たすきがけ買収

Originally Written: July 13, 1997
Second Update: July 19, 1997(朴大統領は元共産主義者)
Last Update: June 12, 2001(ネパールのたすきがけ買収〜毛沢東主義者は「反中国」)

「たすきがけ買収」:筆者の造語。
反共自由主義国家、たとえばアメリカのスパイ機関が左翼をカネで買い、社会主義国家、たとえばソ連のスパイ機関が右翼をカネで買って、政治的に利用すること。

20世紀のほとんどの期間を通じて、世界中のほとんどの人々は「どこの国でもアメリカは右翼の味方、ソ連は左翼の味方」と信じてきた。

たとえば、現代の日本を代表する歴史学者である今谷明氏は、旧ソ連のスパイの元締めの1人だったI・コワレンコ氏の手記『対日工作の回想』(文芸春秋社刊)を読み、ソ連が日本の最右翼(民族派)の政治家中川一郎・元科学技術庁長官をカネで買ってソ連の手先にしようとした(つまり「たすきがけ買収」をしようとした)、という下りに驚かされたそうである。

正直言って、今谷先生のようなりっぱな方が、しかも戦国時代を専門にしておられる歴史家が、この程度のことで驚いてもらっては困る。そもそも、古今東西「買収」「調略」とは、すべて「たすきがけ買収」なのだから。

●裏切り・調略は世のならい
NHKの大河ドラマ『毛利元就』で、なかなかいい例をやっていたので、ご覧にならなかった読者のために紹介する(6月22日、29日、7月6日放映)。戦国時代中期(16世紀半ば)、山陰の戦国大名尼子氏の尼子経久・晴久は、山陽の戦国大名毛利元就・大内義隆らの連合軍の攻撃を予期して、毛利方に尼子の懐刀、吉川経興を送り込み、「二重スパイ」のようなことをやらせるのである。尼子軍は数において、毛利・大内連合軍にかなわない。そこで、吉川を毛利に送り込んで、撹乱する策を取るのである。

吉川は毛利方に参陣するや「忠誠心」を示すため、尼子との戦いの緒戦においては積極果敢に尖兵を務め、なんと(本来味方であるはずの)尼子の兵(雑兵)を何人も斬り殺して戦果をあげる。それを見て毛利・大内陣営は吉川をすっかり信頼するようになり、吉川を含む大軍をもって尼子の本国に攻め込み、決戦を挑む。ところが、いざ決戦という土壇場になって吉川軍は敵陣であるはずの毛利陣に駆け込み、攻撃ではなく、「合流」をしてしまうのである。

突然、毛利・大内連合軍の戦力は激減する。ショックを受けた連合軍はパニックを起こし、そこを満を持していた尼子軍に攻められ、ぶざまに敗走する、というストーリーである。

もちろん、ドラマだから、すべて正確な史実ではないかもしれない。が、これは、「買収」「調略」という政治的行為の本質をよく表している。敵と味方の関係は、けっして単純なものではないのだ。

●戦後日本の米占領軍と左翼勢力の関係
戦後、日本は米軍の占領化に置かれ、安保条約と憲法(平和憲法)を米軍によって押し付けられた。敗戦(終戦)から平和憲法の制定を経て、サンフランシスコ講和条約の締結(主権の回復、米軍占領体制の終了)および安保条約の締結にいたる数年間の歴史については、当時の言論が米軍の統制のもとに置かれていたので、詳しいことはわからない。が、推測はできる。読者は同意しないかもしれないが、筆者は、当時の左翼勢力の実態を次のように推理する。

米軍の占領は、屈辱であり、とくに日本で社会主義や共産主義の思想を持っていたいた人々、つまり左翼にとって、反共・資本主義国家アメリカの軍事戦略に支配されることは一刻も早く解消すべき、嫌悪すべき状態であったに相違ない。

だからこそ、左翼の人々は、サンフランシスコ講和条約(中ソの両社会主義国を含まず、主としてアメリカなどの反共自由主義諸国との平和条約)の締結にも日米安保条約の締結(日本をアメリカの軍事戦略に組み込む条約)にも反対したのだ。そして、米軍を日本から追い出し、真の主権回復(日本独立)を達成し、アメリカや反共自由主義陣営にかたよらない、中ソなど社会主義諸国も含めたすべての国との平和友好関係を追求しようと思ったに違いないのだ(これは、当時の左翼の主張として多くの文献にはっきり書かれている)。そして、彼らはこういう主張を実現するために、市民運動を盛り上げていこうと準備したに違いないのだ。

●「えせ左翼」の裏切り行為
ところが、運動をきちんと始めようという、まさにそのときに、左翼陣営の中から、「吉川経興」が現れたのである。

戦前・戦中の日本人は徴兵制のもとにあり、男子は全員軍事教練を受けていたから、(アメリカの支配を受けない)独立国の軍隊というもののあり方について、だれでもひととおりの知識は持っていた。したがって、日本が講和条約を締結して主権を回復したあとは、当然米占領軍を追い出して、独自の、防衛的で平和的で民主的な軍隊をもって国を守ろうと考えていた者が、左翼の中にも少なからずいたに違いないのだ。それが、独立国の国民の常識なのだから。

ところが、いつのまにか左翼陣営の中には「非武装論者」という名の「えせ平和主義者」が大勢もぐりこんでおり、この連中が、米軍が日本に押し付けた「非武装中立」を意味する平和憲法を額面どおり守れと言い出したのである。アメリカのアジアにおける軍事戦略の要は、日本の防衛・軍事政策から自主性を奪っうことにあったから、「非武装論」はまさしくアメリカの手先の言い草であり、これを主張することはアメリカの軍事支配と戦ってきた左翼の運動(仮に「反米左翼運動」と呼ぶ)に対するとんでもない裏切り行為である(日本の左翼に代々木系、反代々木系の区別・対立のある理由が、これで理解できる。前者がアメリカ、後者がソ連の手先だったすれば、この対立は「同士討ち」でないことになり、きれいに説明できる)

「非武装」と「反米」は本質的に無関係であり、真に反米、つまり米軍基地の追い出しを願う人は「自主武装」を言うはずなのだ。しかも、占領化の憲法制定は国際法違反であるから、(自衛隊や安保条約が憲法違反かどうかを問う以前に)平和憲法はそれ自体無効のはずである。このことを左翼の学者や文化人が知らなかったはずがない(知らなかったと断定するのは、彼らの法律学的教養を侮辱をしたことになり、彼らに失礼である)

主権の回復と軍事同盟(安保条約)の締結を同時に行わなければならない理由は何もない。戦後日本の民主主義、平和主義にとって一番だいじだったのは、1951年の主権回復の瞬間だった。が、このときに、多くの左翼が「えせ反米論」である「非武装中立論」を唱え、裏切ったのである。

そして、これ以降「自主武装論」を唱える者や、軍事問題を研究する者、研究によって非武装論の愚かしさを明らかにしようとする者は、主として左翼系の学者、文化人、マスコミ関係者から「軍国主義者」「右翼(極右という悪い意味がこもっている)」「平和の敵」とレッテルを貼られることになる。アメリカのスパイ機関は、日本の左翼に対しては、よほどどぎつい買収工作を仕掛けたようだ(あるいは、ソ連に手を出させずに「アメリカがその手で左翼の主力を育てた」と言ってもいいかもしれない)

●戦後日本のタブー、消された地政学
このレッテル貼りの威力はすさまじく、日本の大学の授業では軍事問題、とくにその基本理念である地理政治学(略して地政学)は、まったく講義されることがなくなってしまった。数年前、筆者が※大学(※学部)在学中、毎年恒例の「特別講義」に行うべきテーマのアンケート調査があったが、その際、希望の一番多かったのが「軍事戦略論」だった。が、大学当局からは「日本には教えられる人がほとんどいない」ので第二位に変えるとの発表があった(なさけない話だ(>_<;)。当時はまだ冷戦構造が存在していたから、(他大学はどうだったか知らないが)わが母校では、学生の側のニーズは強かったのだ(これは自慢できる話だ。世間には軍事のイロハも知らんで平和や軍縮を語りたがるミーハーが多いのに、わが母校はさすがだ(^_^)

●現在も続く『広辞苑』への検閲
占領時代あるいは安保条約締結当時の、アメリカのスパイ機関による、軍事問題への「言論弾圧」のすさまじさを示す「痕跡」が、日本を代表する辞書に残っている。岩波書店発行の『広辞苑』(第二版補訂版)「地政学」を引いてみるとよい。まず(地理政治学でなく)「地政治学」の略だとある(すでに、この段階でけちくさいウソをついている。おそらく「略称地政学」でなく「地理政治学そのもの」についてウソを書くことに良心の呵責を覚えたのだろう)
次にその「地政治学」を引いてみると、

「政治現象と地的条件との関係を研究する学問。ドイツの学者ラッツェルの政治地理学に基づいてスウェーデンの学者チェーレンが首唱。主にドイツにおいて第一次大戦後の政治的関心と結びつき、ハウスホーファーによって発展、ナチスが支持した。地政学」

というウソだらけの記述になっている。これでは、まるでナチスの政治思想のごとき邪悪で狂信的なものという誤解を与えるではないか。アメリカもソ連もフランスも国をあげて、研究し実践している重要な学問を、こんなふうに矮小化してよいのか。

アカを入れて明白な間違いを校正し、筆者の推理によって、検閲される前の状態に戻してみよう。

「政治現象と地的条件との関係を研究する学問。一国のとりうる外交・防衛政策はイデオロギーなどとは無関係に、その国に与えられた地理的条件で(ほぼ自動的に)決定されるはずであるという考えに基づく。イギリスの学者マッキンダーが唱えた「ハートランド理論」に始まる。
これは、ユーラシア大陸の心臓部を支配する国(モンゴル帝国等)は、そこがいなかる海軍の攻撃も受け得ない「聖域」であることから世界を制することができるという理論である。大陸国家であるソ連はこの考えに基づいて東欧とアフガニスタンを侵略したし、同じく大陸国家であるドイツは、この考えをドイツ流に修正したドイツの学者ハウスホーファーの理論に基づいて、やはり東欧に侵攻したとされる。
しかし、海洋国家であるアメリカは、ハートランドの支配は不可能なので、そのまわりにある大陸周縁地域「リムランド」(極東、西欧など)を支配するための方法論を構築した。
アメリカの学者マハンが著書『海上権力史論』で首唱し、アメリカがこれに基づいてパナマ地峡の侵略(パナマ運河の獲得)、ハワイ、フィリピンの侵略を行って制海権の拡大などの成果をあげたことから、理論的に確立された。アメリカの第二次大戦における日本占領、沖縄、韓国などへの米軍基地建設や台湾への軍事援助はすべて、根本的にはこの理論に基づいており、自由主義思想や民主主義思想は二義的な役割しか果たしていない

今年(97年)春、フランスのシラク大統領が来日した際、日本の経済人を前に「フランスの知識人のあいだでは、文化や芸術や地政学の話は高級とされる反面、経済やビジネスの話は下世話なものとされています(が、これからは、それを改めて経済に尽力したい)」と演説した。

NHKの衛星放送の同時通訳はシラク大統領のgeo-politiqueを「地政学」と訳したが、なんと翌朝の朝日新聞の記事では、この言葉は抹殺されていた。岩波書店と朝日新聞は、日本を代表するメディア企業なので、おそらく戦後、アメリカのスパイ機関によって、検閲のための脅迫や買収が徹底的に行われたに違いない(ウソだと思うなら、Niftyの朝日新聞記事検索で「地政学」を含む語がどれくらいあるか調べてみるとよい。本来「地政学」というべきところが「地理」だの「地勢」だの無意味なものに置き換えられている事例が実に多いので、極端に少ないはずだ。もちろん他媒体との比較対照が必要だが、それをやると数万円かかってしまい、失業中の筆者の財力ではきついので、ここでは勘弁してほしいm(_ _)m

逆に、中央公論社や日刊工業新聞社や原書房は、アメリカのスパイ機関に「日本を代表するメディア」と認定されなかったと見えて、地政学や軍事問題に関する本を何点か発行している(中央公論社の曽村保信『地政学入門』は穏当な入門書である)が、その影響力が岩波書店や朝日新聞より、はるかに小さいことは言うまでもない(筆者は、これらの出版社の本で地政学を独学したが、こういう会社の本に触れたというだけで、一部の人々からは右翼よばわりされたものだ)

こうして戦後日本において、学問としての「軍事問題」や「地政学」は、その概念の存在自体を抹殺するという、空前絶後の大弾圧を受けたのである(戦前の日本の軍国主義者は共産思想の弾圧を行ったが、けっして「概念の抹殺」ほどのすさまじいことはしなかった)。この結果、これを研究する学生はどんどん減っていき、いつしか日本には、とくに日本のマスコミ界や左翼陣営内部には、非武装論のばかばかしさを見抜ける「常識」を持った者がほとんどいなくなった(国際法では「中立国」には、自国の領土・領海・領空を他国の軍事行動に使わせない義務がある。もし、非武装の日本の大阪湾に勝手にアメリカの空母がはいってきて、そこから飛び立った艦載機が中国を爆撃したら、その瞬間から日本は中立でないとみなされる。当然中国には大阪を爆撃する権利があるし、この場合中国の爆撃で大阪市民が死んでも、国際世論は絶対に同情しない。したがって、中立国は、自国を他国の空母やミサイルが通過できないようにするための迎撃能力を持った「重武装国」でなければならない。現にスイスもスウェーデンも武装中立国である)

左翼の非武装論者を使ったアメリカのスパイ工作(世論操作)を背景に、安保条約締結以降、非武装論は安保反対論と結び付いて一人歩きを始め、どんどん増殖する。日本国民のあいだに少なからずあった反米感情や民族主義は、「非武装中立論」という、まったく実現性がなく、下劣下等なゴミのような思想に引きずりまわされ、無力化していくのである。

●アメリカの真の敵は「自主武装論」
コワレンコ氏が買収しようとした「標的」が右翼・民族派の政治家、中川一郎氏であったことを思い出してほしい。そして、もし御存じなら、中川氏が「ナゾの自殺」を遂げたことも思い出してほしい。コワレンコ氏は手記の中で「この自殺によって、自分の計画は頓挫した」と嘆いている(今年春に放映された、朝日放送の『驚きももの木20世紀』では、自殺の直前、自殺の現場となったホテルの部屋には、中川氏のほかにだれかがいたということを示す証拠の電話録音テープを紹介した。それはそのホテルの部屋の電話に出る中川氏の肉声であった。なお、同じ番組の中で、中川氏の親友だった石原慎太郎・元運輸大臣は「べつにDIA米国防情報部がやったとは断言しない」と言っていた)

アメリカがもっとも恐れたのは、「自主武装論」であって「非武装中立論」などではない。だから米軍は占領時代に、占領以前に「1940年体制」で日本の軍国主義者や官僚が日本の社会の中に作り上げていた「寡占性メディア」「大学講座制」のシステムを使って、日本の世論の約1/3が下劣な非武装中立論のとりこになるように、かつ半分以上が常に対米従属(安保条約容認)になるように細工をし、世論の「シェア」を固定したのだ。

●「大学講座制」のおぞましさ
日本の大学では教授会は全会一致が原則で、全教授が拒否権を持つから、たとえば多数決で「もはや時代遅れになったマルクス経済学の講座は減らそう」といった改革をすることができない(当のマルクス経済学の教授が1人でも反対すれば「それまで」である)。占領時代に、米軍の指導によって主要な大学の経済学部には、およそ1/3ずつのマルクス経済学の学者が「配給」され、以後この学者たちが「講座制」「徒弟制度」を利用して、自分のコピーたる弟子を再生産し続けるため、反永久的に「1/3」のシェアは変わらなった。現に、ベルリンの壁が崩壊したあとでも、多くの国立大学には、多数のマルクス経済学者が「滞留」している。明らかに学生のニーズに反し、税金の無駄遣いであるが、この現状を改革しようとすると、彼らが「学問の自由への侵害!」というスローガンを叫んで教授会で「拒否権」を行使するから、半永久的に改革できない。

●永久機関
まことにアメリカのスパイ機関の世論操作のうまさには脱帽する。戦後、1951年以降、米軍が日本の大学の人事に介入したことは一度もないが、このような仕組みを作っておけば、あとは自動的に下劣な(非武装中立論型の)左翼理論が再生産され、安保反対論が無力化するという、まるで「永久機関」のような仕組みである。

じっさい、※波書店の編集長にしろ※日新聞のデスクにしろ大学のマルクス経済学の教授にしろ、スパイ機関が直接「買収」「指導」を行うのは「一代目」だけであるから(たしかに一代目の彼らは、カネをくれたアメリカのスパイ機関に対して「忠誠心」を感じるかもしれないが)、彼らの部下や弟子、つまり「二代目」の忠誠心の対象は「一代目」であって、アメリカではない。三代目も四代目もアメリカには忠誠心は感じず、アメリカの影響すら知らず、むしろ自分たちの非武装中立左翼理論はアメリカ帝国主義に対抗する過程で生まれたすばらしい思想だという、ありもしない反米主義の歴史を信じ込むようになる(これを「ブレードランナー症候群」とも言う)。

かくして二代目以降は、もはや自分で考えるあたまを持った人間であるよりは、何も考えない機械のようになり、同じ意見を「ばかの一つ覚え」で永久的に唱え続ける。だから、日本における左翼世論の「シェア」は安保締結から冷戦構造の崩壊まで、40年間常に「1/3」だったのである。

●「護憲運動」の真意と構造
「1/3」というのは、国会における憲法(平和憲法)改正発議を阻止するのに必要な数だということを思い出してほしい(憲法96条第1項)。戦後日本の左翼勢力(そのうち多数が「えせ左翼」)のシェアは絶妙に「調節」されて、常に1/3以上1/2以下に維持されたため、軍事的良識のある人間がどんなに努力しても、非武装中立を旨とする平和憲法(憲法9条)を改正することはできなかったし、また左翼の主張が通って安保条約が破棄されることもなかったのだ。

●証拠十分(不十分)
いまだに「たすきがけ買収」を認めたくない人々は、コワレンコ氏の言うことなどウソだと言い張るだろう。たしかに、同氏の言い分を裏付ける物証は(スパイ工作の性質上)皆無だし、傍証に役立つ他の証言もない。すくなくとも中川氏の親友の石原慎太郎氏らは否定している。

しかし、冷戦構造が崩壊したいま、この種の暴露や証言は増えることはあっても減ることはあるまい。冷戦中は、米ソともに自分のスパイ機関の忠実な手先については、その秘密を保持して守ってやる必要があったが、いまは必ずしもそうではないからだ。コワレンコ氏は、存命中の元手下については、それが日本の左翼であろうが右翼であろうが「仁義として」名前は明かせないと言っている。そして、中川一郎氏の場合は存命していないので、ばらしてもいいと判断したというのである。とすると、今後、亡くなった右翼、左翼の大物については、意外な素顔の暴露がいつ行われてもおかしくないということになる。

そして、ソ連のスパイの暴露に頼らなくても、「たすきがけ買収」の事例をあげることはできるのである。たとえば、かつて自民党の「議運・国対族」の幹部だった金丸信氏の親友、田辺※※元社会党書記長のケースなど、典型的な例ではないか。金丸氏が、国会を運営上、自民党の出した法案を通すにあたり、さも野党との激しい議論の末に法案が成立したかのように偽装するため、社会党(現社民党)をはじめとする野党幹部をしばしば「接待」し、「ここで厳しい質問をする」「ここで怒って真偽拒否をする」「ここでこういう法案修正要求をする」「数日後に審議再開に応じる」といったことを細かく打ち合わせていたという話は、よく知られている。すくなくとも、国会運営に関する限り、実は自民党と社会党の間には、対立などは、ほとんどなかったのだ(かつて予算委員長を務めた自民党の浜田幸一代議士は、野党の予算委員理事のほぼ全員に商品券数万円分ずつを配り、「こんなの少ないほうだ」と発言し、世間を驚かせたことがある)

また、近頃(97年夏)話題の、第一勧銀・野村証券の不祥事件に登場した総会屋の元出版社社長は、右翼団体(暴力団)と深いつながりを持ちながら、偽装新左翼団体を使って、大企業に圧力をかける工作に利用したと報じられている。

毛利元就や豊臣秀吉の時代から、「買収」「調略」とは、敵の陣営の中にひそかに味方をこしらえておくためにするものだ。秀吉は織田信長の家臣としてこの調略を得意とし、信長の敵を次々に買収して味方に変え、その工作能力によって出世したのだ(べつに「ごますり」だけで出世したわけではない)「ブルータス、おまえもか!」の古代ローマの時代から、いかなる時代であろうといかなる国であろうと、裏切り・調略はあらゆる権力ゲームの常套手段であった。

●浜の真砂は尽きるとも……
つまり、もともと、すべての買収は「たすきがけ買収」なのだ。いったい、どこの世界に味方を大金で買収する阿呆がいるか。仮にいるとしても、それは敵に寝返ることを防ぐための買収、つまり「潜在的な敵」に対する買収工作にほかなるまい。

●立証責任
それにもかかわらず、第二次大戦後の冷戦時代には「買収はすべて味方への買収」であるという、人類史上前例のない「常識」が出現し、通用した。日本でもフランスでもイタリアでも、「アメリカは必ず、自分と同じ反共自由主義思想を持つ右翼の味方で左翼の敵、ソ連はその逆」といった説が、なんら検証も議論もされることなく、突然「常識」として戦後の世界に「寡占性メディア」によって世界中で一方的にたれ流された。しかし、この「常識」の妥当性を示す証拠は、ただの一度も提示されたことはない。世界のどのメディアも、「アメリカ政府が共産主義者は敵だと言っているんだから敵なんだろう」という、まことに安易な考えで「常識」を成立させてしまったのである。

学問の世界では、新奇な仮説・学説については、それを出す側のほうに立証責任がある。もし、私が「他の天体からの乗り物(UFO)は地球に来ている」といった、それまで人類史上前例のない非常識な説を発表するなら、私はそれを客観的な証拠、たとえばUFOの破片や宇宙人の死体を提示することで立証しなければならない。べつに米国防省が「UFOが地球に来た」と言っているのではないのだから、国防省の側には立証責任はない。UFOの信奉者がいくら「国防省が証拠を出さないのは、UFOが来たのを隠すためだ」と叫んでも、なんの意味もないのである。

同じように、「アメリカは必ず右翼の味方、左翼の敵」という新奇な説を提示する人には、証拠をあげてそれを証明する義務があるはずだ。ぜひ、証拠を見せてもらいたい。

●左翼・共産主義者のマネーロンダリング
たとえば、日本の代表的な左翼政党である日本KS党は、反資本主義的で、清廉潔白で、日本の企業からはビタ一文も献金を受けず、党の財政は党員の納める党費と機関紙「ア※ハタ」の売り上げだけでまかなっている、と豪語している。そして、資本主義の権化である日本の大企業と、アメリカ軍(安保条約)をたたくのをモットーとしている。

ところが、この党は、同じく資本主義の権化であるアメリカ企業をたたいたことが一度もない。ロッキード事件では原子力を利用したエネルギー自給策を推進した自民党の政治家と財界人を徹底的にたたいた(これは、確実に、アメリカのロックフェラー財閥を核とする国際石油資本の利益につながる)。リクルート事件では(どう見ても法に触れる問題でないのに)「スーパーコンピュータ購入問題」を追求して、(意図したかどうかはともかく)NECや日立と対立関係にあるアメリカのコンピュータ会社の利益の増大に努めた。もちろん、安保反対論においても、まったく非現実的な(自衛隊の軍備を違憲し、廃絶せよという)非武装論に基づく主張を展開した。これは(自主武装論と違って)アメリカにとって痛くもかゆくもない。

つまり、この政党は、日頃の表面上の言動や党の綱領・公約とは裏腹に、一度も「反米」であったことがないのだ。

この政党は資金的には、企業や労組から利権がらみの献金ばかりを受けてきた自民党などと違って健全だと言われている。しかも、法律上受け取ってよいことになっている政党助成金(財源は国民の税金)すら受け取らない姿勢を取っている。しかし、他方、この党の幹部が「共産貴族」と呼ばれ、ぜいたく三昧の生活を送っていることはよく知られている。はたして、ほんとうにこの党の財源は、党費と機関紙の売り上げだけなのか?

私がアメリカの石油会社やCIAの幹部なら、この党の機関紙「ア※ハタ」の「カラ伝票」による購入という献金手段を、当然考える。これなら、いくらカネをたれ流して献金しても、そう簡単にばれるものではない。もし、事実なら、日本国民の税金(政党助成金)を拒んで、外国の企業やスパイ機関のカネを受け取っていることになるわけで、ことは重大である(つまり政党助成金を拒むのは、アメリカへの忠誠心の証しということになる)

もちろん、日本KS党の党員たちは、こんなのは言いがかりだと言うだろう。たしかに、そう信じたい気持ちはよくわかる。が、それなら、一度、あの数十万部売れていると言われる「ア※ハタ」の印刷部数と売り上げ部数の関係をチェックしてみたほうがいい。これは誹謗でも非難でもなく、忠告である。

●恐怖のカラ伝票
私は出版業界に7年いたが、出版・印刷業界では、カラ伝票のために印刷部数と流通上の発行部数が一致しないことが珍しくない(これは50万部しか売れていないのに「100万部突破」という宣伝をする「誇大広告」のことではないこれは、単純に読者、つまり素人をだますためのものだ。私が言っているのは、くろうと、つまり書店や流通業界をだますために、出版社が大手取次会社および大手書店だけと組んで、カラ伝票で「今週のベストセラー」をでっちあげ、中小業者だますテクニックのことである)

そして、何より、あなたが、日本KS党員で、そして人の子の親や教師であった場合に備えて忠告するが、すべてがばれたとき、あなたの子供や後輩や教え子が受けるショックが大きすぎることを考えるべきだ。少なくとも、自分より若い者に左翼思想やその党の綱領を説く前に、「カラ伝票」のチェックぐらいは絶対にすべきた。

●敵ながらあっぱれ!?
実は、私は、日本KS党の幹部のたちは尊敬している。戦後一度も実質的にアメリカの国益に反する行動を取ったことがないくせに、反米の党のように見せかける迫真の演技力には脱帽だ。

武士道には「敵ながらあっぱれ」という言葉がある。アメリカの野球ファンは敵チームのプレーでもファインプレーには拍手を贈るし、そのプレーについて審判がひいきチームに不利な判定をしたからといって、やじったり非難したりはしない。

私は、アメリカ占領軍と日本KS党の幹部の「ファインプレー」に拍手を贈り、(かつて抱いていた自主武装論の理想を捨て)当面安保条約を容認することとしたい。両者の「連携プレー」(偽装対立)はあまりにもみごとに日本国民をマインドコントロールしてしまったし、その間にアメリカは、日本に自主武装が不可能なほどに、「日本属国化政策」をがっちりかためてしまった。これは完璧なファインプレーで、もはや自主武装は「アウト」なのだ。

私はけっして、日本のどこかのプロ野球チームの監督のように、アウトの判定に「ダダをこねる」とか、ましてや判定をくつがえすために審判に暴行しようなどとは思わない。悪人であれ善人であれ、左翼であれ右翼であれ、敵であれ味方であれ、高度な能力を持つ者が世の中を支配するのは、当然のことを思うからだ(すくなくとも、無能なブタに支配されるよりはマシだ)

●雑兵以下
しかし、私は日本KS党の(幹部でない)ヒラ党員は尊敬しない。むしろ同情する。まるで、吉川興経の軍に斬り殺される尼子の雑兵と同じで、虫けら同然の、ゴミのようにみじめな存在ではないか。ご本人たちが言うところの平和主義や民主主義には、なんの役にも立っていない。それどころか、実質的には、いわゆる「アメリカ帝国主義」の利益に奉仕してばかりいるではないか。

あなたがたヒラ党員は、自分の子供や教え子を雑兵や虫けらにしたいか? それ以前に、あなたがた自身が、たとえばいま死んだとして、自分の人生が民主主義や平和主義に貢献したすばらしい人生だったと思えるのか? 口惜しかったら、一度でも党の政策に、真にアメリカの軍事戦略を妨害するような意見を反映させてみろ。ただぺこぺこ党幹部の言い分を聞いて党費を払っているだけなら、雑兵どころかただの奴隷ではないか。恥ずかしくないのか! <P> もし、日本KS党のヒラ党員の方が読んでおられたら、ぜひ教えてほしい。なぜ、あなたがたは「他人の尻馬に乗っていばる」ことをしたがるのか? 私には、これがどうしても理解できない。

幹部の気持ちはわかる。アメリカのスパイ機関の指導を受けたとはいえ、自分自身の演技力によって、ばかなヒラ党員をだましながら高いギャラをもらってぜいたくな暮らしができるのだから、できれば私もあやかりたいと思うぐらいだ。

ところが、あんたがヒラ党員には、「自分自身のもの」が何一つない。党の基本理念の根底にある共産主義思想はマルクスの作ったものだし、非武装中立型安保反対論はアメリカ軍(アメリカの一般市民ではない)が作った平和憲法を借りてきて、おうむがえしに言っているだけだ。もちろん、党の綱領や公約や政策は、党の幹部が作ったものであってヒラ党員のあんたがたの作ったものではない。その反面、経済的見返りは皆無で、むしろ党費納入や機関紙購読の分だけ「持ち出し」になる。

あなたがたは、まるで「酒鬼薔薇聖斗」のように「他人の言葉」をひたすら借用することでしか政治的発言ができないのだ。そうまでして、「他人の思想の尻馬に乗って」優越感に浸りたいのか? あなたがたは劣等感のかたまりなのか? だとしたら、その劣等感の原因は何なのか? 自分の言葉がないなら、おとなしく黙ってひっこんでいればいいじゃないか。私ならそうする。


追加1:朴正煕・韓国大統領は元共産主義者だった。
韓国で軍事クーデターで政権を取った人物として知られるパク・チョンヒ(朴正煕)大統領は、実は一時、兄が社会主義者だった関係で、左翼運動に参加した前歴がある。これは、韓国で最近出版された朴大統領の伝記に書かれており、その内容は、今年(97年)5月放映の日本テレビの『知ってるつもり』等でも紹介された。

もちろん彼は、大統領になったあとはアメリカの支援を受けて北朝鮮と対決する姿勢を取った「反共の政治家」だったし、そもそもアメリカの支持がなければ、彼はクーデターで政権を取ることなど許されなかった(その段階で暗殺されていた)はずであるから、当然アメリカの「手先」(失礼!m(_ _)m)だったと見るべきである。つまり、韓国においても、アメリカは「左翼をカネで買」って、飼い慣らしていたのだ。

追加2:
[削除]


  ●ネパールのたすきがけ買収〜毛沢東主義者は「反中国」
2001年6月に、ヒマラヤ山脈のネパール王国の王宮内で殺人事件があり、皇太子が機関銃で実の親である国王と王妃を殺し、自身も自殺をはかって重体となった。この時点で、死んだ国王に代わって「殺した」皇太子が、意識不明のまま国王になり、そのおじ(前国王の弟)が摂政(国王代行)に就任、やがて新国王も亡くなって、摂政が国王に即位したという。

ネパール政府は、事件直後には「原因は機関銃の暴発」と発表するなど情報が錯綜していて、真相はなかなかわからない。

この暗殺事件の報を聞いて、世界中の軍事専門家がいっせいに考えたことは「どっちの仕業だ?」ということである。

この「どっち」とは、中国かインドか、という意味である。あたりまえの話だが、ネパールのような小国には、自国の運命を自国民だけで決めることなどできない。地図を見ればわかるように、この国はインドと中国(が侵略したチベット)という2つの大国にはさまれているから、表面上中立政策を取っている……ことになっている。

が、チベットを侵略した中国はインドと国境を接するようになり、その結果何度もインドと国境紛争を起こしている。インド、中国はともにネパールを自国に引き込もうとすさまじいスパイ工作を仕掛けているに決まっている。

だから、王宮内で、王族間で殺し合いがあった、と聞けば、軍事専門家はだれしも、王宮内の親インド派(インドの手先)が親中国派を殺したのか、その逆なのか、と思うのである。

ところで、ネパールでは最近、国土西部の山岳地帯で、毛沢東主義を掲げる共産ゲリラ毛沢東主義(マオイスト)派が反政府武装闘争を強めつつあるという。この「事実」だけを聞けば、このゲリラは中国の手先に違いない、とだれもが思うだろう。

が、このゲリラがインドから武器を供与されていることは、公然の秘密であり、ネパールの識者はみな「マオイストはインドの手先」と信じ、今回の王宮殺人事件もインドの陰謀と疑っているという。 毎日新聞は「たすきがけ買収」という「専門用語」を使っていないので非常にわかりにくいが、明らかに「たすきがけ」を指摘している(毎日新聞2001年6月7日付「王族射殺事件で、くすぶるインド関与説」)。

いまや「たすきがけ買収」は世界の潮流である。「日本の左翼はアメリカの手先だった」と言っても、なんら非常識ではないのである。

日本の(自称)左翼よ、観念しろ。

(原則として敬称略)

「未来解読のキーワード」 の目次に戻る

 

はじめに戻る