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究極の解決策

〜勝手にドル防衛?〜

Originally written: Nov. 27, 2008(mail版)■究極の解決策〜週刊アカシックレコード081127■
Second update: Nov. 27, 2008(Web版)
Third update: Dec. 01, 2008(Web版)(リンク先URL等修正)

■究極の解決策〜週刊アカシックレコード081127■
米国経済の衰退によって基軸通貨としての地位が危うくなって来た米ドルを、ふたたび強固な基軸通貨に戻すことは可能か。それとも、それはまったく不可能な妄想か。
■究極の解決策〜勝手にドル防衛?■

■究極の解決策〜勝手にドル防衛?■
【小誌2007年2月22日「北朝鮮の北〜シリーズ『中朝開戦』(1)」は → こちら
【小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」は → こちら
【小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」は → こちら
【小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」は → こちら
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」は → こちら
【小誌2007年5月21日「中国の『油断』〜シリーズ『中朝開戦』(6)」は → こちら
【小誌2007年6月7日「米民主党『慰安婦決議案』の謎〜安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」は → こちら
【小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【小誌2007年9月13日「安倍首相退陣前倒しの深層〜開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」は → こちら
【小誌2007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」は → こちら
【小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」は → こちら
【小誌2007年11月16日「先に『小連立』工作が失敗〜自民党と民主党の『大連立政権構想』急浮上のウラ」は → こちら
【小誌2007年12月21日「大賞受賞御礼〜メルマ!ガ オブ ザ イヤー 2007」は臨時増刊なのでWeb版はありませんが → こちら
【小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」は → こちら
【小誌2008年2月18日「毒餃子事件の犯人〜チャイナフリー作戦〜シリーズ『中朝開戦』(12)」は → こちら
【小誌2008年3月6日「中朝山岳国境〜シリーズ『中朝開戦』(13)」は → こちら
【小誌2008年3月17日「女は女を理解できない?〜朝ドラ視聴率低迷の意外な理由」は → こちら
【小誌2008年3月31日「謎の愛読書群〜シリーズ『ロス疑惑』(1)」は臨時増刊なのでWeb版はありませんが → こちら
【小誌2008年4月1日「拝啓 三浦和義様〜シリーズ『ロス疑惑』(2)」は臨時増刊なのでWeb版はありません。】
【小誌2008年6月30日「機密宣伝文書?〜『対北朝鮮・中国機密ファイル』の撃」は → こちら
【小誌2008年8月31日「星野続投反対!!〜シリーズ『北京五輪』(4)」は → こちら
【小誌2008年9月8日「福田退陣の謎〜東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆」は → こちら
【小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権の組み替え?〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」は → こちら
【前回「本日発売〜小説『中途採用捜査官』文庫化」は臨時増刊なのでWeb版はありませんが → こちら

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米国経済の衰退によって基軸通貨としての地位が危うくなって来た米ドルを、ふたたび強固な基軸通貨に戻すことは可能か。それとも、それはまったく不可能な妄想か……。

この問題を考えるうえで参考になりそうな、米国政府の経済政策についての以下のような記事を、読売新聞は8月17日付朝刊4面に載せている:

「……政権が……誕生してから戦い続けてきた国内経済の最大問題は、景気停滞(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)の克服だった。景気がさっぱり盛り上がらないのに[石油や食糧の価格を中心に]物価だけはどんどん上がるという奇妙な現象は、スタグネーションとインフレーションの二つを合わせてスタグフレーションという……むしばまれたアメリカ経済の体質を象徴している。
 アメリカの国民総生産は一兆ドルを越え……もちろん世界一位だが、この大国の活力は……しだいに衰え、とくにここ数年間は落ち目が目立った。昨年の経済成長率は実質ゼロ、しかも物価はウナギ登り。ことしも年初に政府が立てた見通しどおりの経済成長はむずかしいと、政府自身も認めている。
 アメリカは第二次大戦後の自由世界のリーダーとしてふるまってきたが、政治的に威信を保てたのは、経済力の裏づけがあったからこそだ。それが、いまではアメリカの有識者の間にさえ『アメリカの最良の日はすでに終わった』という声が聞かれるようになったのはなぜか。根源はアメリカのイラク戦争介入にまでさかのぼれる。
 ……
 戦争は最大の消費に違いないが浪費でもある……需要が落ちたので民間企業の投資意欲は衰え、新しい工場の建設や機械の設置を手びかえたので景気はいっこうにさえない。景気回復がはかばかしくないから、失業率はこのところ六%前後を上下し、労働者は働く機会を失うことにおびえている」

もう1つ、同じ日付の同じ頁の、別の記事もお読み頂きたい:

 「……
 米国債と米国通貨は国際通貨体制の軸になっており、円やユーロといった各国の通貨は、その交換比率を米国債か米国通貨で表すことになっている。アメリカの経済力がしっかりしており、米国財政の力がたっぷりある間は各国とも……米国債を持っていても不安はなかった。ところが、アメリカがイラク戦争で膨大な軍事支出をし、世界中に米国債をバラまいた結果、米国財政の力をはるかに上回る米国債が各国の中央銀行に集まった。いわばイラク戦争でタレ流された米国債があふれているのが現状だ。
 ここから米国債不安が起きる。米国財政の力の裏付けがあってこそ[満期が来たら換金できるので]米国債の価値があるが、裏付けがなければ米国債はただの紙切れにすぎない。米国財政の力が減ったり……するたびに、米国債を売って米国通貨に代えたり、強い通貨であるユーロや円を買う米国通貨危機が起きた。
 ……国際通貨体制の軸である米国債価値の低下はアメリカの威信をそこねることになる。米国債の威信を維持するため……主要通貨国の間で米国通貨と米国債の交換[償還]に関して紳士協定が結ばれた。これは各国の中央銀行は手持ちの米国債を米国通貨に交換するようアメリカに要求しないという申し合わせだ。
 だが……アメリカ以外の国は紳士協定にいつまでもこだわっていられない。
 事実、中国やロシア、インドは昨年末からことしにかけてアメリカにに対し米国債と米国通貨の交換を要求している。こうした動きが世界的に広まれば、米国財政の力は一挙に底をつき、自由主義国家の巨人であるアメリカは、破産に追い込まれる……」

ご感想やいかに。
なるほど、イラク戦争の泥沼化に端を発する財政赤字、経済力の衰退による貿易赤字といういわゆる「双子の赤字」の増大によって、米国の超大国としての覇権は終焉を迎えるのだ、と思われるだろう。
とりわけ、イラク戦争の膨大な戦費を賄うために米国政府が乱発した米国債が、いかに深刻な問題であるか、実感されるだろう。米国政府は米国債を日英のような先進国や、中国やロシア、インドなどの新興国に買ってもらっているが、新興諸国は先進諸国間でひそかに結ばれた紳士協定を無視して、米国政府に米国債の償還を要求し、あるいは米国債を市場で売却して米国債の相場を下落させ、米国財政を破綻させるかもしれないのだ。なるほど、米国の経済覇権は「もはやこれまで」であり、これからは中国などの新興国が世界経済を牛耳るのだ、と思われたかもしれない。

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が、ぜんぜん違う。
実は、上記の2つの記事は、昭和46年、1971年8月17日付の読売新聞朝刊(4面)の記事「病根深いアメリカ経済」「対外信用も破産寸前」をほんの少し書き替えたもの、なのだ。
(^o^)/~
どこをどう替えたのかというと、まず「ニクソン」など、記事の書かれた年月を連想させる語句や文をすべて消して「……」に置き換えたうえで、それ以外の部分について、以下のように語句を入れ替えた:

 ベトナム → イラク
 金(きん) → 米国通貨
 ドル → 米国債
 金の保有(高) → 米国財政の力
 マルク(ドイツマルク) → ユーロ
 西ドイツやオランダ、スイス → 中国やロシア、インド

新たに字句を書き加えることはほとんどしなかった。付け加えた語句は「石油や食糧の価格を中心に」「満期が来たら換金できるので」「償還」の3つだけであり、それらは[ ]で囲んで示した。

だから、「主要通貨国の間で米国通貨と米国債の交換に関して紳士協定が結ばれた」などという事実は存在しない。正しくは「(1971年当時)主要通貨国の間で金とドル交換に関して紳士協定が結ばれた」のだ(原文ママ)。

米国の国民総生産の数字は2008年のいまとは違う(というか、現在では国力を表す指標としては国民総生産ではなく国内総生産、GDPを使う)。が、失業率はたまたまともに6%前後で、だいたい同じだ。だから、米国民の暮らしの厳しさも同じようなものだったと言えるだろう(朝日新聞Web版2008年11月7日「米失業率、6.5%に急上昇 14年ぶりの高水準」 によると2008年10月の米国の失業率は6.5%で、来年2009年中に約25年ぶりに8%台に達するという見方もある)。

さて、ネタが割れたあと、皆さんはどう思われるだろうか。
2008年9月15日、150年以上の歴史を持つ米国最大級の投資銀行(証券会社)リーマン・ブラザーズが破綻し、ほかの米大手金融機関も次々に経営危機に陥っていることが顕在化して以来、世界中で「もう米国中心の世界経済体制は終わった」とか「これからは中国などの新興国が力を持つ」とか言われている。
が、同じようなことは37年前にもあったのだ。

1971年当時も米国は「双子の赤字」に悩まされ、西ドイツや日本などの「新興国」の経済的台頭に脅かされて、危機に陥っていた。
当時は「金本位制」だった。第二次大戦後、圧倒的な経済力で世界中から金塊を集めた米国は、米国通貨(米ドル)を一定の比率で金(きん)と交換できる通貨(兌換紙幣)と定めたため、世界各国は「米国に品物を輸出してドルを稼げば、金と交換してもらえる」と信じて対米貿易黒字を増やすことに励んだ。
つまり、西ドイツや日本にとって、貿易で米国通貨を稼いで保有することは、米国財政が保有する金塊と交換(兌換)可能な「債権」を持つのと同じであり、それは米国にとっては、いつか手持ちの金塊を差し出さなければならないという「債務」を負うのと同じだったのだ。

しかし、米国経済の衰退に伴って米国の貿易赤字はあまりにも大きくなり、1971年には、もしも西ドイツや日本など諸外国が一斉に手持ちの米国通貨を金塊と交換してくれと言い出したら「債務不履行」に陥りかねない状態になった。

そこで、米国時間1971年8月15日(日本時間16日)、当時のリチャード・ニクソン米大統領は「金とドルの交換を一時停止する」と宣言した。これが世に「ニクソン・ショック」と言われる世界経済史上の一大事件であり、このニュースを伝えた朝日新聞(1971年8月16日付夕刊1面)はショックのあまり「ドル時代の終幕」という見出しを掲げたほどだった…………。

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それから、はや37年。「ドル時代」は「終幕」を迎えるどころか、いまだに続いている。 たしかに「リーマン・ショック」のあと、米国通貨は円などに対して弱くなり「ドル安」になったが、一時期ドルに代わって基軸通貨になりそうな勢いだったユーロも、つられて、いや、それ以上に値下がりして「ユーロ安」になり、必ずしもドルの「覇権」を脅かすほどの存在ではないことも明らかになった。

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【ユーロ圏で通貨を発行しているのは欧州中央銀行(ECB)だが、各国の金融機関を監督し、どの金融機関にいくら貸し出すべきか、破綻しそうな金融機関に公的資金を注入すべきか、といったことを判断し実行するのは、あくまでもフランスやドイツなど各国の中央銀行と財政当局である。このため、ECBには通貨政策を決定するのに必要な情報が十分に集まらない、という弱点があることが、2008年9月の金融危機で露呈した。
このため、欧州では結局「基軸通貨はドル」という認識になって、ドル需要が増し、ユーロはドルに対して値下がりした(2008年11月10日放送のNHK『クローズアップ現代』「克服できるか金融危機〜欧州の模索」における伊藤隆敏・東大大学院教授の発言)。】

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では、どうやって、この37年間、米国は米国通貨の覇権を維持したのか…………それは単純な話、債務の「踏み倒し」だ。

んなアホな、と言われるかもしれないが、ほんとの話だ。
1971年8月15日に発表された金とドルの交換の一時停止は、その後恒久的措置になった。つまり、それまで「唯一金と交換できる兌換紙幣」だったドルは、金と交換できない不換紙幣、「ただの紙切れ」になったのだ。
にもかかわらず、世界経済がドルを中心にまわるという体制はほとんど変わらなかった。金塊と交換できなくなってもドルは依然として世界貿易の決済通貨であり続け、西ドイツや日本はしぶしぶ現状を追認し、ドルを貯めこみ続けた。

その後も米国の財政赤字は(1990年代後半、クリントン政権の一時期を除いて)なかなか減らなかったので、米国は米国債を大量に発行して国内外に売り出した。米国債を購入すると、一時的に手持ちのドルが米国政府に渡るが、満期が来て償還してもらえらば、額面どおりの金額(元本)が返って来るし、それとは別に利回りも得られる。そこで、日本など諸外国は貿易で稼いだドルのうち相当部分を米国債に投資して運用するようになった。もちろん米国政府は諸外国に購入してもらった米国債の代金で財政赤字を埋め、国内の経済、財政をやりくりすることができた。

つまり、こういうことだ。
1971年8月15日まで、世界経済は「金との交換に裏付けられたドル」を中心にまわる、という第二次大戦後第1の体制だった。が、それ以降は「ドルとの交換(償還)に裏付けられた米国債」を中心にまわる、という第2の体制に移行したのだ。

幕末、巨額の財政赤字に苦しんでいた薩摩藩は、家老の調所広郷(ずしょ・ひろさと)が主導した藩政改革によって一気に藩財政を建て直した。そうして経済力を獲得した薩摩藩は、欧米諸国から高価な武器を買い付けて武力を強化して「雄藩」となり、倒幕戦争、明治維新で主導的な役割をはたすことができた。
では、その藩財政再建の方法は何かというと…………なんと借金の踏み倒しだった。調所は、藩がカネを借りていた大坂などの豪商たちに「債務約500万両の超長期繰り延べ」(250年分割無利子返済)という事実上の「債務不履行」を強引に呑ませたあと、切腹した。

どうやら、歴史上重要な役割を担う勢力は、借金(債務)を踏み倒してもいいらしい。2008年現在の日本の歴史家のなかに、幕末の薩摩藩が借金を踏み倒したことを理由に、薩摩藩(大久保利通や西郷隆盛)が明治維新にはたした功績を否定する者はいない(薩摩藩の倒幕の仕方を批判する者も、借金踏み倒しには言及しない)。同じように、1971年の米国が「金とドルの交換停止」という債務不履行を犯したことを理由に、その後の世界経済の発展に米国がはたした功績を否定する者もいない。この債務履行によって、ドルの発行額が金の保有高に束縛されることがなくなって、世界経済が拡大したのだから。

さて、リーマン・ショックのあと、「100年に1回の金融危機が来た」と世界中で言われており、次なる世界経済体制、国際通貨システム、つまり「第3の体制」の構築が求められている。
では、どうすればいいのか…………答えはもう出ているではないか。1971年の例に倣って、もう一度米国が債務不履行をやればいいのだ。

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●二重通貨制●
筆者は数年前、永田町・霞が関の事情通から面白い話を聞いていた:

「米国中心の世界経済体制を維持するなんて簡単だ。ドル安になったって、米国はぜんぜん困らない。諸外国が保有している米国債は額面がドルで書かれている『ドル建て』だから、ドル安になると……たとえば『1ドル=100円』が『1ドル=90円』になると……日本への借金が実質10%減るわけで、その分事実上の債務不履行になる。もちろん、米国債の満期償還のときには元本を払わないといけないけど、そのときはぜんぶ償還しないで、一定の比率で制限すればいいんだ(どうせ、ドル安で事実上、何パーセントかの債務不履行があるのだから、債権国が拒否しても意味はない)。そのときは、現在のドルのほかに、新ドルも発行して、それを『旧ドル』と交換する際に、国際通貨基金(IMF)への出資額か何かを基準にして国ごとに制限を付ければいい……」

と、ここまで話を聞いた時点で、この事情通は多忙を理由に筆者の前を去った。だから、肝心の債務不履行の方法については詳しく聞けなかった。その後も何度か彼にこの件でインタビューしようとしたが、時間が取れず、そのままになっている。

しかし、その後、筆者も自分なりに、米国がもう一度債務不履行を行うための「合法的な方法」をあれこれ考えてみた結果、だいたいその姿が見えて来た。

もちろん、米国がある日突然、日本や中国に向かって「あんたらが持ってる米国債は元本の半分しか償還しないよ」などと言ったら、米国政府は信用を失い、それ以降もう米国債を発行することはできない。だから、いきなり、そんな乱暴なことはできない。

とすると、やはり上記の事情通が言うように、一時的に旧ドルと新ドルと、2つの通貨を流通させる「二重通貨制」がよいように思う(「二重通貨制」は筆者の造語である)。

同時に2種類の通貨が大量に、1つの国で流通した例は過去にある。
たとえば、ドイツでは、欧州統一通貨ユーロの導入時期、1999年から2002年にかけて、事実上の二重通貨制だった。
まず、1999年1月1日に、ユーロはドイツやフランスなどのユーロ圏で銀行間取り引きの通貨として導入されたが、まだ紙幣や硬貨は発行されなかった。
紙幣と硬貨が導入されたのは2002年1月1日で、この日をもってドイツマルク(DM)の時代は事実上終わった。

が、2001年12月31日までにドイツ国内で発行、購入された切手、テレフォンカード、電車やバスの乗車券(回数券)はどうなるのか、という問題が別に存在する。
これらについて、当時のドイツ政府は以下のように決めた(Rhein Bruecke 2007年10月4日 「ユーロ通貨 Q&A (改訂版)」):

#01:DMのみで額面が表示された切手は2002年6月30日まで使用可能。
#02:その後、額面50DMまでの切手は、7月1日〜9月30日までは、ドイチェ・ポスト営業所(郵便局)の窓口で交換可能。10月1日以降はフランクフルト中央切手交換所だけで交換可能。
#03:額面50DM超の切手は7月1日以降はフランクフルト中央切手交換所だけで交換可能。
#04:DM表示のみの切手は、ユーロ金額の倍のDM表示切手を貼れば、無期限に使用可能。
#05:有効期限の記されていない古いDM表示のテレフォンカードは使用不可。但し、ドイツテレコムで未使用分の金額を有効なユーロ表示のテレフォンカードと交換可能。
#06:有効期限の記されているDM表示のテレフォンカードは、期限まではそのまま使用可能。
#07:DM表示の交通機関の乗車券は2002年2月28日まで使用可能。ユーロ現金への払戻しも同日まで可能だが、2.5ユーロの手数料がかかる。
#08:DM表示の未使用の乗車券と、ユーロ表示の新料金の乗車券との交換は、2002年末まで受け付け、手数料は無料だが、差額は徴収される。

DMからユーロへの切り替えは、貿易や外国投資の問題があるので、ユーロに参加するフランスなど「ユーロ圏」諸国と協議するのはもちろんのこと、日米英などユーロを導入しない諸外国にも事前によく周知して行う必要がある。が、DM表示の切手、テレフォンカードなどの有価証券をどう取り扱うかは、純粋にドイツの国内問題なので、ドイツの国内法やドイツ政府の行政裁量で「勝手に」決めていい。たとえその有価証券の所有者が外国人であっても、これは国際問題ではなく、あくまでドイツの国内問題だ。

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【「切手やテレフォンカード、乗車券が有価証券」と聞くと、証券会社で株券を売り買いしている人にとっては違和感があるかもしれない。が、法律や判例では「私法上の権利(財産権)を表章する証券であって、表章される権利の移転または行使が証券の授受によってなされるもの」はすべて有価証券である。テレフォンカードなどのプリペイドカードを偽装すれば「有価証券偽造罪」に問われる。】

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さて、当然のことながら、米国債も有価証券である。
そこで、その有価証券が表章する権利を債権者(たとえば中国政府)に対して債務者(米国政府)が踏み倒すには、ユーロ導入前後のドイツに倣って一時的に「二重通貨」状態を作り出す、以下のような方法が考えられる。

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●新ドル導入●
201x年のXデー、米国がそれまで流通していた米ドル(「旧ドル」とする)に代わって、新しい通貨(とりあえず「新ドル」とするが、名前はバイトでもドットでもなんでもいい)を流通させることを決める。理由は、「テロ組織やテロ支援国家が旧ドル札を偽造しているので、精巧な、偽造のできない新ドル札が必要だから」「旧ドルで資金を貯め込んでいる犯罪組織が多いから」などと、適当にでっち上げればよい。

【上記の永田町・霞が関の事情通の考えによれば、北朝鮮製偽ドル札「スーパーK」への対策と称して2003年以降毎年のように頻繁にドル札のデザインや色を替えたり、核開発を行う北朝鮮への経済制裁の一環としてマカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮口座を2005年に一時的に凍結させたりしたのは、米国が近い将来、大規模な債務不履行を行うための予行演習である可能性が高い、という。】

この場合、通貨の読み方を替えて、たとえば、100旧ドルを1新ドルに読み替える「デノミ」を実施してもいい。が、それを実施すると、ドルとユーロ、ポンドの交換レートが従来の「1桁対1桁」から「3桁対1桁」になってしまって不便なので、必ずしもデノミはしなくてもよい。ここでは、デノミはせず、1旧ドルが1新ドルに置き換わるケースを考えることにする。

理論上、米国における新ドルの導入は、ドイツにおけるユーロの導入と同じなので、預貯金や紙幣、硬貨は事前に公表された交換比率に従ってほぼ全額置き換えられるはずだ。そうなれば、旧ドルで預貯金を持つ米国内外の個人も法人も、だれも損をしない。

ところが、有価証券は別である。
Xデー以前に発行されて購入された米国債はすべて旧ドル表示なので、それを新ドルで償還(交換)するときの条件は、米国政府が勝手に決めてよい。ドイツ政府が2002年にDM表示の切手などに対して行ったように、交換の期限や場所を制限したり、交換の際に手数料を取ったりして、実質的に債権者(たとえば中国政府)の財産権が一部損われることになっても、それを「債務不履行」とは呼ばないのである。

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●米共和党の八百長●
筆者は、2008年米大統領選は「米共和党が八百長で負ける」と言って来た。当初は、女性のヒラリー・クリントン上院議員が米民主党内の予備選を勝ち抜いて正式な民主党大統領候補に指名されると予想したが、彼女の対抗馬は事実上、黒人男性のバラク・オバマ上院議員だけであり、白人男性の有力候補、ジョン・エドワーズ上院議員(2004年米大統領選の副大統領候補)などは早々と敗退していた(小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」)。

他方、米共和党では、大本命のルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が予備選の序盤戦、アイオワ州やニューハンプシャー州などでの選挙運動を手抜きして早々と「不戦敗」したのを始め(小誌前掲記事)、まったく八百長としか思えない不可解な動きが繰り返された。
共和党の正式候補に指名されたジョン・マケイン上院議員が、2008年8月、バラエティ番組の笑いのネタにしかならない、まったく知性のない軽薄女、サラ・ペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に起用したり、共和党の重鎮コリン・パウエル元国務長官が投票日直前にオバマへの支持を表明したりして、共和党側は民主党候補の支持率を上げることに「貢献」したのだ。

決定的だったのは、ペイリンの副大統領候補指名直後、まだ彼女のメッキがはげる前、マケイン陣営の支持率が高かったときに、ジョージ・W・ブッシュ現米大統領の共和党政権が、米大手金融機関のうちリーマンだけを差別的に取り扱い、救済せず、破綻させたことだ(2008年11月9日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』における中川昭一財務相のコメント。中川はヘンリー・ポールソン米財務長官に会った際に直接「ダブルスタンダードではないか」と詰問したが、明確な答えはなかったという)。
それまで共和党政権は米国の大手金融機関は潰さない方針を採っていた。
2008年3月には、米証券大手のベアー・スターンズ(BSC)を、連邦準備制度理事会(FRB)が「行政指導」する形で(BSCに290億ドルのFRB特別融資を実施したうえで)米銀行大手のJPモルガン・チェース(JPM)に救済合併させたし、7月には、公的資金投入を柱とする、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の救済案を発表し、その後実際に救済した(AFP Web 2008年7月14日「米財務省 『ファニーメイ』と『フレディマック』救済へ、国有化は否定」、NBonlineビジネスウィーク2008年3月31日「恐怖に震えるウォール街 ベアー・スターンズ救済で悪夢が終わりではない」、産経新聞Web版2008年9月17日「米金融危機 リーマンばっさり、AIG救済 米政府・FRBの判断基準は」)。
なんで、BSCやファニーメイ、フレディマックは破綻から救ったのに、リーマンは救わなかったのか…………ペイリンの副大統領候補起用で上がったマケインの支持率を落とすのに、ちょうどいいタイミングだったから、とでも考えないと説明が付かない。

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【リーマン破綻の翌日、2008年9月16日、米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対して、FRBは公的資金約850億ドル(約9兆円)の融資を決めたので(FRBは融資と引き換えにAIGの株式取得権を取得。産経前掲記事、産経新聞Web版2008年9月17日「米金融危機 AIG救済へFRBが9兆円融資承認 事実上の政府管理下へ」)、中川の言うとおり、米国政府のリーマンに対する扱いは明らかにダブルスタンダードである。
おそらく米国政府は、リーマンもAIGも両方救えただろうが、この時機に2つとも救うとマケインが当選する可能性が高くなるので、敢えて1つは潰したのだろう。】

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このリーマンの破綻以降、マケインの支持率は一度もオバマのそれを上回ることがなかった。
つまり、2008年1月にジュリアーニが選挙戦を撤退して以来、共和党は11月の大統領選の本選で負けるように負けるように、繰り返し振る舞っていたのだ。これでは、民主党候補が本選で勝つのは当然ではないか。

このように見て来ると、当選するが可能性があったのは、最初からヒラリーとオバマだけだったように思える。つまり、2008年の大統領選本選は、必ず女性か黒人が当選するように仕組まれていた、と考えられるのだ。

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【ヒラリーが大統領にならなかったという意味で小誌の予測は「2008年の時点では」はずれている。しかしすでに述べたとおり、たとえヒラリーが大統領になっても、それだけで「予測が当たった」と自慢する気は元々ない。なぜなら、これは、あてずっぽうで言っても確率25%で当たる性格のものだからだ(小誌前掲記事)。小誌の予測の核心は「ヒラリーが不正に勝つ」というところにあった。が、共和党が負けるための八百長スキームは発動されたものの、オバマを負けさせる不正(いったん無効とされたフロリダ州予備選の代議員票の再有効化、など)は発動されなかったので、その意味で小誌の大統領選の予測は大きくはずれている(小誌前掲記事)。】

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●人権外交で踏み倒せ●
女性や黒人が米大統領になると、何がいいのか。
それは、米国が世界に向かって「人権と民主主義の価値」を説く上で有利なのだ。

ブッシュ現米大統領は2002年、アフガニスタンで「テロとの戦い」を始めるに当たって、同国を実質的に支配するイスラム原理主義過激派組織タリバンが、女性の教育や勤労の権利を奪うなど、人権を抑圧していると非難した。が、彼は白人男性であるうえ、2003年にはイラク戦争を起こして女性や子供を含む大勢のイラク国民を死なせ、戦争終結後も米軍の治安維持活動に伴う誤爆などで大勢の女子供を犠牲にし続けたため、彼の人権主張は国際的にはほとんど説得力を持たなかった。

ところが、ヒラリーとオバマは民主党内の予備選の段階から「イラクからの米軍撤退」を公約にしていた。だから、2人のうちどちらが当選しても、大統領になったあと、圧倒的な説得力をもって以下のように主張することができる:

「私(の性別または肌の色)を見なさい。米国は女性や少数民族の人権を尊重する民主主義国家だ。世界各国は米国を見習って、女性や少数派の人権を尊重してほしい。私が大統領になったからには、もうイラクで米軍(の誤爆)によってイラク人の血が流されることはなくなるだろう」

つまり、ヒラリーかオバマが大統領になって米軍がイラクから撤兵すると、米国は世界の人権抑圧国家に対して、堂々と制裁を行うことができるようになるのだ。

もちろん、米軍が直接手を下す「軍事制裁」ではない。そんなことをすれば、米国財政が破綻する。が、経済制裁なら、そしてその制裁が米国経済にマイナスにならない方法なら、問題なく実施できる。

たとえば、オバマ次期大統領の政権ができたあと、米国が新ドルを導入して一時的に二重通貨状態になるとする。
そうなると、当然、米議会では、旧ドルで発行され購入された有価証券を新ドルで償還する際の手続き条件について審議する。その際、議会では「人権派」議員が以下のように言うだろう:

「中国は、チベット人など少数民族の女性に中絶手術や不妊手術を強制しているし、選挙で選ばれた議会のない独裁国家だ。このような非民主的な国家に対しては、米国債の償還手続きを利用して経済制裁を加えるべきだ」

イラク戦争で大勢の女子供を殺したブッシュのような「侵略主義的な」白人男性の大統領がこの主張に賛同してこういうメッセージを世界に向けて語っても、国際世論の反発を買うだけである。が、女性や黒人の大統領が語る場合は、そうではあるまい。

2008年8月現在、「旧ドル表示」の米国債の発行残高約2兆7400億ドルのうち、中国は約1/5の5410億ドルを保有している(保有高1位は日本で、5859億ドル。3位は英国で3074億ドル。サウジアラビア、ベネズエラなど石油輸出国機構OPEC加盟諸国は合計で1798億ドル。米財務省Web 2008年8月「MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES」)。
もしも米国政府が人権問題を口実にして中国の保有する米国債を「新ドル」で償還することに応じなければ、つまり借金を全額踏み倒せば、米国は約5400億ドル(約54兆円)の丸儲けとなって財政がかなり再建され、中国は同額の丸損となる。「踏み倒し」の対象に、米国人の目から見て人権保障や民主主義が不十分な中東産油国などを加えれば、米国の財政状態はさらに改善されることになる。他方、米国債の価値は日英などの「善良な」先進民主主義諸国に信任されたままなので、今後も米国債を発行することは可能だ。

そんな横暴な!……と思うだろう。
が、現に、米国は1971年に堂々と「借金踏み倒し」をやっているのだから、米国にとっては、どうということはない。あのときは、日欧からさんざん文句を言われたが、結局そのまま「覇権」を維持した。たとえ米国がXデーに「人権抑圧国家への米国債償還制限」を実施しても、それは1971年の再現でしかない。

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【1971年のニクソンの「金・ドル兌換停止宣言」と、1776年のジョージ・ワシントン初代米大統領の「アメリカ独立宣言」は性格的に非常によく似ている。どちらも諸外国となんら協議することなく、米国人が米国人だけの都合で勝手に法律や契約を踏みにじり、一方的に宣言したものである。米国は本来独立革命によって生まれた革命国家である。そして、革命とは、力ずくで既存の法律や契約を破棄し、勝手に新しい(自分に都合のいい)秩序を打ち立てる営みにほかならない。
「独立宣言」(代表なくして課税なし)と言えば聞こえはいいが、実態は植民地住民による宗主国・英国に対する納税義務の一方的破棄、要するに組織的な「脱税」にすぎない(脱税も、みんなでやれば、こわくない?)。「脱税」を「独立」と言い換える国なのだから、「借金踏み倒し」を「人権外交」と言い換えるぐらい、どうということはあるまい。
だから、米国は今後も常に「堂々と違法行為をやる」可能性があると思わなければならない。】

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つまり、201x年のXデーまで、世界経済は「旧ドルとの交換(償還)に裏付けられた米国債」を中心にまわる、という第2の体制だが、Xデー以降は「新ドルとの交換(償還)に裏付けられた米国債」を中心にまわる、という第3の体制に移行する、ということだ。

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●「中朝戦争」も有効●
米国が中国に対して合法的に事実上の債務不履行を行う方法はもう1つある。米兵が一滴の血も流すことなく、「中朝戦争」をやらせて、中国を2つか3つの国家に分裂させてしまえばいいのだ(分裂させるまでの手順については、拙著、ロボットSF『天使の軍隊』の冒頭を、「中朝戦争」については、小誌2008年3月6日「中朝山岳国境〜シリーズ『中朝開戦』(13)」 ほかを参照)。

その場合は、債権者である中国政府が複数存在する状態になるので、分離独立で誕生した「中(なか)中国」「南中国」などの新政府が債権放棄をしない限り、北京の中国政府(北中国)は政府所有米国債については元本の償還を簡単には受けられない(民間所有の米国債も、政治的混乱を理由に償還されない恐れがある)。
というか、米国政府は、分離独立で誕生した新政府に工作を仕掛けて「財産分与」の問題を長引かせれば、その間ずっと債務償還義務を免れるので、まるで薩摩藩の返済繰り延べのように、事実上の「踏み倒し」が可能になる。

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【日米の映画界が出資して『三国志』が映画化され、2008年に『レッドクリフ』というタイトルで公開されたが、この映画がこの時機に公開されるのは非常にイミシンである。この映画を見た中国人を含む世界中の映画ファンは「中国は昔は3つに分裂していた」「分裂していた時代にも偉大な英雄が出た」「分裂は必ずしも悲劇ではない」と知ることになるからだ。】

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●国債を使わない方法●
実は、踏み倒す方法はさらにもう1つある。
それは米国債を利用せず、米国通貨を使って、より直接的に他国の財産権を侵害する……いや、財産を横領する方法だ。

通貨はそれを発行する国の政府が「価値がない」と言った瞬間にただの紙切れになる。DMの場合は、発行者であるドイツ政府が2002年1月1日以降はドイツ国内では使えないと宣言したことによって、その日以降価値がなくなった。これはドイツの国内問題である。

米国政府がXデーに新ドルを発行するということは、Xデー以降は旧ドルは米国内では使えない、つまり、価値がないと宣言することと同じである。つまり、中国の個人や法人がどんなに多額の旧ドル建て預金を持っていても、Xデー以降は価値がなくなるのだ。
これも米国の国内問題である。外国である中国で、中国人同士が自国通貨の人民元よりも旧ドルに価値を見出してそれで取り引きをしたいと思うこと(みんなでむりやり価値があると思い込んで、意地になって使うこと)は理論上は可能だ。
しかし、米国政府がXデー以降米国内で旧ドルの価値を保障しないと言っている以上、米国人はもちろんのこと日本人も英国人も、それを貿易の決済には使わない。したがって、中国人の旧ドル建て預金の口座名義人は、Xデーまでに旧ドルを新ドルに両替してもらわなければ、米中貿易はもちろん、日中貿易の決済にも困ることになる(そして、貿易に使えない旧ドルの需要は小さく、逆に貿易に使える新ドルの需要は大きくなるので、旧ドルは新ドルに対して暴落し、交換レートは「1:1」ではなく、たとえば「10:1」などになるだろう)。

そこで、中国政府と中国人は旧ドル建て預金を全額、新旧「1:1」の交換レートで新ドルに交換してもらいたいのだが、旧ドルをどういう条件で新ドルに両替するかは、これも米国の国内問題であって、米国政府が勝手に決めることができる。

ちゃんと先例がある。これもドイツだ。
ユーロ導入前、1990年10月3日の東西ドイツの再統一(西ドイツによる東ドイツの吸収合併)に先立って、同年7月1日、東ドイツ(ドイツ民主共和国)の通貨、東ドイツマルク建ての預金は、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)の通貨ドイツマルク(DM)に両替(交換)されて、すべてこの世から消えた。

すべて両替されたのなら、だれも損しないからいいじゃないか、などと単純に思ってはいけない。このとき、当時の西ドイツ政府は、西より貧しい東の経済力や生活水準を考慮して、複雑な条件を付けたのだ。

なぜなら、当時タテマエ上は、1東ドイツマルクは1DMの価値があることになっていたが、世界の金融市場では経済力の劣る東の通貨は安く買いたたかれており、実勢交換レートは「2:1」、つまり、1DMは2東ドイツマルクの価値があると思われていたからだ(1989年11月のベルリンの壁の崩壊以降、東ドイツ国内が混乱したので、東ドイツマルクの実勢レートはさらに低下し、「10:1」になることもあった)。
すべて実勢レートで両替すれば、西ドイツ政府は財政負担が少なくて都合がよい。しかし、それでは統一によって西ドイツ経済に組み込まれる東ドイツ国民は経済的に苦しくなる。東ドイツ国民は、経済的に西と切り離されて東で安く生産された品物を買って生活していた時代とは異なり、統一後は、西の物価水準で作られ販売される品物を買って生活しなければならないのに、それを無理なく買えるだけの預金がない、ということになるからだ。
つまり、実勢レートで東ドイツ全国民(約1600万人)の東ドイツマルクを全額両替したあと東西ドイツが統一すると、人口約6300万の西ドイツに突然、約1600万人の貧乏人が流れ込んで来たのと同じことになってしまうのだ。

そこで、西ドイツ政府は、東ドイツ国民の生活に配慮し「原則として個人貯蓄は1:1で交換する」と決めた。
しかし、東ドイツ国民のすべての預金を1:1で交換すると、西ドイツ政府の財政負担、つまり西ドイツ国民の税負担が重くなりすぎる。そこで、西ドイツ政府は「1人あたり4000東ドイツマルクまでの個人貯蓄は1:1で交換するが、それ以上の個人貯蓄や企業債権は実勢レートに近い2:1で交換する」ことにした。

ここで重要なのは、西ドイツ政府が西ドイツ国民のみの税負担に配慮して「4000東ドイツマルク以上は2:1」と決めたことだ。西ドイツは民主主義国家だが、当時の西ドイツ政府(ヘルムート・コール首相)は西ドイツ国民のみの投票によって選挙で選ばれており、東ドイツ国民に選ばれたわけではないからだ。

当時の西ドイツと同じように、現在の米国も民主主義国家だ。オバマ次期大統領は2008年に米国民のみの投票によって選ばれており、中国国民に選ばれたわけではないので、彼が旧ドルから新ドルへの切り替えを行う際には当然、米国民の税負担軽減を第一に考え、中国国民のことは七番目か八番目にほどほどに考える。もちろん、彼の政権には外国人や外国企業が所有する旧ドル建ての預金を全額「1:1」で新ドルに交換してやる義務はないし、そんなことはしない。

たとえば、米国議会の人権派議員の意見を聞いて、中国のような、非民主的な国家の個人法人の預金については交換条件を厳しくし、日英のような民主主義国家のそれについては交換条件を甘くする、ということも可能だ。そして、それはけっして中国に対する債務不履行とは呼ばれない(が、実質的にはもちろん、債務不履行どころか、中国からの富の略奪である。「詐欺」と言ってもいいぐらいだ。しかし、分裂後の「旧中国」の諸国民の相当数は「報道の自由」によって、英米のマスコミ報道に接するため「非民主的な政治をしていた北京の政府が悪い」と考えるようになるはずだ)。
(>_<;)
こんなことを書くと「おまえは正気か」と言われそうだ。
しかし、1971年8月15日以前に「いずれ米国は金とドルの交換を停止する」と言った人がいたとすれば、その人も「おまえは正気か」と言われたはずだ。なぜなら、それは当時の常識ではまったく考えられないことだったのだから。そして現実に、1971年8月15日以前にそういうことをおおやけの席で言った有力エコノミストは世界中に1人もいなかった(ニクソンは事前に外国政府はもちろんのこと、米国の議会ともまったく相談せずに兌換停止を宣言したからだ)。

なんでこんな横暴が可能なのかというと、国際的に大きな影響力を持つ米ドルといえども、それは国際法上のものではなくて、あくまで米国の国内法のみによって規定されているからだ。つまり、国内法に照らして合法ならば、国際的にどんなに迷惑をかけようが「すべて合法」ということになるのだ。

1990年代以降、米国の投資銀行などの金融機関が金融工学を駆使して複雑な金融商品を編み出して世界中に売り出し、実体経済とかけ離れた膨大なマネーを国境を越えてばら撒いて、その結果リーマン・ショックに象徴されるような世界経済の混乱をもたらしたので、それはしばしば「マネーの暴走」と批判される。しかし、歴史上もっとも暴走した金融機関は、リーマン・ブラザーズではなく、実は米国政府なのだ。
(>_<;)
だから、米金融機関の暴走を米国政府に規制してくれと頼んでも、あまり意味はない。それは、大泥棒にコソ泥を捕まえてくれと頼むようなものだ。絶対に捕まらない大泥棒から自分の財産を守りたければ、大泥棒と一緒に泥棒をやるしかない。
(^^;)
米国は、世界で初めて選挙で国家元首(大統領)を選ぶ民主主義国家を建国したり、世界で初めて人類を月に送ったりする国であり、独創性やチャンレンジ精神に極めて高い価値を置く国である。だから、あの国では「独創的な踏み倒し方」を考え出した大統領は、ジョージ・ワシントンにせよニクソンにせよ国内では高く評価され、どちらも再選されている。
(^o^)/~

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●口座凍結●
実は、米国が債務不履行を行う方法は、さらにさらにもう1つある。
2003年以前に発行された古いドル札、および、それを預金して形成されたと推定される資産(預金口座)を「旧ドル」とみなし、偽札対策などの名目で、新ドル発行と同時に(一部)凍結してしまうことだ。

これは、上記のBDA北朝鮮口座凍結措置の拡大版である。
これを実施すると、東南アジアなどを中心に幅広く流通している「旧ドル札」が、たとえほんものであっても事実上すべて偽札扱いされることになり、すべて「ただの紙切れ」になるし、旧ドル札を預けて形成されたと疑われる資産(預金口座)もすべて、あるいは大部分が消滅する。

「旧ドル札を預けて形成されたと疑われる……」といっても、もちろん「疑う」のは米国政府であって、各国政府ではないので、だれをどう疑うか、だれのどの口座をどの程度凍結するか(しないか)は、またしても米国の国内問題であり、米国の勝手である。
たとえばフィリピン人が2002年に1万米ドル(旧ドル)をBDAに預けて開設し、以後そのままになっている預金口座について、Xデー以降、米国政府が「全額偽札で形成された資産と疑われる」と言えば、BDAはおそらくその口座を凍結する。たとえBDAが米国政府にさからって口座凍結を解除し、預金者がその口座から1万ドルを引き出すとしても、もはや旧ドルは通用しないので旧ドルでは引き出せない。
他方、BDAはそれまで旧ドルで預金を集めて来たので、Xデーにはそれをすべて新ドルに両替したいが、両替の条件は例によって米国政府が勝手に決めていいので、全額が両替されるわけではない。もしも米国政府が、BDAを管轄するマカオ政庁に対して「人権抑圧国家中国の領土だから」などと理由を付けて、両替の条件を厳しくすれば、BDAの金庫にある旧ドル札は一部しか新ドル札に交換されず、BDAの行員はフィリピン人の預金者に対して、たとえば「半分しか引き出せません」などと言うことになる。

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【これに似たことはすでに「テロ資金対策」の名目で、米国政府の発案で世界的に行われている。2001年9月11日の米中枢同時テロ、「9.11」のあと、日米中露とEU加盟国、新興国、中東産油国などの金融機関では、テロリストが仮名口座や借名口座を使って活動資金を移動させるのを防ぐという名目で、一定金額を超える口座間の資金移動(送金)は、預金者(送金者)が窓口で身分証明書を提示しないとできないことにした(現在の日本では、2008年3月1日に全面施行された犯罪収益移転防止法で規定されている)。この「軽い制限措置」で各国の預金者を慣らしておけば、将来条件を厳しくして、たとえば「身分証明書を提示しても一定額以上は動かせない」という措置に切り替えても、混乱は比較的小さくて済む。
おそらく、米国政府の言う「テロとの戦い」の本質は「米ドルの価値を守る戦い」であろう。】

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もちろんBDAの金庫には旧ドル札は「潤沢に」保管されているので、預金者が「それでもいい」と言えば、行員はそれを渡すことができる。しかし、それはもはや米国内では通用しない紙幣なので、米国人はもちろん、日本人などの第三国人の貿易業者も、それを商品代金として受け取ることはない。
結局、だれも受け取らない。だから、Xデー以降、そのフィリピン人の預金は激減することになる。
もちろん引き出して紙幣にせず、預金口座に置いたままクレジットカードの引き落としに使う場合も同じだ。Xデー以降は、Xデー以前にクレジットカードで買った品物の引き落としも原則的に新ドル建てで行われるので、フィリピン人は代金引き落としに備えて、BDAの口座の旧ドルを新ドルに両替しておかなければならない。両替によって、たとえ1万旧ドルが5000新ドルに置き換わるとしても、我慢するしかない。交換しておかないと、新ドル表示の預金額は「0新ドル」のままとなり、債務不履行になるのだから。

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ここまで説明されてもまだ納得できない、という方はおいでだろう。19世紀の薩摩藩ならともかく、21世紀の米国政府がほんとうにそんなことをするのか、と。

しかし、日本政界の保守勢力のなかには「ありうる」と思っている人々がいる。それについては、次回

 (敬称略)

【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】

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【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

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【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】

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【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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