究極の解決策
その2
〜勝手にドル防衛?
■究極の解決策〜勝手にドル防衛?■
米国経済の衰退によって基軸通貨としての地位が危うくなって来た米ドルを、ふたたび強固な基軸通貨に戻すことは可能か。それとも、それはまったく不可能な妄想か。
●二重通貨制●
筆者は数年前、永田町・霞が関の事情通から面白い話を聞いていた:
「米国中心の世界経済体制を維持するなんて簡単だ。ドル安になったって、米国はぜんぜん困らない。諸外国が保有している米国債は額面がドルで書かれている『ドル建て』だから、ドル安になると……たとえば『1ドル=100円』が『1ドル=90円』になると……日本への借金が実質10%減るわけで、その分事実上の債務不履行になる。もちろん、米国債の満期償還のときには元本を払わないといけないけど、そのときはぜんぶ償還しないで、一定の比率で制限すればいいんだ(どうせ、ドル安で事実上、何パーセントかの債務不履行があるのだから、債権国が拒否しても意味はない)。そのときは、現在のドルのほかに、新ドルも発行して、それを『旧ドル』と交換する際に、国際通貨基金(IMF)への出資額か何かを基準にして国ごとに制限を付ければいい……」
と、ここまで話を聞いた時点で、この事情通は多忙を理由に筆者の前を去った。だから、肝心の債務不履行の方法については詳しく聞けなかった。その後も何度か彼にこの件でインタビューしようとしたが、時間が取れず、そのままになっている。
しかし、その後、筆者も自分なりに、米国がもう一度債務不履行を行うための「合法的な方法」をあれこれ考えてみた結果、だいたいその姿が見えて来た。
もちろん、米国がある日突然、日本や中国に向かって「あんたらが持ってる米国債は元本の半分しか償還しないよ」などと言ったら、米国政府は信用を失い、それ以降もう米国債を発行することはできない。だから、いきなり、そんな乱暴なことはできない。
とすると、やはり上記の事情通が言うように、一時的に旧ドルと新ドルと、2つの通貨を流通させる「二重通貨制」がよいように思う(「二重通貨制」は筆者の造語である)。
同時に2種類の通貨が大量に、1つの国で流通した例は過去にある。
たとえば、ドイツでは、欧州統一通貨ユーロの導入時期、1999年から2002年にかけて、事実上の二重通貨制だった。
まず、1999年1月1日に、ユーロはドイツやフランスなどのユーロ圏で銀行間取り引きの通貨として導入されたが、まだ紙幣や硬貨は発行されなかった。
紙幣と硬貨が導入されたのは2002年1月1日で、この日をもってドイツマルク(DM)の時代は事実上終わった。
が、2001年12月31日までにドイツ国内で発行、購入された切手、テレフォンカード、電車やバスの乗車券(回数券)はどうなるのか、という問題が別に存在する。
これらについて、当時のドイツ政府は以下のように決めた(Rhein Bruecke 2007年10月4日「ユーロ通貨 Q&A (改訂版)」):
#01:DMのみで額面が表示された切手は2002年6月30日まで使用可能。
#02:その後、額面50DMまでの切手は、7月1日〜9月30日までは、ドイチェ・ポスト営業所(郵便局)の窓口で交換可能。10月1日以降はフランクフルト中央切手交換所だけで交換可能。
#03:額面50DM超の切手は7月1日以降はフランクフルト中央切手交換所だけで交換可能。
#04:DM表示のみの切手は、ユーロ金額の倍のDM表示切手を貼れば、無期限に使用可能。
#05:有効期限の記されていない古いDM表示のテレフォンカードは使用不可。但し、ドイツテレコムで未使用分の金額を有効なユーロ表示のテレフォンカードと交換可能。
#06:有効期限の記されているDM表示のテレフォンカードは、期限まではそのまま使用可能。
#07:DM表示の交通機関の乗車券は2002年2月28日まで使用可能。ユーロ現金への払戻しも同日まで可能だが、2.5ユーロの手数料がかかる。
#08:DM表示の未使用の乗車券と、ユーロ表示の新料金の乗車券との交換は、2002年末まで受け付け、手数料は無料だが、差額は徴収される。
DMからユーロへの切り替えは、貿易や外国投資の問題があるので、ユーロに参加するフランスなど「ユーロ圏」諸国と協議するのはもちろんのこと、日米英などユーロを導入しない諸外国にも事前によく周知して行う必要がある。が、DM表示の切手、テレフォンカードなどの有価証券をどう取り扱うかは、純粋にドイツの国内問題なので、ドイツの国内法やドイツ政府の行政裁量で「勝手に」決めていい。たとえその有価証券の所有者が外国人であっても、これは国際問題ではなく、あくまでドイツの国内問題だ。
【「切手やテレフォンカード、乗車券が有価証券」と聞くと、証券会社で株券を売り買いしている人にとっては違和感があるかもしれない。が、法律や判例では「私法上の権利(財産権)を表章する証券であって、表章される権利の移転または行使が証券の授受によってなされるもの」はすべて有価証券である。テレフォンカードなどのプリペイドカードを偽装すれば「有価証券偽造罪」に問われる。】
さて、当然のことながら、米国債も有価証券である。
そこで、その有価証券が表章する権利を債権者(たとえば中国政府)に対して債務者(米国政府)が踏み倒すには、ユーロ導入前後のドイツに倣って一時的に「二重通貨」状態を作り出す、以下のような方法が考えられる。
●新ドル導入●
201x年のXデー、米国がそれまで流通していた米ドル(「旧ドル」とする)に代わって、新しい通貨(とりあえず「新ドル」とするが、名前はバイトでもドットでもなんでもいい)を流通させることを決める。理由は、「テロ組織やテロ支援国家が旧ドル札を偽造しているので、精巧な、偽造のできない新ドル札が必要だから」「旧ドルで資金を貯め込んでいる犯罪組織が多いから」などと、適当にでっち上げればよい。
【上記の永田町・霞が関の事情通の考えによれば、北朝鮮製偽ドル札「スーパーK」への対策と称して2003年以降毎年のように頻繁にドル札のデザインや色を替えたり、核開発を行う北朝鮮への経済制裁の一環としてマカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮口座を2005年に一時的に凍結させたりしたのは、米国が近い将来、大規模な債務不履行を行うための予行演習である可能性が高い、という。】
この場合、通貨の読み方を替えて、たとえば、100旧ドルを1新ドルに読み替える「デノミ」を実施してもいい。が、それを実施すると、ドルとユーロ、ポンドの交換レートが従来の「1桁対1桁」から「3桁対1桁」になってしまって不便なので、必ずしもデノミはしなくてもよい。ここでは、デノミはせず、1旧ドルが1新ドルに置き換わるケースを考えることにする。
理論上、米国における新ドルの導入は、ドイツにおけるユーロの導入と同じなので、預貯金や紙幣、硬貨は事前に公表された交換比率に従ってほぼ全額置き換えられるはずだ。そうなれば、旧ドルで預貯金を持つ米国内外の個人も法人も、だれも損をしない。
ところが、有価証券は別である。
Xデー以前に発行されて購入された米国債はすべて旧ドル表示なので、それを新ドルで償還(交換)するときの条件は、米国政府が勝手に決めてよい。ドイツ政府が2002年にDM表示の切手などに対して行ったように、交換の期限や場所を制限したり、交換の際に手数料を取ったりして、実質的に債権者(たとえば中国政府)の財産権が一部損われることになっても、それを「債務不履行」とは呼ばないのである。
●米共和党の八百長●
筆者は、2008年米大統領選は「米共和党が八百長で負ける」と言って来た。当初は、女性のヒラリー・クリントン上院議員が米民主党内の予備選を勝ち抜いて正式な民主党大統領候補に指名されると予想したが、彼女の対抗馬は事実上、黒人男性のバラク・オバマ上院議員だけであり、白人男性の有力候補、ジョン・エドワーズ上院議員(2004年米大統領選の副大統領候補)などは早々と敗退していた(小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」)。
他方、米共和党では、大本命のルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が予備選の序盤戦、アイオワ州やニューハンプシャー州などでの選挙運動を手抜きして早々と「不戦敗」したのを始め(小誌前掲記事)、まったく八百長としか思えない不可解な動きが繰り返された。
共和党の正式候補に指名されたジョン・マケイン上院議員が、2008年8月、バラエティ番組の笑いのネタにしかならない、まったく知性のない軽薄女、サラ・ペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に起用したり、共和党の重鎮コリン・パウエル元国務長官が投票日直前にオバマへの支持を表明したりして、共和党側は民主党候補の支持率を上げることに「貢献」したのだ。
決定的だったのは、ペイリンの副大統領候補指名直後、まだ彼女のメッキがはげる前、マケイン陣営の支持率が高かったときに、ジョージ・W・ブッシュ現米大統領の共和党政権が、米大手金融機関のうちリーマンだけを差別的に取り扱い、救済せず、破綻させたことだ(2008年11月9日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』における中川昭一財務相のコメント。中川はヘンリー・ポールソン米財務長官に会った際に直接「ダブルスタンダードではないか」と詰問したが、明確な答えはなかったという)。
それまで共和党政権は米国の大手金融機関は潰さない方針を採っていた。
2008年3月には、米証券大手のベアー・スターンズ(BSC)を、連邦準備制度理事会(FRB)が「行政指導」する形で(BSCに290億ドルのFRB特別融資を実施したうえで)米銀行大手のJPモルガン・チェース(JPM)に救済合併させたし、7月には、公的資金投入を柱とする、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の救済案を発表し、その後実際に救済した(AFP Web 2008年7月14日「米財務省 『ファニーメイ』と『フレディマック』救済へ、国有化は否定」、NBonlineビジネスウィーク2008年3月31日「恐怖に震えるウォール街 ベアー・スターンズ救済で悪夢が終わりではない」、産経新聞Web版2008年9月17日「米金融危機 リーマンばっさり、AIG救済 米政府・FRBの判断基準は」)。
なんで、BSCやファニーメイ、フレディマックは破綻から救ったのに、リーマンは救わなかったのか…………ペイリンの副大統領候補起用で上がったマケインの支持率を落とすのに、ちょうどいいタイミングだったから、とでも考えないと説明が付かない。
【リーマン破綻の翌日、2008年9月16日、米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対して、FRBは公的資金約850億ドル(約9兆円)の融資を決めたので(FRBは融資と引き換えにAIGの株式取得権を取得。産経前掲記事、産経新聞Web版2008年9月17日「米金融危機 AIG救済へFRBが9兆円融資承認 事実上の政府管理下へ」)、中川の言うとおり、米国政府のリーマンに対する扱いは明らかにダブルスタンダードである。
おそらく米国政府は、リーマンもAIGも両方救えただろうが、この時機に2つとも救うとマケインが当選する可能性が高くなるので、敢えて1つは潰したのだろう。】
このリーマンの破綻以降、マケインの支持率は一度もオバマのそれを上回ることがなかった。
つまり、2008年1月にジュリアーニが選挙戦を撤退して以来、共和党は11月の大統領選の本選で負けるように負けるように、繰り返し振る舞っていたのだ。これでは、民主党候補が本選で勝つのは当然ではないか。
このように見て来ると、当選するが可能性があったのは、最初からヒラリーとオバマだけだったように思える。つまり、2008年の大統領選本選は、必ず女性か黒人が当選するように仕組まれていた、と考えられるのだ。
【ヒラリーが大統領にならなかったという意味で小誌の予測は「2008年の時点では」はずれている。しかしすでに述べたとおり、たとえヒラリーが大統領になっても、それだけで「予測が当たった」と自慢する気は元々ない。なぜなら、これは、あてずっぽうで言っても確率25%で当たる性格のものだからだ(小誌前掲記事)。小誌の予測の核心は「ヒラリーが不正に勝つ」というところにあった。が、共和党が負けるための八百長スキームは発動されたものの、オバマを負けさせる不正(いったん無効とされたフロリダ州予備選の代議員票の再有効化、など)は発動されなかったので、その意味で小誌の大統領選の予測は大きくはずれている(小誌前掲記事)。】
【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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