70年周期説

 

〜シリーズ

「究極の解決策」

(4)

 

(Jan. 08, 2009)

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■70年周期説〜シリーズ「究極の解決策」(4)■

 

「資本主義は元々60〜70年で破綻する『ネズミ講』であり、60〜70年毎に革命か戦争でリセットする必要がある」という説を信じている者が、日米の政財官界の有力者のなかにかなりいる。

 

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■70年周期説〜シリーズ「究極の解決策」(4)■

 

【お知らせ:佐々木敏の小説『中途採用捜査官』が2008年11月7日に文庫化されて紀伊國屋書店新宿本店で発売され、週間ベストセラー(文庫本)の総合20位前後になりしました。】

 

【前回「イラク戦争は成功〜シリーズ『究極の解決策』(3)」は → こちら

 

「資本主義は元々60〜70年で破綻する『ネズミ講』であり、60〜70年毎に革命か戦争でリセットする必要がある」という説を信じている者が、日米の政財官界の有力者のなかにかなりいる。

 

「資本主義はネズミ講」と聞いてすぐに納得される方はほとんどいないだろう。

しかし、筆者にこの「理論」を教えた永田町・霞が関のインサイダー(Dとする)は、この理論を根拠に、2008年の米大統領選を契機に米国の政策は大きく(米民主党の伝統的な政策である)保護主義的な方向に転換すると予測して、的中させている(小誌2008年2月1日「ヒラリー大統領〜2008年米大統領選」、同11月27日「●共和党の八百長」)。

Dは、大統領に当選するのは、米民主党のバラク・オバマ上院議員ではなく、同党のヒラリー・クリントン上院議員と予測していたとはいえ、オバマは選挙中に「製造業の復活」を唱え、「次世代の自動車は、日本や韓国ではなく、米国が開発し生産しなければならない」と演説し、米韓自由貿易協定(FTA)は韓国の自動車産業を利するという「自由貿易批判」もしていたから、米国が保護主義志向になったのは明らかだ(国際貿易投資研究所『季刊 国際貿易と投資』2008年冬号「佐々木高成:公正貿易をめぐる米国内の議論とオバマ次期政権の通商政策」、中央日報日本語版2008年6月19日付「オバマ氏、『FTAは韓国車に有利』批判」)。

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●ネズミ講の宿命●

近代以前の貧しい社会に資本主義システムが導入されると、まず少数の者が豊かになり、豊かな食生活や高価な医薬品、医療サービスの恩恵を受けて寿命を延ばす。

この結果、年齢別人口構成を示すグラフはピラミッド型……ではなくて、逆T字型になる。所得別人口構成のグラフも同様である。

この場合、少数の金持ちは、高度な教育を受け、情報を集め、国家や企業の運営方針について、排他的独占的に影響力を行使する。

政治は少数の豊かな特権階級に基づく非民主的独裁政治か、または(1918年以前の英国や1925年以前の日本がそうであったように)所得(直接税の納税額)によって選挙権を制限する「制限選挙」に基づく議会制民主主義政治となる。

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逆T字型の「上」(頂点)に立つ年長者、政治家、官僚、経営者、管理職、商品開発者、研究者、著者、芸術家から「下」にいる若者、貧乏人、労働者、消費者、読者、観客に向かって、政策、法律、教育、広告宣伝、流行情報、文化、命令、需要が発せられるので、「下」はひたすら「上」に従えばよい。

たとえ「下」にいる者でも、このシステムに(早く)参加した者は豊かになれる。貧しい家に生まれても、「上」の望むような教育を受けて、読み書きや「毎朝起きて定時に同じところへ通う生活習慣」を身に付け、就職後はよく働き、よく稼ぎ、貯めたカネは、「上」の連中が開発した商品やサービスを購入するのに使う。そうこうするうちに「下」の連中もある程度寿命が伸び、生活水準が向上するので、逆T字型は中盤が少し幅広になって、三角形型、すなわち典型的なピラミッド型になる。

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この傾向が続いて、「下」の者が全員中年や中産(中流)階級、すなわち「中」になってしまうと、「下」がいなくなって困る。そこで、政府は女性には大勢の子供を産んでほしい。
が、生活が豊かになり、セックス以外に「やること」の増えた中産階級の夫婦はそうそう大勢の子供はつくらない。医療のお陰で乳児死亡率も下がったことだし、「少なく産んでだいじに育てよう」と考える。このため、年齢別人口構成も所得別人口構成もやがて、ピラミッド型から逆U字型(釣鐘型)になり、最終的には逆ピラミッド型になる。

 

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この「最終段階」になると、ネズミ講は破綻する。

そもそも「下」の連中は、「努力して勉強や仕事や貯蓄をすれば『上』に上がって、命令を出したり流行や文化を作り出したりする側にまわり、最先端の医療や教育を受けられ、老齢年金も十分に得られる」と思って頑張って来たのに、いざ自分たちが中年や中産階級になってみると、「『上』はもう定員オーバーで、新規募集は行っておりません」と言われたことになるからだ。

国民の大半が豊かになって「総中流」になった国があるとすれば、それは成功であると同時に失敗なのだ。

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国民の多くが「努力して『中』(真ん中)に上がったと思ったら、依然として『下』だった」というのは、民主主義国家としては、いかにもまずい。大勢の国民がそういう現状に不満を抱くと国家体制が崩壊しかねない。そこで、国家がこのシステムを破綻させないためには、抜本的な対策が必要になる。

 

歴史的に見て、方法は2つ。

1つは、豊かになった国民を相対的に「中」に押し上げるために、貧しい外国を自国の経済圏に組み込み、外国の貧乏人と若者を自国経済圏のピラミッド構造のいちばん「下」に敷くこと。もう1つは、革命か戦争で自国を含む各国の国家体制を破壊して、すべてを「ご破算」にすることだ。

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●資本主義1.0●

資本主義は、15世紀のイタリアで、資本(資金)を効率よく運用するための会計学(こんにち世界中で使われている複式簿記)が確立されたことで始まった。が、それが大規模に展開されるようになったのは、18世紀後半(1770年頃)に英国で産業革命が始まってからだ(この最初の資本主義を「資本主義バージョン1.0」あるいは「資本主義1.0」と呼ぶことにする)。

 

英国を皮切りに、西洋諸国が次々に生産性の高い工業を展開した結果、西洋諸国の国民は豊かになったが、約70年後、1836年になると、英国経済は恐慌に陥り、行き詰まる。

英国始め各国は安価な工業製品を大量に生産して豊かになったが、生産力が過剰になり、商品を国内で、あるいは西洋諸国内で売り尽くすことができなくなったのだ。

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そこで、英国は中国に目を付ける。19世紀当時からすでに巨大な国土と人口を持つ中国を、西洋の経済圏に組み込み、中国の貧乏人と若者を西洋の安価な工業製品の「はけ口」として「下」に敷こうと考えたのだ。

 

しかし、当時の中国人は自国内の産品でそれなりに充足した暮らしをしていたし、テレビもインターネットもない時代に、見たこともない西洋の工業製品をほしがるなどという奇妙な「需要」は当然存在しなかったので、中国は西洋と本格的な貿易を始めても、ほとんど何も輸入しなかった。

他方、西洋諸国は、冷蔵庫のない19世紀、船乗りにとって唯一安全で衛生的な飲み物としてお茶を必要としており、それは1840年頃は中国から輸入するしかなかった。このため、当時の英国は中国に工業製品を輸出できないまま、大量のお茶の葉を輸入して貿易赤字を計上し、見返りに正貨(金銀)が中国に流出し続けていた(ヘンリー・ホブハウス著『歴史を変えた種 - 人間の歴史を創った5つの植物』パーソナルメディア1987年刊)。

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●1.0から2.0へ●

このままでは、英国資本主義の「ネズミ講」は破綻してしまう。そこで、英国は中国を武力で屈服させ、その伝統的な技術力、生産力を破壊して、中国人全員を「下」に落とし、英国民の「下」に敷くことに決めた。これが、1840〜1842年のアヘン戦争である。

 

 

 

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この戦争で中国は、物理的な破壊兵器である大砲、小銃や軍艦と、精神的な破壊兵器であるアヘンの両方を武器とする英国によって、徹底的に破壊された。中国を破壊した「主犯」は英国だったが、アヘン戦争で弱体化した中国(清朝)の領土は、ドイツ、ロシア、フランスなどの「事後共犯」によって蚕食され、結局西洋諸国に分割支配された。中国が西洋諸国の「下」に敷かれたことで、それからまた新たなネズミ講が始まる。

 

この「資本主義2.0」も、アヘン戦争の約70年後に破綻する。そして、1914〜1918年の第一次大戦という戦争と、1917〜1922年のロシア革命という革命によってリセットされる…………はずだった。

 

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●2.0から3.0へ●

しかし、こんどのリセットは、アヘン戦争のように短期間では終わらず、なかなか「資本主義3.0」が始まらない。

 

第一次大戦の敗戦国であったドイツの工業生産力が戦後に回復し、(ロシア革命によってロシア帝国がソ連になり、同国の輸出品が世界市場に出回ることはなくなったとはいえ)ソ連の市場が西洋諸国に対して閉鎖されたままで、かつ、米国の工業生産力が伸びて来ると、世界はふたたび生産力過剰に陥り、「需要」を上回る「供給」の存在に直面する。

 

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これが1929年に始まる世界大恐慌である。

当時は、国際通貨基金(IMF)も主要国首脳会議(G8サミット)もなく、各国が経済政策を協調させる仕組みも発想もなかったので、各国は自国本位の経済政策に走る。

米国は広大な国土を、英国は広大な植民地を、自分たちの金城湯池(ブロック)として囲い込み、外国からの輸入品を締め出す保護(貿易)主義政策を採り、そこに住む貧乏人と若者を、台頭して来た中産(中流)階級の「下」に置いて独占的に利用することに決めた。これが究極の保護主義的経済政策、いわゆる「ブロック経済」である。

 

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ソ連やフランスは、米英と同様に広大な国土や植民地があるので、同じことができた。しかし、米英仏より遅れて資本主義化した日本、ドイツ、イタリアは広大な国土も植民地もなかったので、それを獲得するための戦争をアジア、欧州、アフリカで始めた。これが1939〜1945年の第二次大戦である。

 

 

 

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当時、航空機、艦船を自力で生産でき、原子力を独自に研究開発できるだけの重化学工業技術を持つ国は事実上、米国、英国、ドイツ、日本、ソ連の5か国しかなかった。

第二次大戦は当初、米国が参戦しなかったために、ドイツが隣国ポーランドを侵略することで始まり、やがてドイツは英国を空爆し、ソ連に侵攻した。その後、1941年12月、日本の真珠湾奇襲を契機に米国が参戦し、米国が日本とドイツを攻撃した。

 

つまり、第二次大戦は5大工業国による「工業生産力の破壊合戦」であり、米国が故意に参戦を遅らせて、英国の工業生産力がドイツに破壊されるまで英国を助けず、放置したことによって、英国の没落が決定的になり、他方、5か国のうち唯一本土が戦場にならなかった米国の工業生産力が無傷で生き残り、戦後の米国の「覇権」が確定した。つまり、戦争を経て、まともな工業生産力を持つ国は事実上、5か国から1か国に減ったのだ。

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ここで重要なのは、米国が直接手を下して破壊したのは日独の工業生産力のみだということである(「米日型」「米独型」の工業生産力破壊)。しかし、米国はソ連と英国がドイツによって侵略されるのを一定期間座視することによって、結果的に両国の工業生産力を破壊している(「独英型」「独ソ型」の工業生産力破壊)。

 

こうして、第一次大戦で始まった「資本主義2.0」はようやく完全にリセットされ、つまり「2.0」が完全にご破算になって、「3.0」がスタートする。

 

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●3.0の終焉●

それから、63年経った2008年9月、米名門投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻して金融危機が始まった。

 

この金融危機を、各国政府の経済政策如何で脱出可能な「単なる不況」と見る意見もあるにはある。しかし、その根拠はなんだろう。

 

今回の金融危機は、米金融界が低所得層向けの不動産担保融資「サブプライムローン」に代表される、リスクを証券化した複雑な金融商品を開発し販売してリスクを世界中にばら撒く「マネーの暴走」が原因で起きたのだから、そういう暴走を規制すればいいのであり、米国は政策を間違えたのだ、という批判は当然あるだろう。

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しかし、経済の高度成長を達成した社会では、年齢別人口構成も所得別人口構成も必ず、少子高齢化と中産階級の台頭によって「ピラミッド型」になる。資本主義が両者ともに「ピラミッド型」が続くこと(末広がり)を前提にしたシステムである以上、第二次大戦後半世紀を経た2000年前後から、米政財界は「もうこれ以上は、どんな政策を採っても世界(あるいは米国)の経済成長は長くは続かない」と悟ったのではないだろうか。

 

つまり、米国の政財官界が愚かだったからサブプライムローン問題が生まれたのではなく、もはや「だれがやってもダメなものはダメ」な時代に突入したからそうなったのではあるまいか。

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リセットの時機には往々にしてそうなる。

1930年代の日本では、(女性に参政権がなかったとはいえ)男子普通選挙は実現されており、政権交代可能な議会制民主主義政治が生きていて、実際に政党間で政権交代は頻繁に行われていた。しかし、元々「下」に敷くべき広大な国土や植民地を持たない日本では、いくら選挙で政権交代をしても、つまり、政策をだれがやってもうまく行くはずはなく、不況に直面した国民の不満はなかなか解消しない。

そこで、「もう議会制民主主義や政党政治は役に立たない」と見切りを付け、社会主義革命を夢見たり、政党政治家を排除して軍部主導の政権を作ろうと考えたりする者が出て来る。後者が具現したのが、1931年の満州事変、1932年の「5.15事件」、1936年の「2.26事件」である。

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もちろん米英には「5.15」も「2.26」もなかった。しかし、両国は日本が満州事変を起こすはるか以前に世界中を侵略して広大な国土や植民地を得ていたから、「あらためて政党政治の否定や侵略戦争をしなくても、ピラミッド構造の延命ができた」ということにすぎない(べつに米英の民主主義が日本のそれより優れていたわけではない)。

 

 

 

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さて、米英が議会制民主主義や政党政治を持つ民主主義国家であり続けたいなら、いま彼らがやるべきことはなんだろう。

 

やはり、米国は広大な国土を活かしてブロック経済をやればいいのだろうか。

 

 

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 (敬称略)

 

 

 

 

 

 

 

 

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