「謎の愛読書群」
〜シリーズ
「ロス疑惑」(1)
(1)
■三浦和義容疑者「謎の愛読書群」〜シリーズ「ロス疑惑」(1)■
2008年2月、「ロス疑惑」銃撃事件の殺人容疑で米司法当局に逮捕された三浦和義容疑者は、1981年の事件直前の数年間、膨大な点数の推理小説を読んでいた。その小説のリストの謎について筆者は同容疑者に直接問いただした。
■三浦和義容疑者「謎の愛読書群」〜シリーズ「ロス疑惑」(1)■
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いわゆる「ロス疑惑」は、1981〜82年に、三浦和義(かずよし)なる日本人(1947年生まれ。2008年4月現在60歳)が保険金目当てで愛人の元女優Yを使ってロサンゼルス(ロス)で妻、三浦一美(かずみ)(当時28)を殴打させた傷害事件と、何者かに妻を同じくロスで銃撃させた事件とを総称するマスコミ用語である(毎日新聞Web版2008年2月24日「ニュースな言葉:ロス疑惑」)。
この言葉は、2008年現在30代後半以上の日本人なら、だれでもよく知っている。それより若い方はご存じないかもしれないが、まわりの、ご自身より年上の方に聞けばすぐにおわかりになろう。
【上記の殴打事件、銃撃事件のほか、失踪事件もある。1979年3月末、三浦の会社の取締役で愛人だったとも言われる白石千鶴子(当時34)が、三浦より2日遅れでロスへ出発したまま行方不明になり、変死体でみつかっているのだ。このため、日本のマスコミではこの事件も含めて「ロス疑惑」と呼ぶことがある。】
そこで、小誌は、30代後半以上の方でもほとんどご存じない、つまりマスコミがほとんど取り上げない、この事件の特徴的な側面をいくつか取り上げて紹介する。
●タイミングの謎●
ロス疑惑のうち、殺人未遂事件(なぜか「一美さん殴打(おうだ)事件」と呼ばれる)では、実行犯の元女優Yのマスコミでの告白により、三浦は1985年9月11日に逮捕された(1998年に最高裁で懲役6年の実刑が確定)。他方、銃撃事件では、日本の検察当局は十分な証拠を得られず、その後約3年間、立件できなかった。
ところが、1988年夏、翌1989年4月から消費税を導入するための臨時国会が開かれると、なぜか急に検察当局は「やる気」になり、同年秋に銃撃事件の立件に踏み切る。
その臨時国会に先立ち、政府与党の幹部多数がリクルートの子会社、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)から値上がり確実な未公開株の譲渡を受けて、見返りに行政上の便宜をはかったと疑われる「リクルート事件」が朝日新聞のスクープによって暴露され、政府与党は窮地に陥っていた(朝日新聞1988年7月6日付朝刊1面「リクルート関連非公開株の譲渡で政界首脳の秘書名登場」、毎日新聞1988年7月6日付夕刊19面「リクルート関連株売買で中曽根、安倍、宮沢氏の秘書の名も」、朝日新聞1988年7月7日付夕刊19面「竹下首相、国会心配 『道義的によくない』 リクルート株疑惑」、読売新聞1988年7月8日付朝刊3面「リクルート問題 『税制国会』への影響必至 政府・自民、改革手順練り直しも」)。
曰く「国民に新たな税負担を強いるというのに、消費税法案を制定する政治家や官僚たちは、『濡れ手で粟』のぼろ儲けをしていていいのか」という識者やジャーナリストたちの非難が、連日TVや新聞紙上を賑わしていたのである。
このような状況下でにわかに立件された「ロス疑惑」の「銃撃事件バージョン」は、国民の関心をリクルート事件から分散させる効果を持った。とくに、リクルート事件の贈賄容疑で立件されたリクルートコスモスの松原弘元社長室長の逮捕と、三浦の銃撃事件での逮捕(すでに殴打事件で逮捕、起訴されていて公判中だったので、再逮捕)は同じ日(1988年10月20日の午前中)であったたため、当日夜7時のNHKニュースのトップは(前日まで連日「リクルート事件」をトップで扱っていたのと打って変わって)ロス疑惑がトップになった(読売新聞1988年10月20日付夕刊1面「ロス疑惑・一美さん銃撃『三浦』を殺人容疑で逮捕/警視庁」、朝日新聞1988年10月20日付夕刊19面「報道陣をチラリ 逮捕のリクルートコスモス前社長室長・松原」)。
松原の贈賄容疑でリクルート本社やリクルートコスモス本社、松原の自宅などに東京地検の強制捜査がはいったのは10月19日だが、松原の逮捕状の執行は翌20日午前0時過ぎ、松原が東京拘置所にはいったのは20日午前0時10分だったから、東京地検は19日中にしようと思えばできた松原の逮捕を敢えて翌20日にずらしたと考えられる。おそらく地検は当初から20日に逮捕すると決めていたのであろう(読売新聞10月19日付夕刊1面1面「『リクルート』を強制捜査 数百万円の贈賄容疑 本社など一斉捜索/東京地検」、朝日前掲記事)。この意味不明な「20日」へのこだわりにより、松原の逮捕と三浦の逮捕はまったく同じ日になった。
逮捕による拘束期間(最大72時間)も、逮捕後の拘置(法律用語では勾留)期間の上限(原則10日。延長請求が裁判所で認められれば最大20日)も、刑事訴訟法で決まっているので、逮捕の日が同じなら、東京地検への送致(送検)の日も、拘置請求の日も、拘置延長請求の日も、起訴の日も、ほとんど自動的に同じになる。
じっさい、それぞれ10月22日、22日、31日、11月10日であった(朝日新聞1988年10月22日付夕刊13面「松原前室長の拘置、10日間認められる リクルート疑惑」、毎日新聞1988年10月22日付夕刊11面「『ロス銃撃事件』で三浦と大久保を送検」、朝日新聞1988年10月31日付夕刊17面「松原の拘置を延長 リクルート疑惑」、毎日新聞1988年11月1日付朝刊「ロス銃撃事件の拘置理由開示公判開く - 声をふるわせ、三浦反論」、読売新聞1988年11月11日付朝刊1面「リクルート疑惑 松原・前社長室長を賄賂罪で起訴/東京地検」、読売新聞1988年11月11日付朝刊31面「一美さん銃撃事件 三浦と大久保を殺人で起訴/東京地検」)。
このため、筆者の記憶する限り、以後ずっと、NHKの夜のニュースでは常に「トップニュースの『ロス疑惑』のあとに『リクルート事件』」というパターンの報道編成が繰り返された。そのうえ、消費税法案の衆議院特別委員会での(与党単独の)採決が三浦の起訴と同じ日だったこともあり(読売新聞1988年11月11日付朝刊3面「税制法案強行採決…11.10国会ドキュメント 委員長席はさみ対決」)、結果的に、ロス疑惑は、リクルート事件に関する国民の関心をそらし、未公開株で儲けた政治家や官僚への国民の怒りをやわらげて、消費税法案を成立させることに貢献したのである。
具体的な証拠が不十分だったようで、ロス疑惑の銃撃事件は、最高裁まで争った末に、2003年3月、無罪判決が確定してしまう。
犯行現場が米国のロスだったため、捜査を日米いずれの司法当局が行うべきかという管轄の問題で日米で協議した末に、米国側が譲歩して日本側での捜査が決まっただけに、銃撃事件の無罪判決は、日本が米国の好意を無にした形になった。
●続・タイミングの謎●
2008年2月19日、海上自衛隊のイージス護衛艦(駆逐艦)「あたご」が千葉県の房総半島野島崎沖で漁船と衝突して漁船が沈没する事故が起きた。漁船に乗っていた父子が行方不明になったため、マスコミ、野党、世論の非難は海上自衛隊とその監督官庁の防衛省に集中し、イージス艦運用の是非が厳しく問われた。
日本の安全保障の柱は日米同盟であるが、現在日米両国政府が同盟の柱と考えて配備を進めているのがミサイル防衛(MD)システムであり、そのまた柱になるのが、飛来する敵国のミサイルを探知し迎撃する高度な能力を持つイージス艦である。だから、このままイージス艦に対する国民世論の非難が高まり、その配備増強が日本各地の港湾地域で忌避されるような事態になれば、MD、ひいては日米同盟全体が危機に瀕する可能性もあった。
が、TVの報道番組もワイドショーも「そんなの関係ねえ」と言わんばかりに、2月19日以降、連日トップニュースでこの事故を取り上げ、国民全体のイージス艦への憎悪を煽り立てた。
ところが、2月22日午後(現地時間)、米国領サイパンで三浦が逮捕され、それが翌23日に米ロス市警によって発表されると(共同通信2008年2月23日付「三浦容疑者を逮捕 妻の一美さん殺害容疑」、読売新聞Web版2008年2月24日「『ロス疑惑』の三浦元社長、27年を経て米で逮捕」)、一転してイージス艦事故はTVのトップニュースの座から転落し、代わってロス疑惑が数十年ぶりに「王座」を奪回することとなり、それは少なくとも数日間は続いた。それ以降、日本国民の関心はイージス艦事故とロス疑惑の2つの大事件に分散し、国民の怒りは(事故後の防衛省・自衛隊幹部の対応のまずさには向かったものの)イージス艦自体へは向かわず、MD見直し論議が起きることもなかった
このためか、日本で6隻目のイージス艦「あしがら」(あたごと同型)の引き渡し式は、2008年3月12日に三菱重工長崎造船所で平穏無事に行われた。当日、造船所にTVカメラが殺到することも、「漁船との衝突を回避できなかったイージス艦の性能には問題がないか議論されています」などというコメントが放送されることもなかった(NHKは引き渡し式のニュースを当日午後の九州地方のローカルニュースとして扱い、地上波では全国放送しなかった)。
【2008年現在、あたごとあしがらにはミサイル探知能力はあるが、ミサイル迎撃能力は実装されていない。】
またしても、ロス疑惑は、日本の重要な国策を救った形になった。これは単なる偶然か。
三浦逮捕のためにロス市警が「2〜3年前(2005〜2006年頃)から本格的な捜査に着手していた」という市警当局の発表(共同通信2008年2月26日付「三浦和義容疑者を2、3年前から捜査 ロス市警会見」)は信じ難い。なぜなら逮捕の仕方が周到に準備されたものではなく、「ドタバタ」だったからだ。
ロス市警はイージス艦事故の3日後の2月22日、20年前の1988年にロス郡地裁が出した逮捕状で三浦を逮捕したものの、その逮捕状は(その発行日の古さから?)郡地裁によって2月25日に無効とされ、あらためて同日発行し直した新しい逮捕状に差し替えられていた(共同通信2008年3月10日付「ロス事件、88年逮捕状は『取り消し』 弁護側主張」)。
2〜3年前から本格捜査に着手していたのなら、有効性に疑問のある古い逮捕状であわてて三浦の身柄を拘束することはないはずであり、「不当逮捕」と言われかねない手段まで使って、「とにかく米国の捜査権のおよぶ米国領内にいる間に身柄をおさえておけ」と言わんばかりにロス市警が逮捕を焦ったのを見れば、「新証拠がある」という市警当局の主張もハッタリと疑わざるをえまい。
【大事件を同時に2つ以上ぶつけて国民の関心を分散させる、という世論操作の手法がどれほど効果があるのかは、正直なところ筆者には、はっきりとはわからない。2008年2月のイージス艦事故における防衛省幹部への国民の批判は、同月の三浦のサイパンでの逮捕後も、完全には消えていないからだ。しかしながら、1988年11月の政府・与党(当時は自民党単独政権)が、消費税法案の衆議院特別委員会での単独強行採決を、三浦の起訴と同じ日に行っているところから見て、すくなくとも一部の為政者には、この手法は効果があると信じられている、と考えられる。「何もしないよりはマシ」と思っている政治家が少なくないのだろう。】
●疑惑は疑惑のまま●
それなら三浦は、日米の国家権力によって世論操作の道具にされたかわいそうな犠牲者であり、「善良な一市民」かというと、もちろんそんなことはない。
彼が日本で無罪判決を受けたのは銃撃事件のみであり、殴打事件のほうは有罪であり、「保険金目当てで妻を殺すという意図をもって実行犯(元女優Y)に妻を殴らせた」のは間違いないからだ(銃撃事件の無罪判決も、意地悪な言い方をすれば、「日本の警察検察の捜査が有罪を立証するには不十分だった」という意味でしかない)。
保険金のかかった彼の妻を銃撃する動機を持つ者は、世界中に数えるほどしかおらず、そのうちもっとも強い動機を持つのが保険金の受取人である彼なのだから、彼を真犯人と疑うことには依然として合理的な理由がある。
すくなくとも、米司法当局はそう思ったからこそ、2008年2月に三浦を逮捕したのだ。
一度日本の法廷で無罪の確定判決を受けた三浦を再度、米司法当局が起訴して米国の法廷で裁けるかどうかはの判断は、いずれ米カリフォルニア州の法廷が判断するだろうから、そちらに任せるとして、小誌は、ほんとうに銃撃事件の犯人(首謀者)が三浦自身であるかどうかを見極めたいと思った。
もちろん2008年4月現在、日本のマスコミ関係者ならだれでもそう思っているだろう。が、小誌は、マスコミ関係者がほとんど注目しないある資料に注目し、それから浮かんだ仮説を三浦本人にぶつけてその反応を見る、という手法をとることにした。
その資料とは、1988年の朝日新聞に掲載された、三浦が愛読していた小説のリストである。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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