NHK「民営化シフト」か

 

〜分割も

スクランブル化も

視野?

 

(Jan. 07, 2008)

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■NHK「民営化シフト」か〜分割もスクランブル化も視野?■

 

2007年12月31日放送のNHK『紅白歌合戦』における変化を見ると、NHKが近い将来「分割民営化」か「有料スクランブル放送化」に至る可能性のあることが窺える。

 

 

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■NHK「民営化シフト」か〜分割もスクランブル化も視野?■

 

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【前回「『星野JAPAN 2.0』はあるか〜シリーズ『北京五輪野球アジア最終予選』(3)」は → こちら

 

昨2007年の大晦日の新聞に、NHKは今年から3年がかりで『紅白歌合戦』を再生させる計画(『紅白』再生プロジェクト?)をスタートさせ、その一環として、歌の持つメッセージ性(NHK用語で「歌力」、うたぢから)を重視し、応援コントなどの過剰演出は抑えることを決めたという趣旨の記事が載っていた(産経新聞2007年12月31日付朝刊20面「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”復権へ3年計画」)。

 

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毎年大晦日に放送されるNHKの看板番組である『紅白』の視聴率をNHK経営陣はかなり気にしている。が、その一方で、『紅白』の制作現場のスタッフが出場歌手の「応援」と称して、歌の合い間にお笑いタレントを「乱入」させたり、大勢の出場歌手を動員してコントやゲームなどのくだらないパフォーマンスをさせたりすることは、視聴者の不評を買っており、『紅白』の視聴率低下(関東地区では1963年の番組全体平均81.4%から2006年の第2部平均39.8%へ、ほぼ毎年漸減中)の一因とも指摘されており(産経前掲記事)(視聴率はすべてビデオリサーチ調べ。以下同)、その「コーポレートガバナンス」(企業統治)の矛盾が露呈していた。

 

なぜこんな矛盾が起きるのか。

 

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NHK職員の知人らの話を総合して推測するなら、それはNHK娯楽芸能番組部門内の「バランス・オブ・パワー」(力の均衡)の問題だろうという結論にならざるをえない。

 

娯楽芸能番組は、ドラマと音楽・バラエティ番組とに大別されるが、ドラマの制作スタッフには、毎朝8時15分の「連続テレビ小説」(朝ドラ)と毎週日曜日夜8時の「大河ドラマ」という、2つの国民的番組、つまり高視聴率の「晴れ舞台」があり(2007年の「年間視聴率トップ50」に同年の朝ドラ『どんど晴れ』は9月7日放送回の24.8%、同年の大河ドラマ『風林火山』は2月4日放送回の22.9%という、それぞれ自己最高記録でランクインしている。産経新聞2007年12月31日付朝刊20面「年間視聴率トップ50 今年最高の瞬間、ミキティ逆転V」)。もちろん、音楽番組の制作スタッフにも『紅白』という晴れ舞台がある。

 

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しかし、バラエティ番組の制作スタッフにはこれといった「晴れ舞台」がない。NHKは多数の(音楽性の乏しい)バラエティ番組も制作し放送しているが、それらの視聴率は、朝ドラ、大河、『紅白』に遠く及ばず、とても国民的番組とも晴れ舞台とも言いようのないものばかりだ(但し、筆者の見る限り、視聴率が低くても、内容がつまらないとは限らない。『サラリーマンNEO』などかなり面白いものも少なくない)。

 

娯楽芸能番組制作陣のなかで唯一晴れ舞台らしい晴れ舞台を持たないバラエティ番組のスタッフたちはけっこう人数が多いため、彼らが一致結束して「オレたちにも晴れ舞台をよこせ」(人気タレントを大勢動員する「権力」を味わわせてくれ)という声を上げると、NHK局内では反対するのが難しかったようだ。

 

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その結果、音楽番組である『紅白』に本来関与すべきでないバラエティ系のスタッフが毎年毎年ちょっかいを出し、視聴者が思わずチャンネルを替えたくなるようなくだらないパフォーマンスが歌の合い間にだらだらと挿入される、という視聴率獲得上明らかに好ましくないことが「伝統」の如く永年続いて来た(らしい)。

 

上記の新聞記事(産経前掲記事「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”」)を見たとき、筆者は「ほんとかよ」と疑ったが、じっさいに放送を見てみると、たしかに邪魔くさいパフォーマンスはほとんどなくなっていた。どうやらようやくNHK経営陣はバラエティ番組制作陣を制圧し、『紅白』に対するガバナビリティ(統治能力)を確立したようだ。

 

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●2011年問題●

それにしてもNHK経営陣はなぜ急に「やる気」になったのだろう。また、バラエティ番組制作陣はなぜ国民的番組での晴れ舞台をあっさり?諦めたのだろう。

 

1951年のラジオ放送のみの時代から毎年続く『紅白』は1989年から放送時間枠を前に拡大し、途中にニュースをはさんで第1部、第2部に分ける形をとっており、夜7時台に始まる第1部の視聴率は(関東地区では)常に第2部の視聴率より悪いので、経営陣が問題にするのは第2部の視聴率なのだが、第2部の視聴率は2004年に初めて40%台を割って歴代最低の39.3%を記録して以降、2005年に42.9%に回復し、2006年にまた39.8%に落ちたとはいえ、ほぼ横ばいだ(ビデオリサーチWeb 2008年1月2日「NHK総合『紅白歌合戦』の視聴率」)。

 

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【但し、日本で唯一の視聴率調査会社であるビデオリサーチは、地上(波)放送の番組を(録画でなく)放送されている時刻にリアルタイムで見た世帯の視聴率しか公表していない。この理由として考えられるのは、「録画視聴者はCMをスキップして見る可能性高いので、録画視聴率では民放番組の広告媒体としての価値を測れないから」そして「地上波以外の衛星放送(BS)の視聴率は極端に低いので、それを公表すると『こんなに不人気なもののために税金を使って放送衛星を打ち上げたのか』という非難が国会などで沸き起こる恐れがあるから」だろう。おそらくビデオリサーチ(の親会社の電通)がNHKと民放に配慮して、BS視聴率や録画視聴率の公表を自粛しているのだろうと思われる(が、NHKや民放の幹部は当然、それらの数字を内々に教えてもらっているはずだ)。

が、NHKは地上波放送番組をBSでも同時、あるいは同日の異なる時間帯に放送しているので、それを加味すると『紅白』の関東地区視聴率は一度も40%を切っていない可能性が高いし、『風林火山』の関東地区年間平均視聴率は民放の他のいかなる連続ドラマよりも高い可能性がある。】

 

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とすると、とくに著しい視聴率の悪化もないのに、「3年がかりで『紅白』再生プロジェクト」を始める必要がなぜあったのか…………表向きは「再来年(2009年)の第60回メモリアル紅白を視野に入れ」た計画ということになっているが(産経前掲記事「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”」)、それなら、なぜ第50回や第55回の節目には、バラエティ系スタッフを追放する英断を下さなかったのか、という疑問が残る。

 

 

 

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計画どおりに行けば3年後、2009年末に「再生」作業が完了し、その翌年、2010年末の『紅白』は新しく確立された伝統に基づいて制作されることになるから、2007年の第1部でごくわずかに見られたお笑いタレントの登場も完全に駆逐され、純粋な音楽番組になっているだろう。そしてその約半年後、2011年7月25日までには地上波アナログ放送が停止され、地上(波)放送がデジタル放送のみになる。そうすると、NHKは放送にスクランブルをかけ「受信料を払っていない世帯には番組を見せない」ことが技術的に可能になる。

 

 

 

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この「スクランブル化」について、NHKは表向きは否定している(2008年1月現在NHK Webに掲載されている「寄せられたご意見に副会長 永井多恵子がお答えします。→ 1.NHKはスクランブル方式を導入するべきだ。」)。

 

が、それはあたりまえだ。

 

 

 

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現在、全国約5000万世帯のうち(正確には2006年3月31日時点で51,102,005世帯。総務省Web 2006年3月31日「住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数」)、受信料不払い世帯は約990万(2006年3月末時点の未契約世帯数)とも言われるが(読売新聞Web版2006年10月6日「NHK、受信料不払い世帯へ“最後通告”」)、彼らは筆者のような者が支払う受信料に「ただのり」してNHKの番組を見ている。地上デジタル放送への移行を知らせるNHKや民放各局のCMに促されてデジタルTV受信機を買った世帯のなかには当然、「タダでNHKの(地上)デジタル放送(地デジ)が見られる」と信じて受信機を買った者も相当数いるはずだ。

 

この「地デジただのり主義者」は、もし将来NHKの地デジがスクランブル化されると事前に知らされていれば、デジタル受信機は買わなかった可能性が高い。現在、NHKの地上アナログ放送のみを「ただのり」で見ている受信料不払い世帯は、デジタル放送で将来スクランブル化が予定されているとなれば当然、たとえ経済的余裕があってもデジタル受信機の購入を故意に避けると予測される。そしてそのせいで、2011年になってもデジタル受信機を購入していない世帯が著しく多いという事態になれば、国会で与野党が彼らの票ほしさに「法律を改正して、地上デジタル放送への完全移行(アナログ放送の停波)を(無期)延期すべき」と言い始めるだろう。そうなれば、NHKのスクランブル化は半永久的にできなくなるかもしれない。

 

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つまり、2008年現在、NHKが「スクランブル化したい」と言わないのは、スクランブル化をしたくないからではなくて、将来、(地上)デジタル受信機が十二分に普及して確実にスクランブル化できるようになってからスクランブル化するために、その条件が整うのを待っているから、と考えることができるのだ。

 

 

 

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この問題を考えるうえで参考になりそうな資料がある。放送行政の所管官庁である総務省が、NHKの(地上デジタルではなく)BSデジタル放送のスクランブル化に関する放送・通信業界関係者や一般視聴者から集めた意見の概要だ(総務省郵政事業庁Web 1999年1月26日「NHKのBS放送のスクランブル化に関する意見募集結果」)。これによると、BSデジタルに限るとはいえ、NHKの放送をスクランブル化することに賛成の意見は、受信機メーカーの業界団体である日本電子機械工業会や電機メーカー社員、中小事業者の放送事業への新規参入を容易にするために必要だとする匿名の放送事業者、受信料不払い世帯に対する不公平感を持つ一般視聴者や、日本ケーブルテレビ連盟などから多数寄せられている。

 

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反対意見も多数あるが、そのうち「デジタル放送とアナログ放送の視聴者の負担の仕方が異なることは、無用の混乱をもたらす」という類の意見(NHK、テレビ朝日)や、「地上放送は受信料、BS放送は有料スクランブル放送となれば……NHKの受信料制度が変質し……NHKの商業化(民営化)に道を開く」とする意見(日本民間放送連盟)は、2011年7月のアナログ停波以降は意味がなくなるので無視してよかろう。

 

 

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(地上波)民放各局のほかの反対意見の大半は、要するに「商業化(民営化)した、強大なNHKと(CMスポンサー獲得)競争をさせられたんじゃたまらない」という、視聴者のためではなく、わが身のための意見であり、これは、民放各局以外の当事者、すなわちNHK、総務省、国会の与野党や視聴者の大半が地上波を含むNHK全体のデジタルスクランブル化に合意すれば(2011年7月以降は)あまり問題にならないだろう(というか、デジタル録画機、DVRの普及でCMスキップが蔓延する時代に、わざわざNHKがスキップされるものの獲得競争に乗り出すとも思えない)。

 

 

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反対意見のうち唯一視聴者の立場に立ったものは、「災害時の緊急放送を流すという公共性を考えると、NHKはスクランブル化すべきでない」という意見だが、それを言うならそもそもデジタル化などすべきでない。なぜなら(後出のCS放送の場合はアナログでもそうだが)デジタル放送ではBSでも地上波でも、電波をエンコード(暗号化)して送信し、家庭で受信したあと受信機内でデコード(解読)してから画面に映し出すため、必ず数秒間のタイムラグが生じるからだ。この数秒間の遅れは、一刻を争う地震や津波についての情報伝達の緊急性を考えると、「致命傷」になりかねない。

 

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【放送関係者が、元々災害緊急放送に向かないデジタル放送を、視聴者の希望も聞かずに勝手に推進しておいて、NHKの商業化(民営化)が取り沙汰された途端に「災害時に向かないからスクランブル化するな」などと急に「人命尊重」のような意見を言い出すのは、明らかに偽善である。】

 

 

 

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そんなに災害が心配なら、NHKを「分割民営化」して、そのうち「NHKニュース専門チャンネル」(あるいは、あまり面白くない番組ばかり流す「NHK総合チャンネル」)のみを受信料すら徴収しない完全無料のスクランブル放送にし、他のNHKチャンネルにスクランブルをかければいいではないか。

 

いずれにせよ、2011年7月25日のアナログ停波以降は、NHKがスクランブル化してはいけない理由は、視聴者、国民の立場で考えればほとんどないのだ。他方、スクランブル化すべき理由としては、2008年現在、受信料不払い世帯の増加による負担の不公平という現実が厳然と存在する。

 

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極端な言い方をすれば、NHKは、2008年の現時点では、受信料不払い世帯が少々増えても、彼らが(だまされて?)地上デジタル受信機を買ってくれる限り、かまわないと思っているかもしれない。なぜなら、2011年7月以降は、不払い世帯に「あかんべえ」をして「受信料を払わないやつには見せないぞ」と堂々と言える条件が整うからだ。

 

 

 

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NHKの職員たちは永年、税金にもスポンサーからの広告収入にも依存しない、政府や企業から完全に自立した独立性の高い番組作り、つまり「言論の自由」を謳歌して来た。

 

大河ドラマや朝ドラの制作スタッフは「CMを入れる時間」を気にすることも「スポンサーのイメージダウンにつながるセリフ」を書くのを我慢することもなく、やりたいようにやって来た。報道番組のスタッフも同様で、日立、東芝などのITゼネコンが永年地方自治体のITシステム構築受注の際(互換性の低い独自OSを押し付けてメンテナンス業務を独占受注して)不当に儲けて来た実態を告発した『クローズアップ現代』(2005年1月18日放送の「自治体 vs ITゼネコン」)や、韓国の一流企業サムスン電子の半導体製造技術が東芝の「パクリ」であり、韓国の「独創技術」のレベルが相当に低いことを暴露したNHKスペシャル『日本の群像 再起への20年(8)』(2005年12月25日放送の「トップを奪い返せ〜技術者たちの20年戦争」)は、東芝やサムスンをCMスポンサーとする可能性のある民放には制作不可能だろう。

 

NHKの職員たちはこの制作体制を維持したいはずで、不払い問題を解消しつつこの体制を守るには、(後出のCS放送のように、CMと受信料の両方に依存するのではなく)スクランブル化によって徴収する受信料のみを主要な財源とするシステムに移行する以外に、選択の余地はあるまい。

 

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 (敬称略)

 

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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