拉致問題依存症

 

〜安倍晋三前首相

退陣の再検証

 

(Oct. 06, 2007)

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■拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証■

 

安倍晋三前首相の退陣の原因は『週刊現代』がスクープした彼の「相続税3億円脱税疑惑」だ、という説は、時系列的に事実を検証すると成り立たない。やはり「拉致問題」こそが怪しい。

 

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■拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証■

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『ラスコーリニコフの日・文庫版』が2007年6月1日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、5月28日〜6月3日の週間ベストセラー(文庫本)の総合20位前後になりしました。】

 

【前回「福田『中朝戦争対応』内閣の顔ぶれ〜シリーズ『中朝開戦』(10)」」は → こちら

 

[余談]

前回、最近、小誌読者の方々のあいだで、小誌記事2006年9月18日「ポスト安倍〜10か月後に『2年限定政権』へ」)が1年以上も前に「安倍晋三首相の退陣」「福田康夫首相の登場」を予言(でなくて科学的に予測)した記事として評価が高い(ホームページランキングの得票が高い)と述べた。が、実は予言(予測)のはずれた記事のなかにも評価の高いものがある。それは、小誌2005年10月27日「首相の『側近中の側近』〜「ポスト小泉」を読む」)である。

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なぜ、評価が高いのか、正直わからないのだが、おそらく、この記事はマスコミで「(小泉)首相の側近、後見人、政局のキーマンなどと称されている連中が、いかに首相や政局への影響力がないか」ということを明らかにした記事として評価されているのではないだろうか(2001〜2005年の小泉政権においても、2007年に誕生した福田政権においても、「自称小泉総理の後見人」「政局のキーマン」の森喜朗元首相はなんの役にも立っていない)。

 

というわけで、小誌の存在価値は予測(を的中させること)だけではなく、綿密な分析によてマスコミ報道が覆い隠している真実を暴くことでもあるので、今回はそういう検証を行ってみたい。

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●「一部週刊誌」報道●

安倍晋三が退陣を表明した2007年9月12日、一部大手紙の夕刊1面に「首相の辞任をめぐっては、今週末発売の一部週刊誌が安倍首相に関連するスキャンダルを報じる予定だったとの情報もある」と報じた(毎日新聞2007年9月12日付夕刊1面「安倍首相:辞任を表明 『政策の実施困難』と代表質問直前に - 緊急会見」)。

この「一部週刊誌」というのは『週刊現代』のことである。

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【『週刊現代』はこの「一部週刊誌」という失礼な表現にかなり怒っているので、その意を汲んで筆者は毎日新聞を「一部大手紙」と呼ぶことにする。】

(^^;)

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同誌は、安倍が父親の故・安倍晋太郎元外相から複数の政治団体を相続する際、それを悪用して約6億円の政治資金を相続した、と報じている。晋太郎は首相の座をめざして巨額の政治資金を集めていたが、それを使う前に病に倒れたたため、死の直前、それらの資金を自身が管理する複数の政治団体に寄付することによって所得税の控除を受け、その政治団体を安倍晋三が相続したのだ(『週刊現代』2007年9月27日号 p.p 26-30 「本誌が追い詰めた安倍晋三“首相”『相続税3億円脱税』疑惑」)。

 

政治資金は政治活動に使われずに相続された場合は相続税の課税対象になるが、安倍父子は自分たちの息のかかった複数の政治団体の間で資金を移動させたり、団体同士を合併させたりして整理あるいは粉飾し、相続税の課税を巧妙に逃れている。同誌の取材を受けた財務省主税局の相続税担当幹部はこれを(約6億円の相続なら、当時の最高税率50%で計算して約3億円の相続税を納めるべきところだったので)脱税だと断言したが、晋太郎の死が1991年で、税法上の相続税脱税の時効が最大7年なので、法的には責任は問われない(『週刊現代』前掲記事)。

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同誌はこの「脱税疑惑」をA4判5枚の質問書にまとめて、「2007年9月12日中に回答するよう」期限を書き込んで安倍晋三事務所に送ったところ、その回答期限の12日(午後2時)に安倍晋三が辞任会見を行ったことから、同誌は「『週刊現代』が首相の首を取った」と自画自賛しているのである。

 

これを信じるマスコミ関係者は少なくなく、評論家の立花隆も同誌当該号の発売前から同誌を、ネット上のコラムで称賛している(『立花隆のメディア ソシオ-ポリティクス』2007年9月14日「週刊現代が暴いた“安倍スキャンダル”の全容」)。

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立花によれば、上記の脱税疑惑に関する特集記事は12日の夜に書かれ、13日に校了になり、14日に印刷製本され、15日に発売されたのだが、立花は同誌の仕事をして来た関係から、発売前にその記事の内容を知り得たのだそうだ(立花前掲記事)。

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安倍晋三事務所はこの記事を、記事が書かれる前から異様に恐れ、マスコミ各社にファクスで警告を発していた、と立花はいう。そのファクスは「(株)講談社『週刊現代』記事(掲載予定)及びこれに関する一部新聞報道について」と題するもので、内容は

 

「毎日新聞の本日夕刊(4版)に[『“脱税疑惑”取材進む』との見出しを付した上で、『週刊現代』が首相自身の政治団体を利用した『脱税疑惑』を追求する取材を進めていた]との記事を掲載し、あたかも安倍が『脱税疑惑』の取材追及をおそれて辞職したのではないかとの印象を強く与える記事が掲載されましたので、週刊現代の指摘及びこれを無思慮に報じた新聞記事が全くの誤りであることを明確に説明しておきます」

 

というものだった。

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立花はこれを「この記事を引用紹介する記事、ニュースを作成し配信したら他のマスコミに対しても法的措置をとるぞ」という脅しだと解釈した。じっさい、このファクス送信の直後(12日午後8時34分)、時事通信社が「『脱税疑惑』全くの誤り 週刊誌取材に安倍事務所」という速報をマスコミ各社に配信したところ「毎日新聞の後を追おうとしていたメディアの腰が一斉に引け、逆に幾つかのメディアは安倍事務所と同じスタンスに立って、『週刊現代』を攻撃する論調に立ちはじめた」ので(立花前掲記事)、この事実から立花は、『週刊現代』の記事の正確さに怯えた安倍晋三事務所がマスコミを恫喝し、それが奏効したと考えたのだ。

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ところが、同じコラムの中で立花はこうも述べている:

 

「(上記の特集記事は)最高の公人(総理大臣)の、最も基本的な政治的倫理(納税義務と政治資金の問題)に関する疑惑を、公的文書記録(政治資金報告書)にもとづいて追及するものであったため、さらに財務省相続税担当官(に)まで取材してあるので言い逃れはできないし、名誉棄損で訴えることもできないのである(公人に関して公益に資する目的での事実の暴露は名誉棄損に問うことができない)」(立花前掲記事)

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立花は、田中角栄元首相の金脈を同様の方法で暴き出した自著『田中角栄研究』(月刊誌『文藝春秋』誌上で1974年に連載)が名誉毀損に問われなかった経験からこう結論付けたのだが、どうもおかしい。立花の後者の主張、つまり「公人の疑惑を公的記録に基づいて追及することは名誉毀損にならない」という考えが正しいなら、何もマスコミ各社は安倍事務所の12日夜のファクスに怯える必要はなく、堂々と「脱税疑惑」を報道すればよく、時事通信社も上記のような速報を流す必要はなかったはずだ。

 

逆に、立花の前者の主張、つまり、安倍晋三事務所の恫喝が奏効したという解釈が正しいなら、『週刊現代』編集部(講談社)が名誉毀損に問われる恐れはないとする後者の主張は間違い、ということになる。

 

立花は一流のジャーナリストだが、上記のコラムは矛盾が多すぎ、いささか滑稽ですらある。

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●日付の謎●

実は、上記の『週刊現代』の特集記事には重大な欠陥がある。それは、安倍晋三事務所に送った質問書の回答期限が12日だったことは書いてあるものの、その質問書を送付した日時、つまり安倍晋三事務所が同誌の取材内容をはっきり突き付けられた日付が書かれていないのだ。

 

ところが、その日付は立花が知っていた。発売前の記事を見せてもらえるほど同誌編集部と親しい立花が言うのだから間違いないだろう。立花は上記のコラムで、こう書いている:

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「安倍首相自身は、取材依頼を受け取ったその日のうちに電撃的に首相を辞任して、さらにその翌日午前中から病院に入院してしまうという形で公衆の前から姿を消すという道を選んだ」(立花前掲記事)

 

取材依頼、つまり質問書を受け取ったのが12日だと立花は述べているので、これはおそらく、辞任表明当日の午前中にファクスか速達か内容証明郵便で安倍晋三事務所に送られた、という意味だろう。とすれば、事務所関係者がその質問書を見たのは、どんなに早く見積もっても2007年9月12日午前8時頃ということになる。

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しかし、報道で明らかなように、その日の午前11時台には安倍は辞意を固めて政府・自民党の幹部に伝えているので(産経新聞Web版2007年9月12日「安倍首相 突然の辞意表明」)、『週刊現代』の質問書が原因で退陣を決めたのだとすると、安倍晋三首相(当時)が安倍晋三事務所から連絡を受けてから辞任を決めるまで、長めに見積もっても4時間ほどしかなかったことになる。

 

んなアホな。(^^;)

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安倍は「東大法学部を出て国家公務員試験に合格した元官僚」ではない。つまり、司法試験にうかるほどの法律の知識は持ち合わせていないはずで、『週刊現代』の動きに対抗してどのような法的措置が可能であるかを安倍が自分一人で判断できるわけではないから、当然、名誉毀損訴訟に詳しい弁護士に相談するはずだ。

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そして間違いなく相談した。だからこそ、12日夜にマスコミ各社に送信されたファクスには、「記事の報道による名誉毀損は(直接その記事を報道した報道機関だけでなく)引用紹介(した報道機関)に対しても成り立つという判例」を踏まえた警告が書かれていたのだ(立花前掲記事)

 

もちろん「『週刊現代』などが安倍の脱税疑惑を取材しているらしい」ということは、事前に安倍本人も知っていただろう(『週刊朝日』2007年9月28日号 p.p19-21 「上杉隆:安倍晋三を『自爆テロ』に追いつめた本当の理由」によれば、安倍は『週刊現代』が自分の脱税疑惑を、『週刊文春』が自分の脱税と隠し子の疑惑を取材していることを事前に知っていた。但し、なぜかこの記事には安倍がそれらを知った日付は明確には記されていない)。しかし、「取材しているらしい」という段階で弁護士に相談しても意味はない。

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相談するには、疑惑追及の記事が書かれ、出版されていなければならないが、12日の時点では『週刊現代』の例の記事はまだ書かれていなかったので、安倍晋三事務所の依頼を受けた弁護士は仕方なく、当日入手したばかりの『週刊現代』の質問書をもとに初めて法的対応を検討した、というのが真相だろう。

 

そしてどんなに有能な弁護士でも、いや有能であればあるほど弁護士は依頼人(安倍晋三)に対して、わずか4時間かそこらで「あなたはこの雑誌を名誉毀損で訴えても勝ち目はないので、さっさと首相を辞めたほうがいい」などという結論を出すはずがない。有能な弁護士なら、訴訟を何年も長引かせて結論を先送りするなど、さまざまな対抗手段を助言できる。報道に便乗して野党が国会で追及する可能性に対しても、同じような相続税の問題が野党民主党の世襲政治家、たとえば民主党の小沢一郎代表や鳩山由紀夫幹事長にあれば、それをマスコミにリークすることで対抗できるかもしれないので、小沢や鳩山の周辺を調べてから退陣を決めても遅くはない。

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麻生太郎自民党幹事長(当時)は12日、安倍の退陣表明直後の記者会見で、2日前の10日午後の時点で安倍が辞意をもらしたと述べている。そのときすでに安倍の辞意が固かったであろうことは、別筋の情報から確認できる。国連の事務総長報道官が12日、国連が各国首脳らを招いて24日に開く気候変動の「ハイレベル会合」に安倍が出席できなくなったことを「2日前に知らされた」と述べたからだ(朝日新聞Web版2007年9月13日「安倍首相の国連会合欠席、『辞任表明前に知らされた』」)。

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安倍は退陣表明前に週刊誌が隠し子疑惑などのスキャンダルを調べていることを産経新聞の親しい記者に愚痴っているが、その記者は即座に「ほおっておけばいい」と一喝している(『週刊朝日』前掲記事)。

 

あたりまえだ。新聞記者の常識で考えれば「一部週刊誌」の報道など名誉毀損訴訟を浴びせてうっちゃっておけば済むことだ。国民に対しては「裁判中ですから」と言い訳して時間を稼ぎ、その間になんらかの政策で実績を上げて世論調査における内閣支持率を上げれば、なんとかなる。2004年に、若き日の厚生年金不正加入問題を追及された小泉純一郎首相(当時)が「人生いろいろ」「会社もいろいろ」などとごまかし発言をして逃げ切った例もあるのだ(民主党メールマガジン DP-MAIL 第148号 2004年6月3日「ハイライト:岡田代表が小泉首相と初の直接対決 <首相の厚生年金不正加入について> 」)。

 

一国の首相がまだ発売されても書かれてもいない「一部週刊誌」の記事に怯えて辞任する、という筋書きは、あまりにも非現実的であり、安倍の弁護士が安倍に「すぐに辞任したほうがいい」などと言うはずはない。

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以上、事実関係を時系列的に判断すると「『週刊現代』が首相の首を取った」という結論は成り立たない。『週刊現代』自身もそのことをわかっていたからこそ、質問書を送付した日時を記事の中に書かなかったのだ(日時を書けば雑誌が売れなくなる)。

 

ところが、立花が(同誌をほめるつもりだったのだろうが)うっかり、その送付の日付を暴露してしまったために、『週刊現代』の「手柄」の虚構性がバレてしまった。こういうのを「ひいきの引き倒し」というのであろう。

(^^;)

 

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 (敬称略)

 

 

 

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