イラク戦争は成功
その2
〜シリーズ
「究極の解決策」
(3)
■イラク戦争は成功〜シリーズ「究極の解決策」(3)■
ジョージ・W・ブッシュ現米大統領は、基軸通貨としての米ドルの価値を守り抜いた大統領として、遠い将来、米国民から高く評価される可能性がある。
●わざと治安悪化?●
戦後の治安維持がうまく行った場合、米軍としては、かつて日独伊韓に対してそうしたように「せっかく苦労して占領(進駐)したんだから、この際占領地に恒久的な米軍基地を造ろう」と考えるに決まっている。米軍(米国防総省)といえども「役所」なのだから、一度手にした既得権や縄張りはそう簡単には手放さない。
そのうえ、戦後の占領地の治安がよければ、第二次大戦終戦直後の日本などでそうであったように、被占領国の国民に「親米感情」が生まれ、それが米軍のイラク駐留を長引かせる口実として、米国防総省の役人に利用される可能性すらある。
が、そうなると、諸外国は「米国がイラク戦争を起こした目的の1つはイラクに軍事基地を造ることであり、ユーロ決済の妨害は必ずしも重要な問題ではなかった」と解釈してしまう。
米国としては、そういう誤解は防ぎたい。米国がイラク戦争を起こした理由はただ1つ、貿易の決済通貨がドルからドル以外の通貨に替わることを防ぐためだった、と世界中の権力者に知らしめるためには、米軍は戦後なるべくすみやかにイラクから撤退する必要があり、そのためにはイラク国民のあいだの反米感情が強いほうが、戦後のイラクの治安が悪いほうが、いいのだ。
もしも戦後の治安維持がうまく行って、その結果として開戦を主導した共和党が2008年の大統領選に勝ってしまうと、「戦果」である米軍のイラク進駐(占領)はそう簡単にはやめられないから、進駐はしばらく続く。その場合、米国政府は「われわれはサダムの独裁政権を倒してイラクを民主化しつつある」と言えば、国内的には支持を得られる。しかし、対外的には「でっち上げの証拠で戦争をした侵略国家」のそしりは免れず、間違っても「人権」を口実にした中国への経済制裁などできない。
が、イラクにおける米国の戦後処理が悪ければ悪いほど、米国内では米軍のイラクからの撤退を求める世論が高まり、イラク戦争の際に与党でなかった民主党への支持が高まる。そうやって、2008年の大統領選で、女性または黒人の民主党候補が勝って、選挙で示された民意に従って米軍がイラクから撤退すれば、米国はふたたび「正義」の国に戻ることができるから、人権を口実になんでもできる。
そのうえ、基軸通貨としてのドルの地位は、共和党政権時代にブッシュが「汚れ役」を引き受けて守ってくれたので、安泰だ。2009年に発足する民主党政権下では、もはやドルがユーロに取って代わられる心配はなくなっている。
共和党と民主党は末端、いや、大部分の党員や支持者のレベルでは角突き合わせて対立しているのかもしれないが、おそらく最高幹部クラス同士はちゃんと話が付いていて、対立などしておらず、単に対立に見せかけた「役割分担」をしているだけではないのか。
筆者は小誌上で、福田康夫政権を作った黒幕は、政治家でも財界人でもなんでもない、Qという市井(しせい)の一個人だという事実を暴露したが(小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権組み替えの兆候〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」)、おそらく米国にもQのような人物がいて、超党派で米国の国益を考えて、共和党と民主党、軍を含む官僚機構と財界などとの関係をコーディネートしているのではないだろうか。中国のような事実上の一党独裁国家の場合はそういう中立的なコーディネーターは不要だが、日米のような複数政党制の国では、Qのような黒幕は不可欠だろう。
●官僚機構を破壊せよ●
イラク戦争後のイラクの治安悪化には、さらにもう1つ目的があったかもしれない。それは、もっと直接的に米ドルの基軸通貨としての地位を守ることであり、そして、その見地から見る限り、治安悪化は「大成功」だったと言える。
第二次大戦後の日本を米軍が占領統治した際、米軍の対日占領当局は日本の治安や民生を安定させるため、日本の官僚機構を温存し、そのまま統治に利用した。このため、(夫が出征したあと妻子が困らないようにと考えられた)居住者の権利が異常に強い「借地借家法」(2008年現在も存続)や、戦時の食糧確保のために作られた「食管制度」(1981年廃止)など、戦時中にできた法制が戦後もそのまま、かなり永く温存された(これらの制度を作家の堺屋太一は「昭和16年体制」、経済学者の野口悠紀雄は「1940年体制」という)。つまり、占領軍が現地の官僚機構を温存すると、占領が始まる前に作られた制度や政策が占領後も生き延びるのだ。
これとは対照的に、イラク戦争後、米軍の対イラク占領当局はイラク軍やイラク警察を含む官僚機構を解体し、治安の悪化を招き、とくに終戦直後にはひどい無政府状態を演出し、バグダッド市民がイラク政府庁舎の建物に乱入して略奪をするのを許した。この結果、戦後のイラク政府には、かつて貿易のユーロ決済を研究し実践していた人材はいなくなっただろうし、彼らがそのために作成していたはずの資料や書類もほとんど散逸したに違いない。
つまり、この治安悪化によって、戦争前に行われていたユーロ決済が復活する可能性は完全になくなったのだ。
●大虐殺しても英雄●
イラクで戦死した米兵は文字どおり「国を守るために」死んだのだから、遺族は当然そのことを誇りにしていい。ただ「国を守る」といっても、「テロの脅威から守る」のではなく、「財政破綻や年金崩壊の危機から守る」ということだったのだが。
もちろん、戦争をした結果、イラク国民も米兵も大勢死んだから、それは悲惨なことだ。しかし、戦争以外にドルを守り米国の国力を守る方法がなかったのだから、おそらく2003年には、だれが大統領であっても同じことをしただろう。
イラク戦争は、左翼や反米主義者が好んで口にする「資本家(軍需産業や石油産業)が金儲けのために行った戦争」という範疇(はんちゅう)にははいらない。これはおそらく数十年後の歴史家によって「政府が、米国の庶民の暮らしを守るために、開戦理由について故意にウソをついて始めた戦争」あるいは「大統領が、米国民の心を傷付けないために、開戦理由についてウソをつき通して戦った戦争」として評価されるだろう。ブッシュは遠い将来米国史上屈指の偉大な大統領の1人に数えられる可能性すらある(織田信長だって、比叡山や伊勢長島で大虐殺をしたのに、400年後の現在英雄扱いされているではないか)。
政治とは元々そういう奥の深いものであって、戦争を単純に罪悪視して罵り倒すような、単細胞な議論にはなじまない。ほかの国にとってはともかく、米国にとっては、イラク戦争は必要であり、成功だったのだ。
●笑える反米●
筆者は先日、図書館で朝日新聞縮刷版を読んでいて、1971年8月16日付夕刊1面に、前々回紹介した「ドル時代の終幕」という見出しをみつけたとき、思わず笑ってしまった(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。
1980年代のロナルド・レーガン大統領の時代にも、彼の政権が大軍拡予算を組んで財政赤字を増大させ、一方で米国は巨額の貿易赤字も抱えていたので、「双子の赤字で、もう米国経済はだめだ」式の批判があったが、米国はそれを乗り切って、1990年代には「IT景気」を迎え、その経済力は完全によみがえっている。
米国を嫌いなジャーナリストたちは、毎年毎年「もう米国は終わりだ」と言っていれば、いつかは当たると思っているのだろうが、37年前の朝日新聞を見てもわかるとおり、そう簡単には当たらない(37年連続ではずれている)。
これはちょうど、韓国のマスコミが「食糧不足の北朝鮮は、今年の冬は無事に越せるか」などと毎年言っているのに、結局毎年無事に越しているのとよく似ている(つまり、北朝鮮の食糧事情についての韓国の報道にはまったく根拠がないのだ。小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」)。
(^^;)
まあ、500年後ぐらいには「米国の時代は終わった、と言える状況がとっくに来ている」かもしれないが、少なくとも今後20〜30年以内にはそんな事態は起きないだろう(そうならないように、共和党も民主党も迫真の演技で「共犯」しているのだから)。
米国嫌いの方々には、37年前の新聞を読んでもう一度勉強し直されることをおすすめする。
というか、ジャーナリスト諸氏は「ブッシュはバカだ」とか「オレは米国の政財界の連中と違って正しい政策がわかっている」などと軽々しく思わないほうがいいだろう。
はっきり言って、世界中のほとんどのジャーナリストより、ジョージ・W・ブッシュのほうがはるかに頭がいい。彼は米国の国益を確実に、決定的に守る方法を知っていて、「汚れ役」まで引き受けてそれを実践したが、事前にそれを見抜いたジャーナリストは1人もいなかったのだから。
【もちろん、全体のシナリオを書いたのは、Qのような黒幕か、ラムズフェルドのような軍関係者だろう。が、ブッシュの偉大さはその演技力にある。彼は、イラク戦争開戦前は善玉を、戦闘終結後は悪玉を、みごとに演じ切り、経営危機に陥った金融機関への公的資金注入など、納税者の評判は悪くとも必要不可欠な政策も自分の代で済ませて、オバマ次期大統領が「正義」に専念できる環境を整えた。ブッシュの演技のお陰で米国民は「イラク国民を大勢殺して守ったドルのお陰で生活している」という「自虐史観」を持たずに済む。】
最近、小誌読者の方々からの「この説はほんとうか」という質問メールで知ったのだが、「ブッシュはイラクの治安を『泥沼化』させて米国の威信と国力を故意に低下させ、米国が世界の覇権を握る時代を終わらせ、覇権を中国などの新興国に譲り、世界を多極化しようとしている」という説が20万人もの読者に読まれているようだ。しかも、その理由は「ウォール街の投資家が先進諸国より成長率(利回り)の高い新興諸国に投資して儲けたいから」だという(田中宇の国際ニュース解説2006年12月5日「自滅の仕上げに入った米イラク戦争」、同2008年6月28日「アメリカが中国を覇権国に仕立てる」、同8月11日「北京五輪と米中関係」、同9月30日「米経済の崩壊、世界の多極化」、同2007年2月27日「地球温暖化の国際政治学」)。
そういう説にもそれなりに根拠があるようだから、べつに珍説、奇説とまでは言わないが、しょせん「星野監督は上原を代表に選んだから負けるぞ→ほら、負けただろ」式の、あるいは「石油利権のためにイラク戦争をやったらひどいことになるぞ→ほら、なっただろ」式の、事前の先入観にとらわれたままの感情論の域を出ていない。
国際政治学者の故・高坂正尭(まさたか)京都大学教授は、筆者のような普通の学生にはゼミや講義で、民主党の前原誠司前代表にはマンツーマンで、「日本にとっては対米関係がいちばん大事」と説き続けたが、その理由が、いまあらためてよくわかる。
米国が持つ地政学的な条件、すなわち、中国などと違って、外国からの攻撃に対して世界一堅牢であるという条件が、この37年間まったく変わっていないからである。
もちろんこの条件は、今後50年経っても変わるまい。
ドルの覇権は守られた。
今後財政赤字がひどくなったら、借金の踏み倒し(米国債の償還制限)をすればいいし、ドル安(ドルインフレ)が行き過ぎたら、「二重通貨制」で古いドル紙幣を整理すればいい(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)。
米国は今後50年間、あるいは100年間、覇権国家であり続けるためにイラクで戦争をし、イラクから撤退する。
ただ、それだけのことだ。
【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】
【次回以降も、このテーマを、経済学的、地政学的見地から掘り下げ、米国の覇権が終わらないこと、および、中国が絶対に覇権国家になれないことを、引き続き証明して行く予定。】
【お知らせ:佐々木敏の小説『天使の軍隊』が2007年4月26日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、4月23〜29日の週間ベストセラー(単行本)の 総合10位(小説1位)にランクインしました。】
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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