70年周期説

(その2)

 

〜シリーズ

「究極の解決策」

(4)

 

(Jan. 08, 2009)

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■70年周期説〜シリーズ「究極の解決策」(4)■

 

「資本主義は元々60〜70年で破綻する『ネズミ講』であり、60〜70年毎に革命か戦争でリセットする必要がある」という説を信じている者が、日米の政財官界の有力者のなかにかなりいる。

 

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●ニューディール幻想●

実は、2.0から3.0へのリセットの過程で試みられたブロック経済政策のうち、英国ののほうが米国のより優れていた。

 

英国は広大な植民地を抱え込むブロック経済を志向したため、インドやアフリカの英国植民地に住む膨大な貧困層や若者を「下」に敷く「アヘン戦争後の成長政策の再現」が可能だった。他方、米国には広大な国土はあったものの、その国土に住む国民の大半はすでにかなり豊かになって「中」に上がっていたので、「下」に敷くべき貧乏人や若者の数が足りなくなっており、ピラミッド構造の維持が難しくなっていたのだ。

 

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1929年の大恐慌のあと、1933〜1945年に米大統領であったフランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)のもと、米国経済が恐慌のどん底から立ち直ったため、彼の実施した、政府財政支出(公共事業)主導の経済政策、いわゆる「ニューディール政策」は成功した、という認識が世界中に広まっている。

 

たとえば、フジサンケイビジネスアイは「(オバマ次期大統領と)同じ民主党のルーズベルト大統領は1929年の大恐慌発生以降、公共事業などで雇用創出を図った『ニューディール政策』を展開。積極的な財政支出で、どん底の(米国)経済を立て直した」とニューディールを礼賛する(フジサンケイビジネスアイ2008年11月6日「実るか、新ニューディール 『オバマ大統領』世界が注視」)。

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株式評論家の北浜流一郎も、オバマが大統領になるなら「21世紀のニューディール政策」が期待できると述べ、FDRのニューディール政策を、手本とするに値するものととらえている(サーチナ2008年10月23日「北浜流一郎:米、21世紀のニューディール政策に期待」)。

 

環境政策専門家の飯田哲也も、オバマが選挙公約に掲げた政策「New Energy for America」という、電気自動車開発や太陽光発電や風力発電の推進を骨子とする、環境問題対応型の新エネルギー政策を、勝手に「グリーン・ニューディール」と呼んでいることから見て、FDRがニューディールによって大恐慌を克服したと思っていることは間違いない(日経新聞Web版2008年11月12日「飯田哲也のエネルギー・フロネシスを求めて:グリーン・ニューディール - オバマ次期大統領が担う大変革への期待」)。

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しかし、これらの意見とは正反対の意見がある:

 

「私の歴史に対する理解は皆さんとは違います。フランクリン・ルーズベルトは(最初は、公共事業で大恐慌に立ち向かったが)、途中で(均衡財政の)原則に戻り、増税し、財政支出を縮小した。そうしたらまた不況になってしまった。そこで、新たな一大公共事業に乗り出します。第二次大戦という公共事業に」

 

つまり、FDRはいくら公共事業をやってもいっこうに景気が上向かないことに嫌気が差し、途中で方針転換して、公共事業予算などの政府財政支出を削減し、増税して財政赤字を縮小し、かえって景気を悪化させるという失態を演じたのだ。そして、それをごまかすために(日本の真珠湾攻撃を口実に)第二次大戦に参戦し、戦争によって米国経済を立ち直らせた、というのだ。

 

この極めて反米的、陰謀論的な「歴史認識」の持ち主はだれか。

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実はこれは、恐れ多くも、2008年度のノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマン大博士の肉声(TV出演中の発言)なのである(日本時間2008年11月17日、米国時間前日放送のNHK-BS1『ABCジスウィーク』)。

(^o^)/~

同じ認識を持つ者はほかにもいる。

 

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「ルーズベルト(FDR)は大不況(大恐慌)から脱出できなかった。公共事業(ニューディール政策)で少々雇用を作りはしたが、1930年代後半には、1930年代前半(大恐慌発生時)より米国経済は悪くなった。結局、第二次大戦で戦費を使うことで米国は不況を脱出した。オバマに経済回復のための戦争が必要だとは考えたくないが」

 

 

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こちらは、「オバマは党の多数派の政策に逆らったことがない。オバマはジミー・カーター(元大統領)のような弱い大統領になるだろう」とも語る保守派の論客、米ブルームバーグ放送ワシントン総局長、アル・ハントの意見だ(2008年11月23日放送のテレビ東京『日高義樹のワシントン・リポート』「オバマ大統領で景気は回復するのか〜ドナヒュー全米商工会議所会長に聞く」)。

 

 

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●ノーベル賞学者が靖国史観に賛成!?●

非常に興味深いことに、上記のクルーグマンやハントの意見は、靖国神社境内の展示施設、遊就館(ゆうしゅうかん)の「大東亜戦争」コーナーで2005〜2006年の一時期公開されていた展示とほぼ同じなのである。

 

当時、遊就館では「大東亜戦争」の展示に5室をあて、そのうち最初の部屋で「開戦事情」を展示していた。

 

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そのタイトルは「避けられぬ戦い」。

第二次大戦(靖国神社の用語では「大東亜戦争」)の開戦前、米国はなかなか大恐慌から脱出できなかったため、(政府財政支出を超拡大し、国内の工業生産を活発にするために)、また、反戦を掲げて当選したFDRが対独参戦の口実を得るために、ドイツの同盟国である日本に攻撃を仕掛けてもらうことを欲していた、という趣旨の展示なのだ(しんぶん赤旗Web版2005年5月27日「“靖国史観”とアメリカ」)。

 

もちろんクルーグマンは「日本は米国の陰謀で第二次大戦に引きずり込まれた」とまでは言っていない。しかし、彼も靖国神社も、日本の真珠湾攻撃が、経済的には米国に絶大な利益をもたらした、という点では完全に意見が一致している。

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この展示内容を知った親米保守派の論客、岡崎久彦は激怒し、新聞紙上で「未熟な反米史観」「唾棄すべき安っぽい議論」と酷評し(産経新聞2006年8月24日付朝刊15面「正論 元駐タイ大使・岡崎久彦 遊就館から未熟な反米史観を廃せ」)、それを受けて靖国神社は展示内容を訂正した。

 

 

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しかし、ほんとうに未熟なのは靖国神社の史観ではなく、岡崎の歴史認識のほうだろう。

「FDRに倣ってニューディール政策をやれば、世界経済はいまの不況から脱出できる」などと、なんの根拠もない楽観論を唱える者があとを絶たないのは、岡崎のような、軽率な言葉遣いをする者がいるからではあるまいか。

百歩譲って、靖国神社に対米外交上の配慮を求める岡崎の主張に理があるとしても、あるいは「靖国神社は軍国主義の象徴だからけしからん」という左翼勢力や中国や韓国の言い分が正しいとしても、「未熟」「唾棄すべき」「安っぽい」などという言葉で、大恐慌前後の経済史に対する靖国神社の理解を批判するのは筋違いだろう。ほかのことはともかく、少なくともこの点に関してだけは、靖国神社の歴史認識は「成熟」している。

 

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安っぽいのは靖国ではない。クルーグマンを除く(彼よりはるかに程度の低い?)多くのエコノミストやジャーナリストの大恐慌に対する歴史認識こそが安っぽいのだ。

 

 

 

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●歴史に学べ●

以下の人々に言いたい。

すなわち、地球温暖化防止のための環境政策を説く者、そのための自然エネルギー政策を説く者、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の政策すべてを単純に悪と決め付ける者、同大統領に追随して日米関係を強化した日本の保守勢力を批判する者、日米同盟の見直しを叫ぶ者、もう米国の覇権は終わったと唱える者、米国の次は中国の時代だと信じる者たちに言いたい。

 

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「あなたがたは、自分は視野が広いと思っているのだろうが、実はなさけないほど視野が狭い。あなたがたの視野にはいっている歴史は、たかだか数年前までの浅い歴史だ。

37年前まで遡れば、米国は相当に横暴な経済政策を採っても、そう簡単には覇権国家の座を失わないとわかるし(小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」)、80年前の歴史を正確に学べば、資本主義はリセットされる時機には「平和的な」公共事業をいくらやっても景気は回復しないとわかるのに、それらをわかろうとしない。

米国はニューディール政策で大恐慌を克服した、などという米国政府の『大本営発表』を鵜呑みにし、たかだか十数年間の中国の国内総生産(GDP)の伸びを見て中国の将来性を信じる者に、いったいどんな見識があるのか」

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日米同盟は第三国の脅威から日本を守るためにあるのではない。米国の脅威から日本を守るためにあるのだ。第二次大戦を見てもイラク戦争を見てもわかるとおり、米国は、自国の経済政策上の都合で、適当な理由をでっち上げて他国に戦争を仕掛ける野蛮国だ(小誌2008年12月4日「イラク戦争は成功〜シリーズ『究極の解決策』(3)」)。

だから、日本は常に米国の味方でいなければならないのだ。うっかり米国と距離を置くような政策を採って、イラクのように「違法な大量破壊兵器があるはずだ!」などと言いがかりを付けられて戦争を仕掛けられたら、どうするのだ。

日米同盟を重視する日本の保守政権を批判する連中は、「異国に屈して日米和親条約を結んだのはけしからん」と激昂して大老・井伊直弼を惨殺した幕末の尊皇攘夷派と同じで、まったく現実が見えていない。

「米国の戦争に巻き込まれないように、平和憲法を守って悪いことをしないようにしていれば、だれからも戦争を仕掛けられることはない」などという「護憲攘夷」は机上の空論であり、現実を無視したカルト宗教のご託宣と同類だ。

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日本の保守勢力が(最近は民主党も)イラクやアフガニスタンにおける米国主導の戦争「テロとの戦い」で、米国の求める軍事的貢献をすることに熱心なのは(毎日新聞Web版2008年12月20日「民主党:アフガン貢献策などで意見交換 - 米の民主党と」、読売新聞Web版2008年8月28日「日本の国際貢献試練 邦人に退去要請も 『安全の工夫に限界』」における前原誠司副代表の発言)、日本が米国に攻撃されるのを防ぐためであって、べつに世界平和に貢献したいからではない(はっきり言って、現状では、西側先進諸国の景気回復にとっては、世界平和は必要ではない)。

 

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ニコラ・サルコジが大統領になって以降のフランスが、北大西洋条約機構(NATO)の軍事機構に復帰したり(サルコジが大統領就任直後の長期休暇を米国で過ごしたり)、アフガンにおけるフランス軍派兵を維持したりといった「対米追従」政策を採るのも、日本と同じく、米国に敵視されるのがこわいからだろう(小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」、日経新聞Web版2007年9月20日「仏、NATO完全復帰へ・軍事面、独自路線42年ぶり転換」、日刊ベリタ2008年08月22日「アフガン派兵めぐり揺れるフランス 大統領は継続表明、国民の過半数は撤兵支持」、ロイター日本語版2007年8月12日「ブッシュ米大統領が休暇滞在中のサルコジ仏大統領招いて昼食会、友好関係をアピール」)。

 

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グリーンニューディールで景気回復? 面白い。やれるもんならやってみろ。絶対に失敗するから。

その理由は簡単だ。技術というものは新しければ新しいほど生産性が高く、より少ない労働力でより多くのものを生産できるようにしてしまうからだ。

したがって、「地球にやさしい」新エネルギー技術が開発され普及すると、それによって生み出される新規雇用よりも、それによって駆逐される、「旧技術」を使う職場で失われる雇用(失業)のほうが、必ず多くなるはずなのだ(この問題はいずれ小誌上で別途取り上げる予定)。

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2009年現在、不況と失業に苦しむ世界経済にとって必要なのは新技術を創造して新産業を起こすことではない。必要なのは、すでに過剰になってしまった生産力を破壊することなのだ。

 

 

 

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ハントが示唆したとおり、オバマ政権にとって真に必要な経済政策は戦争である。しかし、オバマもFDRと同様に「反戦」を掲げて当選したので、そう簡単には、景気回復のための戦争をするわけにはいかない。となると、真珠湾攻撃のような米国領土への奇襲をだれかに仕掛けてもらって、それに対する反撃という形で戦争に打って出る…………というのは、すでにブッシュ現大統領が、2001年9月11日の米中枢同時テロ(9.11)を利用する形で2003年のイラク戦争でやってしまった。同じことを三度やれば、どんなに陰謀論の嫌いな者でも「9.11」は米国の陰謀ではないかと疑うだろう。だから、そんな工作は、もう米国にはできない。

 

【現時点では、筆者は「9.11は米国の陰謀」という説には賛同していない。】

 

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 (敬称略)

 

 

 

 

 

 

 

 

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【この問題については次回以降も随時扱う予定です。
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