAPANが五輪本大会でメダルも取れずに4位に終わると、マスコミは一斉に「ほら、言ったとおり負けたじゃないか」と星野バッシングを始めた。が、実は、マスコミの予測はぜんぜん的中していない。シーズン中不調だった上原らは五輪本大会では活躍したからだ。
星野JAPANの敗因はまったく別のところにあるのだが(小誌2008年8月31日「星野続投反対!!〜シリーズ『北京五輪』(4)」)、マスコミはいまだにまともな敗因分析をしていない(マスコミは自分のことを「予測が当たった」などと言う前に、まず上原に謝罪すべきだ)。

これはイラク戦争についても同じだ。
米国はイラク戦争では、バグダッドを陥落させ政権を転覆するところまではすばやく、効率的にやっている(経済同友会Web 2003年4月10日 小林陽太郎代表幹事「バグダッド陥落について」)。多くのマスコミの予測に反して「戦況の泥沼化」も、「中東全体の不安定化」も「石油価格の高騰」も、もちろん「第三次世界大戦」もなかった(共同通信2003年3月5日付「緊急連載企画『なぜイラク攻撃か』(下) 第3次世界大戦のリスク 怖いフセインのわな 民主化の実現は疑問」 、同18日「泥沼化なら揺らぐ政権基盤 新軍事戦略の試金石にも 米、20日にも対イラク開戦 フセイン大統領に最後通告 48時間内の亡命迫る ブッシュ大統領が演説」、同18日「保証ない短期戦シナリオ 市民の巻き添え不可避 米、20日にも対イラク開戦 フセイン大統領に最後通告 48時間内の亡命迫る ブッシュ大統領が演説」、毎日新聞2003年3月20日付夕刊15面「イラク開戦 泥沼化も/テロ不安/現地へ思い千々」、朝日新聞2003年3月12日付朝刊1面「孤立呼ぶ『帝国の独善』 イラク きしむ世界 米国から」)。

ところが、そのあと急におかしくなる。イラクを占領した米軍は、イラクの軍、警察を早々と解体し、政権与党のバース党関係者を政府から追放する一方、治安維持のために大規模な部隊を投入することを怠り、混乱させる。これに対して世界各国のマスコミやオバマは「だから最初からだめだと言ったじゃないか」式の「星野バッシング」のような単細胞な批判しかしておらず、共和党政権が戦後処理に失敗した理由を説明できていない(「ブッシュ政権が無能だから」のひとことで片付ける者も少なくないが、そんなに無能なら、なぜバグダッド攻略まで楽勝だったか、が説明できない)。

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●イラク戦争の深層●
実は、前々々回の記事を書くために、公明党の太田昭宏代表の愛読書を調べていて(小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権組み替えの兆候〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」)、面白い本(の読書感想文)をみつけた。それは、増田俊男著『またもやジャパン・アズ・ナンバー1の時代がやってくる』(徳間書店2007年12月刊)だ(太田昭宏Web 2008年1月「私の読書録」)。

それによると、米国がイラク戦争を起こした理由は、イラクが石油貿易の決済通貨として、米ドルに替えてユーロを使い始めたからだ、という(増田俊男Web 2006年8月4日「アメリカが先制攻撃態勢に転換したわけ」)。

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【実は、筆者は増田前掲書そのものは読んでない。だから、WMDの証拠の取り扱いや、ドルとユーロの関係に関する以下の推理は、筆者のオリジナルである。】

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イラクは世界第二の石油埋蔵量を持つ大産油国だ。世界貿易に占める石油取り引きの比重は高く、イラクがその決済にドルでなくユーロを使うようになり、その動きに反米的なイラン、ベネズエラなど他の大産油国が同調すれば、産油諸国の外貨準備に占めるドルの比重は下がり、ユーロの比重が増す。

そうなると、産油国から石油を輸入する日本や中国も、産油国との貿易でドルばかり使うわけにはいかなくなる。日本の輸出業者が産油国に品物を輸出する際、産油国側から「手持ちのドルが少ないので、一部はユーロで」と言われれば、業者はユーロも受け取らざるをえなくなるので、日本も自国の外貨準備の相当部分をドルからユーロに置き換えることになる。
そして、こうした動きはインフルエンザのように、日本の貿易相手国にも、そのまた相手国にも「感染」して行く。
そうなれば、世界の基軸通貨としてのドルの独占的な地位は危うくなる。米国債の買い手となる諸外国の手持ちのドルが減るので、米国政府はドル建て米国債の発行を縮小せざるをえなくなる(イラク戦争開戦寸前まで、独仏などユーロ圏諸国が開戦に反対していたことを想起されたい。独仏はイラクを利用してユーロをドルに替わる基軸通貨にしようとしていたと考えられる)。

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【国際通貨基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)によると、2006年の時点で、全世界の準備通貨(世界各国が保有する外貨準備の総額)に占める米ドルの比率は65.7%で、これはユーロ紙幣が登場した2002年の66.5%からほとんど変わっていない(ユーロが、紙幣も硬貨もない、銀行間取引限定の通貨だった2001年は70.7%)。ユーロの比率も2002年の24.2%から2006年の25.2%へと変わっただけである(2001年は19.8%)。
米ドルの準備通貨比率が圧倒的に高いので、米国では、巨額の貿易赤字を穴埋めするために大量の米ドルを発行しても、米ドルが暴落する通貨危機のような問題は起きない(逆に、米ドルの比率が低くなると、問題が起きる)。
2008年現在、日本の財務省は日本の外貨準備について「ユーロをいくら保有しているか」などの詳細は公表していない。が、大半を米ドルで保有しドル建て米国債で運用していると推定される(財務省Web 2005年4月1日「報道発表 外国為替資金特別会計が保有する外貨資産に関する運用について」、同2008年11月10日「外貨準備等の状況(平成20年10月末現在)」)。】

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米国債がドル建ての場合、米国政府がいい加減な経済政策を採ってドル安になり、たとえば「1ドル=100円」が「1ドル=90円」になると、米国政府は事実上10%の債務不履行になってトクをする。
が、もし米国債が「ユーロ建てでないと買ってもらえない」事態になり、米国政府が米国債の一部をユーロ建てで発行する羽目に陥ると、事態は一変する。
もしもドル安になり、たとえば「1ドル=1ユーロ」が「1ドル=0.9ユーロ」すなわち「約1.1ドル=1ユーロ」になった場合は、額面1万ユーロの米国債を償還するときに米国政府が支払う金額は1万ドル(=1万ユーロ)から 約1.1万ドル(=1万ユーロ)に変わり、米国の債務は事実上約11%増加し、米国は損をする。
つまり、米国政府はユーロ建てなど外貨建てで米国債を発行せざるをえない状況に追い込まれると、いままでやって来たような自国本位の経済政策はできなくなるのだ。

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だから、ブッシュはWMDの証拠をでっち上げてイラク戦争を始めた。ドルの覇権を脅かす者は徹底的にたたきのめし、見せしめにしたのだ。その結果、世界各国の(一般庶民でなく)権力者は、ユーロを決済通貨にしようとしたサダム・フセインの悲惨な末路を見た。もうだれも、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領もベネズエラのウゴ・チャベス大統領も(口ではどんなに反米的なことを言おうとも)もはや、ドルを基軸通貨の座から引きずり下ろすことなど、恐ろしくて考えることすらできまい。

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【2008年11月、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領がベネズエラを訪問した際、チャベスは「ドルは米国が勝手に印刷するただの紙切れ」などと相変わらず口汚く米国を罵ったものの、「ドルの支配から逃れるために」ロシアと合意した政策は、「両国の貿易決済に(ドルでなく)両国の通貨を使うこと」に留まった(2008年11月28日放送のNHK-BS1『きょうの世界』「ロシアと中南米 急接近の背景は」)。両国の通貨であるルーブル、ボリバルはともに、ユーロよりはるかに国際的信用が乏しく、ドルの覇権を脅かす力がまったくない。イラク戦争後のチャベスがユーロ決済の導入に対して怖気(おじけ)付いているのは明らかだ。
このドル依存を減らす政策にしても、ある日突然手持ちの古いドル札が偽札扱いされる「二重通貨制」にチャベスが怯えた結果かもしれない(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。】

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だからこそ、米国政府は「イラクにはWMDはなかった」と言ったのだ。
チャベスなど反米国家の権力者を脅迫するには、イラクがほんとうにWMDを開発していては困るのだ。もしほんとうにイラクがWMDを持っていたがゆえに米国に攻撃されたのなら、チャベスは「ベネズエラには、イラクと違って、WMDはないから攻撃される心配はない」と安心して、貿易の決済通貨をドルからユーロに替えることができる。

それではだめだ。米国のドル覇権を脅かす国は、たとえ無実であっても、犯罪の証拠をでっち上げられて「制裁」され、徹底的に破壊されるのだ、ということを、ベネズエラに、イランに、中国に、日本に思い知らせなければならないからだ。

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【おそらく、イラクを占領した米軍、すなわち米国政府は、たとえ戦後のイラクからWMD開発の証拠がみつかったとしても、それを発表せず、握り潰しただろう。】

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では、WMDの証拠がないことを全世界に公表した理由はそれでいいとして、戦後のイラクの治安悪化はどう説明すればいいのか…………もちろん、それは、米占領軍をイラクから撤退させるためだろう。

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●わざと治安悪化?●
戦後の治安維持がうまく行った場合、米軍としては、かつて日独伊韓に対してそうしたように「せっかく苦労して占領(進駐)したんだから、この際占領地に恒久的な米軍基地を造ろう」と考えるに決まっている。米軍(米国防総省)といえども「役所」なのだから、一度手にした既得権や縄張りはそう簡単には手放さない。
そのうえ、戦後の占領地の治安がよければ、第二次大戦終戦直後の日本などでそうであったように、被占領国の国民に「親米感情」が生まれ、それが米軍のイラク駐留を長引かせる口実として、米国防総省の役人に利用される可能性すらある。
が、そうなると、諸外国は「米国がイラク戦争を起こした目的の1つはイラクに軍事基地を造ることであり、ユーロ決済の妨害は必ずしも重要な問題ではなかった」と解釈してしまう。
米国としては、そういう誤解は防ぎたい。米国がイラク戦争を起こした理由はただ1つ、貿易の決済通貨がドルからドル以外の通貨に替わることを防ぐためだった、と世界中の権力者に知らしめるためには、米軍は戦後なるべくすみやかにイラクから撤退する必要があり、そのためにはイラク国民のあいだの反米感情が強いほうが、戦後のイラクの治安が悪いほうが、いいのだ。

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もしも戦後の治安維持がうまく行って、その結果として開戦を主導した共和党が2008年の大統領選に勝ってしまうと、「戦果」である米軍のイラク進駐(占領)はそう簡単にはやめられないから、進駐はしばらく続く。その場合、米国政府は「われわれはサダムの独裁政権を倒してイラクを民主化しつつある」と言えば、国内的には支持を得られる。しかし、対外的には「でっち上げの証拠で戦争をした侵略国家」のそしりは免れず、間違っても「人権」を口実にした中国への経済制裁などできない。
が、イラクにおける米国の戦後処理が悪ければ悪いほど、米国内では米軍のイラクからの撤退を求める世論が高まり、イラク戦争の際に与党でなかった民主党への支持が高まる。そうやって、2008年の大統領選で、女性または黒人の民主党候補が勝って、選挙で示された民意に従って米軍がイラクから撤退すれば、米国はふたたび「正義」の国に戻ることができるから、人権を口実になんでもできる。

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そのうえ、基軸通貨としてのドルの地位は、共和党政権時代にブッシュが「汚れ役」を引き受けて守ってくれたので、安泰だ。2009年に発足する民主党政権下では、もはやドルがユーロに取って代わられる心配はなくなっている。

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共和党と民主党は末端、いや、大部分の党員や支持者のレベルでは角突き合わせて対立しているのかもしれないが、おそらく最高幹部クラス同士はちゃんと話が付いていて、対立などしておらず、単に対立に見せかけた「役割分担」をしているだけではないのか。

筆者は小誌上で、福田康夫政権を作った黒幕は、政治家でも財界人でもなんでもない、Qという市井(しせい)の一個人だという事実を暴露したが(小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権組み替えの兆候〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」)、おそらく米国にもQのような人物がいて、超党派で米国の国益を考えて、共和党と民主党、軍を含む官僚機構と財界などとの関係をコーディネートしているのではないだろうか。中国のような事実上の一党独裁国家の場合はそういう中立的なコーディネーターは不要だが、日米のような複数政党制の国では、Qのような黒幕は不可欠だろう。

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●官僚機構を破壊せよ●
イラク戦争後のイラクの治安悪化には、さらにもう1つ目的があったかもしれない。それは、もっと直接的に米ドルの基軸通貨としての地位を守ることであり、そして、その見地から見る限り、治安悪化は「大成功」だったと言える。

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第二次大戦後の日本を米軍が占領統治した際、米軍の対日占領当局は日本の治安や民生を安定させるため、日本の官僚機構を温存し、そのまま統治に利用した。このため、(夫が出征したあと妻子が困らないようにと考えられた)居住者の権利が異常に強い「借地借家法」(2008年現在も存続)や、戦時の食糧確保のために作られた「食管制度」(1981年廃止)など、戦時中にできた法制が戦後もそのまま、かなり永く温存された(これらの制度を作家の堺屋太一は「昭和16年体制」、経済学者の野口悠紀雄は「1940年体制」という)。つまり、占領軍が現地の官僚機構を温存すると、占領が始まる前に作られた制度や政策が占領後も生き延びるのだ。

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これとは対照的に、イラク戦争後、米軍の対イラク占領当局はイラク軍やイラク警察を含む官僚機構を解体し、治安の悪化を招き、とくに終戦直後にはひどい無政府状態を演出し、バグダッド市民がイラク政府庁舎の建物に乱入して略奪をするのを許した。この結果、戦後のイラク政府には、かつて貿易のユーロ決済を研究し実践していた人材はいなくなっただろうし、彼らがそのために作成していたはずの資料や書類もほとんど散逸したに違いない。
つまり、この治安悪化によって、戦争前に行われていたユーロ決済が復活する可能性は完全になくなったのだ。

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●大虐殺しても英雄●
イラクで戦死した米兵は文字どおり「国を守るために」死んだのだから、遺族は当然そのことを誇りにしていい。ただ「国を守る」といっても、「テロの脅威から守る」のではなく、「財政破綻や年金崩壊の危機から守る」ということだったのだが。

もちろん、戦争をした結果、イラク国民も米兵も大勢死んだから、それは悲惨なことだ。しかし、戦争以外にドルを守り米国の国力を守る方法がなかったのだから、おそらく2003年には、だれが大統領であっても同じことをしただろう。

イラク戦争は、左翼や反米主義者が好んで口にする「資本家(軍需産業や石油産業)が金儲けのために行った戦争」という範疇(はんちゅう)にははいらない。これはおそらく数十年後の歴史家によって「政府が、米国の庶民の暮らしを守るために、開戦理由について故意にウソをついて始めた戦争」あるいは「大統領が、米国民の心を傷付けないために、開戦理由についてウソをつき通して戦った戦争」として評価されるだろう。ブッシュは遠い将来米国史上屈指の偉大な大統領の1人に数えられる可能性すらある(織田信長だって、比叡山や伊勢長島で大虐殺をしたのに、400年後の現在英雄扱いされているではないか)。
政治とは元々そういう奥の深いものであって、戦争を単純に罪悪視して罵り倒すような、単細胞な議論にはなじまない。ほかの国にとってはともかく、米国にとっては、イラク戦争は必要であり、成功だったのだ。

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●笑える反米●
筆者は先日、図書館で朝日新聞縮刷版を読んでいて、1971年8月16日付夕刊1面に、前々回紹介した「ドル時代の終幕」という見出しをみつけたとき、思わず笑ってしまった(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。
1980年代のロナルド・レーガン大統領の時代にも、彼の政権が大軍拡予算を組んで財政赤字を増大させ、一方で米国は巨額の貿易赤字も抱えていたので、「双子の赤字で、もう米国経済はだめだ」式の批判があったが、米国はそれを乗り切って、1990年代には「IT景気」を迎え、その経済力は完全によみがえっている。

米国を嫌いなジャーナリストたちは、毎年毎年「もう米国は終わりだ」と言っていれば、いつかは当たると思っているのだろうが、37年前の朝日新聞を見てもわかるとおり、そう簡単には当たらない(37年連続ではずれている)。
これはちょうど、韓国のマスコミが「食糧不足の北朝鮮は、今年の冬は無事に越せるか」などと毎年言っているのに、結局毎年無事に越しているのとよく似ている(つまり、北朝鮮の食糧事情についての韓国の報道にはまったく根拠がないのだ。小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」)。
(^^;)
まあ、500年後ぐらいには「米国の時代は終わった、と言える状況がとっくに来ている」かもしれないが、少なくとも今後20〜30年以内にはそんな事態は起きないだろう(そうならないように、共和党も民主党も迫真の演技で「共犯」しているのだから)。
米国嫌いの方々には、37年前の新聞を読んでもう一度勉強し直されることをおすすめする。

というか、ジャーナリスト諸氏は「ブッシュはバカだ」とか「オレは米国の政財界の連中と違って正しい政策がわかっている」などと軽々しく思わないほうがいいだろう。
はっきり言って、世界中のほとんどのジャーナリストより、ジョージ・W・ブッシュのほうがはるかに頭がいい。彼は米国の国益を確実に、決定的に守る方法を知っていて、「汚れ役」まで引き受けてそれを実践したが、事前にそれを見抜いたジャーナリストは1人もいなかったのだから。

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【もちろん、全体のシナリオを書いたのは、Qのような黒幕か、ラムズフェルドのような軍関係者だろう。が、ブッシュの偉大さはその演技力にある。彼は、イラク戦争開戦前は善玉を、戦闘終結後は悪玉を、みごとに演じ切り、経営危機に陥った金融機関への公的資金注入など、納税者の評判は悪くとも必要不可欠な政策も自分の代で済ませて、オバマ次期大統領が「正義」に専念できる環境を整えた。ブッシュの演技のお陰で米国民は「イラク国民を大勢殺して守ったドルのお陰で生活している」という「自虐史観」を持たずに済む。】

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最近、小誌読者の方々からの「この説はほんとうか」という質問メールで知ったのだが、「ブッシュはイラクの治安を『泥沼化』させて米国の威信と国力を故意に低下させ、米国が世界の覇権を握る時代を終わらせ、覇権を中国などの新興国に譲り、世界を多極化しようとしている」という説が20万人もの読者に読まれているようだ。しかも、その理由は「ウォール街の投資家が先進諸国より成長率(利回り)の高い新興諸国に投資して儲けたいから」だという(田中宇の国際ニュース解説2006年12月5日「自滅の仕上げに入った米イラク戦争」、同2008年6月28日「アメリカが中国を覇権国に仕立てる」、同8月11日「北京五輪と米中関係」、同9月30日「米経済の崩壊、世界の多極化」、同2007年2月27日「地球温暖化の国際政治学」)。
そういう説にもそれなりに根拠があるようだから、べつに珍説、奇説とまでは言わないが、しょせん「星野監督は上原を代表に選んだから負けるぞ→ほら、負けただろ」式の、あるいは「石油利権のためにイラク戦争をやったらひどいことになるぞ→ほら、なっただろ」式の、事前の先入観にとらわれたままの感情論の域を出ていない。

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【小誌記事の内容を紹介するメールマガジン、ホームページ、ブログなどインターネット上の諸媒体は、必ず小誌記事のURLアドレス http://www.akashic-record.com/y2008/usdirq.html#02 にリンクを張って、読者がワンクリックで小誌Web版の当該記事にアクセスできるようにする義務がある。もしも、上記のインターネット上の諸媒体が、小誌記事の内容を紹介しながらリンクを張らずに済ませるならば、それは、自媒体の読者を、自媒体と同等またはそれ以上に魅力的なコンテンツを掲載する他媒体に奪われないように囲い込もうとする卑怯な行為であると言わざるをえない。インターネット上では、読者は、異なる媒体のコンテンツを比較して、より優れたコンテンツに出会う権利があり、この権利は姑息な手段によって制限されてはならない。】

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国際政治学者の故・高坂正尭(まさたか)京都大学教授は、筆者のような普通の学生にはゼミや講義で、民主党の前原誠司前代表にはマンツーマンで、「日本にとっては対米関係がいちばん大事」と説き続けたが、その理由が、いまあらためてよくわかる。
米国が持つ地政学的な条件、すなわち、中国などと違って、外国からの攻撃に対して世界一堅牢であるという条件が、この37年間まったく変わっていないからである。
もちろんこの条件は、今後50年経っても変わるまい。

ドルの覇権は守られた。
今後財政赤字がひどくなったら、借金の踏み倒し(米国債の償還制限)をすればいいし、ドル安(ドルインフレ)が行き過ぎたら、「二重通貨制」で古いドル紙幣を整理すればいい(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。

米国は今後50年間、あるいは100年間、覇権国家であり続けるためにイラクで戦争をし、イラクから撤退する。
ただ、それだけのことだ。

 (敬称略)

【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

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次回以降も、このテーマを、経済学的、地政学的見地から掘り下げ、米国の覇権が終わらないこと、および、中国が絶対に覇権国家になれないことを、引き続き証明して行く予定。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】

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【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

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【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】

【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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