東京地検 vs. 公明党
〜福田首相退陣は
政界大再編の
前兆?
■東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆?■
東京地検特捜部は2008年中にも、新銀行東京の不正融資に関与した容疑で公明党関係者多数を逮捕する可能性がある。公明党はその前に衆議院の解散・総選挙をやらせるために、給油法案に反対して福田康夫首相を退陣に追い込んだが、いま(2008年9月)から1年後の与党は「自公」ではあるまい。
■東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆?■
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【前回「星野続投反対!!〜シリーズ『北京五輪』(4)」は → こちら】
小誌は安倍晋三政権発足前の2006年9月の時点で「次に福田康夫を首班とする2年限定の『暫定』政権ができる」と予言(でなくて科学的に予測)していたので(小誌2006年9月18日「ポスト安倍〜10か月後に『2年限定政権』へ」)、福田政権が短命でもさほど驚かないが、それでも1年で終わるとは思っていなかったので、2008年9月1日の福田首相の辞任表明は、エイプリルフールが9月1日に移ったかと思うほど驚いた。
●公明党の「給油法案」妨害●
なぜこんなことになったのかと考えてみると、その直前に、福田首相(自民党総裁)に対して、自民党と連立政権を組む与党、公明党が、少数政党のくせに急にかなり「生意気」になっていたことに思い当たる。
安倍は2007年9月の日米首脳会談でジョージ・W・ブッシュ現米大統領から「拉致問題で協力してほしかったら、テロ特措法に基づくインド洋上での米軍などの艦船への海上自衛隊の給油活動を、切れ目なく継続してくれ」と要求され、民主党が同法案の延長に反対する中、安倍自身が無責任に臨時国会の召集時期を9月にまで遅らせ、同法案が期限切れになる11月までに延長法案が成立するように国会会期を設定できなかったことが原因で退陣した(小誌3007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」)。
当時もいまも、連立与党は2007年夏の参議院通常選挙に惨敗した結果として参議院では過半数を持たないものの、衆議院では2/3以上の多数を持っているので、憲法59条の規定により、衆議院で延長法案を可決して参議院に送ってしまえば、それが参議院で否決された場合はもちろん(憲法59条第2項)、その後60日間参議院で採決されなくても、衆議院で再可決して成立させることができる(59条第4項の「60日規定」)。
つまり、安倍が2007年8月上旬に早々と臨時国会を開いてさっさと延長法案を衆議院で可決しておけば、11月の期限切れまでに同法案を成立させて、切れ目なく給油活動をすることは簡単にできたのに、無能で無責任な安倍はそうはしなかったのだ。
その安倍が、その無責任さを米国に突かれて退陣したあとに出て来たのが福田政権なのだから、福田にとって、テロ特措法の延長が失敗したあと、給油活動を再開させるために作った法案「給油法案」は何よりだいじなはずだ。安倍と違って日米同盟を重視する福田は、テロ特措法と同じ趣旨で1年ごとの時限立法になっている給油法案を2009年1月の期限切れ前に、衆議院で連立与党が持つ2/3以上の議席を使って延長すべく、臨時国会を8月中に召集して会期を90日とし、開会から30日以内に給油法案を衆議院で可決して、「60日規定」を使って(2/3の再可決で)成立させようと考えた。
ところが、公明党は、給油法案の延長継続に反対し、衆議院で公明党が賛成しなければ2/3に達しないことを背景に、臨時国会の召集を9月12日に遅らせ、会期を70日に短縮するように自民党に求め、むりやり呑ませてしまった(共同通信2008年7月23日「対テロ法案先送り検討を 公明幹部、来年通常国会へ」)。
臨時国会の開会冒頭には、首相の施政方針演説や各党幹部の代表質問が行われることになっており、9月下旬には日本の首相は国連総会で演説する予定もあるので、たとえ9月12日に召集しても、給油法案の延長法案の審議入りは、会期が20日近く経過したあとの10月上旬になると予想された。つまり、70日の会期では憲法59条(の「60日規定」)を使った延長法案成立のメドは立たないのだ。
公明党が(2008年1月の給油法案には賛成したくせに)2008年7月になって急に反対し始めたのはなぜか。
これには諸説あって、「公明党は元々、宗教法人の創価学会を支持基盤とする『平和の党』であって、軍事活動の法案に賛成したくないから」などという偽善的なタテマエ論から、「長く国会を開いていると、創価学会の腐敗を告発する矢野絢也(じゅんや)元公明党書記長を民主党が国会に参考人招致して『宗教の政治介入』を追及される恐れがあるから」というホンネに近いと思われる説までが語られている(産経新聞Web版2008年8月19日「元公明党委員長・矢野問題 『徹底追及』を指示、民主・小沢代表」)。
●新銀行東京スキャンダル●
しかし、公明党にはもっと特異な事情があったように思われる。
2008年3月、石原慎太郎東京都知事の発案で2005年に設立された「新銀行東京」が、巨額の赤字を抱えて破綻寸前であることが判明し、その原因として東京都議会議員たちの紹介による(地元選挙区の中小零細企業への)融資、いわゆる「口利き融資」が取り沙汰された。そこで、読売新聞が都議全員に「口利き」をしたかどうかアンケート調査をしたところ、自民党6人、民主党2人のあわせて8人の都議が口利きを認める回答をしたが、公明党都議は22人全員がアンケートへの回答を一切拒否した(読売新聞2008年3月21日付朝刊39面「新銀行東京の都議アンケート 再建計画、自民も懐疑的 『十分可能』2人だけ」)。
新銀行東京は慎太郎の発案で生まれたが、べつに「トップダウン」で決まったのではない。都民の税金を原資に「都営銀行」を設立するには、そのための予算案が都議会が可決されなければならないからだ。そして、2005年の設立前の都議会で、設立を認める予算案、条例案に都議会の自民党、公明党、民主党が賛成している。
その後、民主党は慎太郎(息子2人は自民党国会議員だが、本人は無所属)と距離を置き、2007年の都知事選では、慎太郎を支持せず対立候補を立てた。が、少なからぬ民主党都議会議員はかつては自民党、公明党の都議とともに「石原与党」であり、新銀行東京の設立(2005年4月)に賛成したことを自らの手柄として、設立3か月後(2005年7月)の都議会議員選挙で有権者に訴えていた。
その際、自公民3党の少なからぬ都議、および衆参両院議員が自らの支援者に「新銀行を紹介できる」と請け合い、実際に融資を斡旋(あっせん)した、という自民党衆議院議員の暴露証言がある(『サンデー毎日』2008年3月30日号 p.p 26-28「都議選向け『デタラメ口利き融資』が浮上 『ゴーマン石原銀行』は即刻退場せよ!」)。
【このほかに、慎太郎知事(無所属)周辺の秘書ら側近や、知事の息子の宏高衆議院議員(自民党)による口利きも少なくない、という週刊誌報道もあった(『週刊朝日』2008年7月17日号 p.p 17-22 「内部記録は語る『石原都知事ファミリー』 『口利き案件』 追及、新銀行東京」)。】
筆者は、2008年3月当時、これらの報道を見て思った、
「もし東京地検特捜部がこの口利き融資に違法性を見出して本気で摘発すれば、自公民3党の都議、国会議員が多数逮捕されて3党とも国民の支持を失うから、口利きに関与した議院が大量に離党するか、口利きに関与しなかった『潔白な』議員たちが離党して新党を作るしかなく、結果的に『政界再編』が実現するだろう」と。
2007年秋頃、筆者が福田政権の実現に尽力した永田町関係者Zに会った際、Zは、2007年夏以来の、衆参両院で国会の多数派が異なり、法案が容易に通らない「ねじれ国会」の現状について、「答えははっきりしてるんだ。もう政界再編するしかないだろう」と言っていた。
Zは検察にもパイプのある人物である。
2008年にはいって、上記の新聞や週刊誌の報道を読んだ筆者は「それなら、検察に頼んで、新銀行東京の口利き融資を摘発してもらえばいいいではないか」と思った。が、同時に、それは無理だろうとも思った。
慎太郎が2007年の都知事選立候補に際して「2016年夏季五輪の東京招致」を公約に掲げて(連続3期目の)当選をはたしているからだ。彼は2007年以降、公約どおり、五輪招致活動を活発化させ、2008年6月、東京都は国際オリンピック委員会(IOC)から、施設面などで最高の評価を得て正式に候補都市に選ばれた(JOC Web 2008年6月4日「2016年オリンピック招致活動の紹介」)。
五輪招致の中心人物が都知事であることはだれの目にも明らかなので、検察(政治家の汚職をおもに担当する東京地検特捜部)が、慎太郎を逮捕すれば、それは全世界のスポーツ関係者に衝撃的なニュースとして流れ、その瞬間に東京五輪実現の可能性はなくなる。
五輪には国威発揚から経済振興までさまざまな「国益」がつきまとうので、検察は自らの一存でその可能性を断つことを躊躇するのではないか…………というか、慎太郎は検察が国益を考えて逮捕を逡巡することを期待して、いわば「五輪招致を人質にとる」ことで、自らの逮捕を免れようとしているのではないか。
2016年夏季五輪の開催地は2009年10月、コペンハーゲンで開かれるIOC総会の投票で決まる(JOC Web 前掲記事)。したがって、東京地検特捜部が慎太郎や自公民3党の議員を逮捕するのは2009年10月以降だろう、と筆者は思っていた。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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