チャイナフリー作戦
その2
〜シリーズ
「中朝開戦」
(12)
■チャイナフリー作戦〜シリーズ「中朝開戦」(12)■
2007年に日本に輸入された中国製冷凍食品の餃子に混入していた殺虫剤による食中毒事件は、「傷害」か「殺人未遂」の疑いが濃厚だが、それなら犯人(首謀者)の国籍は日本でも中国でもない可能性が高い。
米国で中国産品の危険性を訴える報道が急増したのが2007年3月以降、天洋食品の工場でジクロルボスを含む日本向け冷凍餃子が製造されたのが同年6月、同工場でメタミドホスを含む日本向けの冷凍餃子が製造されたのが10月なので、辻褄は合う。
まったく開封されていない、2007年10月製造出荷の冷凍餃子の、パッケージの内側から毒物が検出されたため、日本の捜査当局は故意犯、つまり何者かによる「傷害」または「殺人未遂」の可能性が高いと判断している(読売新聞Web版2008年2月5日「『中国で混入が自然』 警察当局、見方強める」、同2月9日「『中国で混入』の見方固まる、6月・10月同一犯説も」、『読売ウィークリー』2008年2月24日号 p.p 21-23「“殺人”餃子ワイド 本誌がつかんだ!これが『毒』犯人像」)。
【「(日本人の)犯人が、JTFの親会社JTの株価操作の目的でJTFの商品に毒を混ぜた」という説は、そういう記事を書いた記者が、書いた先から(元専売公社であるJTの株は、東京地検特捜部に狙われやすいので仕手筋は手を出しにくいという説を紹介して)否定しているので論外だ(2種類の殺虫剤の事件が同一犯の場合、2007年6月に殺虫剤混入工作をやってから4か月経ってもなんの騒ぎにもなっていないのに、その4か月後のにまた同じ目的で同じ工作をするだろうか。いつ日本で販売され、いつ犠牲者が出るかわからないような方法では、いつ株価が動くかわからないわけで、株価操作の手法としては効率が悪すぎて使えない。JT、日清食品などの冷凍食品事業の統合を妨害する手段としても同様である(『読売ウィークリー』前掲記事、読売新聞Web版2008年2月6日「JT・日清食品・加ト吉、冷凍事業統合を白紙撤回」)。】
もちろん、中国の公安当局は、筆者がわかるぐらいのことは当然わかっており、だからこそ「日中関係の発展を望まない一部分子が極端な手段を取った可能性を排除できない」などと「日中以外の第三国人の犯行」を示唆したようなことを言うのだ(毎日新聞Web版2008年2月7日「中国製ギョーザ:不満分子の可能性も…中国が『故意』示唆」)。
中国当局が当初、毒は「中国で混入された可能性が低い」などと居直っていたのは、苦し紛れのウソだ。なぜなら、「中国で混入された」と認めることは、「中国の『食の安全』管理に問題がある」と認めることであり、それは「日本版チャイナフリー」の登場につながり、日本の食品企業の多くが中国との取り引きを一斉に減らす(打ち切る)ことになるからだ。中国にとって中朝戦争を防ぐほとんど唯一の手段が「日米の多くの企業が中国に依存しているという現状」なのだから、日本企業の「集団撤退」につながるような発表を中国政府自らがするわけにはいかない。
とはいえ、日本の警察の捜査で未開封のパッケージの内側から殺虫剤が検出された事実がある以上、中国側とていつまでもごまかすわけにはいくまい。おそらく今後ありうる展開は、
#1:中国国籍の真犯人(実行犯)が逮捕され、背後関係について完全黙秘
#2:無実の中国人を中国捜査当局が犯人に仕立て上げ、「個人的な恨みでやった」という虚偽の供述をリーク
#3:(徹底捜査をしても北朝鮮工作員が尻尾を出すとは思えないので)日中合同捜査チーム(または、日中間の食品安全問題の協議機関)を作って、真相が解明できないことの責任を半分日本側に負わせ、「原因不明」「単なる不幸な事故かもしれない」と日本側に言わせて幕引き
などだろう。
「#2」「#3」の場合、中国政府は「これは例外的な事件であり、ほかの食品工場では起きない(から日本企業は安心して中国に投資し続けてほしい)」とアピールし、中国政府首脳は「これで中朝戦争の抑止力が維持された」と思うだろう。が、北朝鮮側はそれでは困るので、2008年3月に予定されている胡錦涛国家主席の訪日前にも、(再度)同種の、中国産品の安全性を疑わせるテロを、諜報機関を使って引き起こすかもしれない。そうなれば、中国政府のメンツは丸つぶれになり、多くの日本企業が真剣に中国撤退を考えるはずだ。
日米の中国進出企業の多くがじっさいに撤退しなくても、撤退計画、つまり中国抜きのビジネスモデルの構築を始めれば、中朝戦争開戦への敷居は一気に低くなる。だから、中国は、なんとしても、1社でも多くの日米の企業を中国とのビジネスに引き留めておきたいのだ。
●開戦時期●
しかし、実は、企業が撤退しなくても敷居の低くなる時機が、やがて到来する。
日米どちらかの政府が、中国に依存する企業からの圧力を気にすることなく、北朝鮮に「GOサイン」を出してただちに中朝戦争が始まるのなら、真の問題は「撤退」の決断ではなく「圧力」の有無だからだ。
2008年11月4日には、米大統領選と上下両院選があるが、ウォルマートもデルもコカコーラも、共和党、民主党双方の有力な大統領候補や大物議員に、ほぼムラなく献金して「選挙に勝ちたかったら、中朝戦争を起こすな」と要求しているはずだ。
【政治学者のジェラルド・カーティスは「米国は建前として企業の政治献金を禁止しているが、経済界はあの手この手を使って、ばく大な献金をしているのが現実だ」と述べている(東京新聞2003年8月3日付「政治献金再考」)。企業から政党への献金は、米国ではソフトマネー(連邦選挙運動法の抜け穴を利用して政党に提供される、融通無碍な献金)と呼ばれる(しんぶん赤旗Web版2003年10月24日「アメリカの実態は財界後ろ盾の二大政党制 企業献金は2党に均等に イラク開戦 共和党が実行、民主党が支持」)。】
新大統領の任期が始まる2009年1月20日以降に中朝戦争という「不測の事態」が起きると、新大統領と議会民主党はマスコミから「中国における米国の権益は守れるのか」とか「情報機関は事前にきちんと情報収集をしていたのか」などと厳しく追及される。もちろんGSやデルの「親中派」(パンダ派)の献金者たちからも「選挙のとき応援してやったのに、忘れたのか」と責められる。
ところが、2008年11月の上下両院選の結果がどうであろうと、新議会開会の前日、2009年1月5日までは上下両院とも民主党が多数派なので、彼らは大統領に圧力をかけられる。だから、新大統領の就任前に、議会民主党がブッシュ現共和党政権に圧力をかけて北朝鮮に「GOサイン」を出させれば、新大統領も民主党も、上記のように責めれられる心配はない。
12月〜3月には中朝国境の鴨緑江も豆満江も凍結するので、北朝鮮陸軍は徒歩だけでなく車両でも容易に国境を越えることができる。したがって、2008年3月までに開戦しなければ、次のXデーは2008年12月(〜2009年1月19日)まで来ないと見るべきではないか。
【何清漣は2007年にデル、コカコーラ、GSなどの「パンダ派」に対して「今ごろ『中国経済は持続不可能』と言い出した」のは遅すぎると責めている。が、彼らのそういう発言は、「パンダ派」の主要企業が「もう中国ではさんざん儲けたから、中国バブルがはじける前に撤退します」(中朝戦争賛成派の皆さん、あとは、中国を煮て食うなり焼いて食うなり、好きにして下さい)というメッセージを発した、ということではないだろうか(『SAPIO』前掲記事)。だとすると、中朝戦争は、それこそ明日起きても不思議ではないことになる。】
●五輪前、五輪後●
純粋に軍事技術的に考えれば、北朝鮮にとっては、北京五輪前に開戦したほうがいいに決まっている。五輪前は、五輪の成功を願う中国が北朝鮮に対して「予防的先制攻撃」をかける可能性がまったくなく、少なくとも開戦直後に限れば、北朝鮮側の「やりたい放題」だからだ。
しかし、外交的には、五輪前開戦は北朝鮮に不利だ。
日中戦争がそうであったように、地上軍同士で戦争が始まると、どっちが先に手を出したかは第三者にわかりにくいので、当事国はそれぞれ自国の立場を有利にするために「相手が先に手を出した」(攻撃されたので応戦しただけだ)と主張するものだが、北京五輪前に限っては、(たとえ中国が本気で北朝鮮に侵攻したい場合でも)「先に中国が手を出した」という主張が国際社会で信じられることはありえないので、北朝鮮は「侵略者」として、国際社会の一方的な非難を受ける可能が高い。
この意味でも、北朝鮮は開戦時期を2008年12月以降まで遅らせたほうがいいのではないか。
そして、開戦時期が北京五輪後になる場合は、五輪の成功によって中国の威信が(1936年のベルリン五輪成功後に侵略戦争を開始したナチス・ドイツのように)高まりすぎるのを防ぐため、米朝いずれかの諜報機関が、五輪開催中に中国の恥になるような事態を引き起こすのではないか。たとえば、北京市の開発で住居や仕事を奪われた下層階級の北京市民をそそのかして暴動を起こさせたり、競技場で中国人の観衆を興奮させて(反日ブーイングの吹き荒れた2004年アジア杯サッカーの際のように)「マナーの悪い」観戦態度を引き出したり、選手村の飲料水や食事に毒物を混ぜたりする工作が考えられる(これは米朝あるいは台湾の選手団や記者団のなかに工作員を紛れ込ませることで、比較的容易に実現できる。但し、日本と中国との対戦で実現するのは容易ではない)。
元々小誌の予測では開戦は「2010〜2012年」だったわけで(小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」)、筆者としてはべつに「焦って」はいないのだが、中国政府が長白山空港の開港を前倒しし、さらに未完成の同空港を使ってあわてて電子偵察機のテスト飛行をするなど「焦りまくって」いるので(小誌2007年9月13日「開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」)、開戦時期の予測を日々微調整している次第である。
●犯人の国籍●
ところで、中国語圏のインターネットの掲示板(BBS)などでは「もし(毒餃子事件の)犯人が日本人だったら、日本国民は全員切腹しろ」などという過激な反日コメントが多く書き込まれているようだ(『読売ウィークリー』2008年2月24日号 p.23「“殺人”餃子ワイド 本誌がつかんだ!これが『毒』犯人像」)。
が、たとえ、実行犯が日本国籍だったとしても、日本政府は中国政府に謝罪してはならないし、中国国籍だったとしても、日本政府は中国政府に謝罪を要求してはならない。これは、2008年2月にソウルにある韓国の国宝、南大門が全焼した放火事件の犯人が万一日本人だった場合でも同様で、日本政府は相手国政府に絶対に謝罪してはならない(「する必要がない」のではなく「してはいけない」のだ)。
理由は、小誌既報のとおり「ならず者雇い合戦」になる恐れがあるからである(小誌2007年5月1日「非国家犯罪と謝罪〜シリーズ『米バージニア工科大銃乱射事件』(2)」)。
実行犯の国籍などどうでもいい。中国政府がなすべきは、現行の食品安全管理制度の、ある程度の改善と、現行制度下で被害者を出してしまったことについての「遺憾の意」の表明だけだ。
が、中国政府首脳は「日中関係の発展を望まない一部分子云々」の発言で明らかなように、北朝鮮政府のテロであることはとうに確信しているので、できれば遺憾の意など表明したくない心境だろう。
それに、相手は、かつてソウル五輪開幕前に韓国への「いやがらせ」として、工作員のキム・ヒョンヒ(金賢姫)を使って大韓航空機爆破テロ事件を起こした「テロ支援国家」である。少々安全対策を強化したぐらいでは問題の解決にならないこともわかっているだろう。この点で、筆者は中国政府に同情する。
一方、北朝鮮政府は、もし今回の食品テロで背後関係がバレれば、2007年以来の米朝関係改善が帳消しになり、米国務省のテロ支援国家の指定が解除されるどころか、あらためて「再指定」されかねない。そうなれば、国際金融機関からの融資は引き続き受けられず、米朝、日朝の国交樹立も、日米からの経済援助も遠のく。
だから北朝鮮の諜報機関は、絶対に真相が解明されないように、万全の隠蔽工作をしているはずだ。
【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】
【お知らせ:佐々木敏の小説『天使の軍隊』が2007年4月26日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、4月23〜29日の週間ベストセラー(単行本)の 総合10位(小説1位)にランクインしました。】
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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