媚日派胡錦濤
〜「福田康夫は
親中派」報道
のデタラメ
■媚日派胡錦濤〜「福田康夫は親中派」報道のデタラメ■
2008年5月、中国の胡錦濤国家主席は訪日し、福田康夫首相から「北京五輪開会式に出席する」という言質を取るために日中首脳会談に臨んだが、福田は拒否し、意図的に胡錦濤のメンツを潰した。
■媚日派胡錦濤〜「福田康夫は親中派」報道のデタラメ■
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【前々回「捏造政局〜『支持率低下で福田政権崩壊』報道のウソ」は → こちら】
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日本のマスコミによると、福田康夫首相は「親中国派」なんだそうである。
だから、中国嫌いの保守派メディアの福田評は総じて手厳しく、2008年5月6日に始まった胡錦濤(こ・きんとう)中国国家主席の訪日と、それを迎える福田政権の「成果」についての報道には端的にそれが現われている。胡錦濤来日直後に発売された『週刊文春』(2008年5月15日号 p.p 30-33)のトップ記事の見出しはその典型だ:
「新聞・TVが報じない『訪日』全内幕」
「胡錦濤の笑顔にスリ寄る福田政権『大パニック』」
「フランスワインにダメ出し 首相のコビへつらい」
実はこの「5月15日号」は5月8日に発売されているが、印刷、製本、配送の時間を考えると、原稿の締め切りは5日あたりだったはずだ。胡錦濤は6日に来日し、7日に福田との日中首脳会談に臨んで日中共同声明に調印したあと、天皇皇后両陛下と会談し、8日に早稲田大学で講演し、9日に横浜の山手中華学校などを訪問し、10日には奈良の唐招提寺、大阪府門真市の松下電器産業本社を訪問して大阪空港(関西空港ではなく、兵庫県伊丹市の空港)から離日しているから、どう考えても上記の記事に「『訪日』全内幕」が載っているはずはない。
●見込み記事●
上記の記事のすぐあとには「櫻井よしこ×富坂聰 徹底討論 首脳会談は『大失敗』 もはや中国にモノは言えない」と題する対談記事が続くのだが、この対談の参加者2名は明らかに、まだ行われてもいない日中首脳会談の「成果」について徹底討論したことになる(『週刊文春』2008年5月15日号 p.p 33-35「首脳会談は『大失敗』」)。
んなアホな。
(^^;)
しかし、この「見込み記事」は胡錦濤訪日の「中日」である5月8日に店頭に並び、その日の朝、電車の中吊り広告には上記の「全内幕」「スリ寄る福田政権」「コビへつらい」の見出しが登場し、マスコミ業界人を含む大勢の電車通勤者の目に触れることになったから、多くの日本国民は「胡錦濤訪日の日本にとっての成果はなかった」と思い込んだに違いない。
なるほど、こんな宣伝ばかり目にしていれば、だれでも「福田は親中国派」と思うはずだ。
筆者はとくに自民党や福田康夫現政権を支持しているわけではないし、「日本が真の民主主義国家になるためには、たとえ『政権交代のための政権交代』でもかまわないから、政権交代が必要」すなわち「いつかは民主党が政権を取ることが必要」と考えている。が、マスコミのウソは糾さなければならない。
いったいマスコミは何を根拠に、福田を「親中国派」と呼ぶのか。
福田が靖国神社に参拝しないからか。それなら、安倍晋三前首相だって首相在任中は参拝していないのだから、同じことだ。
あるいは、東シナ海のガス田開発をめぐって中国が日本の権益を侵犯している問題で、福田が中国に対して公然と厳しい態度をとらないからか。これも、安倍と同じではないか。
日本の民間企業、帝国石油に試掘権を与えて国益を守る姿勢を見せた小泉純一郎内閣(中川昭一経済産業相)と違って、安倍内閣は何もしなかった。
それなのに、保守系マスコミは安倍を「反中派」の愛国者、福田を「親中派」の売国奴のように報道する。いったいその理由はなんなのだ。
●ゼロ回答●
この胡錦濤訪日の最中、福田の「正体」が暴露された瞬間があった。
訪日前の3月、中国南西部のチベット自治区で暴動が起き、中国政府が軍、警察などを動員して武力で鎮圧したため、西側諸国から非難を浴びていた。フランスのニコラ・サルコジ大統領がこの問題を理由に2008年8月の北京五輪開会式を欠席する可能性を示唆したのを筆頭に、ドイツ、チェコ、ポーランド、エストニア、スロバキアの5か国が首脳の開会式欠席を表明したのだ(共同通信2008年4月5日付「サルコジ大統領 五輪開会式出席へ3条件」、産経新聞Web版2008年3月29日「EU チベット弾圧中止を要求」)。
チベットは元々中国領ではなく、1959年に中国が武力で併合してチベット仏教の最高指導者のダライ・ラマ14世をインドへの亡命に追い込み、1960年代には、悪名高き破壊活動、「文化大革命」の紅衛兵を大量に送り込んでチベット仏教寺院を多数破壊させ、僧侶を含むチベット人多数を虐殺させた。この侵略の歴史は欧米では周知のことなので、チベット人が中国政府に抗議して弾圧されたと聞くと、人権意識の高い欧米人は容赦できないのだ。
だから、2008年米大統領選に立候補しているヒラリー・クリントン上院議員もバラク(バラック)・オバマ上院議員も「ブッシュ米大統領は(北京)五輪開会式を欠席すべきだ」と表明したのだ(読売新聞Web版2008年4月10日「オバマ氏、大統領に五輪開会式欠席の検討を要求 大統領選」)。
中国にとって北京五輪の成功は悲願である。その国家的行事の開会式に本来出席するはずだった世界各国の首脳が次々に「ボイコット」を表明し、五輪を汚されたのではたまらない。たとえ五輪自体が無事に開催されても、世界各国が祝福しない形での開催は成功とは言えず、五輪後に手にはいると中国が期待していた国家的威信の向上も望めない。
そこで、中国は当然、欧米諸国に比べて人権意識が希薄である(と中国が考える)日本に狙いを付け、この「反中国人権問題包囲網」を打破しようとする。2008年5月上旬に予定されていた胡錦濤の訪日は、3月のチベット暴動発生後、初めての西側諸国への外遊であり、初めての西側諸国首脳との会談の機会となった。この訪日、首脳会談に当初どんな目的があったにせよ、フランスを始めEU諸国の多くがチベット問題を理由に「首脳の五輪開会式欠席」というスタンスをとり続けている以上、胡錦濤の訪日の最大の目的は、日本の首脳、福田康夫を直接説得して「(日中友好のため)北京五輪開会式に出席します」と言わせることにあったはずだ。
5月7日午前中、胡錦濤は首相官邸で福田と日中首脳会談を行った。もちろんその席で胡錦濤は「ぜひ開会式に出席を」と求めたはずであり、福田も外交儀礼上「前向きに検討します」ぐらいのことは言っただろう。胡錦濤は、日中友好を演出するため、第二次大戦までの日本の中国侵略の歴史を厳しく問う「歴史認識問題」は持ち出さず、いわゆる「日本軍国主義批判」はほとんどせず、この7日に署名した日中共同声明には以下の文言を入れることに同意した:
「中国側は、日本が戦後60年あまり平和国家としての歩みを堅持し、平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきたことを積極的に評価。日本の国連における地位と役割を重視、国際社会で一層大きな建設的役割を果たすこと望む」
これは事実上、中国が日本の国連安保理事会常任理事国入りに反対しないことを表明したのと同じだ(産経新聞Web版2008年5月7日「胡錦濤氏訪日:日中共同声明の要旨」)。
この2008年の日中共同声明は、1972年の(日中国交回復時の)日中共同声明、1978年の日中平和友好条約、1998年の日中共同宣言に続く「第4の政治文書」と位置付けられており、通常の合意文書より拘束力が強いので(産経新聞Web版2008年5月7日「日中共同声明を発表 ガス田開発問題など解決への道筋明示できず 日中首脳会談」)、上記の国連に関する下りは、けっして単なるリップサービスではない。すなわち、今後中国政府は、2005年に見せたような、日本の国連安保理常任理事国入りを阻止するための露骨な行動をとることはできなくなったのだ(日経BP SAFETY JAPAN [古森 義久氏] 2005年12月5日「惨憺たる結果に終わった小泉政権の国連外交」)。
歴代の中国首脳は、中国のマスコミが政府の統制下にあることを利用して、中国が日本から円借款などの多額の経済援助を得ていたことを中国国民に対してはひた隠しにしていた。「偉大なる中国は自力更生で発展して来たのであって、日本ごときの助けなど得ていない」と中国国民に言いたかったからだ(政府の円借款どころか、民間の合弁投資についてさえ、中国人は可能な限り隠そうとして来た。拙著、小説『龍の仮面(ペルソナ)』を参照)。が、この点でも胡錦濤は日本側にスリ寄った。5月8日に早稲田大学で行った講演会で胡錦濤は「日本の対中円借款はインフラなど中国の近代化建設に積極的な役割を果たした」と語って、その講演をそのまま中国全土にTVで生中継させたのだ。
これは共産中国建国以来初めての、中国国民への「告白」であり、国民レベルでの日本への「感謝の表明」だが(2008年5月11日放送のTBS『サンデーモーニング』における岸井成格・毎日新聞特別編集委員のコメント、産経新聞Web版2008年5月8日「胡錦濤氏訪日:早稲田大学での講演要旨」)、もちろんそのセリフ、シナリオは訪日前に固まっていて、事前に日本側に伝達してあったから、この講演会も、福田に五輪開会式出席を決断させる材料になると胡錦濤は読んでいたはずだ。
さらに、訪日が(都合よく)中国から日本に贈られた上野動物園のパンダ、リンリンが死亡した直後だったことをとらえて、胡錦濤は、リンリンの「後継者」になるパンダをあらたに貸与することも決めてその旨を前日(5月6日)に表明していたので、これも福田を五輪に引っ張り出すのに役立つ、と判断していただろう(日テレニュース24 Web版2008年5月7日「胡錦濤国家主席、雌雄のパンダ提供を表明」)。
ところが、5月7日正午すぎ、会談終了後の日中共同記者会見で、日本側の記者から「北京オリンピックの開会式には、どのように対応されるか」と質問された福田はこう答えたのだ:
「出席するかどうかというお尋ねですが、考えてみたらまだ先なんですね。ですから、これはですね、前向きに検討するということ。事情が許せば前向きに検討してまいりましょうということであります」(産経新聞Web版2008年5月7日「胡錦濤氏訪日:日中共同記者会見詳報(6) 福田首相『事情が許せば前向きに検討する』北京五輪開会式出席」)
事実上のゼロ回答だ。事情が許さなければ「前向きに検討」すらしないのだから。
この答えを聞いたときの胡錦濤の顔は、日本ではNHKなどで生中継されていたが、だれが見ても、明らかにショックを受けたとわかる表情だった(前掲『サンデーモーニング』における岸井成格のコメント)。国連、円借款、パンダまで持ち出した胡錦濤の「媚日外交」に対して、福田は「まだ先の話だから」と回答を避け、日中両国の政官界が注目する晴れ舞台で胡錦濤に恥をかかせたのである。
胡錦濤はここまで福田にバカにされたにもかかわらず、翌8日の早大での講演会では当初のシナリオどおり、日本の円借款などの経済援助に感謝を表明し、それを中国全土に生中継させた(ここまで来ると、筆者は「痛快」を通り越して「哀れ」を覚える)。
(>_<;)
もし福田が「親中国派」ないし「媚中派」なら、7日の記者会見では当然「五輪に行きます」と言うはずである。が、そう言わなかったのはなぜか。
理由はもちろん、福田は親中国派ではないからだ。
中国側は今回の日中首脳会談では、東シナ海のガス田開発問題など、日中の国益が露骨にぶつかる問題では(表面上は)なんの譲歩もしなかった(産経新聞Web版2008年5月7日「日中共同声明を発表 ガス田開発問題など解決への道筋明示できず 日中首脳会談」)。そうであるならば、こちらもここで「出席します」などと尻軽に答える必要はない。福田は明らかに、北京五輪の成功を悲願として念じる中国の弱みに付け込んで、「五輪出席」を外交ゲームのカードに使ったのだ。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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