安倍敗北自民延命

その2

 

〜シリーズ

「2007年夏参院選」

(3)

 

(July 20, 2007)

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■安倍敗北自民延命〜シリーズ「2007年夏参院選」(3)■

 

2007年夏の参院選で、自民・公明の連立与党は非改選議席とあわせて過半数を割り、いったん参議院運営の主導権を失うと予測されるが、安倍晋三首相を退陣させれば比較的容易に主導権を奪回する道が開ける。

 

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内調はその情報提供の仕方によって、一国の首相(の人事管理能力)を有能に見せかけることも無能に見せかけることもできる。最高裁判所が「憲法の番人」なら、内調は日本の地政学的安全保障をつかさどる「地政学の番人」であり、その意向にさからう者は……たとえば、日本に地政学上絶大な国益をもたらす中朝戦争の実現に反対する政治家は……どんなに人気のある首相であろうと、「無能」に見せかける演出をして人気を落とし、葬り去る。それが内調の使命なのだ。

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●微調整●

マスコミや野党や国民の怒りとはあまり関係なく、ほとんど内調のみの努力によって、安倍内閣の支持率が低下した結果、冒頭に紹介したように、2007年夏の参院選後に与党が過半数割れすることはほぼ確実になった。そのことは、小沢だけでなく、当然内調も、中朝戦争について内調と志を同じくする検察庁や「福田陣営」や米民主党も、参院選における各党の獲得議席数まで含めて「98%以上の確率で」知っている(小誌2007年6月7日「安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」)。

 

では、いったい、彼ら「中朝戦争賛成派」は、自民党の獲得議席が何議席であることが望ましいと思っているのか。

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『読売ウイークリー』のシナリオ「#2」の数字(自民党が45〜50議席獲得)なら、国民新党を抱き込むだけで安倍を退陣に追い込むことができるので、万一「福田政権」が実現しなくても、安倍以外の「中朝戦争賛成派」(あるいは中立派)を首相に立てることで、かなり容易に「中朝戦争シフト」を実現することができる。

 

他方、シナリオ「#3」の数字(自民党44議席以下)では、安倍が退陣して福田や麻生と交代し、国民新党が改選前の議席数を維持して連立与党に加わっても、参議院では与党の過半数割れは(民主党系参議院議員が3人以上寝返らない限り、2010年夏の次期通常選挙まで)今後3年間は解消しないと考えられるため、衆議院の解散・総選挙や自民党と民主党の「大連立」を経て「政界大再編」をする必要が生じかねない。

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中朝戦争は、日米に対する「中国の脅威」を半永久的に解消する千載一遇の好機であり、その開戦にふさわしい時機はどんなに広く見積もっても「2009年から2012年4月16日まで」しかない(小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」)。何十年に1回あるかないかの重大な時節を前にして、いつ落ち着くかわからない政界再編劇などやられては、内調も米民主党もたまったものではない。とくに、福田は「自民党の」最大派閥である旧森派を分裂させることなく自分の支持基盤にするために2006年の総裁選をパスしたのに、大再編の過程で、旧森派どころか自民党そのものが分裂してしまっては元も子もない。

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とすると、中朝戦争賛成派は、自民党が参院選で負けすぎないように、より厳密に言えば、非改選を含めた「自民党と公明党と国民新党と新党日本離党者(荒井広幸)と民主党会派離脱者(渡辺秀央と松下新平?)」の合計議席数が過半数を下回らないように、したがって民主党が勝ちすぎないように微調整する必要がある(もちろん、あの内調のことだから、「#3」になったらなったで、自らの諜報能力を駆使して「邪魔者を消して」中朝戦争実現に向けて「再チャレンジ」するだろうが)。

 

その微調整と思われる動きが、参院選の各党の獲得議席数がほぼ確定した頃にあった。2007年6月末、安倍内閣の閣僚、久間防衛相の「原爆しょうがない」発言だ。

情報源と詳しい分析は諸般の事情で省略するが、久間は中朝戦争賛成派である。

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【というか、よほどの阿呆でない限り、地政学を理解できる日本の政治家や(とくに久間の部下の防衛省の)高級官僚なら「開戦しても、国防上、日本になんの実害もない中朝戦争」に反対するはずがない(地政学的には、安倍は「よほどの阿呆」と分類できる)。「なんの実害もない」のがウソだと思われる方は拙著、SF『天使の軍隊』(の一部)や小誌関連記事「シリーズ『中朝開戦』」(の全部)をご一読のうえ反論されるように。インターネット上で小誌の中朝戦争関連記事を無断引用して反論したり批判したりしている連中の大半は、これらを読んだことのない横着者か「よほどの阿呆」のどちらかである。】

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【『天使の軍隊』発売以降の小誌の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

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久間は衆議院長崎2区選出の衆議院議員で、2007年夏の参院選では、自分の息のかかった県議会議員や市議会議員や政治団体などを動員して、参議院長崎選挙区(衆議院の小選挙区と同じ定数1名の「1人区」)の自民党候補、小嶺忠敏を応援する義務がある。小嶺は全国高校選手権で国見高校サッカー部を何度も優勝に導いた名将だが、選挙区では民主党候補と互角の戦いを強いられており(『週刊朝日』2007年6月22日号 p.p 18-27 「最新分析 参議院全選挙区当落予測」)、久間やその「子分」の応援は当然必要だ。

 

そんな中で飛び出した久間の「しょうがない発言」は、被爆地長崎の県民感情を逆撫でしたので、久間は(一時的に)県民に嫌われている。したがって、久間は小嶺の応援演説をすることはなく、その「子分」も小嶺の応援には動かない。したがって、小嶺が落選し、民主党がここで1議席を確保する可能性が高まった。

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【同じような怒りは当然、もう1つの被爆地、広島でも沸き起こるが、広島選挙区の選挙にはまったく影響がない。なぜなら同選挙区は2人区であり、有力候補は自民党の溝手顕正防災相と民主党の佐藤公治・前衆議院議員の2人しかいないので、両党で議席を分け合うことがいまから決まっているからだ。】

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もちろん「しょうがない発言」は比例代表における自民党の得票にも影響するが、それで自民党の獲得議席数が増減することはないだろう。なぜなら、野党有力候補との関係如何ではわずか数万票の変動で1議席が減る選挙区選挙(1人区)とは異なり、比例代表選挙で1議席減らすには110万票も減らす必要があるからだ(『週刊朝日』前掲記事)。

 

だから、2001年夏の参院選の比例代表に自民党から立候補して約46万票を得て当選したプロレスラー、大仁田厚参議院議員が引退したことによって(毎日新聞Web版2007年6月24日「参院選:大仁田氏“失望引退” 政党の集票手法に一石」)自民党の比例代表の得票が46万減っても、それだけでは「1議席減」にはならない(しかし、約0.4議席減らすことにはつながるので、大仁田の政界引退も、ほかのスキャンダルとあわせて自民党の議席を1つ減らすための「微調整」工作の一環だった可能性は捨て切れない)。

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中朝戦争賛成派の久間がわずか1議席減らすために「自爆テロ」をしたところを見ると、彼が長崎県民の審判を受ける衆議院の解散・総選挙はかなり遠いのだろう。つまりシナリオの「#3」も可能性が低く、もっともありそうなのは「#2」で、参議院の連立与党の議席が(荒井広幸と渡辺秀央と松下新平と)国民新党を足しさえすればギリギリ過半数を超える範囲内まで減らすための微調整の一環だったと考えると辻褄が合う。つまり、長崎選挙区で自民党が勝つと、荒井と渡辺と松下を除いて自民党が46〜50、与党の獲得議席合計は59〜61ぐらいと予測されたので、国民新党(非改選を含めて4議席前後)の「出番」を確実に作るため、念のために長崎の1議席を自民党から奪ったと考えられるのだ。

 

このほか、高知選挙区(1人区)で民主党候補と接戦を演じている田村公平・自民党参議院議員が「自民党の地震対策を信用するな」「自民党に入れるな」という意味に受け取れる演説をしたことも「微調整」の一環と考えられる。この演説は、新潟県中越沖地震の発生を受けて安倍が選挙遊説を打ち切ってすみやかに被災地入りした直後に行われただけに、災害に取り組む姿勢を見せてイメージアップをはかりたい安倍の足を引っ張り、自らも落選もして1議席減らそうとしたように見える(朝日新聞Web版2007年7月16日「『美しい国』馬鹿にされた気がする 自民候補が首相批判」)。

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前出の「Z」(『天使の軍隊』など拙著を愛読している永田町・霞が関の事情通)も、「中朝戦争賛成派は、与党に過半数を割らせたら、あとは民主党の議席を削ってでも国民新党を増やしたほうが『近道』だ」と述べている。いまにして思えばこの言葉は

「渡辺秀央や松下新平を国民新党に入党させる」

「参議院大分選挙区における民主党と社民党、自民党と公明党の選挙協力をそれぞれぶち壊して、そこに国民新党の後藤博子参議院議員を立てて当選させる」(『週刊朝日』前掲記事)

という意味に解釈できる。】

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筆者は日本が真の議会制民主主義国家になるためには、2大政党による政権交代があるべきだと思っている。たとえそれが国民、国政のための政権交代ではなく「政権交代のための政権交代」であったとしても、与党と官僚機構(と業界)の癒着(トライアングル)を断ち切るという意義はあるので、いつかは民主党は政権を奪って自民党を野党に追い落とすべきだと思っている。

 

が、遺憾ながら当分の間(中朝戦争が始まるまで?)自民党政権は続きそうだ。

小沢は2007年夏の参院選でいったん与党を過半数割れに追い込むにもかかわらず、内調に邪魔されて政権を取らせてもらえない、という「勝ったのか負けたのかわからない奇妙な状態」に置かれそうだ。

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●慰安婦決議案は廃案か●

ところで、小誌既報のとおり、米民主党は中朝戦争反対派の安倍に圧力をかける目的で、旧日本軍相手に商売をした元職業売春婦を形式上「慰安」するための日本政府非難決議案(いわゆる「従軍慰安婦決議案」)を下院外交委員会に提出し(小誌2007年6月7日「安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」) 、2007年6月、それを委員会で可決した(産経新聞Web版2007年6月27日「慰安婦決議案を可決 米下院外交委 首相の公式謝罪促す」)。

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委員会を通過したこの決議案は7月中にも下院本会議で採決される見通しだが、実は本会議は委員会を通過したすべての決議案を採決するわけではない。もちろん予算案のような重要法案を採決しないことは許されないが、歳出を伴わない単なる決議案などは採決せずに廃案にしても国政運営上支障がないので、廃案もありうる。

 

たとえば、「慰安婦決議案」と同じように頻繁に下院(外交委員会)に提出される中国の人権状況を(五輪開催国にふさわしくないと)非難する決議案は、1993年には米民主党が多数を占めていた本会議で可決され、その年の国際オリンピック委員会(IOC)総会の2000年夏季五輪開催地を選ぶ投票で中国の北京を落選に追い込んだが(産経新聞1993年7月27日付夕刊1面「オリンピック北京開催を米下院が『反対』決議」)、2001年に下院外交委員会を圧倒的多数の賛成(賛成27反対8、つまり27/35)で通過した同様の決議案は、米共和党が多数を占めていた下院本会議で、共和党のリチャード・アーミー下院院内総務らの反対に遭って(否決されたのではなく)採決されることなく廃案になり、それを見たIOCは安心して、2001年のIOC総会で北京を2008年夏季五輪の開催地に選んでいる(産経新聞2001年7月12日付朝刊4面「『北京五輪』反対決議案 米下院、採決見送り決定」)。

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たとえ本会議で採決されれば可決確実な決議案でも、採決するか否かは事実上、議会多数党の首脳(院内総務や下院議長)の采配で決まるのだ。

 

したがって、2007年6月に下院外交委員会を圧倒的多数の賛成(39/41)で通過した「慰安婦決議案」を採決に付すかどうかも、米議会民主党首脳、すなわちステニー・ホイヤー(ホイアー)院内総務やナンシー・ペロシ下院議長の胸三寸ということになる。

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米下院は8月6日(月曜日)から夏季休暇にはいるが、土日に審議をしないと考えると、会期末は事実上8月3日(金)となる。

 

日本の参院選は7月29日(日)に投開票され、翌30日(月)の未明か早朝には大勢が判明するので、判明した瞬間から最大5日間、安倍は退陣するかどうかを考えることができる。

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もっとも、A新聞やK新党が先走って事実無根の「安倍退陣説」を流し、「それをきっかけに自民党内の『安倍下ろし』の動きが顕在化してほんとに退陣」というトリックもありうるが。】

 

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「もし日本時間3日夜(米東部時間3日朝)までに安倍が退陣を表明しなければ、慰安婦決議案を下院本会議で採決に付す」…………参院選のあと米民主党はさまざまなルートでこのようなメッセージを安倍に伝えて、安倍を脅迫するはずだ。

 

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8月3日までに安倍が退陣し、慰安婦決議案が会期内に採決されなかったら、その瞬間「慰安婦決議案はいわゆる『従軍慰安婦問題』とはなんの関係もなく、中朝戦争と関係がある」という筆者の説の正しさが証明されたことになる。

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『天使の軍隊』が2007年4月26日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、4月23〜29日の週間ベストセラー(単行本)の 総合10位(小説1位)にランクインしました。】

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 (敬称略)

 

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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