筆者は昨年から一貫して、1997年9月または1998年3月に「インドネシア石油危機」が起きると「予言」(予測)してきた。当然本誌では、予言(より正確には科学的予測)が 的中した場合は、「的中宣言」の特集記事を組む予定である。が、それでは、何をもって「予言が的中した」と判断すべきであろうか?
95年、地下鉄サリン事件を起こしたカルト教団「オウム真理教」の上祐史浩(じょうゆう・ふみひろ)広報部長は、マスコミとの記者会見の席で「麻原彰晃尊師(教組)は阪神大震災が起きる(厳密には「神戸に大地震が起きる」)[註]ことを、学者がだれも予知できなかったにもかかわらず、事前に予言していた。だから、尊師は超能力者だ」と述べた。
が、仮に麻原教組の予言が事実であったとしても、また仮に麻原がほんとうに「超能力者」であったとしても、それはさして称賛するに値しない、と筆者は考える。それは、この程度の予言は「まぐれ」でもあたりうるからである。
しかも、震源地や地震の規模(マグニチュード)や性質(被害地域の狭い直下型か、それとも広いほうのプレート型か)といった重要な問題についての予言は何一つ含まれていないため、また地震被害の及ぶ場所が「神戸」だけなのか、その周辺も含むのか、含むとすればどこまで含むのか(たとえば、大都会・大阪のど真ん中を含むのか、また近隣の姫路市や紀伊半島や中国山地はどうなるのか)といったことすら明言されていないため、地震対策を立てる上ではまったく役に立たない。したがって、こんな「予言」は的中したとしてもなんの役にも立たない、ゴミのようなものなのだ。
10年以上前、さる高名な「易者」が「プロ野球読売巨人軍の長嶋監督は、来季はユニフォームを脱ぐ」と予言し、それが結局はずれたことから、「廃業」に追い込まれたことがあった。これもまた、的中したところで、べつにほめる価値はないと、筆者は考える。
だいたい易者とか占い師だとか超能力者だとか称する連中は、まぐれでもたまには当たりそうな「けちくさいこと」しか、予言の対象としていない。彼らの大半は、政治についても経済についてもスポーツについても、学問的・専門的な知識や教養はまったく持っていないのだから無理もないのだが、なかには「1999年には、この世の終わりを告げる大災厄が来る」といった類の「予言」をする厚顔無恥な輩もいる。このような、大地震から経済恐慌、戦争に至るまでありとあらゆる事態に「対応」できるように配慮した「予言」に至っては、その「予言者」の無教養ぶりを暴露する以外、ほとんどなんの意味もない。
筆者は、全世界の(自称)予言者、(自称)超能力者に言いたい。予言をする場合は、予言の対象となる事象の範囲を可能な限り狭く、具体的に特定してもらいたい。そして、その事象を理解する上で必要な学問的・専門的知識を学び、事象の社会的意味について、(超能力や予知能力を持たない)一般の人々にわかりやすく説明してもらいたい。 ここまでできて、初めて予言者、超能力者として価値がある、というのが筆者の要求する予言の「品質基準」である。
さて、筆者のインドネシア石油危機に関する「予言」は、おもに以下のような事象から成っている。
A.政治的・経済的事象
A-1. 1997年9月(日米ガイドライン協議と中国共産党大会の時期)か1998年3月(インドネシア大統領選挙の時期)に、インドネシアで内戦、政変等が発生し、スハルト体制が崩壊し、インドネシア国内が大混乱に陥り、同国とマレーシアとシンガポールによって挟まれたマラッカ海峡の航行の安全が(インドネシアの反政府勢力の「イスラム原理主義者」によって同海峡に機雷が散布されることにより)脅かされる。そして、この混乱は数年間ないし10年以上続く。
A-2. 1.によって、日本(や韓国や中国)への中東から石油の輸入が困難になり、石油価格の高騰やそれにともなう高率のインフレ、工業生産の停滞や商店主のインフレ期待に基づく売り惜しみによって物不足も引き起こされ、未曽有の経済困難に直面する(これを第三次石油危機ないし「インドネシア石油危機」と名付ける)。
A-3. この危機に対処するため、遅くとも1998年秋頃まで に小沢一郎・新進党(現自由党)党首が、国民の圧倒的な支持を受けて首相になり、自衛隊の海外派兵を含む大規模な防衛政策の転換を行う。
A-4. 具体的は、小沢政権は海上自衛隊の機雷掃海部隊をマラッカ海峡に出し、同海峡を浮遊する機雷を処理させる。これに前後して、小沢政権は、集団的自衛権の行使や自衛隊の海外派兵に関する憲法(9条)解釈の大幅な変更を行って事実上憲法9条を葬り去るか、または実際に憲法96条の改正規定にのっとって憲法改正が国会の発議で行われるように世論と国会を導く(憲法改正等のドラスチックな動きまで1998年中に起きるという趣旨の、時期の予測はしていないので、読者の皆様には、あまり先走らないようにお願いしたい。筆者が時期の予測をしているのは、「スハルト政権の崩壊」と「小沢政権の誕生」の年月だけである)。
A-5. 小沢政権と政府の官僚の一部は、「石油危機」に伴う(年率10%以上の)インフレを数年間継続させることにより、日本が抱える巨額の財政赤字(大蔵省の予測では、1998年度末には、旧国鉄債務を含む国の赤字約389兆円に地方自治体の赤字を加えると、約529兆円)を実質的に半減させ、橋本自民党内閣以来の懸案であった財政再建計画をおおいに前進させる(15%のインフレが5年続くと、それ以前の借金の額面は「529兆円」で変わらないので、1997年の通貨価値でその5年後の「529兆円」を見ると、その価値は「約263兆円」に減ることになる)。
A-6. ほかにも、中国海軍に対する日米の牽制策の成功や 、インドネシアで数年後にメガワティ女史が政権を握ること、小沢のあとの首相は政権交代によって菅直人・民主党党首になることなど、広範な事象を予想しているが、その一部は今年(1998年)中には起きない、やや遠い将来への「予言」でもあるので、ここでは省略する(インドネシア石油危機の「予言・予測集」のコーナーを参照されたい)。
B.社会的・心理的事象
たとえ、読者のあなたがいま現在、自衛隊は本格的に海外に出るべきでないとか、平和憲法はすばらしいから絶対擁護すべきだとか、改憲を主張する小沢一郎など大嫌いだと思っていようと、80%以上の確率で、あなたの「心」は変わり、小沢政権のくり出す積極的防衛政策を支持するようになる。
このBこそ、本誌「週刊アカシックレコード」の真骨頂ともいうべき予言(予測)である、(日本の)巷で活躍するいかなる学者もジャーナリストも易者も超能力者も「(CIAや国際石油資本の)スパイ工作による世論操作(や市民運動・民族紛争の捏造)」といった重要な「事実」を視野に入れていないので、ここまで踏み込んだ予測はできないのである(なお、ここで言う世論操作のスパイ工作とは、マスコミ関係者への買収・脅迫などの通常の、小規模なレベルのものではなく、インドネシア石油危機という「壮大なパフォーマンス」そのもののことである)。
A-1.の「時期」については、97年9月はすでに終わってしまったので、もはや98年3月しか残っていない。この場合、スハルト現大統領やその取り巻きが、自分たちの権力の喪失を恐れて、3月に予定されている大統領選挙を延期する可能性もある。が、「延期」は違法行為なので、世論や野党が容認するはずはなく、それ自体すでに政治的混乱である(もし「延期」が発表されたら、その時点で筆者の予言が的中し、「危機」が始まったと解釈して頂きたい)。
「98年3月」というのは混乱が始まる月であって、ピークに達する月ではない。スハルトの失脚や、内戦の勃発、マラッカ海峡の機雷封鎖などが一気に3月中に起きないからとい って、読者諸氏は筆者に「はずれたじゃないか!」といった趣旨のメールを出さないで頂きたい。筆者はそんな予言はしていない(また、仮にスハルトが大統領に「当選」しても、そのあと大規模な反政府暴動、クーデター等の混乱が起きるはずなので、「当選即予言はずれ」とは、解釈しないで頂きたい)。
けっして筆者は、はずれた場合に未練がましく言い訳する気はない。その証拠に、筆者は、A.-4.できわめて具体的かつ詳細な予言を行っている。「はずれたのに当たったことにしたい」のであれば、ここまで細かく言うはずがないことは、賢明な読者諸氏にはおわかり頂けよう。
A.-4.において、筆者は「自衛隊を海外に出すか否か」といった抽象的な(まぐれでも当たりそうな)問題について予言したのではない。自衛隊のなかでもとくに海上自衛隊を、海上自衛隊のなかでもとくに機雷掃海部隊を、それも、漠然と「海外に出す」のではなく、マラッカ海峡という特定の海域に出すと予言したのである(この詳細な予言の根拠については、「予測の論拠」のコ ーナーを参照されたい)。このような具体的で詳細な予言は絶対にまぐれでは当たらない。もし的中すれば、それは筆者が高度な「予知能力」を持っていることの有力な証拠になるし、また今後の世界の政治・経済情勢を予測する上で、有益な情報と才能を言論・学問の世界に対して提供することができるようになるであろう。
従来、日本の学問やジャーナリズムの世界では、アメリカの保守本流グループ(その中核はロックフェラー財閥、国際石油資本、共和党、国防省、CIA)の陰謀工作やスパイ工作については「非学問的なこと」などとみなして、考慮しないことになっていた。たとえば、日本の新聞や週刊誌の記者たちは、「小沢一郎の権力基盤」と言えば、日本国内、それも永田町の派閥抗争的なものしか検討の対象にしない。このため、新進党で小沢に反旗をひるがえす者や離党者の数が増えたとか、新進党解党後に小沢が結成した自由党に参加する国会議員の数が少なかったとか、自民党内の「保保連合」派の動きが小沢の結党に呼応しそうにない、といった日本国内(永田町内)だけを取材して得た、はなはだ偏った情報をもとに「小沢は落ち目である」といった軽薄な記事を書いてしまう。しかし、筆者は、小沢の最大の権力基盤は、米保守本流グループ、とくにロックフェラーの支持である、という世界に目配りの効いた視点を持っているので、これがなくならない限り断じて小沢は落ち目ではない、と言い続けてきた。
もし、インドネシア石油危機の到来や小沢政権の誕生に関して、ロックフェラーらの工作を考慮しない学者やジャーナリストが予測できず、逆にそれを考慮する筆者が予測を的中させたとなれば、従来の研究や取材の手法が無意味であることを証明することになろう。
なお、「B.」の「心」の予測の的中については、若干「判定」に手間がかかるであろう。小沢政権が自衛隊の海外派兵を行った時点ではなく、機雷掃海部隊が無事に任務を遂行し、それよってインドネシア石油危機の経済的側面(日本国内の狂乱物価や株価の下落、極度の不況)がある程度沈静化した時点での、世論調査の数字で判断させて頂きたい。
読者のなかには「おまえは小沢嫌いの『あなた』の心が変わると予言したのに、おれの心は変わらなかったではないか」といった抗議のメールを出す方が出てくるかもしれなが、筆者は「100%変わる」とは言っていない。「80%」と言っているにすぎない。それにメールの主(ぬし)の心がほんとうに変わっていないかどうかは、筆者にはわからないが、ご本人だけにはわかるという、甚だ不公平で主観的な事象なので、やはりBの判定には世論調査の結果を利用させて頂きたい (が、筆者に抗議のメールを出される方も含めて、すべての読者諸氏には、ご自身の「心」が変わった瞬間には、もちろん自分の心のことなのだから、おわかりになるはずではないか)。
いま、この記事を書いている瞬間にも、世界のメディアは刻一刻と深刻化しつつあるインドネシア通貨危機の様相を伝えている。1月14日の朝日新聞(朝刊)に至っては、「暴動やクーデター」の可能性すら報じており、筆者はむしろ、筆者の予言より早く、2月中にスハルト体制が崩壊するのではないかと心配しているほどだ。
「予言」はもう当たったも同然、と筆者は自己評価をしている今日このごろである。
[註]:オウム真理教にお詳しい河上イチローさまの投稿により、前回(1998年1月15日)の原稿を修正させて頂きました。
筆者は麻原は「関西に地震が起きる」と予言したように記憶していましたが、イチローさまの詳細なご報告によれば、95年1月8日のオウム真理教のラジオ放送(当時、教団がロシア領土内から日本向けに日本語で流していた)で「地震の場所」として麻原は「いちばん危険なのは神戸だ」という発言をしているとのことです。
非常に綿密で、的確なご投稿でしたので、これに基づき、前回の「関西方面……」の下りを「神戸……」に修正させて頂きました。この場をお借りし、河上イチローさまには深く感謝申し上げます。
m(_ _)m