東京地検 vs. 公明党
その2
〜福田首相退陣は
政界大再編の
前兆?
■東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆?■
東京地検特捜部は2008年中にも、新銀行東京の不正融資に関与した容疑で公明党関係者多数を逮捕する可能性がある。公明党はその前に衆議院の解散・総選挙をやらせるために、給油法案に反対して福田康夫首相を退陣に追い込んだが、いま(2008年9月)から1年後の与党は「自公」ではあるまい。
●検察リーク●
ところが、地検は、東京五輪招致の可否が決まる前に、新銀行東京スキャンダルの摘発に乗り出す意志を固めたらしい。
2008年9月になって、同スキャンダルについて「検察リーク情報」としか思えない記事が、大手マスコミに相次いで登場したからだ。
1つは、読売新聞の記事。
公明党の現職都議と元都議が、2005〜2006年に、それぞれ破綻寸前の中小企業を新銀行東京に紹介して、その見返りに政治資金などの報酬を受け取って融資を実現させたが、2つの企業は融資を受けたあと事実上破綻してしまった、という(読売新聞Web版2008年9月4日「公明都議、献金後融資口利き…元都議は相談役報酬100万円」)。
もう1つは、『週刊朝日』の記事。
公明党の都議、元都議、国会議員らあわせて35人の200件以上におよぶ口利き融資の実態を、一部(約70件)の具体例を挙げながら告発している(『週刊朝日』2008年9月12日増大号 p.p 150-155 「公明党の『口利き案件』」)。
読売新聞と『週刊朝日』の上記記事の担当記者には失礼だが、筆者は、上記の2つの記事は元々記者が自力で「発見」したニュースではなく、同じ情報源、すなわち地検特捜部からリークされた情報に基づく記事であろうと推定する。
理由は、2つの記事が極めて不自然に、公明党の「邪悪さ」のみを強調しているからだ。
口利き融資の斡旋は、中小企業を支持基盤とする政治家ならだれでもやることで、そういう政治家は、自民党にも公明党にも、数は少ないが民主党にもいる。それなのに、上記の記事は2つとも、自民党や民主党の政治家についてはひとこともふれていない。
とくに怪しいの『週刊朝日』だ。
「(新銀行東京の)内部データによれば、600件超ある“口利き”案件のうち、公明党関係者による件数は200件を超えている。実に3件に1件の割合なのだ」(『週刊朝日』前掲記事 p.150 )などと、いかにも公明党が諸悪の根源のように書いているが、単純な引き算でわかるとおり、公明党以外の政治家が斡旋した口利き融資案件は約400件もあるのだ。もしそのうち300件が自民党関係者によるものなら、最大の悪党は自民党ということになるではないか。
ところが、どういうわけか、両記事ともに自民党政治家の「口利き」の違法性や摘発の可能性には一切ふれていない。
両記事の担当記者が自分の足で歩きまわって新銀行東京の問題を調べた結果、たまたま偶然、公明党関係者に限っては、具体的に贈収賄や政治資金規正法違反で摘発されそうな案件ばかりがみつかり、自民党関係者の摘発されそうな案件は1つもみつからなかった、ということか…………そんな偶然があるわけはない。上記の2つの記事は、それぞれの担当記者の取材の成果ではなく、単に東京地検特捜部の「捜査の方針」を告げているだけではないのか。
【検察が、東京五輪招致の中心人物である慎太郎の逮捕につながりかねない新銀行東京のスキャンダル摘発を、2016年夏季五輪開催地を決めるIOC総会の前にもやろうと決めた理由は、2008年夏の東京の気象が影響しているかもしれない。
東京五輪開催が決まった場合は、日本は開催国特権で野球とソフトボールを正式協議に戻すだろうし、その場合は東京ドームや西武ドームを使って野球を開催するだろうが、他の屋外競技はどうするのだろう。ソフトボールは雨が降れば中止だし、陸上競技とサッカーは雨が降ってもやることになってはいるものの、2008年夏に東京に限らず日本中で猛威を振るった、落雷を伴う「ゲリラ豪雨」に襲われた場合は、おそらくまともに競技を実施することはできまい。現に、2008年7月29日に東京で行われた北京五輪サッカー日本代表の壮行試合(対アルゼンチン五輪代表戦)は、後半39分、雷雨のため中止されている(スポーツナビ2008年7月29日「試合速報/詳細 U-23日本 対 U-23アルゼンチン - キリンチャレンジカップ2008」)。
つまり、現在の気象条件では、東京で夏季五輪を開催しても日程の維持が困難になるので、開催自体が極めて難しいと推測されるのだ。
検察当局はこのことに気付いたので、五輪招致を無視してスキャンダルの摘発に動いたのかもしれない。
が、すぐに慎太郎が逮捕されるかどうかまでは、現状では判断できない。】
●大連立騒動の背景●
2007年12月、「ねじれ国会」で法案が通らない膠着状態を打開するため、福田康夫首相は民主党の小沢一郎代表と会談し、衆議院の与党第一党の自民党と、同じく衆議院の野党第一党の民主党が連立政権を組む「大連立構想」で合意した。が、小沢が合意内容を民主党に持ち帰ったところ、民主党内部の反発を買い、結局この構想は挫折した。
当時から、この「大連立劇」をプロデュースし、福田と小沢の党首会談を実現させた黒幕として名前が挙がっていたのが、ご本人がTVなどで告白したこともあって、渡邉(渡辺)恒雄・読売新聞グループ本社会長、前回も小誌に登場したご存知「ナベツネ」だった(産経新聞Web版2007年12月22日「読売・渡辺恒雄氏『大連立の動き出てくる』」)。
「大連立」というのは、自民党が公明党を棄てて民主党との連立に乗り換えるという意味である。
そして、新銀行東京のスキャンダルが初めてマスコミに登場したのが2006年末なので、おそらくそれ以前に東京地検特捜部は、新銀行東京スキャンダルが立件可能であることも、立件した場合政界への影響が甚大であることもわかっていたはずである。
2006年末に発売された『週刊現代』の記事は、上記の読売新聞や『週刊朝日』の記事と違って、はっきり検察情報と断ったうえで、「新銀行東京スキャンダルは、横領や背任などの罪状が適用し難い事案なので、前例のない法解釈を行ったうえで『前例のない態勢』を敷いて臨むことになる」という趣旨の予測を述べているからだ(『週刊現代』2007年1月6-13日合併号 p.37 「石原慎太郎“都政私物化”に新疑惑」、小誌2007年2月1日「石原慎太郎不出馬?〜逮捕を恐れて07年都知事選を辞退か」)。
おそらく、読売グループは、ナベツネが大連立工作の仲介に乗り出した2007年12月の時点で、検察が新銀行東京スキャンダルの捜査方針を「公明党関係者を中心に立件する」と決めたことを知ったのではあるまいか。そう知っていたからこそ、ナベツネは、大連立という名の「公明党はずし」による政界大再編を画策したのではあるまいか。
【つまり、大連立の真の黒幕は検察であって、ナベツネは単なる「パシリ」なのではあるまいか。】
検察当局、とくにその政治家逮捕の「実行部隊」である東京地検特捜部は、極めて恣意的に権力を行使することで知られている。1970年代には、米ロックフェラー系の国際石油資本を怒らせる形で、産油国から日本への石油直接輸入や、石油に代わる代替エネルギーとしての原子力開発や、オーストラリア(豪州)でのウラン開発を推進した田中角栄元首相を、「米国議会に間違って配達されたロッキード社の内部資料」をきっかけに米国で惹起された航空機輸入スキャンダル、「ロッキード事件」で強引に立件し、角栄を日米関係維持のための「人身御供」に差し出したことがある。
【航空機輸入問題で、角栄を有罪にするには、輸入問題への角栄の関与を証言した米国人の嘱託尋問調書(日本の法廷にいる角栄被告の弁護人が反対尋問することが許されない状態で行われた、日本司法当局の嘱託による米国法廷での尋問の調書)の証拠能力、民間航空会社の輸入機種選定に関与できる首相の職務権限、その代価としての賄賂の現金授受、の3つがすべて法的に確認されなければならない。が、日本のどの法律家の目で見ても嘱託尋問調書には証拠能力はなく、首相が民間企業にいちいち「これを輸入しなさい」と支持する権限があるはずもなく、これを有罪にするには、検察官の恣意的告訴と、(米国諜報機関による)裁判官への脅迫が必要だ(一審の東京地裁で審理中、裁判長が心臓発作で死亡している)。】
上記の如く、日本の検察当局は単なる司法機関ではなく、日本の外交や安全保障などの国益を、よく言えば熱心に、悪く言えば勝手に考えて、捜査や起訴に手心を加えるという、特異な性質を持っている。その特質が端的に現れたのが、2007年6月に暴露された、緒方重威(しげたけ)元公安調査庁長官(元検察官)による朝鮮総連本部不動産購入に対する検察捜査だ。
日本の政官界には、北朝鮮の中国に対する攻撃を実現させることによって、日本の末永い安全保障を確保しようという「中朝戦争賛成派」がおり、緒方はその1人と考えられるが、日朝復交後(というか、日朝同盟成立後)の北朝鮮大使館に転用する予定になっている朝鮮総連本部の土地建物の所有権を保全するために、いわゆる「朝銀不正融資問題」で総連本部の土地建物が競売にかからないように自分で買い取っていたのだ(小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」、同10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」)。
永田町・霞が関関係者に聞いてみると、実はこの事件には、緒方以外に黒幕がいるのだが、検察はその人物に対してまったく捜査も逮捕も起訴もする気がない。検察は、将来日朝同盟を結ぶ際に役に立つ、北朝鮮とのパイプを持った人物を社会的に抹殺する気はないのである(ちなみに、検察当局は、「北朝鮮による日本人拉致問題」は現在および将来の日本の国家全体の安全保障に関係ないので、ほとんど無視している。小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」、同7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」)。
●公明党憎し●
それにしても、検察はなぜ、公明党だけを狙い撃ちにするような、不公平な捜査方針を立てたのだろう。
もしかすると、自公民3党のすべてから大量の逮捕者を出すと、日米同盟や自衛隊や治安機関をきちんと運営できるまともな政党がなくなってしまうと危惧したからかもしれないし、あるいは、新銀行東京スキャンダルの余波によって、「中朝戦争賛成派」の、地政学のわかる(自民党か民主党の)まともな政治家が巻き添えで失脚すると困ると思って、かばうことにしたのかもしれない。
しかし、公明党が目の仇にされた最大の理由は公明党の党組織のあり方にあるのかもしれない。
自民党や民主党保守派の政治家が行う「口利き」はあくまで個人の問題だ。保守政治家とはそういうもので、自民党員だろうが無所属だろうが、地元選挙区の有権者から、銀行融資に限らずさまざまな問題で陳情を受けると「票を得るためにはなんとかしてやらなければならない」と思うものなのだ。これは、党組織の指示など関係なく、政治家や政治家の秘書の個人的判断で行われる。
ところが、創価学会というただ1つの支持団体によって動かされる公明党の場合は、やや事情が異なる。たしかに、政治家個人が地元選挙区の有権者の陳情を受けて「口利き」をする場合も多いのだが、このほかに、公明党本部が行う「党組織ぐるみの口利き」もあるのだ。
『週刊朝日』(にリークされた検察情報?)によると、公明党の都議や国会議員でなく、公明党本部の機関、政調会が仲介した「口利き融資」案件が「5件以上10件未満」確認されている(『週刊朝日』前掲記事 p.152, p.155)。
これは公明党だけ「トカゲの尻尾切り」ができないことを意味している。
自民党や民主党は、たとえ何人都議や国会議員が逮捕されても「政治家個人の問題」としてその政治家を除名すれば党組織を守ることができる。が、公明党の場合、公明党政調会の斡旋した案件が司法当局から不正融資とされた場合は、即党全体の問題になり、太田昭弘代表ら党幹部の責任問題になる。
したがって、その場合は、いくら公明党(の支持母体の創価学会)が、全国に800万とも言われる組織票を持っていようと、当分の間、公明党は自民党、民主党のいずれとも連立政権を組むことができない。
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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