究極の解決策

 

〜勝手にドル防衛?

 

(Nov. 27, 2008)

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■究極の解決策〜勝手にドル防衛?■

 

米国経済の衰退によって基軸通貨としての地位が危うくなって来た米ドルを、ふたたび強固な基軸通貨に戻すことは可能か。それとも、それはまったく不可能な妄想か。

 

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■究極の解決策〜勝手にドル防衛?■

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『中途採用捜査官』が2008年11月7日に紀伊國屋書店新宿本店で発売され、週間ベストセラー(文庫本)の総合20位前後になりしました。】

 

【前回「公明党の謀叛!?〜連立政権の組み替え?〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」は → こちら

 

米国経済の衰退によって基軸通貨としての地位が危うくなって来た米ドルを、ふたたび強固な基軸通貨に戻すことは可能か。それとも、それはまったく不可能な妄想か……。

 

この問題を考えるうえで参考になりそうな、米国政府の経済政策についての以下のような記事を、読売新聞は8月17日付朝刊4面に載せている:

 

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「……政権が……誕生してから戦い続けてきた国内経済の最大問題は、景気停滞(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)の克服だった。景気がさっぱり盛り上がらないのに[石油や食糧の価格を中心に]物価だけはどんどん上がるという奇妙な現象は、スタグネーションとインフレーションの二つを合わせてスタグフレーションという……むしばまれたアメリカ経済の体質を象徴している。

 アメリカの国民総生産は一兆ドルを越え……もちろん世界一位だが、この大国の活力は……しだいに衰え、とくにここ数年間は落ち目が目立った。昨年の経済成長率は実質ゼロ、しかも物価はウナギ登り。ことしも年初に政府が立てた見通しどおりの経済成長はむずかしいと、政府自身も認めている。

 アメリカは第二次大戦後の自由世界のリーダーとしてふるまってきたが、政治的に威信を保てたのは、経済力の裏づけがあったからこそだ。それが、いまではアメリカの有識者の間にさえ『アメリカの最良の日はすでに終わった』という声が聞かれるようになったのはなぜか。根源はアメリカのイラク戦争介入にまでさかのぼれる。

 ……

 戦争は最大の消費に違いないが浪費でもある……需要が落ちたので民間企業の投資意欲は衰え、新しい工場の建設や機械の設置を手びかえたので景気はいっこうにさえない。景気回復がはかばかしくないから、失業率はこのところ六%前後を上下し、労働者は働く機会を失うことにおびえている」

 

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もう1つ、同じ日付の同じ頁の、別の記事もお読み頂きたい:

 

 「……

 米国債と米国通貨は国際通貨体制の軸になっており、円やユーロといった各国の通貨は、その交換比率を米国債か米国通貨で表すことになっている。アメリカの経済力がしっかりしており、米国財政の力がたっぷりある間は各国とも……米国債を持っていても不安はなかった。ところが、アメリカがイラク戦争で膨大な軍事支出をし、世界中に米国債をバラまいた結果、米国財政の力をはるかに上回る米国債が各国の中央銀行に集まった。いわばイラク戦争でタレ流された米国債があふれているのが現状だ。

 ここから米国債不安が起きる。米国財政の力の裏付けがあってこそ[満期が来たら換金できるので]米国債の価値があるが、裏付けがなければ米国債はただの紙切れにすぎない。米国財政の力が減ったり……するたびに、米国債を売って米国通貨に代えたり、強い通貨であるユーロや円を買う米国通貨危機が起きた。

 ……国際通貨体制の軸である米国債価値の低下はアメリカの威信をそこねることになる。米国債の威信を維持するため……主要通貨国の間で米国通貨と米国債の交換[償還]に関して紳士協定が結ばれた。これは各国の中央銀行は手持ちの米国債を米国通貨に交換するようアメリカに要求しないという申し合わせだ。

 だが……アメリカ以外の国は紳士協定にいつまでもこだわっていられない。

 事実、中国やロシア、インドは昨年末からことしにかけてアメリカにに対し米国債と米国通貨の交換を要求している。こうした動きが世界的に広まれば、米国財政の力は一挙に底をつき、自由主義国家の巨人であるアメリカは、破産に追い込まれる……」

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ご感想やいかに。

なるほど、イラク戦争の泥沼化に端を発する財政赤字、経済力の衰退による貿易赤字といういわゆる「双子の赤字」の増大によって、米国の超大国としての覇権は終焉を迎えるのだ、と思われるだろう。

とりわけ、イラク戦争の膨大な戦費を賄うために米国政府が乱発した米国債が、いかに深刻な問題であるか、実感されるだろう。米国政府は米国債を日英のような先進国や、中国やロシア、インドなどの新興国に買ってもらっているが、新興諸国は先進諸国間でひそかに結ばれた紳士協定を無視して、米国政府に米国債の償還を要求し、あるいは米国債を市場で売却して米国債の相場を下落させ、米国財政を破綻させるかもしれないのだ。なるほど、米国の経済覇権は「もはやこれまで」であり、これからは中国などの新興国が世界経済を牛耳るのだ、と思われたかもしれない。

 

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が、ぜんぜん違う。

実は、上記の2つの記事は、昭和46年、1971年8月17日付の読売新聞朝刊(4面)の記事「病根深いアメリカ経済」「対外信用も破産寸前」をほんの少し書き替えたもの、なのだ。

(^o^)/~

どこをどう替えたのかというと、まず「ニクソン」など、記事の書かれた年月を連想させる語句や文をすべて消して「……」に置き換えたうえで、それ以外の部分について、以下のように語句を入れ替えた:

 

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 ベトナム → イラク

 金(きん) → 米国通貨

 ドル → 米国債

 金の保有(高) → 米国財政の力

 マルク(ドイツマルク) → ユーロ

 西ドイツやオランダ、スイス → 中国やロシア、インド

 

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新たに字句を書き加えることはほとんどしなかった。付け加えた語句は「石油や食糧の価格を中心に」「満期が来たら換金できるので」「償還」の3つだけであり、それらは[ ]で囲んで示した。

 

だから、「主要通貨国の間で米国通貨と米国債の交換に関して紳士協定が結ばれた」などという事実は存在しない。正しくは「(1971年当時)主要通貨国の間で金とドル交換に関して紳士協定が結ばれた」のだ(原文ママ)。

 

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米国の国民総生産の数字は2008年のいまとは違う(というか、現在では国力を表す指標としては国民総生産ではなく国内総生産、GDPを使う)。が、失業率はたまたまともに6%前後で、だいたい同じだ。だから、米国民の暮らしの厳しさも同じようなものだったと言えるだろう(朝日新聞Web版2008年11月7日「米失業率、6.5%に急上昇 14年ぶりの高水準」 によると2008年10月の米国の失業率は6.5%で、来年2009年中に約25年ぶりに8%台に達するという見方もある)。

 

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さて、ネタが割れたあと、皆さんはどう思われるだろうか。

2008年9月15日、150年以上の歴史を持つ米国最大級の投資銀行(証券会社)リーマン・ブラザーズが破綻し、ほかの米大手金融機関も次々に経営危機に陥っていることが顕在化して以来、世界中で「もう米国中心の世界経済体制は終わった」とか「これからは中国などの新興国が力を持つ」とか言われている。

が、同じようなことは37年前にもあったのだ。

 

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1971年当時も米国は「双子の赤字」に悩まされ、西ドイツや日本などの「新興国」の経済的台頭に脅かされて、危機に陥っていた。

当時は「金本位制」だった。第二次大戦後、圧倒的な経済力で世界中から金塊を集めた米国は、米国通貨(米ドル)を一定の比率で金(きん)と交換できる通貨(兌換紙幣)と定めたため、世界各国は「米国に品物を輸出してドルを稼げば、金と交換してもらえる」と信じて対米貿易黒字を増やすことに励んだ。

 

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つまり、西ドイツや日本にとって、貿易で米国通貨を稼いで保有することは、米国財政が保有する金塊と交換(兌換)可能な「債権」を持つのと同じであり、それは米国にとっては、いつか手持ちの金塊を差し出さなければならないという「債務」を負うのと同じだったのだ。

 

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しかし、米国経済の衰退に伴って米国の貿易赤字はあまりにも大きくなり、1971年には、もしも西ドイツや日本など諸外国が一斉に手持ちの米国通貨を金塊と交換してくれと言い出したら「債務不履行」に陥りかねない状態になった。

 

そこで、米国時間1971年8月15日(日本時間16日)、当時のリチャード・ニクソン米大統領は「金とドルの交換を一時停止する」と宣言した。これが世に「ニクソン・ショック」と言われる世界経済史上の一大事件であり、このニュースを伝えた朝日新聞(1971年8月16日付夕刊1面)はショックのあまり「ドル時代の終幕」という見出しを掲げたほどだった…………。

 

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それから、はや37年。「ドル時代」は「終幕」を迎えるどころか、いまだに続いている。 たしかに「リーマン・ショック」のあと、米国通貨は円などに対して弱くなり「ドル安」になったが、一時期ドルに代わって基軸通貨になりそうな勢いだったユーロも、つられて、いや、それ以上に値下がりして「ユーロ安」になり、必ずしもドルの「覇権」を脅かすほどの存在ではないことも明らかになった。

 

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【ユーロ圏で通貨を発行しているのは欧州中央銀行(ECB)だが、各国の金融機関を監督し、どの金融機関にいくら貸し出すべきか、破綻しそうな金融機関に公的資金を注入すべきか、といったことを判断し実行するのは、あくまでもフランスやドイツなど各国の中央銀行と財政当局である。このため、ECBには通貨政策を決定するのに必要な情報が十分に集まらない、という弱点があることが、2008年9月の金融危機で露呈した。

このため、欧州では結局「基軸通貨はドル」という認識になって、ドル需要が増し、ユーロはドルに対して値下がりした(2008年11月10日放送のNHK『クローズアップ現代』「克服できるか金融危機〜欧州の模索」における伊藤隆敏・東大大学院教授の発言)。】

 

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では、どうやって、この37年間、米国は米国通貨の覇権を維持したのか…………それは単純な話、債務の「踏み倒し」だ。

 

んなアホな、と言われるかもしれないが、ほんとの話だ。

1971年8月15日に発表された金とドルの交換の一時停止は、その後恒久的措置になった。つまり、それまで「唯一金と交換できる兌換紙幣」だったドルは、金と交換できない不換紙幣、「ただの紙切れ」になったのだ。

にもかかわらず、世界経済がドルを中心にまわるという体制はほとんど変わらなかった。金塊と交換できなくなってもドルは依然として世界貿易の決済通貨であり続け、西ドイツや日本はしぶしぶ現状を追認し、ドルを貯めこみ続けた。

 

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その後も米国の財政赤字は(1990年代後半、クリントン政権の一時期を除いて)なかなか減らなかったので、米国は米国債を大量に発行して国内外に売り出した。米国債を購入すると、一時的に手持ちのドルが米国政府に渡るが、満期が来て償還してもらえらば、額面どおりの金額(元本)が返って来るし、それとは別に利回りも得られる。そこで、日本など諸外国は貿易で稼いだドルのうち相当部分を米国債に投資して運用するようになった。もちろん米国政府は諸外国に購入してもらった米国債の代金で財政赤字を埋め、国内の経済、財政をやりくりすることができた。

 

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つまり、こういうことだ。

1971年8月15日まで、世界経済は「金との交換に裏付けられたドル」を中心にまわる、という第二次大戦後第1の体制だった。が、それ以降は「ドルとの交換(償還)に裏付けられた米国債」を中心にまわる、という第2の体制に移行したのだ。

 

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幕末、巨額の財政赤字に苦しんでいた薩摩藩は、家老の調所広郷(ずしょ・ひろさと)が主導した藩政改革によって一気に藩財政を建て直した。そうして経済力を獲得した薩摩藩は、欧米諸国から高価な武器を買い付けて武力を強化して「雄藩」となり、倒幕戦争、明治維新で主導的な役割をはたすことができた。

では、その藩財政再建の方法は何かというと…………なんと借金の踏み倒しだった。調所は、藩がカネを借りていた大坂などの豪商たちに「債務約500万両の超長期繰り延べ」(250年分割無利子返済)という事実上の「債務不履行」を強引に呑ませたあと、切腹した。

 

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どうやら、歴史上重要な役割を担う勢力は、借金(債務)を踏み倒してもいいらしい。2008年現在の日本の歴史家のなかに、幕末の薩摩藩が借金を踏み倒したことを理由に、薩摩藩(大久保利通や西郷隆盛)が明治維新にはたした功績を否定する者はいない(薩摩藩の倒幕の仕方を批判する者も、借金踏み倒しには言及しない)。同じように、1971年の米国が「金とドルの交換停止」という債務不履行を犯したことを理由に、その後の世界経済の発展に米国がはたした功績を否定する者もいない。この債務履行によって、ドルの発行額が金の保有高に束縛されることがなくなって、世界経済が拡大したのだから。

 

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さて、リーマン・ショックのあと、「100年に1回の金融危機が来た」と世界中で言われており、次なる世界経済体制、国際通貨システム、つまり「第3の体制」の構築が求められている。

では、どうすればいいのか…………答えはもう出ているではないか。1971年の例に倣って、もう一度米国が債務不履行をやればいいのだ。

 

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 (敬称略)

 

 

 

 

 

 

 

 

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